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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1302416
審判番号 不服2013-20848  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-25 
確定日 2015-06-24 
事件の表示 特願2009-532453「ナンセンス突然変異抑制治療用の経口的に活性な1,2,4-オキサジアゾールの投与方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月17日国際公開、WO2008/045566、平成22年 3月 4日国内公表、特表2010-506840〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成19年10月11日(優先権主張 2006年10月12日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年10月22日付けで拒絶理由が通知され、平成25年5月13日に手続補正書および意見書が提出されたが、同年6月3日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成25年10月25日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月11日付けで手続補正書(方式)が提出され、平成26年7月9日付けで審尋がなされ、同年11月14日に回答書が提出されたものである。

第2.補正却下の決定

[結論]
平成25年10月25日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成25年10月25日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、特許請求の範囲について本件手続補正前に

「【請求項1】
嚢胞性線維症又は筋ジストロフィーを治療又は予防するための医薬組成物であって、有効量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含み、
該医薬組成物は、患者に24時間の期間で3回投与されるように用いられ、第1投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、第2投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、かつ第3投与の有効量は、35mg/kg?40mg/kgの範囲である、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記第1投与、第2投与、及び第3投与が、食後30分後に行われる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記第1投与の有効量が、20mg/kgであり、前記第2投与の有効量が、20mg/kgであり、かつ前記第3投与の有効量が、40mg/kgである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
経口投与される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記患者が、ヒトである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記3回の投与のうちの各回において、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物の有効量が、患者の体重によって決定される、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
各回の投与において、医薬組成物が、35mg?1400mgの範囲の量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含む1個以上の単位剤形の形態である、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
それぞれの単位剤形中の前記量が、35mg、50mg、70mg、100mg、125mg、140mg、150mg、175mg、200mg、250mg、280mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、560mg、600mg、700mg、750mg、800mg、900mg、1000mg、又は1400mgから選択される、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
それぞれの単位剤形中の前記量が、35mg、50mg、70mg、100mg、125mg、140mg、175mg、200mg、250mg、280mg、350mg、400mg、500mg、560mg、700mg、750mg、800mg、1000mg、又は1400mgから選択される、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項10】
それぞれの単位剤形中の前記量が、125mg、200mg、250mg、300mg、450mg、600mg、750mg、900mg、又は1000mgから選択される、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項11】
嚢胞性線維症を治療又は予防するための、請求項1記載の医薬組成物
【請求項12】
前記筋ジストロフィーが、ジストロフィン遺伝子によりコードされるmRNAの未熟な終止コドンから生じる筋ジストロフィーである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記筋ジストロフィーが、ジストロフィン遺伝子のナンセンス突然変異から生じる筋ジストロフィーである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項14】
患者の筋肉におけるジストロフィン、サルコグリカン、又はジストログリカンの発現が増加し、患者の上肢又は下肢筋力が改善され、患者の血清クレアチンキナーゼ(CK)レベルが低下し、又は機能試験の患者の能力が改善される、請求項12又は13記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記機能試験が、計時歩行機能試験である、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーである、請求項12又は13記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記嚢胞性線維症が、CFTR遺伝子によりコードされるmRNAの未熟な終止コドンから生じる嚢胞性線維症である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記嚢胞性線維症が、CFTR遺伝子のナンセンス突然変異から生じる嚢胞性線維症である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項19】
嚢胞性線維症に関連する咳を治療、予防、又は管理するための、請求項17又は18記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記第1投与、第2投与、及び第3投与が、24時間の期間で行われる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記第2投与が、前記第1投与の4、5、6、7、8、9、又は10時間後に行われ、かつ前記第3投与が、前記第2投与の4、5、6、7、8、9、又は10時間後に行われる、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記第2投与が、前記第1投与の6時間後に行われ、かつ前記第3投与が、前記第2投与の6時間後に行われる、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
24時間の期間で、前記第1投与が朝に行われ、前記第2投与が昼に行われ、かつ前記第3投与が夜に行われる、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記第1投与、第2投与、及び第3投与が、24時間の期間を複数回含む治療期間で行われる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項25】
次の24時間の期間に行われる第1投与が、前の24時間の期間に行われた第3投与の10、11、12、13、又は14時間後に行われる、請求項24記載の医薬組成物。
【請求項26】
次の24時間の期間に行われる第1投与が、前の24時間の期間に行われた第3投与の12時間後に行われる、請求項25記載の医薬組成物。」

