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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1302889
審判番号 不服2014-5886  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-01 
確定日 2015-07-09 
事件の表示 特願2010-515925「ナノインプリント用モールドの製造方法および表面に微細凹凸構造を有する樹脂成形体ならびにワイヤグリッド型偏光子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月10日国際公開、WO2009/148138〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成21年6月4日(先の出願に基づく優先権主張 平成20年6月5日)を国際出願日とする特許出願であって,平成25年7月16日付けで拒絶理由が通知され,同年9月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年12月25日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成26年4月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年6月9日付けで同法164条3項所定の報告がされたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成26年4月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年4月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容

本件補正は,明細書及び特許請求の範囲を変更する補正であって,本件補正の前後における特許請求の範囲の記載は,それぞれ以下のとおりである。

・ 本件補正前(請求項2?9の記載省略)

「【請求項1】
支持基板の表面に光硬化性樹脂組成物の層を形成する工程と,
モールド面に微細凹凸構造を有するマスターモールドと前記支持基板を重ねて,前記マスターモールドのモールド面と前記支持基板の表面との間に前記光硬化性樹脂組成物を挟持する工程と,
前記光硬化性樹脂組成物が挟持された状態で該光硬化性樹脂組成物を硬化させて,前記モールド面の微細凹凸構造が反転した微細凹凸構造を表面に有するモールドベースを形成する工程と,
前記モールドベースと前記マスターモールドとを分離する工程と,
前記モールドベースの微細凹凸構造を有する表面に,金属酸化物をターゲットに用いたスパッタ法によって金属酸化物層を形成する工程と,
前記金属酸化物層の表面をフルオロアルキル基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を有する化合物で処理して離型層を形成する工程と
を有することを特徴とする,ナノインプリント用モールドの製造方法。」

・ 本件補正後(請求項2?9の記載省略)

「【請求項1】
支持基板の表面に光硬化性樹脂組成物の層を形成する工程と,
モールド面に微細凹凸構造を有するマスターモールドと前記支持基板を重ねて,前記マスターモールドのモールド面と前記支持基板の表面との間に前記光硬化性樹脂組成物を挟持する工程と,
前記光硬化性樹脂組成物が挟持された状態で該光硬化性樹脂組成物を硬化させて,前記モールド面の微細凹凸構造が反転した微細凹凸構造を表面に有するモールドベースを形成する工程と,
前記モールドベースと前記マスターモールドとを分離する工程と,
前記モールドベースの微細凹凸構造を有する表面に,金属酸化物をターゲットに用いたスパッタ法によって金属酸化物層を形成する工程と,
前記金属酸化物層の表面をフルオロアルキル基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を有する化合物で処理して離型層を形成する工程と
を有し,前記光硬化性樹脂組成物が,厚さ200μmの硬化物としたときの波長360nmの紫外線透過率が92%以上となる光硬化性樹脂組成物であることを特徴とする,ナノインプリント用モールドの製造方法。」

2 本件補正の目的

本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「光硬化性樹脂組成物」について,「前記光硬化性樹脂組成物が,厚さ200μmの硬化物としたときの波長360nmの紫外線透過率が92%以上となる光硬化性樹脂組成物であること」を更に特定する補正である。
そして,この補正により,補正前の「光硬化性樹脂組成物」は,特定の性質を有する点が限定されることとなり,しかも,補正の前後で,請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。
よって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。

3 独立特許要件違反の有無について

上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(本件補正が,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか,いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ,本件補正は当該要件に違反すると判断される。

