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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1302666
審判番号 不服2014-6985  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-15 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2011-526472「自動車のハイブリッド動力伝達系」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月18日国際公開、WO2010/029035、平成24年 1月26日国内公表、特表2012-501909〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2009(平成21)年9月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年9月9日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成23年3月9日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出された後、平成23年5月9日に特許法第184条の4第1項に規定する翻訳文が提出され、平成23年11月4日に誤訳訂正書が提出され、平成25年8月12日付けで拒絶理由が通知され、平成25年11月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年12月10日付けで拒絶査定がされ、平成26年4月15日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
上記平成26年4月15日に提出された手続補正書によってなされた手続補正は、補正前の請求項1及び2を削除するとともに、補正前の請求項1及び2を引用する請求項3をそれぞれ補正後の請求項1及び2とし、さらに、補正前の請求項4ないし請求項9の項番をそれぞれ1つずつ繰り上げたものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に規定された請求項の削除を目的とするものに該当する。
そして、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成26年4月15日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲、平成23年11月4日に提出された誤訳訂正書によって補正された明細書及び平成23年5月9日に提出された図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
駆動軸を有する内燃エンジンと、
モータとして及び発電機として運転可能な、ステータ(34;65)並びにロータ(35;66)を有する電気モータ(EM)と、
入力軸(17;52)と出力軸(18;53)とを有する変速機(1;51、51’)と、
を備え、
前記内燃エンジンの駆動軸は、制御可能な分離クラッチ(K1)を介して、前記変速機(1;51、51’)の入力軸(17;52)と接続可能であり、
前記電気モータ(EM)は、前記入力軸(17;52)上に同軸に配置されており、
前記電気モータ(EM)のロータ(35、66)は、前記入力軸(17;52)と永続的に駆動接続状態にあり、
前記電気モータ(EM)のロータ(35;66)は、前記変速機(1;51、51’)の前記入力軸(17;52)と、1より大きいギヤ比(i_(EK>)1)の入力ギヤ段(36;63)を介して、駆動接続状態にあり、
前記入力ギヤ段(36;63)は、太陽歯車(37;67)と、遊星キャリヤ(39;69)上に周側に分布するように配置され回転可能に軸支され前記太陽歯車(37;67)と噛み合い状態の複数の遊星歯車(38;68)と、当該複数の遊星歯車(38;68)と噛み合い状態の内歯歯車(40;70)と、を有するシングルタイプの遊星歯車セットとして、形成されており、
前記太陽歯車(37;67)は、ハウジング固定の構造部品(33;64)に対して、ロックされており、
前記内歯歯車(40;70)は、前記電気モータ(EM)のロータ(35;66)に対して、回転しないように結合されており、
前記遊星キャリヤ(39;69)は、前記変速機(1;51、51’)の前記入力軸(17;52)に対して、回転しないように結合されており、
制御可能な第2分離クラッチ(K2)が設けられており、それによって、前記内燃エンジンの駆動軸が、前記入力ギヤ段(36;63)の前記内歯歯車(40;70)と接続可能であり、
前記電気モータ(EM)、前記分離クラッチ(K1、K2)及び前記入力ギヤ段(36;63)は、互いに同軸に、且つ、前記内燃エンジンの前記駆動軸と前記変速機(1;51、51’)の前記入力軸(17;52)とに同軸に、配置されており、事前取付可能なハイブリッドモジュール(30、30’;60、60’)内に、入力要素(31、61)、出力要素(32;62)及びモジュールハウジング(33;64)と共に一体化されており、
前記入力要素(31;61)は、前記内燃エンジンの前記駆動軸と回転しないように結合されており、
前記出力要素(32;62)は、前記変速機(1;51、51’)の前記入力軸(17;52)と回転しないように結合されており、
前記ハイブリッドモジュール(30、30’;60、60’)は、多段遊星歯車式自動変速機(1)に接続する場合、流体トルクコンバータ(20)のサイズを維持し、多段変速機(51、51’)に接続する場合、コンバータシフトクラッチのサイズを維持し、
前記電気モータ(EM)は、インナーロータとして、径方向にステータ(34;65)の内側に配置されたロータ(35;66)とともに形成されており、
少なくとも一つの前記分離クラッチ(K1、K2)は、内燃エンジン側に配置されており、
前記入力ギヤ段(36;63)は、変速機側に、少なくとも径方向にロータ(35;66)の内側に配置されている
ことを特徴とする自動車のハイブリッド動力伝達系。」

