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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1302845
審判番号 不服2014-7270  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-18 
確定日 2015-07-08 
事件の表示 特願2008-329399「ポリ乳酸樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年7月8日出願公開、特開2010-150365〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年12月25日を出願日とする特許出願であって、平成25年6月10日付けで拒絶理由が通知され、同年8月6日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成26年1月28日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年4月18日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年5月8日付けで前置報告がなされ、平成27年4月13日に上申書が提出されたものである。



第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年4月18日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。

「下記のポリ乳酸樹脂100質量部当たり、下記の化1で示される芳香族スルホン酸塩から成り且つ平均粒子径を0.8?3.0μmの範囲内となるように調整したポリ乳酸樹脂用結晶核剤を0.5?3質量部の割合で含有して成ることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
ポリ乳酸樹脂:L-乳酸から形成された構成単位を全構成単位中に98?99モル%有するポリ乳酸樹脂。
【化1】

(化1において、
X:ベンゼンから3個の水素原子を除いた残基
R^(1),R^(2):炭素数1?3の炭化水素基
M:カリウム原子又はバリウム原子
n:1又は2であって、Mがカリウム原子の場合はn=1、Mがバリウム原子の場合はn=2)」



第3 原審で通知した拒絶の理由の概要

原審で通知した拒絶の理由の概要は、請求項1に係る発明は、引用文献1(国際公開第2005/068554号)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。



第4 当審の判断

1.刊行物
国際公開第2005/068554号(以下、「引用例」という。平成25年6月10日付け拒絶理由通知書に記載の引用文献1に同じ。)

2.引用例の記載事項(下線は当審による。)
摘示ア 「[1] 脂肪族ポリエステル樹脂と結晶核剤とを含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物において、結晶核剤として少なくとも一つ以上の下記の化1で示される芳香族スルホン酸塩を含有して成ることを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
[化1]

(化1において、
X:ベンゼンから3個の水素原子を除いた残基
R^(1),R^(2):炭素数1?6の炭化水素基
M:アルカリ金属原子及び/又はアルカリ土類金属原子
n:1又は2であって、Mがアルカリ金属原子の場合はn=1、Mがアルカリ土類金属原子の場合はn=2)
[2] 脂肪族ポリエステル樹脂100重量部当たり、化1で示される芳香族スルホン酸塩を0.0001?20重量部の割合で含有する請求項1記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
[3] 化1で示される芳香族スルホン酸塩が、化1中のMがカリウム原子、ルビジウム原子、バリウム原子、ストロンチウム原子及びカルシウム原子から選ばれる一つ又は二つ以上である場合のものである請求項1又は2記載の脂肪族ポリエスエル樹脂組成物。

[6] 脂肪族ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸樹脂、ポリ乳酸系樹脂及びこれらの混合物から選ばれるものである請求項1?5のいずれか一つの項記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。」(請求の範囲請求項1、2、3及び6)

摘示イ 「発明が解決しようとする課題
本発明が解決しようとする課題は、実用上汎用樹脂並みの成形条件で、離型時に変形を起こすことなく優れた物性の成形体を得ることができる脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びこれを用いた脂肪族ポリエステル樹脂成形体並びにその製造方法を提供する処にある。
課題を解決するための手段
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、結晶核剤として特定の芳香族スルホン酸塩を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物を用いることが正しく好適であることを見出した。」(段落0003?0005)

摘示ウ 「化1で示される芳香族スルホン酸金属塩において、…また化1中のR^(1),R^(2)は、…なかでも炭素数1?3の脂肪族炭化水素基が好ましい。
化1で示される芳香族スルホン酸金属塩において、化1中のMは、…カリウム原子とバリウム原子がより好ましい。」(段落0012?0013)

摘示エ 「以上、本発明の組成物に用いる脂肪族ポリエステル樹脂について説明したが、その結晶化を著しく向上する上で好適な脂肪族ポリエステル樹脂としては、1)乳酸及び/又は乳酸のラクチドから形成された構成単位を全構成単位中に90モル%以上、好ましくは95モル%以上有するポリ乳酸樹脂…、なかでもポリ乳酸樹脂が挙げられる。
かかるポリ乳酸樹脂は、…高い融点のポリ乳酸樹脂を得る点からは、L-乳酸から形成された構成単位又はD-乳酸から形成された構成単位のいずれか一方の構成単位を全構成単位中に96モル%以上有するものが好ましく、98モル%以上有するものがより好ましい。」(段落0029?0030)

摘示オ 「結晶核剤としての化1で示される芳香族スルホン酸塩の含有割合は、脂肪族ポリエステル樹脂100重量部当たり、…0.1?3重量部とするのが特に好ましい。いずれも、脂肪族ポリエステル樹脂に結晶核剤として化1で示される芳香族スルホン酸塩を添加する効果を充分に発揮させるためである。」(段落0035)

