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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E03D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E03D
管理番号 1302659
審判番号 不服2014-3866  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-28 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2008-331946号「ボウル傾倒式便器」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月 6日出願公開、特開2009-174308号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年12月26日の出願(パリ条約による優先権主張2008年1月28日 カナダ国)であって、平成25年2月28日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成25年4月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、き平成25年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、平成26年3月13日付けで平成26年2月28日の手続補正に対して方式上の手続補正がなされたものである。

第2 平成26年2月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年2月28日付けの手続補正の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正は特許請求の範囲の請求項1の記載を補正することを含む補正であり、平成25年4月9日付けの手続補正と本件補正の特許請求の範囲の請求項1の記載はそれぞれ、以下のとおりである。

(補正前:平成25年4月9日付け手続補正書)
「【請求項1】
便器であって、
チャンバーを規定するフレームと、
該フレームと連結し、該チャンバーを上方チャンバー領域と下方チャンバー領域とに仕切る便器水盤とを備え、該便器水盤は、該上方チャンバー領域と該下方チャンバー領域とを連通させる少なくとも一つの水盤排出開口を規定し、前記便器はさらに、
略前記下方チャンバー領域内に配置される傾倒ボウルを備え、該傾倒ボウルは流体を受容する空間を規定し、
前記傾倒ボウルが、前記少なくとも一つの水盤排出開口を通して流体を受容し、貯溜する実質的に水平な第一位置と、流体が前記便器水盤から前記少なくとも一つの水盤排出開口を通して、及び流体を受容する前記空間から、前記下方チャンバー領域へ流れるようにする第二位置との間で、前記便器水盤に対して傾動するように支持されており、
前記傾倒ボウルは、前記傾倒ボウルとその内容物とによって生じるトルクと少なくとも充分に釣り合うだけの、有効支持軸を中心とした保持トルクによって、前記第一位置に留まるように保持され、
前記保持トルクが、前記傾倒ボウルとその内容物とによって生じる前記トルクよりも小さい時には、前記傾倒ボウルは、前記第一位置から前記第二位置へと移動し、
前記保持トルクは、少なくとも一つの可動荷重を有し、当該可動荷重は、前記傾倒ボウルが所定の位置にまで傾倒したときに、前記可動荷重と前記傾倒ボウルとの間の距離を変えるように移動することにより、前記保持トルクの強さを減少させ、それにより前記流体を受容する空間の完全な排出を可能にすることを特徴とする便器。」

(補正後:平成26年2月28日付け手続補正書)
「【請求項1】
便器であって、
チャンバーを規定するフレームと、
該フレームと連結し、該チャンバーを上方チャンバー領域と下方チャンバー領域とに仕切る便器水盤とを備え、該便器水盤は、該上方チャンバー領域と該下方チャンバー領域とを連通させる少なくとも一つの水盤排出開口を規定し、前記便器はさらに、
略前記下方チャンバー領域内に配置される傾倒ボウルを備え、該傾倒ボウルは、当該傾倒ボウルだけで流体を受容する空間を規定し、
前記傾倒ボウルが、前記少なくとも一つの水盤排出開口を通して流体を受容し、貯溜する実質的に水平な第一位置と、流体が前記便器水盤から前記少なくとも一つの水盤排出開口を通して、及び流体を受容する前記空間から、前記下方チャンバー領域へ流れるようにする第二位置との間で、前記便器水盤に対して傾動するように支持されており、
前記傾倒ボウルは、前記傾倒ボウルとその内容物とによって生じるトルクと少なくとも充分に釣り合うだけの、有効支持軸を中心とした保持トルクによって、前記第一位置に留まるように保持され、
前記保持トルクが、前記傾倒ボウルとその内容物とによって生じる前記トルクよりも小さい時には、前記傾倒ボウルは、前記第一位置から前記第二位置へと移動し、
前記保持トルクは、少なくとも一つの可動荷重を有し、当該可動荷重は、前記傾倒ボウルが所定の位置にまで傾倒したときに、前記可動荷重と前記傾倒ボウルとの間の距離を変えるように移動することにより、前記保持トルクの強さを減少させ、それにより、当該傾倒ボウルだけで規定される、前記流体を受容する空間の完全な排出を可能にすることを特徴とする便器。」(下線部は補正箇所を示す。)

2.補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「流体を受容する空間」を「当該傾倒ボウルだけで流体を受容する空間」に限定したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかについて以下に検討する。

