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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1302500
審判番号 不服2014-16289  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-18 
確定日 2015-06-25 
事件の表示 特願2010-197285「端子圧着電線」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月15日出願公開、特開2012- 54170〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成22年9月3日の出願であって、平成26年1月6日付けで原審で拒絶理由が通知され、同年3月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月21日付け(同年5月20日:発送日)で拒絶査定がなされた。これに対し、同年8月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2.平成26年8月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年8月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本件発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】
アルミニウム導体線が絶縁体で覆われているアルミニウム電線の端末に、前記アルミニウム電線に圧着されるかしめ部と他の端子と接続するための電気接触部とを有する銅系材料からなる接続端子が圧着されている端子圧着電線において、
前記かしめ部の外部に前記アルミニウム導体線が露出している導体線露出部が防食剤により被覆され、更に前記接続端子の表面に油剤による油膜が形成されており、
前記接続端子が、錫メッキされた銅系板材が型抜き加工して形成されたものであり、
前記油膜が、前記防食剤の表面にも形成されており、
前記油剤が、ゴム用プロセスオイル、端子油、防錆油から選択される一種であることを特徴とする端子圧着電線。」
とあったものを
「【請求項1】
アルミニウム導体線が絶縁体で覆われているアルミニウム電線の端末に、前記アルミニウム電線に圧着されるかしめ部と他の端子と接続するための電気接触部とを有する銅系材料からなる接続端子が圧着されている端子圧着電線において、
前記かしめ部の外部に前記アルミニウム導体線が露出している導体線露出部が防食剤により被覆され、更に前記接続端子の表面全体に油剤による油膜が形成されており、
前記接続端子が、錫メッキされた銅系板材が型抜き加工して形成され、型抜き加工の切断面に前記錫メッキがされていない状態であり、
前記防食剤の表面及び前記錫メッキがされていない部分が前記油膜により被覆されており、
前記防食剤が、有機樹脂であり、
前記油剤が、ゴム用プロセスオイル、端子油、防錆油から選択される一種であることを特徴とする端子圧着電線。」
と補正することを含むものである。(下線は補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。)

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「油膜」に関して、接続端子の表面「全体」に形成されることを限定し、さらに「型抜き加工の切断面に錫メッキがされていない状態であり、防食剤の表面及び錫メッキがされていない部分が油膜により被覆されており」との限定を付加するとともに、「防食剤」に関し、「有機樹脂であり」との限定を付加したものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-108798号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「異種金属からなる電線と端子の接続部及び接続方法」に関し、図面と共に、以下の事項が記載されている。
ア.「【0001】
本発明は、電線の導体と、それに圧着される端子とが異種金属である場合の、導体と端子の接触電位差による腐食を防止した電線と端子の接続部及び接続方法に関するものである。」

イ.「【0003】
自動車、OA機器、家電製品等の分野においては、導電性にすぐれた銅系材料からなる導体を有する銅電線が信号線、電力線として使用されてきた。中でも自動車分野においては、車両の高性能、高機能化が急速に進められてきていることから、車載される各種電気機器、制御機器等の増加に伴って、使用される銅電線も増加する傾向にあるのが現状である。このような状況下で車両の軽量化により燃費効率を向上させようとする場合、銅電線と比較してより軽量で安価なアルミ電線(導体がアルミ系材料からなる)が自動車分野において特に注目されている。」

ウ.「【0019】
本発明によれば、端子の絶縁被覆かしめ部と導体かしめ部の間の導体露出部分及び導体かしめ部の先端側の導体露出部分をそれぞれ樹脂で覆ったことにより、端子と導体の接触部が被水するおそれがなくなるので、端子と導体の接触電位差による腐食を防止することができる。また、導体露出部分に樹脂を塗布するだけであるので、製造作業は容易であり、製造設備も簡単なものでよく、使用樹脂量も少なくて済み、低コストの防食型接続部を得ることができる。」

