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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1302724
審判番号 不服2013-14922  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-02 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2010-502245「グリコPEG化G-CSFを用いた治療方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月16日国際公開、WO2008/124406、平成22年 7月15日国内公表、特表2010-523582〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、2008年4月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年4月3日 (US)米国、2007年4月13日 (US)米国、2007年11月7日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年12月7日付け拒絶理由通知に対して、平成25年3月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成25年8月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年8月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲は、
補正前の
「【請求項1】
ドナーにおける幹細胞産生を増加させる医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
前記高分子修飾基は、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であり、
前記グリコシル連結基は、
【化1】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、医薬組成物。
【請求項2】
前記高分子修飾基と前記グリコシル連結基は、リンカーを介して共有結合されている請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記グリコシル連結基は、修飾されたシアル酸残基を含み、前記修飾されたシアル酸残基は、式
【化2】

の構造を有する請求項2に記載の医薬組成物。
(式中、Rは前記高分子修飾基であり、前記高分子修飾基は、前記リンカーを介して前記シアル酸残基に付着されている。)
【請求項4】
前記修飾されたシアル酸残基は、式
【化3】

の構造を有する請求項3に記載の医薬組成物。
(式中、nは1?2000の整数である。)
【請求項5】
前記グリコシル連結基は、式
【化4】

を有する修飾されたシアリル残基を含む請求項1に記載の医薬組成物。
(式中、R^(2)はH、CH_(2)OR^(7)、COOR^(7)またはOR^(7)であり、
R^(7)はH、置換または非置換アルキル、もしくは置換または非置換ヘテロアルキルを表し、
R^(3)およびR^(4)は、独立してH、置換または非置換アルキル、OR^(8)、およびNHC(O)R^(9)から選択されたメンバーであり、
R^(8)およびR^(9)は独立して、H、置換または非置換アルキル、置換または非置換ヘテロアルキル、もしくはシアル酸から選択され、
L^(a)は結合、置換または非置換アルキル、および置換または非置換ヘテロアルキルから選択されるリンカーであり、
R^(16)およびR^(17)は、独立して選択される高分子アームであり、
X^(2)およびX^(4)は、ポリマー部分R^(16)およびR^(17)をCに接合する独立して選択される連結断片であり、
X^(5)は非反応性基である。)
【請求項6】
前記G-CSFペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記アミノ酸残基は、配列番号1の134位のスレオニンである請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
qは0である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ある量は、1mgから20mgの範囲である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ある量は、25μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、および200μg/kgから選択される単位用量である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
骨髄移植に対して適格な対象における顆粒球の数を増加させる医薬組成物であって、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと、ポリ(エチレングリコール)である高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、前記G-CSFペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を有し、前記高分子修飾基は、126位のグリシンから143位のセリンに亘る前記G-CSFペプチドの領域内で前記G-CSFペプチドに共有結合されており、前記高分子修飾基は、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、前記グリコシル
連結基は、
【化5】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R15は修飾されたシアル酸残基であり、
pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、医薬組成物。
【請求項12】
対象における幹細胞産生を増加させる医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと、ポリ(エチレングリコール)である高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
前記G-CSFペプチドは、
【化6】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化7】