とあったものを

「 【請求項1】
未熟な終止コドンに関連した嚢胞性線維症又は未熟な終止コドンに関連した筋ジストロフィーを治療又は予防するための医薬組成物であって、有効量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含み、該医薬組成物は、患者に24時間の期間で3回投与され、かつこれを複数回行うように用いられ、第1投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、第2投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、かつ第3投与の有効量は、35mg/kg?40mg/kgの範囲であり、第2投与が、第1投与が行われた6時間後に行われ、第3投与が、第2投与が行われた6時間後に行われ、かつ次の24時間の期間の第1投与が、先の24時間の期間の第3投与が行われた12時間後に行われ、かつ2μg/mL?20μg/mLの3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩の血漿濃度が、前記患者において24時間の期間維持される、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記第1投与、第2投与、及び第3投与が、食後30分後に行われる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記第1投与の有効量が、20mg/kgであり、前記第2投与の有効量が、20mg/kgであり、かつ前記第3投与の有効量が、40mg/kgである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
経口投与される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記患者が、ヒトである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記3回の投与のうちの各回において、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物の有効量が、患者の体重によって決定される、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
各回の投与において、医薬組成物が、35mg?1400mgの範囲の量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含む1個以上の単位剤形の形態である、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
それぞれの単位剤形中の前記量が、35mg、50mg、70mg、100mg、125mg、140mg、150mg、175mg、200mg、250mg、280mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、560mg、600mg、700mg、750mg、800mg、900mg、1000mg、又は1400mgから選択される、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
それぞれの単位剤形中の前記量が、35mg、50mg、70mg、100mg、125mg、140mg、175mg、
200mg、250mg、280mg、350mg、400mg、500mg、560mg、700mg、750mg、800mg、1000mg、又は1400mgから選択される、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項10】
それぞれの単位剤形中の前記量が、125mg、200mg、250mg、300mg、450mg、600mg、750mg、900mg、又は1000mgから選択される、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項11】
嚢胞性線維症を治療又は予防するための、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記筋ジストロフィーが、ジストロフィン遺伝子によりコードされるmRNAの未熟な終止コドンから生じる筋ジストロフィーである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記筋ジストロフィーが、ジストロフィン遺伝子のナンセンス突然変異から生じる筋ジストロフィーである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項14】
患者の筋肉におけるジストロフィン、サルコグリカン、又はジストログリカンの発現が増加し、患者の上肢又は下肢筋力が改善され、患者の血清クレアチンキナーゼ(CK)レベルが低下し、又は機能試験の患者の能力が改善される、請求項12又は13記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記機能試験が、計時歩行機能試験である、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記筋ジストロフィーが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーである、請求項12又は13記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記嚢胞性線維症が、CFTR遺伝子によりコードされるmRNAの未熟な終止コドンから生じる嚢胞性線維症である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記嚢胞性線維症が、CFTR遺伝子のナンセンス突然変異から生じる嚢胞性線維症である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項19】
嚢胞性線維症に関連する咳を治療、予防、又は管理するための、請求項17又は18記載の医薬組成物。
【請求項20】
24時間の期間で、前記第1投与が朝に行われ、前記第2投与が昼に行われ、かつ前記第3投与が夜に行われる、請求項1記載の医薬組成物。」

に補正するものであり、以下の補正事項を含むものである。

(1)
本件手続補正前の請求項1について「嚢胞性線維症又は筋ジストロフィー」を「未熟な終止コドンに関連した嚢胞性線維症又は未熟な終止コドンに関連した筋ジストロフィー」に限定する補正事項(以下、「補正事項1」という。)。
(2)
本件手続補正前の請求項1について「該医薬組成物は、患者に24時間の期間で3回投与され、」を「該医薬組成物は、患者に24時間の期間で3回投与され、かつこれを複数回行うように用いられ、」に限定する補正事項(以下、「補正事項2」という。)。
(3)
本件手続補正前の請求項1について「第1投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、第2投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、かつ第3投与の有効量は、35mg/kg?40mg/kgの範囲である、」を「第1投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、第2投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、かつ第3投与の有効量は、35mg/kg?40mg/kgの範囲であり、第2投与が、第1投与が行われた6時間後に行われ、第3投与が、第2投与が行われた6時間後に行われ、かつ次の24時間の期間の第1投与が、先の24時間の期間の第3投与が行われた12時間後に行われ、かつ2μg/mL?20μg/mLの3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩の血漿濃度が、前記患者において24時間の期間維持される」に限定する補正事項(以下、「補正事項3」という。)。
(4)
本件手続補正前の請求項20?22及び24?26を削除する補正事項(以下、「補正事項4」という。)。
(5)
本件手続補正前の請求項23について、項番を繰り上げて請求項20とする補正事項(以下、「補正事項5」という。)。

