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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21F
管理番号 1302632
審判番号 不服2014-17211  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-29 
確定日 2015-07-23 
事件の表示 特願2012- 96675「汚染物質除去装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月31日出願公開、特開2013-224852、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年(2012年)4月20日の出願であって、平成26年2月25日付けで拒絶理由が通知され、同年3月18日付けで意見書が提出されるとともに同時に手続補正がなされたが、同年5月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月29日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされ、同年11月18日付けで前置報告がなされたものである(以下、平成26年8月29日になされた手続補正を「本件補正」という。)。

第2 本件補正の適否
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1につき、本件補正前の(平成26年3月18日に手続補正がなされた)請求項1の
「【請求項1】
汚染物質が付着した汚染面にドライアイスを噴射して汚染物質を汚染面から剥離するドライアイス噴射装置と、
そのドライアイスが噴射される汚染面の周辺の空間を被うブースと、
そのブース内に位置して汚染面から剥離された汚染物質を吸引する負圧吸引部と、
その負圧吸引部から連通手段を介して接続され、該負圧吸引部で吸引され該連通手段を介して移送される汚染物質を捕獲する捕獲装置と、
前記負圧吸引部に作用する負圧を生じさせる負圧発生装置と、
前記ドライアイスが噴射される前記ブース内の負圧が一定範囲内に保たれるように前記負圧発生装置を制御する負圧制御装置と、
を含み、
前記ブース内において前記ドライアイス噴射装置から前記ドライアイスが噴射されて汚染面を除染するとき、少なくとも前記ドライアイス噴射装置、前記ブース及び前記負圧吸引部が汚染面に対し一定時間毎に、あるいは連続的に移動するとともに、前記ドライアイス噴射装置は前記ブースに対して相対的に移動可能であることを特徴とする汚染物質除去装置。」

「【請求項1】
汚染物質としての放射性物質が付着した汚染面である舗装面にドライアイスを噴射して放射性物質を舗装面から剥離するドライアイス噴射装置と、
そのドライアイスが噴射される舗装面の周辺の無人空間を被うブースと、
そのブース内に位置して舗装面から剥離された放射性物質を吸引する負圧吸引部と、
その負圧吸引部から連通手段を介して接続され、該負圧吸引部で吸引され該連通手段を介して移送される放射性物質を捕獲する捕獲装置と、
前記負圧吸引部に作用する負圧を生じさせる負圧発生装置と、
前記ドライアイスが噴射される前記ブース内の負圧が一定範囲内に保たれるように前記負圧発生装置を制御する負圧制御装置と、
を含み、
前記ブース内において前記ドライアイス噴射装置から前記ドライアイスが噴射されて舗装面を除染するとき、少なくとも前記ドライアイス噴射装置、前記ブース及び前記負圧吸引部が舗装面に対し一定時間毎に、あるいは連続的に移動するとともに、前記ドライアイス噴射装置が前記ブースに対して相対的に移動可能となるように、前記ドライアイス噴射装置として機能する噴射ガンの先端部が、前記ブースに開口するスリットから該ブースの内部に挿入されて舗装面の上方に位置し、かつ前記スリットに沿って移動可能又は該スリットにおいて揺動可能に設けられることを特徴とする汚染物質除去装置。」
に補正するとともに、請求項2を削除し、本件補正前の請求項3及び4を、新たな請求項2及び3としつつ、請求項1の補正と整合するよう補正することを含むものである(下線は請求人が付したとおりである。)。

2 補正の適否(下線は当審が付した。以下同じ。)
本件補正は、本件補正前の請求項1の「汚染物質」及び「汚染面」を、「汚染物質としての放射性物質」及び「汚染面である舗装面」と限定し、「空間を被うブース」を「無人空間を被うブース」と限定し、さらに、「前記ドライアイス噴射装置として機能する噴射ガンの先端部が、前記ブースに開口するスリットから該ブースの内部に挿入されて舗装面の上方に位置し、かつ前記スリットに沿って移動可能又は該スリットにおいて揺動可能に設けられる」と限定するものである。
よって、本件補正による請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法17条の2第3項に違反するところはなく、さらに、同条第4項に違反するところもない。

