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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T |
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管理番号 | 1302097 |
審判番号 | 不服2014-18819 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-19 |
確定日 | 2015-06-18 |
事件の表示 | 特願2011-46746「車両の運転支援装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年9月27日出願公開、特開2012-183867〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成23年3月3日の出願であって、平成26年7月3日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年7月8日)、これに対し、同年9月19日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 そして、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成26年1月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 前方障害物情報を検出する前方障害物情報検出手段と、 自車両と上記前方障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定手段と、 上記自車両と上記前方障害物との衝突可能性が高いと判定された場合、路面摩擦係数が高いと推定される路面の走行時ほど高い値に上記前方障害物との衝突を防止する初期制動力を予め設定して発生させる衝突防止制御手段と、 ドライバの操舵を検出した場合に、上記衝突防止制御手段が発生させる制動力を低下補正する制動力補正手段と、 を備えたことを特徴とする車両の運転支援装置。」 第2 刊行物 1 刊行物1 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2004-155241号公報(以下「刊行物1」という。)には、「車輌用制動制御装置」に関して、図面(特に、図1ないし図5参照。)とともに、次の事項が記載されている。 (1)「【0026】 図1は本発明による車輌用制動制御装置の一つの好ましい実施形態を示す概略構成図である。」 (2)「【0028】 各車輪の制動力は制動装置20の油圧回路22によりホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLの制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路22はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ28により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く電子制御装置30により制御される。 【0029】 マスタシリンダ28にはマスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ32が設けられ、ステアリングコラムにはステアリングシャフト34の回転角を操舵角θとして検出する操舵角センサ36が設けられている。また車輌12には例えばレーザ光や電波を利用して前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する自車の相対速度Vreを検出するレーダーセンサ38が設けられている。尚操舵角センサ36は車輌の右旋回方向を正として操舵角を検出する。 【0030】 図示の如く、圧力センサ32により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号、操舵角センサ36により検出された操舵角θを示す信号、レーダーセンサ38により検出された前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する相対速度Vreを示す信号は電子制御装置30に入力される。尚図には詳細に示されていないが、電子制御装置30は例えばCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のマイクロコンピュータを含んでいる。 