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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1302893
審判番号 不服2014-7611  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-24 
確定日 2015-07-09 
事件の表示 特願2008-235836「プレート式反応器」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月 2日出願公開、特開2010- 69344〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年9月16日の出願であって、手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成24年11月12日付け 拒絶理由通知
平成25年 1月18日 意見書・手続補正書
平成25年 2月25日付け 拒絶理由通知
平成25年 4月30日 意見書・手続補正書
平成26年 1月21日付け 拒絶査定
平成26年 4月24日 本件審判請求・手続補正書
平成26年 7月 8日付け 前置報告書
平成26年 9月10日 上申書

第2 平成26年4月24日付け手続補正についての補正の却下の決定

1 補正の却下の決定の結論

平成26年4月24日付けの手続補正を却下する。

2 理由

(1) 補正の内容

平成26年4月24日付けの手続補正書による特許請求の範囲の補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲の請求項1について次のとおり補正することを含むものである(なお、補正箇所に下線を付した。)。

ア 本件補正前
「 【請求項1】
ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置され、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器において、
前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが0.05mm以上20mm未満であり、
伝熱管を流れる熱媒の方向が反応容器内の反応原料ガスの流れ方向に対して直交する方向であり、
反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さが5?50mmであり、反応原料ガスの流れ方向と平行方向における前記伝熱管の断面の最大長さが10?100mmであり、
各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離が10?50mmであり、
200℃?430℃の反応温度で、メタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸又はアクリル酸の製造に用いることを特徴とするプレート式反応器。」

イ 本件補正後
「 【請求項1】
ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置され、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器において、
前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが4mm以上20mm未満であり、
伝熱管を流れる熱媒の方向が反応容器内の反応原料ガスの流れ方向に対して直交する方向であり、
反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さが5?50mmであり、反応原料ガスの流れ方向と平行方向における前記伝熱管の断面の最大長さが10?100mmであり、
各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離が10?50mmであり、
200℃?430℃の反応温度で、メタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸又はアクリル酸の製造に用いることを特徴とするプレート式反応器。」

(2) 補正の目的

上記請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが0.05mm以上20mm未満であり」を、「前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが4mm以上20mm未満であり」とするものであるから、当該「連結部」の反応原料ガスの流れ方向の長さに係る数値範囲を狭める(限定する)ものである。そして、当該補正は、請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3) 独立特許要件の検討

上記のとおり、請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するものであるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)についての検討を要するところ、当審は、本願補正発明は後記引用文献1に記載された発明(引用発明)及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許出願の際独立して特許を受けることができないものである、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

ア 本願補正発明
本願補正発明は、再掲すると次のとおりのものである。
「 【請求項1】
ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置され、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器において、
前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが4mm以上20mm未満であり、
伝熱管を流れる熱媒の方向が反応容器内の反応原料ガスの流れ方向に対して直交する方向であり、
反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さが5?50mmであり、反応原料ガスの流れ方向と平行方向における前記伝熱管の断面の最大長さが10?100mmであり、
各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離が10?50mmであり、
200℃?430℃の反応温度で、メタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸又はアクリル酸の製造に用いることを特徴とするプレート式反応器。」

イ 引用文献とその記載事項
(ア) 引用文献
1.特開2004-202430号公報
(原査定の拒絶理由における引用文献1)
2.特開平6-180194号公報
(原査定の拒絶理由における引用文献2)
(イ) 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由において、引用文献1として引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-202430号公報には、以下の事項が記載されている。
(1-a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧或いは楕円弧に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成された一対の伝熱プレートを、複数対配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成したことを特徴とするプレート型触媒反応器。
・・・
【請求項4】
複数の波形伝熱プレートを放射状に配置し、反応原料ガスを触媒層の内側から外側へ流し、熱媒体は波板プレートの流路内を反応原料ガスに対して、十字流の方向に流すことを特徴とする請求項1?2のいずれかに記載のプレート型触媒反応器
・・・
【請求項6】
分子状酸素含有ガスを用いてプロピレン又はイソブチレンを酸化し、(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸を製造する、或いは(メタ)アクロレインを分子状酸素含有ガスを用いて(メタ)アクリル酸を製造することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のプレート型触媒反応器。」
(1-b)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペレット状或いは球状の不均一固体触媒を用いた発熱又は吸熱を伴う気相反応によって、ガス状の反応原料を転換し有用成分を製造するためのプレート型触媒反応器に係り、固体の不均一触媒が充填された触媒層において発生或いは消費される反応に伴う熱が、伝熱プレートで隔離された内部の熱媒体によって除熱或いは供給加熱され、該触媒層内の温度分布を効率的に制御することにより、反応成績の向上及び触媒寿命の延長が期待できるプレート型触媒反応器に関するものである。」
(1-c)
「【0010】
・・・
即ち、本発明はペレット状或いは球状の固体触媒を用いる不均一気相反応を実施する方法において、触媒層内の温度上昇を抑えホットスポットの形成を防止し、当該触媒層に充填された触媒の劣化を防ぐことによって触媒寿命の延長を可能ならしめるとともに、反応の選択性を最適に保ち、触媒層を通過する反応原料ガスの圧力損失の増大を防止することが可能な、新規のプレート型触媒反応器を提供することを目的とする。」
(1-d)
図2として、2枚の波板を接合して形成された伝熱プレートの拡大図が以下のように示され、この図に関し以下のように説明されている。
【図2】

「【0016】
次ぎに、図2?6によって伝熱プレート1の構成を更に詳しく説明する。
図2は2枚の波板11を接合して形成された伝熱プレート1であって、波の形状は円弧の一部で構成されているが、製作の都合や反応原料ガスの流動を考慮して決定することができる。また波の高さHと波の周期Lには特に制限はないが、高さHは5?50mmで周期Lは50?200mmが適当であるが、触媒層3内での反応に伴う反応熱とそれを除熱或いは加熱する熱媒体の流量から決定される。
熱媒体が液体の場合、熱媒体流路2内での熱媒体の流量は、流速が0.1?5m/sの範囲になるように調整される。流速が低いと熱媒体の伝熱抵抗が大きくなり熱効率が低下する。熱媒体の線速度が大きすぎると熱媒体の圧力が大きくなり供給ポンプの負荷が大きくなる。」
(1-e)
図6として、伝熱プレートを放射状に配置したプレート型接触反応器の横断面図が以下のように図示され、この図に関し以下のように説明されている。