3-1.引用例に記載された事項
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平11-148163号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「 【特許請求の範囲】
【請求項1】 便器であって、
チャンバーを規定するフレームと、
該フレームと連結し、該チャンバーを上方チャンバー領域と下方チャンバー領域とに仕切る水盤とを備え、該水盤は、該上方チャンバー領域と該下方チャンバー領域とを連通させる少くとも一つの水盤排出開口を規定し、前記便器はさらに、
略前記下方チャンバー領域内に配置される傾倒ボウルを備え、該ボウルは流体を受容する空間を規定し、
前記傾倒ボウルが、前記少くとも一つの水盤排出開口を通して流体を受理、貯溜する実質的に水平な第一位置と、流体が前記水盤から前記少くとも一つの水盤排出開口を通して、及び流体を受容する前記空間から、前記下方チャンバー領域へ流れるようにする第二位置との間で、水盤に対して枢動するように載置されている便器において、
前記傾倒ボウルは、該ボウルにかけられた力の合力によって前記第一位置に留まるように遅延され、該合力は、前記傾倒ボウルとその内容物とによって生じるトルクと少くとも充分に釣り合うだけの遅延トルクを、有効枢動点を中心として発生させ、
前記遅延トルクが、傾倒ボウルとその内容物とによって生じるトルクよりも小さくなると、前記傾倒ボウルは、前記第一位置から第二位置へと移動し、
さらに前記遅延トルクを低下させて、傾倒ボウルを前記第一位置から前記第二位置へと移動させる手段を設けることを特徴とする便器。」

(イ) 「【0037】傾倒ボウル8は、傾倒ボウルの縁にある小さな舌部11が、起動組立体13の一部を構成する支持板70の先端12上に支持された状態で、第一位置に保持されている。起動組立体13は、好ましくはフレーム2内部の水盤前フランジ14の近くに配置し、容易に起動できるようにする。給水バルブ17は好ましくは起動組立体13に隣接して取付け、フレーム2の側面開口15を通して設けた起動スイッチ18を一度押すと、洗浄用水及びボウルの傾倒を同時に起動することができるようにする。側面開口15内には動的Oリング16を嵌装し、完全に不透水性とする。起動については、後に詳述する。」

(ウ)「【0045】この好ましい実施態様において、起動スイッチ18を一回押すと、シーケンスバルブ17及び起動組立体13が同時に起動される。この同時起動は、起動組立体13を作動させるプランジャーアーム50と、シーケンスバルブ17を始動させるプランジャーアーム46とを有するツインプランジャー49によって行なうことができる。図2を参照するとわかるように、起動スイッチ18を押すと、プランジャーアーム46がスターターボード45を押して、作動リブ42が少くとも一つのトグルスイッチ34を開く所定角度まで回転させる。一旦水管21中に水が流入すると、水路30から流入してくる水がタービン31を回転駆動し、バルブサイクルが開始する。・・・」

(エ)「【0060】図9の(1)において、傾倒ボウル8が傾倒し始めると、ボウル棚部23が持ち上げられて、屈曲部76と接触するようになり、プランジャーシャフト75を上方に押し上げる。ピストン77は急激に上方へ移動し、フラップ式蓋78が通過する空気によって開放されると、空気は大直径孔79と小直径孔80の両方を通過する。
【0061】傾倒ボウル8が傾倒すると、ボウル棚部23は円形軌道を描いて上方に移動する。そしてピストン77が図9の(2)に示す所定最大高さまで押し上げられると、ボウル棚部23は接触していたシャフト屈曲部76から最終的に離れる。」

(オ)上記(ア)における傾倒ボウルについて、図1には第一位置が示され、また、図8には第二位置が示されている。

上記(ア)?(オ)に記載された事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「便器であって、
チャンバーを規定するフレームと、
該フレームと連結し、該チャンバーを上方チャンバー領域と下方チャンバー領域とに仕切る水盤とを備え、該水盤は、該上方チャンバー領域と該下方チャンバー領域とを連通させる少なくとも一つの水盤排出開口を規定し、前記便器はさらに、
略前記下方チャンバー領域内に配置される傾倒ボウルを備え、該傾倒ボウルは流体を受容する空間を規定し、
前記傾倒ボウルが、前記少なくとも一つの水盤排出開口を通して流体を受容し、貯溜する実質的に水平な第一位置と、流体が前記水盤から前記少なくとも一つの水盤排出開口を通して、及び流体を受容する前記空間から、前記下方チャンバー領域へ流れるようにする第二位置との間で、前記水盤に対して枢動するように載置され、
前記傾倒ボウルは、前記傾倒ボウルとその内容物とによって生じるトルクと少なくとも充分に釣り合うだけの、有効支持軸を中心とした遅延トルクによって、前記第一位置に留まるようにされ、
前記遅延トルクが、前記傾倒ボウルとその内容物とによって生じる前記トルクよりも小さくなると、前記傾倒ボウルは、前記第一位置から前記第二位置へと移動し、
前記遅延トルクを低下させて、傾倒ボウルを前記第一位置から前記第二位置へと移動させる手段を設けた便器。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である実願昭49-154552号(実開昭51-080948号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「水洗便器の落し孔下部に揺動軸を回転軸にして自由に開閉する平衡錘付便受皿を設け、その便受皿にたまる水の中に落し孔下縁を水没させて排便管或は便槽から上昇する臭気を遮断する自動水封バルブにおいて、便受皿が開き平衡錘が傾斜すると平衡錘に附属する可動重量が自動的に便受皿の揺動軸の方に移動する構造としたことを特徹とする水洗便器の自動水封バルブ。」(実用新案登録請求の範囲)