3.引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2003-19911号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジンと、発電機を兼ねる電動機とを有し、これらの出力トルクを差動歯車装置を介して変速装置に伝達することにより、エンジン及び電動機の何れか一方又は双方で走行駆動力を得るようにしたパラレル式のハイブリッド車両の動力伝達装置に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態を示す概略構成図であり、エンジン1、発電機及び電動機として作用する電気的回転駆動源2変速装置4を備え、これらは差動歯車装置3の第1軸31及び第2軸32に直結ないし後述する各締結要素を介して連結され、この差動歯車装置3の出力側の第3軸33が変速装置4の入力側に連結され、該変速装置4の出力側が図示しない終減速装置等を介して駆動輪5に連結されている。
【0020】前記エンジン1は、ECU(エンジンコントロールユニット)6によって制御される。電気的回転駆動源2は、蓄電装置7に接続されたM/G・CU(電動機/発電機コントロールユニット)8によって制御され、発電機として作動するときは前記蓄電装置7を充電する。変速装置4は、TMCU(変速装置用コントロールユニット)9によって制御される。
【0021】また、差動歯車装置3は、図2に示すように、サンギアSと、その外周側に等角間隔で噛合する複数のプラネタリギアPと、各プラネタリギアPを連結するプラネタリキャリアCと、プラネタリギアPの外側に噛合するリングギヤRとを有する遊星歯車機構で構成されている。そして、本発明に係る締結システムとして、リングギヤRの回転軸である第1軸31が電気的回転駆動源2の出力軸に連結され、サンギアSの回転軸である第2軸32がブレーキ装置(第1締結要素)11を介して前記第2軸と変速装置4のケース(固定体)34に連結され、プラネタリキャリアCの回転軸である第3軸33が第1クラッチ(第2締結要素)12を介してエンジン1の出力軸に連結されると共に、第2クラッチ(第3締結要素)13を介して変速装置4の入力側に連結されている。また、前記エンジン1と前記電気的回転駆動源2とを第3クラッチ(第4締結要素)14を介して連結している。」(段落【0019】ないし【0021】)

(ウ)「【0024】図3(B)は、該始動時のレバー図である。ここで、入力側をリングギアR、出力側をサンギアSとしたときのリングギアRとサンギアSの歯数Z_(R)、Z_(S)で定まるギア比をγ(=Z_(S)/Z<1)(審決注:「γ(=Z_(S)/Z_(R)<1)」の明らかな誤記。)とすると、電気的回転駆動源2の出力トルクT_(M/G)は次式のように算出される。
T_(E)=(1+γ)・T_(M/G)・・・(1)
すなわち、電気的回転駆動源2に連結される入力側をリングギアR、エンジン1に連結される出力側をプラネタリキャリアCとして、ギア比(1+γ)で増幅されたトルクT_(E)でエンジン1が駆動される。
…(中略)…
【0030】前記クリープ発進により発進し、車速が所定値以上に達すると、ブレーキ11を完全に締結した発進に切り換える。該発進時は、エンジントルクT_(E)が入力されるリングギアRを入力側とし、プラネタリキャリアCを出力側として、次式のようにエンジントルクT_(E)をギア比(1+γ)で増幅した変速装置4の駆動トルクT_(TM)が得られる。
【0031】T_(TM)=(1+γ)・T_(E)・・・(4)
そして、本実施形態では図5(A)に示すように、上記の状態で電気的回転駆動源2を電動機として駆動すると、該電動機の駆動トルクT_(M/G)がエンジントルクT_(E)をアシストしてさらに変速装置4の駆動トルクT_(TM)を増大することができる。」(【0024】ないし【0031】)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ウ)並びに図2及び図5の記載から、以下の事項が分かる。

