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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1302428
審判番号 不服2014-5268  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-19 
確定日 2015-06-24 
事件の表示 特願2010-528830号「外部からの排尿制御のための移植可能なデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成21年4月16日国際公開、WO2009/048373、平成23年1月6日国内公表、特表2011-500135号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成20年10月10日(パリ条約による優先権主張 2007年10月11日 米国、2007年10月11日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年3月5日付けの拒絶理由通知に対し、同年9月19日付けで手続補正がされたが、同年11月6日付けで拒絶査定がされ、その後、平成26年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がされたものである。


II.平成26年3月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年3月19付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(下線は、補正箇所を明示するために付したものである。)。
「【請求項1】
膀胱から尿を排出するために前記膀胱の選択された部分に対して外部から力を加えるように適合化された移植可能な動力部材(100)と、
支持構造体に対して前記力が少なくとも部分的にかけられる、前記動力部材の動作を制御するための制御デバイス(200)と、
を備え、
前記動力部材は、前記膀胱の圧縮または解放を実施するために機械式に作動され、
前記動力部材は、作動デバイス(144)を備え、前記作動デバイス(144)から前記動力部材の接触部分(120)まで延在する1つの可動アーム(142)を有し、前記接触部分は前記膀胱の表面部分に接するように構成され、前記作動デバイス(144)は前記可動アームを変位させるように構成されたモータを備え、前記膀胱から尿を排出するために前記可動アームを前記膀胱に向かって変位させるするように構成され、前記作動デバイス(144)は、恥骨、膀胱、腹壁、または骨盤壁の少なくとも1つのヒトの組織に固定されることを特徴とする、膀胱から尿を排出することによって哺乳類患者の尿閉を治療するための装置。」

2 補正の目的及び新規事項の追加の有無等
本件補正は、請求項1に関し、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「少なくとも1つの可動アーム(142)」を「1つの可動アーム(142)」と限定するとともに、同じく発明を特定するために必要な事項である「作動デバイス(144)」について、「構成されることを特徴とする」を「構成され、前記作動デバイス(144)は、恥骨、膀胱、腹壁、または骨盤壁の少なくとも1つのヒトの組織に固定されることを特徴とする」と、その固定箇所を限定する補正であって、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許請求に範囲についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するところはない。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について、以下に検討する。

3-1 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2006-136416号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
a:「【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿を支援させる排尿支援装置に関し、特に、人体内部に備えられ膀胱を押圧する排尿支援装置に関する。」

b:「【0015】
(本発明の第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る排尿支援装置について、図1ないし図6に基づき説明する。図1は本実施形態に係る排尿支援装置の概略図、図2は本実施形態に係る排尿支援装置の膀胱を圧縮していない状態図、図3は本実施形態に係る排尿支援装置の膀胱を圧縮している状態図、図4及び図5は本実施形態に係る排尿支援装置の全体図、並びに、図6は本実施形態に係る排尿支援装置を設置した例示図である。
【0016】
前記各図において本実施形態に係る排尿支援装置は、膀胱周辺のいれずかの骨に固定され長尺状の支持部1、当該支持部1の片側に温度変化により伸縮する第1のバネ部12及び前記支持部の他側に温度変化により伸縮する第2のバネ部13を備え、当該第1のバネ部12と第2のバネ部13にそれぞれ第1の熱伝導板14、第2の熱伝導板15をバネ部12、13に熱伝導可能にペルチェ素子16を介在させて配設した伸縮機構10を、膀胱を押圧する押圧部20の両側に前記支持部11に枢軸されたリンク軸30を介して配設し、当該リンク軸30は各伸縮機構10の第1のバネ部12及び第2のバネ部13と接合し、前記ペルチェ素子16を制御する制御部(図示しない)を有する構成である。本実施形態では、4つの伸張機構10を用いる。」

c:「【0021】
前記制御部は、マイコン若しくは電子回路で構成され、外部の要求に応じてペルチェ素子16に対して電流を流す制御を行う。この制御部は、例えば、可動しない支持部に内設される。同様に、制御部及びペルチェ素子16に電流の供給を行う電源部(図示しない)も可動しない支持部に内設される。」