「【0020】
図6において、波形伝熱プレート1で囲まれた反応帯域が多数放射状に配置することによりコンパクトな装置とした実施態様であり、反応帯域に充填された触媒層3は垂直に伸びている。
反応原料ガスはプレート型接触反応器の中心部の反応ガス入口4より供給され触媒層3を放射方向に通過した後、当該反応原料ガスはプレート型接触反応器の最外殻部を通って反応ガス出口5より反応器外へ排出される。
温度制御された熱媒体は、供給口6から分配管より各伝熱プレート1で構成される熱流体流路へ分配され通過する。そして触媒層3での反応熱を熱交換した熱媒体は集液管を介して熱媒体出口(図には示されていない)より排出される。」
(1-f)
「【0025】
本発明は触媒層の温度制御が目的であるので、熱媒体の入口の温度と出口温度との差は非常に重要である。熱媒体流量は必要な入口温度と出口温度との差によって決定される。熱媒体の流量は、入口温度と出口温度との差で0.5?10℃程度に設定されるが、好ましくは2?5℃である。
熱媒体流量が大きいと温度差は小さいが、熱媒体ポンプや熱交換器が大きく経済的に不利となる。流量が小さすぎると、入口温度と出口温度との差が大きくなり、熱媒体の入口付近の反応温度と出口温度の反応温度が異なり、触媒層温度の制御が均一では無くなる間題点が発生する。プレート型触媒反応塔の熱媒体流路は必要な流量と線速度を満足するように、その断面が決定される。」
(1-g)
「【0026】
熱媒体の循環は通常ポンプが用いられる。熱媒体は熱交換器を用いるか、温度の異なる媒体を混合することによって温度制御された後に、触媒反応器の波形の熱媒体流路2内のに供給される。
熱媒体は伝熱プレート1を通じて触媒層3との間で反応熱を交換し触媒反応器から排出されて循環ポンプに戻る。熱媒体の循環系には熱媒体貯層を設置することもある。熱媒体流路2内での圧力は主として熱媒体ポンプの吐出圧力によって決まり、そして当該伝熱プレート1の板厚は熱媒体と触媒層3の圧力差により決定される。
伝熱プレート1として平板を用いる場合には、熱媒体の圧力を保持するのに必要な厚さの金属プレートを用いなければならない。然るに本発明の伝熱プレート1は一定の間隙で平行に接合されている為、薄板の金属プレートを用いることができる。具体的には、熱媒体の圧力が3MPa程度でも、伝熱プレート1の板厚は2mm以下、好適には1mm以下の金属板を用いることができる。」
(1-h)
「【0028】
充填される触媒の形状は、球状、円柱状或いはラシッヒリング形状のものが用いられることが一般的である。粒径は3?20mmφであるものが多い。伝熱プレート1と隣り合った伝熱プレート1との最小間隔S_(1)、S_(2)、S_(3)は用いる触媒の粒径によって変わり、通常、触媒粒径の1.5倍以上である必要がある。
具体的には反応原料ガスの入口の伝熱プレート間距離のS_(1)は5?20mm、触媒層の中間部分のS2は10?30mm、反応原料ガスの出口付近のS_(3)は20?50mm程度に設定される。好ましくは、S_(1)は10?15mm、S_(2)は15?20mm、S_(3)は30?40mmが選定される。
【0029】
それぞれの伝熱プレート1の間隙Sの詳細は、反応量の変化によって異なるが、触媒層3の入口から出口まで連続的に変化させても良いし、段階的に変化させても良い。寧ろ、触媒を製造する際の反応活性の不揃いを考慮すれば、段階的に伝熱プレート1の間隙Sを変化させた方が自由度を確保できて良い。
それぞれの領域の分割数は2?5段階が妥当であり、また各領域の長さは全触媒層長さに対してS_(1)部分は1/10?1/3、同S_(2)部分は1/5?1/3、同S_(3)部分は1/4?1/2の触媒層長さが適用されるが、S_(3)部分の触媒層長さは反応の転換率の達成度によって異なる。
また触媒層3の入口の前に、反応原料ガスを予熱ゾーンを設ける場合は、S_(1)部分の層長に追加される。
【0030】
反応原料ガスの流れ方向に入口から出口までの、触媒層厚さの変化の詳細は、一概には決定できない。その理由は、反応速度、出口での最終転化率や副反応も含めた反応に伴う反応熱量などの反応因子、熱媒体の温度、流速や反応原料ガスの流速、熱容量及び除熱/加熱に伴う伝熱係数などの伝熱因子、更には触媒が損傷されない許容温度や触媒の劣化が促進されない温度などの触媒に関連する因子によって決定されるべきものである。
理想的には、触媒層厚さの変化割合は触媒層の長さ方向の各領域における反応の吸/発熱量の逆数に比例させるべきと考えられる。上に示した因子の内、触媒層厚さの最適変化割合に影響を与える主要因子の1つは、反応原料ガス出口での最終転化率と考えられる。
【0031】
触媒層の温度分布は各段階の反応量によって変化するが、触媒に損傷を与えない温度や触媒の劣化を促進させない温度以下に制御すること及び目標である反応の最終転化率を得られることは実用上可能である。
上記の影響因子のうち、伝熱に関する因子はプレート型接触反応器を設計する際には、十分に考慮される。触媒層の除熱/加熱の効率を上げるためには、反応原料ガスの流速を上げることが好ましいが、触媒層内を通過する際の圧力損失が大きくなるという欠点を有する。
一般の反応器においても、触媒が高温で急速に劣化する懸念がある場合には、触媒を充填する際に触媒と不活性物質とを混合して、触媒の反応活性を抑え触媒層温度を制御することが行われる。触媒の希釈は本発明のプレート型触媒反応器にも適用可能である。」
(1-i)
「【0033】
プロピレン又はイソブチレンを分子状酸素含有ガスを用いて酸化反応によって、(メタ)アクロレインや(メタ)アクリル酸を製造する場合に、本発明の反応器は好適に使用される。
プロピレン又はイソブチレンの酸化反応は反応熱が大きく、酸化反応器に充填された触媒層の温度分布を制御して、触媒の損傷を防ぎ高収率で(メタ)アクロレインや(メタ)アクリル酸を製造し、長期に安定して酸化触媒を使用することは、経済的観点から絶対に必要なことである。特に(メタ)アクロレインを分子状酸素で酸化して(メタ)アクリル酸を製造する工程では、用いる酸化触媒の特性から300?350℃高温に曝されると短期間で触媒の活性が失われる場合もある。更に近年、アクリル酸を製造する反応器は大型化される傾向がある。反応器の大型化に伴って、触媒層の温度の均等に冷却することが可能な酸化反応器の開発は非常に重要な技術的ポイントである。
【0034】
プロピレンやイソブチレンの分子状酸素による不均一接触気相酸化反応は、従来公知の方法で行うことができる。 プロピレンの場合は、プロピレンと空気、水蒸気又は窒素を混合し反応原料ガスとする。プロピレン濃度は3?14容量%で酸素は6?18容量%で残りは水蒸気、窒素などの不活性ガス及びプロパンなどである。
熱媒体温度は250?350℃で空間速度(SV)は標準状態で500?3000(1/hr)である。反応圧力は150?250kPaで熱媒休としては硝酸塩混合物の溶融塩(ナイター)や多核芳香族系の有機熱媒体などが用いられることが多い。
触媒層内温度は最高点で350?400℃に抑えることによって、触媒の劣化を抑えることができるし、反応成績も向上し、アクリル酸及びアクロレインの収率も向上することが実証された。」
(1-j)
「【0035】
【実施例】
(実施例1)
プロピレンを分子状酸素により酸化してアクリル酸を製造するに当たり、前段触媒として、Mo(12)Bi(5)Ni(3)Co(2)Fe(0.4)B(0.4)K(0.1)Si(24)O(x)の組成の触媒粉末を製造し、これを成型し外径5mmφ、内径2mmφ及び高さ4mmのリング状触媒を製造した。同様にして、後段触媒として、Sb(100)Ni(43)Mo(35)V(7)Nb(3)Cu(9)Si(20)O(x)の組成の触媒粉末を製造し、これを前段触媒と同じ形状のリング状触媒を製造した。但し、ここで(x)は各々の金属酸化物の酸化状態によって定まる値である。
一対の波形伝熱プレート1を2組準備した。またその波板形状の詳細と触媒及び不活性物質(イナート)の充填量を下記表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
ここで、波板形状のLとHは図2に示した波形状の幅と長さを表し、触媒層の相当厚さは触媒充填量と触媒層高さから求めた。波板の幅は1mで、厚みは0.8mmの平板を成形した波板2枚を接合したものを伝熱プレートとした。
波形伝熱プレート1の問隔(図1に示すP_(1)及びP_(2))を45mmに調節して反応器とし、2組の伝熱プレートの間に触媒を充墳した。
触媒は先ず後段触媒を23リットル充填したが、触最層の充填高さは1.2mであった。その上に反応に不活性なアルミナ製の球形イナートボール(直径5mmφ)を充填して層高を調整し、反応器の前段相当部分を埋めたが、充填量は5リットルとなった。
同様にして、後段触媒の上に前段触媒を30リツトルとイナートを5リットル充墳した。前段触媒の層高は1.25mであった。
不純物としてプロパンを含む純度99%のプロピレンを用いて、空気、窒素及び水蒸気を混合して反応に用いた。混合ガスの組成はプロピレン(プロパン含む):空気:水蒸気:窒素が7:73.5:10:9.5容量%となるように混合比率を調整した。該反応原料ガスを上記波形プレート反応器の上部より、65立方メ-トル(標準状態)/毎時の割合で供給した。プロピレンの供給量は毎時8.4kg/hrであった。
【0038】
熱媒体として、サ-ムエス900(新日織化学(株)製)を用い、波形伝熱プレートの熱媒体流路に供給した。熱媒体の流量は前段触媒部に100立方メートル/毎時、後段触媒部に85立方メートル/毎時とした。
それぞれの反応部の転化率を測定しながら、熱媒体の供給温度を調節したところ、前段反応部ではプロピレンの転化率95%の時、287℃であった。後段反応部でのアクロレイン転化率を99.5%に調飾したところ、熱媒体温度は260℃であった。
反応器内の触媒層温度を測定したところ、前段触媒層の最高温度は359℃で、後段触媒層での最高温度は297℃であった。この状態で1ヶ月間運転を継続したが、問題なく順調に推移した。」

