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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1301986
審判番号 不服2014-10276  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-03 
確定日 2015-06-12 
事件の表示 特願2011-219633「コモンレール式燃料噴射システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 2日出願公開、特開2013- 79594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年10月3日の出願であって、平成25年12月12日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月10日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成26年2月28日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成26年6月3日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、平成26年10月20日に上申書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年2月10日付けの手続補正書によって補正された明細書及び平成26年6月3日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

なお、平成26年6月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の(すなわち平成26年2月10日付けの手続補正書によって補正された)請求項1、2及び3を削除したものであって、本件補正前の請求項1を引用する請求項4を本件補正後の請求項1とするものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当するので、適法なものである。

「【請求項1】
多気筒ディーゼル内燃機関の気筒毎に設けられる燃料吸入口を有するインジェクターと、前記インジェクターに供給する燃料の圧力を蓄圧するコモンレールと、前記コモンレールに高圧燃料を供給する高圧供給ポンプと、前記コモンレールと前記高圧供給ポンプとを連通する燃料供給管と、前記コモンレールに設けられた圧力供給口に連通し、且つ前記インジェクターと前記コモンレールに設けられた圧力供給口とを連通する燃料噴射管を備えたコモンレール式燃料噴射システムにおいて、前記燃料噴射管が、少なくとも3基以上の前記インジェクターを直列に連通し、前記コモンレールに設けられる圧力供給口の口数N_(P)が、前記インジェクターの数N_(I)より少なく、且つ、各気筒のインジェクターへの高圧燃料の供給が、2系統の燃料噴射管を通して行われる方式となし、さらに前記コモンレールに設けられる圧力供給口の口数とインジェクターの数との関係が、下記式(1)に示されるように、前記インジェクターの数N_(I)の約数のうち、3以上の約数でインジェクター数N_(I)を除した数の2倍の数が圧力供給口の口数N_(P)になることを特徴とするコモンレール式燃料噴射システム。

【数1】
N_(P)=2×{N_(I)/(N_(I)約数のうち、3以上の約数)}・・・(1)」

第3 刊行物

1. 刊行物1
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-180797号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、内燃機関の気筒内へ燃料を噴射する燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの燃料噴射システムは、燃料噴射ポンプと燃料噴射弁との間にコモンレールを設け、コモンレールに蓄えた高圧燃料を各気筒に設置した燃料噴射弁へ供給する構成である。このような燃料噴射弁において噴射が行われると、噴射により発生する圧力脈動が燃料供給経路を逆流するように、燃料噴射弁内をコモンレール側へ伝播する。特許文献1に開示された燃料噴射システムは、燃料噴射弁内にこのような圧力脈動を減衰させる容積室を形成している。
【0003】
また、このような圧力脈動を減衰させる装置について特許文献2乃至4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-70799号公報
【特許文献2】特表2005-519233号公報
【特許文献3】特表2008-520892号公報
【特許文献4】実開昭50-149724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料噴射弁内に燃料を蓄える容積室を設けることにより、圧力脈動を減衰させることができるが、コモンレールへの圧力脈動の伝播は防ぎきれない。さらに、この圧力脈動は、コモンレールに接続する他の噴射弁へ伝播し、燃料の噴射へ影響を及ぼし、噴射弁毎に噴射量がばらつく原因となる。このため、さらに燃料の噴射による圧力脈動を減衰させることが求められている。
【0006】
そこで、本発明は、燃料噴射弁における圧力脈動を抑制することを課題とする。」(段落【0001】ないし【0006】)

(イ) 刊行物1発明
上記(ア)の記載及び技術常識を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
<刊行物1発明>
「多気筒ディーゼル内燃機関の気筒毎に設けられる燃料吸入口を有するインジェクターと、前記インジェクターに供給する燃料の圧力を蓄圧するコモンレールと、前記コモンレールに高圧燃料を供給する高圧供給ポンプと、前記コモンレールと前記高圧供給ポンプとを連通する燃料供給管と、前記コモンレールに設けられた圧力供給口に連通し、且つ前記インジェクターと前記コモンレールに設けられた圧力供給口とを連通する燃料噴射管を備えたコモンレール式燃料噴射システム。」

