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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1302041 |
審判番号 | 不服2014-5629 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-03-26 |
確定日 | 2015-06-11 |
事件の表示 | 特願2011-191805「電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月21日出願公開、特開2013- 55198〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成23年9月2日に出願したものであって、手続の概要は以下のとおりである。 拒絶理由通知 :平成25年10月15日(起案日) 意見書 :平成25年11月25日 手続補正 :平成25年11月25日 拒絶査定 :平成25年12月20日(起案日) 拒絶査定不服審判請求 :平成26年 3月26日 手続補正 :平成26年 3月26日 拒絶理由通知(当審) :平成26年10月31日(起案日) 意見書 :平成26年12月26日 手続補正 :平成26年12月26日 拒絶理由通知(当審・最後):平成27年 1月15日(起案日) 意見書 :平成27年 3月23日 手続補正 :平成27年 3月23日 2.本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成27年3月23日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 半導体素子をスイッチング駆動することにより交直流変換を行う電力変換装置であって、 前記半導体素子と、 前記半導体素子への直流印加電圧を平滑する平滑コンデンサと、 前記半導体素子および前記平滑コンデンサが格納される筐体と、 前記半導体素子が発する熱を放熱する放熱部を有し、前記半導体素子を取り付けるベース面が前記筐体の内部壁面として構成され、前記半導体素子および前記平滑コンデンサが配置される密閉空間を前記筐体と共に形成する冷却器と、 前記半導体素子が配置された部分を避けた前記ベース面に塗布あるいは貼り付けられ、熱伝導率が前記ベース面より小さく、且つ、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率よりも大きい第1の断熱材と、 前記第1の断熱材の表面に塗布あるいは貼り付けられ、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率と同等あるいはより小さい第2の断熱材と、 を備え、 前記第1の断熱材および前記第2の断熱材は、前記ベース面から前記筐体の内部への放熱を抑制すると共に、前記放熱部への熱の伝搬を助長することを特徴とする電力変換装置。」 3.引用例 当審の平成26年10月31日付け拒絶理由通知に引用した特開2000-14169号公報(平成12年1月14日公開、以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (1)「【請求項1】インバータ用パワー素子を含むパワーモジュールと、インバータ制御基板および平滑コンデンサなどを格納する外装ケースと、前記パワーモジュールが固定され該パワーモジュールからの熱を放熱する放熱フィンと、前記外装ケースと前記放熱フィンの間に断熱隔壁を備え、前記パワーモジュールの配置部を除いた前記外装ケースと前記放熱フィンの間に断熱層を形成させ、前記放熱フィンからの熱による前記外装ケース内部の温度上昇を抑制したことを特徴とするインバータ装置。」 (2)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は可変電圧、可変周波数を得るインバータ装置に関する。」 (3)「【0011】従って本発明の目的は、パワーモジュールの熱が冷却フィンを介して外装ケース内に逆に戻ってくる熱を効果的に抑制して、電解コンデンサの長寿命化を図った、信頼性の高いインバータ装置を提供することにある。また、熱の抑制と組立性の向上が同時に図れる組立構造を有するインバータ装置を提供することにある。」 上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。 (a)引用例1には、「インバータ装置」が記載されている(摘示事項(2))。 (b)「インバータ装置」は、インバータ用パワー素子を含むパワーモジュールと、インバータ制御基板および平滑コンデンサなどを格納する外装ケースと、前記パワーモジュールが固定され該パワーモジュールからの熱を放熱する放熱フィンと、前記外装ケースと前記放熱フィンの間に断熱隔壁を備え、前記パワーモジュールの配置部を除いた前記外装ケースと前記放熱フィンの間に断熱層を形成させ、前記放熱フィンからの熱による前記外装ケース内部の温度上昇を抑制したものである(摘示事項(1))。 (c)外装ケース21は、パワーモジュール2を格納している(図1)。 (d)放熱フィン8は、外装ケース21と共にパワーモジュール2および平滑コンデンサ4が配置される空間を形成する(図1)。 以上を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「インバータ用パワー素子を含むパワーモジュールと、パワーモジュールおよび平滑コンデンサなどを格納する外装ケースと、前記パワーモジュールが固定され該パワーモジュールからの熱を放熱し、外装ケースと共にパワーモジュールおよび平滑コンデンサが配置される空間を形成する放熱フィンと、前記外装ケースと前記放熱フィンの間に断熱隔壁を備え、前記パワーモジュールの配置部を除いた前記外装ケースと前記放熱フィンの間に断熱層を形成させ、前記放熱フィンからの熱による前記外装ケース内部の温度上昇を抑制したインバータ装置。」 同じく、当審の平成26年10月31日付け拒絶理由通知に引用した特開平7-297561号公報(平成7年11月10日公開、以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (4)「【0041】実施例5.図10はこの発明の実施例5によるインバータ装置のパワー回路部分を示す外観図である。図において64は従来の例と同じである。パワー回路部分63のパワーモジュール表面には熱反射部材51が形成されている。この熱反射部材は例えば、アルミニウム粉を主成分とした塗料が塗布されている。図11は従来のインバータ装置である図12を組み立てた時のドライブ回路部分62中のX-xの位置に於ける断面図である。図において61?65は従来のインバータ装置と同じもの、もしくは相当品である。パワー回路部分63の上部のモールド部67表面近傍の内部には中空部52が形成され、表面には熱反射部材51が形成されている。 【0042】次に図11でケース内の熱の挙動を説明する。パワー回路部分63のモールド部67表面近傍に中空部52を形成したのでパワー回路部分63の発熱源であるスイッチング素子、ダイオードからモールド部67の表面へ熱伝導が抑制され、更に表面に熱反射部材51を形成したので熱の放射が低減する。各回路部分での発熱はケースのスリット66から流入する外気により冷却される。尚、パワー回路部分63の熱は放熱フィンへ主として放熱される。シールド効果は、パワーモジュール表面に塗布したアルミニウム粉入りの塗料につながているピン51eがドライブ回路部分62のアースと接続しているので実施例1と同様の効果がある。以上、この発明の実施例をインバータ装置を例にして説明したが、この発明は発熱素子を搭載した回路を含む複数の異なる回路基板を階層的に同一ケース内に収容する電子機器に適用され同様の効果を奏する。」 以上より、引用例2には、次の技術事項(以下「技術事項1」、「技術事項2」という。)が記載されているものと認める。 (技術事項1) 「断熱層を塗料の塗布により形成する。」 (技術事項2) 「断熱層を熱伝導を抑制する層と熱放射を低減する層とで構成する。」 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 (1)電力変換装置 引用発明の「インバータ装置」は、「半導体素子をスイッチング駆動することにより交直流変換を行う電力変換装置」といえる。 (2)半導体素子 引用発明の「インバータ用パワー素子」は、電力変換装置が備える「半導体素子」といえる。 (3)平滑コンデンサ 引用発明の「平滑コンデンサ」は、「前記半導体素子への直流印加電圧を平滑する平滑コンデンサ」といえる。 (4)筐体 引用発明の「外装ケース」は、パワーモジュールおよび平滑コンデンサを格納し、パワーモジュールはインバータ用パワー素子を含むから、「前記半導体素子および前記平滑コンデンサが格納される筐体」といえる。 (5)冷却器 引用発明の「放熱フィン」は、パワーモジュールが固定され該パワーモジュールからの熱を放熱し、外装ケースと共にパワーモジュールおよび平滑コンデンサが配置される空間を形成する。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記半導体素子が発する熱を放熱する放熱部を有し、前記半導体素子を取り付けるベース面が前記筐体の内部壁面として構成され、前記半導体素子および前記平滑コンデンサが配置される空間を前記筐体と共に形成する冷却器」を備える点で一致する。 もっとも、「冷却器が筐体と共に形成する空間」について、本願発明は、「密閉空間」であるのに対し、引用発明は、「密閉空間」ではない点で相違する。 (6)断熱材 引用発明は、外装ケースと放熱フィンの間に断熱隔壁を備え、パワーモジュールの配置部を除いた外装ケースと放熱フィンの間に断熱層を形成させたものである。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記半導体素子が配置された部分を避けた前記ベース面に形成させた断熱層」を備える点で一致する。 