【0031】 電子制御装置30は、図2に示されたフローチャートに従い、レーダーセンサ38により検出された前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する自車の相対速度Vreに基づき前方障害物との衝突の虞れを判定し、前方障害物との衝突の虞れがあるときには原則として通常時に比してマスタシリンダ圧力Pmに対するホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLの制動圧Pbi(i=fl、fr、rl、rr)の比を高くするが、前方障害物との衝突の虞れがある場合であっても、運転者により操舵が行なわれているときには、運転者により操舵が行なわれていないときに比して、マスタシリンダ圧力Pmに対する各車輪の制動圧Pbiの比を低くする。 【0032】 電子制御装置30は、図2に示されたフローチャートに従い、前方障害物との衝突の虞れがあるときには前方障害物までの距離L及び相対速度Vreに基づき操舵による衝突回避可能性及び制動による衝突回避可能性を判定し、その判定結果に応じてマスタシリンダ圧力Pmに対する各車輪の制動圧Pbiの比を可変制御する。」 (3)「【0033】 次に図2に示されたフローチャートを参照して図示の実施形態に於ける制動圧制御ルーチンについて説明する。(省略) 【0034】 まずステップ10に於いては圧力センサ32により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては前方障害物との衝突の虞れがあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはマスタシリンダ28とホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLとの連通を維持したまま図2に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、肯定判別が行われたときにはステップ30へ進む。 【0035】 この場合、前方障害物との衝突の虞れがあるか否かの判別は当技術分野に於いて公知の任意の態様にて行われてよく、例えば図5に示されている如く、レーダーセンサ38により自車100の走行路102の前方に障害物104が検出された場合に於いて、前方障害物104に対する自車100の相対速度Vreが大きいほど小さい基準値Loが演算され、前方障害物104までの距離Lが基準値Lo以下であるときに衝突の虞れがあると判定されてよい。」 (4)「【0037】 ステップ30に於いてはマスタシリンダ圧力Pmに基づき図3に示されたグラフに対応するマップより衝突防止用目標制動圧Pbctが演算され、ステップ40に於いては例えば操舵角θの微分値θdが演算されると共に、操舵角θの大きさ及び微分値θdの大きさがそれぞれ基準値以上であるか否かの判別により運転者により操舵が行われているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ120へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ50へ進む。尚運転者により操舵が行われているか否かの判別は車輌のヨーレート若しくは横加速度又はこれらの何れかと操舵角θ若しくは微分値θdとの組合せに基づいて行われてもよい。 【0038】 ステップ50に於いてはレーダーセンサ38により検出された前方障害物との距離L及び相対速度Vreに基づき、操舵による衝突回避が可能であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ120へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ60へ進む。例えば図6の実線は操舵による衝突回避可能限界を示しており、距離Lが操舵による衝突回避可能限界よりも大きい場合に操舵による衝突回避が可能であると判定される。 【0039】 ステップ60に於いてはレーダーセンサ38により検出された前方障害物までの距離L及び相対速度Vreに基づき、制動による衝突回避が可能であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはマスタシリンダ28とホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLとの連通を維持したまま図2に示されたルーチンによる制御を一旦終了し、否定判別が行われたときにはステップ70へ進む。例えば図6の破線は制動による衝突回避可能限界を示しており、距離Lが制動による衝突回避可能限界よりも大きい場合に制動による衝突回避が可能であると判定される。 【0040】 ステップ70に於いては操舵角θの絶対値に基づき図4に示されたグラフに対応するマップより操舵角θに基づく制限制動圧Pbsが演算され、ステップ80に於いてはステップ30に於いて演算された目標制動圧Pbctが制限制動圧Pbsよりも大きいか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ120へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ90へ進む。 