の構造を有し、式中、nは1?2000の整数である医薬組成物。
【請求項13】
癌治療に起因する骨髄抑制を予防、治療および軽減する医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記グリコシル連結基は、
【化8】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、医薬組成物。
【請求項14】
対象における白血球産生不全を特徴とする状態の治療を必要とする該対象における該状態を治療する医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記ある量は、前記対象における前記状態を改善するのに有効な量であり、
前記グリコシル連結基は、
【化9】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(1 5)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、医薬組成物。
【請求項15】
哺乳動物における好中球減少症または血小板減少症の治療のための医薬組成物であって、
医薬として有効な量の、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体であるペプチドを含み、
前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記グリコシル連結基は、
【化10】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、医薬組成物。
【請求項16】
培養中の造血幹細胞を拡張する方法であって、
前記幹細胞に、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である有効量のペプチドを投与する工程を含み、
前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記グリコシル連結基は、
【化11】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、方法。
【請求項17】
対象における造血を増加させるか、または対象における造血始原細胞の数を増加させる医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である有効量のペプチドを含み、
前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記グリコシル連結基は、
【化12】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、医薬組成物。
【請求項18】
骨髄の安定した生着を提供する方法であって、
(a)前記骨髄のドナーに、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体であるペプチドであって、前記高分子修飾基がポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、前記グリコシル連結基が、
【化13】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、前記ペプチドを投与すること、
(2)前記ドナーから前記骨髄を単離すること、および
(3)前記骨髄をレシピエントに注入すること、を含む方法。
【請求項19】
対象における造血始原細胞の数を増加させる医薬組成物であって、
(a)1,1’-[1,4-フェニレン-ビス-(メチレン)-ビス-1,4,8,1]
-テトラアザシクロテトラデカン(AMD3100)である、式(1)の化合物を含む第1の組成物と、
(b)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体であるペプチドであって、前記高分子修飾基がポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、前記グリコシル連結基が、
【化14】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、前記ペプチドを含む第2の組成物と、を含む医薬組成物。
【請求項20】
(a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと水溶性ポリマーの間の共有結合共役体であるペプチドであって、前記水溶性ポリマーが、ポリ(エチレングリコール)であるともに、インタクトなグリコシル連結基を介して、前記G-CSFペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記G-CSFペプチドに共有結合されており、前記グリコシル連結基が、
【化15】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、前記ペプチド、
(b)界面活性剤、
(c)脂肪酸、および
(d)腸溶材料、を成分として含む経口剤であって、前記成分(a),(b)および(c)は、液相で混合されると共に成分(d)との混合前に凍結乾燥される、経口剤。」
から、
補正後の
「 【請求項1】
ドナーにおける幹細胞産生を増加させるために使用するための医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
G-CSFペプチドは、
【化1】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化2】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である医薬組成物。
【請求項2】
前記G-CSFペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
qは0である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ある量は、1mgから20mgの範囲である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ある量は、25μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、および200μg/kgから選択される単位用量である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
骨髄移植に対して適格な対象における顆粒球の数を増加させるために使用するための医薬組成物であって、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
G-CSFペプチドは、
【化3】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化4】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数であり、
前記G-CSFペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を有する医薬組成物。
【請求項7】
対象における幹細胞産生を増加させるために使用するための医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと、ポリ(エチレングリコール)である高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
G-CSFペプチドは、
【化5】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化6】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である医薬組成物。
【請求項8】
癌治療に起因する骨髄抑制を予防、治療および軽減するために使用するための医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
G-CSFペプチドは、
【化7】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化8】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である医薬組成物。
【請求項9】
対象における白血球産生不全を特徴とする状態の治療を必要とする該対象における該状態の治療に使用するための医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
G-CSFペプチドは、
【化9】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化10】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である医薬組成物。
【請求項10】
哺乳動物における好中球減少症または血小板減少症の治療に使用するための医薬組成物であって、
医薬として有効な量の、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体であるペプチドを含み、
G-CSFペプチドは、
【化11】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化12】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である医薬組成物。
【請求項11】
培養中の造血幹細胞を拡張する方法であって、
前記幹細胞に、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である有効量のペプチドを投与する工程を含み、
G-CSFペプチドは、
【化13】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化14】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である、方法。
【請求項12】
対象における造血を増加させるか、または対象における造血始原細胞の数を増加させるために使用するための医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である有効量のペプチドを含み、
G-CSFペプチドは、
【化15】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化16】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である、医薬組成物。
【請求項13】
骨髄の安定した生着を提供する方法に使用するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体であるペプチドを含み、
G-CSFペプチドは、
【化17】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化18】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数であり、
前記方法が、
(a)前記骨髄のドナーに、前記G-CSFペプチドを投与すること、
(b)前記ドナーから前記骨髄を単離すること、および
(c)前記骨髄をレシピエントに注入すること、を含む、医薬組成物。
【請求項14】
対象における造血始原細胞の数を増加させるために使用するための医薬組成物であって、
(a)1,1’-[1,4-フェニレン-ビス-(メチレン)-ビス-1,4,8,1]
-テトラアザシクロテトラデカン(AMD3100)である、式(1)の化合物を含む第1の組成物と、
(b)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体であるペプチドを含む第2組成物であって、G-CSFペプチドが、
【化19】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化20】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である、前記第2の組成物と、を含む医薬組成物。
【請求項15】
(a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと水溶性ポリマーの間の共有結合共役体であるペプチドであって、G-CSFペプチドが、
【化21】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化22】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である、前記ペプチド、
(b)界面活性剤、
(c)脂肪酸、および
(d)腸溶材料、を成分として含む経口剤であって、前記成分(a),(b)および(c)は、液相で混合されると共に成分(d)との混合前に凍結乾燥される、経口剤。」
と補正された。

