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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1302728
審判番号 不服2013-17268  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-06 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2010-179608「縮合環化合物及び有機発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成23年2月24日出願公開、特開2011-37854〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年8月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年8月10日(KR)韓国)を国際出願日とする出願であって、平成24年12月7日付けで拒絶理由が通知され、平成25年4月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月1日付けで拒絶査定がされたところ、同年9月6日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年12月18日付けで審尋が通知され、平成26年3月24日に回答書が提出されたものである。

第2 平成25年9月6日付けの手続補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成25年9月6日付けの手続補正を却下する。
〔理由〕
1 補正の内容
平成25年9月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成25年4月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲における請求項12の
「下記化学式2a-2?化学式2b-2のうち、いずれか1つで表示されることを特徴とする、請求項1に記載の縮合環化合物。
【化8】

・・・(化学式2a-2)
【化9】

・・・(化学式2b-2)

前記化学式2a-2?化学式2b-2において、
A_(1)及びA_(2)は、互いに独立して、-[C(Q_(1))(Q_(2))]_(q)-で表示される2価連結基であり、
前記Q_(1)及びQ_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基からなる群より選択され、
前記qは、1?3の整数であり、
R_(1)及びR_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基、及び置換または非置換のC_(6)-C_(16)アリール基からなる群より選択され、
Z_(1)?Z_(8)及びZ_(11)?Z_(18)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基、フェニル基、及びナフチル基からなる群より選択され、かつ、Z_(1)?Z_(8)のうち少なくとも1つはフェニル基またはナフチル基である。」

「下記化学式2a-2?化学式2b-2のうち、いずれか1つで表示されることを特徴とする、請求項1に記載の縮合環化合物。
【化8】

・・・(化学式2a-2)
【化9】

・・・(化学式2b-2)

前記化学式2a-2?化学式2b-2において、
A_(1)及びA_(2)は、互いに独立して、-[C(Q_(1))(Q_(2))]_(q)-で表示される2価連結基であり、
前記Q_(1)及びQ_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基からなる群より選択され、
前記qは、1?3の整数であり、
R_(1)及びR_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基からなる群より選択され、
Z_(1)?Z_(8)及びZ_(11)?Z_(18)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基、フェニル基、及びナフチル基からなる群より選択され、かつ、Z_(1)?Z_(8)のうち少なくとも1つはフェニル基またはナフチル基である。」
(審決注.下線部は審判請求時の補正部分である。)
と補正する事項を含むものである。

2 補正の適否について
(1) 新規事項について
上記の補正は、本願の特許請求の範囲の請求項12に記載した発明を特定するために必要な事項である「R_(1)及びR_(2)」を、補正前の「R_(1)及びR_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基、及び置換または非置換のC_(6)-C_(16)アリール基からなる群より選択され、」から「置換または非置換のC_(6)-C_(16)アリール基」の選択肢を削除し、補正後の「R_(1)及びR_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基からなる群より選択され、」に減縮するものである。
したがって、上記の補正は、願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

(2) 補正の目的について
本件補正は、拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時になされたものであるから、特許請求の範囲についてする補正である本件補正は、特許法第17条の2第5項第1乃至4号に掲げる事項のいずれかを目的とするものに限られるところ、上記の補正は、R_(1)及びR_(2)を限定するものであって、しかも本件補正前の請求項12に記載された発明と本件補正後の請求項12に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、上記の補正は、特許法第17条の2第5項の規定に適合する。

(3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項12に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

ア はじめに
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。特許法第36条第4項第1号は、明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであるところ、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、もしそのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び当業者の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造することができ、かつ、使用できなければならないと解される。
よって、以下、この観点に立って実施可能要件の適否について検討する。

イ 請求項12に係る発明について
本願の請求項12に係る発明は、以下のとおりである。
「下記化学式2a-2?化学式2b-2のうち、いずれか1つで表示されることを特徴とする、請求項1に記載の縮合環化合物。
【化8】

・・・(化学式2a-2)
【化9】

・・・(化学式2b-2)

前記化学式2a-2?化学式2b-2において、
A_(1)及びA_(2)は、互いに独立して、-[C(Q_(1))(Q_(2))]_(q)-で表示される2価連結基であり、
前記Q_(1)及びQ_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基からなる群より選択され、
前記qは、1?3の整数であり、
R_(1)及びR_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基からなる群より選択され、
Z_(1)?Z_(8)及びZ_(11)?Z_(18)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基、フェニル基、及びナフチル基からなる群より選択され、かつ、Z_(1)?Z_(8)のうち少なくとも1つはフェニル基またはナフチル基である。」

