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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16K |
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管理番号 | 1302228 |
審判番号 | 不服2014-821 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-01-17 |
確定日 | 2015-06-17 |
事件の表示 | 特願2011-138008「密封外側表面を有する流体バルブ制御部材」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月10日出願公開、特開2011-226647〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件の出願(以下、「本願」という。)は、2005年6月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年6月29日、米国)を国際出願日とする出願である特願2007-519234号の一部を平成23年6月22日に新たな特許出願としたものであって、平成25年9月11日付け(発送日:同月17日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年1月17日付けで拒絶査定不服審判が請求され、さらに、当審において、平成26年8月21日付け(発送日:同月26日)で拒絶理由が通知され、同年11月19日付けで意見書(以下、「本件意見書」という。)が提出されるとともに、手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年11月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のものと認められる。 「一般に球形である密封表面を備えた本体部分を含む流体バルブ制御部材であって、当該密封表面は、二つの領域を有しており、当該領域の各々は、個々の球形半径によって画定されており、および、当該球形半径での個々の始点の間の偏倚量は、個々の当該球形半径の間の半径差と関係しており、それにより、当該領域の間は、二次的な平滑化または融合一体化作業によって解消される隆起部あるいはその他の継ぎ目を認めることなく、平滑であるか、または、継ぎ目がない、ことを特徴とする流体バルブ制御部材。」 3.引用例 (1)当審における平成26年8月21日付け拒絶理由通知(以下、単に「拒絶理由通知」という。)で示した特開平5-10461号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある。 ア.「球面または部分球面部を有する弁体の回転運動により、前記球面または部分球面部の一部によってシートリングの開口を開閉する回転弁において、前記弁体の着座部は、前記弁体が開方向に回転する際に、シート閉止位置を過ぎる点より、回転角度に略比例してシートリングのシート部から離れるように、後退する形状とされていることを特徴とする回転弁。」(【請求項1】) イ.「したがって、本発明は上記したような従来の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、同心型の回転弁において、弁体着座部とシートリングのシート部の摩耗が少なく長寿命化と、長期間に亙って安定したシール性能と得ることができるようにした回転弁およびその弁体の加工方法を提供することにある。」(段落【0004】) ウ.「以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて詳細に説明する。図1(a)、(b)は本発明による回転弁の全閉状態と、全開状態を示す図、図2は同回転弁の断面図である。これらの図において、弁装置20は、弁軸6の内端に取り付けられ弁本体2内に配設されたバルブプラグ21を備えている。バルブプラグ21は、内側がくりぬかれた球面または部分球面部を有する弁体22と、弁体22の上下面にそれぞれ一体に突設された円筒状の軸受部23、24とで構成され、弁体22の外周面には弁軸6の回転方向に長い帯状の球面着座部25が一段高くなるように突出形成されると共に、イコールパーセント特性部を形成する開口26が前記球面着座部25の一端部と重なるように形成されている。球面着座部25の幅Dは、シートリング7のシート部8の内径Aよりやや大きく設定(D>A)されている。また、球面着座部25のうち全閉時においてシート部8に着座しシートリング7を閉鎖する弁閉止領域部Iは、球心をバルブプラグ21の回転中心0と一致させた球面とされ、開口26が設けられた弁開放領域部IIは、シート閉止位置を過ぎる点Pより、弁体22の回転角度θに略比例してシートリング7のシート部8から後退離反するように、曲率半径が前記弁閉止領域部Iより小さく、且つ球心がバルブプラグ21の回転中心0から偏心した球面とされる。したがって、シート閉止位置Pを過ぎると、シートリング7との接触面圧が減少し、球面着座部25の摩耗を軽減させることができる。」(段落【0007】) これらの記載事項及び図面の記載内容をふまえれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認めることができる。 