本件補正前後の発明特定事項を対比すると、本件補正後の請求項8は、癌治療に起因する骨髄抑制を予防、治療および軽減するために使用するための医薬組成物の発明であり、これは補正前の請求項13に対応するものである。
また、本件補正後の請求項9は、対象における白血球産生不全を特徴とする状態の治療を必要とする該対象における該状態の治療に使用するための医薬組成物であり、これは補正前の請求項14に対応するものである。
さらに、本件補正後の請求項10は、哺乳動物における好中球減少症または血小板減少症の治療に使用するための医薬組成物であり、これは補正前の請求項15に対応するものである。

そこで、本件補正前の請求項13?15と補正後の請求項8?10をそれぞれ対比すると、本件補正は、本件補正前の請求項13?15における発明を特定するために必要な事項である
「前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記グリコシル連結基は、
【化8】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)」

「G-CSFペプチドは、
【化7】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化8】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である」
に補正するものである。

2.本件補正の適否
(1)本件補正の目的について
本件補正は、補正前の請求項13?15の発明特定事項である「顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチド」を
「前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記グリコシル連結基は、
【化8】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)」
ものから
「G-CSFペプチドは、
【化7】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化8】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である」
ものに限定するものということができるものであり、かつ、本件補正後の請求項8?10に記載された発明と本件補正前の請求項13?15に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、請求項8?10については、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項8?10に記載された発明(以下、本件補正後の各請求項に記載された発明を「本願補正発明8」のように、本件補正発明に請求項の番号を付していう。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か、について検討する。

(2-1)引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2006/074467号(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているため訳文で示す。)

(ア)「顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は、好中球顆粒球前駆細胞および成熟好中球の生存、増殖、分化、および機能を刺激する糖タンパク質である。臨床的使用における組換えヒトG-CSFの2つの形態は好中球顆粒球形成の強力な刺激因子であり、一部の好中球減少状態の感染性合併症の予防における有効性が明らかにされた。それらは骨髄抑制療法からの好中球回復を加速するために使用されうる。
G-CSFは、熱性好中球減少症の発生率を削減することによって癌化学療法の死亡率、骨髄移植によって支持される高用量化学療法の死亡率、および重篤な慢性好中球減少症者における感染の発生率と持続期間を減少させる。さらに、G-CSFは最近、心筋梗塞の発症後に投与されると治療的であることが証明されている。」(段落[0002]?[0003])

(イ)「【図1】本発明の実施において有用な代表的な修飾シアル酸ヌクレオチドを示す図である。・・・B.線状CMPシアル酸PEG(例えば、10kDa)の構造。
・・・
【図3】非PEG化G-CSF(A)、化学的PEG化G-CSF(B)、および酵素的糖PEG化G-CSF(C)のインビボ滞留寿命の比較を示す図である。
【図4】図3に示されている種の活性の比較を示す図である。」(段落[0024]?[0027])

