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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23K
管理番号 1302114
審判番号 不服2014-1909  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-03 
確定日 2015-06-16 
事件の表示 特願2011-540667号「ペットフード組成物のための予備凝固、予備水和、および予備糊化プロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月17日国際公開、WO2010/068191、平成24年 5月17日国内公表、特表2012-510824号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年12月8日を国際出願日とする出願であって、平成25年9月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月3日に審判請求がなされものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?19に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)

「肉部分および1種類以上の炭水化物源に基づくペットフード組成物を調製するためのプロセスであって、以下:
(a)肉部分を変性点より上の温度まで加熱して肉組成物を形成する;
(b)1種類以上の炭水化物源および水を組み合わせて炭水化物組成物を形成する;
(c)その炭水化物組成物を糊化の温度まで加熱する;そして
(d)その肉組成物および炭水化物組成物を組み合わせる;
を含む、
前記プロセス。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願国際出願日前に頒布された刊行物である特表2005-503804号公報(以下、「引用例」という。)には次の事項が記載されている。

(1)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項8】
肉と穀物に基づくイヌ用ペットフード組成物の調製方法であって、
(a)ペットフード組成物の肉部分を、該肉部分の変性点またはそれ未満の温度に加熱し、
(b)肉部分(a)および流体またはスラリー(c)とは別に、穀物または穀物の混合物を、該穀物または穀物混合物の水和、糊化および老化、ならびに複合糖質から単純な炭水化物への変換を実現または実質的に実現するであろう水と一緒に混合し、
(c)肉部分(a)および穀物(b)とは別に、成分(a)および(b)と組み合わせたときに、容器充填プロセス中に少なくとも1種の実質的に均質な塊を形成する、粘度増大性の流体またはスラリーを調製し、そして
(d)(a)、(b)および(c)を組み合わせ、混合し、その間に、組み合わせた塊の温度を維持する、
ことを含む前記方法。」

(2)「【0004】
本発明のさらに別の観点は、肉と穀物に基づく組成物であるイヌ用ペットフードの調製方法であって、
(a)該組成物の肉部分を、該肉部分の変性点またはそれ未満の温度に加熱し、
(b)前記肉部分および部分(c)とは別に、穀物または穀物の混合物を、水と一緒に、水和、糊化および老化または穀物の混合物を実現または実質的に実現し、複合糖質をより単純な炭水化物に分解または実質的に分解するであろう高温まで混合し、
(c)肉部分(a)および穀物(b)とは別に、成分(a)および(b)と一緒に組み合わせたときに、容器充填プロセス中に少なくとも1種の実質的に均質な塊を形成する、粘度増大性の流体またはスラリーを調製し、そして
(d)(a)、(b)および(c)を組み合わせ、その間に、組み合わせた塊の温度を維持する、
ことを含む前記方法である。」

(3)「【0008】
さらになお、本発明の加工は、より優れたテクスチャーを有し、より堅く、および/またはより粘着性の低い最終製品をもたらす。本発明の方法は、処方物中の各成分の化学的および物理的機能性を向上させる。各成分は、それ自体の不連続性および保全性を維持する傾向を有する。」

(4)「【0009】
・・・本新規方法では、肉成分を、混合物のタンパク質変性温度および/またはその温度未満で“熱硬化(thermally set)”し、実質的に単独で、すなわち、穀物、追加の水、ビタミン、ミネラルなどを実質的または完全に存在させずに加熱する。この加熱法は一般に、細菌および組織酵素法(bacterial and tissue enzyme processes)を不活性化することにより肉のテクスチャーを改良し、これにより、砕けやすい、すなわち応力下で破壊する最終ペットフード組成物を提供すると考えられる。温度処理は、最終製品のタンパク質の湿った外観に寄与するタンパク質のわずかな凝固が起こるようなものである。
【0010】
穀物はまた、別個に処理した後、予め“熱硬化した”肉に加えてもよい。穀物を混合し、水和、糊化および老化を実現または実質的に実現するであろう温度範囲で調理して、肉に対するそれらの結合を改良し、および/または完成品のテクスチャーの粘着性を低減するかもしくは堅さを増大させる。これに加えて、複合糖質をより単純な炭水化物に分解する。これらの性質を達成するためには高温が必要である。基本的に、最高180?200°F、しかし望ましくは180?185°Fを超えない温度を用いることができる。
【0011】
最後に、さまざまな“肉汁”タイプ成分は、例えば天然デンプン、水などを加熱して、粘度増大性のスラリーまたは流体を調製することにより作成する。そのような調製の目的は、2成分(a)および(b)の凝集性を向上させて、容器への充填プロセス中に実質的または完全に均質な塊が維持されるようにすることである。」