そこで、本件補正後の請求項1ないし3に記載された発明(以下「本願補正発明1」ないし「本願補正発明3」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。
なお、平成26年11月18日付けの前置報告では、
「引用文献一覧
1.特開平10-043700号公報
2.特開平07-218693号公報
4.特開2007-075918号公報
5.特開昭60-237400号公報(本報告書で追加)
6.特開平10-082890号公報(本報告書で追加)
(途中省略)
(1)請求項1-3についての補正は限定的減縮を目的としている。この場合、補正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
(2)ア.引用文献1には、除染対象物が本願請求項1に係る「汚染面である舗装面」とは明記されていないが、段落[0002]には、「原子力施設等で放射線により汚染された機器や、床や壁などを除染するのに……」、段落[0004]には、「除染対象物7が大きかったり、また移動できない物について」と記載されており、引用文献1に記載の発明は、除染対象物として原子力施設の床も対象としているものと認められ、原子力施設の床であることから舗装面を対象とすることは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
イ.そして、無人空間を被うブースであり、ブース等が移動する技術は、引用文献5の第2頁右下欄第18行-第3頁左上欄第7行、第3図が例示するように周知の技術にすぎない。
ウ.また、引用文献1に記載の発明もフード(5)及び吸引路(4)の閉鎖空間にブラスト吐出管を差し込んでいることから、吸引路にスリットが設けられていることは自明であるといえるが、ブラスト吐出管が揺動ないしはスリットに沿って移動可能であるのか、それとも固定されているのか明らかではない。しかしながら、引用文献6の段落[0010]、図1が例示するようにスリットに沿って移動させる手段は周知なものにすぎない。
(3)したがって、当該補正後の請求項1-3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。」
と報告している。

3 刊行物の記載及び引用発明
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-43700号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塗膜や放射性物質等を剥離するためドライアイスの粒子を用いるドライアイスブラスト装置に関する。
【0002】
【従来の技術】原子力施設等で放射線により汚染された機器や、床や壁などを除染するのにドライアイスブラスト法が用いられている。塗装の下地処理として鋼板のスケールを除去するのにショットブラストやサンドブラストが用いられるが、これは細かい粒子を加圧空気で対象物にノズルから吹き付けるものである。細かい粒子、つまりブラスト粉は除染対象物の材質により異なる。放射線で汚染された機器などにこのショットブラストまたはサンドブラストを施工して汚染物質を除去しようとすると、汚染された機器の汚染は除去されるが、除去された汚染物質が他の機器等に付着しその処理が難しくなる。このためドライアイスのペレットを圧縮空気で除染対象物に吹きつけ、汚染物質を剥離した後は気化して炭酸ガスとなるドライアイスブラスト法が用いられる。」