ウ 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
a 「前記化学式1を有する縮合環化合物は、公知の有機合成方法を利用して合成することができる。前記縮合環化合物の合成方法は、後述する実施例を参照することで当業者は容易に認識することができる。」(【0202】)
b 「(1-4) 2-(2-ニトロフェニル)-9,10-ジフェニルアントラセン(2-(2-nitrophenyl)-9,10-diphenylanthracene)の合成
反応器に、前記(1-3)から収得した9,10-ジフェニルアントラセン-2-ボロン酸(9,10-diphenylanthracene-2-boronicacid)(4g、0.0107mol)、2-ブロモニトロベンゼン(2-bromonitrobenzene)(1.8g、0.009mol)、Pd(PPh_(3))_(4)(0.2g、0.17mmol)、K_(2)CO_(3)(2.5g、0.018mol)、THF 30ml、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)30ml、H_(2)O10mlを入れて12時間還流させた。これにより得られた混合物を常温に冷却させた後、層分離させて収得した有機層の有機溶媒を減圧して除去した。これにより収得した固体を、水100ml、メタノール100mlで洗浄した後、カラム分離(Mc:Hx(hexane)=1:9)して黄色の固体(3g、75%)を得た。
(1-5) 6,11-ジフェニル-12-H-12-アザインデノ[1,2-b]アントラセン(6,11-diphenyl-12-H-12-aza indeno[1,2-b]antracene)の合成
500ml反応器に前記(1-4)で収得した2-(2-ニトロフェニル)9,10-ジフェニルアントラセン(2-(2-nitrophenyl)-9,10-diphenylanthracene)(21g、0.0571mol)、PPh_(3)(42.5g、0.1714mol)、dichlorobenzene(150ml)を入れて10時間還流させた。反応完了後、1Lビーカーに反応液を移した後、加熱してジクロロベンゼン(dichlorobenzene)の量を伴分に減少させた。これにより得られた混合物を常温に冷却させた後、メタノール500mlを注いで、結晶を析出させて収得した固体をろ過した後、トルエン150mlに加熱して溶かした後、ブフナー漏斗にセライト、シリカゲルを敷いてろ過した。これにより得られた濾液を減圧除去した後、トルエン/メタノール再結晶で黄色固体(18g、92%)を収得した。
(1-6) 6,11-ジフェニル-12-メチル-12-アザインデノ[1,2-b]アントラセン(6,11-diphenyl-12-methyl-12-azaindeno[1,2-b]anthracene)(化合物1:NAG01)の合成
反応器100mlで前記(1-5)から収得した6,11-ジフェニル-12-H-12-アザインデノ[1,2-b]アントラセン(6,11-diphenyl-12-H-12-azaindeno[1,2-b]anthracene)(2g、4.77mmol)をTHF 30mlに溶かした後、Na(t-BuO)(1g、9.5mmol)を添加した。これにより得られた混合物にヨードメタン(Iodomethane)(1.4g、9.5mmol)を徐々に20分間滴加した。滴加後、常温で30分攪拌させた後、有機溶媒を減圧して除去した。
これによって収得した固体をトルエンに溶かしてブフナー漏斗にセライト、シリカゲルを敷いてろ過した。これにより収得した濾液を減圧して除去した後、トルエンで再結晶して黄色の固体(1.4g、67%)を得た。
Mp 272.15℃
^(1)H NMR(CDCl_(3)、300Mhz)、δ8.320(d、1H)、δ8.078(d、1H)、δ7.933(d、1H)、δ7.74?7.265(m、17H)
【化105】

