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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04B
管理番号 1302028
審判番号 不服2013-12534  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-02 
確定日 2015-06-11 
事件の表示 特願2008-203877「建築物の外壁構造」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月18日出願公開、特開2010- 37866〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成20年8月7日の出願であって,平成25年3月28日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成25年7月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同時に手続補正がなされたものであって、その後当審において、平成26年10月21日付けで拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成27年1月5日に手続補正書並びに意見書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1ないし5係る発明は、平成27年1月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。
「外壁目地にフタル酸エステルからなる可塑剤及び/又は酸素硬化性不飽和化合物を含有するシーリング材が打設された建築物の外壁構造において、前記シーリング材に主成分がイミダゾール系抗菌剤とイソチアゾリン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤を更に含有させ、前記シーリング材を含む外壁面に主成分がイミダゾール系抗菌剤およびトリアジン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤と、主成分がチアゾリン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤とを含有させた水性塗料を塗布したことを特徴とする外壁構造。」

3.引用例の記載事項
(1)当審拒絶理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2007-51295号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付与。以下同様。)
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗装可能な2成分ポリウレタンシーラントに関する。
【背景技術】
【0002】
シーラントは環境を分離するのに使用され、ガス、液体、及び固体粒子の通過に対するバリヤーとして利用できる。シーラントはまた機械的ショック、振動、及び音を減衰し、圧力差を維持し、品目を機械的、電気的、かつ熱的に保護するのに利用できる。
シーラントの最大の使用は商用並びに家の建築及び修復、そして輸送市場である。外部の商用建築シーラントは温度サイクル及び風の負荷から目地間隙又は幅の大きい変化を収容する必要がある。加えて、シーラントは雨、熱、紫外線、酸素、及びオゾンに耐える必要がある。建材、例えば、石、大理石、アルミニウム、鋼、ガラス、及びプラスチックは熱膨張係数を広く異にし、こうして目地デザインが一緒にフィットされる異なる材料の断面に非常に重要である。断面間の間隙幅は断面の材料の型及び長さに基づき、一層大きい断面につき間隙が広い。シーラントはパーキングデッキにおける伸縮目地に普通に使用される。
高性能シーラントのみが外部シーリングのための商用ビルディング及び構造に適している。高性能シーラントは典型的には良好な回復でもって圧縮又は引張におけるかなりの目地移動を収容し得る。
ポリウレタンはヒドロキシ官能性成分とイソシアネート官能性成分の反応から調製された弾性シーラントを含む、多くの有益な製品に適した性質を有する。ポリウレタンは高性能シーラントとしての実用性を有する。
シーラントは典型的には建材の断面にマッチし、また増大された天候保護を与える美観目的のために塗装される。シーラントは典型的にはプライマーの不在下で塗装できず、こうして少なくとも二つの塗料適用工程を必要とし、第一の工程はプライマー又はタイコートによるものであり、第二の適用工程は美観目的又は保護目的のための通常の塗料又はトップコートを使用する。シーラントへの塗料の接着を含む、適切な性能が、典型的にはプライマーの不在下で得られない。
当業界で必要とされるものはプライマーの不在下で塗装でき、こうしてプライマー適用工程の時間及び費用を節減する高性能シーラントである。また当業界で必要とされるものは圧縮又は引張中のかなりの目地移動を収容するのに適当に低いモジュラスを有する高性能シーラントである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
ヒドロキシ末端ポリイソシアネート/ポリオキシアルキレンポリオールプレポリマーベース成分、及びイソシアネート末端ポリイソシアネート/ポリオキシアルキレンポリオールプレポリマー活性剤成分の反応生成物を含むポリウレタンシーラントであって、ポリウレタンシーラントがプライマーの不在下で塗装可能であり、かつプレポリマー成分を調製するのに使用されるポリオールのポリオキシアルキレン部分の約20%以下が約1600より大きいヒドロキシル当量を有することを特徴とするポリウレタンシーラントが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
低モジュラス、高い伸び、及び良好な塗料接着の性質を有するポリウレタンシーラントが提供される。ポリウレタンは配合物のベース成分中のヒドロキシ末端ポリイソシアネート/ポリオキシアルキレンポリオールプレポリマー、及び活性剤成分中のイソシアネート末端ポリイソシアネート/ポリオキシアルキレンポリオールプレポリマーを使用して調製される。これらのプレポリマーはそれらの調製に使用されるポリオキシアルキレンポリオールの組成により区別される。
ポリウレタンシーラント中に使用されるヒドロキシ末端ポリオキシアルキレンポリオー
ルプレポリマーはポリイソシアネートを1600以下の平均ヒドロキシル当量を有する、過剰のポリオキシアルキレンポリオール、例えば、ポリオキシアルキレンジオール、ポリオキシアルキレントリオール、又はこれらの混合物と反応させることにより調製される。或る実施態様において、ヒドロキシ末端ポリオキシアルキレンポリオールプレポリマーはポリエーテルをベースとするポリウレタンポリマーを含んでもよい。約1600よりも高いヒドロキシル当量を有する所謂“ポリマーポリオール”(別のポリマーをポリエーテル鎖にグラフトすることにより調製される)がヒドロキシ末端プレポリマーをつくるのに使用されてもよく、但し、それらの調製に使用されるポリエーテルポリオールが約1600以下のヒドロキシル当量を有することを条件とする。」

