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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1302005
審判番号 不服2013-11230  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-14 
確定日 2015-06-09 
事件の表示 特願2009-549473「制御された移転生体試料採取装置およびその装置を使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月21日国際公開、WO2008/099196、平成22年 6月 3日国内公表、特表2010-519507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成20年2月15日(パリ条約による優先権主張平成19年2月16日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年5月24日付けで拒絶理由が通知され、同年8月27日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成25年2月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月14日に拒絶査定不服審判が請求され、それと同時に手続補正がなされたものである。
そして、平成26年6月11日付けで上申書が提出され、その後、同年8月21日付けで拒絶理由が通知され、同年12月19日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2 本願発明
この出願の請求項1に係る発明は、平成26年12月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「分解可能な生物起源の検体を含む生体試料のための採取装置であって、
a)検体採取面を有した可動試料採取部材と、
b)搬送または貯蔵のために少なくとも1つの生体試料検体を保存する、少なくとも1つの安定化試薬を含む貯蔵媒体と、
c)所定の開口から挿入された前記貯蔵媒体を固定位置に保持するための手段を有した貯蔵媒体ホルダであって、この貯蔵媒体ホルダから前記貯蔵媒体を取り外すために少なくとも前記貯蔵媒体の一部を露出させるように構成された貯蔵媒体ホルダと、
d)前記貯蔵媒体ホルダ上に配置された弾性部材を備える、前記可動試料採取部材を保持するための手段を含み、
前記可動試料採取部材保持手段は、前記可動採取部材の面が、前記検体採取面上の前記生体試料を採取するための第1の開位置と、少なくとも前記貯蔵媒体の一部分に対向する、または接触する第2の閉位置の間で移動することを可能にする、採取装置。」

ここで、「前記可動採取部材の面」とは、それ以前に「可動採取部材の面」が記載されていないことから、発明の詳細な説明の「【0010】可動試料採取部材保持手段は、機能的に、可動採取部材およびその検体採取面が、試料採取に先立つ検体採取面上に生体試料を採取するための第1の開位置と、試料の採取および移転の後で少なくとも貯蔵媒体の一部分と直面する、または接触する第2の閉位置の間で移動することを可能にする。」との記載を参酌すると、「可動試料採取部材」の「検体採取面」と同義と解すべきである。

3 当審の拒絶理由通知
当審における拒絶理由通知の概略は、以下のとおりである。

本願の請求項1?28に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特許2513740号公報(以下、「刊行物」という。)及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、刊行物は本願優先日前に頒布されたものである。

4 刊行物の記載事項

(1)刊行物には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

ア 「しかし、前記のEIAアッセイもその欠点を有している。糞便試料中のヒトヘモグロビンは、時間とともに分解する。EIAアッセイを用いた場合、該分解は、誤まった減少値を示す抗原性の損失を生じる。簡単には、ヒトヘモグロビンに対して特異的なイムノアッセイテストは、ヘモグロビンがその構造的完全性を保持していることを要す。グアヤクが、ヒトヘモグロビンの安定性に有害な影響を及ぼす1つの成分であることが発見されている。」(4欄45行?5欄3行)

イ 「同じ糞便試料を本発明の試料採取装置に塗布し、9日目まで貯蔵した場合、ヘモグロビンの安定性において驚くべき改善が観察された。」(5欄27?29行)

ウ 「第1図および第2図に示すように、テスト装置10は、前方パネル32、後方パネル28およびカバー12を有する。該前方パネルは、1対の隣接開口34を有する。吸収紙シート36は、該後方パネルのインサート40に示したように前方パネルおよび後方パネルの間に配置される。」(6欄43?47行)

エ 「カバー12の内側は、例えば、ティーバックのような薄い半透明瀘紙のコンシステンシーを有する方形シート18からなるポケット様部材16を有する。吸収剤インサート24は、該ポケット内に保持される。該形状は、該カバーが閉じている場合、該ポケットが開口34の上に重なり、かつ、該ポケット中に配置した該インサート24の一部が該閉鎖線を越えて露出するようなものである。このため、該カバーを閉じたまま該ポケットから該吸収剤インサートを引き出すことができる。該カバーが閉じている時に該インサートを把握する手段は、該スライドを切断したノッチ22,22aおよび22bにより提供される。該ポケットを通じて糞便流体を吸収した該インサートを、免疫アッセイのような確認アッセイのために切断できる。」(7欄4?16行)