「球面着座部(25)を備えた弁体(22)を含むバルブプラグ(21)であって、球面着座部(25)は、弁閉止領域部(I)と弁開放領域部(II)を有し、弁閉止領域部(I)は、球心をバルブプラグ(21)の回転中心(0)と一致させた球面とされ、弁開放領域部(II)は、曲率半径が前記弁閉止領域部(I)より小さく、且つ球心がバルブプラグ(21)の回転中心(0)から偏心した球面とされる、バルブプラグ(21)。」 (2)また、拒絶理由通知で示した実願平1-37021号(実開平2-127864号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある。 エ.「そこで、本考案の目的はボールの回転時の操作性を良くしかつシートパッキンの長寿命化を図ったボールバルブを提供することにある。」(明細書第6頁第16-18行) オ.「第1及び第2の考案とも、ボールバルブは、ボールの流通孔が流体通路の対向した時に開弁し、ボールの第2曲面領域が流体通路に対向した時に閉弁する。従って、シートパッキンは閉弁時のみ第2曲面領域によって圧縮され、ボールとバルブ本体との間をシールする。 第1及び第2曲面領域は夫々滑らかな曲面によって形成されかつ互いに連接されているため、ボールは急激なトルクの変化なしにスムーズに回転することができる。」(明細書第8頁第17行-第9頁第6行) カ.「第1図及び第2図に示したようにボール6の流通孔5がバルブ本体1の流体通路11に連通してボールバルブが開弁している時には、第1曲面領域12がシートパッキン7にこれを圧縮しない状態で対向している。ハンドル10の操作によってボール6が回転軸L1を中心として約90°回転されて第3図の閉弁位置に至ると、第2曲面領域13がシートパッキン7に対向しこれを充分に圧縮する。これによりシートパッキン7は閉弁時にはボール6とバルブ本体1との間を確実にシールする。 第1曲面領域12と第2曲面領域13とは共に曲面で構成され、かつ両曲面領域12、13の境界部は滑らかに接続されているため、上述のボール6の90°の回転はトルクの急激な変動なしにスムーズに行うことができる。」(明細書第11頁第9行-第12頁第4行) キ.「第1曲面領域12の半径R(破線)と第2曲面領域13の半径r(点線)とは条件(R-a)<r≦R を充足するように定められる。 第4図に示した中心O1から第2曲面領域13までの距離(r+a)と半径Rとの差δは以下のように求めることができる。第4図及び第5図において半径Rの第1曲面領域12と半径rの第2曲面領域13との境界角度は一般にθ=30?40°であるので、 b=a×sinθ =a×(0.5?0.642) r=R-b =R-a×(0.5?0.642) 従って、δ=r+a-R =a×(0.358?0.5) このように、第2曲面領域13を第1曲面領域12とに連接しかつ偏心位置O2を中心とする半径rの曲面とした場合には、必ず所定量の差δが得られるので、第1曲面領域12をシートパッキン7にほぼ接触するように定めることにより第2曲面領域13は必ずシートパッキン7を圧縮することができる。」(明細書第12頁第5行-第13頁第6行) ク.「なお、r=Rの時には、偏心量aは0.05?2.5mmが好ましく、もし0.05mmよりも小さいと充分にシートパッキン7を圧縮することができず、他方2.5mmよりも大きいと圧縮量が過度となりシートパッキン7の損傷を引起こす恐れが生ずる。」(明細書第13頁第7-11行) ケ.「第6図は第2曲面領域13を楕円形状にした変形例を示したものである。この構成によっても、第1曲面領域12が実質的にシートパッキン7を圧縮せず、第2曲面領域13がシートパッキン7を圧縮することができる。」(明細書第13頁第12-16行) 以上の記載事項及び図面の記載内容をふまえると、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されていると認めることができる。 「第1曲面領域(12)の中心O1と第2曲面領域(13)の中心O2の距離aは、第1曲面領域(12)の半径R及び第2曲面領域(13)の半径rと、第1曲面領域(12)と第2曲面領域(13)との境界角度θとの間に、r=R-a×sinθの関係を有し、両曲面領域の境界部が滑らかに接続されているボールバルブ。」 4.対比 本願発明と上記引用例1発明とを対比する。 引用例1発明の「球面着座部(25)」は、本願発明の「球形である密封表面」に相当し、以下同様に、「弁体(22)」は「本体部分」に、「バルブプラグ(21)」は「流体バルブ制御部材」に、「弁閉止領域部(I)と弁開放領域部(II)」は「二つの領域」にそれぞれ相当する。 また、弁閉止領域部(I)と弁開放領域部(II)とは、上記3.(1)ウ.に記載されるように、いずれも球面に形成されるものであるから、弁閉止領域部(I)及び弁開放領域部(II)が個々の球形半径によって画定されることは、明らかである。 したがって、両者は、 「球形である密封表面を備えた本体部分を含む流体バルブ制御部材であって、当該密封表面は、二つの領域を有しており、当該領域の各々は、個々の球形半径によって画定されている流体バルブ制御部材。」 の点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本願発明では、「球形半径での個々の始点の間の偏倚量は、個々の当該球形半径の間の半径差と関係しており、それにより、二つの領域の間は、二次的な平滑化または融合一体化作業によって解消される隆起部あるいはその他の継ぎ目を認めることなく、平滑であるか、または、継ぎ目がない、」という構成を有しているのに対し、引用例1発明では、弁開放領域部(II)の回転中心を弁閉止領域部(I)の回転中心から偏心させ、また、弁閉止領域部(I)と弁開放領域部(II)との曲率半径をそれぞれ異なったものにしているものの上記構成を有する点が明らかでない点。 