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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1302020
審判番号 不服2014-6508  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-08 
確定日 2015-06-08 
事件の表示 特願2013-184004「回路モジュール及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年9月5日(優先権主張 平成25年9月3日)の出願であって、平成25年9月25日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年11月5日付けで手続補正がなされたが、平成26年1月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月8日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされた。
その後、当審がした平成27年1月14日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年3月20日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成27年3月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
第1の領域と第2の領域と第3の領域とを含み、前記第1、第2及び第3の領域の境界に沿って形成された導体パターンを有する実装面を有する配線基板と、
前記第1、第2及び第3の領域にそれぞれ実装された複数の電子部品と、
前記複数の電子部品を被覆する絶縁性の封止層であって、主面と、前記主面の周囲に形成された側面と、前記主面へのレーザ照射によって前記第1、第2及び第3の領域の境界に沿って連続的にかつ途中で分岐するように形成され前記主面と前記導体パターンの表面との間の距離に相当する最大深さを有し前記実装面に向かって先細りとなるテーパ形状の溝部と、を有する封止層と、
前記封止層の前記側面を第1の厚みで被覆する第1のシールド部と、前記溝部に設けられた第2のシールド部とを有し、前記第2のシールド部は、前記第2のシールド部の全高の1/2の高さにおいて前記第1の厚みよりも大きい第2の厚みを有する、導電性樹脂で構成された導電性シールドと
を具備する回路モジュール。」

3.引用例
(3-1)引用例1
これに対して、当審の拒絶の理由に引用した特開2010-225620号公報(以下、「引用例1」という。)には、「回路モジュール」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【請求項1】
第1面と、前記第1面と反対の第2面を有する回路基板と、
前記第1面上に搭載された二つ以上の電子部品と、
前記第1面および前記電子部品を封止するモールド樹脂層と、
前記モールド樹脂層上に導電性樹脂で形成された導電性樹脂層と、
を備える回路モジュールであって、
前記モールド樹脂層を貫通して前記第1面に達するスリットが、二つの電子部品の間に形成され、当該スリット内に前記導電性樹脂が充填されている回路モジュール。」

(2)「【0016】
また、本発明の一態様として、上記回路モジュールであって、内部スリットは、前記回路基板の前記電子部品を実装する面に設けたグランド線を貫通して形成されている、ものである。
【0017】
これにより、静電気が発生しても、グランド線から他の外部へ静電気を逃がすことができ、静電磁シールド効果を確実なものとすることができる。」

