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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1302835
審判番号 不服2014-1129  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-22 
確定日 2015-07-08 
事件の表示 特願2010-537847「個別アドレッシングが可能な大面積のX線システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月25日国際公開、WO2009/078582、平成23年 3月10日国内公表、特表2011-508367〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年11月13日(優先権主張2007年12月17日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成24年12月25日に手続補正がなされたが、平成25年9月20日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成26年1月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年1月22日付けの手続補正の補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年1月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項に記載された発明
平成26年1月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、特許請求の範囲の減縮を目的として、以下のように補正された。
「多数のCNTエミッタが微細パターニングされた陰極部と、前記CNTエミッタから放出された電子を集束するゲート部とを含む電界放出部と;
前記電子放出部の上部に配置され、前記CNTエミッタから放出された電子を加速させて、電子の衝突によりX線を発生させる陽極部と;を備え
前記ゲート部及び前記陽極部は、大面積の単一基板よりなり、
前記陰極部は、薄膜トランジスタよりなり、
前記薄膜トランジスタに含まれた各トランジスタが前記多数のCNTエミッタに各々連結され、個別アドレッシング動作にしたがい、各トランジスタのゲートに印加するパルス電圧のみを調整することによって各CNTエミッタから所望量の電子を放出させ、前記各CNTエミッタに対応する各陽極部から同一のX線量が出力されるようにすることを特徴とする個別アドレッシングが可能な大面積のX線システム。」