(エ)上記(1)(ア)及び(イ)の記載から、引用文献には、ハイブリッド車両の動力伝達装置が記載されていることが分かる。

(オ)上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置は、エンジン1と、発電機及び電動機として作用する電気的回転駆動源2と、変速装置4とを備えるものであることが分かる。

(カ)上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、エンジン1の駆動軸は、第1クラッチ12を介して変速装置4の入力軸と接続可能であることが分かる。

(キ)図2において、エンジン1の駆動軸から第3クラッチ14を介して電気的回転駆動源2に延びる線は、電気的回転駆動源2のロータと結合していることを意味することは明らかであるから、上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、電気的回転駆動源2のロータは、第2クラッチ13を介して変速装置4の入力軸と駆動接続状態にあることが分かる。

(ク)上記(1)(ウ)及び図5の記載から、エンジントルクT_(E)が入力されるリングギアRを入力側とし、プラネタリアキャリアCを出力側としたときに、エンジントルクT_(E)をギア比(1+γ)で増幅した変速装置4の駆動トルクT_(TM)が得られることが分かるから、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、電気的回転駆動源2のロータは、1より大きいギア比の作動歯車装置3を介して変速装置4の入力軸と駆動接続状態にあることが分かる。

(ケ)上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、作動歯車装置3は、サンギアSと、その外周側に等角間隔で噛合する複数のプラネタリアギアPと、各プラネタリアギアPを連結するプラネタリアキャリアCと、プラネタリアギアPの外側に噛合するリングギアRとを有する遊星歯車機構で構成されていることが分かる。

(コ)上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、サンギアSの回転軸である第2軸32がブレーキ装置11を介して第2軸32と変速装置4のケース34に連結されていることが分かる。

(サ)上記(1)(イ)の段落【0021】に「リングギヤRの回転軸である第1軸31が電気的回転駆動源2の出力軸に連結され」と記載されているから、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、リングギヤRは、電気的回転駆動源2のロータに対して、回転しないように結合されていることが分かる。

(シ)上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、第3クラッチ14は、エンジン1の駆動軸とリングギアRとを接続可能に設けられ、プラネタリアキャリアCは、変速装置4の入力軸に対して、第2クラッチ13を介して結合されていることが分かる。

(ス)上記(1)(イ)の段落【0021】に「サンギアSの回転軸である第2軸32がブレーキ装置(第1締結要素)11を介して前記第2軸と変速装置4のケース(固定体)34に連結され」と記載されており、図2において電気的回転駆動源2が変速装置4のケース34に固定されていることからみて、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、電気的回転駆動源2、第1クラッチ12、第2クラッチ13、第3クラッチ14及び作動歯車装置3(以下、便宜上、これらをまとめて、「電動機機構」という。)は、変速装置4のケース34内に収容されているものであることが分かる。

(セ)上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、電動機機構の入力軸は、エンジン1の駆動軸と回転しないように結合されているものであることが分かる。

