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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1302018
審判番号 不服2014-2550  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-10 
確定日 2015-06-09 
事件の表示 特願2012-526670「広帯域ダイポールアンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月10日国際公開、WO2011/028049、平成25年 1月31日国内公表、特表2013-503550〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯と本願発明
本願は、2010年9月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年9月2日 大韓民国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成25年5月9日付けで拒絶理由が通知され、同年8月14日付けで手続補正されたが、同年10月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月10日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。

本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成25年8月14日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「無線信号を送受信するための共振器の放射パターンが一面に形成される複数の放射パターン部を有する放射体と、
前記放射体を支持して給電するための給電及びバルーン構造と、を含み、
前記放射体の複数の放射パターン部は、放射パターンが外側及び内側に少なくとも二重に形成され、ここで、前記外側に形成される放射パターンは、該当広帯域のうち予め設定された低い周波数帯域の共振を発生させ、前記内側に形成される放射パターンは、該当広域帯のうち予め設定された高い周波数帯域の共振を発生させるように形成され、前記低い周波数帯域の共振と前記高い周波数帯域の共振の組み合わせによって全体的に一つの広帯域の周波数特性が発生するように構成されることを特徴とする広帯域ダイポールアンテナ。」

第2 引用発明及び周知技術
A 原審の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に外国において頒布された刊行物である米国特許出願公開2005/0134517号明細書(平成17年6月23日公開、以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「[0001] The invention relates to an antenna having at least one dipole or an antenna element arrangement which is similar to a dipole, according to the precharacterizing clause of Claim 1.」(1頁左欄)

訳文(イ.)「[0001] 本発明は、請求項1のプレキャラクタライジング節に従った、少なくとも1つのダイポール又はダイポールに類似するアンテナ素子装置を有するアンテナに関する。」

ロ.「[0037] FIGS. 2 and 3 show different illustrations of a first antenna element arrangement 11 according to the invention on a reflector 3, in greater detail. In this case, in principle, the antenna element arrangement 11 has a configuration as is known from WO 00/39894, and as is described in detail there. Reference is therefore made to the entire disclosure content of the above publication, which is included in the content of this application. It is known from this for the antenna element arrangement 11 as shown in the form of a schematic plan view in the exemplary embodiments in FIGS. 1 to 3 to be precise in the form of a dipole square but, by virtue of the specific configuration, to transmit and receive as a cruciform dipole, from the electrical point of view. In this context, FIG. 1 shows the two polarization directions 12a and 12b for an antenna element arrangement 11, with these polarization directions 12a and 12b being at right angles to one another and being formed by the diagonal antenna element arrangement 11, which has a rather square shape in a plan view. The structures, which are in each case opposite through 180°, of the antenna element arrangement 11 to this extent act as dipole halves of two dipoles that are arranged in a cruciform shape.
[0038] An antenna element arrangement 11 which is in the form of a dipole and is formed in this way is held and mounted on the reflector 3 via an associated mount device or mount 15. The four dipole halves 13 in this exemplary embodiment (which are arranged in a cruciform shape with respect to one another) and the associated mount device 15 are in this case composed of electrically conductive material, generally metal or a corresponding metal alloy. The dipole halves or the associated mount device or parts of it may, however, also be composed of a non-conductive material, for example plastic, in which case the corresponding parts are then coated with a conductive layer and/or may be coated with such a layer.
[0039] The perspective illustration in FIG. 2 also shows that the antenna element, which is cruciform from the electrical point of view, has a mount with an approximately square horizontal cross section, or has a square mount device 15 which is provided with slots 15d from top to bottom and which, in the illustrated exemplary embodiment, end shortly in front of the reflector. These slots 15d are aligned with the slots 11a which in each case separate from one another two adjacent dipole halves of two polarizations which are at right angles to one another. The slots 15d in the mount device 15 thus in each case form the associated balancing 15e for the relevant dipole structure. The length of the slots and hence the length of the balancing that is formed by them may vary, with a value around γ/4 frequently being suitable for a relevant frequency.」(3頁左右欄)

