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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
管理番号 1302828
審判番号 不服2013-19780  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-10 
確定日 2015-07-08 
事件の表示 特願2008-505622「結合された超伝導性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日国際公開,WO2006/110637,平成20年10月30日国内公表,特表2008-538648〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2006年4月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年4月8日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成25年6月5日付けで拒絶査定がなされ,同年10月10日に拒絶査定不服審判が請求され,平成26年9月3日付けで,当審において,最後の拒絶の理由を通知し,同年12月25日に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年12月25日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成26年12月25日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1-24を補正して,補正後の請求項1-18とするものであって,補正前後の請求項1は各々次のとおりである。

<補正前>
「【請求項1】
超伝導性物品であって,以下のものよりなる:
第1の基板,該第1の基板の上に横たわる第1のバッファ層,前記第1のバッファ層の上に横たわる第1の超伝導層,及び前記第1の超伝導層の上に横たわる第1の安定化層を含む,名目厚さt_(n1)を持つ,かつ,薄い厚みの第1のセグメント端部を持つ第1の超伝導性セグメント;
第2の基板,該第2の基板の上に横たわる第2のバッファ層,前記第2のバッファ層の上に横たわる第2の超伝導層,及び前記第2の超伝導層の上に横たわる第2の安定化層を含む,名目厚さt_(n2)を持つ,かつ薄い厚みの第2のセグメント端部を持つ第2の超伝導性セグメント;および
前記第1の超伝導性セグメントと,前記第2の超伝導性セグメントとを結合するスプライスよりなる接合領域であって,該スプライスは,第3の超伝導層および第3の基板または前記第3の超伝導層の上に横たわる第3の安定化層よりなり,前記スプライスは,前記第1及び第2の超伝導性セグメントの前記接合領域に沿う前記第1及び第2のセグメント端部の上に横たわるものであり,該接合領域は,1.8t_(n1)と1.8t_(n2)の少なくとも1つより大きくない厚みt_(jr)を持つ。」

<補正後>
「【請求項1】
超伝導性物品であって,以下のものよりなる:
第1の基板,該第1の基板の上に横たわる第1のバッファ層,前記第1のバッファ層の上に横たわる厚さが1?30ミクロンの第1の超伝導性層,及び前記第1の超伝導性層の上に横たわる第1の安定化層を含む,名目厚さt_(n1)を持つ,かつ,名目厚さt_(n1)より薄い厚みの第1のセグメント端部を持つ第1の超伝導性セグメント;
第2の基板,該第2の基板の上に横たわる第2のバッファ層,前記第2のバッファ層の上に横たわる厚さが1?30ミクロンの第2の超伝導性層,及び前記第2の超伝導性層の上に横たわる第2の安定化層を含む,名目厚さt_(n2)を持つ,かつ,名目厚さt_(n2)より薄い厚みの第2のセグメント端部を持つ第2の超伝導性セグメント;および
前記第1の超伝導性セグメントと,前記第2の超伝導性セグメントとを結合するスプライスよりなる接合領域であって,該スプライスは,厚さが1?30ミクロンの第3の超伝導性層および第3の基板または前記第3の超伝導性層の上に横たわる第3の安定化層を含み,前記スプライスは,前記第1及び第2の超伝導性セグメントの前記接合領域に沿う前記第1及び第2のセグメント端部の上に横たわるものであり,該接合領域は,1.8t_(n1)と1.8t_(n2)の少なくとも1つより大きくない厚みt_(jr)を持つ。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項2,3,17-20を削除すること。

(2)補正事項2
前記補正事項1に伴い,請求項の番号を整理するとともに,補正前の請求項1,請求項9,請求項15,請求項16,及び請求項21の「超伝導層」の記載を補正して,補正後の請求項1,請求項7,請求項13,請求項14,及び請求項15の「超伝導性層」とすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項1,請求項15,請求項16,及び,請求項21の「第1の」,「第2の」,及び,「第3の」を補正して,補正後の請求項1,請求項13,請求項14,及び,請求項15の「厚さが1?30ミクロンの第1の」,「厚さが1?30ミクロンの第2の」,及び,「厚さが1?30ミクロンの第3の」とすること。

(4)補正事項4
補正前の請求項1の「薄い厚みの第1のセグメント端部」,「薄い厚みの第2のセグメント端部」,「第3の安定化層よりなり」,請求項15の「第3の安定化層よりなり」,及び,請求項21の「第3の安定化層よりなり」を補正して,補正後の請求項1の「名目厚さt_(n1)より薄い厚みの第1のセグメント端部」,「名目厚さt_(n2)より薄い厚みの第2のセグメント端部」,「第3の安定化層を含み」,請求項13の「第3の安定化層を含み」,及び,請求項15の「第3の安定化層を含み」とすること。

(5)補正事項5
補正前の請求項16の「持ち,ここで,前記第1および第2のセグメント端部は,接合領域で互いに接合されており,該接合領域は,1.8t_(n1)および1.8t_(n2)の少なくとも1つより大きくない厚さt_(jr)を持つ。」を補正して,補正後の請求項14の「持つ;
前記第1の超伝導性セグメントが持つ第1のセグメント端部および前記第2の超伝導性セグメントが持つ第2のセグメント端部は,接合領域で互いに接合されており,該接合領域は,1.8t_(n1)および1.8t_(n2)の少なくとも1つより大きくない厚さt_(jr)を持つ;および
該接合領域は,前記第1のセグメント端部を持つ第1の超伝導性セグメントと,前記第2のセグメント端部を持つ第2の超伝導性セグメントとを結合するスプライスよりなり,前記スプライスは,厚さが1?30ミクロンの第3の超伝導性層および第3の基板または前記第3の超伝導性層の上に横たわる第3の安定化層を含み,前記スプライスは,前記第1および第2のセグメント端部の上に横たわるものである。」とすること。