すなわち,本願補正発明は,下記引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

引用文献 : 特開2008-68612号公報

以下,特許を受けることができない理由を,下記5において詳述する。

なお,引用文献は,平成25年7月16日付け拒絶理由を通知するにあたり,請求人に提示された刊行物の引用文献1である。

4 本願補正発明

本願補正発明は,平成26年4月1日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「支持基板の表面に光硬化性樹脂組成物の層を形成する工程と,
モールド面に微細凹凸構造を有するマスターモールドと前記支持基板を重ねて,前記マスターモールドのモールド面と前記支持基板の表面との間に前記光硬化性樹脂組成物を挟持する工程と,
前記光硬化性樹脂組成物が挟持された状態で該光硬化性樹脂組成物を硬化させて,前記モールド面の微細凹凸構造が反転した微細凹凸構造を表面に有するモールドベースを形成する工程と,
前記モールドベースと前記マスターモールドとを分離する工程と,
前記モールドベースの微細凹凸構造を有する表面に,金属酸化物をターゲットに用いたスパッタ法によって金属酸化物層を形成する工程と,
前記金属酸化物層の表面をフルオロアルキル基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を有する化合物で処理して離型層を形成する工程と
を有し,前記光硬化性樹脂組成物が,厚さ200μmの硬化物としたときの波長360nmの紫外線透過率が92%以上となる光硬化性樹脂組成物であることを特徴とする,ナノインプリント用モールドの製造方法。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由

(1) 引用文献の記載
引用文献には,次の記載がある。(なお,下線は当審で付した。以下同じ。)

ア 「【請求項10】
基板の上にポリマー層が形成される段階と,
前記基板の上に所定のマスターモールドを覆って,紫外線を照射して,前記ポリマー層の上部にナノスケールの凹凸パターンが形成される段階と,
前記凹凸パターンの表面に前記ポリマー層より硬度の高い物質で形成された硬質層が形成される段階と,
前記硬質層の表面に離型層が形成される段階と,
を含むことを特徴とするナノインプリント用モールドの製造方法。
【請求項11】
前記凹凸パターンは,マスターモールドのナノパターンが転写されて形成されることを特徴とする請求項10記載のナノインプリント用モールドの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項10,11)

イ 「【技術分野】
本発明は,ナノインプリント用モールド及びその製造方法に関し,より詳しくは,高分子薄膜にナノスケールの構造を転写することに使われるナノインプリント用モールド及びその製造方法に関する。」(段落 【0001】)

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
したがって,本発明は,前述のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって,本発明の目的は,屈曲のある基板にも元のパターンが均一に転写され,かつ損傷が発生しなくて,耐久性が向上するナノインプリント用モールドを提供することにある。
また,本発明の目的は,ナノインプリント用モールドが容易に製作できるナノインプリント用モールドの製造方法を提供することにある。」(段落 【0003】?【0005】)

エ 「 図1は,本発明の一実施形態に係るナノインプリント用モールドの断面図である。
図1に示すように,本発明のナノインプリント用モールドは,基板100と,基板100の上に形成された凹凸パターン113を有するパターン部110と,パターン部110の表面の上に形成された硬質層120と,硬質層120の表面の上に形成された離型層130とを含む。
基板100は,基板100の上部に形成されたパターン部110を支持する役割をし,パターン部110を形成するために使われる紫外線が透過する硬質の材料である石英(クォーツ)またはガラスであるとか,紫外線が透過する軟質の材料であるPET(Polyethylene Terephthalate)またはPC(Polycarbonate)であることが好ましい。
パターン部110は,基板100の上の全面に形成された緩衝層111とその上部に緩衝層111と一体型で突出してナノスケールを有するように形成された凹凸パターン113を含む。この際,パターン部110はナノスケールの構造が刻印されるポリマー薄膜と本発明のナノインプリント用モールドとの間に均一で,かつ安定した接触になるように弾性と柔軟性を有する材質,例えば,アクリレート,ウレタン,またはPDMS(polydimethylsiloxane)などを基盤とする紫外線硬化ポリマーで形成されることが好ましい。
パターン部110の緩衝層111と一体型で形成された凹凸パターン113は,互いに同一な材質であって,上記に列挙した紫外線硬化ポリマーは基板100を透過する紫外線を用いてマスターモールドのパターンがそのままパターン部110に形成され易い材質として長所がある。また,大面積に均一なナノパターンが転写されるためには,柔軟性がある材料で形成されたパターン部110がナノスケールの構造が刻印される基板の外形に沿って変形できることも好ましい。」(段落 【0022】?【0026】)

