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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1302009 |
審判番号 | 不服2013-20009 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-15 |
確定日 | 2015-06-08 |
事件の表示 | 特願2012-147728「レーザダイシング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月20日出願公開,特開2014- 11358〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成24年(2012年)6月29日の出願であって,その主な手続の経緯は,以下のとおりである。 平成25年 2月13日 拒絶理由通知 平成25年 4月17日 意見書及び手続補正書提出 平成25年 7月 9日 拒絶査定 平成25年10月15日 審判請求書及び手続補正書提出 平成25年11月25日 手続補正書提出(審判請求書の補正) 第2.平成25年10月15日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成25年10月15日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正の内容の概要 本件補正は,平成25年4月17日付けで補正された特許請求の範囲を更に補正するものであって,特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお,下線部は補正箇所を示す。 (1)本件補正前の請求項1 「 【請求項1】 表面に金属膜を備え、LEDが形成された被加工基板のレーザダイシング方法であって、 前記被加工基板をステージに載置するステップと、 前記金属膜に対してデフォーカスされたパルスレーザビームを第1の直線に沿って照射し、前記金属膜を剥離する第1の金属膜剥離ステップと、 前記金属膜に対してデフォーカスされたパルスレーザビームを前記第1の直線に直交する第2の直線に沿って照射し、前記金属膜を剥離する第2の金属膜剥離ステップと、 前記被加工基板の前記金属膜が剥離された領域にパルスレーザビームを照射し、前記被加工基板にクラックを形成するクラック形成ステップと、を有し、 前記第1の直線と前記第2の直線が交差する領域において、前記第1の金属膜剥離ステップまたは前記第2の金属膜剥離ステップのいずれか一方のステップで、パルスレーザビームの照射を中断することを特徴とするレーザダイシング方法。」 (2)本件補正後の請求項1 「 【請求項1】 表面に金属膜を備え、LEDが形成された被加工基板のレーザダイシング方法であって、 前記被加工基板をステージに載置するステップと、 前記金属膜に対してデフォーカスされたパルスレーザビームを第1の直線に沿って照射し、前記金属膜を剥離する第1の金属膜剥離ステップと、 前記金属膜に対してデフォーカスされたパルスレーザビームを前記第1の直線に直交する第2の直線に沿って照射し、前記金属膜を剥離する第2の金属膜剥離ステップと、 前記被加工基板の前記金属膜が剥離された領域にパルスレーザビームを照射し、前記被加工基板にクラックを形成するクラック形成ステップと、を有し、 前記第1の直線と前記第2の直線が交差する領域において、前記第1の金属膜剥離ステップまたは前記第2の金属膜剥離ステップのいずれか一方のステップで、パルスレーザビームの照射を中断し、 前記第1および第2の金属膜剥離ステップにおいて、 クロック信号を発生し、 前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、 前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ、 前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を、前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、 前記金属膜を剥離し、 前記クラック形成ステップにおいて、 被加工基板をステージに載置し、 クロック信号を発生し、 前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、 前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ、 前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を、前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、 前記被加工基板に基板表面に達するクラックを、前記パルスレーザビームの照射エネルギー、前記パルスレーザビームの加工点深さ、および、前記パルスレーザビームの照射領域および非照射領域の長さを制御することにより、前記クラックが前記被加工基板表面において連続するよう形成することを特徴とするレーザダイシング方法。」 