3 新規事項追加の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1-5について
補正事項1-5により補正された部分は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲(以下「当初明細書等」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから,補正事項1-5は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって,補正事項1-5は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下「特許法第17条の2」という。)第3項に規定する要件を満たす。
また,補正事項3,及び,5は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして,補正事項1-2,4は,特許法第17条の2第4項第1号及び第4号に掲げる,請求項の削除,及び,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項1-5は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。

(2)新規事項追加の有無,及び,補正の目的の適否についてのむすび
以上検討したとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項,及び,第4項に規定する要件を満たす。

4 独立特許要件についての検討
本件補正は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むから,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定によって,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることを要する。
そこで,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,請求項1に係る発明について,更に検討を行う。

(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,本件補正により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
以下,再掲する。

「【請求項1】
超伝導性物品であって,以下のものよりなる:
第1の基板,該第1の基板の上に横たわる第1のバッファ層,前記第1のバッファ層の上に横たわる厚さが1?30ミクロンの第1の超伝導性層,及び前記第1の超伝導性層の上に横たわる第1の安定化層を含む,名目厚さt_(n1)を持つ,かつ,名目厚さt_(n1)より薄い厚みの第1のセグメント端部を持つ第1の超伝導性セグメント;
第2の基板,該第2の基板の上に横たわる第2のバッファ層,前記第2のバッファ層の上に横たわる厚さが1?30ミクロンの第2の超伝導性層,及び前記第2の超伝導性層の上に横たわる第2の安定化層を含む,名目厚さt_(n2)を持つ,かつ,名目厚さt_(n2)より薄い厚みの第2のセグメント端部を持つ第2の超伝導性セグメント;および
前記第1の超伝導性セグメントと,前記第2の超伝導性セグメントとを結合するスプライスよりなる接合領域であって,該スプライスは,厚さが1?30ミクロンの第3の超伝導性層および第3の基板または前記第3の超伝導性層の上に横たわる第3の安定化層を含み,前記スプライスは,前記第1及び第2の超伝導性セグメントの前記接合領域に沿う前記第1及び第2のセグメント端部の上に横たわるものであり,該接合領域は,1.8t_(n1)と1.8t_(n2)の少なくとも1つより大きくない厚みt_(jr)を持つ。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
拒絶査定の理由で引用した,本願の優先権の主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用例1及び引用例2には,図面とともに次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:特開平7-73758号公報
(1a)「【請求項1】テープ状の基材上に中間層を介して酸化物超電導層が形成され,この酸化物超電導層上に良導電性の安定化金属層が形成されるとともに,前記基材と中間層を合わせた部分の厚さと,前記安定化金属層の厚さが,同等にされてなることを特徴とする安定化金属層を備えた酸化物超電導導体の構造。」

(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,安定化金属層を備えた酸化物超電導導体の製造方法に関するもので,この種の酸化物超電導導体は,超電導マグネット,超電導発電機,エネルギー貯蔵,電力輸送などへの応用開発が進められているものである。」

(1c)「【0017】本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり,超電導テープを曲げ加工した場合の臨界電流密度の低下割合を少なくすることができ,臨界電流密度を高くできる構造を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は前記課題を解決するために,テープ状の基材上に中間層を介して酸化物超電導層を形成し,この酸化物超電導層上に良導電性の安定化金属層を形成するとともに,前記基材と中間層を合わせた部分の厚さと,前記安定化金属層の厚さを同等の厚さに形成してなるものである。」

(1d)「【0037】
【実施例】
(実施例1)
ハステロイC-276からなる金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm)を用い,この金属テープ基材上に,拡散バリアとしての厚さ0.5μmのYSZの中間層をRFスパッタ法により形成した。中間層を形成するには,2×10^(-3)Torrに減圧した真空チャンバの内部で金属テープ基材を0.2m/時間の割合で移動させて室温にて30ccMのArガスを導入し,250WのRFパワーで成膜する方法を行なった。次に,エキシマレーザをターゲットに照射するレーザ蒸着法を用いて中間層上にY_(1)Ba_(2)Cu_(3)O_(7-x)なる組成の酸化部超電導層を形成した。この際のターゲット組成とレーザ蒸着条件は,以下の表1の通りである。
(以下,余白)
【0038】
【表1】
(・・・省略・・・)
【0039】真空チャンバの内部で中間層付きの金属テープ基材を0.2m/時間の割合で移動させて表1の条件でレーザ蒸着を行ない,厚さ1.0μmの酸化物超電導層を形成した。次に,スパッタリングにより前記の酸化物超電導層上に厚さ約0.1mmの銀の安定化金属層を形成した。次いで全体を酸素雰囲気中において500℃で2時間加熱し,安定化金属層と酸化物超電導層の界面抵抗を低減するとともに,酸化物超電導層に安定化金属層を介して酸素を供給するための熱処理を施した。」

(1e)図1は,引用例1に記載された発明の第1実施例の断面図であって,上記摘記(1d)の記載を参酌すれば,同図から,基材1,該基材1の上に横たわる中間層2,前記中間層2の上に横たわる酸化物超電導層3,及び,前記酸化物超電導層3の上に横たわる安定化金属層4を持つ酸化物超電導導体の構造を見て取ることができる。

