• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A62C
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A62C
管理番号 1302024
審判番号 不服2014-11092  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-11 
確定日 2015-06-08 
事件の表示 特願2011-267402「ガス消火設備」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月22日出願公開、特開2012- 55713〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年7月15日(優先権主張平成21年10月23日、平成22年2月4日、平成22年4月2日)に出願した特願2010-161096号(以下、「原出願」ということがある。)の一部を平成23年12月6日に新たな特許出願としたものであって、同日に上申書が提出され、(平成25年9月27日に早期審査に関する事情説明書が提出され、平成25年11月5日付けで早期審査に関する報告書が作成され、)平成25年11月5日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年3月4日付けで拒絶査定がされ、平成26年6月11日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、平成26年9月25日に上申書が提出されたものである。

第2 平成26年6月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年6月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1)本件補正の内容
平成26年6月11日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成26年1月14日提出の手続補正書により補正された)下記アの特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載を、下記イの特許請求の範囲の請求項1の記載へと補正するものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし8
「【請求項1】
(a)高圧の消火ガスを供給する消火ガス供給源15と、
(b)消火ガス供給源15からの高圧の消火ガスを導く導管14と、
(c)噴射ヘッド13であって、
導管14の端部に接続され、
ノズル部12を有し、
このノズル部12にはノズル孔16が形成され、
導管14からの高圧の消火ガスを建物内の消火対象区画内の空間に向けて噴射する噴射ヘッド13と、
(d)噴射ヘッド13に設けられ、ノズル孔16からの高圧の消火ガスを、建物内の消火対象区画内の空間に向けて噴射し、ノズル孔16からの消火ガスの放出による音響を減衰させる消音装置17a:17b:17c:17d:17e:17f:17g:17hが備えられるガス消火設備であって、
前記消音装置17a:17b:17c:17d:17e:17f:17g:17hは、
噴射ヘッド13のノズル部12におけるノズル孔16の下流に、ノズル孔16から噴射される消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、複数の吸音材31,26:40,36:46,41:87,85,891:87,85,89a:125,122:134,141,142;135,143:152,155;156.163が設けられ、
各吸音材31,26:40,36:46,41:87,85,891:87,85,89a:125,122:134,141,142;135,143:152,155;156.163は、
空隙30,34:38:44:874,851:874,851,892a:122b:141a,142aを有し、
ノズル孔16から高速で噴射された消火ガスを、吸音材31,26:40,36:46,41:87,85,891:87,85,89a:125,122:134,141,142;135,143:152,155;156.163で拡散させて徐々に減圧膨張させてその流速を下げ、
消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、前記空隙30,34:38:44:874,851:874,851,892aの大きさが変化されることを特徴とするガス消火設備。
【請求項2】
(a)高圧の消火ガスを供給する消火ガス供給源15と、
(b)消火ガス供給源15からの高圧の消火ガスを導く導管14と、
(c)導管14の端部に接続され、導管14の端部からの高圧の消火ガスの放出による音響を減衰させる消音装置60:60aと、
(d)噴射ヘッド13であって
消音装置60:60aに接続され、
ノズル部12を有し、
このノズル部12にはノズル孔16が形成され、
消音装置60:60aからの高圧の消火ガスを建物内の消火対象区画内の空間に向けて噴射する噴射ヘッド13とが備えられるガス消火設備であって、
前記消音装置60:60aは、
導管14の前記端部の下流に、前記端部から噴射される消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、複数の吸音材64,65:72,65が設けられ、
各吸音材64,65:72,65は、
空隙66,67:71,67を有し、
ノズル孔16から高速で噴射された消火ガスを、吸音材64,65:72,65で拡散させて徐々に減圧膨張させてその流速を下げ、
消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、前記空隙66,67:71,67の大きさが変化されることを特徴とするガス消火設備。