イ 「【0009】
或る実施態様において、イソシアネートの遊離%NCO(NCO含量)は反応生成物の1質量%?12質量%であってもよい。別の実施態様において、イソシアネートは反応生成物の約2質量%?6質量%の遊離NCOであってもよい。
遊離%NCOはポリマー、プレポリマー、又は準プレポリマー中の遊離イソシアネートモノマー又は未反応のイソシアネート(NCO基)として、反応に利用できる物質の質量%と定義される。この概念は当業者に知られている。
ポリウレタンシーラントは付加的な成分を含んでもよく、これらとして、チキソトロピー剤、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、UV安定剤、殺菌剤、殺カビ剤、殺生物剤、難燃剤、着色剤、表面添加剤、接着促進剤、レオロジー改良剤、触媒、消泡剤、溶媒、乾燥剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
一実施態様において、このような添加剤の合計量は、シーラントの合計質量を基準として、約10質量%?約50質量%、或る実施態様において、約25質量%?約40質量%であってもよい。限定ではなく、例として、シーラントは0?約5質量%のUV吸収剤、0?約5質量%の酸化防止剤、0?約2質量%の殺カビ剤、0?約2質量%の殺生物剤、0?約2質量%の殺菌剤、0?約20質量%の難燃剤、約20?約50質量%の充填剤、0?約10質量%の顔料、0?約5質量%の触媒、0?約5質量%の接着促進剤、0?約10質量%の流動性及びレベリング添加剤、0?約5質量%の湿潤剤、0?約2質量%の消泡剤、及び/又は0?約20質量%のレオロジー改良剤を含んでもよい。
【0010】
タルク、粉砕炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、アスベスト、カーボンブラック、二酸化チタン、ガラス、例えば、圧潰ガラス又はガラス球体、金属、例えば、鉄粒子、石英、シリカ、例えば、親水性シリカ、疎水性無定形ヒュームドシリカ、及び無定形沈降シリカ、バライト、アクリレート、石灰石、硫酸塩、アルミナ、種々のクレー、ケイソウ土、ウォラストナイト、マイカ、パーライト、フリント粉末、クリオライト、アルミナ三水和物、ポリマーグラニュール及び粉末、例えば、造粒又は微粉砕ポリエチレン及び造粒又は微粉砕ポリプロピレン、メラミン、繊維、例えば、ポリプロピレン又はナイロン、酸化亜鉛、及びこれらの混合物を含む、種々の充填剤がポリウレタンシーラント中に使用し得る。カーボンブラック及び二酸化チタンが充填剤及び顔料の両方として使用されてもよい。
また、ポリウレタンシーラントは基材への適用直後にその材料の粘度を増大するためにレオロジー改良剤を含んでもよい。これはシーラントが初期に基材に適用された時に滴下し、又は流れることを防止し得る。レオロジー改良剤の例として、ヒュームドシリカ、ポリアミドワックス、変性ヒマシ油、及び有機陽イオンで挿入されたクレー、アクリレート、PVCプラスチゾル、ポリ尿素可塑剤分散液が挙げられるが、これらに限定されない。タルクがまた充填剤及びレオロジー改良剤の両方として使用されてもよい。
不燃性であり、比較的低い粘度を有し、かつウレタンマトリックスと相溶性である種々の可塑剤がポリウレタンシーラント中に使用し得る。必要とされないが、溶媒が加工を助けるために、かつ/又は希釈剤として使用し得る。或る実施態様において、可塑剤は可塑剤及び溶媒の両方として作用し得る。可塑剤、例えば、不揮発性有機液体及び低融解性固体、例えば、水素化石油留分、コールタール留分、及び30℃より高い沸点を有するその他の有機液体、フタレート(例えば、ジイソデシルフタレート及びジオクチルフタレート)並びにアジペート(例えば、2-エチルヘキシルアジペート)が使用し得る。ポリウレタンシーラント配合物中で可塑剤及び/又は溶媒として通常使用されるその他の材料、例えば、塩化メチレン、ナフトールスピリット、キシレン及び混合スピリットがまた使用し得る。使用される場合、一実施態様において、可塑剤(溶媒)の量は約4質量%までであってもよい。」