イ 引用発明
引用例1の上記摘記(1a)-(1e)の記載から,引用例1には,引用例1の特許請求の範囲に記載された発明の「実施例1」として,以下に示す発明(以下「引用発明」という。)が開示されていることが認められる。
「金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm),該金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの中間層,前記中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの酸化物超電導層,及び前記酸化物超電導層の上に横たわる,厚さ約0.1mmの銀の安定化金属層を持つ酸化物超電導導体。」

ウ 引用例2:特開平6-5342号公報
(2a)「【請求項1】金属被覆された酸化物超電導体よりなるテープ状超電導線同士を接合するための方法であって,テープ状超電導線の接合すべき部分において,形成される金属被覆の端面が前記超電導線の幅方向に対して所定の角度で傾斜するように金属被覆を剥離して酸化物超電導体を露出するステップと,
露出した酸化物超電導体間に別体として準備される酸化物超電導体を介在させて接合するステップとを備える,超電導線の接合方法。」

(2b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,酸化物高温超電導材料を用いた超電導線の接合方法に関する。」

(2c)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】酸化物高温超電導材料について線材を開発するにあたり,長尺で安定した特性を有する線を得る必要があるばかりでなく,大電流を確保できる状態で,超電導線の接合部を形成する接合技術が重要となる。特に,コイルの用途においては,永久電流接合が必要となる。
【0005】このような接合技術において,接合部での臨界電流の低下をいかに少なくするかが,大きな課題となっている。それゆえに,本発明の目的は,酸化物超電導線の接合において,接合による臨界電流の低減を効果的に抑制し得る方法を提供することにある。」

(2d)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に従って,金属被覆された酸化物超電導体よりなるテープ状超電導線同士を接合するための方法が提供される。
【0007】第1の発明に従う超電導線の接合方法は,テープ状超電導線の接合すべき部分において,形成される金属被覆の端面が超電導線の幅方向に対して所定の角度で傾斜するように金属被覆を剥離して酸化物超電導体を露出するステップと,露出した酸化物超電導体間に別体として準備される酸化物超電導体を介在させて接合するステップとを備える。
【0008】第1の発明において,テープ状超電導線の接合すべき端面は,超電導線の幅方向と平行なままにしておいてもよいし,幅方向に対して所定の角度で傾斜するように加工することもできる。
【0009】超電導線の端面が,その幅方向に対して所定の角度で傾斜している場合,金属被覆の剥離により形成される金属被覆の端面が,傾斜する超電導線の端面と平行となるか,または対称な角度で傾斜するように超電導体を露出させることができる。
【0010】第1の発明において,金属被覆は,接合しようとする線材の幅の2倍以上30倍以下の長さにわたって剥離されることが望ましい。このような長さにわたる剥離により露出する酸化物超電導体を介在物を用いて接合することで,安定した接合を達成することができる。」

(2e)「【0013】第1の発明において,接合のために別体として準備される酸化物超電導体は,接合すべき超電導線の酸化物超電導体と同じ組成のものであることが望ましい。接合すべき酸化物超電導体間に介在させる酸化物超電導体は,任意の形状で準備できるが,たとえば,接合のため超電導線を所定の位置関係に配置した際,露出された超電導体の形状と一致するよう準備することがより好ましい。このような場合,別体として準備される酸化物超電導体は,接合すべき超電導線において超電導体が露出された部分に嵌合させることができる。」

(2f)「【0018】 第1?第3の発明に従う方法は,酸化物超電導体が金属で被覆されることにより形成されたテープ状線材を接合するため適用される。このテープ状線材において,被覆金属は,高温超電導体と反応せず,容易に加工できるものが好ましい。さらに,金属は安定化材として機能するような比抵抗の小さなものがよい。このような金属として,銀または銀合金が好ましく用いられる。」

(2g)「【0023】
【発明の作用効果】
本発明者らによる研究の結果,酸化物超電導体が金属被覆された超電導線について,金属被覆を剥がすことにより超電導体を露出させ,この露出部分を介して接合を行なう場合,金属を剥離する際に形成される金属被覆の端面と超電導体との境界部分が,接合部の臨界電流値を律則していることが明らかになってきた。たとえば,図1に示すように,接合にあたってテープ状の超電導線10の銀被覆1を剥がして超電導体2を露出させた場合,形成される制御被覆の端面1′と超電導体2との境界領域3が,接合部の臨界電流を律則するようになる。
【0024】そこで,本発明者らは,種々の検討を行なった結果,たとえば図2に示すように,金属被覆11を剥離するに際して,形成される金属被覆の端面11′が線材の幅方向(図において矢印で示す)に対して所定の角度を持つように傾斜させることで,金属被覆の端面11′と超電導体12との境界面積を広げることにより,臨界電流値を向上できることを見いだした。
【0025】さらに,本発明者らは,上述したように臨界電流値を律則する部分の超電導体組織を,塑性加工時になるべく破壊せずに接合するには,露出した超電導体間に同種の超電導体からなる介在物を設けて接合することが有効であることを研究の過程で確認した。また,介在物の使用によって,接合部の超電導体の容積を意図的に制御することも可能となった。
【0026】介在物である超電導体の容積を増加させれば,簡便に接合部での臨界電流値を上げ,超電導接合の信頼性を向上させることができる。
【0027】本発明者らは,金属被覆の端面が線材の幅方向に対して所定の角度で傾斜するように金属被覆を剥離するステップと,接合すべき線材において露出した超電導体間に同種の超電導体からなる介在物を設けて接合を行なうステップとを組合せて線材の接合を行なうことにより,接合部分での臨界電流値の低減がほとんどない永久電流接合を実現した。
【0028】この方法により,酸化物超電導体同士が接合された接合部を形成することができるので,接合部に超電導電流を流すことが可能になり,コイルの永久電流接合や大電流導体の接合が可能になる。特に,永久電流モードのマグネット用線材として用いられる金属被覆された超電導テープ線材を接合する場合,第1の発明は非常に有効である。
【0029】また,介在物を用いることで,第1の発明は,超電導線同士を直接接合することが困難な場合や,種々の位置関係において超電導線同士を接合したい場合に適用できる。たとえば,図3(a)に示すように,線材同士を所定の角度(たとえば90°)で接合したい場合,図3(b)に示すように,電路が折り返されるように線材同士を接合したい場合,さらには図3(c)に示すように,限られた空間内で複数の線材同士を同時に接合したい場合などにおいて,介在物を用いる接合は非常に有効である。」