訳文(ロ.)「[0037] 図2及び図3は、反射器3上の本発明による第1アンテナ素子装置11の別の例示をより詳細に示す。この場合、原則的に、アンテナ素子装置11は、WO 00/39894から周知の構成を有し、かつそこに詳細に記載されている。従って、本出願の内容に含まれている上記文献の全開示内容が参照される。図1?図3に例示的な実施態様の概略平面図の形態で示すように、アンテナ素子装置11が正方形ダイポールの形態で正確に表され、しかし特定の構成を理由として、電気的観点から十字ダイポールとして送信及び受信することは、このことから周知である。この文脈で、図1は、アンテナ素子装置11用の2つの偏波方向12a及び12bを示し、これらの偏波方向12a及び12bは、互いに対して直角であり、かつ平面図で正方形の形状を有する対角アンテナ素子装置11によって形成される。それぞれの場合において180°を介して対向しているアンテナ素子装置11の構造は、十字状に配置された2つのダイポールの半体としてこの程度まで機能する。
[0038] ダイポールの形態を有し、かつこの方法で形成されたアンテナ素子装置11は保持され、取付装置又は取付台15を介して関連する反射器3に取り付けられている。(互いに十字状に配置されている)この例示的な実施態様で、4つのダイポール半体13及び関連する取付装置15は、この場合、一般的には金属又は対応する金属合金などの導電材料で構成されている。しかしながら、ダイポール半体又は関連する取付装置もしくはその一部は、プラスチックなどの非導電性材料から構成することもできる。その場合、対応する部分は次に導電層で被覆され、さらに(又は)そのような層で被覆される。
[0039] 図2の斜視図はまた、電気的な観点から十字形であるアンテナ素子が、ほぼ正方形の水平断面を伴う取付台を有し、又は頂部から底部にスロット15dが設けられ、かつ図示の例示的な実施態様では反射器前方で速やかに終了する正方形の取付装置15を有していることを示す。これらのスロット15dは、それぞれの場合において、互いに直交する2つの偏波の互いに隣接する2つのダイポール半体から分離したスロット11aと整列する。従って、取付装置15のスロット15dは、それぞれの場合において、関連するダイポール構造用の関連するバランシング15eを形成する。スロットの長さ、及びスロットによって形成されているバランシングの長さは変動する可能性があり、しばしば該当する周波数に適する約γ/4の値を伴う。」

ハ.「[0054] As can be seen from the section illustration in FIG. 4, the cylinder 41 which is closed on the end face at the top and is electrically conductive overall, or at least has electrically conductive sections, is designed and arranged such that its circumferential surface and its upper end surface as well as the projecting pin 41a are not electrically conductively connected to the dipole structure or to the associated mount device 15. However, the lower face of the hollow cylinder 41 is preferably electrically conductively connected to the reflector plate via a circumferential collar 41c. Since the length of this hollow cylinder 41 is preferably around λ/4± preferably less than 30% of this, this means that, in the end and located at the top, the inner conductor 31c of the coaxial feed cable is connected in the manner of a short circuit, located at the top, to the associated dipole half, that is to say in the area on the hollow cylinder 41 and, at the foot of the hollow cylinder, at which this is electrically connected to the reflector 3, is transformed to an open circuit. Conversely, the configuration likewise means that an open circuit at the upper end of the hollow cylinder is transformed to a short circuit at the foot of the hollow cylinder.」(5頁左欄)