ウ 「【0012】
ポリウレタンシーラント中に使用される場合の殺菌剤、殺カビ剤及び殺生物剤は4,4-ジメチルオキサゾリジン、3,4,4-トリメチルオキサゾリジン、変性メタホウ酸バリウム、カリウムN-ヒドロキシ-メチル-N-メチルジチオカルバメート、2-(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、カリウムジメチルジチオカルバメート、アダマンタン、N-(トリクロロメチルチオ)フタルイミド、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、オルトフェニルフェノール、2,4,5-トリクロロフェノール、デヒドロ酢酸、ナフテン酸銅、オクタン酸銅、有機ヒ素、トリブチルスズオキサイド、ナフテン酸亜鉛、銅8-キノリネート、及びこれらの混合物を含んでもよい。・・・」

エ 「【0015】
・・・
塗料接着は典型的にはASTM D3359の如き標準試験方法を使用して評価される。このクロスハッチ接着試験方法を使用して、カットの端部が完全に平滑であり、格子の正方形のいずれもが剥がされず、それ故、100%接着かつ0%の接着不良の場合に、5Bの等級がサンプルに与えられる。被覆物の小さいフレークがカットの交点で剥がされ、その面積の5%未満が影響され、それ故、5%の接着不良である場合に、4Bの等級が適用される。被覆物の小さいフレークが端部に沿って、またカットの交点で剥がされ、接着不良面積が格子の5?15%である場合に、3Bの等級が適用される。被覆物が端部に沿って、また正方形の部分でフレーク化され、接着不良面積が格子の15?35%である場合に、2Bの等級が適用される。被覆物が大きいリボン中のカットの端部に沿ってフレーク化され、全体の正方形が剥がされ、接着不良面積が格子の35?65%である場合に、1Bの等級が適用される。フレーク化及び剥がれが等級1Bより悪く、格子の65%より大きい接着不良面積に相当する場合に、0Bの等級が適用される。
一実施態様において、ポリウレタンシーラント反応生成物はプライマーの不在下で塗装可能であり、その結果、塗料が塗料接着試験ASTM D3359に従って試験された場合に少なくとも4Bの等級でシーラントの表面に接着する。シーラントの表面に接着する塗料の型として、中でも水性塗料、例えば、ラテックス塗料が挙げられる。
以下の実施例は先に説明したポリウレタンシーラントの調製を説明するために示される。」

オ 「【実施例】
【0016】
下記の成分を使用して表1中のサンプルを調製した。
ポリオールA:エチレンオキサイドキャッピング、及びポリエーテル主鎖にグラフトされたスチレン-アクリロニトリルを含むポリオキシプロピレントリオール。このポリオールのヒドロキシル当量は約2000であるが、この生成物を調製するのに使用されたポリエーテルポリオールは約1550のヒドロキシル当量を有する。
プレポリマーA:ポリオールA500.18部とトルエンジイソシアネート12.6部の反応の生成物。
ポリオールB:約510のヒドロキシル当量を有するポリオキシプロピレングリコール。
プレポリマーB:ポリオールB481.33部とトルエンジイソシアネート72.3部の反応の生成物。そのポリオールを最初に酸化カルシウム8.9部の添加により乾燥し、続いて加熱しながらその混合物を激しく撹拌する。その全プロセスを乾燥窒素の雰囲気下で行なう。
【0017】
充填剤A:約3ミクロンの平均粒子サイズを有する炭酸カルシウム。
充填剤B:約0.07ミクロンの平均粒子サイズを有するステアリン酸被覆炭酸カルシウム。
1,4-ブタンジオール。
イソシアネートA:ポリオキシプロピレントリオールを2当量のトルエンジイソシアネートと反応させることにより調製され、0.046%のネオデカン酸ビスマスを含むプレポリマー。
イソシアネートB:ジフェニルメタンジイソシアネート及びポリオールからつくられ、約23%の遊離イソシアネートを有する市販のイソシアネート末端プレポリマー。
A100:シャーウィン-ウィリアムス社から入手し得るアクリルラテックスプライマー。
カラーフレックス^(TM):デグッサ・ビルディング・システムズから入手し得るアクリルエラストマー被覆物。
試験方法:
彩色適性をテープ試験により接着を測定するためのASTM D3359標準試験方法に従って測定した。
加硫ゴム及び熱可塑性エラストマー-引張に関するASTM D412標準試験方法。
以上に従ってつくられたポリウレタンシーラントの性能の例を下記の表に示す。」

