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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S |
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管理番号 | 1302115 |
審判番号 | 不服2014-2952 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-02-17 |
確定日 | 2015-06-16 |
事件の表示 | 特願2010-527154「能動的オブジェクト検出システムにおけるクラッタ除去」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月 2日国際公開、WO2009/042805、平成23年 2月24日国内公表、特表2011-505545〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・原査定の拒絶の理由 特許出願: 平成20年9月25日(パリ条約による優先権主張(外国庁受理2007年9月27日、米国、2008年9月24日、米国)を伴う国際出願) 拒絶査定: 平成25年10月15日付け(送達日:同年同月18日) 拒絶査定不服審判の請求: 平成26年2月17日 手続補正: 平成26年2月17日 (以下、「本件補正」という。) そして、原査定の拒絶の理由は、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし13に係る発明は、本願の優先日前に国内又は外国において頒布された刊行物である特開昭57-189082号公報(発明の名称:測距装置、 出願人:三菱電機株式会社、 以下「引用例」という。)に記載された発明などに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし13に係る発明は、本件補正によって補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。 「光パルスを放射し戻り反射を受光することにより、所定の監視境界内の少なくとも指定された最小オブジェクトサイズのオブジェクトを検出する能動的オブジェクト検出システムであって、 光パルスのどの部分も前記指定された最小オブジェクトサイズのオブジェクトを素通りすることが無いように、前記指定された最小オブジェクトサイズより小さいビーム径の光パルスを放射するように構成された光放射系と、 戻り反射がオブジェクト関連の戻り反射として識別されるのに応答して、光パルスを放射してからオブジェクトからの戻り反射を受光するまでの間の経過時間を決定することによって、検出されたオブジェクトまでの距離を算出するように構成された距離決定回路と、 放射した光パルスの各々に対して、戻り反射が前記所定の監視境界内の距離に対応し前記放射した光パルスに応答して1つの戻り反射が受光される場合に、該戻り反射をオブジェクト関連として識別し、前記放射した光パルスに応答して複数の戻り反射が受光され、最小の強度閾値を満たす複数の戻り反射のうち最後に受光した戻り反射が前記所定の監視境界内の距離に対応する場合に、該最後に受光した戻り反射をオブジェクト関連として識別し、該最後に受光した戻り反射より前または後に受光した全ての戻り反射をクラッタ関連として除去する、ように構成されたクラッタ除去回路と、 を含むことを特徴とする能動的オブジェクト検出システム。」(以下「本願発明」という。) 第3 引用例記載の事項・引用発明 これに対して引用例には、「測距装置」(発明の名称)に関し、次の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている。 (a) 「3. 発明の詳細な説明 この発明はパルスレーザ光を用いた測距装置の改良に関するものである。 パルスレーザ測距装置は、極めて時間幅の短い巨大レーザパルスを発生させ、それを測定しようとする目標物体に向けて照射し、反射してきたレーザ光を受け、レーザ光を投射してから受光するまでの時間を計測することによって、目標までの距離を測定しようとするものである。」(第1頁左欄第17行?同右欄第5行) (b) 「第5図はこの発明の1実施例を示すもので、第5図でレーザ発振器(1)、ビームスプリッタ(2)、フォトダイオード(3)、受信光学系(4)、光検出器(5)、ビデオアンプ(6)は従来のものと同一である。