イ 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は実施の形態の構成を示す。ブラストガン1はドライアイスの粒子を圧縮空気とともに除染対象物7に吐出し汚染物質を剥離させるもので、ブラスト吐出管2を中心に配置し、その筒先2aから粒子を吐出する。ブラスト吐出管2の筒先2aと反対側にはブラストホース3が接続され、このブラストホース3はコンプレッサ21に接続された圧縮空気流路19に接続されている。圧縮空気流路19には図示しないクラッシャーで粉砕された小径のドライアイス粒子を貯えるブラストタンク15が開閉弁16を介して接続されている。更に圧縮空気流路19とブラストタンク15の側面とを開閉弁18を有する空気流路22で接続する。コンプレッサ21の出口およびブラストホース3と接続する位置の圧縮空気流路19には開閉弁20、17が接続されている。かかる装置によりブラストガン1にドライアイス粒子が供給される。ブラスト吐出管2を軸心に配置して吸引路4がブラスト吐出管2の筒先2a側に設けられている。吸引路4の吸引口4aは筒先2a側に設けられ、排出口4bはブラストホース3側に設けられており、筒先2aは吸引口4aよりも突出している。
【0009】吸引路4の吸引口4a側には、吸引路4先端と除染対象物7との間を覆うフード5が設けられており、除染対象物7と接触する端部周囲にはゴムや金属で構成された弾性体6が設けられ、フード5と除染対象物7との間隙を少なくし剥離した汚染物質の漏洩を防止する。弾性体6としてはベローズなどが用いられる。吸引路4の排出口4bには排気ホース8が接続され、フィルタ9を介して排気ブロワ10と接続されている。フィルタ9は除染対象物7から剥離した汚染物質を収集する。ドライアイス粒子は主として除染対象物7に衝突後気化して炭酸ガスになるが、最終的にはフィルタ9に滞留中に気化する。
【0010】次に、動作について説明する。作業者はブラストガン1を持ってこれを除染対象物7の表面にほぼ直角に押し当て圧縮空気とドライアイス粒子との混合体を吐出する。混合体は除染対象物7にほぼ直角に当たるので汚染物質の剥離が効果的に行われる。また衝突したドライアイス粒子と剥離した汚染物質は圧縮空気とともに周囲に広がり、筒先2a周囲に設けられた吸引路4の吸引口4aに向かって吸引され、フード5内の滞留を少なくする。フィルタ9には剥離した汚染物質が集積され、空気と気化した炭酸ガスは排気ブロワ10から排出される。フィルタ9は汚染物質が所定量集積されると交換される。
【0011】フード5の形状は除染対象物7の形状に合わせたものを幾つか設けておき交換可能とするとよい。例えば除染対象物7の曲率半径が小さな場合は、フード5の下部直径を小さくして、筒先2aと汚染対象物7の間隔を適切な値とする。」

ウ 図1は、次のものである。


エ 引用発明1
上記アないしウによれば、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明1」という。)。
「ブラストガン1はドライアイスの粒子を圧縮空気とともに除染対象物7に吐出し汚染物質を剥離させるもので、ブラスト吐出管2を中心に配置し、その筒先2aから粒子を吐出し、
前記ブラスト吐出管2の筒先2aと反対側にはブラストホース3が接続され、このブラストホース3はコンプレッサ21に接続された圧縮空気流路19に接続され、
前記圧縮空気流路19にはクラッシャーで粉砕された小径のドライアイス粒子を貯えるブラストタンク15が開閉弁16を介して接続され、
前記圧縮空気流路19とブラストタンク15の側面とを開閉弁18を有する空気流路22で接続し、
前記コンプレッサ21の出口およびブラストホース3と接続する位置の圧縮空気流路19には開閉弁20、17が接続され、
前記ブラストガン1にドライアイス粒子が供給され、
前記ブラスト吐出管2を軸心に配置して吸引路4がブラスト吐出管2の筒先2a側に設けられ、
前記吸引路4の吸引口4aは筒先2a側に設けられ、排出口4bはブラストホース3側に設けられており、筒先2aは吸引口4aよりも突出し、
前記吸引路4の吸引口4a側には、吸引路4先端と除染対象物7との間を覆うフード5が設けられており、除染対象物7と接触する端部周囲にはゴムや金属で構成された弾性体6が設けられ、フード5と除染対象物7との間隙を少なくし剥離した汚染物質の漏洩を防止し、
前記弾性体6としてはベローズなどが用いられ、
前記吸引路4の排出口4bには排気ホース8が接続され、フィルタ9を介して排気ブロワ10と接続され、
前記フィルタ9は除染対象物7から剥離した汚染物質を収集し、
作業者はブラストガン1を持ってこれを除染対象物7の表面にほぼ直角に押し当て圧縮空気とドライアイス粒子との混合体を吐出するものであり、
原子力施設等で放射線により汚染された床を除染するのに用いられる、
ドライアイスブラスト装置。」

