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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1302405
審判番号 不服2012-21700  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-02 
確定日 2015-06-24 
事件の表示 特願2009-254783「マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬としてのイバブラジンの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月20日出願公開、特開2010-111673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年11月6日(パリ条約による優先権主張 2008年11月7日 (FR)フランス共和国)の出願であって、平成24年6月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、当審において、平成26年6月26日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成26年12月22日に意見書が提出された。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
イバブラジン、すなわち3-{3-[{[(7S)-3,4-ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ-1,3,5-トリエン-7-イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}-7,8-ジメトキシ-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンゾアゼピン-2-オン、その薬学的に許容しうる酸との付加塩または該塩の水和物の、マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬として使用するための組成物の製造における使用。」


3.引用例に記載された事項
(1)当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2005/014042号(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「背景技術
虚血性心疾患の確定診断には、冠動脈の虚血部位検出を目的とした「負荷時心臓シンチグラム検査」と冠動脈の狭窄部位検出を目的とした「心臓カテーテル検査(冠動脈造影検査)」の2種類の検査が必要とされている。このうち、心臓カテーテル検査は高額であること、専門医のみ施行が可能であること、合併症による死亡のリスクを有していることから、より安価で、一般外来にて実施可能な、非侵襲的な検査法の登場が望まれていた。
その中で最近、マルチスライスらせんCT(・・・以下、MSCTと略記する。)を用いた冠動脈造影法がこれらの条件を満たし、心臓カテーテル検査に代わり得る検査法として注目されている。
通常のCTから得られる画像では、体軸方向に対して垂直な平面画像による診断しか行えないのに対し、MSCTは複数の平面画像を同時に撮影することで短時間により多くの平面画像を撮影し、それらを基に三次元画像を再構築することが可能である。そのため、三次元的に複雑に走行する冠動脈を画像化することにより、それらの画像をもとに冠動脈の狭窄部位を検出することが可能となる。しかし、MSCTは時間分解能が低いために心拍数や呼吸の影響を受けやすいことが問題となっている。
そのため、医療現場では経口β遮断薬の投与により、心拍数を減少させることで、鮮明な画像を得ているのが現状である(例えば、日本医放会誌,1993,Vol.53,No.9,1033-1039及び救急医学,2003,Vol.27,719-725参照)。」(1ページ12行?2ページ7行)

(イ)「しかしながら、既存の経口β遮断薬では(1)薬効発現および消失までに時間を要するため、投与から検査、検査後の観察まで長時間を要すること、(2)・・・(3)・・・(4)・・・等が指摘されている。
MSCT診断時に心拍数の調節を必要とする時間は10?15分程度なので、検査を受ける患者にとっては心拍数の低下が過度に持続すると、検査後もしばらくは安全に動くことができず、患者にとって必ずしも好ましいことではない。
従って、MSCTをはじめとする各種画像診断における造影能改善、患者の安全性の向上、および検査の拘束時間の短縮等のために、短時間型の調節性に優れた医薬品が望まれている。
一方、・・・塩酸ランジオロール・・・は、短時間型β_(1)遮断薬として、手術時の頻脈性不整脈(心房細動、心房粗動、洞性頻脈)に対する緊急処置に使用されている・・・。
また、・・・塩酸エスモロール・・・は、短時間型β_(1)遮断薬として、手術時の上室性頻脈性不整脈に対する緊急処置に使用されている・・・。
・・・
発明の開示
本発明者らは、上記事情を鑑み鋭意研究した結果、MSCTをはじめとする画像診断を行う際の心拍数減少剤として、驚くべきことに短時間型β遮断薬が優れた効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。」(2ページ8行?3ページ19行)

(ウ)「1.短時間型β遮断薬を有効成分とする心拍数減少剤。
・・・
3.短時間型β遮断薬が塩酸ランジオロールまたは塩酸エスモロールである請求の範囲1記載の心拍数減少剤。
・・・
9.マルチスライスヘリカルCTを用いるX線造影法による画像診断である請求の範囲3記載の心拍数減少剤。」(17ページの請求の範囲)

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるDrugs of the Future,2003年,Vol.28, No.7,p.652-658(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例2は英語で記載されているので、訳文で示す。)
(エ)「要約
狭心症の処置は、β-アドレナリンブロッカーやカルシウムチャンネルブロッカーのような薬剤で心拍数を下げることを含む。しかしながら、これらの薬剤は、深刻な結果につながり得る負の変力性及び低血圧性の作用のような、他の望ましくない作用もまた及ぼす。したがって、望ましくない変力性作用を伴わない新規な心拍数減少性化合物の探索が始まった。特異的な徐脈性の薬剤の新しいクラスは、・・・洞房結節に特異的に作用する。イバブラジンは、1つのそのような徐脈性の薬剤であり、・・・心拍数を減らす。」(652ページ左欄)

(オ)「イバブラジン(・・・)の徐脈効果が、長期にわたり器械を取り付けられた、安静に又は運動をしている意識のあるイヌで、示された。用量依存的な徐脈が、安静にしているイヌで、0.5(-16±3%)及び1(-23±3%)mg/kgにおける有意な効果を伴って見られた。プロプラノロール(1mg/kg)及びイバブラジン(0.5mg/kg)は、ともに安静時の心拍数と踏み車運動時の頻脈を同様に減少させたが、イバブラジンは、プロプラノロール処置動物で見られたような、平均冠動脈血流速度を上げたり、冠動脈血管抵抗性を下げたりすることはしなかった。・・・負の変力性又は血管収縮薬活性はイバブラジンで処置した動物では見られなかった。」(655ページ左欄40?59行)