【請求項3】
前記消音装置17a:17b:17c:60:17d:17e:17f:17g:17hに設けられる複数の前記吸音材31,26:40,36:46,41:64,65:87,85,891:87,85,89a:125,122:134,141,142;135,143:152,155;156.163は、
消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、前記空隙30,34:38:44:66,67:874,851:874,851,892a,122b:141a,142aが、小さいものから大きいものに変化されて構成されることを特徴とする請求項1または2記載のガス消火設備。
【請求項4】
前記消音装置60aに設けられる複数の前記吸音材72,65は、
消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、前記空隙71,67が、大きいものから小さいものに変化されて構成されることを特徴とする請求項1または2記載のガス消火設備。
【請求項5】
吸音材40;46;125;134,135;152,156は、ノズル孔16から噴射される消火ガスが流れる方向に積層されることを特徴とする請求項1?4のうちのいずれか1つに記載されたガス消火設備。
【請求項6】
吸音材40;46;125;134;152は、その端面が平坦面(図4,5,13,14)で、または湾曲面(図15)で、噴射ヘッド13のノズル部12におけるノズル孔16が開口するノズル孔16の出口端部まわりの端面に、面接触し、
多孔質金属から成ることを特徴とする請求項5記載のガス消火設備。
【請求項7】
消火ガス供給源15からの高圧の消火ガスを、噴射ヘッド13に形成されたノズル部12の複数のノズル孔71:16から建物内の消火対象区画内の空間に向けて噴射し、ノズル孔71:16からの消火ガスの放出による音響を減衰させる消音装置60a;17hが備えられるガス消火設備であって、
前記消音装置60a;17hは、
前記複数のノズル孔71;16の上流に、これらのノズル孔71;16に共通の空間が形成され、
前記共通の空間に、消火ガス供給源15からの高圧の消火ガスが供給され、
噴射ヘッド13のノズル部12におけるノズル孔71;16が開口するノズル孔16の出口に臨んで、吸音材65;152が設けられ、
吸音材65;152は、
空隙67を有し、
噴射ヘッド13に形成されたノズル部12のノズル孔71;16から高速で噴射された消火ガスを、吸音材65;152で拡散させて徐々に減圧膨張させてその流速を下げることを特徴とするガス消火設備。
【請求項8】
前記消音装置17a:17b:17c:60:60a:17d:17e:17f:17g:17hは、噴射ヘッドに着脱可能に設けられることを特徴とする請求項1?7のうちのいずれか1つに記載されたガス消火設備。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
(a)高圧の消火ガスを供給する消火ガス供給源と、
(b)固定位置に振動および変位が抑制された状態で建物に締結して設置され、消火ガス供給源からの高圧の消火ガスを導く導管と、
(c)導管の端部に接続され、消火ガスの放出による音響を減衰させる消音装置であって、
(c1)導管の前記端部の軸線に沿って延びる噴射ヘッドであって、
高圧の消火ガスを建物内の消火対象区画内の空間に向けて噴射するノズル孔が形成されるノズル部を有し、
このノズル部は、噴射ヘッドにおける消火ガスの噴射方向下流側に設けられ、かつ噴射ヘッドにおける消火ガスの噴射方向上流側の筒状部分よりも小径の筒状であり、
ノズル孔は、導管の前記端部の軸線に沿って延び、
ノズル孔の先端部の内径は、噴射方向下流になるにつれて拡がって形成され、
消火ガスの噴射方向上流側の端部には、内ねじが形成される噴射ヘッドと、
(c2)導管の前記端部の軸線に沿って延び、導管の前記端部と噴射ヘッドとの間に配置される筒状の周壁と、
(c3)周壁の軸線方向のノズル部から遠ざかった一端部に設けられ、導管の前記端部に、接続用ねじによって、着脱可能に形成される第1の取付け部と、
(c4)周壁の軸線方向のノズル部に近い他端部に、噴射ヘッドに、前記内ねじと着脱可能に螺合する外ねじが刻設される第2の取付け部と、
(c5)周縁部が、導管の前記端部と周壁の前記一端部とに配置される第1の端壁であって、
周壁の軸線に垂直に形成され、周壁の軸線を中心として該第1の端壁の中央部に、第1の透孔が該第1の端壁の厚み方向に貫通して形成される第1の端壁と、
(c6)第1の端壁に設けられる案内部であって、
前記第1の透孔からの消火ガスを周壁の内部空間に噴出する複数の孔を有し、これらの孔は、周壁の軸線に交差する軸線上に、周壁の軸線に関して周方向に間隔をあけて形成される案内部と、
(c7)周縁部が、噴射ヘッドにおける消火ガスの噴射方向上流側の前記部分と周壁の前記他端部との間に挟持される第2の端壁であって、
周壁の軸線に垂直に形成され、複数の第2の透孔が、周壁の軸線を中心として該第2の端壁の中央部を除く残余の周辺部に、該第2の端壁の厚み方向に貫通して形成される第2の端壁とを有し、
(c8)前記第1の透孔から高速で噴射された消火ガスを、案内部と、第2の端壁と、噴射ヘッドのノズル孔まわりの内面とで拡散させて徐々に減圧膨張させてその流速を下げ、