2.新規事項について
補正事項3について検討する。
本件出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲とみなされる、国際出願日における明細書及び請求の範囲の翻訳文(以下、「当初明細書」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審による。

a.
「【0005】
(3. 発明の要旨)
本発明は、特定の投与量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、特定の時間間隔で投与して、未熟な翻訳終結又はナンセンス変異依存mRNA分解機構を調節する、若しくはそれらに関連する1以上の症状を改善させる一方で、有害作用又は望ましくない効果を減少若しくは回避させる投与計画を含む。本発明はさらに、特定投与量及び単位剤形の、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含む。
【0006】
一実施態様において、本発明は、その必要のある患者に、有効量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、24時間の間に1回、2回又は3回投与する方法に関する。また、本発明は、その必要のある患者に、有効量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含む医薬組成物を、24時間の間に1回、2回又は3回投与する方法に関する。24時間の間における各投与での投与量は、同じか又は異なっていてもよい。一実施態様において、24時間で3回投与する場合、はじめの2回の投与での投与量は同じであり、3回目の投与量は、1回目の投与量の2倍である。別の実施態様において、3回の投与量は全て同じである。」
b.
「【0011】
一実施態様において、本発明は、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物の投与方法に関し、ここで該活性作用物質を、その必要のある患者に、24時間の間に1回、2回又は3回投与し、好ましくは、各投与は約4?14時間隔てられる。特定の実施態様において、活性作用物質の投与量は、第1投与量から第3投与量にかけて高くなる。」
c.
「【0013】
別の実施態様において、本発明は、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、0.1mg/kg?500mg/kg、1mg/kg?250mg/kg、1mg/kg?150mg/kg、1mg/kg?100mg/kg、1mg/kg?50mg/kg、1mg/kg?25mg/kg、1mg/kg?10mg/kg又は2mg/kg?10mg/kgの単回投与量又は分割投与量(例えば、1日あたり3回)で、その必要のある患者に投与することに関する。特定の実施態様において、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、約4mg/kg、約7mg/kg、約8mg/kg、約10mg/kg、約14mg/kg又は約20mg/kgの投与量で投与する。別の実施態様において、先に記載した3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物の任意の投与量を、24時間内に、1回、2回又は3回投与する。」
d.
「【0015】
別の実施態様において、本発明は、35mg、50mg、70mg、100mg、125mg、140mg、175mg、200mg、250mg、280mg、350mg、500mg、560mg、700mg、750mg、1000mg又は1400mgの3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、単位投与量製剤に関する。好ましい実施態様において、本発明は、125mg、250mg又は1000mgの3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含む、単位投与量製剤に関する。別の実施態様において、本発明は、患者において、約0.1μg/ml、約0.5μg/ml、約1μg/ml、約2μg/ml、約5μg/ml、約10μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約40μg/ml、約50μg/ml、約100μg/ml、約200μg/ml、約300μg/ml、約400μg/ml又は約500μg/mlより高い3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物の血漿濃度を、少なくとも1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、8、12又は24時間、若しくはそれより長い時間維持する方法に関し、該方法は、有効量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、それを必要とする患者に投与することを含む。」
e.
「【0026】
本明細書で使用するように、用語「投与量」とは、1回に投与されるべき活性作用物質の量を意味する。
・・・
【0028】
本明細書で使用するように、用語「投与計画」及び「投与量」は、単位時間あたりに与えられる活性作用物質の量、及び投与の持続時間を意味する。
・・・
【0056】
本明細書に記載の投与量及び投与計画は、該活性作用物質の所望の血漿濃度を達成し維持する能力のために、有用であると考えられる。理論に制限されることなく、例えば24時間又はそれ以降にわたり(第4.4節に記載される物質などの)活性作用物質の相対的に一定な血漿濃度を達成し維持することは、患者に有益な治療効果を提供すると考えられる。本明細書に記載の投与量及び投与計画は、そのような活性作用物質の治療的血漿濃度を達成し維持するのに有用である。」
f.
「【0060】
一実施態様において、活性作用物質の投与量は、24時間の間に上昇させる。別の実施態様において、投与する第2投与量を上昇させる(例えば2倍)。別の実施態様において、投与する第1及び第2投与量は一定を維持し、投与する第3投与量を上昇させる(例えば2倍)。特定の実施態様において、24時間における第3投与量を、式:1×、1×、2×;に従って投与する(ここで×は特定の初期投与量(例えば4mg/kg、7mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg又は50mg/kg)である)。別の実施態様において、該活性作用物質を、患者の食事の約10、15、30、45又は60分以内(すなわち、前又は後)に投与する。一実施態様において、有効量の活性作用物質を食品にかける又は混ぜる。別の実施態様において、該活性作用物質を食事なしで投与する。
【0061】
特に好ましい投与計画は、約6時間、約6時間、及び約12時間の間隔で(例えば、朝食後の午前7時、昼食後の午後1時、及び夕食後の午後7時)、食事後30分以内に該活性作用物質を投与する場合である。
【0062】
さらに別の実施態様において、本発明は、0.1mg/kg?500mg/kg、1mg/kg?250mg/kg、1mg/kg?150mg/kg、1mg/kg?100mg/kg、1mg/kg?50mg/kg、1mg/kg?25mg/kg、1mg/kg?10mg/kg、又は2mg/kg?10mg/kgの間の単回投与量又は分割投与量(例えば、24時間に3回)の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、その必要のある患者に投与することに関する。特定の実施態様において、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、約2?6mg/kg、約5?9mg/kg、約6?10mg/kg、約8?12mg/kg、約12?16mg/kg、又は約18?22mg/kgの投与量で投与する。特定の実施態様において、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、約4mg/kg、約7mg/kg、約8mg/kg、約10mg/kg、約14mg/kg、約20mg/kg、約25mg/kg、約30mg/kg、約35mg/kg、約40mg/kg又は約50mg/kgの投与量で投与する。別の実施態様において、上述の実施態様に記載の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物の任意の投与量を、24時間で3回投与する。」