(2h)「【0032】このため,極端な例ではあるが,未焼結線の段階で短い線材同士をつなぎ合わせた後,塑性加工および焼結を複数回繰返すことによって,臨界電流の大きな長尺線材を得ることができる。ただし,この場合,線材の金属被覆について加工度を増し,接合を容易にするために,接合前に接合を行なうべき線材を焼鈍処理することが望ましい。
【0033】このようなプロセスにより,良好な特性を有するが,所定の長さに満たない線材をつなぎ合わせて,短い線材の特性を維持した長尺線を作製することも可能である。このようにして作製された線材は,長尺ケーブルなどに利用できる。」

(2i)「【0037】
【実施例】
実施例1
Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.4:2.0:2.2:3.0の組成となるように,酸化物または炭酸塩を混合した後,熱処理により主として2212相と非超電導相からなる粉末を調製した。次に,得られた粉末について大気中800℃,2時間の脱ガス処理を施した。
【0038】得られた粉末を,外形12mm,内径9mmの銀パイプに充填し,これを1.0mmまで伸線加工した後,幅4.0mm,厚さ0.19mmまで圧延加工した。このようにして得られた線材を750℃,2時間焼鈍した。
【0039】得られた線材から,3cmの短尺材を2本切出し,それぞれの端部について図2に示すように銀被覆の一方側を剥がした。この場合,8.0mmの長さにわたり形成される銀被覆の端面が,線材の幅方向に対して斜めになるように銀被覆を剥がしていった。
【0040】次に,図4に示すように,銀被覆を剥がした2本の超電導線20および20′を,露出させた超電導体が平行四辺形を形成するように並べて配置した。一方,この平行四辺形の領域に正確に嵌合するような材料を上述したように形成してきたテープ状の線材から切出した後,片側の銀被覆を除去して接合材を予め準備した。
【0041】このようにして準備された接合材4を,図4に示すようにして,超電導線の超電導体が露出された部分に嵌合させ,超電導線20,20′と,接合材4との間で超電導体同士を密着させた。」

(2j)「【0045】実施例2
実施例1と同様の方法で作製した銀シース被覆超電導線から5cmの短尺線を2本切出した。次に,実施例1と同様にして,銀被覆の端面が超電導線の幅方向と斜めになるよう銀被覆を剥がして超電導体を露出させた。
【0046】次に,図5に示すように,超電導体を露出させた2本の超電導線30と30′について端と端を突き合わせて配置した。
【0047】一方,このように超電導線を配置した場合に露出された超電導体によって形成される二等辺三角形の領域にうまく嵌合するような接合材14を予め形成した。このような接合材14は,実施例1と同様の方法で作製された線材を適当な形状で切出した後,片面の銀被覆を除去して得られたものである。
【0048】このような接合材14を超電導線30,30′において超電導体32,32′が露出させられた部分に嵌合させ,超電導体同士を密着させた。」

(2k)「【0050】実施例3
実施例1と同様の方法で作製した銀シース被覆線材から6cmの短尺線を2本切出した。次に,切出した線材について,図6(a)に示すような端末処理を施した。端末処理を施した超電導線40において,その端面40′は線材の幅方向に対して所定の角度で傾斜するように加工されている。また,銀被覆41も,その端面41′が線材の幅方向に対して所定の傾斜角度を有するように剥がされている。この場合,銀被覆の端面41′の長さは15mmとされ,線材の端面40′の長さも15mmとされている。したがって,露出された超電導体42の領域は二等辺三角形となっている。
【0051】
次に,図6(b)に示すように,2本の超電導線40,40′について端面と端面を突き合わせて配置した。このような配置において,露出された超電導体42,42′は平行四辺形を形成するようになる。一方,このような平行四辺形の形状を有する接合材44を予め準備した。このような接合材44は,実施例1と同様の方法で作製した線材を切出した後,片側の銀被覆を除去して得られたものである。このような接合材44は,超電導線40,40′において露出された酸化物超電導体に密着させられた。」

(2l)「【0053】実施例4
Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.4:2.0:2.2:3.0の組成となるように:酸化物または炭酸塩を混合した後,熱処理により主として2212相と非超電導相からなる粉末を調製した。得られた粉末について大気中800℃,2時間の脱ガス処理を施した。
【0054】得られた粉末を外形12mm,内径9mmの銀パイプに充填し,これを1.0mmまで伸線加工した後,幅4.0mm,厚さ0.19mmまで圧延加工した。その後,線材を845℃,50時間焼結した。
【0055】得られた線材から,3cmの短尺材を2本切出した後,実施例1と同様にそれぞれの端末を処理した。この場合,線材の幅方向に対して斜めになった金属被覆の端面の長さは8.0mmであった。
【0056】次に,図7に示すように,超電導線50と50′を突き合わせて配置し,露出された超電導体52および52′を完全に覆うような接合材54を密着させた。この接合材54は,この実施例において作製された線材を短冊状に切出した後,片側の銀被覆を除去して得られたものである。」