訳文(ハ.)「[0054] 図4の部分図から分かるように、上部の端面で閉じられ、かつ、全体又は少なくとも部分的に導電性である中空円筒41は、その周面及び上端面、ならびに突出ピン41aがダイポール構造又は関連する取付装置15に導電接続されないように設計及び配置されている。しかしながら、中空円筒41の下面は、好ましくは、周鍔部41cを介して反射板に導電接続されている。この中空円筒41の長さは、好ましくはλ/4±、好ましくはこの約30%未満であり、これは最終的には、また上部に配置されて、同軸給電ケーブルの内部導体31cが、短絡によって、上部に配置されて、関連するダイポール半体に接続され、すなわち、これが反射器3に電気的に接続される中空円筒41上の領域及び中空円筒下部において、開回路に変換されることを意味する。逆に、この構成は、中空円筒上端の開回路が中空円筒下部の短絡に変換されることを同様に意味する。」

上記引用例の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の[0001]における「本発明は、・・・少なくとも1つのダイポール又はダイポールに類似するアンテナ素子装置を有するアンテナに関する。」との記載、上記ロ.の[0037] における「図2及び図3は、反射器3上の本発明による第1アンテナ素子装置11の別の例示をより詳細に示す。・・・図1?図3に例示的な実施態様の概略平面図の形態で示すように、アンテナ素子装置11が正方形ダイポールの形態で正確に表され、・・・電気的観点から十字ダイポールとして送信及び受信する」との記載、及び図2における、アンテナ素子装置(11)に着目すれば、引用例のダイポールアンテナは、十字状に配置された正方形ダイポールの形態が見て取れるから、正方形の放射パターンが一面に形成された4つの正方形の放射パターン部を有するアンテナ素子装置(11)を備えているということができる。ここで、アンテナ素子装置(11)の放射パターンは、無線信号を送受信するための共振器であることは明らかである。
また、上記ロ.の[0038]における「ダイポールの形態を有し、かつこの方法で形成されたアンテナ素子装置11は保持され、取付装置又は取付台15を介して関連する反射器3に取り付けられている。」との記載、同ロ.の[0039]における「図2の斜視図はまた、電気的な観点から十字形であるアンテナ素子が、ほぼ正方形の水平断面を伴う取付台を有し、又は頂部から底部にスロット15dが設けられ、かつ図示の例示的な実施態様では反射器前方で速やかに終了する正方形の取付装置15を有していることを示す。これらのスロット15dは、それぞれの場合において、互いに直交する2つの偏波の互いに隣接する2つのダイポール半体から分離したスロット11aと整列する。従って、取付装置15のスロット15dは、それぞれの場合において、関連するダイポール構造用の関連するバランシング15eを形成する。」との記載、上記ハ.の[0054]における「図4の部分図から分かるように、・・・中空円筒41の下面は、好ましくは、周鍔部41cを介して反射板に導電接続されている。・・・また上部に配置されて、同軸給電ケーブルの内部導体31cが、短絡によって、上部に配置されて、関連するダイポール半体に接続され」との記載、図2及び図4によれば、ダイポールアンテナは、前述の正方形の放射パターンを支持して給電するための給電及びバランシング(15e)構造を備えていることが読み取れる。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「無線信号を送受信するための共振器の正方形の放射パターンが一面に形成される4つの正方形の放射パターン部を有するアンテナ素子装置(11)と、
前記正方形の放射パターンを支持して給電するための給電及びバランシング(15e)構造と、を含む
ダイポールアンテナ。」

B 原審の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に外国において頒布された刊行物である国際公開第2009/080644号(平成21年7月2日公開、以下、「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ニ.「The present invention relates to a dual polarised radiating element for a cellular base station antenna. Recently, the demand for antennas for mobile and wireless applications has increased dramatically. There are now a number of land based systems for wireless communications using a wide range of frequency bands.」(1頁4?7行)

訳文(ニ.)「本発明は、セルラー基地局アンテナ用二偏波放射エレメントに関する。最近、携帯電話および無線用途のアンテナに対する需要が、劇的に増加している。現在、広範囲の周波数帯域を使用する多数の無線通信用陸上基地システムが存在する。」