消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、前記孔と、第2の透孔とが、大きいものから小さいものに変化されて構成される消音装置とを含むことを特徴とするガス消火設備。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1と、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1とを対比すると、発明特定事項が大きく変更され、例えば、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1において発明特定事項とされていた「消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、複数の吸音材が設けられ、各吸音材は、空隙を有し」、「ノズル孔から高速で噴射された消火ガスを、吸音材で拡散させて徐々に減圧膨張させてその流速を下げ」及び「消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、前記空隙の大きさが変化される」という発明特定事項が、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1において発明特定事項とされていない。
また、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1と、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2とを対比しても、発明特定事項が大きく変更され、例えば、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2において発明特定事項とされていた「消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、複数の吸音材が設けられ、各吸音材は、空隙を有し」、「ノズル孔から高速で噴射された消火ガスを、吸音材で拡散させてその流速を下げ」及び「消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、前記空隙の大きさが変化される」という発明特定事項が、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1において発明特定事項とされていない。
また、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1と、本件補正前の特許請求の範囲の請求項7とを対比しても、発明特定事項が大きく変更され、例えば、本件補正前の特許請求の範囲の請求項7において発明特定事項とされていた「噴射ヘッドのノズル部におけるノズル孔が開口するノズル孔の出口に臨んで、吸音材が設けられ」、「吸音材は、空隙を有し」及び「噴射ヘッドに形成されたノズル部のノズル孔から高速で噴射された消火ガスを、吸音材で拡散させて徐々に減圧膨張させてその流速を下げる」という発明特定事項が、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1において発明特定事項とされていない。
(なお、本願の各請求項に係る発明における「吸音材」とは、本願の明細書によれば、「吸音材は、ワイヤメッシュ、多孔質金属などの多孔質の材料から成り、内部空間に収容される。このような吸音材をノズル孔の直後に設けることによって、枝管側から供給される消火ガスを徐々に減圧膨張し、その流速を下げることができる。これによって、消火ガスの噴射に起因する噴射音の発生を抑制することができる。」(段落【0010】)というものである。また、吸音材が有する「空隙」は、「透孔」とは異なるものである。)
また、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3ないし6及び8は、本件補正前の請求項1、2又は7を引用するものであるから、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1と、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3ないし6及び8を対比した場合については、上記本件補正後の特許請求の範囲の請求項1と、本件補正前の請求項1、2又は7とを対比した場合と同じことがいえる。
なお、請求人は、審判請求書において、「新請求項は、図示される実施の各形態に関する旧請求項1?8のうち、図9の実施の形態に関する旧請求項2+4+8に対応する。」(審判請求書の【本発明が特許されるべき理由】1、本発明の説明)と主張するが、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1と、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2を引用する請求項4をさらに引用する請求項8(以下、「本件補正前の請求項8」という。)を対比しても、本件補正前の請求項8において発明特定事項とされていた「消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、複数の吸音材が設けられ、各吸音材は、空隙を有し」、「ノズル孔から高速で噴射された消火ガスを、吸音材で拡散させてその流速を下げ」及び「消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、前記空隙の大きさが変化される」という発明特定事項が、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1において発明特定事項とされていない。
(付言すれば、請求人が平成26年9月25日に提出した上申書に記載された手続補正書(案)によってもこのことは解消されていない。)
したがって、本件補正は、特許請求の範囲を拡張・変更するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除、第3号の誤記の訂正、第4号の明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。
よって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれにも該当しないものである。