カ 「【0019】
以上の記載に従ってつくられたポリウレタンシーラントは高い伸び、低モジュラスを示し、普通の水性塗料で塗装できる。それらの引張特性及び伸び特性は工業試験方法によれば優れた移動能と言い換えれる。
本明細書に記載された一つ以上の実施態様は単なる例示であり、当業者が本発明の精神及び範囲から逸脱しないで変化及び改良をなし得ると理解されるであろう。全てのこのような変化及び改良が前記された本発明の範囲内に含まれることが意図されている。更に、開示された全ての実施態様が必ずしも代案であるとは限らない。何とならば、本発明の種々の実施態様が組み合わされて所望の結果を得てもよいからである。」

キ 上記アないしカからみて、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。
「外部シーラントのための商用ビルディング及び構造に適している塗装可能な2成分ポリウレタンシーラントにおいて、
温度サイクル及び風の負荷から目地間隙又は幅の大きい変化を収容し、雨、熱紫外線、酸素及びオゾンに耐える必要があり、プライマーの不存在下で塗装できる良好な塗料接着の性質を有し、
フタレートが例示される可塑剤や、殺菌剤、殺カビ剤を含み、
表面に接着する塗料として水性塗料であって、デグッサ・ビルディング・システムズから入手し得るアクリルエラストマー被覆物である「カラーフレックス^(TM)」を用いた、ポリウレタンシーラント。」

(2)当審拒絶理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-292868号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付与。)
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水系防藻(カビ)塗料及びその塗布方法に関し、さらに詳しくは、藻類・カビ類が繁殖して生物汚染が進んでいる建築物外装部材に、少ない工程で短時間かつ経済的に塗布でき、生物汚染した部分を容易に改修しうる水系防藻(カビ)塗料及びその塗布方法に関する。
【0002】
【従来技術】住宅などの建築物は、外装部材の表面を塗装し、風雨、光や熱による劣化から保護しているが、経年によって外装部材表面に変褪色・チョーキング・汚れ・生物汚染(藻・カビ等の発生)などの劣化・不具合現象を生じることが広く知られている。
【0003】このうち、生物汚染は、他の現象と異なり外装部材の全面に発生するわけではなく、日が当たらず温湿度が高く、じめじめした藻類・カビ類の生育環境に適した、ごく一部の箇所(北面が多い)に繁殖する場合が多い。
【0004】従来、このような建築物外装部材に不具合が発生した場合、外装部材の全面を塗替えたり、生物汚染された部分を洗浄して対応している。しかしながら、外壁など建築物外装部材を全面的に塗替えるには、仮設足場・飛散養生・水洗・下地研磨・錆止の各工程を経たうえで塗装することになり、塗装後に足場を除去するなどの工程も加わり、例えば3?4人を動員して約1週間かかり、約100万円もの費用を要していた。
【0005】これまでは、外装部材の一部に発生した生物汚染でも、上記と同様に大掛かりな塗替えを行うか、洗浄で対応せざるをえなかった。生物汚染した箇所を洗浄する際は、生物汚染の再発を遅らせるために、防藻剤もしくは防カビ剤の希釈液を噴霧していたが、この薬剤の保持性はほとんどなく、雨で洗い流された後は、防藻・防カビ効果も期待できなかった。
【0006】また、特開平9-235491号公報は、防藻剤入り溶剤系フッ素塗料を提案しており、これを建築物外壁等に塗布すれば防藻効果は期待できるものの、有機溶剤を用いているため、塗料に溶剤臭があり作業環境上好ましくない。さらに、下地の塗膜が、アクリル系樹脂等のように溶剤への溶解性が高い塗膜である場合は、下地塗膜が溶解し、艶引けしてしまう問題があった。
【0007】また、下地が艶の低い建築物外装部材に防藻(カビ)塗料を塗布した場合、塗布した箇所だけ艶が高くなるため、外観に違和感を生じることがあった。このような状況下、建築物外装部材の改修すべき箇所にのみ塗布でき、人手や費用をかけずに改修しうる水系防藻(カビ)塗料の出現が切望されていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、藻類・カビ類が繁殖して生物汚染が進んでいる建築物外装部材に、少ない工程で短時間かつ経済的に塗布でき、生物汚染した部分を容易に改修しうる水系防藻(カビ)塗料及びその塗布方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、合成樹脂ラテックスに特定量の防藻剤又は防カビ剤と、必要により増粘剤を配合し、樹脂固形分が特定濃度の水系防藻(カビ)塗料を調製し、これを建築物外装部材の藻類・カビ類が繁殖していた箇所に薄く塗布することで、それらの繁殖を遅らせ、作業性を大幅に改善できることを見出して、本発明を完成させた。」