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.引用刊行物
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2007-265981号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【0001】
本発明は、X線源を用いた医療機器や産業機器分野の非破壊X線撮影、診断応用等に使用するマルチX線発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線管球は電子源に熱電子源を用いたものであり、高温度に加熱したフィラメントから放出される熱電子をウエネルト電極、引出電極、加速電極、及びレンズ電極を通して、電子ビームを高エネルギに加速する。そして、所望の形状に電子ビームを成形した後に、金属から成るX線ターゲットに照射してX線を発生させている。
【0003】
近年、この熱電子源に代る電子源として冷陰極型電子源が開発され、フラットパネルディスプレイ(FPD)の応用として広く研究されている。冷陰極の代表的なものとして、数10nmの針の先端に高電界を掛けて電子を取り出すスピント(Spindt)型タイプの電子源が知られている。更に、カーボンナノチューブ(CNT)を材料とした電子放出エミッタや、ガラス基板の表面にnmオーダの微細構造を形成して、電子を放出する表面伝導型電子源がある。」
(1b)「【0012】
図1はマルチX線源本体10の構成図であり、真空室11内にはマルチ電子ビーム発生部12、透過型ターゲット13が配置されている。マルチ電子ビーム発生部12は、素子基板14と、その上に複数個のマルチ電子放出素子15が配列された素子アレイ16により構成され、電子放出素子15は駆動信号部17により駆動が制御されるようになっている。電子放出素子15から発生するマルチ電子ビームeを制御するために絶縁体18に固定されたレンズ電極19とアノード電極20が設けられ、これらの電極19、20に高電圧導入部21、22を介して高電圧が供給されている。
【0013】
発生したマルチ電子ビームeが衝突する透過型ターゲット13は、マルチ電子ビームeに対応して離散的に配置されている。更に、ターゲット13に重金属から成る真空内X線遮蔽板23が設けられ、この真空内X線遮蔽板23にX線取出部24が設けられ、その前方の真空室11の壁部25にはX線透過膜26を備えたX線取出窓27が設けられている。
【0014】
マルチ電子放出素子15から発生した電子ビームeは、レンズ電極19によるレンズ作用を受け、アノード電極20の透過型ターゲット13の部分で最終電位の高さに加速される。ターゲット13で発生したX線ビームxはX線取出部24を通り、更にX線取出窓27から大気中に取り出される。
【0015】
マルチ電子放出素子15は図2に示すように素子アレイ16上に二次元的に配列されている。近年のナノテクノロジの進歩に伴って、決められた位置にnmサイズの微細な構造体をデバイスプロセスによって形成することが可能であり、電子放出素子15はこのナノテクノロジ技術を使って製作されている。また、これらの電子放出素子15のそれぞれは、駆動信号部17を介して後述する駆動信号S1、S2によって個別に電子放出量の制御が行われる。このことは、駆動信号S1、S2のマトリックス信号により素子アレイ16の電子放出量を個別に制御することで、マルチX線ビームのオン/オフを制御できることになる。」
(1c)「【0017】
図4はカーボンナノチューブ型のマルチ電子放出素子15の構成図である。エミッタ35の材料として、数10nmの微細な構造体から成るカーボンナノチューブを用いたものであり、エミッタ35が引出電極36の中心に形成されている。
【0018】
これらのスピント型素子とカーボンナノチューブ型素子は、引出電極33、36に数10?数100Vの電圧を印加することで、エミッタ34、35の先端に高電界が印加され、電界放出現象によって電子ビームeが放出される。」
(1d)「【0020】
図6はこれらのスピント型素子、カーボンナノチューブ型素子、表面伝導型素子の電圧電流特性を示している。一定の放射電流を得るためには、平均の駆動電圧Voに対して補正電圧ΔVの補正した電圧を、駆動電圧としてマルチ電子放出素子15に供給することで、電子放出素子15のエミッション電流のばらつきを補正することができる。」
(1e)「【実施例3】
【0044】
図13はマルチX線撮影装置の構成図を示している。この撮影装置は図1で示すマルチX線源本体10の前方に、透過型X線検出器51を備えたマルチX線強度測定部52が配置され、更に図示しない被検体を介してX線検出器53が配置されている。強度測定部52、X線検出器53はそれぞれX線検出信号処理部54、55を介して制御部56に接続されている。また、制御部56の出力はマルチ電子放出素子駆動回路57を介して駆動信号部17に接続されている。更に制御部56の出力は、高電圧制御部58、59を介してそれぞれレンズ電極19、アノード電極20の高電圧導入部21、22に接続されている。
【0045】
マルチX線源本体10でマルチ電子ビーム発生部12から取り出した複数の電子ビームeを、透過型ターゲット13に照射してX線を発生する構成であることは、実施例1で説明した通りである。発生したX線ビームxは壁部25に設けられたX線取出窓27を通してマルチX線ビームxとして、大気中のマルチX線強度測定部52に向けて取り出される。X線ビームxは強度測定部52のX線検出器51を透過した後に被検体に照射される。そして、被検体を透過したX線ビームxはX線検出器53で検出され被検体のX線透過画像が得られる。
【0046】
素子アレイ16上に配列されたマルチ電子放出素子15では、電子放出素子15間の電流電圧特性に多少のばらつきが生ずる。このエミッション電流のばらつきは、マルチX線ビームxの強度分布のばらつきとなり、X線撮影の際にコントラストのむらとなるため、電子放出素子15のエミッション電流の均一化が必要となる。
【0047】
マルチX線強度測定部52のX線検出器51は半導体を利用した検出器である。このX線検出器51はX線ビームxの一部を吸収して電気信号に変換し、その後にX線検出信号処理部54でデジタルデータに変換され、マルチX線ビームxのそれぞれの強度データとして制御部56に保存される。
【0048】
更に、制御部56には図6の各マルチ電子放出素子15の電圧電流特性に相当する電子放出素子15の補正データが保存されており、マルチX線ビームxの検出強度データと比較して、各電子放出素子15に対する補正電圧の設定値が決められる。この補正電圧を用いて、マルチ電子放出素子駆動回路57が制御するマルチ放出素子駆動信号部17による駆動信号S1、S2の駆動電圧を補正する。これにより、電子放出素子15のエミッション電流の均一化ができると同時に、マルチX線ビームxの強度の均一化を図ることができる。
【0049】
この透過型X線検出器51を用いたX線強度補正方法は、被検体に関係なくX線強度が計測できるため、X線撮影中にリアルタイムでマルチX線ビームxの強度の補正を行うことができる。
【0050】
上述の補正方法とは別に、撮影用のX線検出器53を用いてもマルチX線ビームxの強度補正が可能である。X線検出器53はCCD固体撮像素子やアモルファスシリコンを用いた撮像素子等の二次元型のX線検出器を用いており、それぞれのX線ビームxの強度分布を計測することができる。
【0051】
X線検出器53を用いてマルチX線ビームxの強度補正を行うには、1個のマルチ電子放出素子15を駆動して電子ビームeを取り出し、発生するX線ビームxの強度をX線検出器53で同期検出ればよい。この場合、マルチX線ビームのそれぞれの発生信号と撮影用のX線検出器からの検出信号を同期させて計測すれば、効率的な強度分布計測ができる。この検出信号はX線検出信号処理部55でデジタル変換処理された後に、データは制御部56に保存される。
【0052】
全てのマルチ電子放出素子15に対してこの操作を行い、全マルチX線ビームxの強度分布データとして制御部56に保存すると同時に、X線ビームxの強度分布の一部、又は積分値を用いて各電子放出素子15に対する駆動電圧の補正値が決定される。
【0053】
そして、被検体のX線撮影時に、マルチ電子放出素子駆動回路57は駆動電圧の補正値に従ってマルチ電子放出素子15を駆動する。これらの一連の操作は、通常は定期的な装置校正として行うことで、マルチX線ビームxの強度の均一化を図ることができる。
【0054】
ここでは、マルチ電子放出素子15を個別に駆動してX線強度測定する例を説明をしたが、X線検出器53上で放射X線ビームxが重ならない個所のX線ビームxを、複数個所で同時に放射して計測を高速化することもできる。
【0055】
更に、本補正方法は個々のX線ビームxの強度分布をデータとして持っているため、X線ビームx内のむら補正にも使用することができる。
【0056】
本実施例のマルチX線源本体10を用いたX線撮影装置は、上述したようにマルチX線ビームxを並べて被検体サイズの平面型X線源を実現できるため、マルチX線源本体10とX線検出器53の間を接近させて、装置を小型化することもできる。更に、X線ビームxは上述したように、マルチ電子放出素子駆動回路57の駆動条件や駆動する素子領域を指定することで、X線照射強度と照射領域を任意に選択することができる。」
(1f)「【図1】


