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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C03C |
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管理番号 | 1302318 |
審判番号 | 不服2014-5429 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-03-24 |
確定日 | 2015-06-26 |
事件の表示 | 特願2009-527843「シート形状のガラスセラミック材料の製造方法、このようにして得られるシート及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月27日国際公開、WO2008/034797、平成22年 2月 4日国内公表、特表2010-503601〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2007年9月17日(パリ条約による優先権主張2006年9月18日、イタリア)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月2日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月20日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出され、同年11月20日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年3月24日付けで拒絶査定不服審判の請求がされ、同年5月12日付けで、審判請求書に係る手続補正書(方式)が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?8に係る発明は、平成25年2月20日付けの誤訳訂正書により訂正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「シート形状のガラスセラミック材料の製造方法であって、 ガラスセラミック材料の製造に用いられる酸化物の混合物を融解し、 こうして得られる融解したガラス質のかたまりを、ローラーシステムに通過させて、連続シートを形成し、 前記シートに熱結晶化サイクルを受けさせ、 前記酸化物の混合物が、SiO_(2):50重量%?80重量%;Al_(2)O_(3):5重量%?30重量%;Li_(2)O:3重量%?20重量%と、他の酸化物とからなることを特徴とするシート形状のガラスセラミック材料の製造方法。」 3.引用刊行物の記載 原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平4-333792号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、「透明防火戸」(発明の名称)について、次の記載がある。 (引1)「【0007】また本発明の透明防火戸は、好ましくは透明結晶化ガラスと、枠体との間に間隙が存在し、該間隙に耐火性充填材が充填され、加熱時に該透明結晶化ガラス板が該枠体の凹部内で移動可能な構造を有することを特徴とする。」 (引2)「【0015】 【実施例】以下、本発明の透明防火戸を実施例に基づいて詳細に説明する。 【0016】(実施例1)まず重量%表示で、SiO_(2) 67%、Al_(2)O_(3) 23%、Li_(2)O 4%、TiO_(2) 2%、ZrO_(2) 3%、P_(2)O_(5) 1%の組成になるようにガラス原料を調合し、約1700℃に保ったタンク炉のメルター部へ投入し、フィーダー先端部のオリフィスからガラスを流出させ、オリフィス下部に設けてあるローラーで連続圧延して板状に成形した。このガラス板を所望の長さに切断して徐冷炉で除歪した後、トンネル炉に入れ、常温から800℃まで100℃/時間の速度で加熱し、800℃で1時間保持した後、60℃/時間の速度で冷却することによって917×2417×5mmの寸法を有する透明結晶化ガラス板を得た。こうして得られた透明結晶化ガラス板は、内部にβー石英固溶体結晶を析出し、30?380℃の温度範囲における熱膨張係数が-5×10^(-7)/℃であった。 【0017】また950×2450×100mmの外寸と、900×2400×100mmの内寸を有し、その内周囲に形成された深さ20mm、幅25mmの凹部を有する鉄製の枠体を準備し、その凹部の奥方8mmまで所定量の石英ガラスファイバーを充填した後、上記透明結晶化ガラス板を嵌め込み、さらにシリコーンシーラントを充填することによって透明結晶化ガラス板と、枠体の凹部との位置関係を両幅10mm、挿入深さ12mmに設定した透明防火戸を作製した。」 4.引用刊行物記載の発明 (引2)から、引用刊行物には、 「重量%表示で、SiO_(2) 67%、Al_(2)O_(3) 23%、Li_(2)O 4%、TiO_(2) 2%、ZrO_(2) 3%、P_(2)O_(5) 1%の組成となるようにガラス原料を調合し、 約1700℃に保ったタンク炉のメルター部へ投入し、 フィーダー先端部のオリフィスからガラスを流出させ、オリフィス下部に設けてあるローラーで連続圧延して板状のガラス板に成形し、 このガラス板を所望の長さに切断し、 徐冷炉で除歪した後、 トンネル炉に入れ、常温から800℃まで100℃/時間の速度で加熱し、800℃で1時間保持した後、60℃/時間の速度で冷却する、 透明結晶化ガラス板を製造する方法」(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。 4.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明における「メルター」は、「融解装置(melter)」を意味するから、引用発明の「約1700℃に保ったタンク炉のメルター部」では、ガラス原料が融解しており、「フィーダー先端部のオリフィスからガラスを流出させ」るのであるから、融解したガラス原料は、「ガラス質」となっていることは明らかである。 また、引用発明の「フィーダー先端部のオリフィスから」「流出」する「ガラス」は、オリフィス下部に設けてあるローラーで連続圧延して板状のガラス板に成形されるものであるから、特定の形状を有するものではなく、本願発明の「ガラス質のかたまり」に相当する。 