イ 「【0014】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の水系防藻(カビ)塗料(以下、単に塗料ともいう)及びその塗布方法を詳細に説明する。
【0015】1.水系防藻(カビ)塗料
本発明の水系防藻(カビ)塗料は、バインダーとしての合成樹脂ラテックスに防藻剤又は防カビ剤を特定量配合し、必要により増粘剤を加え、塗料の樹脂固形分濃度を特定範囲に調整したものである。合成樹脂ラテックスとしては、特に限定されないが、縮合反応又は付加重合により合成される樹脂を挙げることができる。
【0016】縮合反応により合成される樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、尿素メラミン樹脂、アミノ樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂、脂肪酸変性フタル酸樹脂、フェノール変性フタル酸樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルデヒド樹脂又はケトン樹脂などが挙げられる。
【0017】また、付加重合により合成される樹脂としては、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系樹脂、その共重合体;アクリル-スチレン共重合体、アクリル-酢酸ビニル共重合体、アクリル-塩化ビニル共重合体、アクリル-エチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル-塩ビ共重合体、酢酸ビニル-エチレン共重合体、酢酸ビニル-スチレン共重合体等の酢酸ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニル、塩ビ-アクリル共重合体、塩ビ-エチレン共重合体、塩ビ-スチレン共重合体等の塩化ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン、その共重合体等の塩化ビニリデン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等の炭化水素系樹脂等が挙げられる。
【0018】また、これらの他に、セラミック変性フッ素樹脂、セラミック変性ウレタン樹脂、セラミック変性アクリル樹脂など、無機成分で変性した合成樹脂;ウレタン/アクリル、エポキシ/アクリル、シリコーン/アクリル、ポリエステル/アクリル、フッ素樹脂/アクリル、コロイダルシリカ/アクリル、ニトロセルロース/アクリル、メラミン樹脂/アクリル等のように2種以上の異種ポリマーを粒子内に含む複合エマルションが挙げられる。
【0019】上記樹脂のうち、下地塗膜(旧塗膜)との密着性、耐候性、耐水性を考慮すれば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系樹脂、その共重合体、アクリル-スチレン共重合体、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フタル酸樹脂、フッ素系樹脂等が好ましい。
【0020】また、溶剤系塗料でなく、周辺の作業環境を考慮した水系塗料を用いるため、作業時に悪臭で環境を汚染せず、また下地の塗膜を溶解させないため、艶引け等の問題を起こさずに塗装ができる。
【0021】防藻剤及び/又は防カビ剤は、特に限定されないが、例えば、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系;3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1-メチル-1-メトキシ尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1-(2-メチルシクロヘキシル)、3-フェニル-1-(2-メチルシクロヘキシル)尿素、3-(フェニルジメチルメチル)-1-(4-メチルフェニル)尿素等の尿素系;2-クロロ-4,6-ビス(エチルアミノ)-1,3,5-トリアジン、2-クロロ4-エチルアミノ-6-イソプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン、2-メチルチオ-4,6-ビス(エチルアミノ)-S-トリアジン、2-メチルチオ-4-エチルアミノ-6-イソプロピルアミノ-S-トリアジン、2-メチルチオ-4,6-ビス(イソプロピルアミノ)-S-トリアジン、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-S-トリアジン、N’-t-ブチル-N-シクロプロピル-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン等のトリアジン系;テトラメチルチウラムジサルファイド、テトラエチルチウラムジサルファイド、テトライソプロピルチウラムジサルファイド、ジピロリゾルチウラムジサルファイド、ポリエチレンチウラムジサルファイド等のチウラムジサルファイド系;2-(4-チアジル)ベンズイミタゾール、2-(カルボメトキシアミノ)ベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール系;2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン等のピリジン系;ジンク-2-ピリチンチオール-1-オキサイド等のジンクピリチオン系;2-(4-チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール等のチアゾール系;有機ハロゲン系、有機金属系、ハロアルキルチオ系、フェニルフェノール系の防藻剤又は防カビ剤が挙げられる。
【0022】これら防藻剤又は防カビ剤を単独で合成樹脂ラテックスに添加してもよいし、2種以上を組み合わせて添加してもよい。好ましくは、イソチアゾリン系等の防カビ効果が高い薬剤と、トリアジン系・ピリジン系等の防藻効果が高い薬剤をブレンドして配合する。配合割合は、特に限定されないが、容量比で20?80:80?20、特に40?60:60?40が好ましい。」