(1g)「【図2】


(1h)「【図4】


(1i)「【図6】


(1j)「【図13】



これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。
「真空室(11)内にマルチ電子ビーム発生部(12)、透過型ターゲット(13)が配置され、マルチ電子ビーム発生部は、素子基板(14)と、その上に、数10nmの微細な構造体から成るカーボンナノチューブを用いたエミッタ(35)が引出電極(36)の中心に形成されている複数個のマルチ電子放出素子(15)が二次元的に配列された素子アレイ(16)により構成され、電子放出素子は駆動信号部(17)により駆動が制御されるようになっており、電子放出素子から発生するマルチ電子ビーム(e)を制御するために絶縁体(18)に固定されたレンズ電極(19)とアノード電極(20)が設けられ、これらの電極に各高電圧導入部(21、22)を介して高電圧が供給されており、
マルチ電子放出素子から発生した電子ビームは、レンズ電極によるレンズ作用を受け、アノード電極の透過型ターゲットの部分で最終電位の高さに加速され、ターゲットで発生したX線ビーム(x)はX線取出部(24)を通り、更にX線取出窓(27)から大気中に取り出されるマルチX線発生装置において、
一定の放射電流を得るために、平均の駆動電圧(Vo)に対して補正電圧(ΔV)の補正した電圧を、駆動電圧としてマルチ電子放出素子に供給することで、電子放出素子のエミッション電流のばらつきを補正することができ、
マルチ電子放出素子駆動回路(57)の駆動条件や駆動する素子領域を指定することで、X線照射強度と照射領域を任意に選択することができる、
マルチX線発生装置。」(以下「引用発明」という。)