d:「【0024】
かかる排尿支援装置を手術により配設された患者は、尿意をもよおした場合に、排尿支援装置のリモコン(図示しない)を携帯して便所に行く。男性であれば、通常通り、立小便用便器の前に立ち、性器を所定方向に向けた状態で排尿不能ではない患者はまずは自己の筋力を頼りに尿を出そうとする。そして、一定の試みをなした後に、リモコンの開始ボタンを押下する。
【0025】
かかるボタンが押下された場合に、リモコンから駆動命令が制御部に伝達される。制御部はかかる駆動命令を受け、ペルチェ素子16に電流を流す。電流が流れるとペルチェ素子16は、第1の熱伝導板14からは吸熱をし、かかる熱を第2の熱伝導板15に放熱を行う。第1の熱伝導板14が内設された筒51内の充填水の温度が低下し変態開始温度方向に近づいていく。そうすると、第1のバネ部12が伸長する。一方、第2の熱伝導板15が内設された筒51内の充填水の温度が上昇し変態終了温度方向に近づいていく。そうすると、第2のバネ部12が縮退する。かかる第1のバネ部12の伸長及び第2のバネ部12の縮退により、リンク軸30が初期位置から傾倒し、押圧部20を押下する。押圧部20はかかる押圧により下方向に押し下げられ、膀胱100を押圧する。膀胱100はかかる押圧により、尿に対する内圧が上昇し、尿道から尿が排出される。」

e:「【0030】
(本発明の第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る排尿支援装置について、図7に基づき説明する。図7は本実施形態に係る排尿支援装置の動作説明図である。図7中の実線の変位部111が膀胱を圧迫していない状態を示し、点線の変位部111が膀胱を圧迫している状態を示している。
【0031】
本実施形態に係る排尿支援装置は、膀胱周辺のいれずかの骨に固定され長尺状のベース部110と、このベース部110に一端を支持され、温度変化により形状を変化する変位部111とを備え、前記変位部111が温度変化によって形状を変化させて膀胱100を圧迫する構成である。また、変位部111の膀胱接触部にクッション材112を設けている。
【0032】
温度変化により形状を変化する物質としては形状記憶合金がり、所定温度を与えることに記憶させた形状に変形する。
【0033】
本排尿装置を開腹手術により図7に示すように人体に設置する。手術後傷が塞がった後に、下腹部に対して手、湯たんぽ等で暖めることにより、形状記憶合金から形成される変位部111が、図7の実線から図7の点線に変化し、膀胱100を圧迫する。
【0034】
このように本実施形態に係る排尿支援装置によれば、骨に固定されているベース部110を固定点とし、温度変化又は電圧変化によって変位部111が形状を変化させ、膀胱100を繰り返し同一動作で圧迫することができ、安定的に排尿を繰り返し支援することができる。」

f:「【0041】
(本発明のその他の実施形態)
前記第2の実施形態に係る排尿支援装置においては図7に示す構成としたが、図7(b)に相当する要部拡大図である図10の構成にすることもでき、膀胱周辺のいれずかの骨に固定され長尺状のベース部110と、このベース部110に一端を支持され、長尺状の所定形状を保つ起動部311と、この起動部311に一端を固定され、他端が圧電素子からなるリンク材313とを備え、リンク材313の他端が通常時で起動部311のベース部110に位置し、電圧印加時にベース部110に沿って直下方向に移動する構成にすることもでき、リンク材313の圧電素子部分に電圧印加されることにより体積変化が生じて、ベース部110に沿ってリンク材313の他端が直下方向に所定変位分(図中で∇)移動し、リンク材313の一端と固定されている起動部311が起動し(図10(b)参照。なお、図10(a)は起動前の状態を示す。)、起動部の他端部分が膀胱100を繰り返し同一動作で圧迫することができ、安定的に排尿を繰り返し支援することができる。ここで、リンク材313の圧電素子部分を、形状記憶合金で形成し、同様に所定分変位させる構成にすることもできる。また、ベース部110のリンク材313との接続部分を圧電素子又は形状記憶合金にして、ベース部110の体積変化によりリンク材313を変位させる構成であってもよい。
【0042】
また、同様にベース部110、起動部311及びリンク材313の構成で、リンク材313のベース部110の接続端をジョイントとし、このジョイント部分がベース部110をリールとして機能させてベース部110が上下可能とし、起動部311のベース部110の接続端を固定端とし、この固定端と前記ジョイントとを中央が曲折し2方向の延出手314a、314bを有する拡開材で接続し、この拡開材314の延出手の中央部分に形状記憶合金を配置し、通常時で形状記憶合金が短い状態で拡開材314を狭角とし(図11(a)参照)、排尿支援装置使用時に形状記憶合金が長い状態で拡開材314を広角として起動部311を起動させ(図11(b)参照)、同様に、膀胱を圧迫して排尿を支援することもできる。この場合に、形状記憶合金の代わりに、圧電素子を用いることもでき、圧電素子に電圧印加の有無によって体積膨張を生じさせて、形状記憶合金と同様に機能させることもできる。
【0043】
また、図11の構成は例示であって一般的なアクチュエーターで動作可能であり、他の例として図12の構成であっても同様に動作することができる。・・・」