(3)本願補正発明1の進歩性についての検討
ア 本願補正発明1と引用発明との対比
(ア)引用発明の「金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm)」,「厚さ0.5μmのYSZの中間層」,「厚さ1.0μmの酸化物超電導層」,及び,「厚さ約0.1mmの銀の安定化金属層」は,それぞれ本願補正発明1の「基板」,「バッファ層」,「1?30ミクロンの超伝導性層」,及び,「安定化層」に相当する。

(イ)引用発明の「酸化物超電導導体」は,本願補正発明1の「超伝導性物品」に相当し,かつ,本願補正発明1の「超伝導性セグメント」に相当するとも認められる。

(ウ)引用発明の「酸化物超電導導体」は,「金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm)」を用いて作製されているのであるから,端部があることは明らかである。
また,引用発明の「酸化物超電導導体」の厚さは,当該「酸化物超電導導体」を構成する「金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm)」,「厚さ0.5μmのYSZの中間層」,「厚さ1.0μmの酸化物超電導層」,及び,「厚さ約0.1mmの銀の安定化金属層」の各層の厚さを合計したものであるところ,当該厚さは,0.1mm+0.5μm+1.0μm+約0.1mm=約0.2mmと解され,これは,本願補正発明1の,「名目厚さ」に相当するものと認められる。

(エ)したがって,上記(ア)-(ウ)の対応関係から,本願補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「超伝導性物品であって,以下のものよりなる:
第1の基板,該第1の基板の上に横たわる第1のバッファ層,前記第1のバッファ層の上に横たわる厚さが1ミクロンの第1の超伝導性層,及び前記第1の超伝導性層の上に横たわる第1の安定化層を含む,名目厚さt_(n1)を持つ,かつ,第1のセグメント端部を持つ第1の超伝導性セグメント。」

<相違点>
・相違点1:本願補正発明1では,第1のセグメント端部が,「名目厚さt_(n1)より薄い厚み」を持ち,かつ,超伝導性物品が,「第2の基板,該第2の基板の上に横たわる第2のバッファ層,前記第2のバッファ層の上に横たわる厚さが1?30ミクロンの第2の超伝導性層,及び前記第2の超伝導性層の上に横たわる第2の安定化層を含む,名目厚さt_(n2)を持つ,かつ,名目厚さt_(n2)より薄い厚みの第2のセグメント端部を持つ第2の超伝導性セグメント;および
前記第1の超伝導性セグメントと,前記第2の超伝導性セグメントとを結合するスプライスよりなる接合領域であって,該スプライスは,厚さが1?30ミクロンの第3の超伝導性層および第3の基板または前記第3の超伝導性層の上に横たわる第3の安定化層を含み,前記スプライスは,前記第1及び第2の超伝導性セグメントの前記接合領域に沿う前記第1及び第2のセグメント端部の上に横たわるものであり,該接合領域は,1.8t_(n1)と1.8t_(n2)の少なくとも1つより大きくない厚みt_(jr)を持つ」のに対して,引用発明では,このような構成が特定されていない点。

イ 本願補正発明1と引用発明との相違点についての判断
・相違点1について
(ア)引用例1の上記摘記(1b)に,「【産業上の利用分野】この発明は,安定化金属層を備えた酸化物超電導導体の製造方法に関するもので,この種の酸化物超電導導体は,超電導マグネット,超電導発電機,エネルギー貯蔵,電力輸送などへの応用開発が進められているものである。」と記載されていることから,引用発明の酸化物超電導導体は,超電導マグネット,超電導発電機,エネルギー貯蔵,電力輸送などで用いることを想定しているものといえる。
そして,引用発明は,「金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm)」を用いるものである。そうすると,前記「長さ1000mm」という長さでは,超電導マグネット,超電導発電機,エネルギー貯蔵,電力輸送などで用いるには,十分な長さといえない場合があることは明らかであり,仮に,前記金属テープ基材として,長さ1000mmより長尺の材料を用いたとしても,超電導マグネット,超電導発電機,エネルギー貯蔵,電力輸送などで用いる際に,必要とされる長さを備えていない場合があり得ることも,当業者であれば理解することである。

(イ)一方,引用例2には,「超電導線の接合方法」に係る発明が開示されているところ,引用例2の上記摘記(2c),(2g)及び(2h)には,「【発明が解決しようとする課題】酸化物高温超電導材料について線材を開発するにあたり,長尺で安定した特性を有する線を得る必要があるばかりでなく,大電流を確保できる状態で,超電導線の接合部を形成する接合技術が重要となる。特に,コイルの用途においては,永久電流接合が必要となる。」,「【0029】また,介在物を用いることで,第1の発明は,超電導線同士を直接接合することが困難な場合や,種々の位置関係において超電導線同士を接合したい場合に適用できる。」,及び,「【0033】このようなプロセスにより,良好な特性を有するが,所定の長さに満たない線材をつなぎ合わせて,短い線材の特性を維持した長尺線を作製することも可能である。このようにして作製された線材は,長尺ケーブルなどに利用できる。」と記載されている。
そうすると,超電導線を接合して,酸化物高温超電導材料からなる,長尺な線材を得ることは,周知の技術的課題であったといえる。