・・・(化合物1)」(【0246】?【0251】)
c 「(2-4) 2,6-(2-ニトロフェニル)-9,10-ジフェニルアントラセン(2,6-(2-nitrophenyl)-9,10-diphenylanthracene)の合成
前記(2-2)で収得した2,6-ジブロモ-9,10-ジフェニルアントラセン(2,6-dibromo-9,10-diphenylanthracene)(61.4mmol、30g)、前記(2-3)から収得したニトロフェニル-2-ボロン酸(nitrophenyl-2-boronicacid)(153.6mmol、25.6g)、Pd(PPh_(3))_(4)(0.05mmol、3.5g)及びK_(2)CO_(3)(245.8mmol、33.9g)をジオキサン(Dioxane)90ml、THF90ml及びH_(2)O 30mlで希釈した後、加熱還流した。4日後溶媒を除去して、MCで抽出して飽和NaCl溶液で洗浄した後、有機層をMgSO_(4)で乾燥濃縮させた混合物をカラムクロマトグラフィ(column chromatography)(MC/Hex=1/4)で精製して黄色固体である2,6-(2-ニトロフェニル)-9,10-ジフェニルアントラセン(2,6-(2-nitrophenyl)-9,10-diphenylanthracene)(8.5g、24%)を得た。
(2-5) 8-H,6-H-8,6-ジアザジインデノ[1,2-b]、[1’,2’-i]アントラセン(8-H,6-H-8,6-diaza diindeno[1,2-b]、[1’,2’-i]anthracene)の合成
250mlフラスコで前記(2-4)で収得した2,6-(2-ニトロフェニル)-9,10-ジフェニルアントラセン(2,6-(2-nitrophenyl)-9,10-diphenylanthracene)(14.8mmol、8.5g)を1、2-ジクロロベンゼン(1、2-dichlorobenzene)80mlに溶かした後、PPh_(3)(72.2mmol、37.1g)を加えた後、加熱還流した。12時間後、溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィ(columnchromatography)(MC/Hex=1/10)で精製して無色8-H、6-H-8,6-ジアザジインデノ[1,2-b]、[1’,2’-i]アントラセン(7.5g、98%)を得た。
(2-6) 8,6-ジメチル-8,6-ジアザジインデノ[1,2-b]、[1’,2’-i]アントラセン(8,6-dimethyl-8,6-diazadiindeno[1,2-b]、[1’、2’-i]anthracene)(化合物8:NAG03)の合成
250mlフラスコで8-H、6-H-8,6-ジアザジインデノ[1,2-b]、[1’,2’-i]アントラセン(15.2mmol、7.7g)をTHF70mlに溶かしてt-BuONa(38.1mmol、3.6g)を添加した後、常温でCH_(3)Iをゆっくり添加した。30分後溶媒を除去して収得した固体に対してジクロロベンゼン(dichlorobenzene)を利用したホットフィルタリング(hot filtering)2回、ピリジンを利用した再結晶1回を行った後、減圧乾燥して淡黄色8,6-ジメチル-8,6-ジアザジインデノ[1,2-b]、[1’,2’-i]アントラセン(8,6-dimethyl-8,6-diazadiindeno[1,2-b]、[1’、2’-i]anthracene)(4.9g、60%)を得た。
Mp=298℃
^(1)H NMR(300MHz;CDCl_(3))δ2.92(6H、d)、7.24?7.66(14H、m)、7.86(2H、s)、7.98(2H、d)、8.14(4H、m)
【化106】

