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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07K 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C07K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1302079 |
審判番号 | 不服2012-26039 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-12-28 |
確定日 | 2015-06-18 |
事件の表示 | 特願2009-526530「神経伝達物質の遮断のための融合ペプチド及びその伝達方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年3月6日国際公開、WO2008/026852、平成22年1月28日国内公表、特表2010-502592〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2007年8月24日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2006年8月31日 韓国(KR))を国際出願日とする出願であって,平成23年12月9日付けで拒絶理由が通知され,平成24年3月13日に意見書が提出されたが,同年8月31日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年12月28日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。 第2 平成24年12月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成24年12月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成24年12月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,外国語書面の翻訳文の特許請求の範囲を以下のとおり補正する補正を含むものである(以下,外国語書面の翻訳文の特許請求の範囲を「補正前の特許請求の範囲」と,本件補正によって補正された特許請求の範囲及び明細書を,それぞれ,「補正後の特許請求の範囲」,「本件補正明細書」という。)。 補正前の請求項1である 「5?30個のアミノ酸からなり、アルギニンを30%以上含む蛋白質伝達体(Protein Transduction Domain, PTD)と、SNARE複合体を構成するSNAP25の結合ドメイン(SEQ ID. NO.: 4)又はVAMP-2の結合ドメイン(SEQ ID. NO.: 5)とがコンジュゲイションされた、生体内で神経伝達物質の分泌を抑制するための融合ポリペプチド。」を, 補正後の請求項1である 「5?30個のアミノ酸からなり、アルギニンを30%以上含む蛋白質伝達体(Protein Transduction Domain, PTD)と、SNARE複合体を構成するSNAP25の結合ドメイン(SEQ ID. NO.: 4)又はVAMP-2の結合ドメイン(SEQ ID. NO.: 5)とが、m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基を有するリンカー(linker)を介してコンジュゲイションされた、生体内で神経伝達物質の分泌を抑制するための融合ポリペプチド。」と補正する。 2 補正の適否 (1)新規事項について ア 外国語書面の翻訳文の記載について 特許法第36条の2第6項の規定により願書に添付して提出された明細書,特許請求の範囲又は図面とみなされた本願の外国語書面の翻訳文には以下の記載がある。 (a)「【請求項3】 蛋白質伝達体が、SNAP25の結合ドメイン(SEQ ID. NO.: 4)又はVAMP-2の結合ドメイン(SEQ ID. NO.: 5)とリンカー(linker)によりコンジュゲイションされることを特徴とする請求項1又は2に記載の融合ポリペプチド。 【請求項4】 リンカーが3個のグリシンからなることを特徴とする請求項3に記載の融合ポリペプチド。」 (b)「【0015】 【化1】 【0016】 上記式で、[]_(PTD)は自己細胞侵透性PTDペプチドであり、R_(1)はタイロシン、アラニン、アルギニン、バリン、グリシン及びプロリンの側鎖(side chain)からなる群から一種以上選択され、nは5?30の整数であり、全体のアミノ酸のうち30%以上がアルギニンである。PTDの例としては、Hph-1(SEQ ID. NO.: 6 - YARVRRRGPRR)、Sim-2(SEQ ID. NO.: 7 - AKAARQAAR)、Tat(SEQ ID. NO.: 8 - YGRKKRRQRRR)、Antp(SEQ ID. NO.: 9 - RQIKIWFQNRRMKWKK)、VP22(SEQ ID. NO.: 10 - DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSAS RPRRPVE)、R7(SEQ ID. NO.: 11 - RRRRRRR)、MTS(SEQ ID. NO.: 12 - AAVALLPAVLLALLAPAAADQNQLMP)、pep-1(SEQ ID. NO. 13 - KETWWETWWTEWSQPKKKRKV)などがある。