5.判断 相違点について検討する。 引用例2発明は、本願発明、引用例1発明と同様の技術的分野に属するものである。 そこで、本願発明と引用例2発明を対比してみると、引用例2発明の「第1曲面領域(12)の中心O1と第2曲面領域(13)の中心O2の距離a」は、本願発明の「球形半径での個々の始点の間の偏倚量」に相当し、以下同様に、「第1曲面領域(12)の半径R及び第2曲面領域(13)の半径r」は「個々の当該球形半径」に、「両曲面領域の境界部」は「二つの領域の間」に、「ボールバルブ」は「流体バルブ制御部材」にそれぞれ相当する。 また、「r=R-a×sinθの関係」から、「第1曲面領域(12)の中心O1と第2曲面領域(13)の中心O2の距離a」が、「第1曲面領域(12)の半径R及び第2曲面領域(13)の半径r」の差と関係しているということができる。 したがって、本願発明の表現に倣って整理すると、引用例2発明は、 「球形半径での個々の始点の間の偏倚量は、個々の当該球形半径の間の半径差と関係しており、二つの領域の間は、滑らかに接続される流体バルブ制御装置。」 と言い替えることができる。 そして、引用例1発明及び引用例2発明は、共に球面を備えたバルブに関するものであって、しかも、上記「3.(1)イ.」及び「3.(2)エ.」の記載をみれば明らかなように、いずれも、バルブの長寿命化を課題としたものである。 そうしてみると、引用例1発明において、引用例2発明を参酌して、引用例1発明の弁閉止領域部(I)の回転中心と弁開放領域部(II)の回転中心との偏倚量を、弁閉止領域部(I)と弁開放領域部(II)との曲率半径の差と関係させ、それにより、弁閉止領域部(I)と弁開放領域部(II)の間を滑らかにすること自体は、当業者にとって格別の創作能力を要せずなし得たことである。 本願発明では、球形の密封表面の二つの領域につき「二次的な平滑化または融合一体化作業によって解消される隆起部あるいはその他の継ぎ目を認めることなく、平滑であるか、または、継ぎ目がない、」としているが、これの技術的内容は、依然として、十分明確であるとは言い難く、本願発明を開示する明細書及び図面全体の記載からすれば、二つの領域の球形半径の大きさ及びそれらの球形半径の始点の間の偏倚量の大きさを、二つの領域の間を滑らかにするという観点から決定するというような意味のものとしか解することはできない。 しかるに、引用例2発明も、本願発明と同様に二つの領域の間を滑らかに接続するものであるのだから、引用例1発明において引用例2発明を参酌するに当たり、「二次的な平滑化または融合一体化作業によって解消される隆起部あるいはその他の継ぎ目を認めることなく、平滑であるか、または、継ぎ目がない、」とすることも、当業者にとって設計上適宜なし得たというべきである。 したがって、引用例1発明において、上記相違点に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 なお、請求人は、平成26年11月19日付け意見書の[3]において、引用例2の半径「r」は、r=R-b、b=a×sinθから可変値であると理解されるから、半径「r」は球形半径でなく、引用例1に開示された技術と可変値「r」により楕円形が形成される引用例2に開示された技術とを組み合わせること自体に無理があり、また、両者を組み合わせたとしても、個々の球形半径によって二つの領域を有する本願発明を実現できない旨主張している。 しかしながら、ここでの境界角度θは、1つのボールバルブにおいて可変とされるものではなくて、30?40°の間にある1つの値に特定される性格のものである(例えば、引用例2の第2?4図を参照されたい。)。すなわち、引用例2の図2?5に開示されるものは、それにおいて第2曲面領域の半径「r」が可変とされるものではない。しかも、引用例には、第2曲面領域13を楕円形状としたものが、図2?5に開示されるものとは異なる変形例と位置付けられて第6図に示されていることを勘案しても、引用例2の図2?5に開示されるものは、第2曲面領域13を楕円形状としたものとは解し得ない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 そして、本願発明の構成により、引用例1発明及び引用例2発明から予期される以上の格別顕著な効果が奏されるとも言えない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1発明及び引用例2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-01-15 |
結審通知日 | 2015-01-20 |
審決日 | 2015-02-02 |
出願番号 | 特願2011-138008(P2011-138008) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 所村 陽一 |
特許庁審判長 |
新海 岳 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 関口 哲生 |
発明の名称 | 密封外側表面を有する流体バルブ制御部材 |
代理人 | 特許業務法人 有古特許事務所 |