(3)当審拒絶理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-227912号公報(以下「引用例3」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審で付与。)
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ビス(2-ピリジルチオール-1-オキシド)亜鉛塩と水溶性の低い防カビ剤とを含有し、建築物の内部及び外部、特に水回りで使用する抗菌性シーリング材組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、シーリング材は、各種建築部材の接合部や隙間に充填して、水密性、気密性を付与する目的で広く利用されている。そのうち変性シリコーンを主成分とするシーリング材は、耐候性、塗装性が優れており、建築物の内装および外装の目地剤等に用いられている(特開平2-306907号公報)。また、ポリジオルガノシロキサンを主成分とするシーリング材は、耐候性、耐久性、寸法安定性が優れており、浴室、洗面所等に用いられている。
【0002】
【従来の技術】近年、シーリング材は、各種建築部材の接合部や隙間に充填して、水密性、気密性を付与する目的で広く利用されている。そのうち変性シリコーンを主成分とするシーリング材は、耐候性、塗装性が優れており、建築物の内装および外装の目地剤等に用いられている(特開平2-306907号公報)。また、ポリジオルガノシロキサンを主成分とするシーリング材は、耐候性、耐久性、寸法安定性が優れており、浴室、洗面所等に用いられている。
【0003】しかしながら、シーリング材を長期間使用した場合、その表面にカビが発生することが知られている。この原因として、シーリング材の表面は、その表面に付着したほこりから栄養分の補給やシーリング自体の吸水作用による水分の補給を受けて、カビが発生し易い状態となっているものと考えられている。
【0004】建築物等に使用されるシーリング材に繁殖するカビ類の代表的な菌としては、アルテルナリア(Alternaria)属、クラドスポリウム(Cladosporium)属、ウロクラディウム(Ulocladium)属、エクソフィアラ(Exophiala)属等の菌が検出されている。
【0005】このようなカビの発生により、シーリング材の表面が汚染されて美観を損ねるため、シーリング材の施工をやり直さねばならないという欠点がある。また、シーリング材表面で繁殖したカビは表面に留まらず、カビの菌糸が内部へ侵入していくことにより、シーリング材に剥離やひび割れ等が起こり、建物等に破損や水漏れ等の大きな被害をもたらすという問題点があった。
【0006】従って、シーリング材を長期間にわたってカビの劣化から保護しうる技術が強く望まれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記欠点に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期間にわたってシーリング材にカビが発生するのを抑制し、カビによる表面汚染や性能劣化を防止した抗菌性シーリング材を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】以下に本発明について説明する。本発明で使用されるシーリング材は、変性シリコーンを主成分とし、これに硬化触媒、可塑剤、充填剤等が配合されたものからなる。
【0009】本発明で使用される防カビ剤としては、シーリング材の特性を損なうことなく、カビの発生や繁殖を防止するものが好ましく、ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛塩(以下防カビ剤Aという)と、下記化合物(以下防カビ剤Bという)とが配合されたものからなる。
【0010】上記防カビ剤Bとしては、ベンズイミダゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ピリジン系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、フタルイミド系化合物、トリアジン系化合物及びヨード系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。
【0011】上記ベンズイミダゾール系化合物としては、例えば、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0012】上記イソチアゾリン系化合物としては、例えば、2-n-オクチル-4-イソチアゾリンー3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリンー3-オン等が挙げられる。
【0013】上記ピリジン系化合物としては、例えば、テトラクロル-4-メチルスルホニルピリジン等が挙げられる。
【0014】上記N-ハロアルキルチオ系化合物としては、例えば、N,N-ジメチル-N’-(フルオロジメチルチオ)-N’-フェニルスルファニド等が挙げられる。
【0015】上記フタルイミド系化合物としては、例えば、N-(トリクロルメチルチオ)フタルイミド等が挙げられる。
【0016】上記トリアジン系化合物としては、例えば、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリエチル-S-トリアジン等が挙げられる。」

イ 「【0022】次に本発明2について説明する。本発明2に使用されるシーリング材は、ポリジオルガノシロキサンを主成分とし、これに硬化触媒、可塑剤、充填剤等が配合されたものからなる。
【0023】本発明2に使用される防カビ剤としては、シーリング材の特性を損なうことなく、カビの発生や繁殖を防止するものが好ましく、防カビ剤Aと、下記化合物(以下防カビ剤Cという)とが配合されたものからなる。
【0024】上記防カビ剤Cとしては、ベンズイミダゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ピリジン系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、フタルイミド系化合物,トリアジン系化合物、フェノール系化合物及びヨード系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。
【0025】上記ベンズイミダゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、ピリジン系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、フタルイミド系化合物、トリアジン系化合物及びヨード系化合物としては、本発明で使用されるものと同一のものが挙げられる。」

4.対比
本願発明と、引用発明1を対比する。
ア 引用発明1の「フタレート」,「可塑剤」,「2成分ポリウレタンシーラント」,「商用ビルディング及び構造」及び「殺カビ剤」は、それぞれ、本願発明の「フタル酸エステル」,「可塑剤」,「シーリング材」,「建築物」及び「防カビ剤」に相当する。