(8)は従来の一般的な計数回路に若干の機能を加えた計数回路、(9)は測距制限回路、・・・である。」(第2頁左下欄第8行?同第15行) (c) 「第6図は計数回路(8)と測距制限回路(9)の一実施例を示したものであり(13)は計数すべきクロックパルスを発生するクロック発生器、(14)はフォトダイオード(3)からのレーザ発射パルスがくるとクロック発生器(13)のクロックパルスを送り出すゲート回路、(15)はクロックパルスを計数するカウンタ、(16)はゲート回路(14)からの受信パルス信号が 値を越えたら二値化出力パルス(ストップパルス)を出すコンパレータ、(17)はコンパレータ、(17)はコンパレータ(16)からのストップパルスが来ると、そのときのカウンタの計数値を保持するメモリであり、ストップパルスが来るたびに新たな数値を取込んで保持しなおす。従ってこのような構成の計数回路(8)は一回のレーザ発射に対し複数のストップパルスが帰ってくるときパルス列の最後に対する計数値がメモリ(17)に保持されることになる。・・・さらにストップパルスが複数の場合にはそれが到来するたびにメモリ(17)の内容が更新され最後に到来したパルス値が保持されることになる。」(第2頁右下欄第10行?第3頁右上欄第2行) (d) 「また実施例では目標より手前のみの測距制限についてのみ述べたが状況によっては目標より後方も制限することもできる。」(第3頁左下欄第14行?同第16行) 上記記載(a)ないし(d)、及び図面の第5?6図の記載から、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。 「パルスレーザ光を照射し、反射してきたレーザ光を受け、目標より手前及び後方の測距を制限して目標までの距離を測定する測距装置であって、 パルスレーザ光を照射するように構成されたレーザ発振器及びビームスプリッタと、 レーザ光を投射してから受光するまでの時間を計測することによって、目標までの距離を測定するように構成された、計数回路を含む構成と、 受信パルス信号がある値を超えたらストップパルスを出すコンパレータを有し、1回のレーザ発射に対し複数のストップパルスが帰ってくるときパルス列の最後に対する計数値のみが計数出力される計数回路と、 を含むことを特徴とする測距装置。」(以下「引用発明」という。) 第4 対比 本願発明と引用発明とを、主たる構成要件毎に、順次対比する。 まず、引用発明の「パルスレーザ光を照射し、反射してきたレーザ光を受け」ることは、本願発明の「光パルスを放射し戻り反射を受光すること」に相当し、引用発明の「目標」が本願発明の「オブジェクト」に相当し、また引用発明が「目標より手前及び後方の測距を制限」していることは、本願発明で「所定の監視境界内」で検出を行っていることに相当する。そして本願発明は「検出されたオブジェクトまでの距離を算出」しているので、「測距装置」であるともいえるから、本願発明と引用発明とは、「光パルスを放射し戻り反射を受光することにより、所定の監視境界内のオブジェクトまでの距離を測定する測距装置」である点で共通する。 また、引用発明の「パルスレーザ光を照射するように構成されたレーザ発振器及びビームスプリッタ」と、本願発明の「光パルスのどの部分も前記指定された最小オブジェクトサイズのオブジェクトを素通りすることが無いように、前記指定された最小オブジェクトサイズより小さいビーム径の光パルスを放射するように構成された光放射系」とは、「光パルスを放射するように構成された光放射系」である点で共通する。 また、引用発明における「レーザ光を投射してから受光するまでの時間を計測することによって、目標までの距離を測定するように構成された、計数回路を含む構成」は、本願発明における「戻り反射がオブジェクト関連の戻り反射として識別されるのに応答して、光パルスを放射してからオブジェクトからの戻り反射を受光するまでの間の経過時間を決定することによって、検出されたオブジェクトまでの距離を算出するように構成された距離決定回路」に相当する。 さらに、引用発明の「受信パルス信号がある値を超えたらストップパルスを出すコンパレータ」は、本願発明において、「複数の戻り反射」のうち「最小の強度閾値を満たす」ものを選別する回路構成に相当するといえる。また、引用発明は「パルス列の最後に対する計数値のみが計数出力される」ものであるから、受信パルス信号が1つの場合は、その1つが目標(オブジェクト)に関連するものとして識別され、また受信パルス信号が複数の場合は、最後とされた受信パルス信号を目標と関連するものとして識別し、最後とされたもの以外の前後全ての受信パルス信号(この場合、後の全ての受信パルス信号とはコンパレータ(16)で阻止されてストップパルスを出力しなかった信号である。)