(ウ)「略語
・・・Sia、シアリルまたはN-アセチルノイラミニル、・・・およびそれの誘導体と類似体。」(段落[0030]?[0031])

(エ)「本発明は、G-CSFでのグリカン構造の修飾のための方法を包含する。G-CSFは、活性化T細胞、マクロファージ、内皮細胞、および間質線維芽細胞によって生成されるサイトカインとして当業界で公知である。G-CSFは主に骨髄で作用し、炎症性白血球の産生を増大させ、さらに内分泌性ホルモンとして作用し、炎症性機能中に消費される好中球の補充を開始させる。G-CSFには化学療法後の骨髄置換における臨床用途もある。」(段落[0078])

(オ)「代表的な実施形態において、本発明のG-CSFペプチドが、特定の種類の放射線療法、化学療法、および骨髄移植を受ける癌患者における感染を予防する目的のために患者に投与され、原因にかかわらず、重篤な慢性または相対的白血球減少症の治療にために末梢血前駆細胞移植における収集のための前駆細胞を動員し、かつ急性骨髄性白血病患者の治療を支持しうる。また、本発明のポリペプチドコンジュゲートまたは組成物は、AIDSまたは他の免疫不全疾患および細菌感染の治療に使用されうる。」(段落[0081])

(カ)「別の代表的な実施形態において、本発明はG-CSFペプチドコンジュゲートを提供するが、ここで修飾グリコシル残基(グリコシル連結基を含む)はThr133にある(配列がMetで始まる場合はThr134)。本実施形態に記載の代表的な式は部分

[式中、Lは、0順位リンカー、置換もしくは非置換アルキル、および置換もしくは非置換ヘテロアルキル部分であるリンカーである。代表的なリンカーが天然または非天然アミノ酸のアミドまたはカルバメートである(例えば、-C(O)(CH2)SNHC(O)-)が、ここで指数sは1?20の整数を表す。ポリ(エチレングリコール)(PEG)部分は、約100kDまでの分子量を有しうる。代表的なPEG部分はほぼ1KDa、2KDa、5KDa、10KDa、15KDa、20KDa、25KDa、30KDa、35KDa、40KDa、45KDa、50KDa、55KDa、60KDa、65KDa、70KDa、75KDa、または80KDaである。PEG部分は、本明細書に記載のものなど線状または分岐PEG種である。リンカーに結合されていないPEG部分の末端は、OHまたは別の部分のいずれか、例えば、O-(C1-C4)置換もしくは非置換アルキル基でありうる。OMeが現在、好ましい。]を含む。
さらに代表的な実施形態において、本発明の糖PEG化G-CSFは基礎構造

[式中、Rおよびnは上記の通りである]を含む。リンカー腕-PEGカセットは任意の位置でシアル酸に結合されている。炭素5での窒素は現在、好ましいが、炭素9でのヒドロキシルはアミンで置換され、上記の通り官能化されうる。
上記の図式の各々において、グリコシル化部位は位置134でのトレオニンとして表される。図式は、末端のメチオニンを含むG-CSFペプチドに関する。図式は、末端のメチオニンを含むことがないG-CSFペプチドにも関するが、この場合、上記図式の各々Thrは適切にThr^(133)と標識される。」(段落[0129]?[0130])

(キ)「本発明の医薬組成物において使用される活性成分は、糖PEG化G-CSF、および刺激顆粒球生成の生物特性を有するその誘導体である。好ましくは、本発明のG-CSF組成物は、非経口(例えば、IV、IM、SC、またはIP)投与される。有効な投与量は、治療される状態および投与経路によって大幅に変動することが予想されるが、活性材料の約0.1(約7U)?100(約7000U)μg/kg体重の範囲であることが予想される。貧血状態の治療のための好ましい用量は、週3回約50?約300単位/kgである。本発明はインビボ滞留時間の増大したG-CSFを提供するため、上記投与量は場合により本発明の組成物が投与されると低下される。」(段落[0319])