イ 引用発明1の「外部シーラントのための商用ビルディング及び構造に適し」、「目地間隙又は幅の大きい変化を収容」する構造は、「外壁目地」に相当する。
また、引用発明1の「外部シーラントのための商用ビルディング及び構造」は、建築物の外装、つまり外壁の構造であることは明らかであるので、本願発明の「シーリング材が打設された建築物の外壁構造」に相当する。

ウ 引用発明1の「水性塗料」は、「デグッサ・ビルディング・システムズから入手し得るアクリルエラストマー被覆物である『カラーフレックス^(TM)』を用い」ているが、当該『カラーフレックス^(TM)』は、その製品情報
(http://www.brockwhite.com/files/Resource/Prod_Data/859370_colorflex_PD.pdf)をみると、
「Benefits」欄に「Resists fungus and mildew」と記載され、抗菌及び防カビ特性を有することが理解できるから、「カラーフレックスTM」には、防カビ剤を含んでいる蓋然性が高いものと認められる。
そうすると、引用発明1の防カビ剤を含んでいる「シーラントの表面に接着する塗料として水性塗料であって、デグッサ・ビルディング・システムズから入手し得るアクリルエラストマー被覆物である「カラーフレックス^(TM)」を用いた」ことと、本願発明の「シーリング材を含む外壁面に主成分がイミダゾール系抗菌剤およびトリアジン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤と、主成分がチアゾリン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤とを含有させた水性塗料を塗布した」こととは、「シーリング材の表面に防カビ剤を含有させた水性塗料を塗布した」ことで共通している。

エ 上記アないしウからみて、本願発明と引用発明1とは、以下の点で一致している。
(一致点)
「外壁目地にフタル酸エステルからなる可塑剤を含有するシーリング材が打設された建築物の外壁構造において、前記シーリング材に防カビ剤を更に含有させ、前記シーリング材の表面に防カビ剤を含有させた水性塗料を塗布した外壁構造。」

また、両発明は以下の点で相違している。
(相違点1)シーリング材に含有させた防カビ及び又は防藻剤が、本願発明は、主成分がイミダゾール系抗菌剤とイソチアゾリン系抗菌剤であるのに対し、引用発明1は、不明な点。
(相違点2)本願発明は、水性塗料をシーリング材を含む外壁面に塗布するのに対し、引用発明1は、シーリング材の表面に塗布しているものに、シーリング材以外の外壁面に塗布したかどうか不明な点。
(相違点3)水性塗料が、本願発明は、主成分がイミダゾール系抗菌剤およびトリアジン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤と、主成分がチアゾリン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤とを含有させたのに対し、引用発明1は、その様なものか不明な点。

5.判断
上記相違点1?3について検討する。
(1)相違点1
引用例2または引用例3に記載されているように、イミダゾール系やイソチアゾリン系のものを、防カビ及び/又は防藻剤の成分として含有させることは、本願出願前に周知の技術であって、同じくそれらを組み合わせて配合することも同様であるから、引用発明1のシーリング材に含有させた防カビ及び又は防藻剤の主成分として、イミダゾール系抗菌剤とイソチアゾリン系抗菌剤を含有させることは、当業者が容易になし得た程度のことである。

(2)相違点2
塗料を壁面に塗布することは、例示するまでもなく、本願出願前に周知の技術であることから、引用発明1の水性塗料を、シーリング材以外の壁面に塗布することは、当業者が適宜なし得た設計上の微差に過ぎない。

(3)相違点3
引用例2または引用例3に記載されているように、イミダゾール系やトリアジン系またはチアゾリン系のものを、防カビ及び/又は防藻剤の成分として含有させることは、本願出願前に周知の技術であって、同じくそれらを組み合わせて配合することも同様であるから、引用発明1の水性塗料に含有させた防カビ及び又は防藻剤の主成分として、イミダゾール系抗菌剤やトリアジン系抗菌剤またはチアゾリン系抗菌剤を含有させることは、当業者が容易になし得た程度のことである。

(4)請求人の主張に対して
ア 請求人は、平成27年1月5日付け意見書において、以下(ア)及び(イ)の主張を行っている。
(ア)特に引例1にはカラーフレックスを用いたことが記載されているのみで、カラーフレックスに防カビ及び/又は防藻剤が含まれていることは引例1からは不明です。拒絶理由通知内で指摘されたカラーフレックスの製品情報を参照しましたが、この製品情報の公開時点は不明です。また、仮にカラーフレックス内に防カビ及び/又は防藻剤が含まれているとしても、具体的な薬剤名は記載がありません。