オ 「硬質層120はパターン部110の全ての表面の上に形成され,凹凸パターン113の凹凸をそのままフォローする。パターン部110より硬度の高い材質で形成された硬質層120は柔軟性ある材質を有する凹凸パターン113がインプリンティング中に変形されたり破損されることを防ぐ役割をし,これによって,本発明のナノインプリント用モールドの耐久性と転写パターンの精度を向上させる長所がある。
このような特性を有する硬質層120は,シリコン酸化物(SiO_(2))またはITO(Indium Tin Oxide)などの紫外線透過性を有する酸化膜材料であることが好ましくて,熱硬化方式のモールドに使われる場合には,表面に自然酸化膜が形成される金属であるAl,Cr,Ta,またはNiなどの金属が硬質層120の材質として使われることができる。」(段落 【0028】?【0029】)

カ 「 離型層130は,硬質層120の全面に形成されてインプリンティング時に本発明のナノインプリント用モールドとナノスケールの構造が刻印されるポリマー薄膜間の分離を容易にする役割をする。
離型層130は,有機単分子膜(SAM,self assembled monolayer)でることが好ましくて,硬質層120がシリコン酸化物材質である場合にはシリコン酸化物の薄膜の表面が水酸基(OH-)となっているため,FOTS(tridecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrooctyltrichlorosilane),FDTS(perfluorodecyltrichlorosilane),OTS(octadecyl trichlorosilane),DDMS(dimethyldichlorosilane)などのオルガノシリコン(organosilicon)系列の有機単分子膜であることがより好ましい。」(段落 【0030】?【0031】)

キ 「図2に示すように,本発明のナノインプリント用モールドの製造方法により基板100の上部にポリマー層140が形成される。ポリマー層140は,基板100の上に紫外線硬化ポリマーをスピンコーティングなどの方式により塗布して形成される。この時に使われる紫外線硬化ポリマーは,硬化後にも柔軟性を有するアクリレート,ウレタン,またはPDMS(polydimethylsiloxane)などを基盤にするポリマーを使用することが好ましい。
・・・
図3に示すように、ポリマー層140が形成された基板100の上にナノパターンが予め形成されたマスターモールドを載せて紫外線を照射してポリマー層140を硬化させることにより、緩衝層111及び緩衝層111に一体型で形成された凹凸パターン113を含むパターン部110が形成される。 ・・・
図4に示すように、パターン部110の表面の上に硬質層120と離型層130が順次に形成される。」(段落 【0035】?【0039】)

ク 「パターン部110の表面に形成された硬質層120は,パターン部110の上部に形成された凹凸パターン113の凹凸がそのまま伝えられるように,例えば,プラズマ気相蒸着(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition;以下,PECVDと称する)方法によりシリコン酸化物(SiO_(2))をパターン部110上に蒸着する。凹凸パターン113を保護するために,パターン部110より高い硬度を有するシリコン酸化物で形成された硬質層120の厚みは凹凸パターン113の大きさによって変わることが好ましいが,ナノスケールのパターンでは数nm位の厚みが適している。この際,PECVD方法の蒸着工程でポリマーからなるパターン部110の劣化が生じないように,パターン部110を形成するポリマーのガラス転移温度以下で硬質層120が形成されるようにすることが好ましい。」(段落 【0040】)

ケ 「次に,硬質層120の表面の上に形成される離型層130は,疎水性を有するオルガノシリコン系列の有機単分子膜(self assembled monolayer,SAM)を気相蒸着やディッピングなどの工程により形成する。この際,シリコン酸化物材質で形成された硬質層120の表面に水酸基(OH-)が分布しているので,その上にオルガノシリコン系列の有機単分子膜が形成される場合,硬質層120と離型層130との間に密着力を高めてくれる長所がある。特に,硬質層120の表面の水酸基(OH-)の分布を増加させて硬質層120の表面エネルギーを高めるために,離型層130が形成される前に酸素プラズマ,紫外線,またはオゾンなどで硬質層であるシリコン酸化物の表面を処理してくれれば,硬質層120と離型層130との間の密着力をより増加させる長所がある。」(段落 【0041】)