・・・(化合物8)」(【0255】?【0259】)
d 「(3-3) 2-(2-ニトロフェニル)9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(2-(2-nitrophenyl)-9,10-di(2-naphthyl)anthracene)の合成
9,10-ジナフチルアントラセン-2-ボロン酸(9,10-dinaphthylanthracene-2-boronic acid)(21.1mmol、10g)、ブロモニトロベンゼン(bromonitrobenzene)(52.7mmol、10.64g)、Pd(PPh_(3))_(4)(0.05mmol、1.21g)、K_(2)CO_(3)(84.3mmol、11.65g)をジオキサン(Dioxane)100ml、THF100ml及びH_(2)O 30mlで希釈した後、加熱還流した。12時間後、溶媒を除去した後、MCで抽出して飽和NaCl溶液で洗浄した後、有機層をMgSO_(4)で乾燥濃縮させた混合物をカラムクロマトグラフィ(column chromatography)(MC/Hex=1/5)で精製して黄色固体である2-(2-ニトロフェニル)-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(2-(2-nitrophenyl)-9,10-di(2-naphthyl)anthracene)(8.4g、73%)を収得した。
(3-4) 6,11-ジ(2-ナフチル)-12-H-12-アザ-インデノ[1,2-b]アントラセン(6,11-di(2-naphthyl)-12-H-12-aza-indeno[1,2-b]anthracene)の合成
250mlフラスコで前記(3-3)で収得した2-(2-ニトロフェニル)-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(2-(2-nitrophenyl)-9,10-ジ(2-naphthyl)anthracene)(15.2mmol、8.4g)を1,2-ジクロロベンゼン(1、2-dichlorobenzene)80mlに溶かした後、PPh_(3)(45.6mmol、22.8g)を加えた後、加熱還流した。12時間後溶媒を除去してカラムクロマトグラフィ(MC/Hex=1/10)で精製して無色固体6,11-ジ(2-ナフチル)-12-H-12-アザ-インデノ[1,2-b]アントラセン(7.4g、96%)を得た。
(3-5) 6,11-ジ(2-ナフチル)-12-メチル-12-アザインデノ[1,2-b]アントラセン(6,11-ジ(2-naphthyl)-12-methyl-12-azaindeno[1,2-b]anthracene)(化合物16:NAG05)の合成
250mlフラスコで6,11-ジ(2-ナフチル)-12-H-12-アザ-インデノ[1,2-b]アントラセン(14.2mmol、7.4g)をTHF70mlに溶かしてt-BuONa(17.0mmol、1.64g)を添加した後、常温でCH_(3)I(17.0mmol、2.4ml)をゆっくりと添加した。30分後、溶媒を除去して収得した固体に対してジクロロベンゼン(dichlorobenzene)を利用したホットフィルタリング2回、ジクロロベンゼンを利用した再結晶3回を行った後、減圧乾燥して淡黄色6,11-ジ(2-ナフチル)-12-メチル-12-アザインデノ[1,2-b]アントラセン(6,11-ジ(2-naphthyl)-12-methyl-12-aza indeno[1,2-b]anthracene)(3.5g、46%)
を収得した。
Mp=274℃
^(1)H NMR(300MHz;CDCl_(3))δ2.87(3H、2)、7.28?8.34(24H、m)
【化107】

・・・(化合物16)」(【0262】?【0266】)

エ 検討
(ア) まず、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明の化合物及びその製造方法に関する具体的な記載はなされていない(摘示a?摘示d)。
すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明には、
【化105】

【化106】

【化107】

の化合物の製造方法に関する記載はなされているから、
【化6】

及び
【化7】

という基本骨格をもつ化合物の製造方法が記載されているとはいえるが、
【化8】

又は
【化9】

というA_(1)及びA_(2)が直接結合ではない基本骨格をもつ化合物の製造方法は記載されていない。

(イ) しかも、当業者の技術常識からは化合物1?化合物3の製造方法と同様の方法で本願補正発明の化合物を製造することができるとはいえないので、当業者の技術常識を考慮しても、本願明細書の発明の詳細な説明に基づいて本願補正発明の化合物を製造することができるとは認められない。
以下、詳述する。

(イ-1) 合成例1の(1-4)、合成例2の(2-4)及び合成例3の(3-3)に記載された反応は、何れも鈴木カップリング反応の手法を用いて、アリールボロン酸とハロゲン化アリールとを反応させて両アリール環の直接結合を形成する方法であるが、かかる鈴木カップリング反応においてはアリールボロン酸とハロゲン化アルキル-アリールとを反応させてアリール-アルキレン-アリール結合を生成し得ることは本願出願時において知られていたということができない(鈴木カップリングに関する技術常識として、例えば、Chem. Commun., 2005, p.4759-4763及びChem. Rev., 1995, 95, p.2457-2483 参照。)。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明に合成例1の(1-4)、合成例2の(2-4)及び合成例3の(3-3)として鈴木カップリング反応を用いる製造方法が記載されているとしても、同様の製造方法により本願補正発明の縮合環化合物の前駆体である[(2-ニトロフェニル)アルキレン]アリール構造を有する化合物の製造方法が、明細書及び図面の記載及び当業者の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造することができるとはいえない。

(イ-2) 合成例1の(1-5)、合成例2の(2-5)及び合成例3の(3-4)に記載された反応は、何れもCadogan反応の手法を用いて、PPh_(3)の存在下、2-ニトロビフェニル型の化合物を反応させてカルバゾール型の縮合環化合物を製造する方法であるが、Cadogan反応を用いて、PPh_(3)の存在下、[(2-ニトロフェニル)アルキレン]アリール構造を有する化合物を反応させてCadogan反応型の縮合環化合物を生成し得ることは本願出願時において知られていたということができない(Cadogan反応に関する技術常識として、例えば、J. Org. Chem., 2005, Vol.70, p.5014-5019 及びARKIVOC, Vol.2010, Part (i), p. 390 - 449 参照。)。
実際、REGISTRY(STN)、CAPLUS(STN)及びCASREACT(STN)を用いて先行技術文献を調査してみても、[(2-ニトロフェニル)アルキレン]アリール構造を有する化合物を用いてCadogan反応型の縮合環化合物を製造する方法に関する文献を見いだすことはできない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明に合成例1の(1-5)、合成例2の(2-5)及び合成例3の(3-4)としてCadogan反応を用いる製造方法が記載されているとしても、同様の製造方法により本願補正発明のCadogan反応型の縮合環構造を有する化合物の製造方法が、明細書及び図面の記載及び当業者の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造することができるとはいえない。