(3)「【0022】
(第1の実施形態)
図1は、本発明を適用した回路モジュール10を示し、携帯電話機等の電子機器の内部に設けられる。本発明の第1の実施形態に係る回路モジュール10は、厚さが薄い直方体形状を有するものであって、回路基板11と、モールド樹脂層12と、導電性樹脂層(シールド層)13と、グランド線14と、信号線15と、複数(本実施形態では二つ)の電子部品16とを備えている。
【0023】
回路基板11は、例えばガラス、セラミックス、エポキシ樹脂などの適宜の絶縁性の材料で略薄板形状(表裏面が矩形)に形成されている。本実施形態の回路基板11は、図1に示すように左右2つに分かれたブロック(第1ブロックB1と第2ブロックB2)で構成されている。回路基板11の表面には、それぞれブロックB1、B2ごとに、後述する電子部品16が少なくとも1個ずつ搭載されている。また回路基板11の表面には、グランド線14とともにパターン配線の一部を構成する、電子部品16を実装させるためのパッド(信号線の一部を構成する)PがブロックB1、B2ごとに形成されている。
【0024】
モールド樹脂層12は、回路基板11および電子部品16を樹脂封止するものであり、特に回路基板11の上面(以下、「表面」とよぶ)に実装された各電子部品16を、適宜の樹脂材料で覆って埋設させた状態で固めてある。モールド樹脂層12を設けた回路基板11は、従来の場合と同様、ある程度の強さの外力が機械的に作用しても電子部品16が損傷するのを防止できるとともに、水分や埃などの付着を回避させることで安定した動作を発揮できる。
【0025】
導電性樹脂層13は、適宜の樹脂材料などからなる導電性樹脂を用いてモールド樹脂層12の上に形成されている。この導電性樹脂層13により、外部からの電磁波及び隣接する電子部品16からの静電気などをシールドして内部の電子部品16を保護するとともに、内部の電子部品16から発生する静電気などが隣接する電子部品16へ伝搬するのをシールドする。
【0026】
本実施形態の導電性樹脂層13には、二つの電子部品16A,16Bの間と回路基板11の外縁部とにおいてスリットSが形成されている。スリットSは、モールド樹脂層12及びグランド線14を貫通し、回路基板11の表面に達する、即ち内部に達する深さまで形成され、内部に導電性樹脂が充填されている。本実施形態では、スリットSがグランド線14を完全に貫通しているが、グランド線14を完全に貫通することは本発明の必須要件ではない。導電性樹脂と回路基板の表面に形成されたグランド線14との接合を達成することが本発明の最低要件のため、スリットSがグランド線14を貫通すること、さらにはスリットSが回路基板11の内部にまで達することは、本発明にとって必須ではない。
【0027】
即ち、スリットSは、回路モジュール10の平面視内部に形成されている内部スリットS1と、回路モジュールの外縁に形成された外縁スリットS2とを有する。内部スリットS1は、外部からの電磁波をシールドして内部の電子部品16を保護するのと同時に、隣接する電子部品16に対して静電シールドを行い、互いに隣接する相手側の電子部品16を静電気的に保護する。外縁スリットS2は、外部からの電磁波をシールドして内部の電子部品16を保護する。なお、外縁スリットS2については、搭載する電子部品の種類によっては、特に電磁波の影響が無視できる程度に小さいものも存在するので、この種の電子部品に対しては設置しなくてもよい。
【0028】
グランド線14は、回路基板11の表面(第1面)及び、この表面と反対の面の裏面(第2面)に形成されており、かつ、表面及び裏面のグランド線どうしがスルーホールTを介して電気的に接続されている。なお、表面のグランド線14は、電子部品16を実装させるためのパッドPを含めた状態でパターン配線を構成する。
【0029】
信号線15は、図1(B)に示すように、二つの電子部品16どうしを接続させる第1の信号線15Aと、二つの電子部品16どうしを接続させない第2の信号線15Bとで構成されている。また、第1の信号線15Aと二つの電子部品16は、ビアホールVを介して互いに電気的に接続されている。また、第1の信号線と第2の信号線それぞれは、回路基板11の表面又は裏面と略平行に配置されている。
【0030】
電子部品16は、回路基板11の表面において、第1、第2ブロックB1、B2ごとに実装されており、本実施形態の場合にはいずれも電磁シールドや静電シールドを行うことが好ましい半導体チップ部品が用いられている。なお、この半導体チップを用いた電子部品16については、回路基板11の表面に設けてあるパッドPに対して、例えば半田Hなどによる溶着(または金線(Au)を用いたワイヤボンディングなど)によって接続されている。」