(2) 引用文献に記載された発明
引用文献には,上記アの記載からみて,
「基板の上にポリマー層が形成される段階と,
前記基板の上に形成されたポリマー層を所定のマスターモールドで覆って,紫外線を照射して,マスターモールドのナノパターンを転写することで,前記ポリマー層の上部にナノスケールの凹凸パターンが形成される段階と,
前記凹凸パターンの表面に前記ポリマー層より硬度の高い物質で形成された硬質層が形成される段階と,
前記硬質層の表面に離型層が形成される段階と,
を含むナノインプリント用モールドの製造方法。」に係る発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(3) 本願補正発明と引用発明との対比・判断
引用発明における「基板」,「ポリマー」,「ナノスケールの凹凸パターン」は,上記(1)イ?オの記載からみて,それぞれ,本願補正発明の「支持基板」,「光硬化性樹脂組成物」,「微細凹凸構造」に相当する。
引用発明における「転写」は,上記(1)イ?オの記載からみて,マスターモールドの凹凸形状がポリマー層に転写されるのであるから,本願補正発明の「反転」と同義といえる。
引用発明は,上記(1)キの記載からみて,紫外線で硬化されたポリマー層上に硬質層が形成されるものであるから,引用発明においても,ポリマー層とマスターモールドとを分離する工程が存在しなければならないことは明らかである。
引用発明における,紫外線が照射されてマスターモールドの凹凸パターンが転写形成されたポリマー層は,本願補正発明の「モールドベース」に相当する。
引用発明における「硬質層」は,上記オの記載からみて,本願補正発明の「金属酸化物層」に相当する。
そうすると,両者は,

「支持基板の表面に光硬化性樹脂組成物の層を形成する工程と,
モールド面に微細凹凸構造を有するマスターモールドと前記支持基板を重ねて,前記マスターモールドのモールド面と前記支持基板の表面との間に前記光硬化性樹脂組成物を挟持する工程と,
前記光硬化性樹脂組成物が挟持された状態で該光硬化性樹脂組成物を硬化させて,前記モールド面の微細凹凸構造が反転した微細凹凸構造を表面に有するモールドベースを形成する工程と,
前記モールドベースと前記マスターモールドとを分離する工程と,
前記モールドベースの微細凹凸構造を有する表面に,金属酸化物層を形成する工程と,
離型層を形成する工程とを有する,ナノインプリント用モールドの製造方法。」

の点で一致し,以下の点で相違している。

<相違点1>
金属酸化物層を形成する工程に関し,本願補正発明においては,「金属酸化物をターゲットに用いたスパッタ法」によると特定するのに対して,引用発明においては,この点が特定されていない点。

<相違点2>
離型層を形成する工程に関し,本願補正発明においては,「金属酸化物層の表面をフルオロアルキル基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を有する化合物で処理して」と特定するのに対して,引用発明においては,この点が特定されていない点。

<相違点3>
光硬化性樹脂組成物に関し,本願補正発明においては「前記光硬化性樹脂組成物が,厚さ200μmの硬化物としたときの波長360nmの紫外線透過率が92%以上となる光硬化性樹脂組成物である」と特定するのに対して,引用発明においては,この点が特定されていない点。