(ク)「実施例2
2ポットでの2つの酵素法
次の実施例では2つの連続ステップにおけるG-CSF-GalNAc-SA-PEGの調製が例示され、ここで各々の中間生成物は次にステップで使用される前に精製される。
a.GalNAc-T2を使用するG-CSFおよびUDP-GalNAcからのG-CSF-GalNAc(pH6.2)の調製
パッケージされた緩衝液3.2mL中G-CSF(960mcg)を、UFフィルター(MWCO5K)を使用する限外ろ過によって濃縮し、次いで25mM MES緩衝液(pH6.2、0.005%NaN3)1mLで再構成した。UDP-GalNAc(6mg、9.24mM)、GalNAc-T2(40μL、0.04U)、および100mM MnCl2(40μL、4mM)を次いで添加し、結果として生じる溶液を室温下にインキュベートした。
24時間後、MALDIは、反応が完了したことを示した。反応混合物を直接、SEC(Superdex 75およびSuperdex 200)、およびPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH4.9および0.005%トウィーン(Tween)80)を含んで成る溶出緩衝液を使用するHPLC精製にかけた。G-CSF-GalNAcの採集ピークをセントリコン(Centricon)5KDaMWCOフィルターを使用して約150μLに濃縮し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH4.9および0.005%トウィーン(Tween)80)を思量して容積を1mLに調節した。最終タンパク質濃度1mg/mL(A280)、収率100%。試料4℃下に保存した。
b.精製G-CSF-GalNAc、CMP-SA-PEG(20KDa)およびマウスST6GalNAc-1(pH6.2)を使用するG-CSF-GalNAc-SA-PEGの調製
タンパク質1mgを含有するG-CSF-GalNAc溶液を25mM MES緩衝液(pH6.2、0.005%NaN3)へ緩衝液交換し、CMP-SA-PEG(20KDa)(5mg、0.25umol)を添加した。溶解後、MnCl2(100μL、100mM溶液)およびST6GalNAc-I(100μL、マウス酵素)を添加し、反応混合物をゆっくり32℃下に3日間振動させた。反応混合物を限外ろ過(MWCO5K)によって濃縮し、緩衝液を25mM NaOAc(pH4.9)で1回交換し、次いで全容積1mLに濃縮した。次いで生成物をSP-セファロース(A:25mM NaOAc+0.005%トウィーン80 pH4.5、B:25mM NaOAc+0.005%トウィーン80 pH4.5+2M NaCl)を保持時間13-18分、SEC(Superdex75、PBS-pH7.2、0.005%トウィーン80)を保持時間8.6分(superdex75、フロー1mL/分)で使用して精製した。所望の画分を採集し、0.5mLに濃縮し、4℃下に保存した。」(段落[0333]?[0337])

(ケ)「・・・
【請求項21】
顆粒球コロニー刺激因子ペプチドであって、前記ペプチドのアミノ酸残基に結合したグリコシル連結基を含んで成り、前記グリコシル連結基が、式

[式中、
R2はH、CH2OR7、COOR7、COO-またはOR7であり、
ここで
R7は、H、置換もしくは非置換アルキル、または置換もしくは非置換へテロアルキルであり、
R3およびR4は、H、置換もしくは非置換アルキル、OR8、NHC(O)R9から独立して選択されるメンバーであり、
ここで
R8およびR9は、H、置換もしくは非置換アルキル、または置換もしくは非置換へテロアルキル、またはシアル酸から独立して選択され、
sは1?20の整数であり、
fは1?2500の整数であり、かつ
QはHおよび置換もしくは非置換C1-C6アルキルから選択されるメンバーである]
を有する修飾シアリル残基を含んで成る、顆粒球コロニー刺激因子ペプチド。
【請求項22】
前記修飾シアリル残基が式