2 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
前記のとおり、平成26年6月11日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成26年1月14日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書並びに願書に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)ア【請求項1】のとおりのものである。

2 引用文献
2-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の原出願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2003-530922号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、次のような記載がある。なお、下線は、理解の一助のため、当審で付したものである。

ア 「【0001】
発明の技術分野
本発明は、低酸素濃度環境を利用して燃焼する火災を瞬時に消火し、火災の発生を防止する火災防止システム及び火災抑止システムの方法、装置及び組成物に属する。」(段落【0001】)

イ 「【0091】
図10は、火災抑止モードで設置されたビルFirePASSを備える多層建築物101の概略図である。
【0092】
建築物101の屋根に設置される大型なFirePASSブロック(ハイポキシコ社から市販)は、周辺空気から酸素を抽出して低酸素濃度空気(又は消火剤)を供給する低酸素空気発生装置102を備える。低酸素空気発生装置102は、圧縮機103に連結して、貯蔵容器104に高圧で低酸素濃度空気を供給する。そこで一旦、約200バールの一定圧力で貯蔵容器104内に低酸素濃度空気が保持される。
【0093】
図10に示すように、エレベータシャフトの外部又は内部の何れかに沿って建築物の全体にわたり、各階に排出ノズル106を有する垂直火災抑止剤供給管105を設置できる。排出ノズル106は、高圧火災抑止剤の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備えている。
【0094】
火災が検知されると、中央制御盤からの信号により、放出弁107の開放が開始され、貯蔵された低酸素濃度空気(火災抑止剤)を分配管105内に圧送する。FirePASSが迅速な反応時間で対応すれば、火災を検知した階に呼吸可能な火災抑止環境を形成すれば十分のはずである。しかしながら、付加的な予防措置として、低酸素濃度薬剤を隣接階にも放出すべきである。ビル用FirePASSは、十分な量の低酸素火災抑止剤(酸素含有率10%以下で)を所望の階に放出して、約12%-15%の酸素含有率を有する呼吸可能な火災抑止大気を形成する。
【0095】
低酸素濃度大気の正圧は、確実に全部屋に浸透して、あらゆる室の火元を瞬時に鎮火する。また、隣接する階に低酸素濃度環境を形成することにより、建築物の上部に火災が拡大しない。本システムの重要な長所は、現在、適当な場所に配置された(例えばスプリンクラシステム、気体火災抑止システム等により使用される)火災検出装置/消火装置を容易に組み込める点にある。」(段落【0091】ないし【0095】)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)及び図10の記載から、引用文献1には次の事項が記載されていることが分かる。

カ 上記(1)ア及び(1)イの記載から、引用文献1には、高圧の低酸素濃度空気を供給する低酸素空気発生装置102、圧縮機103及び貯蔵容器104と、垂直火災抑止剤供給管(分配管)105と、消音器を備える排出ノズル106が備えられる火災防止システムが記載されていることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図10の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「高圧の低酸素濃度空気を供給する低酸素空気発生装置102、圧縮機103及び貯蔵容器104と、
貯蔵容器104からの高圧の低酸素濃度空気を導く垂直火災抑止剤供給管(分配管)105と、
排出ノズル106であって、
垂直火災抑止剤供給管(分配管)105の端部に接続され、
垂直火災抑止剤供給管(分配管)105からの高圧の低酸素濃度空気を建築物101内の消火対象階の空間に向けて放出する排出ノズル106と、
排出ノズル106に備えられ、排出ノズル106からの高圧の低酸素濃度空気を、建築物101内の消火対象階の空間に向けて放出し、排出ノズル106からの低酸素濃度空気の放出による騒音を減少させる消音器が備えられる火災防止システム。」

2-2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の原出願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願昭57-408号(実開昭58-103100号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、次のような記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

ア 「本考案は、空気パージ用消音器に関するものであつて、比較的簡単な構成で優れた消音効果を発揮する新規な消音器を提供するものである。
電子機器を好ましくない雰囲気で使用するのにあたつて、電子機器内に清浄空気を人力して内圧を高め、電子機器内への有害雰囲気の侵入を防止する空気パージが行われている。
ところで、このような空気パージと共に、機器の冷却を行うこともある。この場合には、相当量の空気が必要となるが、空気流量に比例して入力空気による騒音も大きくなる傾向がある。このような騒音は、オペレータによる操作頻度が高い装置では、操作阻害要因の一つとなり、好ましくない。
そこで、このような騒音を減らすために、焼結金属による微少な隙間に空気を通すようにした消音器が実用化されてはいるが、十分な消音効果を得ることはできない。
本考案は、筒状のケース内に空気が屈折して流れるように複数の仕切板を配置するとともに仕切板間に通気性を有する吸音材を充填し、効率良く消音できるようにしたものである。」(明細書第1ページ第14行ないし第2ページ第15行)