(ソ)上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両の動力伝達装置において、電動機機構の出力軸は、変速装置4の入力軸と回転しないように結合されているものであることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)、(2)及び図2から、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「エンジン1と、
発電機及び電動機として作用する電気的回転駆動源2と、
変速装置4と、
を備え、
エンジン1の駆動軸は、第1クラッチ12を介して変速装置4の入力軸と接続可能であり、
電気的回転駆動源2のロータは、第2クラッチ13を介して変速装置4の入力軸と駆動接続状態にあり、
電気的回転駆動源2のロータは、変速装置4の入力軸と、1より大きいギア比の作動歯車装置3を介して駆動接続状態にあり、
作動歯車装置3は、サンギアSと、その外周側に等角間隔で噛合する複数のプラネタリアギアPと、各プラネタリアギアPを連結するプラネタリアキャリアCと、プラネタリアギアPの外側に噛合するリングギアRとを有する遊星歯車機構で構成されており、
サンギアSの回転軸である第2軸32がブレーキ装置11を介して第2軸32と変速装置4のケース34に連結されており、
リングギヤRは、電気的回転駆動源2のロータに対して、回転しないように結合されており、
プラネタリアキャリアCは、変速装置4の入力軸に対して、第2クラッチ13を介して結合されており、
第3クラッチ14は、エンジン1の駆動軸とリングギアRとを接続可能に設けられており、
電気的回転駆動源2、第1クラッチ12、第2クラッチ13、第3クラッチ14及び作動歯車装置3からなる電動機機構は、変速装置4のケース34内に収容されており、
電動機機構の入力軸は、エンジン1の駆動軸と回転しないように結合されており、
電動機機構の出力軸は、変速装置4の入力軸と回転しないように結合されている、
ハイブリッド車両の動力伝達装置。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジン1」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「駆動軸を有する内燃エンジン」及び「内燃エンジン」に相当し、以下同様に、「電気的回転駆動源2」は「ステータ並びにロータを有する電気モータ」及び「電気モータ」に、「変速装置4」は「入力軸と出力軸とを有する変速機」及び「変速機」に、それぞれ相当する。
また、引用発明において、電気的回転駆動源2が「発電機及び電動機として作用する」ことは、その技術的意義からみて、本願発明において、電気モータが「モータとして及び発電機として運転可能」であることに相当する。
さらに、引用発明における「エンジン1の駆動軸」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「内燃エンジンの駆動軸」に相当し、以下同様に、「第1クラッチ12」は「制御可能な分離クラッチ」及び「分離クラッチ」に、「変速装置4の入力軸」は「変速機の入力軸」に、「1より大きいギア比」は「1より大きいギヤ比(i_(EK>)1)」に、「作動歯車装置3」は「入力ギヤ段」に、「サンギアS」は「太陽歯車」に、「プラネタリアギアP」は「遊星歯車」に、「プラネタリアキャリアC」は「遊星キャリヤ」に、「リングギアR」は「内歯歯車」に、「遊星歯車機構」は「シングルタイプの遊星歯車セット」に、「第3クラッチ14」は「制御可能な第2分離クラッチ」及び「第2分離クラッチ」に、「電動機機構の入力軸」は「入力要素」に、「電動機機構の出力軸」は「出力要素」に、「ハイブリッド車両の動力伝達装置」は「自動車のハイブリッド動力伝達系」に、それぞれ相当する。
そして、「電気モータのロータは、変速機の入力軸と駆動接続可能である」という限りにおいて、引用発明において「電気的回転駆動源2のロータは、第2クラッチ13を介して変速装置4の入力軸と駆動接続状態にあ」ることは、本願発明において「電気モータのロータは、入力軸と永続的に駆動接続状態にあ」ることに相当する。
また、引用発明において作動歯車装置3が、サンギアSの「外周側に等角間隔で噛合する複数のプラネタリアギアPと、各プラネタリアギアPを連結するプラネタリアキャリアC」を有することは、遊星歯車機構の構造についての一般常識からみて、本願発明において、入力ギヤ段が、「遊星キャリヤ上に周側に分布するように配置され回転可能に軸支され太陽歯車と噛み合い状態の複数の遊星歯車」を有することに相当する。
