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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1302712
審判番号 不服2012-24301  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-07 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2007-537823「DNA変更酵素をゲノムに輸送するビヒクル」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月27日国際公開、WO2006/043810、平成20年 5月29日国内公表、特表2008-517903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は2005年10月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年10月21日,同年11月4日,同年同月10日 いずれもオランダ(NL))を国際出願日とする特許出願であって,その請求項1?7に係る発明は,平成24年12月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
DNAメチラーゼおよび/またはDNAデメチラーゼをゲノムの所望の部位に輸送するビヒクルであって、
DNAメチラーゼおよび/またはDNAデメチラーゼは、DNAに結合された状態で酵素の機能が果たせる方法で、ゲノムの所望の部位に特異な配列認識体に結合され、
該ビヒクルはSAINT-2と組み合わせられて用いられることを特徴とするビヒクル。」

2.原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由である理由4及び5は,

4.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
5.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであり,具体的には,
「E.請求項1-3について/理由4、5
・・・
しかし、本願明細書には実施例が認められず、DNA変更酵素/分子、SAINT分子として具体的に用いたDNA変更酵素やSAINT分子の種類や配合割合、結合様式等が明らかにされていないし、当該ビヒクルを用いた成果等を示すような具体的な試験結果が記載されていない。
また、試験結果の記載がなくとも本願発明の効果が技術常識から自明であるともいえない。
してみれば、技術常識を考慮しても、請求項に記載されたDNA変更酵素/分子とSAINT分子とが組み合わされ、DNA変更酵素/分子を細胞核に輸送するビヒクルは、明細書の記載によって十分に裏付けられているとはいえない。本願明細書の記載では、本願発明を実施しようとする当業者が過度の負担を要するものである。」
と指摘するものである。

