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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
管理番号 1302227
審判番号 不服2014-467  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-10 
確定日 2015-06-17 
事件の表示 特願2009- 8969「ハイブリッド電気自動車のパワートレイン・システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月 6日出願公開、特開2009-173272〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年1月19日(パリ条約による優先権主張 2008年1月21日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成25年4月1日付けで拒絶理由が通知され、これに対し平成25年7月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年9月6日付けで拒絶査定がされ、これに対し平成26年1月10日に拒絶査定に対する審判請求がされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。
そして、本願は、当審において平成26年9月1日付けで拒絶理由が通知され、これに対し平成26年12月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成26年12月2日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
エネルギー蓄積装置、主ドライブライン組立体、及び、副ドライブライン組立体を含むハイブリッド電気自動車のパワートレイン・システムであって、
上記主ドライブライン組立体と上記副ドライブライン組立体との間で、機械的動力を伝達する動力伝達ボックス、
第一電気機械、及び、
第二電気機械、を備え、
上記第一電気機械は、選択的に、
(i)電力を動力に変換し、上記動力伝達ボックスを介して、上記主ドライブライン組立体及び上記副ドライブライン組立体の少なくとも一方に、動力を供給する、
(ii)上記主ドライブライン組立体及び上記副ドライブライン組立体の少なくとも一方から動力を受けて、動力を電力に変換する、及び、
(iii)自由回転する、
の少なくとも何れかを実行するように構成され、
上記第二電気機械は、選択的に、
(i)電力を動力に変換し、上記主ドライブライン組立体及び上記副ドライブライン組立体の少なくとも一方に、動力を供給する、
(ii)上記主ドライブライン組立体及び上記副ドライブライン組立体の少なくとも一方から動力を受けて、動力を電力に変換する、及び、
(iii)自由回転する、
の少なくとも何れかを実行するように構成され、
上記第一電気機械と機械的に連結される第一要素、上記主ドライブライン組立体と機械的に連結される第二要素、及び、上記副ドライブライン組立体と機械的に連結される第三要素を含む遊星歯車列を備え、
第三電気機械をさらに備え、上記第三電気機械は、選択的に、電力を動力に変換し、上記動力伝達ボックスを介して、上記主ドライブライン組立体及び上記副ドライブライン組立体の少なくとも一方に、動力を供給する、上記主ドライブライン組立体及び上記副ドライブライン組立体の少なくとも一方から動力を受けて、選択的に動力を電力に変換する、及び、自由回転する、パワートレイン・システム。」

3.引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、当審において平成26年9月1日付けで通知した拒絶理由で引用した刊行物である特開2001-260684号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、前輪と後輪とを共に駆動輪とすることのできる前後輪駆動車に関し、特に複数の原動機を有する前後輪駆動車に関するものである。」(段落番号【0001】)