(4)「【0033】
次に、本実施形態の回路モジュール10の製造方法について図2を参照しながら説明する。なお、本実施形態の回路モジュール10の製造では、回路基板11として、内層部分に信号線15が形成されているとともに、回路基板11の表裏両面にグランド線14及びパッドPを含むパターン配線が形成されているものを用いる。
【0034】
(1)初めに、図2(A)に示すように、上記の回路基板11に対して、第1、第2ブロックB1、B2の各パッドPに、電子部品16をそれぞれ搭載させて電気的接続を図る(実装工程)。
(2)その後、同図(B)に示すように、回路基板11の表面全体に、電子部品16ごと覆うような状態で適宜の樹脂材料により構成されたモールド樹脂層12を形成し、一体に積層させて固める(モールド層形成工程)。
(3)次に、同図(C)に示すように、第1、第2ブロックB1、B2の境界部分に、例えばブレードと呼ばれる砥石などによって所定の深さまでダイシングを行い、内部スリットS1を形成する(スリット形成工程)。また、回路基板11の外縁部、特に本実施形態では全外縁部、つまり矩形の回路基板11の4つの外辺全てにわたって内部スリットS1と同程度の深さまでダイシングを行い、溝である外縁スリットS2を形成する。なお、このダイシングによる内部スリットS1は、深さに多少のぶれがあってもよいが、モールド樹脂層12及びグランド線14Aを貫通させることができる深さであるとともに、第1の信号線15Aに到達しない程度の深さである。
(4)最後に、内部スリットS1及び外縁スリットS2である溝に充填させるような状態で、回路基板11のモールド樹脂層12の上から、導電性樹脂層13を形成するための導電性樹脂を表面が平坦な面状態となるまで塗布する。また、回路基板11の全ての外縁部にも導電性樹脂を塗布し、回路基板11の表面に対して直角となる垂直平面を形成する。その後、紫外線照射などの適宜の工程により、導電性樹脂を硬化させ、導電性樹脂層13を形成する(導電性樹脂層形成工程)。
【0035】
上記より、回路モジュール10製造のための一連の作業工程が終了する。
【0036】
従って、本実施形態によれば、第1、第2ブロックB1、B2の境界部分に内部スリットS1を形成しているので、各ブロックの電子部品16に対して個別にシールドを行うことができる。また、シールド手段として金属板に比べて薄い導電性樹脂層13を形成しており、シールド手段に従来のような金属製の枠やキャップを被せることが必要なくなるので、基板の薄型化、延いては回路モジュール10薄型化にも対応可能となる。
【0037】
なお、本実施形態では、回路モジュール10として2ブロックに分割された回路基板11を用いたが、例えば図3に示すようなB1?B4の4ブロック(3ブロック又は5ブロック以上に分割されてあってもよい)に分割された回路基板を11A用いてもよい。
【0038】
即ち、各ブロックB1?B4は、それぞれ、回路モジュール10の外縁に形成された二本の外縁スリットS2と回路モジュール10Aの平面視内部に形成された二本の内部スリットS1とを有するように構成されている。つまり、各ブロックB1?B4は、導電性樹脂が充填された二本の外縁スリットS2と二本の内部スリットS2とにより、導電性樹脂層13に全て周囲を取り囲まれた閉空間で構成されている。当該閉空間内ではシールド性が向上するため、特に外部の電磁波から影響を受けやすい電子部品を使用する場合、有用である。」

・上記引用例1に記載の「回路モジュール」は、上記(1)、(3)の段落【0022】の記載事項、及び図1によれば、第1面と、前記第1面と反対の第2面を有する回路基板11と、前記第1面上に搭載された二つ以上の電子部品16と、前記第1面および前記電子部品16を封止するモールド樹脂層12と、前記モールド樹脂層12上に導電性樹脂で形成された導電性樹脂層13と、を備え、前記モールド樹脂層12を貫通して前記第1面に達するスリットSが、二つの電子部品16の間に形成され、当該スリットS内に前記導電性樹脂が充填されている回路モジュール10に関するものである。
・上記(3)の段落【0023】や【0030】、(4)の段落【0037】?【0038】の記載事項、及び図1、図3によれば、回路基板11は、2ブロックさらには3ブロック以上の複数に分かれたブロックB1、B2・・で構成され、各ブロックごとに少なくとも1個の電子部品16が実装されてなるものである。
・上記(2)、(3)の段落【0023】や【0028】、(4)の段落【0033】の記載事項、及び図1(B)によれば、回路基板11の第1面(電子部品を実装する面)にはグランド線14を含むパターン配線が形成されている。
・上記(2)、(3)の段落【0026】?【0027】、(4)の記載事項、及び図1?図3によれば、スリットSは、二つの電子部品の間、具体的には回路モジュール10の平面視内部であってブロックとブロックの境界部分に沿って形成された内部スリットS1に加えて、回路モジュール10の外縁に形成された外縁スリットS2を有し、ダイシングにより形成されるものである。
特に、上記(2)、(3)の段落【0026】の記載事項によれば、内部スリットS1は、少なくとも回路基板11の第1面(電子部品を実装する面)に形成されたグランド線14まで達するように形成されるものであると理解できる。
・上記(3)、(4)の記載事項によれば、各ブロックB1、B2・・は、導電性樹脂層13に全て周囲を取り囲まれた閉空間で構成され、当該導電性樹脂層13は、シールド手段(シールド層)として機能するものであり、そのうちの内部スリットS1に導電性樹脂が充填されてなる部分は、外部からの電磁波をシールドして内部の電子部品16を保護するのと同時に、隣接する電子部品16に対して静電シールドを行い、互いに隣接する相手側の電子部品16を静電気的に保護し、外縁スリットS2に導電性樹脂が充填されてなる部分は、外部からの電磁波をシールドして内部の電子部品16を保護するものである。

