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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1302875
審判番号 不服2011-24451  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-11 
確定日 2015-07-09 
事件の表示 特願2007-526548「神経幹細胞」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月22日国際公開、WO2005/121318、平成20年 1月24日国内公表、特表2008-501356〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年(2005年)6月9日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年6月9日 英国、2005年2月14日 英国、2005年3月17日 英国)とする国際出願であって、その請求項1?23に係る発明は、平成26年12月18日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?23に記載されたとおりのものと認める。そのうち請求項1及び13に係る発明は、以下のとおりである。

「【請求項1】神経幹細胞の集団であって、該神経幹細胞がEGFレセプターのアゴニスト、またはEGFレセプターのアゴニストおよびFGFレセプターのアゴニストの存在下で、接着単層培養中で維持されるものであり、該細胞の少なくとも90%が、対称的に分裂している神経幹細胞であり、そして該細胞の1%以下が、成熟した星状細胞、ニューロン、および乏突起膠細胞に対するマーカーの発現に対して陽性である、集団。」(以下、「本願発明1」という。)

「【請求項13】細胞が、接着単層培養中、EGFまたは、EGFおよびFGF-2の存在下で維持され、該細胞の少なくとも80%が、対称的に分裂している神経幹細胞であり、そして該細胞の1%以下が、成熟した星状細胞、ニューロン、および乏突起膠細胞に対するマーカーの発現に対して陽性である、細胞株。」(以下、「本願発明13」という。)

2.当審における拒絶の理由の概要
これに対して、当審において平成26年8月13日付で通知した拒絶の理由の1つは、補正前の本願請求項13に係る発明は、その出願前外国において頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものであり、もう1つは、補正前の本願請求項1?23に記載の発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、又、本願の発明の詳細な説明は、本願請求項1?23に記載の発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、この出願は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

3.特許法第29条第1項第3号
(1)引用例
当審の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の1999年に頒布された刊行物であるExperimental Neurology(1999)Vol.156,p.71-83(以下、「引用例」という。)は、「胎児性ヒト中枢神経系からの多分化能幹細胞の単離とクローニング及びエピジェネティック刺激による移植可能なヒト神経幹細胞株の樹立」という表題の学術文献であって、
(i)「我々は、発育中のヒト中枢神経系は多分化能前駆体を具体的に有し、それらは、重要な幹細胞特性を示すためには、EGF及びFGF-2による同時に相乗的な刺激を必要とする点で、それらのマウス対応物とは異なることを示す。クローン解析では、ヒト中枢神経系幹細胞は多分化能であり、それら成長因子が取り除かれると、神経細胞、星状細胞、又は乏突起膠細胞に自然に分化することを証明する。」(第71頁左欄第7行?第16行)、
(ii)「実用的な展望から、エピジェネティック刺激による自己複製、拡張期の多分化能中枢神経系幹細胞を維持することは、我々に継続的なヒト神経幹細胞株の樹立を可能にする。これを裏付けるため、我々は、長期間培養にわたるこれら細胞の、広範な機能的安定性を示した。」(第75頁左欄第18行?第23行)、と記載され、第74頁の図2Cには、40回以上の継代培養を行ったことが示されている。

上記引用例に記載の、EGF及びFGF-2によるエピジェネティック刺激とは、EGF及びFGF-2の存在下で幹細胞を培養することであるから、引用例には、「EGF及びFGF-2の存在下でヒト中枢神経系幹細胞を継代培養して樹立されたヒト神経幹細胞の細胞株」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
本願発明13の「EGFまたは、EGFおよびFGF-2の存在下で維持され」という選択肢のうち、EGFおよびFGF-2を選択する態様の本願発明13と引用発明を対比すると、両者は、「細胞が、EGFおよびFGF-2の存在下で維持されている神経幹細胞の細胞株」である点で一致するが、本願発明13の細胞株は、接着単層培養中で維持され、該細胞の少なくとも80%が、対称的に分裂している神経幹細胞であり、そして該細胞の1%以下が、成熟した星状細胞、ニューロン、および乏突起膠細胞に対するマーカーの発現に対して陽性であるのに対して、引用発明の細胞株は、そのような特定はなされていない点で、一応相違する。
しかしながら、細胞株とは、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもつに至った細胞のことであるから、神経幹細胞の細胞株とは、長期間にわたり安定して対称的に分裂する細胞自体のことであり、神経幹細胞としての特性が同じであれば、接着培養で維持されてもされなくても、細胞株としては同じである。また、細胞株であるから、幹細胞が自己複製するものであり、少なくとも80%が対称的に分裂している幹細胞であり、成熟した星状細胞、ニューロン、および乏突起膠細胞に対するマーカーの発現に対して陽性であるような分化した細胞ではないことも明らかである。
したがって、両発明間で神経幹細胞としての特性に違いが見い出せず、上記相違点は実質的な相違ではなく、本願発明13の細胞株は引用発明の細胞株と区別できないから、本願発明13は引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4.特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号
(1)本願明細書の記載
本願発明1の神経幹細胞の集団は、該細胞の少なくとも90%が対称的に分裂している神経幹細胞であり、そして該細胞の1%以下が、成熟した星状細胞、ニューロン、および乏突起膠細胞に対するマーカーの発現に対して陽性であるものである。
一方、本願明細書の実施例で具体的に作成された神経幹細胞の集団において、神経幹細胞の集団の細胞の少なくとも90%が対称的に分裂していることを確認した記載は、本願明細書にはない。