ホ.「Figures 1 and 2 illustrate a dual polarised radiating element 1 for a cellular base station antenna. The radiating element 1 comprises a reflector 2 for reflecting radiation energy. The reflector 2 of this embodiment comprises a plane portion 21 forming a reflector surface.
A radiating portion 3 comprises four radiating electrical monopoles 4a to 4d. The monopoles 4a to 4d are distributed around an aperture area (illustrated by circle 8 at figure 3). Each monopole 4 comprises a footing 42 and a flange 41 formed by respective wall portions. Each monopole 4a to 4d can be formed out of a bended metal sheet. Each flange 41a to 41 d is located above the plane portion 21. Each flange 41 is protruding from a respective footing 42 in a radial direction towards the outside. The radial direction is defined starting from the centre of the aperture area 8. In order to generate the dual polarisation, two flanges 41 from adjacent monopoles 4 extend radially perpendicularly to each other.
The radiating portion 3 also comprises four element feeds 5a to 5d. Each element feed 5a to 5d is capacitively coupled to a respective monopole 4a to 4d. Each element feed 5a to 5d is protruding from its respective monopole within the aperture area. An electric field is generated in the aperture area 8, forming a magnetic source. The combination of a magnetic source and of the electrical monopoles improves the 3dB HPBW stability. The radiating portion 3 further comprises powering means connected to the feeds 5a to 5d and for which further details are provided below.」(3頁28行?4頁13行)

訳文(ホ.)「図1および図2は、セルラー基地局アンテナ用二偏波放射エレメント1を示す。放射エレメント1は、放射エネルギーを反射するための反射器2を備える。この実施形態の反射器2は、反射器面を形成する平面部21を備える。
放射部3は、4つの放射電気モノポール4a?4dを備える。モノポール4a?4dは、開口領域(図3に円8で例示)周りに分配される。各モノポール4は、それぞれの壁部で形成される脚42およびフランジ41を備える。各モノポール4a?4dは、折り曲げられた金属薄板から形成されうる。各フランジ41a?41dは、平面部21の上に配置される。各フランジ41は、それぞれの脚42から外向きに半径方向に突き出ている。半径方向は、開口領域8の中心から始まるように定義される。二偏波を生成するために、隣接するモノポール4からの2つのフランジ41が、互いに直角を成して半径方向に延びる。
放射部3はまた、4つのエレメント・フィード5a?5dを備える。各エレメント・フィード5a?5dは、それぞれのモノポール4a?4dと、容量的に結合される。各エレメント・フィード5a?5dは、開口領域内で、そのそれぞれのモノポールから突き出ている。電場が開口領域8の中に生成され、磁気源を形成する。磁気源と電気モノポールとの組合せが、3dB HPBW安定性を改善する。放射部3は、フィード5a?5dに接続される給電手段をさらに備え、その給電手段について、以下に、より詳細な説明がなされる。」

ヘ.「Figures 6 and 7 illustrate two alternative shapes for the monopoles 4. In these embodiments, each flange 41 is fitted with at least one wing protruding therefrom in the upper direction and being tilted relative to this flange 41. The radiating portion 3 using such a monopole 4 provides an increased impedance bandwidth. This design helps to adapt the impedance bandwidth performance (VSWR) of the radiating element 1 to the far field pattern bandwidth
In the embodiment illustrated at figure 6, only one wing 44 is protruding from the flange 41. Both the flange 41 and the wing 44 have a rectangular shape with a through hole in their middle portion. The wing 44 is tilted relative to the surface of the flange 41.
In the embodiment illustrated at figure 7, two wings 44 and 45 are protruding from the flange 41. Wings 44 and 45 are tilted relative to the surface of the flange 41. The angle between both wings 44 and 45 and flange 41 are different. Both the flange 41 and the wings 44 and 45 have a rectangular shape with a through hole in their middle portion. Any other number of extending wings may be made on flange 41. The flange and the wings can be formed in a single metal piece by appropriate cuts and bendings.」(6頁27行?7頁9行)