g.
「【0063】
別の実施態様において、本発明は、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、毎日、その必要のある患者に、特定の時間(例えば、5、7、10、14、20、24、28、60又は120日、若しくはそれ以上)投与する継続的治療に関する。一実施態様において、該活性作用物質を、継続的に24時間あたり3回投与する。別の実施態様において、該活性作用物質を、継続的に毎日、毎週、毎月、又は毎年投与する。具体的実施態様において、該活性作用物質を、24時間あたり3回、約4mg/kg、約4mg/kg、及び約8mg/kgの投与量で、数日間、数週間、数ヶ月間、又は数年間、継続的に投与する。具体的実施態様において、該活性作用物質を、24時間あたり3回、約7mg/kg、約7mg/kg、及び約14mg/kgの投与量で、数日間、数週間、数ヶ月間、又は数年間、継続的に投与する。具体的実施態様において、該活性作用物質を、24時間あたり3回、約10mg/kg、約10mg/kg、及び約20mg/kgの投与量で、数日間、数週間、数ヶ月間、又は数年間、継続的に投与する。具体的な実施態様において、該活性作用物質を、24時間あたり3回、約30mg/kg、約30mg/kg及び約60mg/kgの投与量で、数日間、数週間、数ヶ月間、又は数年間、継続的に投与する。具体的な実施態様において、該活性作用物質を、24時間あたり3回、約10mg/kg、約10mg/kg及び約20mg/kgの投与量で、数日間、数週間、数ヶ月間、又は数年間、継続的に投与する。具体的な実施態様において、該活性作用物質を、24時間あたり3回、約40mg/kg、約40mg/kg及び約80mg/kgの投与量で、数日間、数週間、数ヶ月間、又は数年間、継続的に投与する。該活性作用物質を投与した各々の24時間において、約6時間、約6時間、及び約12時間の間隔で(例えば、朝食後の午前7時、昼食後の午後1時、及び夕食後の午後7時)、3回の投与が好ましい。継続的治療は、嚢胞性線維症、及びデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療、予防又は管理への使用が好ましい。」
h.「【0069】
(4.5 血漿濃度)
一実施態様において、本発明は:約0.1μg/ml、約0.5μg/ml、約2μg/ml、約5μg/ml、約10μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約40μg/ml、約50μg/ml、約100μg/ml、約150μg/ml、約200μg/ml、約250μg/ml、又は約500μg/ml;より高い3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物の血漿濃度を、患者において、少なくとも約2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、8、12又は24時間、又はそれ以上の間維持する方法に関し、有効量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、その必要とする患者に投与することを含む。特定の実施態様において、該投与は経口投与である。血漿中の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物のレベルを、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定できる。
【0070】
別の実施態様において、本発明は:約0.1μg/ml?500μg/m又は約2μg/ml?約10μg/mlの3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物の血漿濃度を、患者において、少なくとも約2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、8、12又は24時間、又はそれ以上の間維持する方法に関し、有効量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、その必要とする患者に、同じ投与量又は増加的投与量(例えば、本明細書に記載のような1×、1×、2×)で、1日あたり1回、2回、又は3回投与することを含む。特定の実施態様において、該投与は経口投与である。
【0071】
特定の実施態様において、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、その必要とする患者に1日あたり1回、2回、又は3回投与することによって、患者の該活性作用物質レベルを、少なくとも約2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、8、12又は24時間、又はそれ以上の間、約2μg/mlよりも高く維持する。別の実施態様において、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、その必要とする患者に1日あたり1回、2回、又は3回投与することによって、患者の該活性作用物質レベルを、少なくとも約2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、8、12又は24時間、又はそれ以上の間、約2μg/ml?約10μg/mlの間に維持する。特定の実施態様において、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を、その必要とする患者に1日あたり1回、2回、又は3回投与することによって、患者の該活性作用物質レベルを、少なくとも約2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、8、12又は24時間、又はそれ以上の間、約10μg/mlよりも高く維持する。特定の実施態様において、該投与は経口投与である。」
i.「【0104】
(5.3 実施例3):ナンセンス突然変異介在性デュシェンヌ型筋ジストロフィーの経口治療
本実施例は、ナンセンス突然変異介在性デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に有用な事例的投与計画を説明する。
・・・
【0108】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する患者、又はデュシェンヌ型筋ジストロフィーを有することに感受性である患者に、必要である限り、継続的に治療を施す。表2は、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物の事例的な日々の投与計画を説明し、ここで投与は、1日あたり3回、食物と共に6時間、6時間、及び12時間の間隔(例えば、?午前7時、?午後1時、及び?午後7時)で実施する。特定の実施態様において、患者に、表2に説明するような投与計画の1つにおいて、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を継続的に28日間投与する。ある実施態様において、表2に説明する1日1回の投与計画を1日ごとに実施する。他の実施態様において、表2に説明する別の投与計画を別の日に実施することができる。ある実施態様において、該薬剤を小袋として提供する。これらの実施態様において、適切な量の該薬剤を秤量又は測量し、投与前に適切な医薬として許容し得る溶媒と混合することができる。
【表2】