(ウ)そして,引用例2の上記摘記(2a)の「テープ状超電導線同士を接合するための方法」との記載から,引用例2に記載された発明が,テープ状超電導線同士の接合に適用されるものであることが明らかであるところ,引用発明は,「金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm)」を含む酸化物超電導導体であり,テープ状超電導線ということができるから,当業者が,引用発明の酸化物超電導導体同士の接合に,引用例2に記載された発明を適用しようと思い至ることは自然なことといえる。
他方,引用例1の上記摘記(1c)の「【0017】本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり,超電導テープを曲げ加工した場合の臨界電流密度の低下割合を少なくすることができ,臨界電流密度を高くできる構造を提供することを目的とする。」との記載から,引用発明においては,臨界電流密度を高く保つことが課題とされていることが理解できるところ,引用例2の上記摘記(2c)の「本発明の目的は,酸化物超電導線の接合において,接合による臨界電流の低減を効果的に抑制し得る方法を提供することにある。」との記載から,引用例2に記載された発明もまた,臨界電流の低減を抑制することを課題としているということができ,両者の解決しようとする課題は互いに相反するものとはいえないから,引用発明に引用例2に記載された発明を適用することを阻害する格別の事情を見いだすこともできない。
そうすると,酸化物超電導導体に係る引用発明において,引用例2に記載された「超電導線の接合方法」を適用することには,十分な動機が存在するものと認められる。

(エ)そこで,引用発明への,引用例2に記載された「超電導線の接合方法」に係る発明の適用を検討すると,引用例2の上記摘記(2a)には,「【請求項1】金属被覆された酸化物超電導体よりなるテープ状超電導線同士を接合するための方法であって,テープ状超電導線の接合すべき部分において,形成される金属被覆の端面が前記超電導線の幅方向に対して所定の角度で傾斜するように金属被覆を剥離して酸化物超電導体を露出するステップと,
露出した酸化物超電導体間に別体として準備される酸化物超電導体を介在させて接合するステップとを備える,超電導線の接合方法。」とする発明が記載されている。
一方,引用発明は,「金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm),該金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの中間層,前記中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの酸化物超電導層,及び前記酸化物超電導層の上に横たわる,厚さ約0.1mmの銀の安定化金属層を持つ酸化物超電導導体。」というものである。
そうすると,引用発明の「厚さ約0.1mmの銀の安定化金属層」,「厚さ1.0μmの酸化物超電導層」,及び,「酸化物超電導導体」は,それぞれ,引用例2の請求項1に記載された発明の「金属被覆」,「酸化物超電導体」,及び,「テープ状超電導線」に相当するものと認められる。
してみれば,引用発明に,引用例2に記載された「超電導線の接合方法」に係る発明を適用することにより,以下の超伝導性物品を得ることは容易になし得たことと認められる。

「超伝導性物品であって,以下の接合方法によって作製されたものよりなる:
第1の金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm),該第1の金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの第1の中間層,前記第1の中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの第1の酸化物超電導層,及び前記第1の酸化物超電導層の上に横たわる,厚さ約0.1mmの銀の第1の安定化金属層を持つ第1の酸化物超電導導体と,
第2の金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm),該第2の金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの第2の中間層,前記第2の中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの第2の酸化物超電導層,及び前記第2の酸化物超電導層の上に横たわる,厚さ約0.1mmの銀の第2の安定化金属層を持つ第2の酸化物超電導導体と,
を接合するための方法であって,
前記第1及び第2の酸化物超電導導体の接合すべき部分において,形成される前記第1及び第2の安定化金属層の端面が前記第1及び第2の酸化物超電導導体の幅方向に対して所定の角度で傾斜するように前記第1及び第2の安定化金属層を剥離して前記第1及び第2の酸化物超電導層を露出するステップと,
露出した前記第1及び第2の酸化物超電導層間に別体として準備される酸化物超電導体を介在させて接合するステップを備える,超電導線の接合方法。」

(オ)そして,引用例2の上記摘記(2e),(2g)及び,上記摘記(2i)-(2l)には,前記「別体として準備される酸化物超電導体」について,それぞれ次の記載がある。
「【0013】第1の発明において,接合のために別体として準備される酸化物超電導体は,接合すべき超電導線の酸化物超電導体と同じ組成のものであることが望ましい。」,
「【0025】さらに,本発明者らは,上述したように臨界電流値を律則する部分の超電導体組織を,塑性加工時になるべく破壊せずに接合するには,露出した超電導体間に同種の超電導体からなる介在物を設けて接合することが有効であることを研究の過程で確認した。また,介在物の使用によって,接合部の超電導体の容積を意図的に制御することも可能となった。
【0026】介在物である超電導体の容積を増加させれば,簡便に接合部での臨界電流値を上げ,超電導接合の信頼性を向上させることができる。」,
「【0039】得られた線材から,3cmの短尺材を2本切出し,それぞれの端部について図2に示すように銀被覆の一方側を剥がした。この場合,8.0mmの長さにわたり形成される銀被覆の端面が,線材の幅方向に対して斜めになるように銀被覆を剥がしていった。
【0040】次に,図4に示すように,銀被覆を剥がした2本の超電導線20および20′を,露出させた超電導体が平行四辺形を形成するように並べて配置した。一方,この平行四辺形の領域に正確に嵌合するような材料を上述したように形成してきたテープ状の線材から切出した後,片側の銀被覆を除去して接合材を予め準備した。
【0041】このようにして準備された接合材4を,図4に示すようにして,超電導線の超電導体が露出された部分に嵌合させ,超電導線20,20′と,接合材4との間で超電導体同士を密着させた。」,
「【0046】次に,図5に示すように,超電導体を露出させた2本の超電導線30と30′について端と端を突き合わせて配置した。
【0047】一方,このように超電導線を配置した場合に露出された超電導体によって形成される二等辺三角形の領域にうまく嵌合するような接合材14を予め形成した。このような接合材14は,実施例1と同様の方法で作製された線材を適当な形状で切出した後,片面の銀被覆を除去して得られたものである。
【0048】このような接合材14を超電導線30,30′において超電導体32,32′が露出させられた部分に嵌合させ,超電導体同士を密着させた。」,
「一方,このような平行四辺形の形状を有する接合材44を予め準備した。このような接合材44は,実施例1と同様の方法で作製した線材を切出した後,片側の銀被覆を除去して得られたものである。このような接合材44は,超電導線40,40′において露出された酸化物超電導体に密着させられた。」,
「【0056】次に,図7に示すように,超電導線50と50′を突き合わせて配置し,露出された超電導体52および52′を完全に覆うような接合材54を密着させた。この接合材54は,この実施例において作製された線材を短冊状に切出した後,片側の銀被覆を除去して得られたものである。」