g:上記摘記事項eの「変位部111の膀胱接触部にクッション材112を設けている。」、「本排尿装置を開腹手術により図7に示すように人体に設置する。」の各記載、及び摘記事項fの「(本発明のその他の実施形態)前記第2の実施形態に係る排尿支援装置においては図7に示す構成としたが、図7(b)に相当する要部拡大図である図10の構成にすることもでき、」、「起動部の他端部分が膀胱100を繰り返し同一動作で圧迫する」の各記載から、「他の実施形態」における「排尿支援装置」も、開腹手術により人体に設置される装置であり、また、その起動部の他端部分の膀胱接触部にはクッション部材112が設けられるものといえる。

以上の各記載及び図面の図示内容を総合すれば、引用例には、「その他の実施形態」に関連して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「開腹手術により人体に設置される排尿支援装置であって、膀胱周辺のいずれかの骨に固定される長尺状のベース部110と、このベース部110に一端を支持され、長尺状の所定形状を保つ起動部311と、この起動部311に一端を固定されるリンク材313とを備え、
リンク材313のベース部110の接続端をジョイントとし、起動部311のベース部110の接続端を固定端とし、この固定端と前記ジョイントとを中央が曲折し2方向の延出手314a、314bを有する拡開材314で接続し、この拡開材314の延出手の中央部分に圧電素子を配置し、
圧電素子に電圧印加の有無によって体積膨張を生じさせて、排尿支援装置使用時に拡開材314を広角として起動部311を起動させ、起動部311の他端部分が膀胱100を繰り返し同一動作で圧迫することができ、安定的に排尿を繰り返し支援することができ、
起動部311の他端部分の膀胱接触部にクッション部材112が設けられる、
排尿支援装置。」

3-2 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明では、「長尺状の所定形状を保つ起動部311」「の他端部分が膀胱100を繰り返し同一動作で圧迫することができ、安定的に排尿を繰り返し支援することができ、起動部311の他端部分の膀胱接触部にクッション部材112が設けられる」ことから、引用発明の「長尺状の所定形状を保つ起動部311」、「クッション部材112」は、それぞれ本願補正発明の「可動アーム(142)」、「接触部分(120)」に相当するといえるところ、この「クッション部材112」が膀胱の表面部分に接するように構成されていることは明らかである。

(イ)引用発明は、「圧電素子に電圧印加の有無によって体積膨張を生じさせて、排尿支援装置使用時に拡開材314を広角として起動部311を起動させ」、その結果、「起動部311の他端部分が膀胱100を繰り返し同一動作で圧迫することができ、安定的に排尿を繰り返し支援する」ものである。
そこで、引用発明において、起動部311を起動させる、即ち変位させるための手段である、「リンク材313」、「延出手314a、314bを有する拡開材314」、「圧電素子」から成る部材群を、以下、まとめて「駆動手段」と称することとすれば、この駆動手段は、膀胱から尿を排出するために起動部311を膀胱に向かって変位させるように構成されているものといえる。
そうすると、引用発明における上記の駆動手段は、その機能からみて、本願補正発明の「作動デバイス(144)」と、可動アーム(142)を変位駆動して作動させるための“アーム作動手段”という点で共通する。
また、引用発明の「圧電素子」は、“駆動源”であるという点で本願補正発明の「モータ」と共通する。
よって、引用発明と本願補正発明とは、“アーム作動手段は可動アームを変位させるように構成された駆動源を備え、膀胱から尿を排出するために前記可動アームを膀胱に向かって変位させるように構成される”点で共通する。