(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記の公報に記載されているいずれの装置も、エンジンとモータ・ジェネレータとを単独で、もしくは複合して動力源として使用し、あるいは動力源制動手段もしくは回生手段として使用するように構成されているが、動力源として内燃機関に一つのモータもしくはモータ・ジェネレータを付加した構成を基本的な構成としている。しかしながら、前後輪駆動車では、前輪と後輪とからエネルギーを回生できるので、複数のモータやモータ・ジェネレータを使用することが可能であるが、上述した公報に記載されている発明では、前後輪駆動車において複数のモータもしくはモータ・ジェネレータを使用することが考慮されていず、この点に関する技術事項が開示されていない。
【0005】この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、第1の原動機に加えて複数の他の原動機を備えた前後輪駆動車であって、多様な動作形態が可能であるうえに、小型軽量化の容易な前後輪駆動車を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用】上記の目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、第1原動機がトルク分配機構の入力要素にトルクを伝達するように設けられるとともに、そのトルク分配機構の複数の出力要素のいずれかから前輪にトルクを出力し、かつ他の出力要素から後輪にトルクを出力するように構成された前後輪駆動車であって、前記トルク分配機構における入力要素および出力要素のいずれか一つとの間でトルクを伝達するように第2原動機が設けられ、かつ他のいずれか一つとの間でトルクを伝達するように第3原動機が設けられていることを特徴とする前後輪駆動車である。
【0007】したがって請求項1の発明では、トルク分配機構に入力されたトルクが、その出力要素を介して前輪側および後輪側に出力される。その出力要素のいずれかとの間で第2原動機もしくは第3原動機がトルクを伝達し、その出力要素のトルクを増減できるので、前輪側のトルクと後輪側のトルクとの比率を適宜に制御することができる。また、その制御は、トルク分配機構で分配されたトルクに対してトルクを付加もしくは削減することにより実行でき、したがって第2原動機もしくは第3原動機を小型化することができる。
【0008】また、請求項2の発明は、請求項1の発明における前記第1原動機が内燃機関によって構成され、かつ第2および第3の原動機がモータとしての機能および発電機としての機能を備えたモータ・ジェネレータによって構成され、前記入力要素との間でトルクを伝達するように第2原動機であるモータ・ジェネレータが設けられるとともに、いずれかの出力要素との間でトルクを伝達するように第3原動機であるモータ・ジェネレータが設けられていることを特徴とする前後輪駆動車である。
【0009】したがって請求項2の発明では、トルク分配機構の入力要素との間でトルクを伝達するモータ・ジェネレータおよびいずれかの出力要素との間でトルクを伝達するモータ・ジェネレータを力行動作および回生動作させることにより前輪側および後輪側のトルクが変化する。そのため、前後輪の駆動力および制動力の配分を、より適切に制御することが可能になる。
【0010】さらに、請求項3の発明は、請求項1の発明における前記トルク分配機構が、前輪もしくは後輪に対してトルクを出力する二輪駆動状態と、前輪および後輪に対してトルクを出力する四輪駆動状態とに切り換える切換機構を備えていることを特徴とする前後輪駆動車である。
【0011】したがって請求項3の発明では、その切換機構により、前輪側もしくは後輪側のいずれか一方にのみトルクを出力する二輪駆動状態と、前後輪の両方にトルクを出力する四輪駆動状態とを設定することができる。このような駆動状態の切換に加えて、前記第2原動機および第3原動機を適宜に駆動・停止状態に制御することにより、更に多様な運転形態を設定することが可能になる。
【0012】そして、請求項4の発明は、請求項1の発明における前記トルク分配機構が、前輪と後輪との差動をおこなわせるセンターデファレンシャルを備えるとともに、前記第2原動機および第3原動機との少なくとも一方を制御して前輪と後輪との差動を制限するように構成されていることを特徴とする前後輪駆動車である。
【0013】したがって請求項4の発明では、センターデファレンシャルが設けられていることにより、前輪と後輪との差動回転が可能になり、これに加えて、第2もしくは第3の原動機がトルクを出力し、あるいはトルクを吸収することにより、前後輪の差動が制限される。
【0014】またさらに、請求項5の発明は、第1原動機がトルク分配機構の入力要素にトルクを伝達するように設けられるとともに、そのトルク分配機構の複数の出力要素のいずれかから前輪にトルクを出力し、かつ他の出力要素から後輪にトルクを出力するように構成された前後輪駆動車であって、前記トルク分配機構における入力要素および出力要素のいずれか一つからトルクを受けてエネルギーの回生をおこなう第1回生装置が設けられ、かつ他のいずれか一つからトルクを受けてエネルギーの回生をおこなう第2回生装置が設けられていることを特徴とする前後輪駆動車である。
【0015】したがって請求項5の発明では、トルク分配機構に入力されたトルクが、その出力要素を介して前輪側および後輪側に出力される。その出力要素のいずれかとの間で第1回生装置もしくは第2回生装置がトルクを伝達され、その出力要素のトルクを選択的に低下させることができるので、前輪側のトルクと後輪側のトルクとの比率を適宜に制御することができる。また、その制御は、トルク分配機構で分配されたトルクに対してトルクを削減することにより実行でき、したがって第1回生装置もしくは第2回生装置を小型化することができる。
【0016】そしてさらに、請求項6の発明は、請求項5の発明における前記トルク分配機構が、前輪と後輪との差動をおこなわせるセンターデファレンシャルを備えるとともに、前記第1回生装置および第2回生装置との少なくとも一方を制御して前輪と後輪との差動を制限するように構成されていることを特徴とする前後輪駆動車である。
【0017】したがって請求項6の発明では、センターデファレンシャルが設けられていることにより、前輪と後輪との差動回転が可能になり、これに加えて、第1もしくは第2の回生装置がトルクを吸収することにより、前後輪の差動が制限される。」(段落【0004】ないし【0017】)