[]_(Gly)は、自己細胞侵透性PTDペプチドとSBD又はVBDペプチドとを連結し、融合ペプチドの流動性を増進させて、浸透したPTD-SBD又はVBDとSNAPE複合体との間の結合効率性を増進させる。mは0?5の整数である。上記化学式1では、Glyがリンカーとして使用されたことが提示されているが、多様なリンカーが本発明の目的によって利用可能である。」 (c)「【0018】 本発明によれば、SBD又はVBDとPTDのペプチドとの間に約3個のグリシン残基を挿入させることによって、細胞内への伝達及び吸収効率を上昇させることができる。」 (d)「【0028】 実施例1:PTD-SBD(VBD)コンジュゲイトの製造 (1)PTD-SBD(VBD)コンジュゲイトの製造 YARVRRRGPRRGGGEIDTQNRQIDRIMEKAQANKTRIDEANQRATKMLGSG(PTD-GGG-SBD polypeptide) YARVRRRGPRRGGGNRRLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLKR(PTD-GGG-VBD polypeptide)のアミノ酸配列を有する融合ポリペプチドをペプチド半自動合成機(Peti-Syzer Model PSS-510)を利用して固相(solid phase)ペプチド合成法により合成した。」 (e)「【0033】 試料1:SBD(SEQ ID. NO.:4) 試料2:VBD(SEQ ID. NO.:5) 試料3:Hph-1-GGG-SBD(SEQ ID. NO.:14) 試料4:Hph-1-GGG-VBD(SEQ ID. NO.:15) 試料5:Tat-GGG-SBD(SEQ ID. NO.:16) 試料6:Hph-1-GGG-SBDF1(SEQ ID. NO.:17) 試料7:Hph-1-GGG-SBDF2(SEQ ID. NO.:18) 試料8:Hph-1-GGG-VBDF1(SEQ ID. NO.:19) 試料9:Hph-1-GGG-VBDF2(SEQ ID. NO.:20) Hph-1-GGG-SBD(SEQ ID. NO.: 14) YARVRRRGPRRGGGEIDTQNRQIDRIMEKAQANKTRIDEANQRATKMLGSG Hph-1-GGG-VBD(SEQ ID. NO.: 15) YARVRRRGPRRGGGNRRLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLKR Tat-GGG-SBD(SEQ ID. NO.: 16) YGRKKRRQRRRGGGEIDTQNRQIDRIMEKAQANKTRIDEANQRATKMLGSG Hph-1-GGG-SBDF1(SEQ ID. NO.: 17) YARVRRRGPRRGGGIMEKAQANKTRIDEANQRATKMLGSG Hph-1-GGG-SBDF2(SEQ ID. NO.: 18) YARVRRRGPRRGGGKTRIDEANQRATKM Hph-1-GGG-VBDF1(SEQ ID. NO.: 19) YARVRRRGPRRGGGNRRLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQK Hph-1-GGG-VBDF2(SEQ ID. NO.: 20) YARVRRRGPRRGGGLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLKR」 なお,図面には,リンカーに関する記載は見あたらない。 イ 判断 補正後の請求項1には,「m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基を有するリンカー(linker)を介してコンジュゲイションされた」との発明特定事項を含んでいる。ここで,「m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基を有するリンカー」とは,その文言からして,1?5個のグリシン残基がリンカー中に存在すればよく,グリシン残基のほかに他のアミノ酸の残基を有するリンカーもその範囲内に含むものということができる。 一方,外国語書面の翻訳文の特許請求の範囲又は明細書には,「リンカーが3個のグリシンからなること」(摘記a参照),化学式1において,「Gly」と表記された繰り返し単位に「m」が記載され,「mは0?5の整数である。上記化学式1では、Glyがリンカーとして使用された」と記載され(摘記b参照),さらに「本発明によれば、SBD又はVBDとPTDのペプチドとの間に約3個のグリシン残基を挿入させる」と記載されている(摘記c参照)。 また,外国語書面の翻訳文の明細書に,実施例として,「PTD-SBD(VBD)」の間に「GGG」が挿入されたペプチドのみが記載されている(摘記d,e参照)。 そうすると,外国語書面の翻訳文の特許請求の範囲又は明細書には,グリシン残基が1?5個からなるリンカー(すなわち,「m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基からなるリンカー」といえる。)については記載されているといえるものの,グリシン残基のほかに他のアミノ酸の残基を有してもよい「m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基を有するリンカー」について記載されているということはできない。 また,外国語書面の翻訳文の明細書には,「Glyがリンカーとして使用されたことが提示されているが、多様なリンカーが本発明の目的によって利用可能である。」