(2)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-75918号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0035】
図4は、橋げたやコンクリート構造物等の高所壁面30を粗面化する、実施の形態に係るスポンジブラスト装置70の全体図であり、図1?図3に示した基本構造のスポンジブラスト装置20と同一又は類似の部材については同一の符号を付して説明する。
【0036】
図4に示すスポンジブラスト装置70はチャンバ72、シール部材74、チャンバ用昇降台車(第1の移動手段)76、ブラスト媒体供給装置用昇降台車(第2の移動手段)78、及び排出装置(排出手段)80から構成される。
【0037】
チャンバ72は、略立方体形状に形成され、その内部に作業者34が入室してブラスト作業を行うブラスト作業室82が形成されるとともに、壁面30に対面する側面に矩形状の開口部84が形成されている。また、チャンバ72は、全体がポリカネード系樹脂等の樹脂により製作されて軽量化が図られている。
【0038】
チャンバ72には、矩形状開口部84を囲むようにシール部材74が設けられている。このシール部材74は、クッションとして機能するゴム部材によって構成され、壁面30に圧接されることにより、チャンバ72と外壁塗装面30との間の隙間がシールされ、ブラスト作業室82が密閉される。
【0039】
また、チャンバ72には、ショックアブソーバー(緩衝手段)86が設けられている。このショックアブソーバー86は、シール部材74が壁面30に当接する直前に当接されて、その衝撃を吸収するものである。このショックアブソーバー86はエアシリンダ装置であり、ロッド88があらかじめシール部材74よりも外方に突出され、ロッド88の先端に取り付けたパッド90が壁面30に当接され、これによって収縮するロッド88の作用によって、チャンバ72を壁面30側に移動させたときの衝撃が吸収される。
【0040】
チャンバ用昇降台車76は、複数本(4本)のアウトリガー92、92…を備えた台車本体94に、不図示の油圧シリンダの伸縮動作によって伸縮する伸縮部96が立設され、この伸縮部96の上部にテーブル98が固定されることによって構成されている。このテーブル98にチャンバ72が乗載され、伸縮部96によるチャンバ72の昇降移動時には、アウトリガー92、92…によって台車本体94が安定的に支持される。
【0041】
ブラスト媒体供給装置用昇降台車78も同様に、複数本(4本)のアウトリガー100、100…を備えた台車本体102に、不図示の油圧シリンダの伸縮動作によって伸縮する伸縮部104が立設され、この伸縮部104の上部にテーブル106が固定されることによって構成されている。このテーブル106にブラスト媒体供給装置50が乗載され、伸縮部104によるブラスト媒体供給装置50の昇降移動時には、アウトリガー100、100…によって台車本体102が安定的に支持される。伸縮部104の伸縮動作は、チャンバ用昇降台車76の伸縮部96の伸縮動作に連動して動作される。これにより、ブラスト媒体供給装置50からノズル38までの距離、すなわち、ホース39の長さが略一定に保持されている。このホース39は、チャンバ72に貫通して配設されている。
【0042】
更に、図4によれば、車輪付きのチャンバ72をテーブル106に対してスライドさせて外壁塗装面30に押圧するエアシリンダ(押圧手段)107を備えている。この場合、ショックアブソーバー86は、チャンバ72内の内圧が外気よりも低くなるように、不図示の制御手段によって制御されている。この構成によれば、エアシリンダ107によってチャンバ72を外壁塗装面30に押圧し、チャンバ72内を密閉状態に保持するが、このときのシール部材74の潰れ過ぎやシール部材74と外壁塗装面30との間に隙間が開くこと等を防止するため、前記制御手段がショックアブソーバー86を制御しチャンバ72内の負圧を一定に保持している。
【0043】
排出装置80は、チャンバ72にダクト108を介して連結されている。この排出装置80は、吸引ポンプ(吸引手段)110と分離機(分離手段)112とから構成される。吸引ポンプ110が駆動されると、ダクト108を介して吸引された使用済みのスポンジブラスト媒体26が分離機112に捕集され、ここでスポンジブラスト媒体6とスポンジブラスト媒体26を伴って吸引されたチャンバ72内の空気とが分離される。この空気は、分離機112を通過することにより清浄化されて外気に放出される。」