が除去されることも明らかである。そして、これらの除去される受信パルス信号とは、目標に関連しない信号であるから、そのような信号を除去する引用発明の「計数回路」は、本願発明の「クラッタ除去回路」に相当する。 したがって、引用発明の「受信パルス信号がある値を超えたらストップパルスを出すコンパレータを有し、1回のレーザ発射に対し複数のストップパルスが帰ってくるときパルス列の最後に対する計数値のみが計数出力される計数回路」は、本願発明の「放射した光パルスの各々に対して、戻り反射が前記所定の監視境界内の距離に対応し前記放射した光パルスに応答して1つの戻り反射が受光される場合に、該戻り反射をオブジェクト関連として識別し、前記放射した光パルスに応答して複数の戻り反射が受光され、最小の強度閾値を満たす複数の戻り反射のうち最後に受光した戻り反射が前記所定の監視境界内の距離に対応する場合に、該最後に受光した戻り反射をオブジェクト関連として識別し、該最後に受光した戻り反射より前または後に受光した全ての戻り反射をクラッタ関連として除去する、ように構成されたクラッタ除去回路」に相当するといえる。 してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 「光パルスを放射し戻り反射を受光することにより、所定の監視境界内のオブジェクトまでの距離を測定する測距装置であって、 光パルスを放射するように構成された光放射系と、 戻り反射がオブジェクト関連の戻り反射として識別されるのに応答して、光パルスを放射してからオブジェクトからの戻り反射を受光するまでの間の経過時間を決定することによって、検出されたオブジェクトまでの距離を算出するように構成された距離決定回路と、 放射した光パルスの各々に対して、戻り反射が前記所定の監視境界内の距離に対応し前記放射した光パルスに応答して1つの戻り反射が受光される場合に、該戻り反射をオブジェクト関連として識別し、前記放射した光パルスに応答して複数の戻り反射が受光され、最小の強度閾値を満たす複数の戻り反射のうち最後に受光した戻り反射が前記所定の監視境界内の距離に対応する場合に、該最後に受光した戻り反射をオブジェクト関連として識別し、該最後に受光した戻り反射より前または後に受光した全ての戻り反射をクラッタ関連として除去する、ように構成されたクラッタ除去回路と、 を含むことを特徴とする測距装置。」 (相違点) a.本願発明は、「オブジェクトを検出する能動的オブジェクト検出システム」であるのに対し、引用発明は、「測距装置」とされている点で一応相違する。 b.本願発明においては、「少なくとも指定された最小オブジェクトサイズのオブジェクトを検出する」とされ、また光パルスが「光パルスのどの部分も前記指定された最小オブジェクトサイズのオブジェクトを素通りすることが無いように、前記指定された最小オブジェクトサイズより小さいビーム径」であるとされているのに対し、引用発明においては、そのような限定はなされていない点。 第5 判断 上記相違点について検討する。 相違点aについて 引用発明は、目標までの距離を測定した時点で目標を検出しているともいえるのであるから、目標の検出を行うシステムでもある。したがって、相違点aは実質的な相違点ではない。また仮に引用発明が目標の検出システムとは言えないとしても、例えば審査時の拒絶理由通知書において引用文献3として引用された特開2005-300259号公報にも開示されているように、レーザにより計測された距離情報を用いる目標物体の検出装置は周知であるから、引用発明の用途として「オブジェクトを検出する能動的オブジェクト検出システム」を選択することは、当業者が容易になし得たものである。 相違点bについて 物体の検知もしくは測距装置に用いられるレーザ光は、例えば、特開平3-190418号公報において、 「なお、測定光であるレーザ光22は測定分解能を高めるためにビーム径が0.2mm程度に調整されている・・・」(第4頁左下欄第6行?同第8行) と記載されているように、測定分解能を高めるために極めて小さなビーム径とされることが一般的である。またそもそも、ビーム径が目標より大きければ、ビームが目標に照射された場合、ビームの一部のみが反射されることとなって測定誤りの要因となるおそれがあるという程度のことは、当業者にとって自明といえる。 したがって、引用発明において、想定される目標物のサイズを「指定された最小オブジェクトサイズ」とし、「光パルスのどの部分も前記指定された最小オブジェクトサイズのオブジェクトを素通りすることが無いように、前記指定された最小オブジェクトサイズより小さいビーム径」とすることは、当業者が容易になし得たものである。