2.補正の適否 本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は,補正前に特定されていた「第1の金属膜剥離ステップ」及び「第2の金属膜剥離ステップ」について,「クロック信号を発生し、前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ、前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を、前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、前記金属膜を剥離」することを限定し,また,補正前に特定されていた「クラック形成ステップ」について,「被加工基板をステージに載置し、クロック信号を発生し、前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ、前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を、前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、前記被加工基板に基板表面に達するクラックを、前記パルスレーザビームの照射エネルギー、前記パルスレーザビームの加工点深さ、および、前記パルスレーザビームの照射領域および非照射領域の長さを制御することにより、前記クラックが前記被加工基板表面において連続するよう形成」することを限定したものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか。)について以下に検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は,上記1.(2)に示すとおりのものである。 (2)刊行物の記載事項及び刊行物発明 本願出願前に日本国内において頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2012-76093号公報(以下,「刊行物1」という。),特開2007-48995号公報(以下,「刊行物2」という。)及び特開2012-28734号公報(以下,「刊行物3」という。)には,以下の事項及び発明が記載されている。なお,記載事項における下線は,理解を容易にするために当審で付したものである。 ア.刊行物1記載の事項及び刊行物1発明 (ア)「【請求項10】 下地基板の上に異種材料層が形成された異種材料付き基板である被加工物に分割起点を形成するための加工方法であって、 被加工物を第1の方向と第2の方向とに移動可能なステージに載置する載置工程と、 前記ステージを前記第1の方向に移動させつつ、所定の光源から出射させた予備加工用レーザー光を照射することにより、被照射領域において下地基板を露出させる予備加工工程と、 所定の光源から出射させた、パルス幅がpsecオーダーの超短パルス光である本加工用レーザー光の、個々の単位パルス光ごとの被照射領域が、前記下地基板の露出部分において離散的に形成されるように、前記ステージを前記第2の方向に移動させつつ前記本加工用レーザー光を前記被加工物に照射することによって、前記被照射領域同士の間で前記下地基板の劈開もしくは裂開を生じさせる本加工工程と、 を備えることを特徴とする被加工物の加工方法。」 (イ)「【請求項19】 被加工物を分割する方法であって、 請求項10ないし請求項18のいずれかに記載の方法によって分割起点が形成された被加工物を、前記分割起点に沿って分割する、 ことを特徴とする被加工物の分割方法。」 (ウ)「【0012】 例えば、サファイアなどの硬脆性かつ光学的に透明な材料からなる基板の上にLED構造などの発光素子構造を形成した被加工物を、特許文献2に開示されているような従来のレーザー加工によってチップ単位に分割することで得られた発光素子のエッジ部分(分割の際にレーザー光の照射を受けた部分)においては、幅が数μm程度で深さが数μm?数十μm程度の加工痕が連続的に形成されてなる。係る加工痕が、発光素子内部で生じた光を吸収してしまい、素子からの光の取り出し効率を低下させてしまうという問題がある。特に、屈折率の高いサファイア基板を用いた発光素子構造の場合に係る問題が顕著である。 【0013】 本発明の発明者は、鋭意検討を重ねた結果、被加工物にレーザー光を照射して分割起点を形成するにあたって、該被加工物の劈開性もしくは裂開性を利用することで、加工痕の形成が好適に抑制されるとの知見を得た。