訳文(ヘ.)「図6および図7は、モノポール4に対する2つの代替形状を示す。これらの実施形態において、各フランジ41は、フランジ41から上の方向に突き出し、このフランジ41に対して傾けられた、少なくとも1つの翼を取り付けられる。そのようなモノポール4を使用する放射部3は、増加されたインピーダンス帯域幅を提供する。この設計は、放射エレメント1のインピーダンス帯域幅性能(VSWR)を遠方場電磁界パターンの帯域幅に適合させることを助ける。
図6に示される実施形態において、1つの翼44だけが、フランジ41から突き出ている。フランジ41と翼44の両者は、それらの中間部分に貫通孔を有する、矩形の形状を有する。翼44は、フランジ41の表面に対して傾けられている。
図7に示される実施形態において、2つの翼44および45が、フランジ41から突き出ている。翼44および45は、フランジ41の表面に対して傾けられている。44および45の両翼と、フランジ41との間の角度は、異なる。フランジ41も、翼44および45も、それらの中間部分の中に貫通孔を有する、矩形形状を有する。任意の他の数の延出翼が、フランジ41の上に作製されてよい。フランジおよび翼は、適切な切断および曲げにより、単一の金属片の中に形成されうる。」

上記周知例1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ニ.における「本発明は、セルラー基地局アンテナ用二偏波放射エレメントに関する。」との記載、上記ヘ.における「図6および図7は、モノポール4に対する2つの代替形状を示す。これらの実施形態において、各フランジ41は、フランジ41から上の方向に突き出し、このフランジ41に対して傾けられた、少なくとも1つの翼を取り付けられる。そのようなモノポール4を使用する放射部3は、増加されたインピーダンス帯域幅を提供する。」との記載、図6及び7における、モノポール(4)の形状に着目すれば、アンテナ用放射エレメントは、放射部として、外側に矩形形状のフランジ(41)と、その矩形形状のフランジ(41)から上の方向に突き出し、内側に矩形形状のフランジ(41)に対して傾けられた矩形形状の翼(44,45)を備えていることが見て取れる。ここで、上記ヘ.における「そのようなモノポール4を使用する放射部3は、増加されたインピーダンス帯域幅を提供する。」との記載によれば、前述のアンテナ用放射エレメントの放射部は、インピーダンス帯域幅を増加させるために矩形形状の翼(44,45)を設けており、インピーダンス帯域幅を増加させることは、広い帯域幅に亘って反射損失を低下させること、すなわち、広帯域にするためであることは明らかである。

C 当審で新たに引用する本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-217302号公報(平成18年8月17日公開、以下、「周知例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ト.「【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯城性を有するプリント化ダイポールアンテナに関し、特に、移動通信システムの基地局用アンテナとして好適なプリント化ダイポールアンテナに関するものである。」(2頁)