を有する、請求項21に記載のペプチド。
・・・
【請求項42】
請求項21に記載の顆粒球コロニー刺激因子ペプチド、および医薬的に許容される担体を含んで成る医薬製剤。」(特許請求の範囲)

(コ)

(FIGURE 1B)

(サ)

(FIGURE 4)


(2-2)引用発明
引用例1の記載事項(ケ)によれば、引用例1には、特定の修飾シアリル残基を含んで成る顆粒球コロニー刺激因子ペプチドを含んで成る医薬製剤の発明が記載され、記載事項(カ)によれば、該ペプチドの代表的な実施例として、

が記載され、ここで

はG-CSFペプチドとその134位のスレオニンであり、PEG部分として20kDaの分子量のものが記載され、PEG部分の末端としてOMeが好ましいことが記載されている。さらに同(カ)によれば、さらに代表的な実施形態として、

なるものが記載され、記載事項(ウ)によれば、SiaはシアリルまたはN-アセチルノイラミニルのことであり、記載事項(イ)の図1Bの説明及び記載事項(コ)によれば、その化学構造は、

であると認められる。
そして、記載事項(ク)によれば、上記

の実施例といえるG-CSF-GalNAc-SA-PEGを酵素的に調製したことが記載され、記載事項(イ)の図3、4の説明及び(サ)によれば、酵素的糖PEG化G-CSFが活性を示すことが記載されている。
そうすると、これら引用例1の記載を総合勘案すれば、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「医薬製剤であって、前記医薬製剤は、

であって、

はG-CSFペプチド及びその134位のスレオニンであり、PEG部分、すなわち、-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)CH_(2)CH_(2)OR部分の分子量は20kDaであり、PEG部分の末端、すなわち、ORのRはMeであり、Siaは

という構造を有するペプチドを含む、医薬製剤。」

(2-3)本願補正発明8について
(2-3-1)対比
本願補正発明8と引用発明を対比する。
最初に、本願補正発明8における用語の意味について確認する。本願補正発明8には、
「G-CSFペプチドは、


の構造を有し、」
なる発明特定事項が含まれているが、上記構造式は、その構造中にSia-PEGなる構造、すなわち、本願補正発明8における高分子修飾基を含むものであるから、上記記載における「G-CSFペプチド」は、「顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合体であるペプチド」であると認められる。そこで、以下、「G-CSFペプチド」と記載した場合、高分子修飾基を有さないG-CSFのペプチドを意味することとし、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体であるペプチドは、「G-CSF共役体ペプチド」と記載することとする。
そこで、両者を対比する。
まず、引用発明における

と本願補正発明8における

は、いずれもG-CSFペプチドとその134位のスレオニンを意味するものと認められる。また、引用発明における

である構造は、本願補正発明8における

の、qが0で、Sia-PEGにおける

である場合の構造に該当するものである。また、引用発明におけるPEG部分、すなわち-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)CH_(2)CH_(2)OR部分の分子量は20kDaであるから、nは約454となり、本願補正発明8におけるnは400?500の整数である。してみると、結局、引用発明におけるペプチドの化学構造は、本願補正発明8の医薬組成物が含むペプチドの化学構造に該当することになるから、引用発明にいうペプチドは、本願補正発明8にいう顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合体であるペプチドに該当するものといえる。また、引用発明の医薬製剤が、ある量のペプチドを含み、本願補正発明8の医薬組成物に該当することは、明らかである。
そうすると、両者は、
「医薬組成物であって、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のG-CSF共役体ペプチドを含み、
G-CSF共役体ペプチドは、
【化7】

の構造を有し、
式中、qは0または1であり、
Sia-PEGは、
【化8】

の構造を有し、式中、nは400?500の整数である医薬組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
医薬組成物の用途が、本願補正発明では、「癌治療に起因する骨髄抑制を予防、治療および軽減するために使用するため」であるのに対し、引用発明には、上記用途が特定されていない点(以下、「相違点」という。)。