加えて、係る加工には超短パルスのレーザー光を用いることが好適であるとの知見を得た。」 (エ)「【0040】 なお、本実施の形態において、裂開とは、劈開面以外の結晶面に沿って被加工物が略規則的に割れる現象を指し示すものとし、当該結晶面を裂開面と称する。なお、結晶面に完全に沿った微視的な現象である劈開や裂開以外に、巨視的な割れであるクラックがほぼ一定の結晶方位に沿って発生する場合もある。物質によっては主に劈開、裂開もしくはクラックのいずれか1つのみが起こるものもあるが、以降においては、説明の煩雑を避けるため、劈開、裂開、およびクラックを区別せずに劈開/裂開などと総称する。さらに、上述のような態様の加工を、単に劈開/裂開加工と称する。」 (オ)「【0094】 <異種材料付き基板の加工> 次に、上述した劈開/裂開加工を、異種材料付き基板に対する分割起点の形成に適用する場合について説明する。具体的には、異種材料付き基板に対して、金属薄膜層もしくは半導体層の側から分割起点を形成しようとする場合を対象に説明する。 ・・・・・ 【0096】 そこで、本実施の形態においては、分割予定位置に存在する異種材料をあらかじめ除去しておいたうえで、下地基板のみに対し上述した劈開/裂開加工を行うことにより、異種材料付き基板に対し分割起点を形成するようにする。すなわち、本実施の形態において行う異種材料付き基板に対する分割起点の形成は、概略的には、下地基板上に存在する異種材料層を除去し、下地基板を露出させる予備加工と、予備加工によって露出した下地基板に対し上述した劈開/裂開加工にて分割起点を形成する本加工とを含む。本実施の形態において行われる、予備加工と本加工とからなる加工態様を、二段階加工と称する。 【0097】 まず、予備加工と本加工の基本的な加工態様について説明する。図9は被加工物10が下地基板101の上に金属薄膜層102を形成してなる異種材料付き基板である場合の加工の様子を模式的に示す側断面図である。図10は被加工物10が下地基板101の上に半導体層103を形成してなる異種材料付き基板である場合の加工の様子を模式的に示す側断面図である。図9、図10ともに、被加工物10の表面(具体的には金属薄膜層102の表面102aもしくは半導体層103の表面103a)上であって図面に垂直な方向に、加工予定線Lが設定されているとする。 【0098】 いずれの場合もまず、予備加工用レーザー光LBaを所定の出射源Eaから被加工物10に照射し、該予備加工用レーザー光LBaによって加工予定線L上を走査する(図9(a)、図10(a))。これにより、加工予定線L上に沿って、金属薄膜層102もしくは半導体層103の該加工予定線Lの近傍部分が徐々に除去され、下地基板101の上面101sを底部とする第1溝部102gもしくは103gが徐々に形成される(図9(b)、図10(b))。すなわち、下地基板101の上面101sが露出する。これが予備加工である。 【0099】 係る予備加工の際、予備加工用レーザー光LBaは、個々の単位パルス光のビームスポット同士に重なり(オーバーラップ)が生じるような条件で被加工面に照射される。同一位置をレーザー光が同一位置に照射される回数Nは、レーザー光のビームスポット径がφ(μm)、走査速度がV(mm/sec)、繰り返し周波数がR(kHz)とすると、N=φ×R/Vで概算される。予備加工用レーザー光LBaの照射は、係る式によって得られる回数Nの値が、最低でも2となる照射条件にて行われるようにする。N>10となる照射条件にて行われるのがより好ましい。特に、繰り返し周波数Rが高く設定されるのが好ましい。 【0100】 一方で、予備加工用レーザー光LBaは、金属薄膜層102もしくは半導体層103の部分除去が行われる程度のエネルギーで照射されればよい。必要以上のエネルギーによる照射は、下地基板101の上面101sにダメージを与えてしまうことになり、予備加工に続く本加工として行う劈開/裂開加工が良好に行えなくなるため好ましくない。 ・・・・・ 【0102】 これらの条件を満たす限りにおいて、予備加工用レーザー光LBaとしては、UVレーザーや、半導体レーザー、CO_(2)レーザーなどの従来公知の種々のレーザー種を用いることができる。なお、上述した劈開/裂開加工を行う際に用いるような、psecオーダーのパルス幅を有するレーザー光を予備加工用レーザー光LBaとして用いる場合であれば、予備加工用レーザー光LBaは、図9(a)、図10(a)に示すようにその焦点位置が被加工物10の表面よりも上方に位置するような照射条件で照射されるのが好適である。このようにすることで、予備加工用レーザー光LBaのパルス幅や繰り返し周波数、照射エネルギー(パルスエネルギー)などが本加工用レーザー光LBbと同様であっても、予備加工が好適に行える。 