チ.「【0019】
図8は、本発明の他の実施形態に係るダイポールアンテナの分解斜視図を示している。このダイポールアンテナは、図2に示したダイポール5に代えて複合形のダイポール50を形成した点を除き、この図2に示すダイポールアンテナと同等な構成を有する。したがって、図8では、図2に示す要素と共通する要素に同一の参照番号を付してある。
ダイポール50は、素子51a、51bの対からなるダイポール51、素子52a、52bの対からなるダイポール52、素子53a、53bの対からなるダイポール53、および、素子54a、54bの対からなるダイポール54を同軸状に形成した構成を有する。
【0020】
すなわち、ダイポール素子52を構成する素子52a、52bは、それぞれダイポール素子51を構成する素子51a、51bの内側に設けられた切り込みによりその輪郭が形成されている。同様に、第3のダイポール素子53を構成する素子53a、53bは、それぞれ上記素子52a、52bの内側に設けられた切り込みによりその輪郭が形成され、更に、第4のダイポール素子54を構成する素子54a、54bは、それぞれ上記素子53a、53bの内側に設けられた切り込みによりその輪郭が形成されている。
【0021】
上記素子51a、51b、52a、52b、53a、53b、54aおよび54bは、中央給電点Pから遠ざかるにつれて幅が徐々に大きくなるような輪郭、例えば、等脚台形状の輪郭、もしくは2個の等脚台形を組み合わせた六角形状の輪郭を有している。しかし、上記各素子をそれぞれ長方形状の輪郭を有するように形成することも可能である。
【0022】
各ダイポール51,52,53および54は、それぞれ異なる周波数f1,f2,f3,およびf4(f1<f2<f3<f4)に共振するようにその長さが設定されている。
すなわち、ダイポール51の長さは、周波数f1(例えば、0.8GHz)の波長λ1の約1/2に、ダイポール52の長さは、周波数f2(例えば1.5GHz)の波長λ2の約1/2に、ダイポール53の長さは、周波数f3(例えば、1.7GHz)の波長λ3の約1/2に、また、ダイポール54の長さは、周波数f4(例えば、2GHz)の波長λ1の約1/2にそれぞれ設定されている。
【0023】
図8の誘電体基板10、20を重ね合わせ接合することによって構成されるこの実施形態に係るダイポールアンテナ(図1のアンテナと同じ外観形状をもつ)は、第1のダイポール51?第4のダイポール54がそれぞれ第1?第4の周波数に共振するので、コンパクトな構成を有するにもかかわらず、きわめて広い帯域に適用することができる。
しかも、図1および図2に示したアンテナと同様に、バラン11aを備える給電線路11と、バラン17aを備える給電線路17とを有しているので、例えば、上記第1の給電線路が周波数f3と周波数f4の中間の周波数に共振するようにバラン11aの長さを調整し、上記第2の給電線路が周波数f1と周波数f2の中間の周波数に共振するようにバラン17aの長さを調整することにより、広帯域性が更に向上する。
なお、上記ダイポール50は、4つのダイポール51,52,53および54を複合した構成を有するが、この複合数は2以上の任意の数nに設定することができる。」(5?6頁)

上記周知例2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記チ.の【0020】における「ダイポール素子52を構成する素子52a、52bは、それぞれダイポール素子51を構成する素子51a、51bの内側に設けられた切り込みによりその輪郭が形成されている。同様に、第3のダイポール素子53を構成する素子53a、53bは、それぞれ上記素子52a、52bの内側に設けられた切り込みによりその輪郭が形成され、更に、第4のダイポール素子54を構成する素子54a、54bは、それぞれ上記素子53a、53bの内側に設けられた切り込みによりその輪郭が形成されている。」との記載、同チ.の【0023】における「ダイポールアンテナ・・・は、第1のダイポール51?第4のダイポール54がそれぞれ第1?第4の周波数に共振するので、コンパクトな構成を有するにもかかわらず、きわめて広い帯域に適用することができる。」との記載、及び図8によれば、ダイポールアンテナは、広帯域にするために、ダイポール素子(52)を構成する素子(52a、52b)を、それぞれダイポール素子(51)を構成する素子(51a、51b)の内側に設けられた切り込みによりその輪郭を形成し、同様に、第3のダイポール素子(53)を構成する素子(53a、53b)を、それぞれ上記素子(52a、52b)の内側に設けられた切り込みによりその輪郭を形成している。

したがって、上記周知例1及び周知例2より、「アンテナ用放射エレメントの放射パターンにおいて、広帯域にするために、放射体の複数の放射パターン部を、放射パターンが外側及び内側になるように形成すること。」は、周知技術と認められる。