j.「【0171】
(5.16 実施例16):デュシェンヌ型筋ジストロフィー用の経口治療としての3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸のフェイズ2調査
対象は、調査への登録に適格な以下の条件の全てを満たさなければならない:
・・・
【0198】
3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸を、本明細書に記載の製剤で提供する。治療を、各治療同齢集団に、28日にわたり投与した。患者の初期同齢集団(n=6)を、28日間毎日、4mg/kg、4mg/kg及び8mg/kgのTIDにて3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸を用いて治療した。臨床安全性の結果を検討した後、第2の患者群(n=20)を10-、10-及び20-mg/kgのTIDにて28日間にわたって3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸で毎日治療した。したがって、各患者は、合計84の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸の投与を受けた。
【0199】
タンパク質のC-末端領域に対する染色についての短指押筋膜ジストロフィンの部分的回復又は増加が、基線と比較して、28日目に両投与量においていくつかの患者に実証された。この試験から得られた薬物動態パラメータを以下の表7に示すとともに、図1に示す。
【表7】





当初明細書には「第1投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、第2投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、かつ第3投与の有効量は、35mg/kg?40mg/kgの範囲であり、第2投与が、第1投与が行われた6時間後に行われ、第3投与が、第2投与が行われた6時間後に行われ、かつ次の24時間の期間の第1投与が、先の24時間の期間の第3投与が行われた12時間後に行われ、かつ2μg/mL?20μg/mLの3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩の血漿濃度が、前記患者において24時間の期間維持される」(以下、「補正事項3に係る事項」という。)という記載は、ない。

次に、補正事項3に係る事項が実質的に記載されていたか否かを検討する。
なお、以下、補正事項3に係る事項を分節し、「第1投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、第2投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、かつ第3投与の有効量は、35mg/kg?40mg/kgの範囲であり」を「有効量事項」、「第2投与が、第1投与が行われた6時間後に行われ、第3投与が、第2投与が行われた6時間後に行われ、かつ次の24時間の期間の第1投与が、先の24時間の期間の第3投与が行われた12時間後に行われ」を「投与間隔事項」、「2μg/mL?20μg/mLの3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩の血漿濃度が、前記患者において24時間の期間維持される」を「血漿濃度事項」という。

当初明細書には、「本明細書に記載の投与量及び投与計画は、該活性作用物質の所望の血漿濃度を達成し維持する能力のために、有用であると考えられる。」(摘示e.)と記載されているとともに、「一実施態様」や「別の実施態様」や「特定の実施態様」と称して多数の実施態様が記載されている(摘示a.?d.、f.?h.)。
また、これらの実施態様には、「所望の血漿濃度」や「投与量及び投与計画」について、例えば、「24時間の間に1回、2回又は3回投与する方法に関する。24時間の間における各投与での投与量は、同じか又は異なっていてもよい。」(摘示a.)、「24時間の間に1回、2回又は3回投与し、好ましくは、各投与は約4?14時間隔てられる。」(摘示b.)、「0.1mg/kg?500mg/kg、1mg/kg?250mg/kg、1mg/kg?150mg/kg、1mg/kg?100mg/kg、1mg/kg?50mg/kg、1mg/kg?25mg/kg、1mg/kg?10mg/kg又は2mg/kg?10mg/kgの単回投与量又は分割投与量(例えば、1日あたり3回)で、その必要のある患者に投与することに関する。」(摘示c.)、「約0.1μg/ml、約0.5μg/ml、約1μg/ml、約2μg/ml、約5μg/ml、約10μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約40μg/ml、約50μg/ml、約100μg/ml、約200μg/ml、約300μg/ml、約400μg/ml又は約500μg/mlより高い・・血漿濃度を、少なくとも1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、8、12又は24時間、若しくはそれより長い時間維持する」(摘示d.)、「24時間における第3投与量を、式:1×、1×、2×;に従って投与する(ここで×は特定の初期投与量(例えば4mg/kg、7mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg又は50mg/kg)である)。」(摘示f.)、「毎日、その必要のある患者に、特定の時間(例えば、5、7、10、14、20、24、28、60又は120日、若しくはそれ以上)投与する継続的治療に関する。」(摘示g.)、「約0.1μg/ml、約0.5μg/ml、約2μg/ml、約5μg/ml、約10μg/ml、約20μg/ml、約25μg/ml、約40μg/ml、約50μg/ml、約100μg/ml、約150μg/ml、約200μg/ml、約250μg/ml、又は約500μg/ml;より高い・・血漿濃度を、患者において、少なくとも約2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、8、12又は24時間、又はそれ以上の間維持する方法に関し」(摘示h.)とすることなどが記載されている。