(摘記b参照)とも記載されているが,この「多様なリンカー」が具体的にどのようなものかは何ら記載がなく,実施例などで開示される具体的なリンカーはすべてグリシン残基のみからなるリンカーであること(摘記d,e参照)からすれば,「多様なリンカー」とはグリシン残基からなるリンカーとは関係のないより広義のリンカーを意味するものといえ,この記載から,グリシン残基のほかに他のアミノ酸の残基を有してもよい「m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基を有するリンカー」との技術的事項を導き出すことができるとはいえない。 よって,「m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基を有するリンカー(linker)を介してコンジュゲイションされた」との発明特定事項を新たに追加する上記補正は,外国語書面の翻訳文の明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものと解さざるを得ず,上記補正は,外国語書面の翻訳文の明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものということはできない。 ウ まとめ 以上のとおりであるから,上記補正を含む本件補正は特許法第17条第3項の規定に違反してなされたものである。 (2)目的要件について 上述のとおり,本件補正は,特許法第17条第3項の規定に違反してなされたものであるが,仮に,そうでないとしてさらに検討する。 本件補正は,審判請求と同時になされたものであるから,その補正は特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とするものに限られる。 上記補正は,補正前の「コンジュゲイションされた」との発明特定事項を,補正後の「m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基を有するリンカー(linker)を介してコンジュゲイションされた」との発明特定事項とする補正であって,補正前の請求項1の「コンジュゲイションされた」ものの構造を「m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基を有するリンカー(linker)を介して」「コンジュゲイションされた」ものに限定したものといえ,また,補正前と補正後で発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものであるので,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3)独立特許要件について 上記補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるかについてさらに検討する。 なお,本件補正発明は,上記1に記載した補正後の請求項1に記載した事項により特定されるとおりのものである。 ア 刊行物の記載事項 本願の優先日前に日本国内又は外国で頒布された以下の刊行物には,それぞれ,以下の事項が記載されている。 (ア)刊行物1の記載事項 国際公開第97/34620号(以下「刊行物1」という。原査定の引用文献1である。)には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。 (1a)「1.興奮-分泌連関でない、長さが少なくとも約20個のアミノ酸のペプチドを含む、神経細胞からの神経伝達物質の分泌を阻害するための薬剤であって、ペプチドは実質的に全てのアミノ酸が配列番号4またはその断片に対応する上記薬剤。」(第39頁,請求項1) (1b)「15.興奮-分泌連関でない、長さが少なくとも約20個のアミノ酸のペプチドを含む、神経細胞からの神経伝達物質の分泌を阻害するための薬剤であって、ペプチドは実質的に全てのアミノ酸が配列番号5またはその断片に対応する上記薬剤。」(第40頁,請求項15) (1c)「31.興奮-分泌連関でない、長さが少なくとも約20個のアミノ酸のペプチドを含む、神経細胞からの神経伝達物質の分泌を阻害するための薬剤であって、ペプチドは実質的に全てのアミノ酸が配列番号6またはその断片に対応する上記薬剤。」(第42頁,請求項31) (1d)「B.本発明のESUPsによって阻害される結合複合体の形成 SNAREモデルは、小胞のドッキング、小胞のプライミングおよび小胞の(原形質膜への)融合という3つの異なるステージで構成されているエキソサイトーシスカスケードの最終工程を説明するものである。ドッキングは、(小胞膜上にある)VAMP-2と、SNAP-25およびシンタキシン(両方とも細胞膜タンパク質)の間のタンパク質複合体の形成に関連している。得られた複合体は、SNAPタンパク質の受容体として機能し、NSFを引き寄せる。結合したNSFによるATPの加水分解は、小胞をプライミングされた状態へと励起する。一旦プライミングすると、小胞は、細胞膜と融合し、適切なCa^(2+)シグナルに応答して、小胞の内容物(例えば、アセチルコリンのような)を放出することができる。 SNAP-25、VAMP-2及びシンタキシンは等モルの化学量で、非常に緊密に互いに結合し、安定した三元複合体の形成する(林ら、EMBO J. 13:5051-5061(1994)および図1)。VAMP-2とシンタキシンが最初に低い親和性(すなわち、見かけのK_(d)はマイクロモルの範囲にある)で結合し、その親和性は、SNAP-25の存在下で実質的に増加する。