(2-3-2)判断
上記相違点について検討するに、引用例1の記載事項(オ)には、引用発明のG-CSF共役体ペプチドは、放射線療法、化学療法、および骨髄移植を受ける癌患者における感染を予防する目的のために使用されることが記載され、記載事項(サ)には、酵素的糖PEG化G-CSFが、白血球数を増大させることを確認した実験結果が記載されている。また、記載事項(ア)及び(エ)には、G-CSFは主に骨髄で作用し、炎症性白血球を増大させること、好中球減少状態の感染性合併症の予防に有効であること、骨髄抑制療法からの好中球回復を加速するために使用され得ることが記載されている。そうすると、これら記載に接した当業者であれば、引用発明のG-CSF共役体ペプチドを含む医薬組成物を、放射線療法、化学療法等の骨髄抑制療法を受ける癌患者において、その骨髄における白血球数を増大させ、感染を予防するためのもの、換言すれば、癌治療に起因する骨髄抑制を予防、治療および軽減するために使用するためのものとすることは、容易に成し得ることである。
次に、本願補正発明8の効果について検討する。本願の発明の詳細な説明には、実施例1?3として、本願補正発明8のG-CSF共役体ペプチドは、従来のPEG化G-CSFに比べて、好中球数やCD34+数を増加させる効果に優れることが記載されているが、引用例1の記載事項(イ)及び(サ)によれば、白血球数に対して、酵素的糖PEG化G-CSFは、非PEG化G-CSF又は化学的PEG化G-CSFより高い効果を示したことが理解できるから、上記のような本願補正発明8の効果は、当業者が想定し得る範囲内のものであり、当業者の予測を超える格別顕著なものということはできない。

この点について、審判請求人は、審判請求書において、下記を主張する。
「上記構成のような特定のG-CSF共役体によれば、明細書中に示すような(特に図1および2参照)驚くべき活性を有するといった有利な効果を奏する。
例えば、本願発明に係る医薬組成物であるXM22(グリコPEG-GCSF)は、50μg/kgの用量で、100μg/kgのニューラスタ(登録商標:市販)と比較して、好中球数およびCD34+細胞数に関して同等または、より高い効果を示した(明細書の段落[0038]、実施例1および2、図面の図1および2等参照)。すなわち、本願発明に係るG-CSF共役体(医薬組成物)は、従来のニューラスタPEG-G-CSF製剤と比較して、約2倍の薬理効果を有している。 」
しかしながら、上述のとおり、引用例1の記載事項(イ)及び(サ)によれば、酵素的糖PEG化G-CSFが化学的PEG化G-CSFより高い活性を示したことが記載されているから、本願補正発明8のG-CSF共役体ペプチドが、ニューラスタに比較して優れた効果を示すことは、当業者が予測できる範囲のものといわざるを得ない。

したがって、本願補正発明8は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2-4)本願補正発明9について
(2-4-1)対比・判断
本願補正発明9と引用発明を対比すると、両者は、上記(2-3-1)に記載した点と同じ点で一致し、以下の点で相違する。
医薬組成物の用途が、本願補正発明では、「対象における白血球産生不全を特徴とする状態の治療を必要とする該対象における該状態の治療に使用するため」であるのに対し、引用発明には、上記用途が特定されていない点(以下、「相違点9」という。)。
上記相違点9について検討するに、引用例1の記載事項(サ)によれば、酵素的糖PEG化G-CSFが、白血球数を増大させたことが記載されているから、引用発明のG-CSF共役体ペプチドを含む医薬組成物を、対象における白血球産生不全を特徴とする状態の治療を必要とする該対象における該状態の治療に使用するためのものとすることに格別の創意を要したものとはいえない。
そして、本願補正発明9の効果についても、上記(2-3-2)に記載したとおり、引用例1に記載された発明から、当業者が容易に予測できる範囲内のものに過ぎない。