(ウ)引用発明の「膀胱周辺のいれずかの骨」は、本願補正発明の「恥骨、膀胱、腹壁、または骨盤壁の少なくとも1つのヒトの組織」に含まれるところ、引用発明における駆動手段としての「リンク材313」、「延出手314a、314bを有する拡開材314」は、ベース部110と接続されており、しかも、ベース部110は、「膀胱周辺のいれずかの骨に固定され」ているのであるから、引用発明における上記の駆動手段は、恥骨、膀胱、腹壁、または骨盤壁の少なくとも1つのヒトの組織に固定されるものといえる。
また、引用発明のベース部110には、起動部311の一端も支持されていることから、引用発明の「起動部311」は、上記の駆動手段から膀胱接触部のクッション部材112まで延在する一つの部材といえる。

(エ)引用発明における上記の「駆動手段」、「ベース部110」及び「起動部311」の各部材は、各部材が協働しつつ全体として、膀胱を圧迫するための一の手段を成すものといえるので、当該一の手段を、以下「動力手段」と称することとすれば、引用発明における当該動力手段は、本願補正発明の「動力部材(100)」に相当する。
また、引用発明における動力手段は、「開腹手術により人体に設置される」ものであり、しかも、引用発明における膀胱は、起動部311の他端部分の膀胱接触部に対応する特定の部分が圧迫されることで、「安定的に排尿を繰り返し支援」されることから、引用発明における動力手段は、膀胱から尿を排出するために前記膀胱の選択された部分に対して外部から力を加えるように適合化された移植可能な動力手段といえる。
さらに、引用発明は、「拡開材314を広角として起動部311を起動させ、起動部311の他端部分が膀胱100を繰り返し同一動作で圧迫することができ」るものであるから、引用発明における当該動力手段は、膀胱の圧縮または解放を実施するために機械式に作動されるものといえる。
よって、引用発明のクッション部材112が、「起動部311の他端部分の膀胱接触部に」設けられることを考慮すれば、引用発明と本願補正発明とは、“動力部材を備え、動力部材は、膀胱の圧縮または解放を実施するために機械式に作動され、前記動力部材は、アーム作動手段を備え、前記アーム作動手段から前記動力部材の接触部分まで延在する1つの可動アームを有する”点で共通する。

(オ)引用発明の「膀胱100を繰り返し同一動作で圧迫することができ、安定的に排尿を繰り返し支援することができ、」「人体に設置される排尿支援装置」は、本願補正発明の「膀胱から尿を排出することによって哺乳類患者の尿閉を治療するための装置」に相当し、また、引用発明の「膀胱周辺のいずれかの骨に固定される長尺状のベース部110」は、起動部311の「一端を支持」するための部材であるから、本願補正発明の「支持構造体」に相当する。
ここで、引用発明における、起動部311の「一端を支持する」ベース部110は、「起動部311の他端部分が膀胱100を繰り返し同一動作で圧迫する」際に、起動部311の行う圧迫動作に伴い生じる反力を受け止めて支えるという機能をも当然に具備するものといえるので、引用発明のベース部110は、力が少なくとも部分的にかけられるベース部といえる。

以上の(ア)?(オ)によれば、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
膀胱から尿を排出するために前記膀胱の選択された部分に対して外部から力を加えるように適合化された移植可能な動力部材
を備え、
支持構造体に対して前記力が少なくとも部分的にかけられ、
前記動力部材は、前記膀胱の圧縮または解放を実施するために機械式に作動され、
前記動力部材は、アーム作動手段を備え、前記アーム作動手段から前記動力部材の接触部分まで延在する1つの可動アームを有し、前記接触部分は前記膀胱の表面部分に接するように構成され、前記アーム作動手段は前記可動アームを変位させるように構成された駆動源を備え、前記膀胱から尿を排出するために前記可動アームを前記膀胱に向かって変位させるように構成され、前記アーム作動手段は、恥骨、膀胱、腹壁、または骨盤壁の少なくとも1つのヒトの組織に固定される、膀胱から尿を排出することによって哺乳類患者の尿閉を治療するための装置。