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「正方形の放射パターン」、「4つの正方形の放射パターン部」、「アンテナ素子装置(11)」及び「給電及びバランシング(15e)構造」は、本願発明の「放射パターン」、「複数の放射パターン部」、「放射体」及び「給電及びバルーン構造」にそれぞれ相当する。
b.引用発明の「ダイポールアンテナ」と、本願発明の「広帯域ダイポールアンテナ」とは、後述する相違点を除いて、「ダイポールアンテナ」という点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「無線信号を送受信するための共振器の放射パターンが一面に形成される複数の放射パターン部を有する放射体と、
前記放射体を支持して給電するための給電及びバルーン構造と、を含む、
ダイポールアンテナ。」

<相違点1-1>
「前記放射体の複数の放射パターン部」の形状に関し、
本願発明は、「前記放射体の複数の放射パターン部は、放射パターンが外側及び内側に少なくとも二重に形成され」るものであるのに対し、引用発明は、その様な形状を備えない点。

<相違点1-2>
「前記放射体の複数の放射パターン部」の機能に関し、
本願発明は、「ここで、前記外側に形成される放射パターンは、該当広帯域のうち予め設定された低い周波数帯域の共振を発生させ、前記内側に形成される放射パターンは、該当広域帯のうち予め設定された高い周波数帯域の共振を発生させるように形成され、前記低い周波数帯域の共振と前記高い周波数帯域の共振の組み合わせによって全体的に一つの広帯域の周波数特性が発生するように構成される」のに対し、引用発明は、その様な機能を備えない点。

<相違点2>
「ダイポールアンテナ」に関し、
本願発明は、「広帯域」ダイポールアンテナであるのに対し、引用発明は、ダイポールアンテナであるものの、当該「広帯域」との特定がない点。

第4 判断
そこで、まず、上記相違点1-1及び1-2について検討する。
上記「第2 引用発明及び周知技術」の項のとおり、「アンテナ用放射エレメントの放射パターンにおいて、広帯域にするために、放射体の複数の放射パターン部を、放射パターンが外側及び内側になるように形成すること。」は、周知技術である。そして、アンテナにおいて広帯域にする課題は普通のことである。
そうすると、上記周知技術に接した当業者であれば、引用発明の「正方形の放射パターン」において、広帯域にするために「放射体の複数の放射パターン部を、放射パターンが外側及び内側に形成すること」に格別な困難性はない。その際、アンテナの放射パターンとして、同一平面内で放射パターンを外側及び内側に何重かに形成することは、例えば、上記周知例2の図8にも示されているように、帯域幅等を考慮して適宜選択決定すべき設計的事項である。したがって、放射パターンを外側及び内側に「少なくとも二重に形成すること」は当業者であれば適宜なし得たものである。
さらに、放射パターンの機能に着目すれば、外側に形成されるパターンは、電流経路長が長くなり、一方、内側に形成されるパターンは、電流経路長が短くなるから、それぞれ低い周波数帯域及び高い周波数帯域で共振することは技術常識である。加えて、この放射パターンは、広帯域にすることを目的とするものであるから、本願発明のように「前記外側に形成される放射パターンは、該当広帯域のうち予め設定された低い周波数帯域の共振を発生させ、前記内側に形成される放射パターンは、該当広域帯のうち予め設定された高い周波数帯域の共振を発生させるように形成され、前記低い周波数帯域の共振と前記高い周波数帯域の共振の組み合わせによって全体的に一つの広帯域の周波数特性が発生するように構成される」ことは自然なことである。

次に、上記相違点2について検討する。
上記相違点1-1及び1-2についての検討を踏まえると、引用発明のダイポールアンテナを、「広帯域」の機能を備える「広帯域ダイポールアンテナ」とすることは容易になし得ることである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-07 
結審通知日 2015-01-13 
審決日 2015-01-27 
出願番号 特願2012-526670(P2012-526670)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤穂 美香  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 高野 美帆子
萩原 義則
発明の名称 広帯域ダイポールアンテナ  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  

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