(5)「【0012】
肉に関しては、“熱硬化”は、肉成分を、肉タンパク質の変性温度またはそのすぐ下の温度に加熱することにより実現する。これは一般に、魚タンパク質の場合の約120°F?125°Fから、ウシの骨格筋タンパク質の場合の約180°F以上に至る範囲である。この範囲のどこかに、トリおよびブタからの筋の変性温度が存在する。そのような肉の組み合わせがある場合、加熱温度は混合物の変性温度またはそれ未満である。これは、混合物のテクスチャーおよび/または色により明白に確かめることができる。
【0013】
穀物に関しては、穀物は、添加水との熱処理に暴露したときに、水和、糊化および老化を含むプロセスを経ることになる。これに加えて、高温では、複合糖質からより単純な炭水化物への分解が実現する。炭水化物源の平衡を適切に保つことにより、所望どおりに特定のテクスチャーを維持するのに適切な粘着性または結合を得ることができる。例えば、短鎖の多糖類は粘着性かつ膠質である傾向にあり、より長鎖の多糖類は、より短鎖のものほど粘着性でも膠質でもない。一般に、スクロースおよびグルコースなどの単純な糖は、本発明の完成品の砕けやすいテクスチャーが所望される場合に不利である“結合する”能力を有する。基本的に、この混成飼料の望ましいテクスチャーは、より長鎖の多糖類と、デンプン、例えば天然または非化学的に改質されたデンプンにより実現し、そのような改質は熱および/または圧力によるものである。用いることができる穀物の例は、標準的または天然で化学的に改質されていない材料、例えば、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、セルロースおよびコメデンプンである。・・・
【0014】
本発明の“c”の肉汁タイプ成分には、National Starch 150などの天然デンプンならびにさまざまな非化学的および化学的に改質されたデンプン、例えばデキストリンが含まれる。これらの材料には、ジャガイモデンプンのNovation 1600;トウモロコシデンプンのNovation 2300、およびコメデンプンのRemy DRが含まれる。
【0015】
適した炭水化物源を利用することにより、完成イヌ用製品に望ましい砕けやすいテクスチャーを提供するのに役立つ適切な粘着性および結合を得ることができる。
それら成分を水と約180?200°Fに加熱して粘度上昇スラリーまたは流体を提供して、充填プロセス中は実質的または完全に均質な塊が維持されるようするが、レトルト処理後(充填後)、これらの材料(1種以上)は老化して、消費するために開封したときに、最終的に包装されたイヌ用飼料において望ましい特性、例えば砕けやすいテクスチャーをもたらすであろう。」

したがって、上記記載事項(1)、(2)を中心として上記記載事項を総合すれば、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「肉と穀物に基づくイヌ用ペットフード組成物の調製方法であって、
(a)ペットフード組成物の肉部分を、該肉部分の変性点またはそれ未満の温度に加熱し、
(b)穀物または穀物の混合物を、水と一緒に、水和、糊化および老化または穀物の混合物を実現または実質的に実現し、複合糖質をより単純な炭水化物に分解または実質的に分解するであろう高温まで混合し、
(c)肉部分(a)および穀物(b)とは別に、成分(a)および(b)と組み合わせたときに、粘度増大性の流体またはスラリーを調製し、そして
(d)(a)、(b)および(c)を組み合わせ、混合することを含む、
前記方法。」

4.対比
本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「穀物または穀物の混合物」は、引用例の【0013】によれば、「トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、セルロースおよびコメデンプン」の単体または混合物を示すから、本願発明の「1種類以上の炭水化物源」に相当する。そして、引用発明の「肉と穀物に基づくイヌ用ペットフード組成物の調製方法」における「穀物」は「穀物または穀物の混合物」を意味することは明らかであるから、引用発明の「肉と穀物に基づくイヌ用ペットフード組成物の調製方法」は本願発明の「肉部分および1種類以上の炭水化物源に基づくペットフード組成物を調製するためのプロセス」に相当する。

(2)引用発明の「穀物または穀物の混合物を、水と一緒に、水和、糊化および老化または穀物の混合物を実現または実質的に実現し、複合糖質をより単純な炭水化物に分解または実質的に分解するであろう高温まで混合し」は、引用例の【0010】、【0013】によれば、本願発明の「1種類以上の炭水化物源および水を組み合わせて炭水化物組成物を形成する」工程(b)及び「その炭水化物組成物を糊化の温度まで加熱する」工程(c)に相当することは明らかである。

(3)引用発明と本願発明は、いずれも「肉部分を加熱して肉組成物を形成する」点で共通している。

そうすると、両者は次の点で一致する。
「肉部分および1種類以上の炭水化物源に基づくペットフード組成物を調製するためのプロセスであって、
(a)肉部分を加熱して肉組成物を形成する;
(b)1種類以上の炭水化物源および水を組み合わせて炭水化物組成物を形成する;
(c)その炭水化物組成物を糊化の温度まで加熱する;そして
(d)その肉組成物および炭水化物組成物を組み合わせる;
を含む、
前記プロセス。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点1)
肉部分の加熱について、本願発明は変性点より上の温度まで加熱しているのに対し、引用発明は変性点またはそれ未満の温度に加熱している点。

(相違点2)ペットフード組成物の調製プロセスにおいて、本願発明は「肉組成物および炭水化物組成物を組み合わせる」のに対し、引用発明は「肉組成物および炭水化物組成物を組み合わせたときに、粘度増大性の流体またはスラリーを調製し、それらを組み合わせ、混合している」点。