一旦形成されると、ドッキング複合体は、細胞膜へのシナプス小胞の橋渡しをし、α-SNAPとNSFのための結合部位として働き(McMahonら、J. Biol. Chem. 270:2213-2217(1995))、この結合部位は小胞のエキソサイトーシスの最終融合工程を仲介する。図1のスキームは、ドッキング複合体と小胞エキソサイトーシスの形成を導くタンパク質の結合相互作用に関して現在入手可能な情報をまとめたものである。 完全長SNA-25、VAMP-2およびシンタキシンのタンパク質の各アミノ酸配列は、配列番号1-3で示される。VAMP、SNAP-25およびシンタキシンの基質結合ドメイン領域は、図3-5に示されるとおりであり:以下のとおりである。 ヒトSNAP-25: 170-EIDTQNRQIDRIMEKADSNKTRIDEANQRATKMLGSG-206(配列番号4) ヒトVAMP-2: 29-NRRLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLR-86 (配列番号5) ラットシンタキシン(現時点でヒト配列は未知であるが、ラット配列と高度の相同性を有することが期待されている。): 199-HSEIIKLENSIRELHDMFMD-218 (配列番号6)」(明細書第7頁第17行?第9頁第4行) (1e)「本発明は、ESUPsの作用メカニズムに関するいかなる特定の理論に限定されるものではないが、ESUPの神経伝達物質放出阻害作用のメカニズムは以下のように推定される。ESUPsは、その相互作用がドッキング複合体の形成をもたらす基質の結合ドメインの全て又は一部に対応する。選択的にドッキング複合体のタンパク質間の結合を妨害することによって、小胞のドッキングを防止し、結果として、神経伝達物質の分泌を抑制することができる。本発明においては、このような結合の妨害がドッキング複合体のタンパク質間の結合への競合としてESUPsによって提供されていると考えられる。ESUPsは、また、小胞の受容体として機能するのに十分に安定したドッキング複合体となるのに必要な立体的な変化に対する障壁としても機能することができる。 本発明のESUPsは共通の構造的な特徴を有している。ESUPは、各々少なくとも約20のアミノ酸からなり、基質結合ドメインである、SNAP-25とシンタキシンに結合するVAMP;VAMPとシンタキシンに結合するSNAP-25;VAMPとSNAP-25に結合するシンタキシン(図3-5、配列番号4-6参照);の全て又は一部にその配列が対応するものである。」(明細書第10頁第1?13行) (1f)「(xi)配列表示:配列番号2 」(明細書第28?29頁) (イ)刊行物2の記載事項 Biochimica et Biophysica Acta, 2001, Vol.1539, p.225-232(以下「刊行物2」という。原査定の引用文献2である。)は,「Tat HPC-1/シンタキシン 1A融合タンパク質による伝達物質放出の抑制」という標題の論文であり,日本語にして以下の事項が記載されている。 (2a)「2.2.プラスミド構築体 Tat PTDペプチド(GYGRKKRRQRRRG)をコードする二重らせんオリゴヌクレオシドは緑色蛍光タンパク質(GFP)cDNAフラグメントと結合された。このフラグメントはpPro Ex-1ベクター(Gibco BRL)にサブクローニングされた。HPC-1/シンタキシン1A cDNAフラグメントはPCRで調製された。N265(1-265), N201(1-201), N97(1-97)及びH3(202-265)をコードしたPCRフラグメントがTat-GFPベクターにおいてGFPcDNAと置換された。 2.3.タンパク質の発現及びペプチドが結合したタンパク質の調製 全ての組み換えタンパク質は大腸菌DH5α細胞で1mMのIPTGを導入して製造された。これらの組み換えタンパク質(ヒスタミン標識融合タンパク質)は100mMのNaClと20mMのHEPESを含む8Mの尿素溶液(pH8.0)で抽出された。抽出物はNi-アガロースカラムで吸着された。組み換えタンパク質は200mMのイミダゾールを含む緩衝液で溶出された。精製された組み換えタンパク質はPD-10カラム(Amersham Pharmacia Biotech)で脱塩され、Hanks平衡塩溶液(HBSS)に入れて培地に適用された。 IgGは0.1Mのホウ酸緩衝液(pH8.5)に5mg/mlになるように溶解され、5-10倍のモル過剰のスルフォスクシンイミジル-6-[3'-(2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド]ヘキサノネート(slcSPDP Pierce)で3時間25℃でインキュベートされた。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で透析された後、反応生成物は3倍のモル過剰のTat PDTペプチドで24時間4℃でインキュベートされた。最終的にIgGが結合したペプチドがHBSSで透析された。」(第226頁左欄第24行?右欄第16行) (2b)「2.7.放出アッセイ ・・・ノルアドレナリン(NA)・・・」(第227頁左欄第14?19行) (2c)「3.1.Tat融合タンパク質はPC12細胞中に取り込まれた Tat PTDを仲介したタンパク質の取り込みが生じるかについて試験するために、PC12細胞が組み換えタンパク質と共にインキュベートされた。図1Aをみると、Tat-GFPは大部分のPC12細胞中に10分以内に取り込まれたが、GFP処理のみ(図1B)では、この現象は観察されなかった。