イ 「第1図は、本考案の一実施例を示す構成説明図であつて、1はケース、2はノズル、3はスペーサ、4はキヤツプ、5,6は仕切板、7は吸音材、8は整流板、9は取付部材、10は機器本体である。
ケース1は筒状に形成されていて、一端にはパージ用の空気の入力部が設けられ、他端には内部に入力された空気の出力部が設けられている。本実施例では、入力部としてノズル2が設けられ、出力部として環状に形成されたキヤツプ4が設けられている。これらノズル2およびキヤツプ4は、それぞれケース1の端部内周にねじ結合されている。スペーサ3は、各仕切板5,6の間隔を保つためのものであつて、ケース1内周に嵌め合うように環状に形成されている。仕切抜5,6は、ケース1内で空気が屈折して流れるようにするためのものであつて、少なくとも透孔あるいは切欠部のいずれかが形成されたものを用いる。第2図は、このような仕切板5,6の具体例を示す平面図であつて、(a)は外周に切欠部を設けた仕切板5の例を示し、(b)は中心部に透孔を設けた仕切板6の例を示している。これら仕切板5,6は、スペーサ3を介して交互1にケース1内に配置されている。吸音材7は、通気性を有するものであつて、仕切板5,6間に充填されている。このような吸音材7としては、ガラス繊維や石綿等が好適である。整流板8は、キヤツプ4から出力される空気の流れを平均化するものであつて、多数の径の等しい透孔が形成されている。取付部材9は、機器本体10に消音器を取り付けるためのものである。」(明細書第2ページ第17行ないし第4ページ第6行)

ウ 「第3図は、第1図の構成における空気の流れを実線で示し、音の流れを破線で示した動作説明図である。第3図に示すように、ノズル2から入力されたパージ用の空気は、仕切板5の切欠部および仕切板6の透孔を通り、ケース1内で屈折しながらキヤツプ4から送出される。一方、音は、仕切板5,6間で反射を繰り返しながらキヤツプ4に向かつて進行するが、その音波エネルギーはその過程で吸音材7に吸収されて熱エネルギーに変換されてしまい、外部にはほとんど送出されることはない。
このような構成によれば、音の経路を実質的に長く形成することができ、入力空気圧を大幅に減殺することなく、十分な消音効果を得ることができる。
なお、上記実施例では、2種類の仕切板を用いる例について説明したが、外周に切欠部を設けるとともに偏心した位置に透孔を設けた1種類の仕切板を用い、取付角度を順次異ならせるようにしてもよい。また、3種類以上の仕切板を用いてもよい。
また、スペーサおよび整流板は、必要に応じて用いればよい。
以上説明したように、本考案によれば、比軟的簡単な構成で、消音効果の優れた消音器が実現でき、各種の空気パージ用消音器として好適である。」(明細書第4ページ第9行ないし第5ページ第14行)

(2)引用文献2の記載から分かること

カ 上記(1)アないしウ及び第1図から、引用文献2には、空気による騒音を減少させるための消音器が記載されていることが分かる。

キ 上記(1)ウ及び第1図から、引用文献2に記載された消音器は、ノズル2の下流に、ノズル2から入力される空気が流れる方向に上流から下流に順次的に、複数の吸音材7が設けられていることが分かる。

ク 上記(1)イ及び第1図から、引用文献2に記載された消音器の吸音材7は、通気性を有するガラス繊維や石綿等からなるものであり、ガラス繊維や石綿は内部に隙間を有しているものであるから、吸音材7はその内部に空隙を有しているといえる。

ケ 上記(1)ウ及び第1図から、引用文献2に記載された消音器は、ノズル2から入力されたパージ用の空気を、吸音材7に通過させ、その過程で音波エネルギーを吸音材に吸収させるものであることが分かる。

コ 上記(1)アないしウ及び第1図から、引用文献2に記載された消音器に入力されるパージ用の空気は、空気による騒音が出るほどの高速の空気流であることが分かる。また、該高速の空気流が、ガラス繊維や石綿等からなる吸音材7を通過する際には、空気流が拡散され、徐々に減圧されて空気流の速度が低下することは自明である。

(3)引用文献2記載の技術
上記(1)及び第1図から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「空気の流れによる騒音を減少させるための消音器であって、
消音器は、ノズル2の下流に、ノズル2から入力される空気が流れる方向に上流から下流に順次的に、複数の吸音材7が設けられ、
各吸音材7は、
空隙を有し、
ノズル2から入力された高速の空気流を、吸音材7で拡散させて徐々に減圧させてその流速を下げる、消音器。」

2-3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「低酸素濃度空気」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「消火ガス」に相当し、以下同様に、「低酸素空気発生装置102、圧縮機103及び貯蔵容器104」及び「貯蔵容器104」は「消火ガス供給源」に、「垂直火災抑止剤供給管(分配管)105」は「導管」に、「排出ノズル106」は「噴射ヘッド」及び「ノズル孔16」に、「建築物101」は「建物」に、「消火対象階」は「消火対象区画」に、「放出」は「噴射」に、「備えられ」は「設けられ」に、「騒音」は「音響」に、「減少」は「減衰」に、「消音器」は「消音装置」に、「火災防止システム」は「ガス消火設備」に、それぞれ相当する。