したがって、特に回路基板11が3ブロック以上(例えば図3に示される、2行・2列配置の4ブロック)で構成される場合に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「実装面である第1面を有し、2行・2列配置の4ブロックに分かれた複数のブロックで構成され、前記第1面にグランド線を含むパターン配線が形成された回路基板と、
前記第1面上であって、前記各ブロックごとに少なくとも1個搭載された複数の電子部品と、
前記第1面および前記電子部品を封止するモールド樹脂層と、
前記モールド樹脂層上に導電性樹脂で形成され、シールド手段として機能する導電性樹脂層と、を備える回路モジュールにおいて、
前記モールド樹脂層を貫通して前記第1面に達するスリットがダイシングにより形成され、当該スリット内に前記導電性樹脂が充填されてなり、
前記スリットは、当該回路モジュールの平面視内部であって前記ブロックと前記ブロックの境界部分に沿って形成された内部スリットと、当該回路モジュールの外縁に形成された外縁スリットとを有し、
前記内部スリットは、少なくとも前記回路基板の前記第1面に形成された前記グランド線まで達するように形成され、
前記各ブロックは、シールド手段として機能する前記導電性樹脂層に全て周囲を取り囲まれた閉空間で構成され、そのうちの前記内部スリットに前記導電性樹脂が充填されてなる部分は、外部からの電磁波をシールドして内部の前記電子部品を保護するのと同時に、隣接する前記電子部品に対して静電シールドを行い、互いに隣接する相手側の前記電子部品を静電気的に保護し、前記外縁スリットに前記導電性樹脂が充填されてなる部分は、外部からの電磁波をシールドして内部の前記電子部品を保護するものである回路モジュール。」

(3-2)引用例2
同じく当審の拒絶の理由に引用した特開2012-19091号公報(以下、「引用例2」という。)には、「モジュール」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【請求項1】
回路基板と、
当該回路基板上に実装された電子部品と、
当該電子部品を絶縁樹脂封止するモールド樹脂と、
当該モールド樹脂の外側を覆うシールド導体膜と、
前記モールド樹脂内に設けられて前記モールド樹脂を複数の領域に分割するシールド導体壁と、
を備えたモジュール。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項4】
前記シールド導体壁は、前記モールド樹脂を仕切るように前記モールド樹脂に形成された溝に導体ペーストまたは導体塗料を充填してなる請求項1記載のモジュール。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項6】
前記シールド導体壁は、前記モールド樹脂に形成する前記溝を前記回路基板上のグランドパッドまで達するよう形成することでグランドに導通されている請求項4記載のモジュール。」