3.当審の判断
3-1.特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明はDNA変更酵素をゲノムの所望の部位に輸送するビヒクルに関する。さらに本発明はSAINT分子を含む発明のビヒクルの適用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌および代謝病は多くの場合、特異な遺伝子の好ましくない調節で引き起こされることが技術の現況から知られている。この種の病気に関する分子生物学的研究においてDNA変更酵素(制限酵素、メチラーゼ、デメチラーゼなど)が頻繁に使用される。これらの酵素はヒト、動物、植物、細菌およびビールスのゲノムにおいて特別のヌクレオチド配列を認識する特異性を有する特異な酵素である。この種の特異なヌクレオチド配列は1つのゲノム当たり通常は数回、ときには数千回も見出される。
【0003】
上記の技術は非特許文献1で知られている。さらにこの技術は非特許文献2でも知られている。
【非特許文献1】・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はゲノムの1つの部位に対して特異な酵素を生成するのが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
特に本発明の目的はゲノムの所望の部位を正確に特定して選択できる可能性を提供することである。ゲノムの選択された部位(遺伝子の調節ヌクレオチド配列)が病の原因となる場合は、この遺伝子の調節ヌクレオチド配列を特異な酵素の標的にすることでこの遺伝子を停止する可能性を提供する。本発明は請求項1の特徴部に記載された手段によってこの機会を提供する。
【0006】
・・・
さらなる側面によると、前述したようにSAINT分子と組み合わせてビヒクルを細胞に輸送するようにビヒクルを適用する方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
SAINT分子はすでに知られており、例えば輸送ビヒクルとして示され、EP特許・・・に詳しく記載されている。
【0008】
好ましい実施形態によると、酵素はスペーサー分子によって配列認識体に結合される。それによって、ビヒクルがゲノムに結合されたとき、酵素活性が抑制されない結果として、配列認識体と酵素の間に空間のある分離が生じる。これにより、酵素は普通に使用される仕方でその機能を果たすことができる。
【0009】
ゲノムの好ましい部位に対して所望の特異性を得るために、DNAの小さい溝に介在する望ましい3重らせん形成ユニットまたはオリゴヌクレオチドが使用される。この種類の配列認識体はゲノムの所望の部位にのみ適合する構造を有する。その結果、特異性は非常に強くなり、これらの配列認識体が既知の構造に基づいて合成されたとき、これらはゲノムの1つの部位のみに唯一のものになる。この技術は当分野の専門家には一般に知られており、その詳細は・・・に記載されている。
【0010】
したがって、配列認識体はゲノムの所望の部位に特異なDNAまたはPNA構造を有するのが好ましい。このような構造は比較的容易に合成できる。
別の好ましい実施形態によると、所望の酵素は低いKmをもつことが好ましい。このやり方で、酵素はDNAに結合される場合のみ活性を発揮する。酵素がDNAに固定されない場合は、酵素は活性を発揮することができない。好ましい実施形態によると、酵素はいわゆる「構造的スイッチ」を含むのが好ましい。このような構造的スイッチによって、DNAの所望の部位に結合されない場合、酵素は活性を発揮しないようになる。結合されない場合の不適切に折られたタンパク質の構造がその原因である。
【0011】
ビヒクルを細胞まで良好に輸送することを可能にするために、ビヒクルはSAINT分子と、または複数のSAINT分子の組合せ体と組み合わせることが好ましい。選択的に追加の化合物をここに存在させてもよい。
【0012】
SAINT分子は水素結合によって相互作用するのが特に好ましい。SAINT分子は配列認識体と配列認識体に共有結合された酵素と封入する。SAINT分子はこのようにビヒクル(複合体)には固定されないが、水素結合によって相互作用をする。複合体が細胞膜と融合した後で細胞含有物に接触すると、この水素結合は緩んでくる。
【0013】
21量体(21ユニットの鎖を意味する)オリゴヌクレオチドに基づくDNA配列、PNAまたは別の要素はヒトのゲノムに特異なものである。21量体は一度だけ現れる。注目されることは、4から21パワーはヒトのゲノムのサイズよりも大きい。TFOがつながるとすぐに、酵素はDNAのまわりに折り重なりその機能を果たす。しかし、オリゴヌクレオチドはDNAに結合した状態のままであるので、確実に酵素はその機能を一度だけ果たすことができる。細胞が分裂する瞬間に、DNAはこれらの異常なタンパク質から「クリーンにされ」、酵素は通常のルートを通して除去され分解される。」
これらの記載からみて,本願発明の「DNAメチラーゼ」,「DNAデメチラーゼ」はヒト等のゲノムにおいて特別のヌクレオチド配列を認識する特異性を有する特異な酵素であり(段落0002)、好ましくはスペーサー分子によって配列認識体に結合され(段落0008),また,本願発明の「配列認識体」としては,DNAの小さい溝に介在する望ましい3重らせん形成ユニット又はオリゴヌクレオチドが使用され,これは、ゲノムの所望の部位にのみ適合する構造を有するものであり(段落0009),さらに本願発明の「SAINT-2」は「SAINT分子」の1種であると認められるところ,該「SAINT分子」は,例えば輸送ビヒクルとして示され(段落0007),水素結合によって相互作用するのが好ましく,配列認識体と配列認識体に共有結合された酵素を封入するものである(段落0012)。
しかし,発明の詳細な説明には,「DNAメチラーゼ」,「DNAデメチラーゼ」,DNAの小さい溝に介在する望ましい3重らせん形成ユニット又はオリゴヌクレオチドが使用されるとされる「配列認識体」として,具体的にどのような物質を用い,また,スペーサー分子として具体的にどのような物質を用い又は用いず,それらをどのように(各分子のどの部分で)結合させ,それらをSAINT-2とどのように組み合わせるか具体的に記載されておらず,さらに,本願発明で特定される「DNAに結合された状態で酵素の機能が果たせる」かを具体的に確認できる記載もない。
たしかに,DNAメチラーゼ,DNAデメチラーゼがDNAを変更し,特別のヌクレオチド配列を認識する特異性を有する酵素であり(段落0002?0003),配列認識体がゲノムの所望の部位にのみ適合し(段落0009),SAINT分子が輸送ビヒクルである(段落0007)ことはいずれも知られていることから,DNAメチラーゼ,DNAデメチラーゼと配列認識体を結合し,これをSAINT-2と組み合わせることを含む本願発明によって酵素の機能が果たせるということを予測することができるかも知れない。
しかし,標的とするヌクレオチド配列によって,それを認識する酵素,適合する配列認識体は異なるから,どのようなDNAメチラーゼ,DNAデメチラーゼと配列認識体を組み合わせを用いればよいか,それらをどのように結合すればよいか不明であり,また,段落0008の記載によれば,酵素と配列認識体の間の空間によって酵素の機能が果たせることとなるから,どのようなDNAメチラーゼ,DNAデメチラーゼ,配列認識体を用い,また,スペーサー分子を用いて又は用いずに,それらをどのように結合すれば,当該標的としたヌクレオチド配列において,所望の空間が形成でき,配列認識体が当該配列に適合した上で酵素が配列を認識し,該酵素がDNAに結合された状態でその機能が果たせるかは発明の詳細な説明の記載から明らかでない。したがって,上記の予測はあくまで,そのような可能性があるという程度でしかなく,発明の詳細な説明はそれを実現できるように記載されているとはいえない。
なお,本願明細書には,「特に本発明の目的はゲノムの所望の部位を正確に特定して選択できる可能性を提供することである。ゲノムの選択された部位(遺伝子の調節ヌクレオチド配列)が病の原因となる場合は、この遺伝子の調節ヌクレオチド配列を特異な酵素の標的にすることでこの遺伝子を停止する可能性を提供する。本発明は請求項1の特徴部に記載された手段によってこの機会を提供する。」(段落0005,下線は当審で付与。)と記載されているとおり,本願発明は,本願明細書に記載された事項が達成できたことに基づくものではなく,単にその可能性を示すものと解される。そうすると,本願明細書の記載をみても,本願発明を必ずしも実施できるとはいえないものである。
付言すると,原審の進歩性についての拒絶理由で引用した特開平9-285290号によって,SAINT-2をタンパク質等の細胞内への導入に用いることが(段落0008,0010),同じく国際公開第2004/050885号によって,TFO等の核酸結合部分とDNAメチラーゼ複合体等の修飾部分を含む分子を細胞中に導入して細胞中のアポトーシスを促進すること,分子の細胞への取り込みを促進するための手段を用いること(請求項1,5,10,34)がいずれも公知であり,それら公知の事項に基づいて,本願発明に相当する技術的事項を採用することによってDNAに結合された状態で酵素の機能が果たせるであろうと予測する程度のことは可能であると考えられるから,本願発明は,そのような公知の事項から予測できるものとは異なり,実際に,DNAメチラーゼ,DNAデメチラーゼと配列認識体を結合し,それをSAINT-2と組み合わせることで,DNAに結合された状態で酵素の機能が果たせることを見出したものであると解するのが相当であるにもかかわらず,発明の詳細な説明の記載はそれを具体的に確認できるものではない。
また,本願の出願当初の特許請求の範囲,発明の詳細な説明に記載されていた「SAINT分子」が平成23年12月22日付け手続補正書によって「SAINT-2」と補正されたが(なお,出願当初の特許請求の範囲にSAINT-2の記載はなく,発明の詳細な説明にはSAINT-2の記載はない),各種存在するSAINT分子(平成25年3月8日付け前置報告書で引用された引用例7:IRENE VAN DER WOUDE et al,Novel pyridinium
surfactants for efficient, nontoxic in vitro gene delivery,Proc.
Natl. Acad. Sci. U S A,1997年,Vol.94, No.4,p.1160-1165,引用例8:PIJPER,D. et al.,Novel Biodegradable Pyridium Amphiphiles for Gene Delivery,Eur. J. Org. Chem.,2003年,No.22,p.4406-4412参照)の中で,SAINT-2が本願発明の配列認識体に結合された酵素の輸送に適することは,本願出願時の技術常識ではなく,この点からみても,発明の詳細な説明の記載が本願発明を当業者が実施可能であるように記載したものということはできない。