(ウ)「【0018】
【発明の実施の形態】つぎにこの発明を図面に示す具体例に基づいて説明する。図1は、この発明をいわゆる前置きエンジン後輪駆動車をベースとした前後輪駆動車に適用した例を模式的に示す図であって、この発明における原動機に相当する内燃機関(E/G)1の出力軸が変速機2の入力部材に連結されている。その内燃機関1は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、液化天然ガス(LNG)や液化石油ガス(LPG)などのガスを燃料としたガスエンジンなど、要は、適宜の形態の燃料を燃焼させて機械的動力を出力する動力装置であり、図に示す例では車両の前部に前後方向に向けて搭載されている。なお、以下の説明では、内燃機関1をエンジン1と記す。
【0019】また、変速機2は、要は、入力回転数と出力回転数との比率を適宜に変更することのできる装置であって、従来知られている有段式の手動変速機や自動変速機、あるいは無段変速機などであってよく、またトルクコンバータやロックアップクラッチ付きの流体継手を含む装置などであってもよい。
【0020】その変速機2の入力部材にこの発明における原動機に相当するモータ・ジェネレータ3が連結されており、したがってエンジン1とモータ・ジェネレータ3とが、相互にトルク伝達可能な状態に連結されている。このモータ・ジェネレータ(MG1 )3は、永久磁石型同期モータなどの電動機としての機能と発電機としての機能とを備えた回転装置であり、そのロータ(図示せず)がエンジン1の出力軸もしくは変速機2の入力部材に連結されている。したがってエンジン1によってモータ・ジェネレータ3を駆動して発電をおこない、また変速機2側から入力される動力によってモータ・ジェネレータ3を駆動して発電をおこない、さらにはモータ・ジェネレータ3に電流を供給してこれを駆動することにより、エンジン1もしくは変速機2に対して動力を伝達するように構成されている。
【0021】上記の変速機2の出力側にトランスファ(トルク分配機構)4が配置されている。このトランスファ4は、この発明における出力要素に相当する後輪出力軸5と前輪出力軸6とに選択的にトルクを伝達して出力する機構であって、走行モードを切り換える切換機構7と、差動機構8とを含んでいる。その差動機構8は、ここに示す例では、1組のダブルピニオン型遊星歯車機構によって構成されており、そのサンギヤ9が出力要素の一つである後輪出力軸6に連結されている。そのサンギヤ9と同軸上に配置された内歯歯車であるリングギヤ10と、前記サンギヤ9との間に、キャリヤ11によって保持された互いに噛合しているピニオンギヤが配置されており、そのキャリヤ11が伝動機構12に入力部材に連結されている。
【0022】図1にはその伝動機構12の一例としてサイレントチェーンなどを用いた巻掛け伝動機構が示されており、前記後輪出力軸5と同一軸線上に配置された一方のプーリーにキャリヤ11が連結されている。また他方の出力要素である前輪出力軸6は後輪出力軸5と平行に配置されており、他方のプーリーがその前輪出力軸6に連結されている。
【0023】切換機構7は、トランスファ4における入力要素である入力軸13と差動機構8との連結状態を変更するための機構であり、第1および第2のクラッチC1 ,C2 によって構成されている。すなわち、入力軸13が前記変速機2の出力軸に連結されており、その入力軸13と前記サンギヤ9との間に、これらを選択的に連結される第1クラッチC1 が配置されている。また、その入力軸13と前記リングギヤ10との間に、これらを選択的に連結する第2クラッチC2 が配置されている。なお、これらのクラッチC1 ,C2 は、油圧によって係合・解放させる構成のクラッチ以外に、手動操作によって係合・解放させるクラッチや、一般的な四輪駆動車で使用されている手動式の二輪駆動-四輪駆動切換機構によって構成することができる。
【0024】そして、前輪出力軸6に第2のモータ・ジェネレータ(MG2 )14が連結されている。この第2のモータ・ジェネレータ14は、前述した第1のモータ・ジェネレータ3と同様に、永久磁石型同期モータなどの電動機としての機能と発電機としての機能とを備えた回転装置であり、そのロータ(図示せず)が前輪出力軸6に連結されている。したがって前輪側から入力される動力によってモータ・ジェネレータ14を駆動して発電をおこない、さらにはモータ・ジェネレータ14に電流を供給してこれを駆動することにより、前輪を駆動するように構成されている。なお、上記の二つのモータ・ジェネレータ3,14はそれぞれの機能が相違しているので、容量や特性が異なるものがそれぞれ使用されている。
【0025】また、各モータ・ジェネレータ3,14は、電流を供給することによる力行と、強制的に回転させることによる発電とをおこなうので、図2に示すように、それぞれインバータ15,16を介してバッテリ17,18に連結されている。して、各モータ・ジェネレータ3,14に対する電流や発電量を制御するための電子制御装置(MG-ECU)19が設けられている。この電子制御装置19は、エンジン1を制御するための電子制御装置(E-ECU)20および変速機2を制御するための電子制御装置(T-ECU)21ならびに前記トランスファ4を制御するための電子制御装置(T/F-ECU)22と相互にデータ通信できるように接続されている。その制御のためのデータの例を挙げると、車速、アクセル開度、二輪駆動・四輪駆動切換信号、各車輪の回転速度、バッテリ17,18のSOC(State of Charge:充電容量)、エンジン水温、ブレーキ信号などである。なお、一方のモータ・ジェネレータ3(もしくは14)を発電機として機能させ、その発電電力を他方のモータ・ジェネレータ14(もしくは3)に供給してこれをモータとして機能させるために、これらのモータ・ジェネレータ3,14を直接電気的に接続してもよい。
…(中略)…
【0027】したがって上記のシステムでは、後輪側のトルクは、入力トルクおよびトランスファ4のトルク分配率によって決まるが、前輪側のトルクは、入力トルクおよびトランスファ4のトルク分配率に加えて第2モータ・ジェネレータ14のトルクによって決まるので、第2モータ・ジェネレータ14のトルクを制御することにより、後輪側のトルクと前輪側のトルクとの実質的な比率を適宜に設定することが可能になる。また、各モータ・ジェネレータ3,14は電動機および発電機として機能することに加え、一方のモータ・ジェネレータ3(14)で発生させた電力で他方のモータ・ジェネレータ14(3)を駆動できるので、モータ・ジェネレータ3,14の制御の仕方によって後輪側のトルクと前輪側のトルクをさらに変化させることができる。図1および図2に示すシステムでは、二輪駆動と四輪駆動との切り換えが可能であることに加えて、各モータ・ジェネレータ3,14を多様に機能させることができるので、以下に述べるような走行モードを選択して設定することができる。」(段落【0018】ないし【0027】)