イ 図4は次のものである。


(3)本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭60-237400号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。
ア 「更に処理室(41)は第3図に示すように移動可能にされてもよい。第3図において処理室(41)は底部が開口(42)し、該開口(42)を被処理物T表面に当接し、噴射ノズル(45)によって処理しつつ処理室(41)を移動せしめる。この際排出路(48)、フレオン供給路(44)、研摩材供給路(43)等は当然フレキシブルにされる。なお、フレオンとウォールナット各小片の分離及び回収方法については、上記第1図に示す実施例に限らず種々の方法が採用できる。」(2頁右下欄18行ないし3頁左上欄7行)

イ 図3は次のものである。


(4)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-82890号公報(以下「引用文献6」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0010】前記隔離キャップ5は、回転手段6とその上に搭載された被除染体Xを上からかぶせることにより周囲の環境から隔離するものであり、該被除染体Xの除染状況を監視するための覗き窓51と、前記昇降管17を挿入させて噴出ノズル3の昇降を可能にするスリット52とが設けられ、留金具53によって回収手段4に対して取り外し可能に固定される。また、頂部には被除染体Xの入れ替えの際に隔離キャップ5を吊持するための吊り耳54が設けられている。前記スリット52は、図1に示すように、隔離キャップ5に上下方向に沿って形成された開口部に、ゴム製等のシート材を密接状態に取り付けた構造等であり、ゴムの弾性変形によって気密状態を保ったまま昇降管31を昇降させることができるようになっている。」

イ 図1は次のものである。


4 対比・判断
(1)引用発明1と本願補正発明1との対比・判断
ア 引用発明1と本願補正発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「ブラストガン1」、「ドライアイス」、「吸引口4a」、「排気ホース8」、「フィルタ9」、「排気ブロワ10」及び「ドライアイスブラスト装置」は、本願補正発明1の「ドライアイス噴射装置」、「ドライアイス」、「負圧吸引部」、「連通手段」、「捕獲装置」、「負圧発生装置」及び「汚染物質除去装置」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明1の「ブラストガン1はドライアイスの粒子を圧縮空気とともに除染対象物7に吐出し汚染物質を剥離させるもので」、「原子力施設等で放射線により汚染された床を除染するのに用いられる」ことと、本願補正発明の「汚染物質としての放射性物質が付着した汚染面である舗装面にドライアイスを噴射して放射性物質を舗装面から剥離するドライアイス噴射装置」とは、「汚染物質としての放射性物質が付着した汚染面にドライアイスを噴射して放射性物質を汚染面から剥離する」点で一致する。

(ウ)引用発明1の「フード5」について、「作業者はブラストガン1を持ってこれを除染対象物7の表面にほぼ直角に押し当て圧縮空気とドライアイス粒子との混合体を吐出するものであ」るから、「フード5」が人を覆うことができるような大きなものではないことが明らかであるから、「フード5」が「吸引路4の吸引口4a側には、吸引路4先端と除染対象物7との間を覆う」ように設けられており、「除染対象物7と接触する端部周囲にはゴムや金属で構成された弾性体6が設けられ、フード5と除染対象物7との間隙を少なくし剥離した汚染物質の漏洩を防止」するものであって、原子力施設等で放射線により汚染された床を除染するのに用いられる」ことと、本願補正発明の「ドライアイスが噴射される舗装面の周辺の無人空間を被うブースと、」「を含」むことは、「ドライアイスが噴射される汚染面の周辺の無人空間を被うブースと、」「を含」む点で一致する。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)によれば、本願補正発明1と引用発明1とは、
「汚染物質としての放射性物質が付着した汚染面にドライアイスを噴射して放射性物質を汚染面から剥離するドライアイス噴射装置と、
そのドライアイスが噴射される汚染面の周辺の無人空間を被うブースと、
そのブース内に位置して汚染面から剥離された放射性物質を吸引する負圧吸引部と、
その負圧吸引部から連通手段を介して接続され、該負圧吸引部で吸引され該連通手段を介して移送される放射性物質を捕獲する捕獲装置と、
前記負圧吸引部に作用する負圧を生じさせる負圧発生装置と、
を含む、
汚染物質除去装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