(ウ) 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由において、引用文献2として引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-180194号公報には、以下の事項が記載されている。
(2-a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 筒体の両側端部に設けられた管板間に冷却媒体が流通する複数本の伝熱管を配設し、この伝熱管を介して前記冷却媒体により冷却される被冷却媒体が前記筒体内を流通する多管式熱交換器において、
前記筒体内を筒体の軸方向に平行に仕切るバッフル板と複数の前記伝熱管とを一体化した伝熱管群を前記筒体内に所定の間隔をもって平行に複数列配設し、前記伝熱管群のバッフル板の端部に前記被冷却媒体を通過させる連通口を設け、前記被冷却媒体が前記伝熱管群の伝熱管に沿って前記筒体内を蛇行状に流通することを特徴とする多管式熱交換器。」
(2-b)
図1ないし3として、第1実施例を示す熱交換の断面構造が以下のように図示され、これらの図に関し以下のように説明されている。
【図1】

【図2】

【図3】

「【0014】
【実施例】次に、本発明の多管式熱交換器を、図に示す一実施例に基づき説明する。
〔第1実施例〕図1乃至図2、図3は本発明の第1実施例を示すもので、図1は熱交換器の断面構成図、図2は図1の断面A─A矢視図、図3は図1の断面B-B矢視図を示したものである。
【0015】熱交換器は図1および図2に示すように、筒体をなす胴体1と、冷却媒体通路と被冷却媒体通路を分離する管板3a、3bと、管板3a、3bとの間に冷媒室を形成するサイドカバー4a、4bと、この冷媒室を分割させる仕切り板5a、5bおよび冷却媒体の通路となる複数の伝熱管部2とからなる。
【0016】胴体1は中空の円筒形状を有し、この胴体1における上部の一側端部に被冷却媒体流入口6が備えられ、さらに胴体1における下部の他側端部には被冷却媒体流出口7が設けられている。管板3a、3bは伝熱管部2の端部が貫挿されうる複数の穴部を有する円板状部材である。そして、サイドカバー4aには冷却媒体流出口8が設けられ、サイドカバー4bには冷却媒体流入口9が設けられている。またこのサイドカバー4a、4bの内面に一体成形された仕切り板5a、5bは、この仕切り板5a、5bを左右管板3a、3bに、図示しないパッキン等のシール部材を介して当接させることにより冷媒の流路を規定している。
【0017】また本実施例においては、図2および図3に示すように、断面真円形状の複数本の伝熱管部2と、板状部材のバッフル板部10は交互に配列されるように、押し出し成形等により、略板状の伝熱管群として一体成形されている。この伝熱管群は、胴体1内に所定の間隔をもって、胴体1の法線方向に複数配列されている。そして、第1伝熱管群11、第3伝熱管群13、第5伝熱管群15、第6伝熱管群16におけるバッフル板部10の両端部には、被冷却媒体を通過させる長穴部17を有し、第2伝熱管群12は第1冷媒室18側のバッフル板部10端部にのみ被冷却媒体を通過させる長孔部17を有し、第4伝熱管群14は第4冷媒室21側のバッフル板部10端部にのみ被冷却媒体を通過させる長穴部17を有している。
【0018】次に本実施例の熱交換器を組立て順序により説明すると、各伝熱管群11?16の伝熱管部2の突出端部を、管板3a、3bに穿設された穴部に嵌挿する。そして各伝熱管群11?16と管板3a、3bはロウ付け等により固着される。次に胴体1とサイドカバー4aとOリング29を係合し、この中に組付けられた伝熱管群11?16と管板3a、3bを挿入する。この時管板3aは、Oリング29の押付け力により気密および保持されることになる。そして最後に第1冷媒室18および第3冷媒室20のサイドカバー4bが、ボルト締めまたはロウ付け等により取り付けられる。」
(2-c)
図5として、伝熱管群の形状のバリエーションを示す側面図が以下のように図示され、図5(ハ)に関し以下のように説明されている。
【図5】

「【0032】尚、伝熱管群11?16の形状のバリエーションについては、・・・
【0033】・・・プレス加工の場合は、図5(ハ)に示すように、上部と下部をプレス加工により形成し、この接合により伝熱管群11?16を得ることができる。このとき、プレス加工の工程で長孔部17も同時に穿設することが可能である。」
(2-d)
「【0036】
【発明の効果】本発明によれば、伝熱管とこの伝熱管の軸方向に延びるバッフル板とを一体化し、この伝熱管群を複数列平行に配設することにより、組付工程のを簡略化し組付効率の向上を達成できると共に、冷却媒体の流れと被冷却媒体の流れが平行流となり、熱交換性能の向上が達成できる。」

ウ 引用発明
上記引用文献1の摘記事項(1-a)に記載された請求項1及び請求項4を引用する請求項6を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「円弧或いは楕円弧に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成された一対の伝熱プレートを、複数対配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成し、
複数の波形伝熱プレートを放射状に配置し、反応原料ガスを触媒層の内側から外側へ流し、熱媒体は波板プレートの流路内を反応原料ガスに対して、十字流の方向に流し、
分子状酸素含有ガスを用いてプロピレン又はイソブチレンを酸化し、(メタ)アクロレインおよび(メタ)アクリル酸を製造する、或いは(メタ)アクロレインを分子状酸素含有ガスを用いて(メタ)アクリル酸を製造する、
プレート型触媒反応器。」

エ 本願補正発明と引用発明との対比
引用発明における「プレート型触媒反応器」は、本願補正発明における「プレート式反応器」に相当するものである。
そして、当該「プレート型触媒反応器」は、隣り合った伝熱プレート間に形成された触媒層に、反応原料ガスを流し、アクロレインなどを製造するための所定の化学反応を行うものであるところ、これを具現化した装置(上記摘記事項(1-e)参照)の構造からも明らかなとおり、この化学反応を行うための反応容器が必要であるとともに、当該反応容器は、この反応に関与するガスを供給・排出するための機構を有することはいうまでもない。
また、熱媒体を熱媒体流路に供給するためには、ポンプ等の供給装置を必要とすることも自明である(上記摘記事項(1-g)参照)。
さらに、引用発明における伝熱プレートのうち、熱媒体流路を構成する部分は、本願補正発明における「伝熱管」に相当するものであるとともに、引用発明における熱媒体は、当該熱媒体流路内を反応原料ガスに対して、十字流の方向、すなわち、本願補正発明でいうところの「直交する方向」に流されるものである。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致するといえる。「ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器において、
伝熱管を流れる熱媒の方向が反応容器内の反応原料ガスの流れ方向に対して直交する方向であり、
メタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸又はアクリル酸の製造に用いることを特徴とするプレート式反応器。」
そして、両者は、次の点で相違するものと認められる。
(ア) 相違点1:連結部に係る相違
本願補正発明における伝熱プレートは、「複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置され」るとともに、当該「連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが4mm以上20mm未満であ」るのに対して、引用発明は、その点の明示がない点。
(イ) 相違点2:伝熱管の形態に係る相違
本願補正発明における伝熱管の形態は、「反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さが5?50mmであり、反応原料ガスの流れ方向と平行方向における前記伝熱管の断面の最大長さが10?100mmであり、各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離が10?50mmであ」るのに対して、引用発明は、その点の明示がない点。
(ウ) 相違点3:反応温度に係る相違
本願補正発明は、メタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸又はアクリル酸の製造の際の反応温度を「200℃?430℃」と特定しているのに対して、引用発明は、その点の明示がない点。