(エ)「【0045】上述したようにこの発明の前後輪駆動車は、エンジン1から前輪および後輪に対する動力の伝達をトランスファ4などを介して機械的におこなう構成を基本にし、これに複数のモータ・ジェネレータを追加して構成されている。したがってこの発明では、基本的な四輪駆動システムに対するモータ・ジェネレータの設置の仕方は図1に示す構成に限られないのであり、例えば図4に示すように構成してもよい。
【0046】すなわち図4はこの発明の他の具体例を模式的に示しており、この例では、第2モータ・ジェネレータ14が、トランスファ4を構成している遊星歯車機構におけるサンギヤ9とキャリヤ11との間に配置されている。より具体的に説明すると、サンギヤ9もしくはこれと一体の部材に、第2モータ・ジェネレータ14のロータが取り付けられており、その外周側に位置するステータが、キャリヤ11もしくはこれと一体の回転部材の内周側に取り付けられている。他の構成は、図1に示す構成と同様であり、したがってその説明は図4に図1と同一の符号を付して省略する。
【0047】この図4に示す構成では、トランスファ4における二つの出力部材であるサンギヤ9とキャリヤ11との間に第2モータ・ジェネレータ14が設けられているので、この第2モータ・ジェネレータ14は主として後輪側と前輪側とに対するトルクの分配率の制御および前後輪の差動制御に使用される。したがって設定することのできる主な走行モードのうち、四輪駆動状態での走行モードにおける制御内容が上述した図1に示す構成のシステムとは異なっている。
【0048】図4に示す構成のシステムで設定できる主な走行モードを図5に示しており、この図5に示す走行モードの内、二輪駆動状態での走行モードは、図3に示すものと同じである。これに対して四輪駆動状態で前輪の駆動力を増大させるモード(4WFr 駆動力増大モード)では、第2モータ・ジェネレータ14を回生制御する。第2モータ・ジェネレータ14を回生制御すると、そのロータとステータとの間で受け渡されるトルクが大きくなり、そのため差動機構8で後輪側に分配されたトルクの一部が、前輪側に伝達され、その結果、前輪の駆動力が増大する。なおその場合、動力の一部が第2モータ・ジェネレータ14での発電に消費されて車両の全体としての駆動力が低下するので、その駆動力の低下分を補って車両の全体としての駆動力の変化を回避もしくは抑制するために第1モータ・ジェネレータ3を力行する。
【0049】これに対して後輪の駆動力を増大する走行モード(4WRr 駆動力増大モード)では、第2モータ・ジェネレータ14を力行するとともに第1モータ・ジェネレータ3を回生制御する。すなわち、第2モータ・ジェネレータ14を力行すると、そのロータに正回転方向のトルクが生じ、これが後輪出力軸5に付加されるので、後輪の駆動力が増大する。その場合、第2モータ・ジェネレータ14が動力を出力するので、その駆動力の増大分を相殺して車両の全体としての駆動力の変化を回避もしくは抑制するために第1モータ・ジェネレータ3を回生制御する。
【0050】一方、脱輪などによる前輪の滑りを抑制する走行モード(4WFr 滑り抑制モード)では、第2クラッチC2 を係合させ、かつエンジン1を駆動した四輪駆動状態で、第1モータ・ジェネレータ3を回生制御することにより、変速機2およびトランスファ4に入力されるトルクを低減する。すなわち、前輪に滑りが生じている状態では、キャリヤ11と一体のステータがサンギヤ9と一体のロータに対して相対的に正回転する。この状態で、第1モータ・ジェネレータ3を回生制御してトルクを吸収することにより、前輪に対するトルクを低下させてその滑りを抑制する。
【0051】これに対して後輪の滑りを抑制する走行モード(4WRr 滑り抑制モード)では、第2クラッチC2 を係合させ、かつエンジン1を駆動した四輪駆動状態で、第2モータ・ジェネレータ14を回生制御することにより、後輪出力軸5と一体のサンギヤ9と前輪出力軸6に連結されているリングギヤ9との間で伝達されるトルクを増大させる。すなわち、後輪に滑りが生じている状態では、ロータがステータに対して相対的に正回転方向に回転しており、その状態で第2モータ・ジェネレータ14で発電をおこなうと、ロータがステータを連れ回す方向にトルクが生じ、その結果、後輪側へのトルクが減じられてその滑りが抑制される。
【0052】つぎに四輪駆動状態での減速時のエネルギー回生について説明すると、この走行モード(4W減速回生モード)では、第2クラッチC2 を係合させて四輪駆動状態とし、かつエンジン1を停止もしくは非駆動状態とし、さらに第1モータ・ジェネレータ3を回生制御する。すなわち、四輪駆動状態では基本的には、前輪出力軸5と後輪出力軸6との相対回転は生じないので、これらの軸にそれぞれ連結されている第2モータ・ジェネレータ14のロータとステータとに相対回転が生じず、第2モータ・ジェネレータ14ではエネルギー回生することができない。これに対して第1モータ・ジェネレータ3のロータが走行慣性力によって強制的に回転させられるので、この第1モータ・ジェネレータ3によってエネルギー回生をおこない、それに伴う制動力を発生させる。なお、前輪と後輪との差動回転が生じた場合には、第2モータ・ジェネレータ14によってエネルギー回生を行う。
【0053】前後輪の差動のないいわゆる直結四輪駆動状態での駆動は、前述した例と変わるところがないが、その状態での減速回生モード(4W直結減速回生モード)では、第1および第2のクラッチC1 ,C2 を係合させるとともにエンジン1を停止し、その状態で第1モータ・ジェネレータ3によってエネルギー回生をおこなう。これは、上記の4W減速回生モードと同様に、第2モータ・ジェネレータ14はその全体が一体となって回転するので発電機として機能することがなく、これに対して第1モータ・ジェネレータ3が強制回転させられて発電機として機能するからである。
【0054】なお、図4に示す例においても二輪駆動状態あるいは四輪駆動状態で、いずれかのモータ・ジェネレータ3,14を駆動することにより、駆動力を補助するいわゆるトルクアシストモードを設定することができることは、前述した具体例と同様である。
【0055】また、上記の各具体例では、第1モータ・ジェネレータ3をトランスファ4の入力軸13との間でトルク伝達するように設けた例を示したが、この発明は上述した具体例に限定されないのであり、後輪出力軸5に対して第1モータ・ジェネレータからトルクを伝達するように構成してもよく、あるいは更に新たなモータ・ジェネレータを後輪出力軸との間でトルクを伝達するように設けてもよい。さらに、上記の各具体例では、モータ・ジェネレータ3,14を用いた例を示したが、これらに替えて電動機と発電機との両方もしくはそのいずれかを用いるように構成することもできる。またさらに、上述した具体例では、前置きエンジン後輪駆動車のための動力伝達系統をベースに四輪駆動機構を構成した例を示したが、この発明では、横置きエンジン前輪駆動車用の動力伝達系統をベースにした四輪駆動機構として構成してもよい。」(段落【0045】ないし【0055】)

