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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1302315
審判番号 不服2013-18731  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-27 
確定日 2015-06-26 
事件の表示 特願2009-518241「マイクロチャネル内のリアルタイムPCR」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月10日国際公開、WO2008/005248、平成21年12月 3日国内公表、特表2009-542210〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成19年(2007年)6月27日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年6月30日 米国、2006年8月17日 米国)とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成25年9月27日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】リアルタイムPCRを実行する方法であって、
a)流路内のリアルタイムPCR試薬を含む試験液のボーラスを連続的に移動させる工程と、
b)前記流路内の分散媒を、順次試験ボーラスと交互に、移動させる工程と、
c)PCRを達成するために前記流路の定められた部分において温度サイクリングを行う工程、ただし前記流路の定められた部分は温度が均一であり、均一を保ったまま温度サイクリングは時間依存的に行う、
d)前記流路の前記定められた部分に沿った複数の位置で蛍光シグナルの強度を測定する工程とを含む方法。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の平成17年9月22日に頒布された刊行物である特開2005-253466号公報(以下、「引用例」という。)には、
(i)「【請求項1】
核酸増幅用反応物が含まれている反応物水溶液と、前記反応物水溶液と相分離されて増幅反応に関与しない流体を異なるインレットチャンネルを通じて反応容器内に注入させる第1段階と、前記反応物水溶液が前記流体と出合って、前記反応容器内に前記流体によって取り囲まれた複数の反応物水溶液滴を形成する第2段階と、前記複数の反応物水溶液滴内で核酸の増幅反応を起こす第3段階と、を備えることを特徴とする核酸増幅方法。
【請求項2】
前記流体は、シリコンオイル、鉱物性オイル、過フッ化オイル、炭化水素オイル及び植物性オイルよりなる群から選択された少なくとも一つのオイルであることを特徴とする請求項1に記載の核酸増幅方法。
【請求項3】
前記第3段階で、前記反応物水溶液滴内での核酸増幅反応は、PCR、LCR、SDA、NASBA、TMA及びLAMPよりなる群から選択された何れか一つの方法によって行われることを特徴とする請求項1に記載の核酸増幅方法。
【請求項4】
前記第3段階で、前記反応物水溶液滴内での核酸増幅反応は、PCR方法によって行われることを特徴とする請求項3に記載の核酸増幅方法。
【請求項5】
前記第3段階で、前記反応物水溶液滴内での核酸の増幅反応は、基板全体を一定の温度に加熱及び冷却を反復することによって、核酸の増幅反応がなされるようにするPCR方法によって行われることを特徴とする請求項4に記載の核酸増幅方法。
【請求項6】
前記第3段階で、前記反応物水溶液滴内での核酸の増幅反応は、基板を異なる温度を有する少なくとも二つの温度領域に加熱した状態で、前記複数の反応物水溶液滴を前記温度領域に交互に反復的に通過させることによって、核酸の増幅反応がなされるようにする連続フローPCR方法によって行われることを特徴とする請求項4に記載の核酸増幅方法。」(請求項1?6:下線は当審により付与した。以下同様。)、と記載され、上記請求項6に記載の連続フローPCR方法をリアルタイムPCRに適用した実施例として、
(ii)「[実施例2]リアルタイムPCR
図2は、本発明の第2実施例による核酸増幅装置を概略的に示す平面図であり、図3及び図4は、本発明の第2実施例による核酸増幅装置及び方法を使用してPCRを行った場合、各水溶液滴から発散される蛍光シグナルについてのCCDイメージを示す図面、及びサイクル数による蛍光シグナルの強度を示すグラフである。
まず、図2を参照すれば、本発明の第2実施例による核酸増幅装置は、基板110と、前記基板110の内部に形成された反応チャンネル130及び複数のインレットチャンネル241,243,245a,245b,247,249,151と、前記基板110を所定温度に加熱するための加熱装置120と、を備える。
ここで、前記基板110、反応チャンネル130及び加熱装置120の構成は、前述した第1実施例と同じであるので、これらについての詳細な説明は省略する。
本発明の第2実施例による核酸増幅装置は、リアルタイムPCRが可能な構成を有する。このために、前記基板110の内部には、複数のインレットチャンネル241,243,245a,245b,247,249,151が形成される。詳細に説明すれば、前記反応チャンネル130の開始端には、前記核酸増幅用反応物が含まれた水溶液を注入するための第1インレットチャンネル241と、前記流体、例えば、オイルを注入するための第2インレットチャンネル151だけでなく、ネガティブコントロール(NTC:Negative Control)水溶液を注入するための第3インレットチャンネル243と、標準サンプル水溶液を注入するための第4インレットチャンネル249とが連結される。 ・・・(途中省略)・・・
このように、形成された水溶液滴232,233,234が反応チャンネル130に沿って流れつつ二つのヒータ121,122によって加熱された基板110の二つの温度領域を交互に反復的に通過すれば、前記水溶液滴232,233,234内で連続フローPCRがなされる。
そして、蛍光染料を各水溶液内に入れた後、光学的な検出システムを利用して各水溶液滴232,233,234から発散される蛍光シグナルを検出すれば、核酸の定量分析が可能になる。再び説明すれば、初期の反応物水溶液滴232が反応チャンネル130の末端部に到達した時、CCDカメラを使用して、図3に示されたような蛍光シグナルについてのCCDイメージが得られる。図3を参照すれば、反応チャンネルに沿って所定間隔をおいて流れている複数の水溶液滴それぞれから蛍光シグナルが発散されるので、反応チャンネル全体から蛍光シグナルが発散される従来の場合に比べて、はるかに簡単で明確に蛍光シグナルの定量分析が可能になる。そして、このように得られた前記CCDイメージを分析すれば、図4に示されたようなリアルタイムPCR曲線が得られる。」(段落 【0066】?【0073】)、と記載されている。