(イ)「本考案は節水水洗便器の排泄物落し孔下方に設けられる自動水封バルブに関するものである。」(第2頁第14、15行)

(ウ)「以下実施例について図面によって説明する。第1図は本考案に係る一実施例のバルブを装置した便器の断面図で、第2図はそのA-A断面図を示すもので、1は水洗便器本体2は排泄物落し孔、3は落し孔下縁を示す。4は臭気を水封する為に必要にして且つ十分な量を貯える便受皿である。該便受皿4には揺動軸5が固定されており該揺動軸5は便器の取付台6の側壁の一部に収容されている軸受10によって気密にしかも回転自由に保持される。そして上記揺動軸5には2個の平衡錘7(第2図)が取付けられ、該平衡錘7は封入室を形成し液体又は粒体等の可動重量(21)が収容される。11は上記封入物の注入口、12はその塞螺である。8は必要に応じて初度平衡錘7のバランス量を調節する為の調整螺である。13は図示していない便槽に連結される排便管である。便受皿4が“閉”の位置即ち略々水平の状態にある時には、平衡錘7は図示のように水平より僅か傾斜しており可動重量21は揺動軸5から最も離れた位置に集中している。この状態では平行錘は水を貯えた便受皿に対して適当のオーバーバランスになっている。便受皿4がB矢示方向に開くと(第1図点線図示)、平衡錘7はC矢示方向に廻り、可動重量21は封入室内で揺動軸の方に移動する。従って平衡錘7全体の重心は揺動軸5の方に近づき、オーバーバランスの量は水を放出して軽くなった便受皿4が自動的に水平位置に復帰するのに適当な値まで減少する。便受皿4が水平位置に復元すると、可動重量21も元位置に復帰するので
便受皿4を水平状態に保つようになる。第3図は第2の実施例図で平衡錘7の封入室内に球状の可動重量22を封入した方式のものを示す(点線は便受皿4が開いた状態を示す)。」(第5頁第10行?第7頁第10行)

(エ)第1図には便器の縦断面図が示され、第3図には平衡錘7の封入室内に球状の可動重量22を封入し、平衡錘が傾斜すると可動重量22が揺動軸の方に移動する構成が示されている。

以上の記載事項及び図示内容より、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「水洗便器の落し孔下部に揺動軸を回転軸にして自由に開閉する平衡錘付便受皿を設け、便受皿が開き平衡錘が傾斜すると平衡錘に附属する球状の可動重量が自動的に便受皿の揺動軸の方に移動する構造とした水洗便器」

3-2.対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「水盤」は本願補正発明の「便器水盤」に相当し、以下同様に、「枢動」は「傾動」に、「載置」は「支持」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「遅延トルク」は、有効支持軸を中心として「傾倒ボウルとその内容物とによって生じるトルク」と少なくとも充分に釣り合い、「第一位置に留まるように」するものであるから、本願補正発明の「保持トルク」に相当する。
そして、引用発明1の「傾倒ボウル」は当該傾倒ボウルだけで流体を受容する空間を規定していることは明らかである。