(オ)「【0056】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の発明によれば、トルク分配機構に入力されたトルクが、その出力要素を介して前輪側および後輪側に出力され、その出力要素のいずれかとの間で第2原動機もしくは第3原動機がトルクを伝達し、その出力要素のトルクを増減できるので、前輪側のトルクと後輪側のトルクとの比率を適宜に制御することができる。また、その制御は、トルク分配機構で分配されたトルクに対してトルクを付加もしくは削減することにより実行できるので、第2原動機もしくは第3原動機を小型化することができる。
【0057】また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明で得られる効果に加え、トルク分配機構の入力要素との間でトルクを伝達するモータ・ジェネレータおよびいずれかの出力要素との間でトルクを伝達するモータ・ジェネレータを力行動作および回生動作させることにより前輪側および後輪側のトルクを変化させることができ、そのため、前後輪の駆動力および制動力の配分を、より適切に制御することが可能になる。
【0058】さらに、請求項3の発明によれば、請求項1の発明で得られる効果に加え、切換機構により、前輪側もしくは後輪側のいずれか一方にのみトルクを出力する二輪駆動状態と、前後輪の両方にトルクを出力する四輪駆動状態とを設定することができるので、このような駆動状態の切り換えに加えて、第2原動機および第3原動機を適宜に駆動・停止状態に制御することにより、更に多様な運転形態を設定することが可能になる。
【0059】そして、請求項4の発明によれば、請求項1の発明で得られる効果に加えて、センターデファレンシャルが設けられていることにより、前輪と後輪との差動回転が可能になり、さらに、第2もしくは第3の原動機によってトルクを出力させ、あるいはトルクを吸収させることにより、前後輪の差動を適宜に制限することができる。
【0060】またさらに、請求項5の発明によれば、トルク分配機構に入力されたトルクが、その出力要素を介して前輪側および後輪側に出力され、その出力要素のいずれかとの間で第1回生装置もしくは第2回生装置がトルクを伝達されてその出力要素のトルクを選択的に低下させることができるので、前輪側のトルクと後輪側のトルクとの比率を適宜に制御することができる。また、その制御は、トルク分配機構で分配されたトルクに対してトルクを削減することにより実行できるから、第1回生装置もしくは第2回生装置を小型化することができる。
【0061】そしてさらに、請求項6の発明によれば、請求項5の発明で得られる効果に加えて、センターデファレンシャルが設けられていることにより、前輪と後輪との差動回転が可能になり、しかも、第1もしくは第2の回生装置がトルクを吸収することにより、前後輪の差動を適宜に制限することができる。」(段落【0056】ないし【0061】)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)並びに図2、図4及び図5の記載から、引用文献には次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)上記(1)並びに図2、図4及び図5の記載から、引用文献1には、エンジン1、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14により駆動されるハイブリッド電気自動車の動力伝達機構が記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図2及び図4の記載から、引用文献1に記載されたハイブリッド電気自動車の動力伝達機構は、バッテリ17,18、後輪出力軸5、及び、前輪出力軸6を含むものであることが分かる。