(2)引用文献2
同じく、特開2007-128749号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
本発明は、電界放出素子に関し、特に薄膜トランジスタ付き電界放出素子に関する。」
(2b)「【0003】
図12に示す薄膜トランジスタ付き電界放出素子では、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)部(以下TFT部と省略して用いる)1と、コーン状のエミッタ16とエミッタ16が接続されるカソード電極15と多数個の穴部13aが形成されるゲート電極13とを有する電界放射陰極列(Field Emission Array)部(以下FEA部と省略して用いる)とを備えている。そして、エミッタ16とゲート電極13との間に電圧を印加することによって、近接して設けられたエミッタ16とゲート電極13との間に高電界を生じさせ、エミッタ16のコーン状の先端部から電界放出を生じさせることができるようになされている。そして、このような電界放出素子に、表示基板部としてのアノード電極3と、蛍光体層5と、を備えて画像表示装置を構成している。そして、TFT部1は、トランジスタTr1とトランジスタTr1に接続される信号制御用トランジスタとを有しており、エミッタ16にカソード電極15を介してトランジスタTr1のドレイン8が接続され、トランジスタTr1のゲート11に、コンデンサが接続され、ゲート11の電圧Vgは信号制御用トランジスタによって制御される。すなわち、信号制御用トランジスタのゲートに走査信号が与えられるとともに信号制御用トランジスタのドレインにクリア信号と表示信号の何れかが選択的に与えられる。このような構成によって、コンデンサの電圧、すなわち、トランジスタTr1のゲート11の電圧Vgを制御して、カソード電極15に流れるカソード電流の電流値を自由に制御することができるものである。」
(2c)「【0011】
まず、図1を参照して、本実施形態のTFT部(図9、図10を参照)、FEA部(図9、図10を参照)の等価回路について説明する。ここで、ゲート電極13の電圧を電圧Vext、トランジスタTr1のゲート11の電圧を電圧Vg、エミッタ16とゲート電極13との間の電圧を電圧V1、トランジスタTr1のドレイン8とソース7との間の電圧を電圧V2とする。ここで、ゲート電極13の電圧である電圧Vextの値は電圧V1と電圧V2との加算電圧となる。また、図12、図13と同一の構成要素については同一符号を付してある。
【0012】
このような構成における電界放出素子の動作を以下に説明するが、まず、抵抗Rが存在しない場合の動作を説明して、その後に、抵抗Rを設けた場合の動作を説明し、さらに、そのような抵抗Rの形成方法について説明する。
【0013】
まずTFT部の単体の特性を図2に沿って説明する。トランジスタTr1が十分な耐圧を有する場合には、ドレイン8からソース7へ流れる電流であるドレイン電流は、ドレイン8とソース7との間の電圧である電圧Vsdの値に依存することなく略一定の値となる。図2において、Vg1、Vg2、Vg3の符号を付した各々の曲線は、ゲートの電圧Vgの値として、電圧Vg1、電圧Vg2、電圧Vg3とする場合を示すものであり、電圧Vg1<電圧Vg2<電圧Vg3の関係が成立するものである。なお、図2に示す縦軸のLog(I)はログスケールでドレイン電流を表すものである。ここで、本実施形態においては、トランジスタTr1はカソード電極電流制御用素子として機能し、トランジスタTr1のドレイン8はカソード電流制御用電力端子として機能し、トランジスタTr1のゲート11はカソード電流制御端子として機能する。
【0014】
次に、図3に沿ってFEA部の単体の特性を説明する。図1の等価回路において、FEA部の電圧V1に対する放射電流の関係である電圧電流特性を示す。図3に示すように、カソード電極15とゲート電極13との間の電圧V1の値を、閾値の電圧Vth以上とすると、急激にカソード電極15に流れるカソード電極電流の値は増加するものである。すなわち、電圧Vth以上とすると、ゲート電極13とエミッタ16の間の電界強度が閾値を越えて電界放出が開始する。なお、図3に示す縦軸のLog(I)はログスケールでカソード電極電流を表すものである。また、抵抗Rがない場合には、カソード電極電流とエミッタに流れる電流である放射電流との値は一致している。
【0015】
図4は、このような特性を有するTFT部とFEA部とを組み合わせた場合の、トランジスタTr1のゲート11の電圧V1に対する電界放出素子の負荷曲線である。図4に示す2つの曲線、すなわち、TFT部の特性曲線とFEA部の特性曲線との交点が動作点であり、エミッタ16から放出される電子によって生じる放射電流の大きさとなる。図4に示す縦軸のLog(I)はログスケールで放射電流を表すものである。ここで、抵抗R(図6を対比して参照)がないので、ドレインに流れる電流であるドレイン電流の値と、カソード電極に流れるカソード電極電流の値と、エミッタ16に流れる電流である放射電流の値とは一致している。また、エミッタから放出される電子の量(数)と放射電流の値とは比例関係にある。また、この放射電流の値と、蛍光体層(図示せず)における発光輝度の関係も略比例した関係である。
【0016】
図5は、このような特性を有するTFT部とFEA部とを組み合わせた場合の、ゲート電極13の電圧Vextに対する電界放出素子の負荷曲線である。図5から分かるように、電圧Vextの値を十分に高い電圧値、例えば、破線で示す電圧Vext1に設定しておき、トランジスタTr1のゲート11の電圧である電圧Vgの電圧値を電圧Vg1、電圧Vg2、電圧Vg3と変化させることで、エミッタ16に流れる放射電流の電流値を安定に制御することができ、輝度の階調を表現することができることを表している。なお、図5に示す縦軸のLog(I)はログスケールで放射電流を表すものであり、図5における破線は、FEA部の特性を表すものである。ここで、抵抗R(図6を対比して参照)がないので、ドレインに流れる電流であるドレイン電流の値と、カソード電極に流れるカソード電極電流の値と、エミッタ16に流れる電流である放射電流の値とは一致している。」
(d)「【図1】