a 本願補正発明1の「汚染面」は、汚染物質としての放射性物質が付着した「舗装面」であるのに対して、引用発明1の「除染対象物7」は、原子力施設等で放射線により汚染された「床」である点(以下「相違点1」という。)

b 本願補正発明1の「汚染物質除去装置」は、「ドライアイスが噴射される前記ブース内の負圧が一定範囲内に保たれるように前記負圧発生装置を制御する負圧制御装置」を含むのに対して、引用発明1は、このような制御装置を備えると特定されない点(以下「相違点2」という。)

c 本願補正発明1の「汚染物質除去装置」は、「前記ブース内において前記ドライアイス噴射装置から前記ドライアイスが噴射されて舗装面を除染するとき、少なくとも前記ドライアイス噴射装置、前記ブース及び前記負圧吸引部が舗装面に対し一定時間毎に、あるいは連続的に移動する」のに対して、引用発明1の「ドライアイスブラスト装置」は、このように移動すると特定されない点(以下「相違点3」という。)

d 本願補正発明1の「ブース」は「スリット」を備え、「ドライアイス噴射装置が前記ブースに対して相対的に移動可能となるように、前記ドライアイス噴射装置として機能する噴射ガンの先端部が、前記ブースに開口するスリットから該ブースの内部に挿入されて舗装面の上方に位置し、かつ前記スリットに沿って移動可能又は該スリットにおいて揺動可能に設けられる」のに対して、引用発明1の「フード」は、このように用いるための「スリット」を備えると特定されない点(以下「相違点4」という。)

イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
引用発明1の「ドライアイスブラスト装置」の「除染対象物7」として、周知の汚染物質としての放射性物質が付着した「舗装面」に適用して、上記相違点1に係る本願補正発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。

(イ)上記相違点2について検討する。
引用発明1の「排気ブロワ10」は、制御されるものと特定されないが、「排気ブロワ」を所望の吸引力で制御するために適宜の制御装置を設けることは本願出願時点で周知の事項であるから、引用発明1において、「排気ブロワ10」に適宜の制御装置を設けて、上記相違点2に係る本願補正発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。

(ウ)上記相違点3について検討する。
引用発明1の「ドライアイスブラスト装置」を用いて、原子力施設等で放射線により汚染された床(舗装面)を除染するに際して、「フード5」及び「吸引口4a」を床(舗装面)に対して、どのように移動させるかは、発明を実施するに際して適宜行う具体的な動作であって、これを、一定時間毎に、あるいは連続的に移動するものとなし、上記相違点3に係る本願補正発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。

(エ)上記相違点4について検討する。
引用発明1の「フード5」は、「ブラスト吐出管2を軸心に配置して吸引路4がブラスト吐出管2の筒先2a側に設けられ、前記吸引路4の吸引口4aは筒先2a側に設けられ、排出口4bはブラストホース3側に設けられており、筒先2aは吸引口4aよりも突出し」た「ブラストガン1」において、「前記吸引路4の吸引口4a側に」、「吸引路4先端と除染対象物7との間を覆うフード5が設けられ」るものであって、「作業者はブラストガン1を持ってこれを除染対象物7の表面にほぼ直角に押し当て圧縮空気とドライアイス粒子との混合体を吐出するものであ」るから、当該「フード5」にスリットを設け、ブラストガン1がフード5に対して相対的に移動可能となるように、前記ブラストガン1の先端部が、前記フード5に開口するスリットから該フード5の内部に挿入されて床面の上方に位置し、かつ前記スリットに沿って移動可能又は該スリットにおいて揺動可能に設けられるものとなすことを想定できない。
また、引用文献6に記載された事項は、引用発明とは、前提となる構成が大きく異なるものであるから、引用文献6に記載された事項を参酌しても、引用発明の「フード5」にスリットを設けることが当業者にとって容易であるとはいえない。