そうしてみると,発明の詳細な説明は,本願発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

3-2.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本願発明は,DNAメチラーゼおよび/またはDNAデメチラーゼは、「DNAに結合された状態で酵素の機能が果たせる」方法で、ゲノムの所望の部位に特異な配列認識体に結合されることを発明特定事項とするものであり,ゲノムの1つの部位に対して特異な酵素を生成するのが目的であり,解決しようとする課題である(段落0001)ところ,上記3-1で述べたとおり,本願発明によって,酵素がDNAに結合された状態でその機能が果たせるかは明らかでなく,したがって,本願発明の目的が達成でき,課題が解決できるかも不明であるから,本願発明は発明の詳細な説明に記載したものということはできない。

4.審判請求人の主張等について
審判請求人は,平成24年12月7日提出の審判請求書において,本願発明の効果を補足的に示すための試験として試験1?5を提示し,本願発明の効果が補足的に理解できる旨主張するが,試験1?5は,いずれも本願発明の酵素,配列認識体,SAINT-2によってDNAに結合された状態で酵素の機能が果たせることを具体的に示す試験ではなく(試験1及び2は試験結果の記載がなく,試験3及び4は具体的な結果が不明であり,試験1及び2と試験3及び4との関係も不明である。試験5はDNA制限酵素を使用しており,DNAメチラーゼ,DNAデメチラーゼの記載はない。),また,それら試験からそれが示されるという根拠もないから,当該試験結果をもって,本願が実施可能要件,サポート要件を満たすものということはできない。仮に,それら試験によって,本願発明の酵素,配列認識体,SAINT-2によってDNAに結合された状態で酵素の機能が果たせることが示されるとしても,当該試験の結果は本願出願後に明らかにされたものであって,本願の発明の詳細な説明に記載された事項から導き出せる事項ではないから,その内容を参酌して,実施可能要件,サポート要件を満たすものということはできない。
なお,原審の進歩性の拒絶理由に対して提示された文献(文献A:「
Targeted DNA Methylation by a DNA Methyltransferase Coupled to a
Triple Helix Forming Oligonucleotide To Down-Regulate the Epithelial Cell Adhesion Molecule」(Bioconjugate Chemi.2010 第1239頁-1245頁)(2010年7月2日、American Chemical Societyより発行),文献B:「Double targeting restriction endonucleases:towards
correction of the acid-α-glucosidase gene in Pompe disease」[国際標準図書番号:978-90-367-4368-7(印刷版)、978-90-367-4369-3(デジタル版)第93頁-第112頁、2010年発行])についても,本願出願後相当の期間(4年以上)を経て公知となった文献であり,出願時の技術常識を示すものではないから,当該文献の内容を考慮して実施可能要件,サポート要件を満たすものということはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから,本願は特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たすものではない。したがって,その他の理由を検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2015-02-02 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-19 
出願番号 特願2007-537823(P2007-537823)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 広介  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 松浦 新司
冨永 保
発明の名称 DNA変更酵素をゲノムに輸送するビヒクル  
代理人 原田 洋平  

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