5.判断
(1)相違点1について
引用例1には【0012】に、「肉に関しては、“熱硬化”は、肉成分を、肉タンパク質の変性温度またはそのすぐ下の温度に加熱することにより実現する。・・・ウシの骨格筋タンパク質の場合の約180°F以上に至る範囲である。」と記載されている。そして、「180°F」は「82.2°C」と同じ温度である。したがって、引用発明は肉部分の加熱について、変性点まで加熱することを含むものであり、ウシの肉タンパク質の変性温度に加熱するということは、82.2°C以上に加熱する工程を含んでいるといえる。
一方、本願の国際出願翻訳文提出書には、「【0015】[0014] その肉部分をその肉のタンパク質の変性点より上の温度まで加熱する。1態様において、その肉部分はウシからの肉または肉の副産物を含み、その肉部分は予備凝固工程において80℃より上で加熱される。一般に、変性点の上の温度で、例えば変性温度の約2℃から約6℃まで上の範囲で加熱するのが好ましい。」と記載されており、ウシの肉であれば肉部分の予備凝固工程は80℃より上で加熱されることが記載されている。そうすると、ウシの肉の変性点は80℃以下であることが推認される。
無論、ウシの種類、肉の部位によりにより変性点は若干異なる可能性があるが、引用発明において、ウシの肉の変性点の温度まで加熱(82.2°C以上)する工程がある以上、肉はある程度熱硬化している。したがって、引用例に接した当業者なら、引用発明において、肉を熱硬化させるに際し、変性点の温度まで加熱することに換えて、本願発明のように変性点より上の温度まで加熱することは、当業者が容易に着想し得ることであって、格別困難なこととは認められない。
なお、一般に肉部分の加熱について、変性点より上の温度で短時間加熱するより、変性点で長時間加熱した方が、熱硬化の範囲は拡がることは当業者にとって明らかであるが、本願発明において、肉部分の加熱について時間的な限定はなされていない。

(2)相違点2について
引用発明は「肉組成物および炭水化物組成物を組み合わせたときに、粘度増大性の流体またはスラリーを調製し、それらを組み合わせ、混合している」が、本願発明においても「肉組成物および炭水化物組成物を組み合わせ」を含む工程(プロセス)であり、それ以外の組み合わせを一切排除するものではない。実際に、本願請求項4は「肉組成物および炭水化物組成物」に「液体組成物」を組み合わせている。そうすると、前記相違点2については実質的な相違点とはいえない。
また、引用発明の炭水化物組成物は糊化の温度まで加熱しているから、引用発明において、「粘度増大性の流体またはスラリーの調製、組み合わせ、混合する」工程を省略することは当業者なら容易に想到し得ることである。

そして、本願発明の作用効果は引用発明(引用例の【0008】、【0011】等参照)に基づいて、当業者が予測し得た程度のものであって、格別なものとはいえない。

(3)審判請求書での主張について
審判請求人は請求書で以下のような主張をしている。
a.「本願発明者らは、このようなグラウンドローフの形態のペットフード組成物を提供するために、肉部分を加熱して予備凝固し、そして、肉とは別に炭水化物源を水と混合して加熱し(予備水和及び予備湖化)し、その後両者を混合する、という工程を含む、本願発明のプロセスを想到しました。
これに対し、引用文献1に記載のイヌ用ペットフード組成物は、上述したように、グラウンドローフ組成物とチャンクおよび肉汁組成物との混合組成物です。これは、「均質なローフ製品である」本願発明(本願明細書 段落0009)とは明確に異なる組成物です。」(請求書第4頁第2行?第8行)

b.「上述したように、引用文献1では、「温度処理は、最終製品のタンパク質の湿った外観に寄与するタンパク質のわずかな凝固が起こるようなものである。」ことが重要です。これは、本願発明の「肉部分を変成点より高い温度まで加熱して肉を(完全に)凝固させる」工程とは全く異なる、という点をご理解ください。引用文献1の発明の「わずかな凝固」では、「(a)肉部分を変性点より上の温度まで加熱して肉組成物を形成する」という本願発明の構成要件を満たしません。」(請求書第5頁第18行?第23行)

まず、前記a.について検討すると、本願発明において、ペットフード組成物がローフ製品であるとの限定はなく、請求項10において初めてそのような限定がなされている。一方で、引用発明は、上記4.で検討したとおり、加熱した肉組成物と加熱した炭水化組成物を組み合わせており、対象となるペットフード組成物としては本願発明と明確な差異はない。
次に、前記b.については、上記5.(1)で検討したとおり、本願発明と引用発明に差異があっても、当業者が引用発明に基づき本願発明の加熱温度にすることに格別困難性は認められない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-20 
結審通知日 2015-01-21 
審決日 2015-02-03 
出願番号 特願2011-540667(P2011-540667)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 隆一  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 本郷 徹
門 良成
発明の名称 ペットフード組成物のための予備凝固、予備水和、および予備糊化プロセス  
代理人 小野 新次郎  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小林 泰  
代理人 泉谷 玲子  
代理人 山本 修  

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