そうすると、有効量事項、投与間隔事項、及び、血漿濃度事項について、それぞれ、多数の選択肢の一つとしての記載はあるが、有効量事項、投与間隔事項、及び、血漿濃度事項をいずれも満足する具体的な実施態様は記載されていないし、具体的な記載はなくても記載されていたことが自明であるといえる根拠となるような記載もない。

加えて、以下に記載するとおり、有効量事項、及び、投与間隔事項を満足する場合には血漿濃度事項を満足しない蓋然性が高い。
すなわち、当初明細書(摘示i.j.特に、【表7】参照。)には、投与量(「パラメータ」)が「20,20,40mg/kg」である例が記載されており、この例は、有効量事項、及び、投与間隔事項を満足する(摘示i.)が、「Cmax」の値が「76μg/mL」であるから、血漿濃度事項を満足していない。
また、【表7】には、投与量(「パラメータ」)が「10,10,20mg/kg」である例も記載されており、この例は、有効量事項と比べ、第1投与の有効量、第2投与及び第3投与の有効量のいずれについても、投与量が少ない例である。そうすると、有効量事項を満足する場合の「Cmax μg/mL」の値(「1日目」)は、この例における「Cmax μg/mL」の値(「1日目」)より大きいと予測できるところ、この例における「Cmax μg/mL」の値(「1日目」)が、「27」である。
したがって、有効量事項を満足する場合の「Cmax μg/mL」の値(「1日目」)は、「27μg/mL」よりも大きい(血漿濃度事項を満足しない)と予測できる。

結局、当初明細書には、有効量事項、投与間隔事項、及び、血漿濃度事項をともに満足する具体例は、実質的にも記載されていないと認められる。
したがって、補正事項3を含む本件手続補正は、当初明細書に記載された事項の範囲内でしたものであるとは認められず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満足しないので、同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
上記「第2.」に記載したとおり、平成25年10月25日提出の手続補正書による手続補正は却下されたので、本願の請求項1?26に係る発明は、平成25年5月13日提出の手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「嚢胞性線維症又は筋ジストロフィーを治療又は予防するための医薬組成物であって、
有効量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含み、
該医薬組成物は、患者に24時間の期間で3回投与されるように用いられ、
第1投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、第2投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、かつ第3投与の有効量は、35mg/kg?40mg/kgの範囲である、前記医薬組成物。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願の請求項1-26に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、刊行物として「"View of NCT00264888 on 2005_12_12",[online],2005年12月12日 ,[平成24年10月19日検索]、インターネット<http://clinicaltria ls.gov/archive/NCT00264888/2005_12_12>」を引用するものである。

3.原査定の拒絶の理由の検討
(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された「"View of NCT00264888 on 2005_12_12",[online],2005年12月12日 ,[平成24年10月19日検索]、インターネット<http://clinicaltria ls.gov/archive/NCT00264888/2005_12_12>」(原査定の引用文献3。以下、「引用刊行物3」という。)には以下の記載がある。なお、訳は当審による。