エ.「【0025】
図1は本発明の一実施形態を示す。図において、1はアルミ系材料からなる導体2に絶縁被覆3を被せてなる電線、4は銅系材料からなる端子である。端子4は、先端側に相手方端子との接触部5を有し、後端側に導体かしめ部6及び絶縁被覆かしめ部7を有している。導体かしめ部2は電線1の端部に露出させた導体2に圧着され、絶縁被覆かしめ部7は絶縁被覆3の端部に圧着されている。
【0026】
この実施形態は、上記のような異種金属からなる電線と端子の接続部において、絶縁被覆かしめ部7と導体かしめ部6の間の導体露出部分2a、導体かしめ部6の先端側の導体露出部分2b及び導体かしめ部6の合わせ目部分8にそれぞれ樹脂9を塗布、硬化させて、それらの導体露出部分2a、2b及び合わせ目部分8を樹脂9で覆ったことを特徴とするものである。樹脂9としては、シリコーン系、アクリル系、ウレタン系、ポリアミド系又はエポキシ系の樹脂などを使用できる。」

これら記載事項、図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、刊行物には、次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
「アルミ系材料からなる導体2に絶縁被覆3を被せてなる電線1の端部に、前記アルミ系材料からなる導体2に圧着される導体かしめ部6と相手方端子と接続するための接触部5とを有する銅系材料からなる端子4が圧着されている電線1において、
絶縁被覆かしめ部7と前記導体かしめ部6の間の導体露出部分2a、及び前記導体かしめ部6の先端側の導体露出部分2bが樹脂9により被覆され、
前記樹脂9が、シリコーン系、アクリル系、ウレタン系、ポリアミド系又はエポキシ系の樹脂である電線1。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-302866号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「嵌合接続端子」に関し、図面と共に、以下の事項が記載されている。
カ.「【請求項1】 錫めっきを施した雄部品および雌部品の嵌合によって電気的接触を得る嵌合型接続端子であって、
前記雄部品または前記雌部品のうちの少なくとも一方に、防錆潤滑剤を塗布することを特徴とする嵌合型接続端子。」

キ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車、産業機器などの電気配線に用いられる嵌合型接続端子に関する。」

ク.「【0030】B.嵌合型接続端子への防錆潤滑剤の塗布:接続端子には、挿入力以外にも安定して低い接触抵抗および良好な耐食性が要求される。接触抵抗は電気配線の接続に使用される端子である以上当然に要求される特性であり、また端子の母材である銅は特に亜硫酸ガス雰囲気において腐食が進行しやすいため耐食性も要求される。

ケ.「【0032】ここで防錆潤滑剤として使用しているのは、キレート剤である有機アミン(ここでは、シクロヘキシルアミン)とワックスであるパラフィンワックスとを混合した溶剤である。塗布方法は、まず、上記有機アミンとパラフィンワックスとを有機溶剤または水に溶かした溶液を生成する。そして、当該溶液中に雄端子10および雌端子20を浸漬して乾燥させるか、または両端子の接触部分に溶液をスプレー塗布する。なお、防錆潤滑剤は、雄端子10または雌端子20のいずれか一方のみに塗布するようにしてもよい。」

これら記載事項、図示内容を総合すると、刊行物2には、次の事項(以下、「刊行物2に記載されている事項」という。)が記載されている。

「自動車に用いられる錫めっきを施した嵌合型接続端子において、該端子の母材である銅の腐食の進行を防止するために、錫メッキされた銅の端子を溶剤に浸漬して乾燥させ防錆潤滑剤を塗布すること」

3.対比
本願補正発明と刊行物発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
後者の「アルミ系材料からなる導体2」は、前者の「アルミニウム導体線」に相当する。以下同様に、「絶縁被覆3」は「絶縁体」に、「アルミ系材料からなる導体2に絶縁被覆3を被せてなる」「電線1」は「アルミニウム導体線が絶縁体で覆われている」「アルミニウム電線」に、「端部」は「端末」に、「導体かしめ部6」は「かしめ部」に、「相手方端子」は「他の端子」に、「接触部5」は「電気接触部」に、「端子4」は「接続端子」に、「絶縁被覆かしめ部7と前記導体かしめ部6の間の導体露出部分2a、及び前記導体かしめ部6の先端側の導体露出部分2b」は「かしめ部の外部にアルミニウム導体線が露出している導体線露出部」に、「シリコーン系、アクリル系、ウレタン系、ポリアミド系又はエポキシ系の樹脂」は「有機樹脂」に、それぞれ、相当する。
後者の「樹脂9」は、刊行物1の段落【0019】の「導体露出部分をそれぞれ樹脂で覆ったことにより、端子と導体の接触部が被水するおそれがなくなるので、端子と導体の接触電位差による腐食を防止することができる。」との記載によれば、「防食剤」に相当する。
また、「端子4が圧着されている」「電線1」は「端子圧着電線」といえる。