2. 刊行物2
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-159681号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
「【0001】
本発明は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの燃料噴射装置は、コモンレール(蓄圧室)へ高圧燃料を蓄えた後、このコモンレールから各気筒のインジェクタに高圧燃料を供給する構成が採用されている。このようなコモンレールを用いることで、各気筒における燃料供給のばらつきや、インジェクタの噴射動作に起因する圧力脈動を緩和する。
【0003】
ところで、低コスト化を目的に、インジェクタ内に燃料容積部を形成して、コモンレールを廃止した構成の燃料噴射システムが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-70799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の燃料噴射システムでは、燃料ポンプからの燃料が枝状に分岐させた経路を通りインジェクタへ供給されていることから、噴射による脈動の影響により、インジェクタの噴射挙動が変わる場合が考えられる。また、レール容積が減少したため、噴射による脈動が大きい。
【0006】
そこで、本発明は、コモンレールを含まない構成の燃料噴射装置において、噴射の脈動を抑制し、噴射特性のばらつきを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決する本発明の燃料噴射装置は、内部に噴射燃料を蓄える燃料蓄圧部が形成されたインジェクタと、前記燃料蓄圧部へ燃料を供給する燃料ポンプと、前記インジェクタと前記燃料ポンプとをループ状に接続する燃料供給通路と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
このような構成とすることにより、噴射の脈動を抑制するとともに、噴射特性のばらつきを抑制する。特に、複数のインジェクタを備える燃料噴射装置では、燃料供給通路をループ状に接続したことにより、各インジェクタは対称性を有するため、噴射による脈動から受ける影響を同等にすることができる。これにより噴射のばらつきを抑制することができる。
【0009】
このような燃料噴射装置において、前記燃料ポンプ内に前記インジェクタへ供給する燃料を蓄えるポンプ内蓄圧部が形成された構成とすることができる。このような構成とすることにより、燃料ポンプ内の燃料の通路の構成をインジェクタと同等とすることができる。このため、燃料ポンプを含めた燃料供給通路の閉ループ構成において、噴射による脈動の伝達が等しくなり、脈動の影響を等しくし、噴射のばらつきを抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃料噴射装置は、燃料供給通路をループ状に形成したことにより、噴射の脈動を抑制するとともに、噴射特性のばらつきを抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の燃料噴射装置の概略構成を示した説明図である。
【図2】比較例の燃料噴射装置の概略構成を示した説明図である。
【図3】本発明の燃料噴射装置の構成を簡略化して示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例1について図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の燃料噴射装置10の概略構成を示した説明図である。燃料噴射装置10は4気筒のエンジンに組みつけられ、エンジンの各気筒へ燃料を噴射する装置である。燃料噴射装置10は、エンジンの各気筒へ燃料を噴射する第1インジェクタ11、第2インジェクタ12、第3インジェクタ13、第4インジェクタ14を備えている。第1インジェクタ11の内部には、噴射燃料を蓄える燃料蓄圧部21が形成されている。各インジェクタの構造は同一で、第1インジェクタ11と同様に、第2インジェクタ12の内部には燃料蓄圧部22、第3インジェクタ13の内部には燃料蓄圧部23、第4インジェクタ14の内部には燃料蓄圧部24が形成されている。
【0014】
また、燃料噴射装置1は燃料蓄圧部21乃至24へ燃料を供給する燃料ポンプ15と、第1インジェクタ11乃至第4インジェクタ14と燃料ポンプ15とをループ状に接続する燃料供給通路16とを備えている。燃料供給通路16は燃料の流通する配管であって、インジェクタ間を接続する配管161、162、163及び、第3インジェクタ13と燃料ポンプ15とを接続する配管164、第4インジェクタ14と燃料ポンプ15とを接続する配管165は、全て内径が等しく、長さが等しい。
【0015】
燃料ポンプ15は、機械式、または電気式のポンプで内部に燃料蓄圧部21乃至24と同容積のポンプ内蓄圧部25が形成されており、ポンプ蓄圧部25内の燃料をリリーフする減圧弁26を備えている。減圧弁26はポンプ内蓄圧部25内の燃料が所定の圧力となった際に燃料をリリーフして燃料噴射装置1の安全を維持する。
【0016】
次に、燃料噴射装置1の効果を説明する。初めに、比較例の燃料噴射装置50について説明する。図2は比較例の燃料噴射装置50の概略構成を示した説明図である。比較例の燃料噴射装置50は、燃料供給通路56と各インジェクタの接続状態が異なる点で、燃料噴射装置1と異なっている。すなわち、比較例の燃料噴射装置50では、燃料供給通路56が分岐して各インジェクタに接続している。なお、その他の構成は本発明と同一であり、同一の構成については図面中、同一の参照番号を付して説明する。
【0017】
図2に示すように、燃料供給通路56の末端に接続する第1インジェクタ11は、燃料供給通路56の分岐がないため(図2中のA)、他のインジェクタとは異なる接続状態となっている。このため、第1インジェクタ11の噴射による脈動の分散経路と、他のインジェクタにおける噴射による脈動の分散経路が異なる。したがって、第1インジェクタ11の噴射による脈動の影響と、他のインジェクタの噴射による脈動の影響が異なり、噴射時の挙動が変わってくる。本発明の燃料噴射装置1はこのような問題を解消する。
【0018】
図3は、燃料噴射装置1の構成を簡略化して示した説明図である。図3の説明図では、第1インジェクタ11の噴射による脈動の影響が、ループ状に形成された燃料供給通路16を伝わる様子を示している。各インジェクタにおける噴射による脈動は、各インジェクタと接続される燃料供給通路16を伝わり分散される。例えば、図3に示すように、第1インジェクタ11の噴射による脈動は、燃料供給通路16の第2インジェクタ12が接続する側と第3インジェクタ13が接続する側の両方へ伝わる。また、第2インジェクタ12の噴射による脈動は、燃料供給通路16の第1インジェクタ11が接続する側と、第4インジェクタ14が接続する側の両方へ伝わる。第3インジェクタ13、第4インジェクタ14の場合も同様である。特に、燃料ポンプ15内にポンプ内蓄圧部25が形成されており、燃料ポンプ15内の燃料の通路の構成がインジェクタと同等であるため、噴射による脈動の伝達が等しく、脈動の影響が等しくなる。
【0019】
このように、燃料供給通路16がループ状に形成されていることから、各インジェクタは対称性を備え、各インジェクタ間における相違がないので、同等の挙動が得られる。これにより、パイロット噴射時などの噴射挙動が同等となり、噴射のばらつきが抑制される。また、各インジェクタをループ状の燃料供給通路16で接続したことにより、噴射による脈動が分散しやすく、より減衰の効果が得られる。
【0020】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、さらに本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。」(段落【0001】ないし【0020】)