(2)「【0029】
図3は第2の実施の形態に係るモジュールの構成を示す図であって、(A)はモジュールの断面を示す模式図、(B)はモジュールの平面を示す模式図である。なお、この図3において、図1に示した構成要素と同じまたは均等の構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0030】
この第2の実施の形態に係るモジュールは、図2の(B)に示した、モールド側面のシールド塗装と同じ手法を使用してシールド導体壁を形成している。すなわち、モールド樹脂20の所定位置に、ダイシングソーで回路基板10上のグランドパッド17まで達するようにしてハーフカット溝を形成し、そのハーフカット溝に導体ペーストまたは導体塗料を充填してシールド導体壁22を形成する。このシールド導体壁22は、その上に形成されるシールド導体膜21と導通される。ハーフカット溝への導体ペーストまたは導体塗料の充填は、モールド樹脂20の天面にシールド導体膜21を被覆する工程と同じ工程で実施し、シールド導体壁22をシールド導体膜21と一体に形成することができる。」

・上記引用例2に記載の「モジュール」は、上記(1)の【請求項1】の記載事項、及び図3によれば、回路基板10と、当該回路基板10上に実装された電子部品11?15と、当該電子部品11?15を絶縁樹脂封止するモールド樹脂20と、当該モールド樹脂20の外側を覆うシールド導体膜21と、前記モールド樹脂20内に設けられて前記モールド樹脂20を複数の領域に分割するシールド導体壁22とを備えたモジュールに関するものである。
・上記(1)の【請求項4】と【請求項6】、(2)の記載事項、及び図3によれば、シールド導体壁22は、モールド樹脂20を仕切るように回路基板10上のグランドパッド17まで達するように形成されたハーフカット溝に導体ペーストまたは導体塗料を充填してなるものである。

したがって、特に図3に示される第2の実施の形態に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「回路基板と、当該回路基板上に実装された複数の電子部品と、当該電子部品を絶縁樹脂封止するモールド樹脂と、当該モールド樹脂の外側を覆うシールド導体膜と、前記モールド樹脂を仕切るように形成されたハーフカット溝に導体ペーストまたは導体塗料を充填してなるシールド導体壁とを備えたモジュールにおいて、
前記ハーフカット溝を、前記回路基板上のグランドパッドまで達するように形成すること。」

(3-3)引用例3
同じく当審の拒絶の理由に引用した特開2000-243729号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【0020】次に、図3に示す工程(M)において、各半導体素子の境界線に沿ってV字状の溝18を形成する。目的の溝形状に合わせた刃先を有するダイシングソー30を制御して、所定深さの溝18を得る。上記溝18は、次の工程で供給されるパッケージ樹脂がここに流れ込んで、後に切り出される個々の半導体装置の外周の一部が、溝18内の樹脂で囲まれるようにするための工夫である。上記溝の形状(U字状、方形状など)、深さ、溝の幅、開き角度等を決定する際には、上記目的、溝の形成が容易であるか否か、パッケージ樹脂の流れ込みが確実に行われるか否か等を考慮すべきである。一つの実施例で、この溝18を、開き角度30度、深さ180μmのV字状のものとした。形成される溝の共通する他の条件は、少なくとも上記溝の上部の幅が、後の工程で実施されるウェハのダイシングに用いられるダイシングソーの刃幅よりも広いものでなければならない。そうでなければ、ウェハのダイシング後に溝、延いては溝内の樹脂が、切り出された半導体装置の周囲に残らないからである。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例3には、次の技術事項が記載されている。
「樹脂が充填される溝を形成するに際し、溝への樹脂の流れ込みが確実に行われるように、溝をV字状(つまり、先細りとなるテーパ状)としてその溝の幅や開き角度等を決定すること。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「ブロック」、「グランド線を含むパターン配線」、「実装面である第1面」、「回路基板」は、それぞれ本願発明における「領域」、「導体パターン」、「実装面」、「配線基板」に相当し、
引用発明における「実装面である第1面を有し、2行・2列配置の4ブロックに分かれた複数のブロックで構成され、前記第1面にグランド線を含むパターン配線が形成された回路基板と」によれば、
引用発明の「回路基板」は、4ブロックに分かれた複数のブロックで構成されていることから、少なくとも本願発明でいう「第1の領域」と「第2の領域」と「第3の領域」とを含みものであるといえ、
本願発明と引用発明とは、後述の相違点を除いて「第1の領域と第2の領域と第3の領域とを含み、導体パターンを有する実装面を有する配線基板と」を具備する点で共通する。