【0041】 ステップ90に於いては制限制動圧Pbsがマスタシリンダ圧力Pmよりも小さいか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100に於いて目標制動圧Pbtがマスタシリンダ圧力Pmに設定され、否定判別が行われたときにはステップ110に於いて目標制動圧Pbtが制限制動圧Pbsに設定され、しかる後ステップ130へ進む。 【0042】 ステップ120に於いては目標制動圧Pbtがステップ30に於いて演算された衝突防止用目標制動圧Pbctに設定された後ステップ130へ進み、ステップ130に於いては各車輪の制動圧が目標制動圧Pbtになるよう制御され、しかる後ステップ10へ戻る。尚この場合、各車輪の制動圧は増減圧制御弁の開閉履歴より各車輪の制動圧が推定されることにより目標制動圧Pbtになるよう制御されてもよく、また図には示されていないが各車輪のホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RL内の圧力を制動圧として検出する圧力センサが設けられ、それらの圧力センサの検出値が目標制動圧Pbtになるよう制御されてもよい。 【0043】 かくして図示の実施形態によれば、ステップ20に於いて前方障害物との衝突の虞れがあると判定されると、ステップ30に於いてマスタシリンダ圧力Pmに基づき衝突防止用目標制動圧Pbctが演算され、ステップ40に於いて運転者により操舵が行われているか否かの判別が行われ、運転者により操舵が行われているときにはステップ50及び60に於いてそれぞれ操舵による衝突回避が可能であるか否かの判別及び制動による衝突回避が可能であるか否かの判別が行われる。 【0044】 運転者により操舵が行われていない場合や運転者により操舵が行われているが操舵による衝突回避が不可能である場合には、ステップ120に於いて目標制動圧Pbtが衝突防止用目標制動圧Pbctに設定されるが、運転者により操舵が行われており操舵による衝突回避が可能であるが制動による衝突回避が不可能である場合には、ステップ110に於いて目標制動圧Pbtが原則として衝突防止用目標制動圧Pbctよりも低い制限制動圧Pbsに設定される。 【0045】 従って運転者により操舵が行われており操舵による衝突回避が可能であるが制動による衝突回避が不可能である場合(図6の領域A)には、制動力が衝突防止用目標制動圧Pbctよりも低い制限制動圧Pbsに対応する低い値になるよう制御されるので、運転者により操舵が行われているときにも制動力が低くされない従来の制動制御装置の場合に比して、制動力により車輪横力が低下されることに起因して操舵による車輌の転向性の低下を抑制することができ、これにより従来に比して操舵による衝突回避効果を向上させることができる。 【0046】 特に図示の実施形態によれば、運転者により操舵が行われているが操舵による衝突回避が不可能である場合(図6の領域B)には、目標制動圧Pbtが衝突防止用目標制動圧Pbctに設定されることにより制動力は低下されないので、車輌を効果的に減速させて制動による衝突回避効果を確実に確保し、衝突の影響を最小限に抑えることができる。」 (5)「【0053】 また上述の実施形態に於いては、運転者により操舵が行われており操舵による衝突回避が可能であるが制動による衝突回避が不可能である場合に制動力が低下されるようになっているが、例えばステップ60が省略され、運転者により操舵が行われており操舵による衝突回避が可能である場合に制動力が低下されるよう修正されてもよく、運転者により操舵が行われている場合又は操舵による衝突回避が可能である場合に制動力が低下されるよう修正されてもよい。」 (6)図2のフローチャートにおいて、 ステップ20及びステップ30を経て、電子制御装置30が行う制御動作は、上記(3)及び(4)の記載事項を参酌すると、次のようにいうことができる。 ステップ20に於いては前方障害物との衝突の虞れがあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたとき、 ステップ30に於いてはマスタシリンダ圧力Pmに基づきマップにより衝突防止用目標制動圧Pbctを演算する制御動作。 (7)図2のフローチャートにおいて、上記(5)の「例えばステップ60が省略され、運転者により操舵が行われており操舵による衝突回避が可能である場合に制動力が低下されるよう修正されてもよく」との記載に従って、ステップ60を省略した場合には、ステップ40、ステップ50、及びステップ70を経て、電子制御装置30が行う制御動作は、上記(4)及び(5)の記載事項を参酌すると、次のようにいうことができる。 ステップ40に於いては運転者により操舵が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたとき、 ステップ50に於いては操舵による衝突回避が可能であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたとき、 ステップ70に於いては操舵角θの絶対値に基づきグラフに対応するマップにより制動力が衝突防止用目標制動圧Pbctよりも低い制限制動圧Pbsを演算する制御動作。 