オ 相違点の検討
(ア) 引用文献2に記載された技術的事項と接合関連の技術常識の整理
以下、上記相違点1ないし3について検討していくが、予め、引用文献2に記載された技術的事項及び接合関連の技術常識について整理しておく。
(i)引用文献2に記載された技術的事項
引用文献2には、上記摘記事項(2-a)より、
「筒体の両側端部に設けられた管板間に冷却媒体が流通する複数本の伝熱管を配設し、この伝熱管を介して前記冷却媒体により冷却される被冷却媒体が前記筒体内を流通する多管式熱交換器において、
前記筒体内を筒体の軸方向に平行に仕切るバッフル板と複数の前記伝熱管とを一体化した伝熱管群を前記筒体内に所定の間隔をもって平行に複数列配設し、前記伝熱管群のバッフル板の端部に前記被冷却媒体を通過させる連通口を設け、前記被冷却媒体が前記伝熱管群の伝熱管に沿って前記筒体内を蛇行状に流通することを特徴とする多管式熱交換器。」が開示されているといえる。
また、上記摘記事項(2-b)より、その具体的形態として、図1ないし3に記載の装置を認識することができ、摘記事項(2-c)より、上記「伝熱管群」は、図5(ハ)に示されたような形状にプレス加工された2つの部材を接合することによって製造することができることを理解することができる。
そして、摘記事項(2-d)より、上記「多管式熱交換器」は、伝熱管とこの伝熱管の軸方向に延びるバッフル板とを一体化し、この伝熱管群を複数列平行に配設することにより、組付工程を簡略化し組付効率の向上を達成できるとともに、冷却媒体の流れと被冷却媒体の流れが平行流となり、熱交換性能の向上が達成できる、という効果を奏することが分かる。
(ii)接合関連の技術常識
接合(溶接)の技術分野に携わる技術者にとって、接合部の健全性を確保することは、最重要課題の一つにほかならず、被接合部位の形状、接合作業性、接合材料といった種々の技術的事項に関する改善・工夫は、まさにこの健全性確保のためといっても過言ではない。このような現状に照らすと、接合部の健全性の確認、すなわち、接合部の接合強度(機械的強度)が十分であるか、接合欠陥は生じていないかといった確認は、上記技術者が真っ先に検証すべき事項であるということができる。
そして、この接合強度は、被接合材料どうしの接合面積(接触面積)と密接に関連しており、一般に接合面積が大きい程、接合強度が高くなることが知られているところ、波板のような特殊な形状の被接合部材を接合する場合には、被接合部材どうしの接触部位が「線接触」であると、当該接合面積が十分に確保できず、結果として十分な接合強度を得ることができないこと(接合強度の問題)から、当該接触部位を「面接触」の状態となるよう、被接合部材の形状を工夫するなどの対策が図られている(要すれば、下記参考文献1の【0009】、参考文献2の【0005】、【0016】、参考文献3の【0045】などを参照)。さらに、上記線接触状態で接合する場合、被接合部材の位置合わせが困難であること(接合作業性の問題)や、接合強度不足による被溶接部材間の剥離が生じやすいこと(接合欠陥の問題)も容易に予想されるところである。
このように、線接触状態下での接合は、接合作業性の問題はもとより、接合強度の問題や接合欠陥の問題を惹起しやすいこと、及び、その常套の対策としては、被接合部材間の十分な接触面積を得るため接触部位を平坦化するなどして面接触状態とする措置がとられていることは、接合部の健全性を確保する上での技術常識と捉えることができる。
なお、一般に、波板といってもその形状は多様であって、円弧部分(楕円弧部分)のみにより賦形された(形を与えられた)ものに限らず、円弧部分の間に平坦部分を有するようなものも波板と呼称されている(要すれば、参考文献1の図2ないし5参照)。
<参考文献>
1.特許第3645278号公報
2.特許第3287976号公報
3.特許第3816974号公報
(イ) 相違点1(連結部に係る相違)について
(i)連結部の形成について
引用発明における伝熱プレートは、円弧或いは楕円弧に賦形された2枚の波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成するものであるところ、引用文献1の図2(摘記事項(1-d)参照)には、波の形状を円弧の一部で構成した場合の具体例が示されており、そこには、2枚の波板の凸面部(尖った形状として図示されている部位)どうしが突き合わされ、線接触状態で接合されたものが記載されている。
ここで、上記図2には、確かに尖った形状の凸面部が図示されているものの、引用発明はあくまで「凸面部」と特定するにとどまり、上記図2に記載されたような尖った形状であるもののみに限定するものではないし、一般に、波板と呼称されるものにおいて存在し得る、円弧(楕円弧)部分間の平坦部分(上記オ(ア)(ii)参照)を特段排除するものではない。加えて、引用文献1の上記摘記事項(1-d)には、波板の形状を、「製造の都合や反応原料ガスの流動を考慮して決定することができる」とも記載されていることから、引用発明の伝熱プレートは、上記図2の形状に拘束されるものではなく、相応の形状変更を許容するものと解すべきである。
また、引用文献1の上記摘記事項(1-g)によると、引用発明の伝熱プレートは、一定の間隙で平行に接合されているため、薄板の金属プレートであっても熱媒体の圧力の保持が可能となっているのであるから、当該熱媒体の圧力を確実に保持するためには、接合部自体が相応の接合強度を有していなければならないことは明らかであり、引用発明には、このような接合強度に関する課題が既に内在しているということができる。
これらの点を踏まえながら、上記図2に記載された伝熱プレートを仔細にみると、当該伝熱プレートは、線接触状態下で、上記凸面部どうしが接合されていることから、上記オ(ア)(ii)にて説示した接合関連の技術常識を当然に熟知する当業者であれば、まずは上記接合強度の問題や接合欠陥の問題を危惧すると考えるのが妥当である(引用発明には上記接合強度に関する課題が内在している状況下においてはなおさらである。)。そして、上記常套の対策に倣い、この線接触部位を、面接触部位(尖った形状の部位を平坦化した部位)とし、より健全な接合部とすることは当然の帰着というべきであって、上記のとおり引用文献1にはこのような形状変更を許さないとする特段の事情も見当たらない。