(カ)すなわち,引用例2には,前記「別体として準備される酸化物超電導体」としては,接合すべき超電導線の酸化物超電導体と同じ組成のものであることが望ましく,具体的には,実施例1-4において,「接合すべきテープ状の線材と同様の方法で作製されたテープ状の線材から適当な形状で切出した後,片側の銀被覆を除去したもの」を,「別体として準備される酸化物超電導体」として用い,かつ,前記「接合すべきテープ状の線材と同様の方法で作製されたテープ状の線材から適当な形状で切出した後,片側の銀被覆を除去したもの」を,超電導線の超電導体が露出された部分に嵌合させ,超電導線と,前記「接合すべきテープ状の線材と同様の方法で作製されたテープ状の線材から適当な形状で切出した後,片側の銀被覆を除去したもの」との間で超電導体同士を密着させることが実施例として開示されていると認められる。

(キ)そうすると,引用発明に引用例2に記載された発明を適用して長尺の線材を得るにあたり,第1の酸化物超電導導体と,第2の酸化物超電導導体とを結合する,「別体として準備される酸化物超電導体」として,引用例2の実施例1-4に開示されるように,「接合すべきテープ状の線材と同様の方法で作製されたテープ状の線材から適当な形状で切出した後,片側の銀被覆を除去したもの」を用い,かつ,前記「接合すべきテープ状の線材と同様の方法で作製されたテープ状の線材から適当な形状で切出した後,片側の銀被覆を除去したもの」を,酸化物超電導導体の酸化物超電導層が露出された部分に嵌合させ,酸化物超電導導体と,前記「接合すべきテープ状の線材と同様の方法で作製されたテープ状の線材から適当な形状で切出した後,片側の銀被覆を除去したもの」との間で酸化物超電導層同士を密着させることは,引用例2の上記実施例の記載に接した当業者であれば直ちになし得たことといえる。

(ク)そして,引用発明において,「接合すべきテープ状の線材」は,「金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm),該金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの中間層,前記中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの酸化物超電導層,及び前記酸化物超電導層の上に横たわる,厚さ約0.1mmの銀の安定化金属層を持つ酸化物超電導導体」であるから,前記「別体として準備される酸化物超電導体」として用いる,「接合すべきテープ状の線材と同様の方法で作製されたテープ状の線材から適当な形状で切出した後,片側の銀被覆を除去したもの」が,「金属テープ基材(厚さ0.1mm),該金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの中間層,及び,前記中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの酸化物超電導層」からなる部材となることは明らかである。

(ケ)そうすると,結局,引用発明と引用例2に接した当業者であれば,引用発明の酸化物超電導導体を,引用例2に記載された「超電導線の接合方法」に係る発明を適用して接合することで,以下の超伝導性物品を得ることを容易になし得たといえる。

「超伝導性物品であって,以下の接合方法によって作製されたものよりなる:
第1の金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm),該第1の金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの第1の中間層,前記第1の中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの第1の酸化物超電導層,及び前記第1の酸化物超電導層の上に横たわる,厚さ約0.1mmの銀の第1の安定化金属層を持つ第1の酸化物超電導導体と,
第2の金属テープ基材(幅5mm,厚さ0.1mm,長さ1000mm),該第2の金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの第2の中間層,前記第2の中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの第2の酸化物超電導層,及び前記第2の酸化物超電導層の上に横たわる,厚さ約0.1mmの銀の第2の安定化金属層を持つ第2の酸化物超電導導体と,
を接合するための方法であって,
前記第1及び第2の酸化物超電導導体の接合すべき部分において,形成される前記第1及び第2の安定化金属層の端面が前記第1及び第2の酸化物超電導導体の幅方向に対して所定の角度で傾斜するように前記第1及び第2の安定化金属層を剥離して前記第1及び第2の酸化物超電導層を露出するステップと,
前記第1及び第2の酸化物超電導導体の,前記第1及び第2の酸化物超電導層が露出された部分に,第3の金属テープ基材(厚さ0.1mm),該第3の金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの第3の中間層,及び,前記第3の中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの第3の酸化物超電導層からなる部材を,前記第1及び第2の酸化物超電導層と,前記第3の酸化物超電導層とが密着するように勘合させて接合するステップを備える,接合方法。」