【0103】 そして、予備加工によって加工予定線Lに沿う線状に露出した下地基板101の上面101sに対し、所定の出射源Ebから出射させた本加工用レーザー光LBbを該上面101sの延在方向に沿って走査させつつ照射する(図9(c)、図10(c))ことにより、下地基板101に対して、加工予定線L上に沿った劈開/裂開加工を行う。これにより、下地基板101には、加工予定線Lに沿って、劈開・裂開面101wを有する第2溝部101gが形成される(図9(d)、図10(d))。これが本加工である。 ・・・・・ 【0105】 本加工の結果として得られた第2溝部101g(より具体的にはその先端部)が、異種材料付き基板である被加工物10の分割起点となる。本加工は、硬脆性を有する下地基板101のみに対して劈開/裂開加工を施すものであるので、分割予定線の位置において劈開/裂開を好適に生じさせることができる。その結果として、下地基板101には、先端部が充分に深いところまで達する第2溝部101gが形成される。すなわち、異種材料付き基板である被加工物10に良好な分割起点が形成される。 【0106】 <レーザー加工装置の概要> 次に、上述した二段階加工を実現可能なレーザー加工装置について説明する。 【0107】 図11は、本実施の形態に係るレーザー加工装置50の基本的な構成を概略的に示す模式図である。レーザー加工装置50は、レーザー光照射部50Aと、観察部50Bと、例えば石英などの透明な部材からなり、被加工物10をその上に載置するステージ7と、レーザー加工装置50の種々の動作(観察動作、アライメント動作、加工動作など)を制御するコントローラ1とを主として備える。」 (カ)刊行物1発明 以上の記載事項を,技術常識を踏まえつつ本件補正発明に照らして整理すると,刊行物1には次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。 「下地基板101の上に金属薄膜層102を形成してなる被加工物10にレーザー光を照射して分割起点を形成し,分割起点に沿って分割する方法であって, 前記被加工物10をステージ7に載置する工程と, 焦点位置が前記被加工物10の表面よりも上方に位置し,個々の単位パルス光のビームスポット同士が重なる予備加工用レーザー光LBaを加工予定線L上に走査し,前記金属薄膜層102を除去する予備加工工程と, 前記被加工物10の前記金属薄膜層102が除去された領域に予備加工用レーザー光LBaのパルス幅や繰り返し周波数、照射エネルギーなどが同様の本加工用レーザー光LBbを走査し,前記被加工物10に劈開/裂開加工を行う本加工工程と,を有するレーザー光を照射して分割起点を形成し,分割起点に沿って分割する方法。」 イ.刊行物2記載の事項及び刊行物2事項 (ア)「【0011】 ・・・・・ 半導体ウェハ1は、ブレードダイシングライン2、3に沿って分割され、したがって、半導体チップは、ブレードダイシングライン2、3に囲まれた領域に形成される。したがって、ブレードダイシングライン2、3の両側に沿って行われるレーザダイシング4、5によるラインは、半導体チップ周縁に形成され、そのコーナー近傍で交点が形成される。従来の連続レーザ光では、この交点では2回のレーザ照射があり、この部分でチッピングが生じる主要な原因となっている。 【0012】 この実施例では、交点への2回の照射を避けるために、縦方向あるいは横方向のいずれか一方のレーザダイシングにレーザ照射光として離散光を用い、他方に連続光を用いている。図3では縦方向のレーザダイシング5に連続光を用い、横方向のレーザダイシング4に前記交点には照射されない離散光を用いている。・・・・・」 (イ)刊行物2事項 上記の記載事項を,技術常識を踏まえつつ整理すると,刊行物2には次の事項(以下,「刊行物2事項」という。)が記載されていると認める。 「連続レーザ光の交点では2回のレーザ照射があり、交点への2回の照射を避けるために、縦方向あるいは横方向のいずれか一方のレーザ光を交点に照射させないこと。」 ウ.刊行物3記載の事項及び刊行物3事項 (ア)「【請求項1】 複数の素子が形成され、一方の面に金属膜を有する被加工基板のダイシング方法であって、 前記被加工基板を第1のステージに載置し、 前記金属膜を、ダイヤモンドバイトを用いた金属加工により除去して溝部を形成し、 前記被加工基板を第2のステージに載置し、 クロック信号を発生し、 前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを前記被加工基板の前記溝部に出射し、 前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ、 前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を、前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、 前記被加工基板に基板表面に達するクラックを形成するダイシング方法。 