加えて、上記オ(ア)(i)にて整理したとおり、引用文献2には、多管式熱交換器に用いられる、冷却媒体の流れと被冷却媒体の流れとを平行流とするために冷却媒体が流通する複数本の伝熱管をバッフル板と一体化した「伝熱管群」を、2枚の波板の平坦部分どうしを接合して製造する技術的事項が開示されている。
確かに、引用文献2記載の技術的事項は、冷却媒体の流れと被冷却媒体の流れを平行流として熱交換性能を向上させるものであることから、直交流にて熱交換を行う引用発明(さらには本願補正発明)とは、熱交換の形態が相違するものの、両者は、多数の伝熱管内に流通させた媒体と当該伝熱管外のものとの熱交換を行う点で、熱交換器という同一の技術分野に属するものであるといえることに加え、複数の伝熱管からなるプレート状の部材を波板の接合により製造している点で、製造技術についても酷似しているといえることから、引用文献2に記載された伝熱管群の形態やその製造技術を、引用発明において参酌することは、当業者にとってさほど困難なこととは認められない。
このように、引用発明における伝熱プレートには、当業者であれば当然に危惧する、線接触に起因する接合部の問題が内在する上、当該伝熱プレートと製造技術が酷似する上記引用文献2記載の伝熱管群が、同一の技術分野内に存在する状況下において、引用発明における伝熱プレートを、当該引用文献2記載の伝熱管群の形態、すなわち、被接合部材間の接触部位を平坦化して面接触部位(本願補正発明における「連結部」に相当)とした形態とすることは、当業者にとって容易なことといえ、このような形態の適用は、上記線接触に起因する接合部の問題への常套の対策とも合致する。そして、引用文献1を仔細にみても、引用発明における伝熱プレートが、上記図2の形態でなければならない特段の理由は見当たらないから、引用文献2記載の伝熱管群の形態の適用を妨げる要因も存在しない。
(ii)連結部の長さについて
上記した面接触部位を採用するにあたっては、接合部の健全性が最低限確保されていることが肝要であって、必要以上に、当該面接触部位の面積(接触面積)を広くすることは、かえって熱交換効率を低下させる原因となるため好ましくない。なぜなら、上記のとおり、引用発明は、多数の伝熱管内に流通させた媒体(熱媒体)と当該伝熱管外のもの(触媒層)との熱交換により、触媒層の温度制御を行うものであることから(摘記事項(1-b)、(1-c)(1-f)参照)、上記面接触部位の面積の増加に付随して逆に伝熱管表面(実際に熱媒体と触媒層との熱交換が行われる箇所)の面積が減少してしまうと、効率的な熱交換が行われないことは至極当然のことであるからである。
すなわち、上記面接触部位の面積(本願補正発明における連結部の「反応原料ガスの流れ方向の長さ」に相当)は、接合部の健全性確保と熱交換効率とのかねあいにより最適化されるべきものであって、その数値の下限値は所望する接合部の健全性確保の観点から、その上限値は所望する熱交換効率の観点から、それぞれ決定されるべき筋合いのものと認められる。
ただし、熱変換効率は、後記オ(ウ)(ii)において説示する伝熱因子などの諸因子に大きく影響されるものであるから、単に当該面接触部位の面積(連結部長さ)のみを規定しても意味はない。
一方、本件明細書には、連結部の長さに関し、
「【0022】
上記連結部が、隣り合う伝熱管間において熱媒が漏洩しないよう構成するためには、例えば上記連結部が反応原料ガスの流れ方向に一定以上の長さを有し、かつ溶接を確実に行うことが挙げられる。しかしながら、上記連結部が長すぎる場合には、連結部は熱媒による伝熱が他の伝熱管部分と比較して著しく小さく断熱状態に近いため、発熱反応であれば触媒層の温度が上昇し、触媒の劣化を生じさせ、目的物収率が低下する傾向にある。そこで本発明者らは、前記連結部の反応ガス流れ方向の長さを一定の値に制御することで、伝熱管間の熱媒の漏れを防止し、高い効率で安定的に目的物を得ることができることを見出した。
【0023】
上記連結部の反応原料ガスの流れの方向の長さは、伝熱プレートにおいてそれぞれ一定であってもよく、異なっていても良いが、上記触媒の劣化の防止や収率の低下の防止の観点から、上記Zが0.05mm以上40mm未満である。好ましくは上記Zが0.5mm以上30mm未満であり、より好ましくは上記Zが1.0mm以上20mm未満である。」、
「【0062】
<実施例1>
上記の反応器に上記触媒を充填し、プロピレンの酸化反応に関するシミュレーションを行った。熱媒流路間の距離は1mmとし、熱媒流路には熱媒体として硝酸塩類混合物溶融塩(ナイター)を用い、反応域1(61)に温度を調節した熱媒体を供給した(熱媒体温度:350℃)。熱媒体の供給量は熱媒体の流速が毎秒0.7m(メートル)以上となるようにした。
原料ガスとして、プロピレン濃度が9.5モル%、水濃度9.5モル%、酸素濃度14.2モル%、窒素66.8%である反応原料混合ガスを毎時3378リットル(標準状態)の割合で反応器中に流入させ、反応器入口の圧力は0.07MPaG(メガパスカルゲージ)として反応を行った。プレートの態様、プロピレン(PP)転化率、目的物である
アクロレイン(ACR)とアクリル酸(AA)の合計収率、触媒層の最大温度を表1に示す。
なお、実施例1を参考例1とする。
【0063】
<実施例2>
実施例1における反応器の熱媒流路間距離Zを4mmに変更したものを使用し、それ以外は実施例1と同様の条件にて反応を行った。プレートの態様、プロピレン(PP)転化率、目的物であるアクロレイン(ACR)とアクリル酸(AA)の合計収率、触媒層の最大温度を表1に示す。
【0064】
<実施例3>
実施例1における反応器の熱媒流路間距離Zを8mmに変更したものを使用し、それ以外は実施例1と同様の条件にて反応を実施した。プレートの態様、プロピレン(PP)転化率、目的物であるアクロレイン(ACR)とアクリル酸(AA)の合計収率、触媒層の最大温度を表1に示す。
【0065】
<比較例1>
実施例1における反応器の熱媒流路間距離Zを40mmに変更したものを使用し、それ以外は実施例1と同様の条件にて反応を実施した。プレートの態様、プロピレン(PP)転化率、目的物であるアクロレイン(ACR)とアクリル酸(AA)の合計収率、触媒層の最大温度を表1に示す。
触媒層最大温度が450℃以上となったため、反応を停止した。
【0066】
【表1】