a.
「Brief summary
In some patients with Duchenne muscular dystrophy (DMD), the disease is caused by a nonsense mutation (premature stop codon) in the gene that makes the dystrophin protein. PTC124 has been shown to partially restore dystrophin production in animals with DMD due to a nonsense mutation. The main purpose of this study is to understand whether PTC124 can safely increase functional dystrophin protein in the muscles of patients with DMD due to a nonsense mutation.」
(概要
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者の一部において、疾患は、ジストロフィンタンパク質を作る遺伝子におけるナンセンス変異(未成熟終止コドン)によって引き起こされる。 PTC124は、ナンセンス変異によるDMDの動物におけるジストロフィン産生を部分的に回復することが示されている。本研究の主な目的は、PTC124を安全にナンセンス変異によるDMD患者の筋肉の機能的なジストロフィンタンパク質を増加させることができるかどうかを理解することである。)
b.
「Detailed description
In this study, patients with DMD due to a nonsense mutation will be treated with a new investigational drug called PTC124. To determine if a patient qualifies for the study evaluation procedures will be performed within 21 days prior to the start of treatment;
these procedures include: history, physical examination, blood and urine tests to assess organ function, electrocardiogram (ECG), muscle biopsy for evaluation of dystrophin protein, and DMD-specific tests of muscle function. Eligible patients who elect to enroll in the study will then participate in a 28-day treatment period and a 28-day follow-up period (56 days total). The first 6 patients to be enrolled will take PTC124 treatment 3 times per day with meals for 28 days at doses of 4 mg/kg (breakfast), 4 mg/kg (lunch) and 8 mg/kg (dinner); these patients will then be observed during a 28-day follow-up period without treatment. Subsequently, 18 additional patients will be enrolled to take PTC124 treatment 3 times per day with meals for 28 days at doses of 10 mg/kg (breakfast), 10 mg/kg (lunch) and 20 mg/kg (dinner); these patients will then be observed during a 28-day follow-up period without treatment. There will be a 2-night stay at the clinical research center at the beginning and at the end of the 28 days of PTC124 treatment. To assess efficacy, patients will have an end-of-treatment biopsy and will undergo DMD-specific tests of muscle function. To assess safety and pharmacokinetics, safety assessments, blood and urine tests, and ECGs will be performed at prespecified timepoints during the 28-day treatment period and the 28-day follow-up period. At the end of the 56 days, patients will be assessed periodically regarding their general health status; these evaluations will be performed by telephone contact at approximately 6-month intervals in the first 2 years and at approximately 12-month intervals in subsequent years (up to 5 years total).」
(詳細な説明
本研究では、ナンセンス変異によるDMD患者はPTC124という新しい治験薬で治療されます。患者が治療の開始に先立って21日以内に実施される試験の評価手順の資格を有するかどうかを判断する。これらの手順としては、病歴、身体検査、血液及び臓器機能を評価するための尿検査、心電図(ECG)、ジストロフィンタンパク質の評価のための筋生検、および筋機能のDMD、特定のテストを行う。患者は、28日間の治療とその後の28日のフォローアップ期間(56日間合計)からなる治療を受ける。6人からなる最初のグループの患者は、4 mg / kgを(朝食)、4 mg / kgを(昼食)および8mg/ kgの(夕食)の用量で28日間食事と一緒にPTC124治療を1日3回受け、その後、処理なしの28日のフォローアップ期間中に観察される。18人からなる患者のグループは、10mg/ kgの(朝食)、10mg / kgの(昼食)および20mg/ kgの(夕食)の用量で28日間、食事と一緒にPTC124治療を1日3回受け、その後、処理なしの28日のフォローアップ期間中に観察される。PTC124治療の28日間の期間の最初と終了時に臨床研究センターで2泊して有効性を評価する。また、患者は、治療の終了後に生検、筋機能のDMD、特定のテストを受ける。安全性および薬物動態、安全性評価、血液および尿検査を評価するために、心電図を28日間の治療終了後とフォローアップ期間の終了後に行う。 56日の終了後、患者は、一般的な健康状態について定期的に評価される。これらの評価は、最初の2年間で、およそ電話連絡により6カ月間隔を行い、その後の数年間では約12カ月間隔(5年合計まで)とされる。

(2)刊行物に記載された発明
引用刊行物3には、以下の発明(以下、「刊行物3発明」という。)が記載されていると認められる。

「ジストロフィンタンパク質を作る遺伝子におけるナンセンス変異(未成熟終止コドン)によって引き起こされたデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者に対するPTC124という新しい治験薬であり、
4 mg / kgを(朝食)、4 mg / kgを(昼食)および8mg/ kgの(夕食)の用量で28日間食事と一緒にPTC124治療を1日3回を取り、または、
10mg/ kgの(朝食)、10mg / kgの(昼食)および20mg/ kgの(夕食)の用量で28日間、食事と一緒にPTC124治療を1日3回を取り、
その後、処理なしの28日のフォローアップ期間中に観察される
PTC124という新しい治験薬による治療に使用される治験薬。」

(3)対比・判断
本願発明と刊行物3発明を対比すると、
刊行物3発明の「PTC124」は、本願発明の「3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物」に相当する。

そうすると、本願発明と刊行物3発明は、以下の点で一致する。

「筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物であって、
有効量の3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1,2,4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸、又はその医薬として許容し得る塩、溶媒和物若しくは水和物を含み、
該医薬組成物は、患者に24時間の期間で3回投与されるように用いられる、
前記医薬組成物。」

また、以下の点で相違する。

本願発明は、「第1投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、第2投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、かつ第3投与の有効量は、35mg/kg?40mg/kgの範囲である」のに対し、刊行物3発明は、「4 mg / kgを(朝食)、4 mg / kgを(昼食)および8mg/ kgの(夕食)の用量、または、10mg/ kgの(朝食)、10mg / kgの(昼食)および20mg/ kgの(夕食)の用量」である点。