(2)当審の判断
本願明細書には、神経幹細胞の集団であって、該細胞の少なくとも90%が対称的に分裂している神経幹細胞であり、そして該細胞の1%以下が、成熟した星状細胞、ニューロン、および乏突起膠細胞に対するマーカーの発現に対して陽性である細胞集団を取得できたことが記載されていないのは、上記(1)で述べたとおりである。
また、本願出願時の技術常識を参酌しても、そのような細胞集団が得られることを当業者が理解できるように、本願明細書に記載されているとはいえない。
したがって、本願発明1は、本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

また、同様の理由により、本願の発明の詳細な説明には、本願発明1を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件も満たしていない。

(3)審判請求人の主張
審判請求人は、平成26年12月18日付意見書で、以下のとおり主張している。

「しかしながら、(イ)(注:原文には記載されていないが、当審で請求人の主張を、(イ)?(ニ)に項分けした。以下同じ。)本願明細書の実施例1-1(段落0132ー0133)には、「ピューロマイシンを7日後に分化培養物に添加し、そして3日以内に、残りの95%より多くがGFP+神経前駆体となった。」と記載されております。このことは、細胞の95%以上が対称的に分裂している神経幹細胞の集団が得られたことを意味し、95%以上には、「少なくとも90%以上」または「少なくとも80%以上」も含まれますから請求項にかかる細胞集団、細胞および組成物は明細書に記載されていると思料します。また、これらの数値は本願明細書段落0058に記載されております。
また、(ロ)実施例1?3には、「細胞の1%未満がGFAPまたはβIIIチューブリンのいずれかに対して陽性であった。このことは、これらの細胞の継代の間に、星状細胞またはニューロンへの自発的分化がほとんど生じていないことを示唆している。」と記載されています。このことは、細胞増殖中に成熟した星状細胞、ニューロン、および乏突起膠細胞の偶然の分化がほとんど起こらないことを示しています。
また、本願明細書段落0077には、「特定のマウス由来細胞株では、細胞の1%以下が、GFAPまたはβIIIチューブリンの発現に対して陽性である。他の(例えば、ヒト)細胞株では、細胞の1%以下が、成熟した星状細胞、ニューロン、または乏突起膠細胞に対するマーカーの発現に対して陽性である。」と記載されております。
同様に、(ハ)本願明細書には細胞の80%以上が対象的に分裂している神経幹細胞であることを示す多数の継代培養の事例が記載されています。例えば、本願明細書段落0064の第1文には、80?90%以上が神経幹細胞であるラット神経幹細胞の培養が得られたことが記載されています。また、段落0095には、「実施例により詳細に示したさらなる実施態様では、実質的に全てのコロニー(播種している単一の細胞から発達したコロニーの少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%)が、(i)FGF+EGFにおいて神経前駆体マーカーの同一の均質な発現と分化マーカーの不在とを示し、そして(ii)増殖因子の除去に際してニューロンを生成している。」と記載されています。このことは、本発明にしたがって、FGFプラスEGF中に播種した単細胞から出現したあらゆるコロニーは神経幹細胞マーカーの同一の発現パターンを示し、分化マーカーは発現していないことを実質的に示しています。これは対称的な自己分裂を示しています。」、
「さらに、甲第1号証は本願発明者らの論文ですが、本願に開示された方法が、少なくとも80%の対称的に分裂するNSCを含む細胞集団を提供できると確証させるものです。そのアブストラクトには、「繊維芽細胞増殖因子(FGF2)と上皮細胞増殖因子(EGF)の組合せが、神経幹細胞の純粋培養の対称的な分裂により誘導され、連続的に増殖するために十分である。」と記載されています。それに加えて、同論文の1595頁の図1(A)の説明文には、本願発明にしたがい、「(A)EGFとFGF-2(a)中で増殖させた接着NS培養(LC1)は、神経(b)または星状細胞(c)の抗原を発現せず、前駆マーカーであるRC2(d)およびネスチンを均一に発現していた。」ことを確認したことが記載されています。このことは、NS培養は、対称的に分裂しているNS細胞が高度に濃縮されたことを示しています。なぜなら、NS細胞マーカーは均一に発現し、分化細胞タイプ(神経または星状細胞)のマーカーは検出されなかったためです。
さらに、(ニ)1596頁の右欄の第二段落には、「測定された全てのNS株について、FGF-2とEGFの存在下で,細胞の95%以上がネスチンを発現し、RC2について免疫活性を示す。」と記載されています。」