(イ-3) 以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願出願時の技術常識を参酌しても、補正後の請求項12に係る化合物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

オ 独立特許要件のまとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たすように記載されているとは認められないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、本願の請求項1?15に係る発明は、平成25年4月1日付けの手続補正により補正された明細書(当該明細書の発明の詳細な説明の記載内容は、本願補正明細書における発明の詳細な説明の記載内容と同じ。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項12に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「下記化学式2a-2?化学式2b-2のうち、いずれか1つで表示されることを特徴とする、請求項1に記載の縮合環化合物。
【化8】

・・・(化学式2a-2)
【化9】

・・・(化学式2b-2)

前記化学式2a-2?化学式2b-2において、
A_(1)及びA_(2)は、互いに独立して、-[C(Q_(1))(Q_(2))]_(q)-で表示される2価連結基であり、
前記Q_(1)及びQ_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基からなる群より選択され、
前記qは、1?3の整数であり、
R_(1)及びR_(2)は、互いに独立して、水素、重水素、置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基、及び置換または非置換のC_(6)-C_(16)アリール基からなる群より選択され、
Z_(1)?Z_(8)及びZ_(11)?Z_(18)は、互いに独立して、水素、重水素、及び置換または非置換のC_(1)-C_(10)アルキル基、フェニル基、及びナフチル基からなる群より選択され、かつ、Z_(1)?Z_(8)のうち少なくとも1つはフェニル基またはナフチル基である。」

第4 原査定の理由
平成25年5月1日付けの原査定には、「この出願については、平成24年12月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2及び6によって、拒絶をすべきものです。」と記載され、平成24年12月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由1には「1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」と記載されている。
そして、平成25年5月1日付けの原査定の備考欄には以下の記載がある。
「本願請求項1?15に係る発明のうち、明細書で実際に製造され有機発光素子材料としての有用性が確認されているのは請求項11記載の化合物において、Z1及びZ2がフェニルあるいはナフチルであり、R1及びR2がアルキル基、Z3?Z8及びZ11?18が水素原子である特定骨格の化合物についてのみである。
一方、請求項1?15に係る発明は、上記特定骨格の化合物と縮合環構造の骨格が異なるもの、及びZ3?Z8及びZ11?18のようなZ1及びZ2以外の基がフェニルあるいはナフチルである化合物等、上記特定骨格の化合物と構造の大きく異なる化合物を包含するものであるが、このような化合物は、化学合成についての出願時の技術常識を参酌しても、上記具体的に製造が開示された化合物と同様の方法では製造できず、明細書に、これらの骨格を合成する方法やこれらの基を導入する一般的な製法が説明されるものでもない。
そして、有機発光素子材料の技術分野において、化合物の構造が異なれば、その物性が異なることが一般的な技術常識であり、請求項に記載の種々の置換基を有する化合物が、発明の詳細な説明に開示された上記特定骨格の化合物と、同様の作用を有するとする技術常識が、出願時に存在したとも認められない。
よって、請求項1?15に係る発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
以上から、依然として、本願は特許法第36条第4項第1号及び第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

第5 当審の判断
1 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、第2 2(3)ウに示したとおりの記載がある。

2 検討
本願補正発明は、本願発明の「R_(1)及びR_(2)」から「置換または非置換のC_(6)-C_(16)アリール基」を削除したものに相当するから、本願発明の発明特定事項を限定して特定したものである。
そして、上記第2 2(3)エで検討したように、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすように記載されているとは認められないから、同様の理由で、本願補正発明を包含する本願発明についても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすように記載されているとは認められない。
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-28 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2010-179608(P2010-179608)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
P 1 8・ 575- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 明子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 木村 敏康
唐木 以知良
発明の名称 縮合環化合物及び有機発光素子  
代理人 アイ・ピー・ディー国際特許業務法人  

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