」と記載されていることから、上記連結部長さ(熱媒流路間距離Z)の下限値は「溶接を確実に行う」という観点を、上限値は「連結部が長すぎる場合には、連結部は熱媒による伝熱が他の伝熱管部分と比較して著しく小さく断熱状態に近いため、発熱反応であれば触媒層の温度が上昇し、触媒の劣化を生じさせ、目的物収率が低下する傾向にある」という観点をそれぞれ踏まえて決定されていること、及び、実際、具体例(比較例1)のように40mmという本願補正発明の規定の上限値を外れる場合にあっては、触媒層最大温度が450℃以上となってしまい不具合が生じること、を把握することができる。
つまり、本件明細書のこれらの記載は、連結部長さの上下限値が、上記した引用発明において考慮されている観点と同じ観点にて決定されていることを教示するものであるし、また、上記具体例の数値は、段落【0062】などに記載された特定の熱媒体流速(さらには特定の触媒)を前提とするものであって、伝熱因子などの諸因子の影響を確認の上、決定されたものではない。
このように、引用発明において面接触部位(すなわち、本願補正発明でいう連結部)を採用するにあたり、その面積(長さ)は、接合部の健全性確保と熱交換効率とのかねあいにより決定されるのであるから、これと同じ観点で決定された本願補正発明の数値範囲に特異な臨界的意義は認められず、引用発明においてこれと同程度の数値範囲とすることに何ら困難なところはないといわざるを得ない。さらに、当該数値範囲はそもそも、伝熱因子などの諸因子に左右されるのであるから、当該諸因子を特定することなく単に連結部長さの数値範囲を決定することに特段の意味があるとは到底いえない。
そして、引用発明において接合部の健全性が十分に確保されれば、自ずと隣り合う伝熱管間において熱媒体が漏洩しない構成となると解するのが相当であるから、この点においても、本願補正発明と相違するものではない。
(iii)まとめ
以上、連結部の形成及び長さについて検討したとおり、本願補正発明が規定している「複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置され」る点は、接合関連の技術常識を踏まえると、引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得るものであり、本願補正発明が規定している「連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが4mm以上20mm未満であ」る点は、当業者による設計的事項の範疇のものと認められる。
(ウ) 相違点2(伝熱管の形態に係る相違)について
(i)伝熱管の断面形状について
まず、伝熱管の断面形状についてみると、引用文献1の上記摘記事項(1-d)には、「波の高さHと波の周期Lには特に制限はないが、高さHは5?50mmで周期Lは50?200mmが適当であるが、触媒層3内での反応に伴う反応熱とそれを除熱或いは加熱する熱媒体の流量から決定される。」と記載され、上記摘記事項(1-j)の【表1】には、具体的に、当該高さHが14?42mm、周期Lが50?100mmであるものも記載されている。そして、当該高さH及び周知Lはそれぞれ、本願補正発明における「反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における伝熱管の断面の最大長さ」及び「反応原料ガスの流れ方向と平行方向における伝熱管の断面の最大長さ」に相当するものと解される。
そうすると、引用発明における伝熱管の断面形状は、本願補正発明が規定している「反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さが5?50mmであり、反応原料ガスの流れ方向と平行方向における前記伝熱管の断面の最大長さが10?100mmであ」るという形状と同等のものであるということができる。
(ii)伝熱管の長軸間の距離について
次に、各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離についてみるに、本件明細書の段落【0027】には、この距離に関し、
「【0027】
隣り合う伝熱プレート間の距離Pは、伝熱管の横断方向において伝熱プレート間に3?40mmの幅の隙間が形成されるように、各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離で、10?50mm(隣り合う伝熱プレートにおける伝熱管の幅の半値の和の1.1?2倍)の範囲で設定することができる。」と記載されていることから、当該距離は、隣り合う伝熱プレート間の距離Pに関連して規定されたものであると理解できる。ただし、本件明細書を仔細にみても、当該距離の数値範囲の臨界的意義(特に定量的な作用効果)を把握するに足りる記載は見当たらない。
そして、この距離Pは、実質的に触媒層厚さに関連するものであるから、結局のところ、本願補正発明における上記「各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離」に関する規定は、触媒層厚さの最適化にほかならない。
一方、引用文献1の上記摘記事項(1-h)(特に【0030】参照)には、反応原料ガスのスロートS(隣り合う伝熱プレートの最小間隔)及び触媒層厚さについて詳述されており、具体的な数値範囲とともに、これらの数値は、反応速度、出口での最終転化率や副反応も含めた反応に伴う反応熱量などの「反応因子」、熱媒体の温度、流速や反応原料ガスの流速、熱容量及び除熱/加熱に伴う伝熱係数などの「伝熱因子」、更には触媒が損傷されない許容温度や触媒の劣化が促進されない温度などの「触媒に関連する因子」によって決定されるべきものであると説明されている。
そうすると、引用発明は、本願補正発明が規定する「各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離」について明示するものではないものの、本願補正発明における当該距離の規定は、本質的には触媒層厚さを最適化した結果にすぎず、その数値範囲の臨界的意義も確認し得ないこと、及び、引用発明においても、触媒層厚さは、伝熱因子などの諸因子(当然のことながら伝熱プレート全体の形状も考慮される。)を踏まえて最適化されていることに照らすと、引用発明において当該距離を最適化して(上記スロートSや触媒層厚さを調整した結果として最適化され)本願補正発明の数値範囲内とすることも当業者の通常能力の発揮の範疇というべきである。
(iii)まとめ
以上、伝熱管の断面形状及び長軸間の距離について検討したとおり、本願補正発明が規定している「反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さが5?50mmであり、反応原料ガスの流れ方向と平行方向における前記伝熱管の断面の最大長さが10?100mmであり、各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離が10?50mmであ」るという伝熱管の形態は、既に引用発明における伝熱管が具備するものであるか、又は、上記諸因子などを加味しながら当業者が最適化し得る程度の設計的事項の範疇のものと認められる。
そして、当該伝熱管の形態は、そもそも上記諸因子などとの関係を特定してはじめて意味を有するものであるから、これを特定せず単に当該形態をその形状(寸法)のみで規定することに格別の創意が見出されるものではないし、事実、本件明細書を仔細にみても、当該形状(寸法)を規定することの有利な効果を認めるに足りる記載は見当たらない。
(エ) 相違点3(反応温度に係る相違)について
引用文献1には、反応温度自体の直接的記載はないが、引用発明が対象とするアクロレインなどの製造に係る化学反応は発熱反応であるから、おおよそ、熱媒体温度(冷却媒体)より高く、触媒層の最高温度よりは低いものと推認できるところ、引用文献1には、上記摘記事項(1-i)に、熱媒体温度は「250?350℃」、触媒層内の最高点は「350?400℃」と記載され、摘記事項(1-j)には、熱媒体温度は「287℃」、「260℃」、最高温度は「359℃」、「297℃」と記載されていることから、引用発明における反応温度は、本願補正発明が規定する、「200℃?430℃」という温度範囲内にあると解するのが相当である。
また、仮に、引用発明における反応温度が、上記本願補正発明の温度範囲と多少相違するとしても、当該反応温度は、上記オ(ウ)(ii)において説示した「触媒に関連する因子」などを考慮して、温度管理されるべきものであるから、このような温度範囲の設定も、当業者による設計的事項の域を脱するものとは到底いえない。
(オ) 相違点の検討のまとめ
以上検討のとおり、本願補正発明と引用発明とは、上記相違点1ないし3に係る技術的事項において相違するものの、これらの技術的事項は、接合関連の技術常識にも照らし合わせて考えると、引用文献2記載の技術的事項、あるいは、当業者の通常能力の発揮により克服し得るものということができ、上記相違点に係る技術的事項を具備することにより期待される本願補正発明の作用効果も、格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