以上から、本願発明と引用発明は、
「高圧の消火ガスを供給する消火ガス供給源と、
消火ガス供給源からの高圧の消火ガスを導く導管と、
噴射ヘッドであって、
導管の端部に接続され、
導管からの高圧の消火ガスを建物内の消火対象区画の空間に向けて噴射する噴射ヘッドと、
噴射ヘッドに設けられ、ノズル孔からの高圧の消火ガスを、建物内の消火対象区画の空間に向けて噴射し、ノズル孔からの消火ガスの放出による音響を減衰させる消音装置が備えられるガス消火設備。」
である点で一致し、次の点において相違する。

〈相違点〉
本願発明においては、「(噴射ヘッドが)ノズル部を有し、このノズル部にはノズル孔が形成され」、「消音装置は、噴射ヘッドのノズル部におけるノズル孔の下流に、ノズル孔から噴射される消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、複数の吸音材が設けられ、各吸音材は、空隙を有し、ノズル孔から高速で噴射された消火ガスを、吸音材で拡散させて徐々に減圧膨張させてその流速を下げ、消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、前記空隙の大きさが変化される」ものであるのに対し、引用発明における消音器は、そのようなものであるかどうか明らかでない点(以下、「相違点」という。)。

2-4 判断
上記相違点に係る本願発明の発明特定事項について検討するために、本願発明と引用文献2記載の技術とを対比すると、引用文献2記載の技術における「消音器」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「消音装置」に相当し、以下同様に、「ノズル2」は「噴射ヘッドのノズル部におけるノズル孔」及び「ノズル孔」に、「入力される」は「噴射される」に、「減圧させて」は「減圧膨張させて」に、それぞれ相当する。
そして、引用文献2記載の技術における「空気」は、「気体」という限りにおいて、本願発明における「消火ガス」に相当する。
また、引用文献2記載の技術における「ノズル2から入力される空気」は、「ノズル孔から噴射される気体」という限りにおいて、本願発明における「ノズル孔から噴射される消火ガス」に相当し、同様に、引用文献2記載の技術における「ノズル2から入力された高速の空気流」は、「ノズル孔から高速で噴射された気体」という限りにおいて、本願発明における「ノズル孔から高速で噴射された消火ガス」に相当する。
したがって、引用文献2記載の技術を本願発明の用語を用いて表現すると、
「気体の流れによる騒音を減少させるための消音装置であって、
消音装置は、噴射ヘッドのノズル部におけるノズル孔の下流に、ノズル孔から噴射される気体が流れる方向に上流から下流に順次的に、複数の吸音材が設けられ、
各吸音材は、
空隙を有し、
ノズル孔から高速で噴射された気体を、吸音材で拡散させて徐々に減圧させてその流速を下げる、消音装置。」
であるといえる。
ここで、引用文献2記載の技術における「空気」は、高速で流れる気体であって、消音という観点においては、本願発明における「消火ガス」と相違しない。
また、本願発明における「消火ガスが流れる方向に上流から下流に順次的に、空隙の大きさが変化される」という事項は、例えば請求項3のように「小さいものから大きいものに変化される」もの及び請求項4のように「大きいものから小さいものに変化される」ものを含み、どのように変化されるかは特に限定されておらず、それによる効果も格別なものとはいえないことから、当業者が適宜なし得る設計事項であるか、当業者が通常の努力でなし得る程度の事項である。

また、消火ガス用の消音装置に吸音材を設ける技術は、周知技術(以下、「周知技術」という。例えば、欧州特許出願公開第1151800号明細書(特に、特許請求の範囲、段落[0034]及び図4ないし8等を参照。)を参照。)である。

そして、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術は、共に、気体を高速で流す装置という共通の技術分野において、気体の流れによる騒音を低減するという共通の課題を解決するものである。

以上から、引用発明において、消音装置として引用文献2記載の技術及び周知技術を採用し、その際に、吸音材が有する空隙の大きさを適宜変化させるように設計することにより、上記相違点に係る発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明を全体として検討しても、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。

2-5 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-25 
結審通知日 2015-03-31 
審決日 2015-04-21 
出願番号 特願2011-267402(P2011-267402)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A62C)
P 1 8・ 57- Z (A62C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
発明の名称 ガス消火設備  
代理人 西教 圭一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