オ 「カバー12は、折り目26回りに蝶番で動き、例えば、ニカワのような粘着剤のスポット52によりパネル32に固定させる。また、該カバーは、同時に動くタブ14によりロック38にて固定できる。
該スライドを用いるために、患者は、パネル32からカバー12を引き離し、第5図に示すような塗布具54を用いて開口34を通してシート36上に糞便の一部からの検体56の僅かの塗布物を塗布する。第6図に示したように、糞便試料を該スライドに移し、前方カバーを閉じた後、該カバーに圧力を加え、該ポケットと糞便試料の接触を確実にし、かつ、該インサートの汚れを確かなものにする。また、第6図から明らかなように、該インサート24の一部は、該カバーの閉鎖線を越えて露出させる。患者は、該スライドを医師または分析研究所に返却する。第7図に示したように、該ポケットに内包された吸収剤インサート24を該スライドから取り出し、グアヤクテストが明らかになるまで取っておく。ついで、技師は、フタ44を引っぱってパネル28から離し、それを外側に開ける。このようにして形成した開口を通して、過酸化水素のような発色液60を汚垢域58のグアヤク処理シート36に塗布する。発色液をコントロール域42にも塗布して、陽性および陰性モニター42aおよび42bを覆う。ついで、結果を観察する。すなわち、青色は陽性テストを示す。
グアヤクテストが陽性である場合、グアヤク不含の取っておいたインサートを用いて、ヒトヘモグロビンに対して特異的な免疫テストのような第2の確認テストを行なう。糞便汚垢62が含有インサートを細片64に切断しうる。該細片を試薬含有チューブ66に入れ、EIAアッセイのために糞便を溶出しうる。別法として、該インサートを細片に切断する代わりに打ち抜くことができる。」(7欄21?50行)

以上の記載事項ア?オから、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。

「時間とともに分解するヒトヘモグロビンを含む糞便試料が塗布される試料採取装置であって、
前方パネル32、後方パネル28およびカバー12を有し、
吸収紙シート36は、前方パネル32および後方パネル28の間に配置され、
カバー12の内側は、ティーバックのような薄い半透明瀘紙のコンシステンシーを有する方形シート18からなるポケット様部材16を有し、吸収剤インサート24は、ポケット様部材16内に保持され、該形状は、カバー12が閉じている場合、ポケット様部材16が開口34の上に重なり、かつ、ポケット様部材16中に配置した吸収剤インサート24の一部がカバー12の閉鎖線を越えて露出するようなもので、このため、カバー12を閉じたままポケット様部材16から吸収剤インサート24を引き出すことができ、カバー12が閉じている時に吸収剤インサート24を把握する手段は、ノッチ22,22aおよび22bにより提供されるものであり、
カバー12は、折り目26回りに蝶番で動き、ニカワのような粘着剤のスポット52により前方パネル32に固定させ、また、カバー12は、同時に動くタブ14によりロック38にて固定できるものであり、
前方パネル32からカバー12を引き離し、塗布具54を用いて開口34を通して吸収紙シート36上に糞便の一部からの検体56の僅かの塗布物が塗布されるものであり、
カバー12を閉じた後、カバー12に圧力を加え、ポケット様部材16と糞便試料の接触を確実にし、かつ、吸収剤インサート24の汚れを確かなものにし、
ポケット様部材16に内包された吸収剤インサート24を取り出し、グアヤクテストが明らかになるまで取っておき、
グアヤクテストが陽性である場合、グアヤク不含の取っておいた吸収剤インサート24を用いて、ヒトヘモグロビンに対して特異的な免疫テストのような第2の確認テストを行なう試料採取装置。」(以下、「引用発明」という。)

5 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「ヒトヘモグロビン」、「糞便試料」、「吸収剤インサート24」、「『ポケット様部材16を有す』る『カバー12』」及び「『スポット52』、『タブ14』」が、それぞれ、本願発明の「生物起源の検体」、「生体試料」、「貯蔵媒体」、「貯蔵媒体ホルダ」及び「保持するための手段」に相当する。

イ 引用発明の「時間とともに分解するヒトヘモグロビンを含む糞便試料が塗布される試料採取装置」は、本願発明の「分解可能な生物起源の検体を含む生体試料のための採取装置」に相当する。

ウ 引用発明の「前方パネル32からカバー12を引き離し、塗布具54を用いて開口34を通して」「糞便の一部からの検体56の僅かの塗布物を塗布」される「吸収紙シート36」の「上」面は、本願発明の「検体採取面」に相当する。
また、引用発明は「カバー12は、折り目26回りに蝶番で動き」「前方パネル32からカバー12を引き離し」たり「閉じた」りできるものであるから、前方パネル32、後方パネル32及びそれらの間に配置される吸収紙シート36は、カバー12に対して、相対的に、折り目26回りに蝶番で動く可動な部材といえる。
したがって、引用発明の「折り目26回りに蝶番で動」く「前方パネル32」、「後方パネル32」及びそれらの間に配置され「糞便の一部からの検体56の僅かの塗布物を塗布」される「吸収紙シート36」は、本願発明の「検体採取面を有した可動試料採取部材」に相当する。

エ 引用発明の「ポケット様部材16」から「取り出し、グアヤクテストが明らかになるまで取っておき」、「グアヤクテストが陽性である場合」「ヒトヘモグロビンに対して特異的な免疫テストのような第2の確認テストを行なう」「吸収剤インサート24」と、本願発明の「搬送または貯蔵のために少なくとも1つの生体試料検体を保存する、少なくとも1つの安定化試薬を含む貯蔵媒体」とは、「搬送または貯蔵のために」「少なくとも1つの生体試料検体を保存する貯蔵媒体」の点で共通する。