【請求項2】 前記パルスレーザビームの照射エネルギー、前記パルスレーザビームの加工点深さ、および、前記パルスレーザビームの照射領域および非照射の領域の長さを制御することにより、前記クラックが前記被加工基板表面において連続するよう形成することを特徴とする請求項1記載のダイシング方法。」 (イ)刊行物3事項 上記の記載事項を,技術常識を踏まえつつ整理すると,刊行物3には次の事項(以下,「刊行物3事項」という。)が記載されていると認める。 「被加工基板をステージに載置し、 クロック信号を発生し, 前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを被加工基板に出射し, 前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ, 前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を,前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで,光パルス単位で切り替え, 前記被加工基板に基板表面に達するクラックを,前記パルスレーザビームの照射エネルギー,前記パルスレーザビームの加工点深さ並びに前記パルスレーザビームの照射領域及び非照射の領域の長さを制御することにより,前記クラックが前記被加工基板表面において連続するよう形成するクラック形成方法。」 (3)対比 本件補正発明と刊行物1発明とを対比すると,刊行物1発明において「下地基板101の上に金属薄膜層102を形成してなる」ことは,本件補正発明において「表面に金属膜を備え」ることに相当する。また,刊行物1発明の「被加工物10」は,基板を含んでいるから,「被加工基板」という点で,本件補正発明の「LEDが形成された被加工基板」と共通する。また,刊行物1発明の「レーザー光を照射して分割起点を形成し,分割起点に沿って分割する」ことは,レーザを用いて基板の分割,すなわちダイシングを行うことであるから,本件補正発明の「レーザダイシング」に相当する。 そして,刊行物1発明の「前記被加工物10をステージ7に載置する工程」が,本件補正発明の「前記被加工基板をステージに載置するステップ」に相当することは明らかである。 また,刊行物1発明の被加工物10の表面には,金属薄膜層102が形成されているから,刊行物1発明において「焦点位置が前記被加工物10の表面よりも上方に位置」していることは,本件補正発明において「前記金属膜に対してデフォーカス」されていることに相当する。また,刊行物1発明の「個々の単位パルス光のビームスポット同士が重なる予備加工用レーザー光LBa」が,本件補正発明の「パルスレーザビーム」に相当することは明らかであるし,以下同様に,「加工予定線L上に走査」することが,「第1の直線に沿って照射」することに相当し,「前記金属薄膜層102を除去する予備加工工程」が「前記金属膜を剥離する第1の金属膜剥離ステップ」に相当する。 さらに,刊行物1発明の「前記被加工物10の前記金属薄膜層102が除去された領域」が,本件補正発明の「前記被加工基板の前記金属膜が剥離された領域」に相当し,「予備加工用レーザー光LBaのパルス幅や繰り返し周波数、照射エネルギーなどが同様の本加工用レーザー光LBb」が,「パルスレーザビーム」に相当し,「走査」が,「照射」に相当する。また,一般に「クラック」は,割れ目やひび割れを意味するところ,刊行物1発明の「劈開/裂開加工」は,上記(2)ア.(エ)に示すとおり,「劈開、裂開、およびクラック」,すなわち割れ目やひび割れが生じるような加工を意味するから,刊行物1発明の「前記被加工物10に劈開/裂開加工を行う本加工工程」は,本件補正発明の「前記被加工基板にクラックを形成するクラック形成ステップ」に相当する。 以上から,本件補正発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 <一致点> 「表面に金属膜を備えた被加工基板のレーザダイシング方法であって, 前記被加工基板をステージに載置するステップと, 前記金属膜に対してデフォーカスされたパルスレーザビームを第1の直線に沿って照射し、前記金属膜を剥離する第1の金属膜剥離ステップと, 前記被加工基板の前記金属膜が剥離された領域にパルスレーザビームを照射し,前記被加工基板にクラックを形成するクラック形成ステップと,を有するレーザダイシング方法。」である点。 <相違点1> 被加工基板が,本件補正発明では,「LEDが形成された」ものであるのに対して,刊行物1発明では,LEDが形成されたものかどうか不明な点。 <相違点2> 本件補正発明は,「前記金属膜に対してデフォーカスされたパルスレーザビームを前記第1の直線に直交する第2の直線に沿って照射し、前記金属膜を剥離する第2の金属膜剥離ステップ」を有しており,また,「前記第1の直線と前記第2の直線が交差する領域において、前記第1の金属膜剥離ステップまたは前記第2の金属膜剥離ステップのいずれか一方のステップで、パルスレーザビームの照射を中断」するものであるのに対して,刊行物1発明は,第2の金属膜剥離ステップを有しているかどうか不明であり,そのため,パルスレーザビームの照射を中断するかどうかも不明な点。 <相違点3> 本件補正発明は,「前記第1および第2の金属膜剥離ステップにおいて、クロック信号を発生し、前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ、前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を、前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、前記金属膜を剥離し、前記クラック形成ステップにおいて、被加工基板をステージに載置し、クロック信号を発生し、前記クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し、前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させ、前記被加工基板への前記パルスレーザビームの照射と非照射を、前記クロック信号に同期して、パルスピッカーを用いて前記パルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、光パルス単位で切り替え、前記被加工基板に基板表面に達するクラックを、前記パルスレーザビームの照射エネルギー、前記パルスレーザビームの加工点深さ、および、前記パルスレーザビームの照射領域および非照射領域の長さを制御することにより、前記クラックが前記被加工基板表面において連続するよう形成」しているのに対して,刊行物1発明は,どのようにパルスレーザビームを制御するのか不明な点。 (4)各相違点の判断 ア.相違点1について 刊行物1には,基板としてLED構造が形成されたものについて示唆がある(上記(2)ア.(ウ)の段落【0012】)から,被加工基板として「LEDが形成された」ものを選択することは,刊行物1の記載に基づいて,当業者が容易に想到できたものである。 イ.相違点2について 刊行物1発明は,基板のレーザダイシング方法に係る発明であるところ,基板をダイシングするにあたり,分割後の素子が矩形状となるように,ダイシングラインを直交させることは,当業者にとって自明な事項であり,刊行物1発明においても当然にダイシングラインを直交させるといえる。また,刊行物1発明のレーザダイシング方法に用いるレーザは,個々の単位パルス光のビームスポット同士が重なるようなパルスレーザ(上記(2)ア.(エ))であるから,ダイシングラインを直交させれば,その交点において,パルスレーザが2回照射されることは明らかである。 刊行物1には,必要以上のエネルギーによるレーザ照射を行えば,下地基板の上面にダメージを与えることになり,好ましくない旨の記載(上記(2)ア.(オ)の段落【0100】)があるところ,刊行物2事項に示すように,レーザ光の交点で2回のレーザ照射が行われることを避けるように,縦方向あるいは横方向のいずれか一方のレーザ光を交点に照射させないことは公知であるから,刊行物1の上記の記載及び刊行物2事項に接した当業者であれば,ダイシングラインの交点で,必要以上のエネルギーが基板に照射されることを忌避するように,刊行物2事項を適用して,縦方向あるいは横方向のいずれか一方のレーザ光を交点に照射させないように試みるはずである。 したがって,刊行物1発明において,「金属膜に対してデフォーカスされたパルスレーザビームを第1の直線に直交する第2の直線に沿って照射し,金属膜を剥離する第2の金属膜剥離ステップ」を付加し,「第1の直線と第2の直線が交差する領域において,第1の金属膜剥離ステップまたは第2の金属膜剥離ステップのいずれか一方のステップで,パルスレーザビームの照射を中断」するように構成することは,当業者にとって自明な事項,刊行物1の記載及び刊行物2事項に基づいて,当業者が容易に想到できたものである。 ウ.相違点3について パルスレーザを用いて基板にクラックを形成するにあたり,被加工基板をステージに載置し、クロック信号に同期したパルスレーザビームを被加工基板に出射することや,被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させること,パルスピッカーを用いてパルスレーザビームの通過と遮断を制御して光パルス単位で切り替えること,パルスレーザビームの照射エネルギー,パルスレーザビームの加工点深さ並びにパルスレーザビームの照射領域及び非照射の領域の長さを制御することにより,クラックが基板表面において連続するよう形成することは,刊行物3事項に示すように公知である。 