(ク)上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図4の記載から、引用文献1に記載されたハイブリッド電気自動車の動力伝達機構は、後輪出力軸5と前輪出力軸6に接続されトルクを伝達して出力するトランスファ4、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14を備えるものであることが分かる。

(ケ)上記(1)(エ)及び図5の記載から、引用文献1に記載されたハイブリッド電気自動車の動力伝達機構において、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14は、力行する(図5に「○」又は「力行」と示された状態)、回生する(図5に「回生」と示された状態)、及び力行も回生もしない(図5に「×」と示された状態)のいずれかを実行するものであることが分かる。

(コ)上記(1)(エ)並びに図4及び図5の記載から、引用文献1に記載されたハイブリッド電気自動車の動力伝達機構において、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14を力行するときには、電流を供給されて動力を発生し、トランスファ4を介して後輪出力軸5及び前輪出力軸6の少なくとも一方に、動力を伝達するものであることが分かる。

(サ)上記(1)(エ)並びに図4及び図5の記載から、引用文献1に記載されたハイブリッド電気自動車の動力伝達機構において、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14が回生をするときには、後輪出力軸5及び前輪出力軸6の少なくとも一方から入力される動力によって、発電を行うものであることが分かる。

(シ)上記(1)(エ)及び図5の記載から、例えば、図5で主要走行モードが「2W E/G 走行」のときには、エンジン1により後輪出力軸5が駆動され、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14は自由に回転する状態にあることが分かる。したがって、引用文献1に記載されたハイブリッド電気自動車の動力伝達機構において、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14が力行も回生もしない(図5に「×」と示された状態)ときには、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14は自由に回転するものであることが分かる。

(ス)上記(1)(ウ)及び図4の記載から、引用文献1に記載されたハイブリッド電気自動車の動力伝達機構において、トランスファ4は、後輪出力軸5に連結されるサンギヤ9、第2モータ・ジェネレータ14及び前輪出力軸6に連結されるキャリア11、並びに、トランスファ4の入力軸13からクラッチC1,C2を介して連結されるリングギヤ10を含む1組のダブルピニオン型遊星歯車機構を備えるものであることが分かる。

(3)引用文献1に記載された発明
上記(1)、(2)並びに図2、図4及び図5の記載から、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。