オ 引用発明の「吸収剤インサート24」が「内に保持され」る「ポケット様部材16」を「内側に有する」「カバー12」であって、「ポケット様部材16中に配置した吸収剤インサート24の一部がカバー12の閉鎖線を越えて露出するようなものであるため、該カバーを閉じたまま該ポケットから該吸収剤インサートを引き出すことができるポケット様部材16」を「内側に有する」「カバー12」は、「吸収剤インサート24」が「カバー12の閉鎖線を超えて露出する」側の開口から挿入されて「ポケット様部材16中に配置」されることは自明であるから、本願発明の「所定の開口から挿入された前記貯蔵媒体を固定位置に保持するための手段を有した貯蔵媒体ホルダであって、この貯蔵媒体ホルダから前記貯蔵媒体を取り外すために少なくとも前記貯蔵媒体の一部を露出させるように構成された貯蔵媒体ホルダ」に相当する。

カ 引用発明の「カバー12」を「前方パネル32に固定させるニカワのような粘着剤のスポット52」、及び、「カバー12」を「前方パネル32」に「ロック38にて固定」させる「タブ14」からなる構成と、本願発明の「前記貯蔵媒体ホルダ上に配置された弾性部材を備える、前記可動試料採取部材を保持するための手段」とは、「前記貯蔵媒体ホルダ上に配置された部材を備える、前記可動試料採取部材を保持するための手段」の点で共通する。

キ 引用発明において、「前方パネル32」は、相対的に、「カバー12」に対し、「折り目26回りに蝶番で動き」、「塗布具54を用いて開口34を通して吸収紙シート36上に糞便の一部からの検体56の僅かの塗布物が塗布される」「前方パネル32からカバー12を引き離」す位置と、「カバー12に圧力を加え、ポケット様部材16と糞便試料の接触を確実にし、かつ、吸収剤インサート24の汚れを確かなものに」する「閉」位置の間で移動可能といえ、「ニカワのような粘着剤のスポット52」及び「ロック38にて固定できる」「タブ14」が、これらの移動を許容することは自明であるから、これら引用発明の構成は、本願発明の「前記可動採取部材の面が、前記検体採取面上の前記生体試料を採取するための第1の開位置と、少なくとも前記貯蔵媒体の一部分に対向する、または接触する第2の閉位置の間で移動することを可能にする」「前記可動試料採取部材保持手段」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、
「分解可能な生物起源の検体を含む生体試料のための採取装置であって、
a)検体採取面を有した可動試料採取部材と、
b)搬送または貯蔵のために少なくとも1つの生体試料検体を保存する貯蔵媒体と、
c)所定の開口から挿入された前記貯蔵媒体を固定位置に保持するための手段を有した貯蔵媒体ホルダであって、この貯蔵媒体ホルダから前記貯蔵媒体を取り外すために少なくとも前記貯蔵媒体の一部を露出させるように構成された貯蔵媒体ホルダと、
d)前記貯蔵媒体ホルダ上に配置された部材を備える、前記可動試料採取部材を保持するための手段を含み、
前記可動試料採取部材保持手段は、前記可動採取部材の面が、前記検体採取面上の前記生体試料を採取するための第1の開位置と、少なくとも前記貯蔵媒体の一部分に対向する、または接触する第2の閉位置の間で移動することを可能にする、採取装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
貯蔵媒体が、本願発明では「少なくとも1つの安定化試薬を含む」のに対し、引用発明ではそのようなものか否か不明な点。

(相違点2)
可動試料採取部材を保持するための手段における貯蔵媒体ホルダ上に配置された部材が、本願発明では「弾性部材」であるのに対し、引用発明の「タブ14」はそのようなものか否か不明な点。

(2)当審の判断
(相違点1について)
生体試料検体に安定化試薬を用いることは、例えば、特表2002-521071号公報(「【0071】…RNAlaterTMまたはその他の発明のRNA保存液は、後の診断のために、血液製剤中の通常は不安定なウイルスRNA(例えば、HIV)を安定化するために使用できる。」)、国際公開96-21041号(「糞便中の遺伝子は、保存中に微生物や分解酵素による攻撃に晒されることになるので各種保存剤を利用して保護しておくと良い。」6頁7?8行)に記載されているように周知技術であり、引用発明の糞便試料中のヒトヘモグロビンが時間とともに分解するのを抑えるために、吸収剤インサートにこの周知技術を適用して相違点1に係る本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たというべきである。

(相違点2について)
係合部材として弾性部材を用いることは周知技術であるので、引用発明の「ロック38」に係合する「タブ14」を弾性部材で構成することは当業者が容易になし得たというべきである。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(効果について)
本願発明の有する効果は、引用発明及び周知技術から、当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-15 
結審通知日 2015-01-16 
審決日 2015-01-28 
出願番号 特願2009-549473(P2009-549473)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 秋田 将行  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 三崎 仁
藤田 年彦
発明の名称 制御された移転生体試料採取装置およびその装置を使用する方法  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 山本 修  
代理人 山崎 幸作  

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