またその場合、引用発明が、「少なくとも指定された最小オブジェクトサイズのオブジェクトを検出する」ものとなることは当然である。 また、引用発明のパルスレーザ光のビーム径をそのように特定することにより、新たな作用効果が奏されるものでもない。 第6 請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書において、以下のように主張しているので、検討する。 (1)請求人の主張の概要 『<本願発明との対比> ・・・ すなわち、引用文献1の「計数回路(8)」、「測距制限回路(9)」及び「ゲート回路(10)」を合わせたものは、・・・換言すると、引用文献1の「測距制限回路(9)」及び「ゲート回路(10)」では、測距の実行に先立って予め測距対象範囲(距離100m以上)を設定し、測距対象範囲外(距離100m未満)の戻り反射が「計数回路(8)」に入力されないように当該戻り反射を予め除去する構成です。そのため、引用文献1においては、測距対象範囲外(距離100m未満)に測定対象オブジェクトが存在した場合には測距されないことになります。すなわち、引用文献1に記載の技術は、予め対象オブジェクトまでの距離がある程度既知であることを前提とするものです。 一方、本願の請求項1(及び7,13)に記載の発明は、放射した光パルスに対する複数の戻り反射は除去されることなく全て受信され、受信された全ての複数の戻り反射を対象として判定を行う構成です。そのため、本願発明では、対象オブジェクトまでの距離に関して既知であることを必要としません。なお、請求項1,7において「所定の監視境界」という文言が御座いますが、当業者であれば、本願請求項及び対応の明細書等の記載から、当該「所定の監視境界」が「(引用文献1のような)意図的に一部の距離範囲が除外された測距対象範囲」を意味するのではなく「放射する光パルスが到達可能(戻り反射を検出可能)な範囲」程度の意味であることを理解するものと思料します。』 『また、引用文献1?3には、本願の請求項1,7,13に記載の発明で規定される「1つの戻り反射が受光される場合」と「複数の戻り反射が受光される場合」とで異なる動作を行うことに関して記載も示唆も無いものと思料します。』 『そのため、たとえ当業者であっても、引用文献1?3に開示された技術に基づいて、本願の請求項1,7,13の構成に想到することは無いものと思料します。また、残りの請求項は請求項1,7の何れかに従属する請求項であることから、同様に、引用文献1?3に基づいて想到することはないものと思料します。』 (2)検討 請求人は本願発明について、「放射した光パルスに対する複数の戻り反射は除去されることなく全て受信され、受信された全ての複数の戻り反射を対象として判定を行う構成です。」と主張するが、本願の請求項1において、戻り反射の一部を除去することを含まないとする記載は無く、また自明であるともいえない。したがって、請求人の主張は請求項の記載に基づかないものである。 また、本願発明が「1つの戻り反射が受光される場合」と「複数の戻り反射が受光される場合」とで異なる動作を行うものであるとの主張に関しても同様である。本願の請求項1には、「1つの戻り反射が受光される場合」に、「該戻り反射をオブジェクト関連として識別」することと、「複数の戻り反射が受光され」る場合に、「最後に受光した戻り反射をオブジェクト関連として識別」する旨の記載はあるものの、それぞれの識別手順は何ら特定されておらず、また自明であるともいえない。 したがって、審判請求人の主張は採用できない。 第7 むすび したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-01-19 |
結審通知日 | 2015-01-23 |
審決日 | 2015-02-03 |
出願番号 | 特願2010-527154(P2010-527154) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01S)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大和田 有軌、櫻井 健太 |
特許庁審判長 |
新川 圭二 |
特許庁審判官 |
中塚 直樹 樋口 信宏 |
発明の名称 | 能動的オブジェクト検出システムにおけるクラッタ除去 |
代理人 | 大塚 康弘 |
代理人 | 下山 治 |
代理人 | 大塚 康徳 |
代理人 | 高柳 司郎 |
代理人 | 木村 秀二 |