(イ)請求項1に係る「前記シーリング材に主成分がイミダゾール系抗菌剤とイソチアゾリン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤を更に含有させ、前記シーリング材を含む外壁面に主成分がイミダゾール系抗菌剤およびトリアジン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤と、主成分がチアゾリン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤とを含有させた水性塗料を塗布したこと」という発明特定事項は、引用文献1から4のいずれにも記載、示唆がありません。
上記発明特定事項による効果は、本願明細書第0027段落にある、実施例3を見るとわかります。すなわち、実施例3では、シーリング材上の塗膜およびアルミ形材上の塗膜の両方において、カビの発生が一切ないという顕著な効果を発揮しています。
これに対し、実施例1および2では、シーリング材上の塗膜におけるカビの発生はありませんが、アルミ形材上の塗膜では僅かではありますがカビの発生が認められています。
この差異は「前記シーリング材に主成分がイミダゾール系抗菌剤とイソチアゾリン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤を更に含有させ、前記シーリング材を含む外壁面に主成分がイミダゾール系抗菌剤およびトリアジン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤と、主成分がチアゾリン系抗菌剤である防カビ及び/又は防藻剤とを含有させた水性塗料を塗布したこと」という発明特定事項によるものであり、この発明特定事項に基づく上記顕著な効果は引例1?4のいずれにも記載も示唆もありません。

イ 請求人の上記主張について検討する。
(ア)上記ア(ア)の主張について
「カラーフレックス^(TM)」の製品情報が載っているウエブサイトについては、その公開時期は不明であるが、当該製品情報に記載される機能については、上記「カラーフレックス^(TM)」が元々有していたものであるから、当該ウエブサイトが本願出願時点にすでに公開されてあったかどうかに関わらず、「カラーフレックス^(TM)」には、抗菌及び防カビ特性を有し、抗菌剤及び防カビ剤を含んでいる蓋然性が高いものと認められる。

仮に、「カラーフレックス^(TM)」が抗菌及び防カビ特性を有し、抗菌剤及び防カビ剤を含んでいる蓋然性が高いとは言えないとしても、引用発明1のポリウレタンシーラントには殺菌剤及び殺カビ剤を含有していることから、その表面に塗布される水性塗料にも殺菌剤や殺カビ剤を含有させる程度のことは、当業者であれば、容易に想起しえることである。
また、引用例2に記載されているように、従来より外装部材表面に藻やカビ等が発生することが周知の課題であって、当該課題を解決するために、外装部材の塗料に防藻剤や防カビ剤を含有させることが周知の技術であったことからみても、水性塗料に防藻剤や防カビ剤を含有させることは、当業者であれば、容易に想起しえることである。
そして、上記(1)及び(3)で説示したように、防藻剤及び防カビ剤として、イミダゾール系、イソチアゾリン系、トリアジン系及びチアゾリン系の成分は周知のものであることから、引用発明1のポリウレタンシーラント及び水性塗料の成分として、上記周知の成分を採用することは、当業者ならば容易になし得た程度のことである。

(イ)上記ア(イ)の主張について
本願明細書の段落【0025】?【0027】に記載された<実施例(カビ抵抗性試験)>をみると、防藻剤及び防カビ剤の成分として、本願発明において規定する成分であるイミダゾール系抗菌剤、イソチアゾリン系抗菌剤、トリアジン系抗菌剤及びチアゾリン系抗菌剤を含有して試験をしているが、上記4つの抗菌剤以外のものは試験をしていないので、防藻剤及び防カビ剤のその他の周知の成分と比較して、前記4つの抗菌剤を含有したことによる顕著な作用・効果を見出すことはできない。

また、カビの発生状況として、実施例1及び実施例2と比較して実施例3が一番結果となっていることが理解できる。しかしながら、この実施例3は、上記4つの抗菌剤全てを含有したものであるが、上記4つの抗菌剤のうちの一部の抗菌剤のみを含有した実施例1及び実施例2と比較して、抗菌剤の含有量の点でも一番多い実施例でもある。そうすると、上記比較結果が、含有した成分によるものなのか、それとも含有量によるものなのか、不明と言わざるを得ない。
したがって、本願出願前に防藻剤及び防カビ剤として周知の成分である、上記4つの抗菌剤を全て含有した本願発明が、請求人が主張するような顕著な効果を奏するとは認められない。

(5)作用効果について
本願発明が奏する作用効果についても、引用発明1及び周知技術が奏する作用効果から予測できた範囲のものである。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、その他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-01 
結審通知日 2015-04-07 
審決日 2015-04-27 
出願番号 特願2008-203877(P2008-203877)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 聡志  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 竹村 真一郎
住田 秀弘
発明の名称 建築物の外壁構造  
代理人 園田 吉隆  
代理人 小林 義教  

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