以下,相違点について検討する。

相違点1について
引用文献には,パターン部表面に形成される硬質層の形成方法として,プラズマ気相蒸着法が記載されてはいるが(上記(1)ク),あくまでも一例として例示されているものであり,それに限定されてはいない。そして,樹脂型の表面に形成される硬質皮膜の形成方法として,スパッタ,めっき,蒸着の手法は周知(要すれば,特開2008-74043号公報の段落【0028】参照のこと)であり,金属酸化物のスパッタにおいて,金属酸化物をターゲットするスパッタ法と金属をターゲットとした反応性スパッタ法があることも周知の技術事項である。
また,スパッタ法での薄膜の作製の特徴として,成膜粒子のエネルギーが大きく付着力が強いこと,成膜が緻密で膜質は強いこと,複雑形状についての成膜性に優れることは周知(要すれば,「技術分野別特許マップ 化学16 物理的蒸着」平成11年度 特許庁作成https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/map/kagaku16/4/4-3.htm,サンユー電子株式会社HPhttp://www.sanyu-electron.co.jp/c/index.php?cID=172 ,尾池工業株式会社HPhttp://www.oike-kogyo.co.jp/dry-coating/making/sputtering.html,参照のこと)である。
そうすると,引用発明の金属酸化物層の形成にあたって,当該周知の方法の中から,金属酸化物をターゲットとしたスパッタ法を選択することは想到容易である。
スパッタ法を選択することで複雑な微細凹凸構造の全てを平均的に被覆でき,また,金属酸化物層の膜質が緻密になり,金属酸化物層とモールドベースとの密着性が向上し,結果として耐久性が向上するとの効果は,当業者が予測しうる程度のものであるといえる。

請求人は,金属酸化物をターゲットに用いるスパッタ法を採用したことによって,金属をターゲットとしたスパッタ法に比べ,「光透過性」に優れるナノインプリント用モールドが得られる旨主張するが(平成25年9月19日付け意見書及び該意見書と共に提出された実験成績書),金属酸化物をターゲットとするスパッタ法を採用したことで,金属をターゲットとしたスパッタ法に比べ,「光透過性」に優れるナノインプリント用モールドが得られるとの効果は,以下の検討のとおり,認めることはできないから,前記の請求人の主張は採用できない。

本願補正明細書には,以下の記載がある。
「(モールドベース)
モールドベースを構成する樹脂としては,光透過性樹脂が好ましい。光透過性とは,光を透過することを意味する。
・・・
光硬化性樹脂組成物の硬化物としては,生産性の点から,光硬化性樹脂組成物の光重合により硬化したものが好ましい。
光硬化性樹脂組成物の硬化物としては,厚さ200μmにおける波長360nmの紫外線透過率が92%以上のものが好ましく,92.5%以上のものがより好ましい。該紫外線透過率が92%以上であれば,モールドとして用いた場合に生産性が向上する。」(段落 【0027】?【0028】)
「(金属酸化物層)
金属酸化物層は,光透過性であることが好ましい。」(段落 【0049】)
「金属酸化物層16の形成方法としては,蒸着法,スパッタ法,めっき法等が挙げられ,金属酸化物層16を均一に形成できる点から,スパッタ法が好ましい。
また,スパッタ法によれば,粒子の平均自由工程が蒸着に比べ短いため,複雑な微細凹凸構造の全てを平均的に被覆できる。また,スパッタ法によれば,粒子の衝突エネルギーが大きいため,金属酸化物層16の膜質が緻密になり,また,金属酸化物層16とモールドベース12との密着性が向上し,結果として,転写の耐久性が向上する。
スパッタ法としては,金属酸化物をターゲットに用いる方法;または,金属をターゲットに用い,堆積した金属層を酸素イオン照射により酸化して金属酸化物層とする方法(反応性スパッタ法)が挙げられる。」(段落 【0075】)
「(耐久性I)
厚さ100μmの高透過ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポン社製,帝人テトロンO3,100mm×100mm)の表面に,光硬化性樹脂組成物7をスピンコート法により塗布し,厚さ1μmの光硬化性樹脂組成物7の塗膜を形成した。
ナノインプリント用モールドを,溝が光硬化性樹脂組成物7の塗膜に接するように,25℃にて0.5MPa(ゲージ圧)で光硬化性組樹脂成物7の塗膜に押しつけた。
該状態を保持したまま,PETフィルム側から高圧水銀灯(周波数:1.5kHz?2.0kHz,主波長光:255nm,315nmおよび365nm,365nmにおける照射エネルギー:1000mJ。)の光を15秒間照射し,光硬化性樹脂組成物7を硬化させて,ナノインプリント用モールドの溝に対応する複数の凸条を有する光透過性基板(凸条のピッチPp:150nm,凸条の幅Dp:40nm,凸条の高さHp:200nm。)を作製した。光透過性基板からナノインプリント用モールドをゆっくり分離した。
以上の操作を1回とし,該操作を繰り返し行い,光透過性基板からナノインプリント用モールドを分離できなくなった回数を耐久性の指標とした。
(耐久性II)
耐久性Iにおいて光硬化性組樹脂成物7の代わりに,光硬化性組樹脂成物8を用いた他は,耐久性Iと同様の操作を行い,光透過性基板からナノインプリント用モールドを分離できなくなった回数を耐久性の指標とした。」(段落 【0107】)
「[例1]
モールドベースの作製:
・・・
結果を表1に示す。