「バッテリ17,18、後輪出力軸5、及び、前輪出力軸6を含むハイブリッド電気自動車の動力伝達機構であって、
後輪出力軸5と前輪出力軸6に接続されトルクを伝達して出力するトランスファ4、
第2モータ・ジェネレータ14及び
第1モータ・ジェネレータ3を備え、
第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14は、
電流を供給されて動力を発生し、トランスファ4を介して後輪出力軸5及び前輪出力軸6の少なくとも一方に、動力を伝達する状態と、
後輪出力軸5及び前輪出力軸6の少なくとも一方から入力される動力によって、発電を行う回生する状態と、
力行も回生もせず、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14が自由に回転する状態のいずれかを実行するように構成され、
トランスファ4が、後輪出力軸5に連結されるサンギヤ9、第2モータ・ジェネレータ14及び前輪出力軸6に連結されるキャリア11、並びに、トランスファ4の入力軸13からクラッチC1,C2を介して連結されるリングギヤ10を含む1組のダブルピニオン型遊星歯車機構を備える動力伝達機構。」(以下、「引用発明1」という。)

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「バッテリ17,18」は、その作用、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「エネルギー蓄積装置」に相当し、同様に、「ハイブリッド電気自動車の動力伝達機構」及び「動力伝達機構」は、それぞれ「ハイブリッド電気自動車のパワートレイン・システム」及び「パワートレイン・システム」に相当する。
そして、本願の明細書の段落【0006】に、2WD(二輪駆動)運転中は、主ドライブラインを駆動する旨が記載されているところ、引用文献の図5にも「2W」すなわち二輪駆動モードにおいて、クラッチC1を係合させて後輪出力軸5を駆動する旨が記載されているから、引用発明における「後輪出力軸5」は、技術的意義からみて、本願発明における「主ドライブライン組立体」に相当し、同様に「前輪出力軸6」は、「副ドライブライン組立体」に相当する。
また、引用発明における「トランスファ4」は、その機能からみて、本願発明における「動力伝達ボックス」に相当し、引用発明においてトランスファ4が「トルクを伝達して出力する」ことは、本願発明において動力伝達ボックスが「機械的動力を伝達する」ことに相当する。
そして、引用発明における「第2モータ・ジェネレータ14」は、その作用、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「第一電気機械」に相当し、同様に、「第1モータ・ジェネレータ3」は、「第二電気機械」に相当する。
さらに、引用発明において第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14が、「電流を供給されて動力を発生し、トランスファ4を介して後輪出力軸5及び前輪出力軸6の少なくとも一方に、動力を伝達する状態」は、その技術的意義からみて、本願発明において第一電気機械及び第二電気機械が「電力を動力に変換し、動力伝達ボックスを介して、主ドライブライン組立体及び副ドライブライン組立体の少なくとも一方に、動力を供給する」状態に相当し、以下同様に、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14が、「後輪出力軸5及び前輪出力軸6の少なくとも一方から入力される動力によって、発電を行う回生する状態」は、第一電気機械及び第二電気機械が「主ドライブライン組立体及び副ドライブライン組立体の少なくとも一方から動力を受けて、動力を電力に変換する」状態に、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14が「力行も回生もせず、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14が自由に回転する状態」は、第一電気機械及び第二電気機械が「自由回転する」状態に、それぞれ相当する。
そして、「遊星歯車列」という限りにおいて、引用発明における「後輪出力軸5に連結されるサンギヤ9、第2モータ・ジェネレータ14及び前輪出力軸6に連結されるキャリア11、並びに、トランスファ4の入力軸13からクラッチC1,C2を介して連結されるリングギヤ10を含む1組のダブルピニオン型遊星歯車機構」は、本願発明における「第一電気機械と機械的に連結される第一要素、主ドライブライン組立体と機械的に連結される第二要素、及び、副ドライブライン組立体と機械的に連結される第三要素を含む遊星歯車列」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「 エネルギー蓄積装置、主ドライブライン組立体、及び、副ドライブライン組立体を含むハイブリッド電気自動車のパワートレイン・システムであって、
主ドライブライン組立体と副ドライブライン組立体との間で、機械的動力を伝達する動力伝達ボックス、
第一電気機械、及び、
第二電気機械、を備え、
第一電気機械は、選択的に、
(i)電力を動力に変換し、動力伝達ボックスを介して、主ドライブライン組立体及び副ドライブライン組立体の少なくとも一方に、動力を供給する、
(ii)主ドライブライン組立体及び副ドライブライン組立体の少なくとも一方から動力を受けて、動力を電力に変換する、及び、
(iii)自由回転する、
の少なくとも何れかを実行するように構成され、
第二電気機械は、選択的に、
(i)電力を動力に変換し、主ドライブライン組立体及び副ドライブライン組立体の少なくとも一方に、動力を供給する、
(ii)主ドライブライン組立体及び副ドライブライン組立体の少なくとも一方から動力を受けて、動力を電力に変換する、及び、
(iii)自由回転する、
の少なくとも何れかを実行するように構成され、
遊星歯車列を備えるパワートレイン・システム。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
(a)「遊星歯車列」に関し、本願発明においては「第一電気機械と機械的に連結される第一要素、主ドライブライン組立体と機械的に連結される第二要素、及び、副ドライブライン組立体と機械的に連結される第三要素を含む遊星歯車列」であるのに対し、引用発明においては「後輪出力軸5に連結されるサンギヤ9、第2モータ・ジェネレータ14及び前輪出力軸6に連結されるキャリア11、並びに、トランスファ4の入力軸13からクラッチC1,C2を介して連結されるリングギヤ10を含む1組のダブルピニオン型遊星歯車機構」である点(以下、「相違点1」という。)。
(b)本願発明においては、「第三電気機械をさらに備え、第三電気機械は、選択的に、電力を動力に変換し、動力伝達ボックスを介して、主ドライブライン組立体及び上記副ドライブライン組立体の少なくとも一方に、動力を供給する、主ドライブライン組立体及び副ドライブライン組立体の少なくとも一方から動力を受けて、選択的に動力を電力に変換する、及び、自由回転する」のに対し、引用発明においては、第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14以外に、モータ・ジェネレータを有さない点(以下、「相違点2」という。)。