さらに、引用発明における「プラネタリアギアPの外側に噛合するリングギアR」は、その構成からみて、本願発明における「複数の遊星歯車と噛み合い状態の内歯歯車」に相当する。
そして、引用発明における「変速装置4のケース34」は、その技術的意義からみて、本願発明における「ハウジング固定の構造部品」に相当するから、「太陽歯車は、ハウジング固定の構造部品に対して、ロック可能である」という限りにおいて、引用発明おいて「サンギアSの回転軸である第2軸32がブレーキ装置11を介して第2軸32と変速装置4のケース34に連結されて」いることは、本願発明において、「太陽歯車は、ハウジング固定の構造部品に対して、ロックされて」いることに相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「 駆動軸を有する内燃エンジンと、
モータとして及び発電機として運転可能な、ステータ並びにロータを有する電気モータと、
入力軸と出力軸とを有する変速機と、
を備え、
前記内燃エンジンの駆動軸は、制御可能な分離クラッチを介して、前記変速機の入力軸と接続可能であり、
前記電気モータのロータは、前記入力軸と駆動接続可能であり、
前記電気モータのロータは、前記変速機の前記入力軸と、1より大きいギヤ比(i_(EK>)1)の入力ギヤ段を介して、駆動接続状態にあり、
前記入力ギヤ段は、太陽歯車と、遊星キャリヤ上に周側に分布するように配置され回転可能に軸支され前記太陽歯車と噛み合い状態の複数の遊星歯車と、当該複数の遊星歯車と噛み合い状態の内歯歯車と、を有するシングルタイプの遊星歯車セットとして、形成されており、
前記太陽歯車は、ハウジング固定の構造部品に対して、ロック可能であり、
前記内歯歯車は、前記電気モータのロータに対して、回転しないように結合されており、
制御可能な第2分離クラッチが設けられており、それによって、前記内燃エンジンの駆動軸が、前記入力ギヤ段の前記内歯歯車と接続可能であり、
前記入力要素は、前記内燃エンジンの前記駆動軸と回転しないように結合されており、
前記出力要素は、前記変速機の前記入力軸と回転しないように結合されている自動車のハイブリッド動力伝達系。」
である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
(a)本願発明においては、「電気モータのロータは、入力軸と永続的に駆動接続状態にあ」り、「遊星キャリヤは、変速機の入力軸に対して、回転しないように結合されて」いるのに対し、引用発明においては、電気的回転駆動源2のロータ及びプラネタリアキャリアCが、「第2クラッチ13を介して変速装置4の入力軸と駆動接続状態にあ」り、「プラネタリアキャリアCは、変速装置4の入力軸に対して、第2クラッチ13を介して結合されて」いる点(以下、「相違点1」という。)。
(b)「太陽歯車は、ハウジング固定の構造部品に対して、ロック可能である」ことに関し、本願発明においては「太陽歯車は、ハウジング固定の構造部品に対して、ロックされて」いるのに対し、引用発明おいては「サンギアSの回転軸である第2軸32がブレーキ装置11を介して第2軸32と変速装置4のケース34に連結されて」いる点(以下、「相違点2」という。)。
(c)本願発明においては、「電気モータは、(変速機の)入力軸上に同軸に配置され」、「電気モータ、分離クラッチ及び入力ギヤ段は、互いに同軸に、且つ、内燃エンジンの駆動軸と変速機の入力軸とに同軸に、配置されており、事前取付可能なハイブリッドモジュール内に、入力要素、出力要素及びモジュールハウジングと共に一体化され」、「ハイブリッドモジュールは、多段遊星歯車式自動変速機に接続する場合、流体トルクコンバータのサイズを維持し、多段変速機に接続する場合、コンバータシフトクラッチのサイズを維持し、電気モータは、インナーロータとして、径方向にステータの内側に配置されたロータとともに形成されており、少なくとも一つの前記分離クラッチは、内燃エンジン側に配置されており、入力ギヤ段は、変速機側に、少なくとも径方向にロータの内側に配置されている」のに対し、引用発明においては、「電気的回転駆動源2、第1クラッチ12、第2クラッチ13、第3クラッチ14及び作動歯車装置3からなる電動機機構は、変速装置4のケース34内に収容されて」いる点(以下、「相違点3」という。)。