(e)「【図2】


(f)「【図3】


(g)「【図4】


(h)「【図5】



これらの記載事項を含む引用文献2全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献2には、以下の発明が記載されている。
「薄膜トランジスタ部(以下「TFT部」と省略)(1)と、コーン状のエミッタ(16)とエミッタが接続されるカソード電極(15)と多数個の穴部(13a)が形成されるゲート電極(13)とを有する電界放射陰極列部(以下FEA部と省略)とを備え、 エミッタとゲート電極との間に電圧を印加することによって、近接して設けられたエミッタとゲート電極との間に高電界を生じさせ、エミッタのコーン状の先端部から電界放出を生じさせることができるようになされてい電界放出素子に、表示基板部としてのアノード電極(3)と、蛍光体層(5)と、を備えて画像表示装置を構成し、
TFT部は、トランジスタ(Tr1)とトランジスタに接続される信号制御用トランジスタとを有しており、エミッタにカソード電極を介してトランジスタのドレイン(8)が接続され、トランジスタのゲート(11)に、コンデンサが接続され、ゲートの電圧(Vg)は信号制御用トランジスタによって制御され、
コンデンサの電圧、すなわち、トランジスタのゲートの電圧を制御して、カソード電極に流れるカソード電流の電流値を自由に制御することができる、
薄膜トランジスタ付き電界放出素子。」(以下「引用2発明」という。)