PC12細胞はまたHPC-1/シンタキシン1AのH3ドメインと融合したTat PTD(Tat-H3)ともインキュベートされた。H3ドメインは別のSNAREタンパク質と結合し、無処理細胞の伝達物質の放出を抑制することが知られている[13]。免疫組織化学的研究では、Tat-H3もまた急速に取り込まれ(図1C)、H3単独の処理ではこのような現象が観察されなかった(図1D)。抗体によるインキュベーションの前にTriton X-100による透過処理をしないと、この信号が観察されなかった(データは示していない)ことから、Tat-H3はPC12細胞内に確実に取り込まれたものと考えられる。免疫プロット法も細胞質ゾルと膜フラクションの両者に取り込まれたTat-H3の存在を示している(図1E、レーン1、2)が、H3単独処理ではこのような現象が観察されなかった(図1E、レーン3、4)。 これらの結果はTat-PTDで仲介されたタンパク質がPC12細胞中への取り込みを引き起こすことを明らかに示した。」(第227頁右欄第2行?第228頁左欄第14行) (2d)「3.2.Tat-H3で処理された細胞における伝達物質の放出抑制 取り込まれたタンパク質が作用を維持するか研究するために、PC12細胞は0.3μMのTat-H3と18時間インキュベートされ、[^(3)H]NAで3時間標識化された。[^(3)H]NAの取り込みには、Tat-H3で処理された細胞もTat-GFPで処理した対照細胞にも違いは見られなかった(データは示していない)。これらの細胞は高いK^(+)で5分間刺激された。[^(3)H]NAの放出量は、Tat-H3で処理したものは、Tat-GFPで処理されたものやH3で処理されたものよりも有意に低かった(図3A)。この驚くべき効果は、Tat-H3処理前に[^(3)H]NAで事前に標識化された細胞でも観察された(図5A)。[^(3)H]NAの放出の抑制は、投薬量依存性であり、効果を極大の50%にする濃度は、0.2μMと評価された。Tat-H3処理がCa^(2+)-依存性の伝達物質の放出を抑制するか試験するために、PC12細胞はCa^(2+)フリーの条件下で刺激された。図3Aに示すように、[^(3)H]NAの放出量は、Tat-H3で処理したものは、Ca^(2+)フリーの条件下ではTat-GFPで処理されたものやH3で処理されたものと意味のある相違が見られなかった。これらの結果は、取り込まれたTat-H3がPC12細胞内において作用を維持していることを示唆している。 我々はさらに別のHPC-1/シンタキシン1AフラグメントがPC12細胞の伝達物質の放出に影響するか調べた。H3以外のHPC-1/シンタキシン1Aフラグメントを融合したTat PTDによる処理は、[^(3)H]NAの放出の重要な効果を示さず(図3C)、抑制効果がH3ドメインに特異的であることが示されている。同様の結果がCCh刺激でも得られた(データは示していない)。」(第228頁右欄第7?38行) (ウ)刊行物4の記載事項 生物と化学,Vol.43, No.10, 1995, p.649-653(以下「刊行物4」という。原査定の引用文献4である。)は,「膜透過ペプチドを用いた蛋白質細胞内移送」という標題の技術文献であり,以下の事項が記載されている。なお,刊行物4は,本願の優先日時点での技術常識を示すための文献である。 (4a)「HIV-1 Tatペプチドなどの膜透過能を有するペプチドを用いた蛋白質の動物細胞への導入法が注目されている^((1)).cell-penetrating peptides (CPP) あるいは protein transduction domain (PTD) とも総称されるこれらのペプチドと,細胞内に導入したい蛋白質との融合蛋白質あるいは化学的架橋体を,細胞の培養液に単に加えるだけで,目的蛋白質が細胞内に移送される (図1).この方法により細胞機能が制御できたことを報告する論文数はすでに100を超えており,新しい細胞内蛋白質導入法として認知されてきている.」(第649頁左欄第10?19行) (4b)「現在,表1にあげるように細胞透過能を有するいくつかのタイプのペプチドが報告されている.代表的なものとして, 1○(審決注:丸文字に1である。以下同じである。)アルギニンなどの塩基性アミノ酸に富むもの:HIV-1 Tat 蛋白質のアミノ酸配列48-60位に対応するペプチド配列 (Tat ペプチド)^((2))やオリゴアルギニン^((3,4))など 2○塩基性部分と疎水性部分を有する両親媒性ペプチド:DrosophilaのAntennapedia 蛋白質由来ペプチド(penetratin)^((5))など 3○疎水性配列に若干の塩基性配列を含むペプチド:神経ペプチドgalaninとハチ毒 mastoparan のキメラペプチドであるtransportan^((6)) 4○疎水性ペプチド:分泌シグナルペプチド由来ペプチドMTS^((7)) などがあげられる.Tat あるいは Antennapedia 由来ペプチドは,これらの中でも最もよく用いられている.」(第649頁左欄第20行?右欄第16行) (4c)「この方法を用いて,培養細胞へ生理活性蛋白質を導入することにより,アポトーシスの誘導や細胞周期の調節をはじめとする様々な細胞機能が調節できたことが報告されている (表2). 」(第650頁左欄末行?右欄第3行,表2) (エ)参考文献の記載事項 以下に示す参考文献1?3は,本願の優先日時点での技術常識を示すための文献である。 特開2003-9883号公報(以下「参考文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。 (5a)「【0018】PTDはMITF変異体のN末端側、C末端側のいずれに結合していてもよい。また、結合は直接でもよく、架橋剤(リンカー)を介して間接的なものであってもよい。リンカーとしてはグリシンなどが例示される。」 (5b)「【0020】本ドメインは融合蛋白質のN末端側、C末端側のいずれに結合していてもよい。また、結合は直接でもよく、架橋剤(リンカー)を介して間接的なものであってもよい。リンカーとしてはグリシンなどが例示される。」 国際公開2004/91534号(以下「参考文献2」という。)には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。 (6a)「本発明の融合ペプチドは、「リンカー」又は「スペーサ」ドメインである第3のドメインを含んでもよい。・・・一般に、リンカードメインは長さ約1?10の範囲のアミノ酸であり、好ましくは長さ約3?5のアミノ酸である。代表的なリンカードメイン,GGGは以下の実施例に記載されている。」(第10頁第7?14行) (6b)「ペプチド ペプチドはAnaspec Inc. (San Jose CA)で合成された。TAT-NAF222融合ペプチド配列はYGRKKRRQRRR-GGG-LDKEFNSIFRRAFASRVFPPE(配列番号2)である。対照ペプチドのTAT-NAF222scr配列はYGRKKRRQRRR-GGG-ENSFRFLADIFIFPAKAFPVRFE(配列番号3)である。」(第29頁第1?5行) 国際公開2004/110359号(以下「参考文献3」という。)には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。 (7a)「 」(第17?18頁のTable1) (7b)「[0046]表1のあらゆるコラムからのペプチド構成成分は、例えばGly-Gly-Gly-Gly-Gly-などの、グリシンリッチペプチドとして当業者には既知であるオリゴペプチドリンカーによって連結され得る、若しくは天然由来アミノ酸、4-アミノブチル酸或いは6-アミノカプロン酸のような置換若しくはベータ或いはガンマアミノ酸を含む調整リンカーが用いられ得る。これに限定されるものではないがアルキルジアミン、アミノ或いはアルキルジオールを含む他のリンカーも使用される。好ましくは、前記融合タンパク質の形質導入構成成分は、前記キメラタンパク質の末端部分に存在する。共通リンカーの他の例は、これに限定されるものではないが、Gly-Gly-Ala-Gly-Gly-、Gly/Serリッチリンカー(例えばGly_(4)Ser_(3))、若しくはGly/Alaリッチリンカーを含む。さらに、リンカーは、任意の長さであり、前記融合タンパク質における構成成分の移動性を促進する或いは制限するように設計される。」(第18頁第3行?第19頁第2行) イ 刊行物1に記載された発明 刊行物1には,「長さが少なくとも約20個のアミノ酸のペプチドを含む、神経細胞からの神経伝達物質の分泌を阻害するための薬剤であって、ペプチドは実質的に全てのアミノ酸が配列番号5に対応する上記薬剤」が記載され(摘記1b参照),配列番号5は,ヒトVAMP-2の結合ドメインのアミノ酸配列に対応する(摘記1d参照)。 そうすると,刊行物1には,「ヒトVAMP-2の結合ドメインのアミノ酸配列のペプチドを含む、神経細胞からの神経伝達物質の分泌を阻害するための薬剤」についての発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 ウ 対比・判断 (ア)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「ヒトVAMP-2の結合ドメインのアミノ酸配列」は, 「29-NRRLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLR-86」と表記され(摘記1d参照),VAMP-2の配列の29?86番目のアミノ酸配列を意味するものと解されるところ,上記のアミノ酸配列のアミノ酸表示は57個しかなく,29?86番目のアミノ酸58個に1つ足りないので誤記があるものと解される。そして,VAMP-2全体のアミノ酸配列である配列番号2(摘記1f参照)と照らし合わせると,正しくは, 「29-NRRLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLKR-86」(審決注:誤記修正部分を下線で示す。)と表記されるべきものと認められる。 一方,本件補正発明の「VAMP-2の結合ドメイン(SEQ ID. NO.:5)」は, 「NRRLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLKR」(本件補正明細書【0011】,【0012】参照)のアミノ酸配列であるから,引用発明の「ヒトVAMP-2の結合ドメインのアミノ酸配列」と同一である。 また,引用発明の「ヒトVAMP-2の結合ドメイン」は,SNAP-25の結合ドメイン及びシンタキシンの結合ドメインとともに結合してSNARE複合体を生じることも記載されている(摘記1d参照)。 してみると,引用発明の「ヒトVAMP-2の結合ドメインのアミノ酸配列」は,本件補正発明の「SNARE複合体を構成するVAMP-2の結合ドメイン(SEQ ID. NO.:5)」に相当する。 また,引用発明の「神経細胞からの神経伝達物質の分泌を阻害する」ことは,本件補正発明の「生体内で神経伝達物質の分泌を抑制する」ことに相当する。 