5.判断
上記相違点について検討する。
まず、相違点1に関し、引用文献の段落【0023】には、「始動時は、ブレーキ13及び第1クラッチ12を締結し、第2クラッチ13及び第3クラッチ14は開放して電気的回転駆動源2を電動機として駆動する。…(中略)…電動機として作動する電気的回転駆動源2により、エンジン1が回転駆動され、クランキングされる。」(段落【0023】)と記載され、引用発明において、始動時、クランキングのために第2クラッチ13が開放されるものであることが分かる。
そして、ハイブリッド車両において、始動時、モータジェネレータを用いてクランキングを行うための構成として、モータジェネレータと変速装置の間にクラッチを設けることは、広く行われているものであるところ、ハイブリッド車両においてモータジェネレータを用いてクランキングを行う構成とするか、別途クランキング用のモーターを設けるかは、単なる設計上の事項にすぎないから、上記相違点1は何ら実質的なものではない。

次に、相違点2に関し、引用文献の段落【0027】ないし【0030】には、「クリープ・発進時は図4(A)に示すように、第1クラッチ12を開放し、第2クラッチ13を締結し、第3クラッチ14を締結し、ブレーキ11をスリップ制御(半締結状態で滑らせる)しつつエンジン1を駆動する。…(中略)…前記クリープ発進により発進し、車速が所定値以上に達すると、ブレーキ11を完全に締結した発進に切り換える。」と記載され、引用発明においても、トルク増大の必要な加速時には、サンギアSが変速装置4のケース34に対してロックされるものであることが分かる。
そして、引用発明からブレーキ11を取り去り、常にサンギアSが変速装置4のケース34に対してロックされるようにしたときに、構造の簡素化のような明白な作用効果以外には、格別な作用効果は生じないから、引用発明において上記相違点2に係る本願発明の特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

さらに、相違点3に関し、引用発明において、電気的回転駆動源2、第1クラッチ12、第2クラッチ13、第3クラッチ14及び作動歯車装置3からなる電動機機構は、変速装置4のケース34内に収容されるものである。
そして、ハイブリッド自動車において、モータ/ジェネレータ、クラッチ、遊星歯車機構をエンジンの駆動軸及び変速機の入力軸と同軸に配置したハイブリッドモジュールについて、径方向にステータの内側に配置されたロータの内側で、エンジン側にクラッチ、変速機側に遊星歯車機構を配置して、コンパクト化を図ることは、周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、中国特許出願公開第101020411号明細書の図1等参照)である。
また、自動車の動力伝達機構において、該機構の一部を置換するときに従来機構のサイズを維持することは、設計上、普通に行われることである(例えば、原査定で示した特開2006-315662号公報の段落【0035】及び図4で、トルクコンバータを収納していた変速機ケース内にモータ/ジェネレータを収納する例を参照。)。
さらに、ハイブリッド自動車の動力伝達機構において、自動変速機を多段遊星歯車式自動変速機とすることは、周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、上記特開2006-315662号公報の段落【0034】並びに図1及び図4等参照)である。
したがって、引用発明において、上記周知技術1及び2を参酌しつつ、電気的回転駆動源2を変速装置4の入力軸の同軸に配置し、電気的回転駆動源2、第1クラッチ12、第3クラッチ14及び作動歯車装置3を、互いに同軸に、且つ、エンジン1の駆動軸と変速機4の入力軸と同軸に配置し、事前取付可能な電動機機構内に、電動機機構の入力軸、電動機機構の出力軸及び変速装置4のケース34と共に一体化し、電動機機構を多段式遊星歯車式自動変速機に接続する場合、コンバータシフトクラッチサイズを維持し、電気的回転駆動源2を、インナーロータとして、径方向にステータの内側に配置されたロータとともに形成し、第1クラッチ12及び第3クラッチ14をエンジン1側に配置し、作動歯車装置3を、変速機側に、少なくとも径方向にロータの内側に配置することにより、上記相違点3に係る本願発明の特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明は、全体構成でみても、引用発明並びに周知技術1及び2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものでもない。

6.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
上記6.のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-30 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2011-526472(P2011-526472)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 一郎山村 秀政  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 槙原 進
中村 達之
発明の名称 自動車のハイブリッド動力伝達系  
代理人 杉村 憲司  
代理人 吉澤 雄郎  

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