(2)引用発明における「電子部品」は、本願発明における「電子部品」に相当し、
引用発明における「前記第1面上であって、前記各ブロックごとに少なくとも1個搭載された複数の電子部品と」によれば、
引用発明の「電子部品」は、各ブロックごとに少なくとも1個搭載(実装)されるものであることから、
本願発明と引用発明とは、「前記第1、第2及び第3の領域にそれぞれ実装された複数の電子部品と」を具備する点で一致する。

(3)引用発明における「モールド樹脂層」、「内部スリット」は、それぞれ本願発明における「封止層」、「溝部」に相当し、
引用発明における「前記第1面および前記電子部品を封止するモールド樹脂層と、・・・・前記モールド樹脂層を貫通して前記第1面に達するスリットがダイシングにより形成され、当該スリット内に前記導電性樹脂が充填されてなり、前記スリットは、当該回路モジュールの平面視内部であって前記ブロックと前記ブロックの境界部分に沿って形成された内部スリットと、当該回路モジュールの外縁に形成された外縁スリットとを有し、前記内部スリットは、少なくとも前記回路基板の前記第1面に形成された前記グランド線まで達するように形成され」によれば、
(a)引用発明の「モールド樹脂層」は、電子部品を封止するためのものであり、絶縁性であることや、主面と当該主面の周囲に形成された側面を有すること(引用例1の図1、図2も参照)は自明といえることである。
(b)また、引用発明における、モールド樹脂層に形成されるスリットのうちの「内部スリット」は、ブロックとブロックの境界部分に沿って形成されるものであり、当然、連続的に形成され、また、ブロックが2行・2列配置の4ブロックであることから、途中で分岐するように形成(つまり、十字に形成)されるものであるといえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、後述の相違点を除いて「前記複数の電子部品を被覆する絶縁性の封止層であって、主面と、前記主面の周囲に形成された側面と、前記第1、第2及び第3の領域の境界に沿って連続的にかつ途中で分岐するように形成された溝部と、を有する封止層と」を具備する点で共通するということができる。

(4)引用発明における「導電性樹脂」、「シールド手段として機能する導電性樹脂層」は、それぞれ本願発明における「導電性樹脂」、「導電性シールド」に相当し、
引用発明の「シールド手段として機能する導電性樹脂層」のうちの「前記内部スリットに前記導電性樹脂が充填されてなる部分」、「前記外縁スリットに前記導電性樹脂が充填されてなる部分」は、それぞれ本願発明における「第2シールド部」、「第1シールド部」に相当するといえ、
引用発明における「前記モールド樹脂層上に導電性樹脂で形成され、シールド手段として機能する導電性樹脂層と、を備える回路モジュールにおいて、前記モールド樹脂層を貫通して前記第1面に達するスリットがダイシングにより形成され、当該スリット内に前記導電性樹脂が充填されてなり、・・・・前記各ブロックは、シールド手段として機能する前記導電性樹脂層に全て周囲を取り囲まれた閉空間で構成され、そのうちの前記内部スリットに前記導電性樹脂が充填されてなる部分は、外部からの電磁波をシールドして内部の前記電子部品を保護するのと同時に、隣接する前記電子部品に対して静電シールドを行い、互いに隣接する相手側の前記電子部品を静電気的に保護し、前記外縁スリットに前記導電性樹脂が充填されてなる部分は、外部からの電磁波をシールドして内部の前記電子部品を保護するものである・・」によれば、
引用発明における「前記内部スリットに前記導電性樹脂が充填されてなる部分」と「前記外縁スリットに前記導電性樹脂が充填されてなる部分」は、当然、それぞれ所定の厚みを有するから、
本願発明と引用発明とは、後述の相違点を除いて「前記封止層の前記側面を第1の厚みで被覆する第1のシールド部と、前記溝部に設けられた第2のシールド部とを有する、導電性樹脂で構成された導電性シールドと」を具備する点で共通するといえる。