(ウ)そして、引用発明1は、「吸引路4の吸引口4a側には、吸引路4先端と除染対象物7との間を覆うフード5が設けられており、除染対象物7と接触する端部周囲にはゴムや金属で構成された弾性体6が設けられ、フード5と除染対象物7との間隙を少なくし剥離した汚染物質の漏洩を防止」するものであるが、本願補正発明1は、上記相違点4の構成とすることにより、「ブース3に対してある程度噴射ガン24を移動可能ないし旋回可能として」、「ブース3を動かさなくても一定範囲を除染できる」(本願明細書 段落【0030】)との顕著な効果を奏するものであると認められる。
してみると、本願補正発明1は、当業者が引用発明1及び引用文献5、6の記載に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。
他に、本願補正発明が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとする理由もない。

(3)本願補正発明2及び3は、本願請求項1を引用するものであって本願補正発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記(1)及び(2)のとおり、本願補正発明1が、当業者が引用発明1及び引用文献5、6の記載に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない以上、本願補正発明2及び3が、当業者が引用発明1及び引用文献5、6の記載に基づいて容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである。
他に、本願補正発明が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとする理由もない。

(4)以上(1)ないし(3)での検討によれば、本願補正発明1ないし3は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
したがって、本願補正発明1ないし3は、特許法17条の2第6項の規定に適合する。

5 結び
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし3に係る発明は、本願補正発明1ないし3である(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)。

2 原査定の拒絶理由を検討する。
(1)平成26年5月27日付けの拒絶査定
平成26年5月27日付けの拒絶査定は、概略以下のとおりである。
「引用文献一覧
1.特開平10-043700号公報
4.特開2007-075918号公報(本査定で追加の周知例)

第1.平成26年3月18日付け手続補正書で補正された請求項1,2について1.平成26年3月18日付け意見書で出願人が主張するように、引用文献1には、同日付け手続補正書の請求項1に係る『前記ブース及び前記負圧吸引部が汚染面に対し一定時間毎に、あるいは連続的に移動するとともに、前記ドライアイス噴射装置は前記ブースに対して相対的に移動可能である』旨は記載されていない。
2.しかしながら、引用文献4(先行技術文献調査結果の記録で提示した先行技術文献)が例示するように、車輪付きのチャンバ(72)(本願の『連続的』ないしは『一定時間毎に』移動する『ブース』に相当する。)内で、作業者がノズル(38)を用いる(チャンバに対して相対的に移動可能であると認められる。)技術は周知なものであり、引用文献1に記載の発明において、引用文献4が例示する周知技術を採用することは、当業者が容易に想到しえたものにすぎない。
3.そして、出願人が、上記意見書『2-3.本願発明の特徴』(1-3)(2-2)で主張する効果は、引用文献1に記載の発明に、引用文献4が例示する周知技術を採用した際に、付随して生じるものにすぎない。」

(2)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)対比
引用発明1と本願発明1を対比すると、本願発明1と引用発明とは、第2.4(1)ア(エ)aないしdで挙げた相違点1ないし4で相違する。

(イ)判断
相違点4について検討するに、引用文献4(上記第2.3(2))からは、「車輪付きのチャンバ(72)内で、作業者がノズル(38)を用いる技術」がみてとれるにすぎず、相違点4に係る、「ブース」は「スリット」を備え、「ドライアイス噴射装置が前記ブースに対して相対的に移動可能となるように、前記ドライアイス噴射装置として機能する噴射ガンの先端部が、前記ブースに開口するスリットから該ブースの内部に挿入されて舗装面の上方に位置し、かつ前記スリットに沿って移動可能又は該スリットにおいて揺動可能に設けられる」構成を備えるものではなく、また、「ブース」にこのような「スリット」を設けることを示唆するものでもない。
すると、少なくとも上記相違点4において、本願発明1は、引用発明1及び引用文献4から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願請求項1を引用するものであって本願発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記アのとおり、本願発明1が、当業者が引用発明1及び引用文献4の記載に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない以上、本願発明2及び3は、当業者が引用発明1及び引用文献4の記載に基づいて容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである

ウ まとめ
したがって、本願発明1ないし3は、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-07-10 
出願番号 特願2012-96675(P2012-96675)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G21F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 村川 雄一  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 川端 修
松川 直樹
発明の名称 汚染物質除去装置  
代理人 張川 隆司  

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