摘示カ 「発明の効果
本発明の組成物を用いると、実用上汎用樹脂並みの成形条件で、例えば成形サイクルで、離型時に変形を起こすことなく、優れた物性の成形体を得ることができる。」(段落0044?0045)

摘示キ 「本発明の組成物の実施形態としては、下記の1)?7)が挙げられる。

2)ポリ乳酸樹脂100重量部当たり、結晶核剤として5-スルホイソフタル酸ジメチル=バリウムを1重量部の割合で含有して成る、示差走査熱量測定法による結晶化ピーク温度が132.2℃且つ結晶化熱量が42.6J/gの脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
3)ポリ乳酸樹脂100重量部当たり、結晶核剤として5-スルホイソフタル酸ジメチル=バリウムを2重量部の割合で含有して成る、示差走査熱量測定法による結晶化ピーク温度が133.9℃且つ結晶化熱量が43.1J/gの脂肪族ポリエステル樹脂組成物。」(段落0046?0048)

摘示ク 「実施例
試験区分1(脂肪族ポリエステル樹脂組成物の調製)
・実施例1(脂肪族ポリエステル樹脂組成物P-1の調製)
ポリ乳酸樹脂(トヨタ自動車製の商品名#5400:重量平均分子量160000)100部及びスルホイソフタル酸ジメチル=バリウム0.05部を、ブレンダーを用いてドライブレンドして混合材料を得た。この混合材料をホッパーに投入し、210℃に設定された二軸混練押出機にて窒素雰囲気下、平均滞留時間4分間として溶融混合し、口金よりストランド状に押出し、水で急冷してストランドを得た。このストランドをストランドカッターで切断して、ペレット状の脂肪族ポリエステル樹脂組成物(P-1)を調製した。
・実施例2?19及び比較例1?5(脂肪族ポリエステル樹脂組成物P-2?P-19及びR-1?R-5の調製)
脂肪族ポリエステル樹脂組成物P-1の調製と同様にして、脂肪族ポリエステル樹脂組成物P-2?P-19及びR-1?R-5を調製した。内容を表1にまとめて示した。
[表1]

表1において、
L-1:ポリ乳酸樹脂(トヨタ自動車社製の商品名#5400、重量平均分子量160000、残存モノマー量3300ppm)
L-2:ポリ乳酸樹脂(トヨタ自動車社製の商品名#5000、重量平均分子量200000、残存モノマー量2300ppm)
L-3:ポリ乳酸系樹脂(大日本インキ化学工業社製の商品名PlamatePD150、重量平均分子量165000)
C-1:化1で示される結晶核剤(竹本油脂社製の商品名TLA-114:5-スルホイソフタル酸ジメチル=バリウム)
C-2:化1で示される結晶核剤(竹本油脂社製の商品名TLA-115:5-スルホイソフタル酸ジメチル=カルシウム)
C-3:化1で示される結晶核剤(竹本油脂社製の商品名TLA-134:5-スルホイソフタル酸ジメチル=ストロンチウム)
C-4:化1で示される結晶核剤(竹本油脂社製の商品名TLA-140:5-スルホイソフタル酸ジメチル=カリウム)
C-5:化1で示される結晶核剤(竹本油脂社製の商品名TLA-141:5-スルホイソフタル酸ジメチル=ルビジウム)
D-1:アミド系結晶核剤(日本化成社製の商品名スリパックスH:エチレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミド)
D-2:スルホン酸系結晶核剤(竹本油脂社製の商品名デリオンHS:5-スルホイソフタル酸ナトリウム)
D-3:タルク系結晶核剤(日本タルク社製の商品名MicroAce P-6、平均粒子径4μm)
D-4:酸化防止剤(チバスペシャリティーケミカル社製の商品名IRGANOX1076)
D-5:加水分解抑制剤(日清紡社製の商品名カルボジライトHMV-8CA)
試験区分2(脂肪族ポリエステル樹脂組成物の評価)
試験区分1で調製したペレット状の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を100℃で2時間除湿乾燥し、絶乾状態にした後、試料を採取して、下記の示差走査熱量計の条件によりガラス転移温度、結晶化開始温度、結晶化ピーク温度、結晶化熱量を求めた。結果を表2にまとめて示した。
・示差走査熱量計の条件
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製のDiamond DSC)を用いて、試料10mgをアルミニウムセルに充填し、50℃/分で室温から210℃まで昇温後、5分間保持した後、20℃/分の降温速度で測定した。
[表2]