(5)そして、引用発明における「回路モジュール」は、本願発明における「回路モジュール」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「第1の領域と第2の領域と第3の領域とを含み、導体パターンを有する実装面を有する配線基板と、
前記第1、第2及び第3の領域にそれぞれ実装された複数の電子部品と、
前記複数の電子部品を被覆する絶縁性の封止層であって、主面と、前記主面の周囲に形成された側面と、前記第1、第2及び第3の領域の境界に沿って連続的にかつ途中で分岐するように形成された溝部と、を有する封止層と、
前記封止層の前記側面を第1の厚みで被覆する第1のシールド部と、前記溝部に設けられた第2のシールド部とを有する、導電性樹脂で構成された導電性シールドと
を具備する回路モジュール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明では、導体パターンが「前記第1、第2及び第3の領域の境界に沿って形成」され、溝部が「前記主面と前記導体パターンの表面との間の距離に相当する最大深さを有」する旨特定するのに対し、引用発明では、そのような明確な特定を有していない点。

[相違点2]
本願発明では、溝部が「前記主面へのレーザ照射によって」形成され、「実装面に向かって先細りとなるテーパ形状」であり、その溝部に設けられた第2のシールド部が「前記第2のシールド部の全高の1/2の高さにおいて前記第1の厚みよりも大きい第2の厚みを有する」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用例1の段落【0026】(上記「3.(3-1)(3)」を参照)には、「本実施形態では、スリットSがグランド線14を完全に貫通しているが、グランド線14を完全に貫通することは本発明の必須要件ではない。導電性樹脂と回路基板の表面に形成されたグランド線14との接合を達成することが本発明の最低要件のため、スリットSがグランド線14を貫通すること、さらにはスリットSが回路基板11の内部にまで達することは、本発明にとって必須ではない。」とも記載されているところ、例えば引用例2(上記「3.(3-2)」を参照)にも、回路基板と、当該回路基板上に実装された複数の電子部品と、当該電子部品を絶縁樹脂封止するモールド樹脂と、当該モールド樹脂の外側を覆うシールド導体膜と、前記モールド樹脂を仕切るように形成されたハーフカット溝に導体ペーストまたは導体塗料を充填してなるシールド導体壁とを備えたモジュールにおいて、前記ハーフカット溝を、前記回路基板上のグランドパッドまで達するように形成するようにした技術事項、つまりとハーフカット溝(引用発明における「内部スリット」)を回路基板表面に形成されたグランドパッド(引用発明における「グランド線」)に達するまでとしてこれを貫通しないように構成し、ハーフカット溝がモールド樹脂の主面とグランドパッドの表面との間の距離に相当する最大深さを有するものとする技術事項が記載されており、引用発明においても同様に、内部スリットがモールド樹脂層の主面とグランド線の表面との間の距離に相当する最大深さを有するものとすることは当業者が適宜なし得ることである。
また、引用発明において、内部スリットに充填された導電性樹脂とグランド線との接合(電気的接続)が確実に行われるように、グランド線についても内部スリットと同様、ブロックとブロックとの境界部分に沿って形成するようにすることも当業者であれば適宜なし得ることである。