(カ)「またイバブラジンの効果が、器械を取り付けられた踏み車運動するイヌを用いた2つの研究において、β-ブロッカーであるアテノロールとも比較された。両薬剤(1mg/kg i.v.)とも・・・心拍数を約30%減らした。・・・両薬剤のさらなる比較検討により、安静時及び運動中の心拍数の同様の低下を誘導するために、アテノロールは安静時にはLV弛緩の程度を増加させ、運動時にはLV弛緩の短縮を阻害することが明らかにされた。イバブラジンはそのような負の変弛緩作用は示さなかった。」(655ページ右欄17?36行)

(キ)「臨床研究
イバブラジンの徐脈効果と認容性が、健康な被験者及び慢性の安定した狭心症患者において行われたいくつかの研究において示された。
60人の健康な男性被験者を用いた・・・試験において、イバブラジンの・・・単回投与の効果が試験された。有意で用量依存的かつ他の作用のない心拍数の減少が見られた。望ましくない作用は見られず、このことは、この薬剤は負の変力性の作用をもたないことを示した。」(656ページ左欄下から3行?右欄10行)

(2)引用例1の記載事項(ア)によれば、引用例1には、虚血性心疾患の確定診断において、最近、マルチスライスらせんCT(MSCT)を用いた冠動脈造影法が注目されているところ、MSCTは心拍数や呼吸の影響を受けやすいことが問題となっており、そのため、医療現場では経口β遮断薬の投与により、心拍数を減少させることで、鮮明な画像を得ているのが現状であることが記載されている。
そうすると、これら引用例1の記載を総合すれば、引用例1には、医療現場で行われている従来技術として、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「経口β遮断薬の、マルチスライスらせんCTを用いた冠動脈造影法における鮮明な画像を得るための薬として使用するための組成物の製造における使用。」


4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明にいう「マルチスライスらせんCTを用いた冠動脈造影法における鮮明な画像を得るための薬」は、本願発明にいう「マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬」に該当するものである。また、記載事項(ア)によれば、引用発明にいう「経口β遮断薬」は心拍数を減少させるためのものであるところ、本願明細書の【0009】などの記載からみて、本願発明にいう「イバブラジン、すなわち3-{3-[{[(7S)-3,4-ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ-1,3,5-トリエン-7-イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}-7,8-ジメトキシ-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンゾアゼピン-2-オン、その薬学的に許容しうる酸との付加塩または該塩の水和物」も、心拍数を低下させる薬剤とされているから、両者は、「心拍数を低下させる薬剤」である点で一致する。
したがって、両者は、
「心拍数を低下させる薬剤の、マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬として使用するための組成物の製造における使用。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
・心拍数を低下させる薬剤が、引用発明では
「経口β遮断薬」
であるのに対し、本願発明では、
「イバブラジン、すなわち3-{3-[{[(7S)-3,4-ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ-1,3,5-トリエン-7-イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}-7,8-ジメトキシ-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-3-ベンゾアゼピン-2-オン、その薬学的に許容しうる酸との付加塩または該塩の水和物」
である点(以下、「相違点」という。)


5.判断
上記相違点について検討する。
引用例1の記載事項(イ)によれば、引用例1には、MSCTを用いた冠動脈造影法において、既存の経口β遮断薬では、薬効発現および消失までに時間を要するなど、種々の問題が指摘されている一方、短時間型β_(1)遮断薬が手術時の不整脈に対する緊急処置に使用されているという事情に鑑み、MSCTをはじめとする画像診断を行う際の心拍数減少剤として、短時間型β遮断薬を用いる発明をするに至ったことが記載され、記載事項(ウ)によれば、MSCTを用いるX線造影法による画像診断に短時間型β遮断薬を有効成分とする心拍数減少剤を用いる発明が、引用例1の請求の範囲の欄に記載されているものといえる。そうすると、引用例1は、既存の経口β遮断薬を用いた従来技術すなわち引用発明を改良した発明として、上記経口β遮断薬に代えて短時間型β遮断薬を用いた発明が特許請求される発明として記載されている刊行物であるから、かかる引用例1に接した当業者は、上記従来技術すなわち引用発明を改良しようという動機付けを得るものといえる。
一方、引用例2の記載事項(エ)?(キ)によれば、引用例2には、イバブラジンが、プロプラノロールやアテノロールといったβ-ブロッカーすなわち引用発明にいうβ遮断薬と同様、心拍数を下げる効果がある一方、その作用はβ-ブロッカーよりも選択的で望ましくない副作用がないものであることが記載されている。
してみると、引用例1及び2を併せ見た当業者ならば、引用発明の経口β遮断薬に代えてイバブラジンを使用することに、格別の創意を要したものとはいえない。

また、本願明細書の記載及び審判請求人が提出した参考資料1?3を検討しても、本願発明が、引用例1及び2の記載から当業者が予測し得ない優れた効果を奏し得たものともいえない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-21 
結審通知日 2015-01-27 
審決日 2015-02-09 
出願番号 特願2009-254783(P2009-254783)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 春田 由香  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 川口 裕美子
大宅 郁治
発明の名称 マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬としてのイバブラジンの使用  
代理人 柴田 明夫  
代理人 三宅 俊男  
代理人 田中 洋子  
代理人 伊藤 佐保子  
代理人 生川 芳徳  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 小國 泰弘  
代理人 小澤 圭子  
代理人 津国 肇  

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