」(段落 【0132】?【0158】)

また,本願の優先日前における当業者において,ナノインプリント用モールドの利用法として,UVナノインプリント,熱ナノインプリント,ソフトリソグラフィーがあること(要すれば,平成18年度 「平成18年度 特許出願技術動向調査 ナノインプリント技術及び成形加工におけるサブマイクロ成形加工技術」(要約版)1?3頁),及び,UVナノインプリントにおけるモールドの利用方法として,ナノインプリント用モールド側から紫外線を照射する形態のものが想定されること(要すれば,「平成18年度 特許出願技術動向調査 ナノインプリント技術及び成形加工におけるサブマイクロ成形加工技術」(要約版)1?3頁,及び,特開2006-182011号公報の段落【0101】,国際公開2006/059580号の段落【0050】参照)は周知である。
そうすると,本願補正明細書に記載されているナノインプリント用モールド自体の透明性について,本願補正明細書の記載及び上記周知である事項を総合すると,本願補正明細書に記載されているナノインプリント用モールドは,UVナノインプリント用モールド及び熱ナノインプリント用モールドとして利用でき,そのうちUVナノインプリント用のモールドの利用形態は,モールド側から紫外線を照射する利用と被成形体側から紫外線を照射する利用が想定されているものが記載されているといえる。すなわち,ナノインプリント用モールドの利用方法は,上述のとおり,必ずしもモールド側から紫外線を照射する利用法に限定されず,換言すると,ナノインプリント用モールドは,ナノインプリント用モールド自体が透明性を有したものに限定されず,透明性を有していない場合を包含していると認められる。

また,本願補正明細書においては,金属酸化物層の形成方法としてのスパッタ法について,「金属酸化物をターゲットに用いる方法;または,金属をターゲットに用い,堆積した金属層を酸素イオン照射により酸化して金属酸化物層とする方法(反応性スパッタ法)が挙げられる」との記載がされ,金属をターゲットとするスパッタ法と金属酸化物をターゲットするスパッタ法は同列に記載されている。
他方で,請求人が提出した平成25年9月19日付けの実験成績証明書における,金属酸化物をターゲットに用いるスパッタ法を採用したことによって,金属をターゲットとしたスパッタ法に比べ,「光透過性」に優れるナノインプリント用モールドが得られるとのデータは,本願補正明細書に記載されていない。
以上を総合すると,金属をターゲットとするスパッタ法に比べて,金属酸化物をターゲットとするスパッタ法が,より「光透過性」に優れるナノインプリント用モールドが得られるとの効果は,本願出願後に補充した実験結果により明らかになった事項であり,しかも,本願補正明細書に当該効果について認識できる程度の記載やこれを推論できる記載があるとも認められない。