引用刊行物3には、「本研究の主な目的は、PTC124を安全によるナンセンス変異によるDMD患者の筋肉の機能的なジストロフィンタンパク質を増加させることができるかどうかを理解することである」旨記載されているとともに、その用量について「4 mg / kgを(朝食)、4 mg / kgを(昼食)および8mg/ kgの(夕食)の用量」、または、「10mg/ kgの(朝食)、10mg / kgの(昼食)および20mg/ kgの(夕食)の用量」の2通りの用量を採用しているが、本願発明の属する技術分野において、薬効が増加することを期待して用量を増加することや、用量を増加すると副作用も強くなることは技術常識であることを勘案すると、さらに用量を増加した場合についても薬効の増加や副作用の程度を確認することを着想する程度のことは、本願発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば容易に着想しうると認められる。
また、用量を増加する際に引用刊行物3にすでに記載されている「4 mg / kgを(朝食)、4 mg / kgを(昼食)および8mg/ kgの(夕食)の用量」、または、「10mg/ kgの(朝食)、10mg / kgの(昼食)および20mg/ kgの(夕食)の用量」を参考にして概ね「20mg/ kgの(朝食)、20mg / kgの(昼食)および40mg/ kgの(夕食)の用量」である「第1投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、第2投与の有効量は、18mg/kg?22mg/kgの範囲であり、かつ第3投与の有効量は、35mg/kg?40mg/kgの範囲である」用量とすることは、適宜なしえると認められる。
しかも、本願の明細書に「全体的に、4-、4-、8-mg/kgの投与量で治療された6人の患者のうち4人(67%)(90%CI27?94%)、10-、10-、20-mg/kgの投与量で治療された20人の患者のうち10人(50%)(90%CI30?70%)、20-、20-、40-mg/kgの投与量で治療された12人の患者のうち6人(50%)(90%CI50?75%)が、治療後のジストロフィンの発現の増加を示した。」(段落【0205】)、「4-、4-、8-mg/kg;10-、10-、20-mg/kg;又は20-、20-、40-mg/kgの投与量が与えられた対象の大多数が、治療終了時の値を治療前の値と比較すると、CKが減少した。」(段落【0206】)、と記載されていることを勘案すると、治療後のジストロフィンの発現の増加については「4 mg / kgを(朝食)、4 mg / kgを(昼食)および8mg/ kgの(夕食)の用量」の場合が最も好ましいのである。また、CKの減少についても、いずれの投与量においてもCKが減少したことが記載されているに過ぎず、本願発明において投与量の違いにより当業者に予測出来ない格別顕著な効果が奏されているといえる根拠を見いだせない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、【表7】及び段落【0206】の記載に基づき、平成25年5月13日提出の意見書(第6頁17?21行)において、本願発明は、従来の投与方法(例えば、第1投与量、第2投与量、第3投与量が、4、4、8mg/kg又は10、10、20mg/kg)に比べて、予測値を上回る高いAUC0-24値及びCmax値を得ている旨主張するが、そもそも「予測値」(【表7】の脚注に「先のフェイズ1多投与試験の結果から導かれた区画モデルに基づく予測値」と説明されている。)の具体的な算出方法が不明であり、その上その妥当性が実際のデータ等で確認されているわけでもなく、かつ、【表7】によれば第1投与量、第2投与量、第3投与量が、10、10、20mg/kgから20、20、40mg/kgに増えた際のCmax値の予測値が、常識的には、投与量が2倍に増えたことにより、概ね2倍に増える(少なくとも増加する)と予想されるところ、47μg/mLから44μg/mLに減っている。したがって、予測値を信頼することができないことを勘案すると、予測値が正しいことを前提とする請求人の主張は、検討するまでもなく採用することができない。

また、審判請求人は、平成25年12月11日に提出した、審判請求書の手続補正書(方式)で添付資料1乃至添付資料4を提出し、「このように、投与計画にかかわらず血漿濃度20μg/mlを境に治療効果に差が現れることが分かる。すなわち、血漿濃度2μg/mlから治療効果に差が現れる血漿濃度20μg/mlの範囲で有効な治療効果が期待される治療域が存在することを示唆している。これは同時に当該治療域を達成するために20、20、40mg/kgの投与計画を必要する集団が存在することを表している。言い換えると、当該集団は、例えば、10、10、20mg/kgの投与計画では、有効な治療効果を得ることができないのである。」と主張しているが、そもそも「投与計画にかかわらず血漿濃度20μg/mlを境に治療効果に差が現れること」や「血漿濃度2μg/mlから治療効果に差が現れる血漿濃度20μg/mlの範囲で有効な治療効果が期待される治療域が存在すること」に対応する記載が、特許請求の範囲にはないから、主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではない。

(5)判断
本願発明は、引用刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願はこの理由により拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2015-01-21 
結審通知日 2015-01-27 
審決日 2015-02-09 
出願番号 特願2009-532453(P2009-532453)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 561- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 文彦  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 安藤 倫世
穴吹 智子
発明の名称 ナンセンス突然変異抑制治療用の経口的に活性な1,2,4-オキサジアゾールの投与方法  
代理人 石川 徹  

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