第4 対比・判断

本願発明と刊行物1発明とを対比し、本願発明の用語に倣って整理すると、本願発明と刊行物1発明とは、
「多気筒ディーゼル内燃機関の気筒毎に設けられる燃料吸入口を有するインジェクターと、前記インジェクターに供給する燃料の圧力を蓄圧するコモンレールと、前記コモンレールに高圧燃料を供給する高圧供給ポンプと、前記コモンレールと前記高圧供給ポンプとを連通する燃料供給管と、前記コモンレールに設けられた圧力供給口に連通し、且つ前記インジェクターと前記コモンレールに設けられた圧力供給口とを連通する燃料噴射管を備えたコモンレール式燃料噴射システム。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明においては、「前記燃料噴射管が、少なくとも3基以上の前記インジェクターを直列に連通し、前記コモンレールに設けられる圧力供給口の口数N_(P)が、前記インジェクターの数N_(I)より少なく、且つ、各気筒のインジェクターへの高圧燃料の供給が、2系統の燃料噴射管を通して行われる方式となし、さらに前記コモンレールに設けられる圧力供給口の口数とインジェクターの数との関係が、下記式(1)に示されるように、前記インジェクターの数N_(I)の約数のうち、3以上の約数でインジェクター数N_(I)を除した数の2倍の数が圧力供給口の口数N_(P)になる

【数1】
N_(P)=2×{N_(I)/(N_(I)約数のうち、3以上の約数)}・・・(1)」ものであるのに対し、
刊行物1発明においては、燃料噴射管の構成が明らかでない点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。