したがって、本願補正発明9は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2-5)本願補正発明10について
本願補正発明10と引用発明を対比すると、両者は、上記(2-3-1)に記載した点と同じ点で一致し、以下の点で相違する。
医薬組成物の用途が、本願補正発明では、「哺乳動物における好中球減少症または血小板減少症の治療に使用するため」であるのに対し、引用発明には、上記用途が特定されていない点(以下、「相違点10」という。)。
上記相違点10について検討するに、引用例1の記載事項(オ)には、G-CSF共役体ペプチドを白血球減少症の治療に用いられることが記載され、記載事項(ア)にはG-CSFは好中球形成の刺激因子であることが記載されている。そうすると、引用発明のG-CSF共役体ペプチドを含む医薬組成物を、哺乳動物における好中球減少症または血小板減少症の治療に使用するためのものとすることに格別の創意を要したものとはいえない。
そして、本願補正発明10の効果についても、上記(2-3-2)に記載したとおり、引用例1に記載された発明から、当業者が容易に予測できる範囲内のものに過ぎない。

したがって、本願補正発明10は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成25年3月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?20により特定されるものであるところ、その請求項13?15に係る発明(以下、「本願発明13?15」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項13】
癌治療に起因する骨髄抑制を予防、治療および軽減する医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記グリコシル連結基は、
【化8】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、医薬組成物。
【請求項14】
対象における白血球産生不全を特徴とする状態の治療を必要とする該対象における該状態を治療する医薬組成物であって、
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチドを含み、
前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記ある量は、前記対象における前記状態を改善するのに有効な量であり、
前記グリコシル連結基は、
【化9】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(1 5)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、医薬組成物。
【請求項15】
哺乳動物における好中球減少症または血小板減少症の治療のための医薬組成物であって、
医薬として有効な量の、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体であるペプチドを含み、
前記高分子修飾基は、ポリ(エチレングリコール)であるとともに、グリコシル連結基を介して前記ペプチドのグリコシルまたはアミノ酸残基において前記ペプチドに共有結合されており、
前記グリコシル連結基は、
【化10】

から選択されるサブ構造を含む(式中、R^(15)は修飾されたシアル酸残基であり、pおよびqは、独立して0または1から選択される整数である。)、医薬組成物。」

第4 引用例に記載された事項
引用例1に記載された事項は、上記第2(2)(2-1)に記載したとおりであり、引用例1から認定される引用発明は、上記第2(2)(2-2)に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明13?15は、「顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)ペプチドと高分子修飾基との間の共有結合共役体である、ある量のペプチド」を、本願補正発明8?10の上位概念にしたものである。
そうすると、本願発明13?15の下位概念の発明に相当するといえる本願補正発明8?10が、上記第2(2)(2-3)?(2-5)にて説示したとおり、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明13?15も、同様に、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、当審の審尋に対する回答書の中で、補正案を提示し、補正の機会を与えるよう主張している。
しかしながら、もとよりそのような補正の機会を与える義務が審判合議体にないことは特許法の各規定に照らし明らかであるし、知的財産高等裁判所においても認められているところである(例えば、平成20年(行ケ)第10275号判決、平成22年(行ケ)第10190号判決、平成19年(行ケ)第10274号判決参照)。
しかも、上記補正案における補正は、つまるところ、G-CSFペプチドの用量を特定するものであるが、引用例1の記載事項(キ)には、有効な投与量として、上記補正案の用量を含む範囲が記載されているから、結局は進歩性がないものとの結論に至る蓋然性が高いと認められる点、付言する。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明13?15は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-30 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2010-502245(P2010-502245)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 邦光瀬下 浩一  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 新留 素子
齋藤 恵
発明の名称 グリコPEG化G-CSFを用いた治療方法  
代理人 恩田 誠  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  

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