さらに、基板110を所定温度に加熱するための加熱装置120について、
(iii)「前記加熱装置120は、前記基板110の下部に配置されて前記基板110を所定温度に加熱する。このような加熱装置120は、異なる温度で制御される二つのヒータ121,122より構成されうる。前記ヒータ121,122は、下部基板111の底面に熱的に接触されて、前記基板110を、異なる二つの温度に加熱する役割を行う。したがって、前記基板110は、異なる二つの温度領域、例えば、約65℃に加熱される領域と約95℃に加熱される領域とに分けられる。一方、前記加熱装置120は、異なる温度に制御される3個以上のヒータより構成されることもある。」(段落【0057】)、と記載され、
(iv)「前述した2次元シミュレーションと同様に、3次元シミュレーションを通じてオイルによって取り囲まれた水滴内の温度の均一性を確認するために、水滴内の18箇所について温度の標準偏差を求めた。 ・・・(途中省略)・・・
図21のグラフを参照すれば、全温度変化量の2%内の温度均一性を有する安定化に必要な時間が0.5秒以内であることを確認できる。これは、50℃の温度変化が起こる時、1℃以内の温度均一性を有するのに0.5秒で十分であるということを意味する。
以上のシミュレーション結果、温度及び均一性の度合いについての応答特性は、下記表3に整理されている。 ・・・(途中省略)・・・
表3を参照すれば、熱的特性の重要な指標である経時的な温度の応答特性と温度の均一性はいずれも、1秒以内に所望のレベルに到達することを確認できる。特に、ヒータと反応チャンネルとの間のPDMS基板の厚さが10μmほどである場合に、0.5秒以内に均一な温度分布を有し、所望の目標温度に到達できることを確認できる。」(段落 【0155】?【0160】)、と記載されている。

上記引用例記載事項(ii)には、連続フローPCR方法により、リアルタイムPCRを実行する方法が記載され、反応チャンネルに、核酸増幅用反応物が含まれた水溶液と、流体、例えば、オイルを交互に注入することにより、水溶液滴232,233,234が形成され、その水溶液滴232,233,234が反応チャンネル130に沿って流れつつ、二つのヒータ121,122によって加熱された基板110の二つの温度領域を交互に反復的に通過して、前記水溶液滴内で連続フローPCRがなされること、及び前記水溶液滴それぞれから発散されるサイクル数による蛍光シグナル強度を検出することが記載されている。
ここで、上記引用例記載事項(ii)の連続フローPCR方法では、フローの流速は一定であり、二つの温度領域の長さも一定であるから、前記水溶液滴232,233,234が、反応チャンネルに沿って流れつつ、二つの温度領域を交互に反復的に通過しながら行われるPCRの温度サイクリングは、時間依存的に行われている。また、反応チャンネルに沿って所定間隔をおいて流れている前記水溶液滴それぞれから発散されるサイクル数による蛍光シグナル強度を検出することは、反応チャンネルの前記二つの温度領域に沿った複数の位置で、蛍光シグナルの強度を測定することを包含している。