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する自車の相対速度Vreを検出するレーダーセンサ38と、 レーダーセンサ38により検出された前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する自車の相対速度Vreに基づき前方障害物との衝突の虞れを判定する電子制御装置30と、 ステップ20に於いては前方障害物との衝突の虞れがあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたとき、ステップ30に於いてはマスタシリンダ圧力Pmに基づきマップにより衝突防止用目標制動圧Pbctを演算する制御動作を行う電子制御装置30と、 ステップ40に於いては運転者により操舵が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたとき、ステップ50に於いては操舵による衝突回避が可能であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたとき、ステップ70に於いては操舵角θの絶対値に基づきグラフに対応するマップにより制動力が衝突防止用目標制動圧Pbctよりも低い制限制動圧Pbsを演算する制御動作を行う電子制御装置30と、 を備えた車輌用制動制御装置。」 2 刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2004-189075号公報(以下「刊行物2」という。)には、「車両制動制御装置」に関して、図面(特に、図1ないし図3、図7参照。)とともに、次の事項が記載されている。 (1)「【0028】 この実施例の動作について、図2に示すフローチャートを参照して以下に説明する。 【0029】 まず、路面摩擦係数決定要素3に相当するステップS100にて、路面摩擦係数μを推定する。このルーチンでは所定の制動力を発生し、上記した方法により路面摩擦係数μを決定するが、外部から入力された上記情報に基づいて推定してもよい。 【0030】 次に、車間距離決定要素1に相当するステップS102にて障害物又は前車までの距離(車間距離)を決定する。 【0031】 次に、車間距離の減少率を求め、この車間距離の減少率と車間距離とから衝突までの時間を算出し(S104)、この衝突までの時間と制動を掛けた場合の停止までの推定時間とを比較から衝突危険性があるかどうかあるいは衝突危険性が所定レベル以上かどうかを判定し(S106)、衝突危険性がある又は大きいと判定したばあいにはステップS108に進み、そうでなければステップS100にリターンする。 【0032】 ステップS108では、手動制動操作がなされたかどうかを、それを検出する不図示のスイッチ手段からの入力により判定し、手動停止操作がなされていなければ、ステップS110に進んで、推定された路面摩擦係数μに基づいて決定した推定最大制動力の5-60%の範囲に設定された制動力を求め、この制動力を制動装置5に発生させる自動制動を行う。 【0033】 次に、ステップS112に進んで、車両が停止したかどうかを調べ、停止していなければステップS100にリターンし、車両が停止したらこの自動制動を解除して(S114)、ルーチンを終了する。」 (2)「【0038】 すなわち、この実施例では、路面摩擦係数μに基づいて決定した推定最大制動力の5-60%の範囲に設定された自動制動のための制動力を求め、この制動力により衝突危険判定時に自動制動を行う。このことの意義を図3?図5に示すタイヤ摩擦円を用いて以下に説明する。 【0039】 タイヤ摩擦円は全方向におけるタイヤ摩擦力の最大値すなわち推定最大制動力を示すが、このタイヤ摩擦円の半径すなわちタイヤ摩擦力の最大値は、図3に示すように路面摩擦係数μに略比例して変化する。したがって、この実施例のように自動制動時においてドライバが操舵操作を行って操舵力発生させようとする場合、タイヤ摩擦力は自動制動による制動力と操舵操作による操舵力との合成ベクトルとなる。このため、自動制動により制動力がその時点における路面摩擦係数μにより決定されるタイヤ摩擦力の最大値(推定最大制動力)に近いか略等しいと、僅かの操舵力を追加するだけで発生すべきタイヤ摩擦力がタイヤ摩擦円を超えてしまうため、望む操舵力を得ることができない。これに対して、図4に示すように、自動制動時に発生させる制動力をこの時の路面摩擦係数μにより決定される推定最大制動力の5-60%の範囲の所定値に制限しているので、自動制動中にドライバーが操舵を行って障害物を回避しようとする場合でも、ドライバーが望む操舵力をタイヤ摩擦円が許す範囲内であればただちに発生することができる。」 (3)「【0049】 (変形態様4) 好適態様において、操舵による衝突回避可能性が所定比率以下と判断した場合には、制動力を最大とする自動制動を行う。これにより、操舵などによる効果がほとんど無駄となるような深刻な状況において、衝突被害を最小化することができる。 【0050】 この処理を、たとえば図7に示すフローチャートにより説明する。 