刊行物1発明は,パルスレーザを用いて基板にクラックを形成しているから,当業者であれば,刊行物1発明のクラック形成ステップに刊行物3事項の適用を試みるはずであるし,刊行物1発明は,クラック形成ステップで用いるレーザと同じレーザを金属膜剥離ステップに用いているから,刊行物1発明の金属膜剥離ステップにおいても,クロック信号に同期したパルスレーザビームを被加工基板に出射することや,パルスピッカーを用いてパルスレーザビームの通過と遮断を制御して光パルス単位で切り替えることを適用しようと試みるはずである。 したがって,刊行物1発明において,「第1および第2の金属膜剥離ステップにおいて,クロック信号を発生し,クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し,被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させ,被加工基板へのパルスレーザビームの照射と非照射を,クロック信号に同期して,パルスピッカーを用いてパルスレーザビームの通過と遮断を制御することで,光パルス単位で切り替え,金属膜を剥離し,クラック形成ステップにおいて,被加工基板をステージに載置し,クロック信号を発生し,クロック信号に同期したパルスレーザビームを出射し,被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させ,被加工基板へのパルスレーザビームの照射と非照射を,クロック信号に同期して,パルスピッカーを用いてパルスレーザビームの通過と遮断を制御することで,光パルス単位で切り替え,被加工基板に基板表面に達するクラックを,パルスレーザビームの照射エネルギー,パルスレーザビームの加工点深さ,および,パルスレーザビームの照射領域および非照射領域の長さを制御することにより,クラックが被加工基板表面において連続するよう形成」することは,刊行物3事項に基づいて,当業者が容易に想到できたものである。 エ.作用効果について 本件補正発明が奏する作用や効果は,刊行物1発明,刊行物1の記載,当業者にとって自明な事項,刊行物2事項及び刊行物3事項が奏する作用や効果を超えるものとはいえない。 (5)補正の適否についてのむすび 以上のとおり,本件補正発明は,刊行物1発明,刊行物1の記載,当業者にとって自明な事項,刊行物2事項及び刊行物3事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,上記[補正却下の決定の結論]のとおり,決定する。 第3.本願発明について 1.本願発明 本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は,上記第2.1.(1)に示すとおりのものである。 2.引用刊行物の記載事項及び引用刊行物記載の発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は,上記第2.2.(2)に記載したとおりである。 3.対比 本願発明は,上記第2.1.(2)に補正後の発明として記載した発明,すなわち本件補正発明から,上記第2.2で指摘した各限定事項を省いたものである。 そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに,他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が,上記第2.2.(5)に記載したとおり,刊行物1発明,刊行物1の記載,当業者にとって自明な事項,刊行物2事項及び刊行物3事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,本願発明も同様に,刊行物1発明,刊行物1の記載,当業者にとって自明な事項,刊行物2事項及び刊行物3事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。 4.むすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明,刊行物1の記載,当業者にとって自明な事項,刊行物2事項及び刊行物3事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-04-06 |
結審通知日 | 2015-04-07 |
審決日 | 2015-04-21 |
出願番号 | 特願2012-147728(P2012-147728) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 馬場 進吾 |
特許庁審判長 |
栗田 雅弘 |
特許庁審判官 |
長屋 陽二郎 刈間 宏信 |
発明の名称 | レーザダイシング方法 |
代理人 | 池上 徹真 |
代理人 | 須藤 章 |
代理人 | 松山 允之 |