もっとも、「断熱層」について、本願発明は、「塗布あるいは貼り付けられ、熱伝導率が前記ベース面より小さく、且つ、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率よりも大きい第1の断熱材と、前記第1の断熱材の表面に塗布あるいは貼り付けられ、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率と同等あるいはより小さい第2の断熱材と」であるのに対し、引用発明は、「外装ケースと放熱フィンの間に断熱隔壁を備え、外装ケースと放熱フィンの間に形成させたもの」である点で相違する。 (7)断熱材の機能 引用発明は、放熱フィンからの熱による外装ケース内部の温度上昇を抑制したものである。 したがって、本願発明と引用発明とは、「断熱層は、前記ベース面から前記筐体の内部への放熱を抑制する」点で一致する。 もっとも、「断熱層」について、本願発明は、放熱部への熱の伝搬を助長するのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「半導体素子をスイッチング駆動することにより交直流変換を行う電力変換装置であって、 前記半導体素子と、 前記半導体素子への直流印加電圧を平滑する平滑コンデンサと、 前記半導体素子および前記平滑コンデンサが格納される筐体と、 前記半導体素子が発する熱を放熱する放熱部を有し、前記半導体素子を取り付けるベース面が前記筐体の内部壁面として構成され、前記半導体素子および前記平滑コンデンサが配置される空間を前記筐体と共に形成する冷却器と、 前記半導体素子が配置された部分を避けた前記ベース面に形成させた断熱層と、 を備え、 前記断熱層は、前記ベース面から前記筐体の内部への放熱を抑制する電力変換装置。」の点。 そして、次の点で相違する。 <相違点> (1)「冷却器が筐体と共に形成する空間」について、本願発明は、「密閉空間」であるのに対し、引用発明は、「密閉空間」ではない点。 (2)「断熱層」について、本願発明は、「塗布あるいは貼り付けられ、熱伝導率が前記ベース面より小さく、且つ、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率よりも大きい第1の断熱材と、前記第1の断熱材の表面に塗布あるいは貼り付けられ、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率と同等あるいはより小さい第2の断熱材と」であるのに対し、引用発明は、「外装ケースと放熱フィンの間に断熱隔壁を備え、外装ケースと放熱フィンの間に形成させたもの」である点。 (3)「断熱層」について、本願発明は、「前記放熱部への熱の伝搬を助長する」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。 5.判断 そこで、上記相違点(1)ないし(3)について検討する。 引用例2に記載されているように、インバータ装置に用いる断熱層として、塗料の塗布により形成した断熱層(技術事項1)、および、熱伝導を抑制する層と熱放射を低減する層とで構成した断熱層(技術事項2)が知られている。 そして、一般に、断熱層の性質として、熱伝導を抑制することと、熱放射を低減することとは、択一的である。 したがって、引用発明において、「断熱層」について、「外装ケースと放熱フィンの間に断熱隔壁を備え、外装ケースと放熱フィンの間に形成させたもの」に代えて、上記技術事項2、及び技術事項1を適用して「塗布あるいは貼り付けられ、熱伝導率が前記ベース面より小さく、且つ、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率よりも大きい第1の断熱材と、前記第1の断熱材の表面に塗布あるいは貼り付けられ、熱輻射率が前記ベース面の熱輻射率と同等あるいはより小さい第2の断熱材と」を採用することは、当業者が容易に想到し得る。 そして、上記構成を採用した場合に、「冷却器が筐体と共に形成する空間」について、「密閉空間」とすることは、筐体内への放熱量と内蔵される平滑コンデンサの耐熱温度等に応じて、適宜なし得る設計的事項にすぎない。また、「断熱層」については、内部への放熱をより抑制するのであるから、「前記放熱部への熱の伝搬を助長する」こととなる。 効果についてみても、上記構成の変更に伴って当然に予測される程度のことにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-03-31 |
結審通知日 | 2015-04-07 |
審決日 | 2015-04-21 |
出願番号 | 特願2011-191805(P2011-191805) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 越本 秀幸 |
特許庁審判長 |
丹治 彰 |
特許庁審判官 |
酒井 朋広 関谷 隆一 |
発明の名称 | 電力変換装置 |
代理人 | 酒井 宏明 |