3.対比
補正発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「カーボンナノチューブを用いたエミッタ」は補正発明の「CNTエミッタ」に相当し、引用発明の「数10nmの微細な構造体から成るカーボンナノチューブを用いたエミッタ」「が・・・形成されている複数個のマルチ電子放出素子が二次元的に配列された」構成及び「素子アレイ」は、それぞれ補正発明の「多数のCNTエミッタが微細パターニングされた」構成及び「陰極部」に相当する。
(2)引用発明の「レンズ電極」は、これにより「発生した電子ビーム」が「レンズ作用を受け」るから、補正発明の「CNTエミッタから放出された電子を集束するゲート部」に相当する。
また、引用発明の「マルチ電子放出素子」は補正発明の「電子放出部」(当審注:「電界放出部」は「電子放出部」の誤記と認める。)に相当する。
(3)引用発明の「アノード電極」は、「発生した電子ビームは、アノード電極の透過型ターゲットの部分で最終電位の高さに加速され、ターゲットで」「X線ビーム」を発生させるから、補正発明の「CNTエミッタから放出された電子を加速させて、電子の衝突によりX線を発生させる陽極部」に相当する。アノード電極がマルチ電子放出素子(補正発明の「電子放出部」に相当)の上部に配置されることは自明である。
(4)引用発明は「駆動する素子領域を指定することで、・・・照射領域を任意に選択することができる」から、「個別アドレッシングが可能」である。
また、引用発明は「X線照射強度と照射領域を任意に選択することができ」「一定の放射電流を得るために、平均の駆動電圧に対して補正電圧の補正した電圧を、駆動電圧としてマルチ電子放出素子に供給することで、電子放出素子のエミッション電流のばらつきを補正することができ」るから、補正発明の「個別アドレッシング動作にしたがい」、「印加する」「電圧」「を調整することによって各CNTエミッタから所望量の電子を放出させ、前記各CNTエミッタに対応する各陽極部から同一のX線量が出力されるようにすること」に相当する構成を有する。
(5)引用発明の「マルチX線発生装置」は補正発明の「X線システム」に相当する。

以上のことから、両者は、
「多数のCNTエミッタが微細パターニングされた陰極部と、前記CNTエミッタから放出された電子を集束するゲート部とを含む電界放出部と;
前記電子放出部の上部に配置され、前記CNTエミッタから放出された電子を加速させて、電子の衝突によりX線を発生させる陽極部と;を備え
個別アドレッシング動作にしたがい、印加する電圧を調整することによって各CNTエミッタから所望量の電子を放出させ、前記各CNTエミッタに対応する各陽極部から同一のX線量が出力されるようにする個別アドレッシングが可能なX線システム。」
の点で一致し、次の各点で相違している。

(相違点1)
補正発明が「ゲート部及び陽極部は、大面積の単一基板よりな」る、「大面積の」X線システムであるのに対して、引用発明がそのような構成を有するかどうか不明な点。
(相違点2)
補正発明が「陰極部は、薄膜トランジスタよりなり、薄膜トランジスタに含まれた各トランジスタが多数のCNTエミッタに各々連結され」「各トランジスタのゲートに印加するパルス電圧のみを調整する」のに対して、引用発明はそのような薄膜トランジスタを有さない点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
補正発明における「大面積」の指し示す技術的意味は必ずしも明確ではないので、本願明細書の記載を参酌する。
本願明細書の段落【0011】の「各CNTエミッタから放出される電子量が均一でないので、大面積への適用が非常に難しいという問題点がある。」、段落【0012】の「CNTエミッタを大面積の単一板に広く具現して形成するとしても、全体電子ビーム放出領域内において放出電子量の均一度が確保されないので、大面積で均一に放出されるX線システムを具現することは難しい実情である。」及び段落【0016】の「前記大面積の陽極部の全体領域で均一なX線量が出力される。」等の記載を参酌すれば、補正発明の「大面積の単一基板」とは、「X線を均一に放出できる面積の単一基板」のことであり、同じく「大面積」とは、「X線を均一に放出できる面積」のことと認められる。
そうであるなら、引用発明は「各CNTエミッタに対応する各陽極部から同一のX線量が出力される」から、「大面積のX線システム」である。
また、補正発明の「ゲート部及び陽極部」に相当する引用発明の「レンズ電極及びアノード電極」をそれぞれ「単一基板よりなる」ものとすることは、アレイ状の素子を製造する場合に、同一の機能を有する部分を単一基板で構成することが当業者の技術常識であること、引用文献1には、例えば図1や図13にみられるように、アノード電極の透過型ターゲットを単一基板で構成することが示唆されていること、等を考慮すれば、当業者が適宜採用しうる事項である。
してみると、引用発明に上記相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。