そうすると,本件補正発明と引用発明とは, 「SNARE複合体を構成するVAMP-2の結合ドメイン(SEQ ID. NO.:5)を含む、生体内で神経伝達物質の分泌を抑制するポリペプチド」である点で一致し, 本件補正発明では,VAMP-2の結合ドメインが「5?30個のアミノ酸からなり、アルギニンを30%以上含む蛋白質伝達体(Protein Transduction Domain, PTD)」と,「m個(但し、mは1から5までの整数)のグリシン残基を有するリンカー(linker)を介してコンジュゲイションされた」,「融合ポリペプチド」であるのに対して, 引用発明は,VAMP-2の結合ドメインがこのような蛋白質伝達体とコンジュゲイションされていない点(以下「相違点」という。)で相違している。 (イ)相違点の検討 刊行物2には,Tat PTDペプチド(GYGRKKRRQRRRG)とシンタキシンの結合ドメインであるH3ドメインとを融合したTat-H3で処理したPC12細胞は,Tat-GFPで処理されたPC12細胞やH3で処理されたPC12細胞よりもNA,すなわちノルアドレナリンの放出を抑制することが記載されている(摘記2a,2b,2c参照)。そして,Tat PTDペプチドは,13個のアミノ酸,すなわち5?30個のアミノ酸からなり,アルギニン(R)を6個,すなわち30%以上含む蛋白質伝達体であり,PC12細胞は神経細胞であり,NA(ノルアドレナリン)は神経伝達物質である。 また,刊行物1には,SANRE複合体がVAMP-2,SNAP-25,シンタキシンの3つの蛋白質が結合して形成されること(摘記1d参照),及びその結合をESUPs,すなわち,VAMP-2,SNAP-25,シンタキシンの結合ドメイン又はその断片を含む薬剤で競合的に妨害して神経伝達物質の分泌を抑制すること(摘記1a,1b,1c,1e参照)も記載されている。 さらに,刊行物4には,TatペプチドなどPTDと総称されるペプチドと,細胞内に導入したい蛋白質との融合蛋白質あるいは化学的架橋体を,細胞の培養液に単に加えるだけで,目的蛋白質が細胞内に移送され,細胞機能が制御できる事例が数多く報告されていることが記載されている(摘記4a?4c参照)ことからみて,このようなPTDペプチドと細胞内に導入したい蛋白質との融合ペプチドを合成して,当該蛋白質を細胞内へ導入して細胞機能を制御する手法が本件優先日時点において当業者の技術常識となっていたものと認められる。 そうすると,刊行物2のTat PTDペプチドとH3ドメインとを融合したTat-H3は,このような技術常識を適用して得られたものであり,H3ドメイン単独のペプチドよりもTat-H3を使用することで,神経細胞内にこれを導入してSANRE複合体の形成を妨害し,神経伝達物質の放出を抑制する効果を高めたものであることは,当業者であれば当然に理解できるといえる。 そして,引用発明は,「ヒトVAMP-2の結合ドメイン」であるところ,刊行物1には,VAMP-2,SNAP-25,シンタキシンの結合ドメインのいずれでもSANRE複合体の結合を妨害する効果があることが記載されていることからすれば,シンタキシンの結合ドメインであるH3ドメインと同様に,「ヒトVAMP-2の結合ドメイン」においても,刊行物2に記載されるようにTat-PTDペプチドと融合したペプチドとすることで,神経細胞内にこれを導入して神経伝達物質の分泌を抑制する効果を高めることができるであろうことは当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。 してみると,引用発明において,神経伝達物質の分泌を抑制する効果を高めるために,刊行物2に記載されるように,5?30個のアミノ酸からなり,アルギニンを30%以上含む蛋白質伝達体であるTat-PTDペプチドと,ヒトVAMP-2の結合ドメインとを融合したポリペプチドとすることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。 また,刊行物2に記載されるTat PTDペプチドは「GYGRKKRRQRRRG」であるから,PTD部分が本件補正発明のTatのように「YGRKKRRQRRR」(本件補正明細書【0033】参照)を意味するとすれば,グリシン残基を介してコンジュゲイションされたものということができる。 さらに,参考文献1?3の記載によれば,PTDと蛋白質を結合するリンカーを5個までのグリシン残基を有するものとすることは本件優先日の時点で多数の例が存在すること(摘記5a,5b,6a,6b,7a,7b参照)からみて本件優先日時点では技術常識となっていたといえるから,引用発明において,VAMP-2の結合ドメインとPTDペプチドとを融合するに際して,5個までのグリシン残基を有するリンカーを介してコンジュゲイションして融合ペプチドとすることも当業者が融合ペプチドの合成にあたって容易になし得たことと認められる。 (ウ)効果について 本件補正発明の効果は,本件補正明細書の実施例4の記載などからみて,ポリペプチドの神経伝達物質の分泌抑制効果を高めたことと認められる。 しかしながら,刊行物2に記載されるように,シンタキシンの結合ドメインであるH3ドメイン単独よりもTat-PTDとH3ドメインが融合したポリペプチドでは神経伝達物質の放出が抑制される効果を奏するのであるから,同じく引用発明の「ヒトVAMP-2の結合ドメイン」に,Tat-PTDを融合したポリペプチドにおいても,同様の効果を奏することは当業者が十分に予測し得ることと認められる。 そうすると,本件補正発明の効果は格別顕著なものと認めることができない。 