刊行物2には、燃料ポンプ15のポンプ内蓄圧部25と内部に燃料蓄圧部が形成された4つのインジェクタ、すなわち第3インジェクタ13、第1インジェクタ11、第2インジェクタ12及び第4インジェクタ14を、この順に、配管164、配管162、配管161、配管163及び配管165により相互に接続し、ループ状の構成とした燃料噴射装置(以下、「刊行物2技術」という。)が開示されている。そして、上記第3 1.(ア)に摘記したとおり、刊行物1発明においては、インジェクターの噴射に伴う圧力脈動が発生し、したがってそれを抑制すべきであるという課題があり、これに照応して、上記第3 2.(ア)に摘記したとおり、刊行物2技術は、上記のループ状の構成により、インジェクタの噴射に伴う脈動を抑制する技術であるから、刊行物1発明に刊行物2技術を適用することはごく自然な至当の発想であって、格別の創意を要するものではない。
また、刊行物2技術における脈動を抑制するという作用効果は、刊行物2(特に、段落【0010】及び【0019】)に記載されているとおり、ポンプ内蓄圧部25に配管及びインジェクタを接続するにあたって、配管及びインジェクタを特にループ状に接続したことに基づくものである。したがって、該作用効果は、燃料噴射装置における加圧燃料の蓄圧容積室がポンプ内蓄圧部25である場合に限られるものではなく、コモンレールである場合にも、相応に略同様の作用効果を奏し得ることは明らかである。
加えて、刊行物2の図1では配管の燃料ポンプ15側始端及び終端がポンプ内蓄圧部25の略同一位置に接続するように描画されているが、図3では燃料ポンプ15の両側にそれぞれ接続するように描画されており、また、図1及び図3は発明概念を示す模式図にすぎないから、図1の上記描画をそのまま技術的な形状・構造として把握することは適当でない。そして、一般に加圧燃料の蓄圧容積室は相当の容積を有するから、圧力脈動が伝播する配管の始端及び終端を蓄圧容積室の同一部位に接続するより異なる部位に接続して分散する方が圧力脈動の抑制の点からすれば望ましいことは明らかである。
以上を総合して考えると、刊行物1発明に刊行物2技術を適用して、刊行物1発明において、コモンレールと連通する各インジェクター及び各燃料噴射管を、本願発明の式(1)の関係を満たすループ状の構成として、相違点に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得たことである。

以上に関連して以下の点を補足する。
刊行物2技術におけるインジェクタは、その内部に「燃料蓄圧部」が形成されているが、刊行物1発明におけるインジェクタは該「燃料蓄圧部」が形成されているものと形成されていないものの両者を包含するから、上記のように刊行物1発明に刊行物2技術を適用することに何ら支障はない。そもそも、インジェクタ内部に燃料蓄圧部を設けることとコモンレールを設けることとは特に背反するものではなく、技術的に十分に両立し得ることはいうまでもない(必要があれば、例えば、特開平11-93800号公報(特にリザーバ10、油だまり18)、特開2003-314410号公報(特に脈動抑制通路10)、特開2000-205081号公報(特に図3、4)参照。)。また、本願発明においても、インジェクタ内部に「燃料蓄圧部」が形成されているかどうかについては特に限定されておらず、任意的である。仮に、本願発明においてはインジェクタ内部に「燃料蓄圧部」が形成されていないものに特定されているとしても、インジェクタ内部には通常、ある程度の燃料の容積部があるから、これにより多少とも蓄圧作用を奏し得るのであって、インジェクタ内部の形状・構造等あるいは容積部の大きさを特定することなく、単に「燃料蓄圧部」がある又はないといっても、それは容積部を蓄圧部というかどうかの呼称の問題に帰し、構成上明確に区別することはできない。また、仮に、明確に区別できるとしても、圧力変動の抑制等のためにコモンレールに加えてインジェクタ内部に「燃料蓄圧部」を形成するか、あるいは形状・構造の簡素化等のためにインジェクタ内部に「燃料蓄圧部」を形成しないかは、装置構造の簡素化の要請や要求性能・効果等に応じて適宜設計する事項にすぎない。
請求人は、審判請求書において「引用文献2は、先の意見書でも述べた通り、コモンレールを含まない構成の燃料噴射装置を改善の対象とし、…」(引用文献2は本審決の刊行物2である。)と主張する。しかしながら、刊行物2技術は、コモンレールを含まない構成の燃料噴射装置について、その脈動の抑制等の観点から上記のループ状の構成という解決手段を適用したにすぎないのであって、コモンレールを含まない構成以外の他の構成の燃料噴射装置において、該解決手段を採用することを排除するものではない。要するに、燃料噴射装置においてループ状の構成により圧力脈動を抑制するという技術にとっては、ポンプ内蓄圧部25のような蓄圧容積室があれば足り、該蓄圧容積室がポンプ内蓄圧部25であることは必須の事項ではないことは当業者に自明である。そして、コモンレールを含む構成の燃料噴射装置においても圧力脈動が発生しその抑制が問題になる以上、ループ状の構成という解決手段を適用することは刊行物2に接した当業者にとってごく自然に導かれる発想である。一般に、ある技術課題を解決する手段を探求するとき、その解決手段としては、結果的客観的にみて該課題を解決し得る手段であれば足り、そのような手段があるにもかかわらず、当業者が、該手段にとって必須でない一部の事項や該手段の導出経緯に拘泥して、同様の課題が問題となっている装置への適用を着想も構想も何も想起しないということはあり得ない。
請求人はまた、審判請求書において「引用文献2には、…、さらにコモンレールに設けられる圧力供給口の口数とインジェクターの数との関係が、インジェクターの数N_(I)の約数のうち、3以上の約数でインジェクター数N_(I)を除した数の2倍の数が圧力供給口の口数N_(P)になるように設定することにより、十全に課題が解決されることについては、何等、開示も示唆もされていないというべきであります。」と主張する。その主張の趣旨が必ずしも明らかではないが、本願発明は物の発明であって、式(1)を使用して、インジェクター数と圧力供給口の口数を設定するということまで発明の特定事項となるものではない。