そして、引用発明のガラス原料の組成について、「SiO_(2)」、「Al_(2)O_(3)」及び「Li_(2)O」はいずれも酸化物であり、それらの量は、本願発明のそれぞれの酸化物の量の範囲に包含されており、また、引用発明の「TiO_(2)」、「ZrO_(2)」及び「P_(2)O_(5)」もいずれも酸化物であって、本願発明の「他の酸化物」に相当する。 また、引用発明では、切断されたガラス板に対して、「トンネル炉に入れ、常温から800℃まで100℃/時間の速度で加熱し、800℃で1時間保持した後、60℃/時間の速度で冷却する」工程を経て、透明結晶化ガラスを製造しており、ガラスに結晶を析出させるために、ガラスを適当な温度で加熱することは技術常識であるから(「JIS工業用語大辞典【第5版】」、財団法人日本規格協会、2001年3月30日、第5版第1刷、619頁「結晶化ガラス」の項参照。)、該工程によってガラス板に結晶化を生じさせることは明らかであって、該工程は、本願発明の「熱結晶化サイクル」に相当する。 そして、一般に、「圧延」とは、素材をローラーシステムに通過させて加工することを意味することは技術常識であるから、引用発明の「ローラーで連続圧延」することは、本願発明の「ローラーシステムに通過させ」ることに相当する。 また、引用発明のローラーで連続圧延して得られた「板状のガラス板」は、その後の工程で所望の長さに切断されていることから、「連続」したのものということができ、本願発明の「連続シート」に相当する。 ここで、本願発明では、「熱結晶化サイクル」を、「前記シート」に受けさせるものであるところ、「前記シート」とは、「連続シート」を指すのか、または、「連続」したものに限られないのか、すなわち、切断されたシートを含むのかは、判然としないことから、本願明細書の記載を参照することとする。 本願明細書には、本願発明の発明の詳細な説明として、「溶融材料は、ローラーシステムを通過することによって圧延され」(【0016】)、「そのようにして成形された連続シートは、焼き鈍し炉と呼ばれる制御温度オーブンに入り」(【0017】)、「焼き鈍し窯から取り出された後、シートのヘリは切除され、まっすぐに矯正され、適切な大きさとなるように切断され」(【0018】)、切断されたシートに対して、「熱的な結晶化工程」(【0021】)が行われるという記載があることから、本願発明の、熱結晶化サイクルを受ける「前記シート」は、熱処理や切断がされたシートも含むと認められる。 そうすると、引用発明の「所望の長さに切断」され「除歪」された「ガラス板」は、本願発明の「前記シート」に相当するといえる。 また、本願発明の「シート形状のガラスセラミック材料」と、引用発明の「透明結晶化ガラス板」は、シート形状のガラス材料である点で共通する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「シート形状のガラス材料の製造方法であって、 ガラス材料の製造に用いられる酸化物の混合物を融解し、 こうして得られる融解したガラス質のかたまりを、ローラーシステムに通過させて、連続シートを形成し、 前記シートに熱結晶化サイクルを受けさせ、 前記酸化物の混合物が、SiO_(2):50重量%?80重量%;Al_(2)O_(3):5重量%?30重量%;Li_(2)O:3重量%?20重量%と、他の酸化物とからなるシート形状のガラス材料の製造方法。」である点で一致し、次の相違点で一応相違する。 (相違点) ガラス材料が、本願発明では、「ガラスセラミック」であるのに対し、引用発明では、「透明結晶化ガラス」である点。 以下、相違点について検討する。 (相違点について) 「結晶化ガラス」は、「glass ceramics」(ガラスセラミック)の訳語であり(「JIS工業用語大辞典【第5版】」、財団法人日本規格協会、2001年3月30日、第5版第1刷、619、2879頁参照。)、両者は表現上の差異だけであって、技術的な差異はない。 また、本願発明において、「ガラスセラミック」の透明性については何ら限定されていないので、「透明」か否かは差異にはならない。 そうすると、引用発明の「透明結晶化ガラス」は、本願発明の「ガラスセラミック」に相当するということができる。 したがって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。 よって、本願発明と引用発明とに、実質的な差異がないから、本願発明は、引用刊行物に記載された発明である。 5.請求人の主張について 請求人は審判請求書において、次のように主張している。 「本願発明の方法では、請求項1に規定される組成の『ガラスセラミック材料の製造に用いられる酸化物の混合物』を用いる結果、リチウムフィロジシリケート/β-スポジュメン相が形成されることも重要であります。 実際、この結晶相の存在は、不透明な材料の製造を可能にし、とりわけ完全に不透明な白色のガラスセラミックシート(建築業界で非常に好まれております)の製造を可能にします。 この結果を得るためには、通常のガラス(非晶質材料)の製造に通常適用される技術による処理を可能にするガラスセラミック前駆材料の製造を可能にし、その後、所望のガラスセラミックを得るために結晶化をも可能にし得る酸化物の組成を見出すことが必要であります。」 しかしながら、「熱結晶化サイクル」によって、ガラス材料に結晶が生じていることは明らかだとしても、引用発明で、本願発明の範囲に含まれる組成を有するガラス原料から透明な結晶化ガラス板を得ていることからも明らかなように、請求項1の記載から、直ちに、「リチウムフィロジシリケート/β-スポジュメン相が形成され」、「不透明な白色のガラスセラミックシート」が得られるとまではいうことができないから、請求人の主張は、請求項の記載に基いたものとは認められず、採用できない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-01-27 |
結審通知日 | 2015-01-29 |
審決日 | 2015-02-16 |
出願番号 | 特願2009-527843(P2009-527843) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C03C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉川 潤 |
特許庁審判長 |
河原 英雄 |
特許庁審判官 |
大橋 賢一 川端 修 |
発明の名称 | シート形状のガラスセラミック材料の製造方法、このようにして得られるシート及びその使用方法 |
代理人 | 永井 道雄 |