そうすると、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「アルミニウム導体線が絶縁体で覆われているアルミニウム電線の端末に、前記アルミニウム電線に圧着されるかしめ部と他の端子と接続するための電気接触部とを有する銅系材料からなる接続端子が圧着されている端子圧着電線において、
前記かしめ部の外部に前記アルミニウム導体線が露出している導体線露出部が防食剤により被覆されており、
前記防食剤が、有機樹脂である端子圧着電線。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本願補正発明は、「接続端子の表面全体に油剤による油膜が形成されており、接続端子が、錫メッキされた銅系板材が型抜き加工して形成され、型抜き加工の切断面に錫メッキがされていない状態であり、防食剤の表面及び錫メッキがされていない部分が油膜により被覆されており、油剤が、ゴム用プロセスオイル、端子油、防錆油から選択される一種である」のに対して、
刊行物発明は、端子4の形成法が特定されておらず、また、油膜を形成していない点。

4.判断
(1)[相違点]について検討する。
銅系材料からなる端子を、錫メッキされた銅系板材を型抜き加工して形成することは、従来周知の技術であり(一例として、特開2009-176673号公報の段落【0026】を参照。以下、「周知技術」という。)、銅系材料からなる端子の形成法として一般的に用いられていることである。そして、当該型抜き加工した後の切断面は、錫メッキがされていない状態であるといえる。
他方、上記刊行物2に記載されている事項において、「防錆潤滑剤」は本願補正発明の「油剤」に相当し、同様に「防錆潤滑剤を塗布すること」は「油膜が形成され」ることに相当すると解されるところ、上記記載事項ケにはその態様として「溶液中に雄端子10および雌端子20を浸漬」することが記載されている。
ところで、刊行物発明は、段落【0003】に記載されているように、自動車分野への適用を視野に入れているから、刊行物発明と刊行物2に記載されている事項とは、自動車分野に適用される端子という共通の技術分野に属するものであり、加えて、排ガス、雨水等に晒される可能性がある自動車分野の銅系材料からなる端子4において、腐食の進行を防止することは一般的な課題であるから、刊行物発明に刊行物2に記載されている事項を適用する動機付けは十分ある。
してみると、刊行物発明において、該刊行物発明の「銅系材料からなる端子4」を上記一般的な形成法に倣い「錫メッキされた銅系板材を型抜き加工して形成した銅系材料からなる端子4」としたものに、腐食の進行を防止するために、刊行物2に記載されている事項を適用し、防錆潤滑剤の溶液中に浸漬することで、端子4の表面全体、錫メッキがされていない端子4の切断面、及び樹脂9の表面に防錆潤滑剤を塗布することは当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明による効果も、刊行物発明、引用文献2に記載されている事項及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物発明、刊行物2に記載されている事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成26年3月13日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2.1.」に記載したとおりである。

2.刊行物の記載事項
刊行物の記載事項は、前記「第2.2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、前記「第2.1.」に記載した限定事項を省くものである。そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、前記「第2.1.」の限定事項により減縮したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.3.及び4.」に記載したとおり、刊行物発明、刊行物2に記載されている事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物発明、刊行物2に記載されている事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物発明、刊行物2に記載されている事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-21 
結審通知日 2015-04-28 
審決日 2015-05-11 
出願番号 特願2010-197285(P2010-197285)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北中 忠前田 仁  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 小柳 健悟
島田 信一
発明の名称 端子圧着電線  
代理人 上野 登  
代理人 上野 登  
代理人 上野 登  

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