次に効果について検討する。

インジェクターの噴射に伴う圧力脈動が生じ得るという課題がある刊行物1発明に、インジェクタの噴射に伴う脈動を抑制する刊行物2技術を適用して、相違点に係る本願発明の発明特定事項に想到することは当業者が容易になし得たものであることは上述したとおりであり、したがって、本願発明は、全体としてみても、刊行物1発明及び刊行物2技術から予測される以上の格別の効果を奏するものではない。
本願明細書及び図面には、特に、図2ないし図6に測定結果(本願明細書の特に段落【0029】)が示されているが、(あ)図2ないし5における従来例は本願の図28の例であって、実質的に刊行物1発明に相当するにすぎないこと、(い)図6には、特許文献1?3に示す従来例の燃料噴射システムと実施例1の本発明例の燃料噴射システム(本願明細書の段落【0035】)について、燃料噴射システム単位容積あたりの噴射管内平均噴射圧力値の比較結果が示されているが、特許文献1?3に示す従来例の燃料噴射システムと実施例1の本発明例の燃料噴射システムについて、図2に示されているような圧力変化や図3に示されているような燃料噴射管内の平均圧力についての比較結果は示されておらず、不明であること、(う)図6の測定結果において、特許文献1?3に示す従来例及び実施例1の諸元・寸法(例えば燃料噴射管の内径、長さ)が不明であり、また、図6の測定結果が、特許文献1?3に示す従来例及び実施例1の特定の諸元・寸法に依存しない普遍的な結果といえるのかどうか、明確でないこと、(え)噴射管内平均噴射圧力値ないし燃料噴射システム単位容積あたりの噴射管内平均噴射圧力値が大きくても、必ずしも圧力変動(脈動の振幅)が小さいとは限らないこと、及び、噴射管内平均噴射圧力値等が大きければ圧力変動の大小に関係なく、実際に煙の排出量が低減するのか(本願明細書の特に段落【0016】)、どの程度低減するのか、明確でないこと、以上からすると、図2ないし6の測定結果に基づいて、特に圧力変動の抑制に関して、本願発明が特許文献1?3に示す従来例の燃料噴射システムからは予測し得ない効果を奏するとはいえないとともに、図2ないし6の測定結果は、本願発明の効果は刊行物1発明及び刊行物2技術から予測される程度のものであるとの上記判断を覆す根拠にはなり得ない。
なお、本願明細書(特に、段落【0008】)の記載からすると、図6の測定結果は、構造の簡素化ないし重量の軽減を示す趣旨であるとも考えられるが、上記(い)(う)(え)等に述べたように圧力変動の動向、圧力変動の抑制効果の差異及びその程度が明確に示されておらず、それらについて検討することなく、単に一部の燃料噴射管を省く等により構造の簡素化ないし重量の軽減をなし得たとしても、それは当然のことであって、従来の課題の解決手段として格別の技術的意義や格別の効果があるとはいえない。

第5 むすび

以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び刊行物2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-04 
結審通知日 2015-03-05 
審決日 2015-04-27 
出願番号 特願2011-219633(P2011-219633)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷川 啓亮  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 伊藤 元人
佐々木 訓
発明の名称 コモンレール式燃料噴射システム  
代理人 押田 良隆  
代理人 押田 良隆  

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