エ まとめ 以上のとおり,本件補正発明は本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1,2に記載された発明及び本件優先日前の技術常識に基いて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 むすび 以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるか,そうでないとしても,同条第6項で準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものである。 したがって,本件補正は,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明 平成24年12月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?5に係る発明は,外国語書面の翻訳文の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。 「5?30個のアミノ酸からなり、アルギニンを30%以上含む蛋白質伝達体(Protein Transduction Domain, PTD)と、SNARE複合体を構成するSNAP25の結合ドメイン(SEQ ID. NO.: 4)又はVAMP-2の結合ドメイン(SEQ ID. NO.: 5)とがコンジュゲイションされた、生体内で神経伝達物質の分泌を抑制するための融合ポリペプチド。」 第4 原査定の理由の概要 原査定の理由の概要は,本願発明は,本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1,2に記載された発明に基いて,本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないという理由を含むものであって,その刊行物1,2として, 刊行物1:国際公開第97/34620号 刊行物2:Biochimica et Biophysica Acta, 2001, Vol.1539, p.225-232 が引用されている。 第5 当審の判断 1 刊行物1,2の記載事項 上記「第2 2(3)ア」の(ア),(イ)に記載のとおりである。 2 刊行物1に記載された発明 上記「第2 2(3)イ」に記載のとおりである。 3 対比 本件補正発明と引用発明とは,上記「第2 2(3)ウ(ア)」に記載したとおりの対応関係があるから, 本願発明と引用発明とは, 「SNARE複合体を構成するVAMP-2の結合ドメイン(SEQ ID. NO.:5)を含む、生体内で神経伝達物質の分泌を抑制するポリペプチド」である点で一致し, 本願発明では,VAMP-2の結合ドメインが「5?30個のアミノ酸からなり、アルギニンを30%以上含む蛋白質伝達体(Protein Transduction Domain, PTD)と」,「コンジュゲイションされた」,「融合ポリペプチド」であるのに対して, 引用発明は,VAMP-2の結合ドメインがこのような蛋白質伝達体とコンジュゲイションされていない点(以下「相違点A」という。)で相違している。 4 相違点Aの検討 上記「第2 2(3)ウ(イ)」で述べたとおり,刊行物2には,Tat PTDペプチド(GYGRKKRRQRRRG)とシンタキシンの結合ドメインであるH3ドメインとを融合したTat-H3で処理した神経細胞は,H3ドメインのみで処理された神経細胞よりも神経伝達物質の放出を抑制することが記載されているから,H3ドメインと同様の神経伝達物質の抑制効果を有するヒトVAMP-2の結合ドメインである引用発明においても,それを細胞内に移送させて同様の効果を得るため,刊行物2に記載されるように,5?30個のアミン酸からなり,アルギニンを30%以上含む蛋白質伝達体であるTat-PTDペプチドと融合したポリペプチドとすることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。 5 効果について 上記「第2 2(3)ウ(ウ)」で述べたとおり,本願発明の効果も刊行物1,2の記載から当業者が十分予測し得たものと認められる。 6 まとめ 以上のとおり,本願発明は本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1,2に記載された発明に基いて,本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 むすび したがって,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶されるべきものである。 よって,その余について検討するまでもなく,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-01-14 |
結審通知日 | 2015-01-21 |
審決日 | 2015-02-04 |
出願番号 | 特願2009-526530(P2009-526530) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C07K)
P 1 8・ 561- Z (C07K) P 1 8・ 121- Z (C07K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 敬司、森井 文緒 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
井上 雅博 齊藤 真由美 |
発明の名称 | 神経伝達物質の遮断のための融合ペプチド及びその伝達方法 |
代理人 | 福田 修一 |
代理人 | 池田 憲保 |