以下、上記主張について検討する。
まず、(イ)の主張で示された本願明細書の実施例1-1には、
「(NS細胞のバルク集団の単離および培養)
接着単層培養での50?70%の間のSox1陽性神経前駆体の効率的かつ一貫した生成を可能にするES細胞分化プロトコルが、近年確立された。これらの培養物内の神経前駆体(マウス由来)を単離し増殖しそして特徴付けるために、Sox1遺伝子座にターゲティングしたGFP-IRES-ピューロマイシンレポーターカセットを含む以前に生成された細胞株(46C細胞)を使用した(Yingら, 2003b)。ピューロマイシンを7日後に分化培養物に添加し、そして3日以内に、残りの細胞の95%より多くがGFP+神経前駆体となった。この時点で、細胞を、(ピューロマイシンなしで)EGF/FGF-2を添加したN2B27培地に再播種した。これらの細胞は迅速に増殖し、数継代内で均質な形態をとった。」と記載されており、請求人の主張中の上記下線部の記載は、神経幹細胞の集団を作成するための出発幹細胞についての記載であり、その出発細胞集団が95%以上、Sox1遺伝子を発現するからといって、培養後の細胞集団も同様であるとはいえない。

また、(ロ)の主張については、集団中の1%未満の細胞しか、星状細胞、ニューロン、および乏突起膠細胞に分化していないとしても、残りの細胞が神経幹細胞であるとはいえない。すなわち、残りの細胞に神経前駆細胞又はグリア前駆細胞が含まれている可能性があるからである。

これに対して、対称的に分裂するのは神経幹細胞であるという前提の下で、請求人は、(ハ)の主張において、「本願明細書には細胞の80%以上が対称的に分裂している神経幹細胞であることを示す多数の事例が記載されています。」と主張する。しかしながら、神経前駆細胞やグリア前駆細胞もそれ自身対称分裂して増殖するから、対称分裂している細胞には、神経前駆細胞やグリア前駆細胞も含まれるのであって、対称分裂しているからといって神経幹細胞であるとはいえない。
また、審判請求人の指摘する本願明細書の箇所は実施例ではなく、実験による客観的なデータを伴う記載ではない。実際にどのような細胞を用いて、どのような培養条件でどのように培養してどのような結果が得られたという具体的な記載がなければ、当業者が追試を行えないから、実施することができる程度に記載されているとも、そのことが裏付けられているともいえない。

最後に、(ニ)の主張については、甲第1号証は本願出願後の2005年9月に頒布された文献であり、参酌できるとは必ずしもいえないばかりか、審判請求人の指摘する「測定された全てのNS株について、EGFとFGF-2の存在下で,細胞の95%以上がネスチンを発現し、RC2について免疫活性を示す。」という記載は、細胞の95%以上がネスチンを発現する記載であるものの、RC2について免疫活性を有する細胞がどの程度かは記載されておらず、その中には神経前記細胞が含まれている可能性があるから、細胞の95%以上が神経幹細胞であるという記載とはいえない。

したがって、審判請求人の上記主張は、いずれも採用できない。

(4)付言
平成26年12月18日付手続補正書により、本願発明1に、「EGFレセプターのアゴニスト、またはEGFレセプターのアゴニストおよびFGFレセプターのアゴニストの存在下で」という特定事項が追加された。
しかしながら、本願明細書には、EGF及びFGF-2の存在下で神経幹細胞を接着単層培養した実施例しか記載されておらず、EGF及びFGF-2以外のEGFレセプターのアゴニスト及びFGFレセプターのアゴニストの存在下でも、ましてや、EGFレセプターのアゴニストのみの存在下でも、神経幹細胞を対称的に分裂するように培養できるかは、本願出願時の技術常識を参酌しても不明であることを付言する。

5.結論
以上のとおり、本願請求項13に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、本願請求項1に記載の発明について、本願は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明については言及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-29 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-18 
出願番号 特願2007-526548(P2007-526548)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C12N)
P 1 8・ 113- WZ (C12N)
P 1 8・ 536- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 植原 克典
郡山 順
発明の名称 神経幹細胞  
代理人 進藤 卓也  

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