(コ)そこで,本願補正発明1と,引用発明に引用例2に記載された発明を適用することで容易に得られる上記超伝導性物品とを対比する。
まず,上記超伝導性物品において,「第1及び第2の酸化物超電導導体の接合すべき部分において,形成される前記第1及び第2の安定化金属層の端面が前記第1及び第2の酸化物超電導導体の幅方向に対して所定の角度で傾斜するように前記第1及び第2の安定化金属層を剥離して前記第1及び第2の酸化物超電導層を露出するステップ」によって,第1及び第2の酸化物超電導導体の端部の厚みが,第1及び第2の安定化金属層が剥離されていない位置の厚さ,すなわち,第1又は第2の酸化物超電導導体の厚みである,「名目厚さt_(n1)」及び「名目厚さt_(n2)」に比べて薄くなっていることは明らかである。
したがって,上記超伝導性物品において,第1及び第2の酸化物超電導導体の端部の厚みは,第1及び第2の酸化物超電導導体の名目厚さより薄いといえる。
また,本願補正発明1の「『厚さが1?30ミクロンの第3の超伝導性層および第3の基板または前記第3の超伝導性層の上に横たわる第3の安定化層を含』む『スプライス』」は,上記超伝導物品の「第3の金属テープ基材(厚さ0.1mm),該第3の金属テープ基材の上に横たわる,厚さ0.5μmのYSZの第3の中間層,及び,前記第3の中間層の上に横たわる厚さ1.0μmの第3の酸化物超電導層からなる部材」に相当するといえる。
そして,上記超伝導性物品の接合領域の厚みt_(jr)は,第1又は第2の金属テープ基材の厚さ0.1mm,厚さ0.5μmの第1又は第2の中間層,及び,厚さ1.0μmの第1又は第2の酸化物超電導層の合計厚さに,第3の金属テープ基材の厚さ0.1mm,厚さ0.5μmの第3の中間層,及び,厚さ1.0μmの第3の酸化物超電導層の合計厚さを加えた厚みである,0.203mmとなるところ,この厚みが,第1又は第2の酸化物超電導導体の厚みである,「名目厚さt_(n1)」及び「名目厚さt_(n2)」の約0.2mmの1.8倍よりも大きくない厚みであることは明らかである。さらに,当該「1.8」倍という値に臨界的な技術的意義も認められない。

(サ)そうすると,上記(ア)-(コ)に照らして,引用発明において,第1のセグメント端部が,「名目厚さt_(n1)より薄い厚み」を持ち,かつ,超伝導性物品が,「第2の基板,該第2の基板の上に横たわる第2のバッファ層,前記第2のバッファ層の上に横たわる厚さが1?30ミクロンの第2の超伝導性層,及び前記第2の超伝導性層の上に横たわる第2の安定化層を含む,名目厚さt_(n2)を持つ,かつ,名目厚さt_(n2)より薄い厚みの第2のセグメント端部を持つ第2の超伝導性セグメント;および
前記第1の超伝導性セグメントと,前記第2の超伝導性セグメントとを結合するスプライスよりなる接合領域であって,該スプライスは,厚さが1?30ミクロンの第3の超伝導性層および第3の基板または前記第3の超伝導性層の上に横たわる第3の安定化層を含み,前記スプライスは,前記第1及び第2の超伝導性セグメントの前記接合領域に沿う前記第1及び第2のセグメント端部の上に横たわるものであり,該接合領域は,1.8t_(n1)と1.8t_(n2)の少なくとも1つより大きくない厚みt_(jr)を持つ」こと,すなわち,相違点1について,本願補正発明1の発明特定事項を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。また,相違点1を,本願補正発明1において特定される事項としたことによる効果は,当業者が予測する範囲内のものといえる。

(4)むすび
相違点1については,以上のとおりであるから,本願補正発明1は,引用例1に記載された発明と引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年12月25日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-24に係る発明は,平成25年3月15日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-24に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
超伝導性物品であって,以下のものよりなる:
第1の基板,該第1の基板の上に横たわる第1のバッファ層,前記第1のバッファ層の上に横たわる第1の超伝導層,及び前記第1の超伝導層の上に横たわる第1の安定化層を含む,名目厚さt_(n1)を持つ,かつ,薄い厚みの第1のセグメント端部を持つ第1の超伝導性セグメント;
第2の基板,該第2の基板の上に横たわる第2のバッファ層,前記第2のバッファ層の上に横たわる第2の超伝導層,及び前記第2の超伝導層の上に横たわる第2の安定化層を含む,名目厚さt_(n2)を持つ,かつ薄い厚みの第2のセグメント端部を持つ第2の超伝導性セグメント;および
前記第1の超伝導性セグメントと,前記第2の超伝導性セグメントとを結合するスプライスよりなる接合領域であって,該スプライスは,第3の超伝導層および第3の基板または前記第3の超伝導層の上に横たわる第3の安定化層よりなり,前記スプライスは,前記第1及び第2の超伝導性セグメントの前記接合領域に沿う前記第1及び第2のセグメント端部の上に横たわるものであり,該接合領域は,1.8t_(n1)と1.8t_(n2)の少なくとも1つより大きくない厚みt_(jr)を持つ。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権の主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1及び引用例2に記載されている事項は,上記「第2 4 (2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明1を限定し,明りょうでない記載を釈明したものである本願補正発明1が,前記「第2 4 (3)本願補正発明1の進歩性についての検討」で判断したとおり,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと判断されるから,本願発明1も同様に,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-06 
結審通知日 2015-02-10 
審決日 2015-02-24 
出願番号 特願2008-505622(P2008-505622)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01B)
P 1 8・ 575- WZ (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷山 健  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 加藤 浩一
恩田 春香
発明の名称 結合された超伝導性物品  
代理人 渡邉 一平  

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