【0051】 図2において、ステップS106にて衝突危険性の度合いを判定し、衝突危険が高いと判定した場合にはステップS300に進んで、この判定はいかなる手動操作(手動制動、手動加速、手動操舵)によっても回避できないかどうかの判定を行い、もはやいかなる手動操作によっても衝突が回避できないと判定した場合には、ステップS302に進んで、自動制動力を最新の路面摩擦係数μにより決定される推定最大制動力に等しく設定し、それを制動装置5に指令して、S112に進み、まだ手動操作の方が好適である場合があると判定した場合には、ステップS108に進む。」 (4)図3には、上記(1)の「ステップS100にて、路面摩擦係数μを推定する。」(段落【0029】)との記載及び上記(2)の「タイヤ摩擦円は全方向におけるタイヤ摩擦力の最大値すなわち推定最大制動力を示すが、このタイヤ摩擦円の半径すなわちタイヤ摩擦力の最大値は、図3に示すように路面摩擦係数μに略比例して変化する。」(段落【0039】)との記載をあわせみると、路面μが0.5から1へ高くなると、タイヤ摩擦円の半径すなわち推定最大制動力が略比例して大きくなることが分かるから、推定最大制動力は路面摩擦係数μが高いと推定される路面の走行時ほど高い値になることが示されているといえる。 (5)図7には、ステップ302に、「自動制動力を推定最大制動力まで増大」することが記載されている。 第3 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する自車の相対速度Vre」は前者の「前方障害物情報」に相当し、以下同様に、「レーダーセンサ38」は「前方障害物情報検出手段」に、「レーダーセンサ38により検出された前方障害物までの距離L及び前方障害物に対する自車の相対速度Vreに基づき前方障害物との衝突の虞れを判定する電子制御装置30」は「自車両と上記前方障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定手段」に、「ステップ20に於いては前方障害物との衝突の虞れがあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたとき」は「上記自車両と上記前方障害物との衝突可能性が高いと判定された場合」に、「車輌用制動制御装置」は「車両の運転支援装置」にそれぞれ相当する。 前者の「路面摩擦係数が高いと推定される路面の走行時ほど高い値に上記前方障害物との衝突を防止する初期制動力を予め設定して発生させる衝突防止制御手段」に関する、本願明細書の「S108に進み、予め実験、計算等によって設定しておいた、例えば、図3に示すような、路面状況(路面摩擦係数μ)に応じた初期付加制動力の特性図を参照して、初期付加制動力FB0を設定し」(段落【0022】)との記載及び図2からみて、後者の「ステップ30に於いてはマスタシリンダ圧力Pmに基づきマップにより衝突防止用目標制動圧Pbctを演算する制御動作を行う電子制御装置30」と前者の「路面摩擦係数が高いと推定される路面の走行時ほど高い値に上記前方障害物との衝突を防止する初期制動力を予め設定して発生させる衝突防止制御手段」とは、「上記前方障害物との衝突を防止する初期制動力を予め設定して発生させる衝突防止制御手段」という限りで共通する。 前者の「ドライバの操舵を検出した場合に、上記衝突防止制御手段が発生させる制動力を低下補正する制動力補正手段」に関する、本願明細書の「ドライバが操舵したと判定してS111に進むと、自車両1と前方障害物とのラップ率Rrが予め設定した閾値Rrc(例えば50%)と比較され、自車両1と前方障害物とのラップ率Rrが予め設定した閾値Rrc以下の場合(Rr≦Rrcの場合)は、障害物との衝突可能性が低いと判断してS112に進み、現在設定されている障害物との衝突を防止する制動力FBを低下補正する(FB=FB-ΔFB:ΔFBは設定値)。」(段落【0026】)との記載及び図2からみて、後者の「ステップ40に於いては運転者により操舵が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたとき、ステップ50に於いては操舵による衝突回避が可能であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたとき、ステップ70に於いては操舵角θの絶対値に基づきグラフに対応するマップにより制動力が衝突防止用目標制動圧Pbctよりも低い制限制動圧Pbsを演算する制御動作を行う電子制御装置30」は前者の「ドライバの操舵を検出した場合、上記衝突防止制御手段が発生させる制動力を低下補正する制動力補正手段」に相当する。 したがって、両者は、 「前方障害物情報を検出する前方障害物情報検出手段と、 自車両と上記前方障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定手段と、 上記自車両と上記前方障害物との衝突可能性が高いと判定された場合、上記前方障害物との衝突を防止する初期制動力を予め設定して発生させる衝突防止制御手段と、 ドライバの操舵を検出した場合に、上記衝突防止制御手段が発生させる制動力を低下補正する制動力補正手段と、 を備えた車両の運転支援装置。