表2において、
*1:今回の示差走査熱量計の条件では、数値が測定できなかった。
試験区分3(脂肪族ポリエステル樹脂成形体の製造及び評価)
・実施例20?42及び比較例6?18
試験区分1で調製したペレット状の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を100℃で2時間除湿乾燥し、絶乾状態にした後、表3に記載の成形条件にて射出成形し、ISO物性評価用試験片を得た。成形後、試験片を金型から離型するときの状態を離型変形として下記の基準で評価した。また得られた試験片を用いて、曲げ試験、荷重たわみ温度及び結晶化度をそれぞれ下記の条件で測定した。結果を表3にまとめて示した。
・離型変形
成形後、試験片を金型から離型するときの試料片の金型への付着の状態及び試験片の変形の状態を目視により下記の基準で評価した。
◎:金型付着がなく、変形もない
○:金型へやや貼りつき気味であるが、変形はない
△:金型へ貼りつき気味であって、明らかに変形がある
×:金型へ貼りつき離型が困難で、大きな変形がある
・曲げ試験
ISO178に準拠して測定した。
・荷重たわみ温度
ISO75-2B法フラットワイズ法における荷重たわみ温度の試験方法に準拠して測定した。荷重たわみ温度は、加熱浴槽中の試験片に0.45MPaの曲げ応力を加えながら、一定速度で伝熱媒体を昇温させ、試験片が規定のたわみ量に達した時の伝熱媒体の温度である。
・結晶化度(絶対結晶化度及び相対結晶化度)
試験片から約10mgの試料を採取してアルミニウムセルに入れ、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製の商品名DaiamondDSC)を用いてヘリウムガス雰囲気下に下記の熱量測定条件で結晶融解のピーク温度(Tm℃)、結晶化による発熱量(ΔHc1)、結晶融解による吸熱量(ΔHm1)、結晶融解による吸熱量(ΔHm2)を測定した。以上で得られた測定値を用いて下記の数1により絶対結晶化度を算出し、また下記の数2により相対結晶化度を算出した。
・・熱量測定条件
1)予備測定として30℃→250℃、昇温速度5℃/minで結晶融解のピーク温度(Tm℃)を求める。得られた(Tm+30)℃を(T)℃とする。
2)30℃→(T)℃、昇温速度5℃/min途中で現れる結晶化による発熱量(ΔHc1)と結晶融解による吸熱量(ΔHm1)を測定する。
3)(T)℃で5分間保持する。
4)(T)℃→30℃、降温速度5℃/minで降温する。
5)30℃で5分保持する。
6)30℃→(T)℃、昇温速度5℃/min途中で現れる結晶融解による吸熱量(ΔHm2)を測定する。
[数1]

[数2]

数1及び数2において、
数1中の数値93は、公知文献で知られているポリ乳酸が100%結晶化した場合の結晶融解熱量(93J/g)を意味する。数1中のaは、本発明の組成物における脂肪族ポリエステルの重量分率(重量%)を意味する。さらにΔHc1、ΔHm1、ΔHm2は絶対値であり、それらの単位はJ/gである。
尚、ΔHc1、ΔHm1、ΔHm2を求めるにあたり、融解吸熱ピークが脂肪族ポリエステル以外の成分に由来することが明らかな場合は可能な限り除外する。
[表3]

表3において、
成形条件の時間:成形機の金型に脂肪族ポリエステル樹脂組成物を圧入充填してから、結晶化させて離型するまでの時間(成形サイクル)
*2:成形体が変形して測定することができなかった。
表1?3からも明らかなように、本発明の組成物を用いると、実用上汎用樹脂並みの成形条件で、例えば成形サイクルで、離型時に変形を起こすことなく、優れた物性の成形体を得ることができる。」(段落0055?0073)

3.引用例に記載された発明
摘示ア、ウ?オ及びキの記載を総合すると、引用例には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「脂肪族ポリエステル樹脂と結晶核剤とを含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物において、
脂肪族ポリエステル樹脂が、L-乳酸から形成された構成単位又はD-乳酸から形成された構成単位のいずれか一方の構成単位を全構成単位中に98モル%以上有するポリ乳酸樹脂から選ばれるものであり、
結晶核剤として少なくとも一つ以上の下記の化1で示される芳香族スルホン酸塩を含有して成り、
脂肪族ポリエステル樹脂100重量部当たり、化1で示される芳香族スルホン酸塩を0.1?3重量部の割合で含有してなる、
脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
[化1]

(化1において、
X:ベンゼンから3個の水素原子を除いた残基
R^(1),R^(2):炭素数1?3の炭化水素基
M:カリウム原子又はバリウム原子
n:1又は2であって、Mがカリウム原子の場合はn=1、Mがバリウム原子の場合はn=2)」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「結晶核剤として少なくとも一つ以上の下記の化1で示される芳香族スルホン酸塩」は、本願発明における「下記の化1で示される芳香族スルホン酸塩から成るポリ乳酸樹脂用結晶核剤」に相当し、その含有割合も、引用発明における「脂肪族ポリエステル樹脂100重量部当たり、化1で示される芳香族スルホン酸塩を0.1?3重量部」は、本願発明における「ポリ乳酸樹脂100質量部当たり、結晶核剤を0.5?3質量部」に重複一致する範囲を包含する。

したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「ポリ乳酸樹脂100質量部当たり、下記の化1で示される芳香族スルホン酸塩から成るポリ乳酸樹脂用結晶核剤を0.5?3質量部の割合で含有して成るポリ乳酸樹脂組成物。
【化1】

(化1において、
X:ベンゼンから3個の水素原子を除いた残基
R^(1),R^(2):炭素数1?3の炭化水素基
M:カリウム原子又はバリウム原子
n:1又は2であって、Mがカリウム原子の場合はn=1、Mがバリウム原子の場合はn=2)」
である点。

<相違点1>
ポリ乳酸樹脂について、本願発明は、「L-乳酸から形成された構成単位を全構成単位中に98?99モル%有する」と特定しているのに対して、引用発明は、「L-乳酸から形成された構成単位又はD-乳酸から形成された構成単位のいずれか一方の構成単位を全構成単位中に98モル%以上有する」と特定している点。

<相違点2>
結晶核剤である芳香族スルホン酸塩の平均粒子径について、本願発明は、「0.8?3.0μmの範囲内となるように調整した」と特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定がされていない点。

5.相違点に対する判断
ア <相違点1>について
引用例には、引用発明における「L-乳酸から形成された構成単位又はD-乳酸から形成された構成単位のいずれか一方の構成単位を全構成単位中に98モル%以上有する」ポリ乳酸の具体例として、「L-1:トヨタ自動車社製の商品名#5400」(摘示ク)が記載されている。そして、技術常識からみて、当該トヨタ自動車社製の商品名#5400は、光学純度99%のポリL乳酸であるといえる(例えば、特開2005-42084号公報の段落0062の実施例1を参照のこと。)。
そうすると、引用発明は、ポリ乳酸として、「L-乳酸から形成された構成単位を全構成単位中に98?99モル%有する」ものを意味包含するものであるといえる。したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

イ <相違点2>について
引用例には、結晶核剤として用いられる芳香族スルホン酸塩の平均粒子径について特に記載されていないが、一般に、ポリ乳酸に添加される結晶核剤において、その平均粒径に着目することは、当業者にとり技術常識であるといえる(例えば、特開2007-269960号公報の請求項7、特開2008-81588号公報の請求項3、特開2003-301097号公報の段落0028、特開2005-170417号公報の段落0018、特開2005-212064号公報の段落0017、特開2005-298797号公報の請求項6と段落0063?0064、特開2006-307036号公報の段落0058、特開2006-328163号公報の請求項5、特開2008-239760号公報の段落0021、特開2008-248182号公報の段落0064及び特開2008-248184号公報の段落0037を参照のこと。)。
そうすると、引用発明において、結晶核剤の効果を最大とするべく、すなわち、ポリ乳酸の結晶化を充分に向上させ、結晶化ピーク温度を最高とするべく、用いる結晶核剤の平均粒子径を変更しつつ、様々な粒径のものについて試してみる程度のことは、当業者が容易に想到し得ることであるといえ、その最適値として上記した技術常識の数値の範囲内である0.8?3.0μmの範囲を設定することは、当業者が適宜なし得る設計的な事項にすぎない。
そして、相違点2による効果について検討しても、引用例には、実用上汎用樹脂並みの成形条件で、例えば成形サイクルで、離型時に変形を起こすことなく、優れた物性の成形体を得ることができることが記載されている(摘示イ、カ及びク)し、引用例の実施例においても、結晶化ピーク温度が130.1?133.9℃であるものが得られている(摘示クの実施例2、3及び14)。また、結晶核剤の平均粒子径が小さくなると取扱い時の粉立ちによる作業環境の悪化やポリ乳酸との混練性が悪くなることは、当業者にとり自明の事項にすぎない。さらに、本願の明細書の参考例で用いられている芳香族スルホン酸塩のC-3?C-5は、結晶核剤の平均粒子径が0.8?3.0μmの範囲を満たさないものではあるが、そもそも化1のMがカリウム原子又はバリウム原子でないものであるから、結晶核剤の平均粒子径の違いの点について、かかる参考例と実施例との比較はできないし、仮に比較できたとしても、本願発明における当該平均粒子径の数値範囲に格別の効果をみいだすことはできない。

6.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



第5 むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、平成26年4月18日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-07 
結審通知日 2015-05-11 
審決日 2015-05-26 
出願番号 特願2008-329399(P2008-329399)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 亨  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 大島 祥吾
小野寺 務
発明の名称 ポリ乳酸樹脂組成物  
代理人 入山 宏正  

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