(2)相違点2について
引用2発明と上記相違点2に係る補正発明の構成を対比する。
引用2発明の「エミッタが接続されるカソード電極」及び「TFT部」は、それぞれ上記相違点2に係る補正発明の構成の「陰極部」及び「薄膜トランジスタ」に相当する。
同じく、引用2発明の「エミッタにカソード電極を介してトランジスタのドレインが接続され」る構成は、上記相違点2に係る補正発明の構成の「薄膜トランジスタに含まれた各トランジスタが多数のCNTエミッタに各々連結され」る構成に相当する。
さらに、引用2発明の「トランジスタのゲートの電圧を制御」する構成と、上記相違点2に係る補正発明の構成の「各トランジスタのゲートに印加するパルス電圧のみを調整する」構成は、ともに「各トランジスタのゲートに印加する電圧を調整する」点で共通する。
すなわち、引用2発明と上記相違点2に係る構補正発明の構成は、印加する電圧がパルスである点と当該電圧のみを調整する点を除いて一致する。
引用発明も引用2発明も、ともに、補正発明と同様に、電子放出素子であること、放出した電子をターゲットに衝突されることにより電磁波を発生させるものであること、発生する電磁波の均一性を目的とするものであること、そして引用発明が、引用2発明のようなフラットディスプレイの応用技術であること(上記摘記事項(1a)参照)等を考慮すれば、引用発明の電圧調整手段として引用2発明を用いることに、格別の阻害要因も技術的困難性もない。
そして、引用2発明がトランジスタのゲートの電圧のみを調整することでカソード電極に流れるカソード電流の電流値を自由に制御することができることは明らかであり、制御の容易性や素子構成の簡略化等の種々の目的で、当業者が引用2発明をそのように構成することを妨げる要因はない。
また、印加する電圧をパルス電圧とすることも、当業者が適宜採用しうる事項である。
してみると、引用発明に上記相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。

(3)補正発明の効果
そして、補正発明全体の効果も、引用発明及び引用2発明から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

(4)小括
したがって、補正発明は、引用発明及び引用2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について
平成26年1月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成24年12月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「多数のCNTエミッタが微細パターニングされた陰極部と、前記CNTエミッタから放出された電子を集束するゲート部とを含む電界放出部と;
前記電子放出部の上部に配置され、前記CNTエミッタから放出された電子を加速させて、電子の衝突によりX線を発生させる陽極部と;を備え
前記ゲート部及び前記陽極部は、大面積の単一基板よりなり、
前記陰極部は、薄膜トランジスタよりなり、
前記薄膜トランジスタに含まれた各トランジスタが前記多数のCNTエミッタに各々連結され、個別アドレッシング動作にしたがい、各トランジスタから各CNTエミッタに印加されるパルス電圧によって、前記各CNTエミッタに対応する各陽極部から同一のX線量が出力されるように調整することを特徴とする個別アドレッシングが可能な大面積のX線システム。」(以下「本願発明」という。)

1.引用刊行物
原査定に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物、その記載内容及び引用発明並びに引用2発明は、前記「第2」の「2.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した補正発明の「各トランジスタのゲートに印加するパルス電圧のみを調整することによって」という特定事項を「各トランジスタから各CNTエミッタに印加されるパルス電圧によって」に拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定したものに相当する補正発明が、前記「第2」の「4.」に記載したとおり、引用発明及び引用2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-04 
結審通知日 2015-02-10 
審決日 2015-02-23 
出願番号 特願2010-537847(P2010-537847)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 剛  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 神 悦彦
土屋 知久
発明の名称 個別アドレッシングが可能な大面積のX線システム  
代理人 三好 秀和  
代理人 伊藤 正和  

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