そうすると、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。
「リアルタイムPCRを実行する方法であって、
a)反応チャンネル内のリアルタイムPCR試薬を含む核酸増幅用反応物が含まれた水溶液滴を連続的に移動させる工程と、
b)前記反応チャンネル内の流体、例えば、オイルを、順次水溶液滴と交互に移動させる工程と、
c)PCRを達成するために前記反応チャンネルの二つのヒータ121,122によって加熱された基板110の二つの温度領域において温度サイクリングを行う工程、ただし温度サイクリングは時間依存的に行う、
d)前記反応チャンネルの前記二つの温度領域に沿った複数の位置で蛍光シグナルの強度を測定する工程とを含む方法。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「分散媒」について、本願明細書の段落 【0017】には、「分散媒は、不混和流体である。」と記載されており、引用発明の「流体、例えば、オイル」は、本願発明の「分散媒」に相当する。また、引用発明の「反応チャンネル」、「リアルタイムPCR試薬を含む核酸増幅用反応物が含まれた水溶液滴」、及び「二つのヒータ121,122によって加熱された基板110の二つの温度領域」はそれぞれ、本願発明の「流路」、「リアルタイムPCR試薬を含む試験液のボーラス」、及び「定められた部分」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、「リアルタイムPCRを実行する方法であって、a)流路内のリアルタイムPCR試薬を含む試験液のボーラスを連続的に移動させる工程と、b)前記流路内の分散媒を、順次試験ボーラスと交互に、移動させる工程と、c)PCRを達成するために前記流路の定められた部分において温度サイクリングを行う工程、ただし温度サイクリングは時間依存的に行う、d)前記流路の前記定められた部分に沿った複数の位置で蛍光シグナルの強度を測定する工程とを含む方法」である点で一致し、両者は、本願発明は、流路の定められた部分は温度が均一であり、均一を保ったまま温度サイクリングを行うものであるのに対して、引用発明は、流路の定められた部分は温度が均一であり、均一を保ったまま温度サイクリングを行うことは特定されていない点で、一応相違する。

4.当審の判断
上記引用例記載事項(iii)には、「ヒータ121,122は、下部基板111の底面に熱的に接触されて、前記基板110を、異なる二つの温度に加熱する役割を行う。したがって、前記基板110は、異なる二つの温度領域、例えば、約65℃に加熱される領域と約95℃に加熱される領域とに分けられる。」と記載されており、引用発明においても、二つのヒータ121,122によって加熱された基板110の二つの温度領域である流路の定められた部分は、その部分の基板が均一の温度に加熱されているから、温度が均一である。また、上記引用例記載事項(iv)には、水滴内の温度の均一性を確認したことが記載されており、引用発明においても、均一を保ったまま温度サイクリングを行うものであるから、上記相違点は実質的な相違ではない。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

また、上記相違点が、下記5.における審判請求人が主張するように、相違であると仮定した場合でも、温度領域及び温度サイクリングの温度を均一化することは、本願優先日前既に周知の技術的課題であったから、引用発明においても、よりそれらの温度を均一化することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、上記相違点の本願発明の特定事項についての本願明細書の記載は、例えば段落 【0041】の、「一実施形態では、温度制御システム107は、マイクロチャネル103の定められている部分全体、つまりPCRサイクルが実行されるマイクロチャネル103のその部分で温度サイクリングを行う。マイクロチャネル103のこの定められた部分は、反応帯とも呼ばれる。そこで、この実施形態では、温度サイクリングを行うために、一定温度帯が使用される。適切にプログラムされたコンピュータが、熱移動要素の温度サイクリングを制御する。」という程度のものであり、具体的にどのような熱移動要素をどのように使用してどの程度に一定な温度帯を作成したか、どの程度の均一性を保ったまま温度サイクリングを行ったか、についての具体的な記載はないから、本願発明において奏される効果も、引用例から予測できない程の格別なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

5.審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年9月27日付審判請求書中で、
「文献1の発明においては、PCRを行うために基板を全般的に加熱しており、反応容器を通じて均一の加熱となることはありません。反応容器の温度を均一にするには、基板の性質、サイズ、形、基板と反応容器の位置関係、そして、ヒーターの特性が重要です。文献1では、基板の一面のみを加熱していること、また、流体で満たされた反応容器と基板との間の熱伝導が生じることを考えれば、当業者であれば、文献1の発明では、容器内の温度が均一とならないことは一目瞭然です。
また、更には、文献1では温度の均一を保ったまま温度サイクルをすることの優位性を全く示していません。
したがいまして、補正後の請求項1-5、7-20、28-38、40-48に係る発明は、文献1に記載された又は記載されている発明は、文献1によって、開示も示唆もされるものではないと思量いたします。」と主張している。

しかしながら、上記4.で述べたとおり、、本願明細書には、どのような基板の性質、サイズ、形、基板と反応容器の位置関係、そして、ヒーターの特性を用いて、どの程度の温度均一性が得られたかという具体的な記載はないから、審判請求人の上記主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-29 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2009-518241(P2009-518241)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 悠美子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 植原 克典
郡山 順
発明の名称 マイクロチャネル内のリアルタイムPCR  
代理人 本田 亜希  
代理人 小林 恒夫  
代理人 木村 克彦  
代理人 齋藤 正巳  
代理人 臼井 伸一  
代理人 高梨 憲通  
代理人 岡部 讓  

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