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点〕 本願発明は、衝突防止制御手段が予め設定する初期制動力を「路面摩擦係数が高いと推定される路面の走行時ほど高い値に」するのに対し、 引用発明は、電子制御装置30がステップ30に於いてはマスタシリンダ圧力Pmに基づきマップにより衝突防止用目標制動圧Pbctを演算するものである点。 第4 当審の判断 そこで、相違点について検討する。 刊行物1の「運転者により操舵が行われており操舵による衝突回避が可能であるが制動による衝突回避が不可能である場合(図6の領域A)には、制動力が衝突防止用目標制動圧Pbctよりも低い制限制動圧Pbsに対応する低い値になるよう制御されるので、・・・操舵による車輌の転向性の低下を抑制することができ、これにより従来に比して操舵による衝突回避効果を向上させる」(段落【0045】)との記載及び刊行物2の「自動制動時に発生させる制動力をこの時の路面摩擦係数μにより決定される推定最大制動力の5-60%の範囲の所定値に制限しているので、自動制動中にドライバーが操舵を行って障害物を回避しようとする場合でも、ドライバーが望む操舵力をタイヤ摩擦円が許す範囲内であればただちに発生することができる。」(段落【0039】)との記載からみて、刊行物1の車輌用制動制御装置と刊行物2の車両制動制御装置とは、自動制動に際して操舵による衝突回避を安定して行うために制動力を低くする点で共通する。 また、刊行物2には、刊行物2の車両制動制御装置が図2に示すフローチャートに従って実施されるとともに、その「(変形態様4)」(段落【0049】ないし段落【0051】)として、図7に示すフローチャートに従うことが記載されている。 そこで、刊行物1の図2のフローチャートと刊行物2の図2及び図7に示すフローチャートとを対比すると、刊行物2の「図2において、ステップS106にて衝突危険性の度合いを判定し、衝突危険が高いと判定した場合」(段落【0051】)は刊行物1の図2のステップ20において前方障害物との衝突の虞れがあるか否かの判別が行われ肯定判別が行われたときに対応し、刊行物2の「ステップS300に進んで、この判定はいかなる手動操作(手動制動、手動加速、手動操舵)によっても回避できないかどうかの判定を行い、もはやいかなる手動操作によっても衝突が回避できないと判定した場合」(段落【0051】)は刊行物1の図2のステップ50に於いて操舵による衝突回避が可能であるか否かの判別が行われ否定判別が行われたときに対応するから、刊行物1及び刊行物2に接した当業者であれば、刊行物2の「ステップS302に進んで、自動制動力を最新の路面摩擦係数μにより決定される推定最大制動力に等しく設定し、それを制動装置5に指令」(段落【0051】)するとの記載及び「自動制動力を推定最大制動力まで増大」するとの記載(図7)を参酌して、刊行物1の図2のステップ120に於いて目標制動圧Pbtに設定された「衝突防止用目標制動圧Pbct」を刊行物2の「推定最大制動力」とすることは、容易に想到し得たことである。 そして、引用発明の衝突防止用目標制動圧Pbctは、「ステップ30に於いてはマスタシリンダ圧力Pmに基づきマップにより衝突防止用目標制動圧Pbctを演算する」ものであるから、引用発明のステップ30において「推定最大制動力」を演算するようにすることは、当業者にとって格別困難なことではない。 また、刊行物2の「推定最大制動力」は、「路面摩擦係数μが高いと推定される路面の走行時ほど高い値になる」(前記「第2」の「2」の「(5)」)ものである。 そうしてみると、引用発明において、刊行物2に記載された事項を適用して、「衝突防止制御手段が予め設定する初期制動力を『路面摩擦係数が高いと推定される路面の走行時ほど高い値に』する」ことは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本願発明が奏する効果は、引用発明及び刊行物2に記載された事項から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。 したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-04-17 |
結審通知日 | 2015-04-21 |
審決日 | 2015-05-07 |
出願番号 | 特願2011-46746(P2011-46746) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60T)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森本 康正 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
冨岡 和人 大内 俊彦 |
発明の名称 | 車両の運転支援装置 |
代理人 | 伊藤 進 |
代理人 | 長谷川 靖 |
代理人 | 篠浦 治 |