カ 審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書あるいは平成26年9月10日付けの上申書において、概略以下の(ア)、(イ)の点を主張する。
(ア) 動機付けの不存在について
引用発明に対して引用文献2記載の技術的事項を転用(適用)するための動機付けが存在しない。その理由は、(i)引用文献2記載の技術的事項は、被冷却媒体の流れる部分に触媒が充填されること、すなわち、被冷却媒体中で反応が起こることを前提としたものではなく、引用発明とは前提が異なること、(ii)引用文献2記載のバッフルは、被冷却媒体の流れを冷却媒体の流れと平行流とするための流路形成用として使用されており、直交流の形成を目的とし、かつ既に伝熱プレート自体により流路形成が達成できている引用発明とは事情が異なること、(iii)引用発明においてバッフルを設けると、発熱反応の場合であれば、触媒層の温度が上昇し、触媒の劣化を促進する恐れがあるため(本件明細書の比較例1にて実証)、当業者であれば、引用発明において伝熱管より伝熱が著しく小さいバッフル部分を設けようとは考えないこと、である。
(イ) 連結部長さに関する規定の技術的意義について
本件明細書の段落【0022】には、「・・・上記連結部が長すぎる場合には、連結部は熱媒による伝熱が他の伝熱管部分と比較して著しく小さく断熱状態に近いため、発熱反応であれば触媒層の温度が上昇し、触媒の劣化を生じさせ、目的物収率が低下する・・・・」と記載され、本件明細書の実施例3と比較例1との比較からみても、連結部の長さは、技術的な意義を有するものであるから、当業者が適宜設定し得るものではない。
そこで、上記審判請求人の主張について検討する。
まず、上記(ア)の動機付けの不存在については、既に上記オ(イ)(i)において説示したとおりである。すなわち、引用発明における伝熱プレートには、当業者であれば当然に危惧する、線接触に起因する接合部の問題が内在することや、引用文献2記載の伝熱管群は、引用発明の伝熱プレートと製造技術が酷似する上、両者は同一の技術分野に属することは、上記接合関連の技術常識を熟知する当業者にとって、引用発明と引用文献2記載の技術的事項とを組み合わせるための十分な動機付けとなり得るものであるから、当該(ア)の主張を採用することはできない。
また、上記(イ)の連結部長さに関する規定の技術的意義についても、既に上記オ(イ)(ii)において説示したとおり、引用発明においても、上記面接触部位を採用するにあたっては、接合部の健全性確保と熱交換効率とのかねあいを考慮するのであるから、本願補正発明が当該連結部長さの数値範囲を規定する理由と異なるところはないし、そもそも、当該数値範囲は、伝熱因子などの諸因子に左右されるものであって、当該諸因子の特定なしに単に数値範囲を決定することに特段の意義はないといわざるを得ないのであるから、当該(イ)の主張も採用できない。