したがって、両者は 次の点で一致する。

「便器であって、
チャンバーを規定するフレームと、
該フレームと連結し、該チャンバーを上方チャンバー領域と下方チャンバー領域とに仕切る便器水盤とを備え、該便器水盤は、該上方チャンバー領域と該下方チャンバー領域とを連通させる少なくとも一つの水盤排出開口を規定し、前記便器はさらに、
略前記下方チャンバー領域内に配置される傾倒ボウルを備え、該傾倒ボウルは、当該傾倒ボウルだけで流体を受容する空間を規定し、
前記傾倒ボウルが、前記少なくとも一つの水盤排出開口を通して流体を受容し、貯溜する実質的に水平な第一位置と、流体が前記便器水盤から前記少なくとも一つの水盤排出開口を通して、及び流体を受容する前記空間から、前記下方チャンバー領域へ流れるようにする第二位置との間で、前記便器水盤に対して傾動するように支持されており、
前記傾倒ボウルは、前記傾倒ボウルとその内容物とによって生じるトルクと少なくとも充分に釣り合うだけの、有効支持軸を中心とした保持トルクによって、前記第一位置に留まるように保持され、
前記保持トルクが、前記傾倒ボウルとその内容物とによって生じる前記トルクよりも小さい時には、前記傾倒ボウルは、前記第一位置から前記第二位置へと移動した便器。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点)
本願補正発明は、「保持トルクは、少なくとも一つの可動荷重を有し、当該可動荷重は、傾倒ボウルが所定の位置にまで傾倒したときに、前記可動荷重と前記傾倒ボウルとの間の距離を変えるように移動することにより、前記保持トルクの強さを減少させ、それにより、当該傾倒ボウルだけで規定される、前記流体を受容する空間の完全な排出を可能にしたのに対し、引用発明1の保持トルクはそのような特定がなされていない点。

3-3.相違点の判断
上記3-1(2)で認定したように、引用発明2は「水洗便器の落し孔下部に揺動軸を回転軸にして開閉する平衡錘付便受皿を設け、水を貯えた便受皿が開き、平衡錘が傾斜すると平衡錘に附属するの球状の可動重量が自動的に便受皿の揺動軸の方に移動する構造とした水洗便器」である。
本願補正発明と引用発明2を対比すると、引用発明2の「水洗便器」は本願補正発明の「便器」に、以下同様に、「便受皿」は「傾倒ボウル」に、「平衡錘」は文言通り「水を貯えた便受皿」と平衡し「揺動軸」と併せ、「保持トルク」に、「球状の可動重量」は「少なくとも1つの可動荷重」に、「揺動軸」は、「有効支持軸」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明2の「便受皿が開き、平衡錘が傾斜すると」「可動重量が自動的に便受皿の揺動軸の方に移動する構造」は本願補正発明の「傾倒ボウルが所定の位置にまで傾倒したときに可動荷重と前記傾倒ボウルとの間の距離を変えるように移動すること」に相当し、平衡錘が傾斜すると「保持トルク」が減少することは明らかである。また、引用発明2の「水を貯えた傾倒ボウル(便受皿)」は、「傾倒ボウルだけで流体を受容する空間を規定」しているといえる。
そうすると、引用発明2の便器は、「保持トルクは、少なくとも一つの可動荷重を有し、当該可動荷重は、傾倒ボウルが所定の位置にまで傾倒したときに、前記可動荷重と前記傾倒ボウルとの間の距離を変えるように移動することにより、前記保持トルクの強さを減少させ」る構成を備え、また、前記可動荷重の移動により保持トルクは急速に減少されるから、「傾倒ボウルだけで流体を受容する空間を規定される、前記流体を受容する空間の完全な排出を可能にする」ことは明らかである。
そして、引用発明1も引用発明2も、傾斜ボウルと保持トルクに相当する構成を備えた便器に関するものであり、共通の作用・機能を有するものであるから、引用発明1に引用発明2の保持トルクの構成を採用し、前記相違点に係る本願補正発明の構成にすることは当業者が容易に着想し得ることである。
また、本願補正発明の作用効果は引用発明1、引用発明2からみて格別なものではない。

なお、審判請求人は審判請求書の(3-2)において、「引用文献2の便受皿は、便受皿と水洗便器の下部とで流体を受容する空間を規定するものであり、それのみで流体を受容する空間を規定する容器としての役割を果たすものではない。 」と主張している。
しかしながら、引用例2の第6頁第14行には「水を貯えた便受皿」と記載され、また、第5頁第14、15行には「4は臭気を水封する為に必要にして且つ十分な量を貯える便受皿である。」と記載され、引用例2の便受皿はそれ自体で水を貯えることができ、流体を受容する空間を規定することができるものと認められる。また、逆に言えば、引用例2には「便受皿と水洗便器の下部」とで水を貯えるような記載はどこにも見当たらない。
よって、請求人の主張は採用できない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正(平成26年2月28日付け手続補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年4月9日付けの手続補正書により補正された、上記第2 1.で前述した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第4 引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、2の記載事項は、上記第2の3-1に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、上記第2の1.及び2.で検討したとおり、本願補正発明から構成の一部(限定された構成)を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が引用発明1及び引用発明2により当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も同様の理由で、引用発明1及び引用発明2により当業者が容易に発明することができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2により当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-30 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-17 
出願番号 特願2008-331946(P2008-331946)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E03D)
P 1 8・ 121- Z (E03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤脇 昌也下井 功介  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 門 良成
本郷 徹
発明の名称 ボウル傾倒式便器  
代理人 井上 誠一  

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