5.判断
上記相違点について検討すれば、まず、相違点1に関し、引用発明におけるダブルピニオン型遊星歯車機構は、本願発明と同様に、後輪側と前輪側とにトルクを分配する機能を有するものである。
一方、ハイブリッド電気自動車の駆動装置において、前後輪にトルクを分配する遊星歯車を設け、モータジェネレータとサンギヤ、主動輪推進軸とキャリヤ、副動輪側推進軸とリングギヤとをそれぞれ連結することは、周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、米国特許第6896635号明細書の第5欄第21行ないし第67行及び図2等、特開2003-335143号公報の【請求項2】等、並びに特開2006-117084号公報の段落【0016】等を参照。)である。
したがって、引用発明において、遊星歯車機構を用いて後輪側と前輪側とにトルクを分配するに際し、その接続方法として上記周知技術1を採用することにより、上記相違点1における本願発明の発明特定事項のようにすることは、装置設計上の事項として格別な創意を要することなく想到し得たことである。
なお、審判請求人は、平成26年12月2日提出の意見書において、本願発明では、二輪駆動状態と四輪駆動状態とを切り替える第1及び第2の2つのクラッチが不要である旨を主張している。
しかし、本願発明は、クラッチを用いずに二輪駆動状態と四輪駆動状態とを切り替えることを発明特定事項とするものではないから、審判請求人の上記主張は失当である。また、引用発明において、第2モータ・ジェネレータ14は後輪側と前輪側とに対するトルクの分配率の制御および前後輪の差動制御に使用される(上記3.(1)(エ)の段落【0047】)ものであるから、引用発明において、クラッチC1,C2を用いずに、二輪駆動状態と四輪駆動状態とを切り替えるようにすることも、格別な創意を要することなく想到し得たことである。

次に相違点2について検討する。
本願発明において、第三電気機械は、「選択的に、電力を動力に変換し、動力伝達ボックスを介して、主ドライブライン組立体及び上記副ドライブライン組立体の少なくとも一方に、動力を供給する、主ドライブライン組立体及び副ドライブライン組立体の少なくとも一方から動力を受けて、選択的に動力を電力に変換する、及び、自由回転する」機能を有するものであるところ、その機能は、第一電気機械及び第二電気機械と何ら異なるところがない。
一方、2つの駆動軸に動力を分配可能な四輪駆動のハイブリッド車において、発電可能なモータを3つ設けることは、周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開2003-32802号公報の段落【0019】及び図1等を参照。)である。
したがって、引用発明において、上記周知技術2を参酌し、単に第1モータ・ジェネレータ3及び第2モータ・ジェネレータ14と同様の機能有する第3のモータ・ジェネレータを設けることによって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明は、全体構成でみても、引用発明並びに周知技術1及び2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものでもない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-13 
結審通知日 2015-01-20 
審決日 2015-02-02 
出願番号 特願2009-8969(P2009-8969)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
中村 達之
発明の名称 ハイブリッド電気自動車のパワートレイン・システム  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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