(4) 小括

以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明

平成26年4月24日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成25年4月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、再掲すると、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置され、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器において、
前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが0.05mm以上20mm未満であり、
伝熱管を流れる熱媒の方向が反応容器内の反応原料ガスの流れ方向に対して直交する方向であり、
反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さが5?50mmであり、反応原料ガスの流れ方向と平行方向における前記伝熱管の断面の最大長さが10?100mmであり、
各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離が10?50mmであり、
200℃?430℃の反応温度で、メタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸又はアクリル酸の製造に用いることを特徴とするプレート式反応器。」

第4 原査定の拒絶理由

原査定の拒絶の理由は、「平成25年2月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由3」、すなわち、本願発明は、引用文献1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2004-202430号公報
引用文献2:特開平6-180194号公報

第5 引用文献の記載事項

原査定の拒絶の理由において引用された上記引用文献1、2は、上記「第2 2 (3)イ(ア)」に列記した刊行物であって、それらの記載事項は、上記「第2 2 (3)イ(イ)」、「第2 2 (3)イ(ウ)」に記載したとおりである。

第6 当審の判断

1 引用発明

引用文献1の記載事項から認定し得る引用発明についても、上記「第2 2 (3)ウ」に記載したとおりである。

2 対比・検討

上記「第2 2 (2)」にて説示したとおり、本願補正発明(上述の本件補正後の請求項1に係る発明)は、本願発明(上述の本件補正前の請求項1に係る発明)を特定するために必要な事項である「前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが0.05mm以上20mm未満であり」を、「前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが4mm以上20mm未満であり」とするものであり、当該「連結部」の反応原料ガスの流れ方向の長さに係る数値範囲をさらに限定するものである。逆に、本願発明は、本願補正発明における当該数値範囲を拡張したものということができる。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらにその数値範囲をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2 (3)」において検討したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであることから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。
すなわち、本願発明と引用発明とは、上記本願補正発明についての検討と同様の一致点及び相違点(相違点1に係る数値範囲のみ異なる)を有するところ、本願発明の当該相違点に係る技術的事項は、上記「第2 2 (3)オ」における説示と同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。そして、本願発明が当該相違点に係る技術的事項を具備することにより奏される作用効果についても、当業者が予測できる範囲のものであって格別なものではない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-01 
結審通知日 2015-05-12 
審決日 2015-05-25 
出願番号 特願2008-235836(P2008-235836)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01J)
P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知谷水 浩一  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 山田 靖
日比野 隆治
発明の名称 プレート式反応器  
代理人 下田 俊明  
代理人 香坂 薫  
代理人 丹羽 武司  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 高田 大輔  
代理人 川口 嘉之  

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