相違点2について
引用発明の離型層を関して,引用文献には,具体的な離型層を形成する組成物として「FDTS(perfluorodecyltrichlorosilane)」(フルオロアルキル基を有する化合物)が例示される(上記(1)カ)とともに,「気相蒸着やディッピングなどの工程により形成する」(上記(1)ケ)と記載されていることから,引用発明における離型層の形成においても,「金属酸化物層の表面をフルオロアルキル基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を有する化合物で処理」するものを包含しているといえるから,相違点2は実質上の相違点ではない。
そうでないとしても,引用文献の上記(1)カ及びケの記載に基づいて,金属酸化物層の表面をフルオロアルキル基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を有する化合物で処理することで離型層を形成するようにすることは,当業者が想到容易である。

相違点3について
引用発明のナノインプリント用モールドは,段落【0029】の記載及び当業者の技術常識からみて,熱ナノインプリント用金型とUVナノインプリント用金型が想定されていることが理解できる。また,UVナノインプリント用の金型の場合には,紫外線に対しての透明性が要求されることは技術常識(要すれば,平成18年度 「平成18年度 特許出願技術動向調査 ナノインプリント技術及び成形加工におけるサブマイクロ成形加工技術」(要約版)1?3頁,特開2006-182011号公報,国際公開第2006/059580号参照のこと)である。そうすると,引用発明のパターン部の光硬化性樹脂組成物として紫外線透過率が高いものを用いることは想到容易であり,その具体的な数値は当業者が適宜設定しうる設計事項である。
そして、そのことによる効果についても,当業者が予測しうる程度のものである。

したがって,本願補正発明は,引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) まとめ
本願補正発明は,引用文献に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明は,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

6 補正の却下の決定のむすび

以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明

平成26年4月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?9に係る発明は,平成25年9月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりのものであり,その請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりである。

「支持基板の表面に光硬化性樹脂組成物の層を形成する工程と,
モールド面に微細凹凸構造を有するマスターモールドと前記支持基板を重ねて,前記マスターモールドのモールド面と前記支持基板の表面との間に前記光硬化性樹脂組成物を挟持する工程と,
前記光硬化性樹脂組成物が挟持された状態で該光硬化性樹脂組成物を硬化させて,前記モールド面の微細凹凸構造が反転した微細凹凸構造を表面に有するモールドベースを形成する工程と,
前記モールドベースと前記マスターモールドとを分離する工程と,
前記モールドベースの微細凹凸構造を有する表面に,金属酸化物をターゲットに用いたスパッタ法によって金属酸化物層を形成する工程と,
前記金属酸化物層の表面をフルオロアルキル基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を有する化合物で処理して離型層を形成する工程と
を有することを特徴とする,ナノインプリント用モールドの製造方法。」

第4 原査定の理由

原査定の理由は,要するに,本願発明は,引用文献1に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

第5 当審の判断

1 刊行物及び刊行物の事項事項並びに刊行物に記載された発明

原査定で引用された引用文献1である特開2008-68612号公報の記載事項及び記載された発明は,上記第2_5(1)及び(2)に記載したとおりである。

2 対比・判断

本願発明は,上記第2_2(2)で述べたとおり,本願補正発明における「光硬化性樹脂組成物」について,「前記光硬化性樹脂組成物が,厚さ200μmの硬化物としたときの波長360nmの紫外線透過率が92%以上となる光硬化性樹脂組成物であること」との限定事項を有しないものに相当する。
そうすると,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第6 むすび

以上のとおり,原査定の理由は妥当なものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-07 
結審通知日 2015-05-12 
審決日 2015-05-25 
出願番号 特願2010-515925(P2010-515925)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星 功介粟野 正明  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 田口 昌浩
大島 祥吾
発明の名称 ナノインプリント用モールドの製造方法および表面に微細凹凸構造を有する樹脂成形体ならびにワイヤグリッド型偏光子の製造方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 鈴木 三義  
代理人 柳井 則子  
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