〈相違点1〉
本願補正発明が、「支持構造体に対して前記力が少なくとも部分的にかけられる、前記動力部材の動作を制御するための制御デバイス(200)」を備えるのに対し、引用発明は、このような制御デバイスを備えるとまでの特定のない点。

〈相違点2〉
アーム作動手段及び駆動源に関し、本願補正発明では、アーム作動手段が、駆動源としての「可動アームを変位させるように構成されたモータ」を備える「作動デバイス」であるのに対し、引用発明では、アーム作動手段が、「リンク材313」、「延出手314a、314bを有する拡開材」、「圧電素子」から成る駆動手段であって、この駆動手段は、駆動源として「圧電素子」を備える点。

3-3 相違点の判断
上記各相違点について検討する。
〈相違点1〉について
引用例には、「第1の実施形態」として、膀胱を押圧する排尿支援装置であって、人体内部に備えられる装置が制御部を有し、当該制御部は、マイコン若しくは電子回路で構成され、人体外部の要求に応じてペルチェ素子16に対して電流を流す制御を行う事項も記載されている(上記摘記事項a?d参照)ところ、このペルチェ素子16は、第1の実施形態の排尿支援装置における“駆動源”と言い換えることができるものである。
他方、引用発明の排尿支援装置は、駆動源として圧電素子が配置されているところ、この圧電素子は電圧印加により駆動力を発揮するものであるから、排尿を支援する際に、必要とされる電圧を印加するための適宜の制御を行う必要のあることは明らかである。
そうすると、引用例における「第1の実施形態」に関する記載に接した当業者であれば、引用発明の排尿支援装置にも動力部材の動作を制御する適宜の制御部を設けると共に、制御部の制御に伴い発生する力を支持構造体が少なくとも部分的に受け止めるようにして、相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることは、容易になし得たことである。

〈相違点2〉について
引用例には、「図11の構成は例示であって一般的なアクチュエーターで動作可能であり」(摘記事項f)と、引用発明における駆動手段を、他の「一般的なアクチュエーター」に変更できる旨も示唆されている。
アーム状の部材を変位駆動するための駆動源としてモータを使用することは、機械分野一般において、従来より周知の技術事項にすぎない(必要ならば、一例として、原査定において提示された特開2002-287613号公報参照)ことから、引用発明の駆動手段に代えて、駆動源としてのモータ及び適宜の駆動伝達機構から成る「一般的なアクチュエーター」を採用することにより、「作動デバイスは可動アームを変位させるように構成されたモータを備え」とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって格別のものとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


III.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成25年9月19日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
膀胱から尿を排出するために前記膀胱の選択された部分に対して外部から力を加えるように適合化された移植可能な動力部材(100)と、
支持構造体に対して前記力が少なくとも部分的にかけられる、前記動力部材の動作を制御するための制御デバイス(200)と、
を備え、
前記動力部材は、前記膀胱の圧縮または解放を実施するために機械式に作動され、
前記動力部材は、作動デバイス(144)を備え、前記作動デバイス(144)から前記動力部材の接触部分(120)まで延在する少なくとも1つの可動アーム(142)を有し、前記接触部分は前記膀胱の表面部分に接するように構成され、前記作動デバイス(144)は前記可動アームを変位させるように構成されたモータを備え、前記膀胱から尿を排出するために前記可動アームを前記膀胱に向かって変位させるするように構成されることを特徴とする、膀胱から尿を排出することによって哺乳類患者の尿閉を治療するための装置。」


IV.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。


V.対比・判断
本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、前記II.2で指摘した限定を省いたものに相当する発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-2、3-3に示したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-22 
結審通知日 2015-01-27 
審決日 2015-02-10 
出願番号 特願2010-528830(P2010-528830)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61F)
P 1 8・ 575- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺澤 忠司  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
蓮井 雅之
発明の名称 外部からの排尿制御のための移植可能なデバイス  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  

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