[相違点2]について
例えば引用例3(上記「3.(3-3)」を参照)には、樹脂が充填される溝を形成するに際し、溝への樹脂の流れ込みが確実に行われるように、溝をV字状(つまり、先細りとなるテーパ状)としてその溝の幅や開き角度等を決定することが記載(特に段落【0020】を参照)されており、引用発明においても、かかる技術事項を採用し、内部スリットを先細りとなるテーパ状とすることは当業者であれば容易になし得ることである。
そしてその際、例えば上記引用例2(特に段落【0034】、図4を参照)や、当審の拒絶の理由に引用した特開2008-130915号公報(特に段落【0019】、【0032】、図1?図3を参照)に記載のように、のちにシールドとして機能する導電性ペーストが充填される連続した溝や孔の形成に、レーザ照射による加工を用いることは周知の技術事項であり(なお、上記特開2008-130915号公報の図面によれば、レーザ照射により形成された連続した溝や孔は先細りとなるテーパ状になっていると見てとれる)、引用発明においても、内部スリット等のハーフカットの形成にレーザ照射による加工を用いるようにすることや、
引用例1の図1や図2からも明らかなように、また、段落【0034】(上記「3.(3-1)(4)」を参照)に記載のように、「内部スリット」と「外縁スリット」は、ともにハーフカットにより形成され、「外縁スリット」についてはその後にスリットの中心を境にフルカットされるためその幅はハーフカット時の略半分となるものであることからして、「内部スリット」の幅(本願発明でいう「第2のシールド部」の厚みに対応)は、「外縁スリット」の幅(本願発明でいう「第1のシールド部」の厚みに対応)よりも約2倍ほど大きいといえるものであるところ、引用発明においても、例えば、内部スリットの全高の1/2の高さにおいて、その幅を外縁スリットの幅の幅よりも大きいものとすること、は当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

なお、本願発明において、溝部に設けられた第2のシールド部が「第2のシールド部の全高の1/2の高さにおいて(封止層の側面を被覆する第1のシールド部の)第1の厚みよりも大きい第2の厚みを有する」とし、第2のシールド部の厚みの範囲について特定しているが、そもそも、溝部のテーパ形状の角度については何ら特定(限定)がなく、溝部の幅(第2のシールド部の第2の厚みに対応)が限りなく一定に近いものであってもよいといえることや、第2のシールド部の第2の厚みの範囲を第1のシールド部の第1の厚みを基準に定めているものの、例えば第1のシールド部の第1の厚みが十分厚い場合にあっては、たとえ第2のシールド部の全高の1/2の高さにおいてその厚みが第1の厚みと等しいか、わずかに小さい場合であっても電子部品間の電磁的な干渉の防止も十分に達成し得るはずであることなどを考慮すると、上記のように第2のシールド部の厚みの範囲について特定したことに格別の技術的意義(臨界的意義)は見出せない。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願発明が奏する効果は、引用発明、引用例2,3に記載の技術事項及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

<<予備的見解>>
仮に本願発明における、配線基板についての「第1の領域と第2の領域と第3の領域とを含み」なる記載、及び溝部についての「連続的にかつ途中で分岐するように」なる記載に関して、配線基板が第1?第3の3つの領域のみを有し、溝部がT字に形成されることを意味していると解釈できるとしたとしても、引用例1には上述したとおり、回路基板を例えば3ブロックに分割してもよいことが記載(上記「3.(3-1)(4)の段落【0037】を参照)されており、例えば当審の拒絶の理由に引用した特開2004-56155号公報(段落【0028】?【0034】、及び図6、図7を参照)に見られるような3ブロックの配置とし、その境界に沿って形成される内部スリットをT字状とすることも当業者であれば適宜なし得ることである。
なお、内部スリットをT字状とする際には、ダイシングに代えてこれに適した形成方法であるレーザ照射による加工が採用されるのはごく普通のこと(例えば上記引用例2の段落【0034】を参照)である。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明、引用例2,3に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-31 
結審通知日 2015-04-07 
審決日 2015-04-21 
出願番号 特願2013-184004(P2013-184004)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷部 智寿  
特許庁審判長 丹治 彰
特許庁審判官 関谷 隆一
井上 信一
発明の名称 回路モジュール及びその製造方法  
代理人 山田 大樹  
代理人 中村 哲平  
代理人 折居 章  
代理人 金山 慎太郎  
代理人 大森 純一  
代理人 金子 彩子  
代理人 関根 正好  
代理人 吉田 望  

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