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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1302912
審判番号 不服2013-16875  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-02 
確定日 2015-07-07 
事件の表示 特願2009-504375「プロスタグランジンEP4作用薬」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月11日国際公開、WO2007/115001、平成21年9月10日国内公表、特表2009-532491〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2007年3月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年4月4日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年8月7日付けの拒絶理由通知に対して、平成25年2月20日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同年4月25日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年9月2日に審判請求がされ、同年10月11日に審判請求書を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成25年2月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「プロスタグランジンEP_(4) 作用薬のプロドラッグである化合物であって、前記プロスタグランジンEP_(4) 作用薬が、下記からなる群から選ばれる化合物、またはその製薬上許容し得る塩であり:

(式中、点線は、結合の存在または不存在を示し;
Aは、-(CH_(2))_(6)-、シス-CH_(2)CH=CH-(CH_(2))_(3)-または-CH_(2)C≡C-(CH_(2))_(3)-であり、1個または2個の炭素原子はSまたはOによって置換し得;或いは、Aは、-(CH_(2))_(m)-Ar-(CH_(2))_(o)-であり、Arはインターアリーレンまたはヘテロインターアリーレンであり、mとoの和は1?4であり、1個のCH_(2) はSまたはOで置換し得;
Jは、C=O、CHOHまたはCH_(2)CHOHであり;そして、
Eは、R^(2) または-Y-R^(2) であり、YはCH_(2)、SまたはOであり、R^(2) はヘテロアリールである)、
前記プロドラッグが、上記各化合物の末端カルボキシル基に天然アミノ酸がアミド結合した構造体を意味する、上記化合物。」
なお、上記「カルボキシル基」は正しくは「カルボキシ基」であるが、本審決では、特許請求の範囲の記載にあわせて「カルボキシル基」の用語で記載する。

第3 原査定の理由
原査定の理由である平成24年8月7日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、その理由1?理由3である。
その理由2の概要は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、「所望の物を製造できかつ使用できることを把握するに足る実施例が、発明の詳細な説明に記載されている必要がある」、「実施例において所望の化学物質を製造・単離するに必要な反応条件が具体的に開示されると共に、実験化学データをもってその生成が客観的に裏付けられる必要がある」、「これを本件についてみると・・・その製造・単離を客観的に裏付ける記載は一切存在しない」と指摘されたものである。
その理由4の概要は、この出願は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、「所望の物を製造できかつ使用できることを把握するに足る実施例が、発明の詳細な説明に記載されている必要がある」、「実施例において所望の化学物質を製造・単離するに必要な反応条件が具体的に開示されると共に、実験化学データをもってその生成が客観的に裏付けられる必要がある」、「これを本件についてみると・・・その製造・単離を客観的に裏付ける記載は一切存在しない」と指摘されたものである。

第4 当審の判断
この出願は、原査定の理由のとおり、発明の詳細な説明の記載が、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
また、この出願は、原査定の理由のとおり、請求項1の特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1 特許法第36条第4項第1号について

(1)発明の詳細な説明の記載

ア 出願時の技術水準及び発明の課題についての記載

(ア)この出願の明細書(以下「本願明細書」という。補正はされていない。)の段落【0002】?【0008】に、以下のように記載されている:
「【0002】(技術分野)
本発明は、治療活性化合物並びにその伝達および使用に関する。とりわけ、本発明は、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬の伝達および使用に関する。
【0003】(背景技術)
プロスタグランジン類は、下記の構造式を有するプロスタン酸の誘導体として説明することができる。

種々のタイプのプロスタグランジンが、プロスタン酸骨格の構造およびその脂環式環上に担持された置換基に応じて知られている。さらなる分類は、包括的タイプのプロスタグランジンの後の下付き数字[例えば、プロスタグランジンE_(1)(PGE_(1))、プロスタグランジンE_(2)(PGE_(2))]によって示される側鎖中の不飽和結合の数、およびαまたはβ[例えば、プロスタグランジンF_(2α)(PGF_(2β))]によって示される脂環式環上の置換基の構造に基づく。
ある種の10,10-ジメチルプロスタグランジン類は、既知である。これらは、以下のような文献に記載されている:
Donde、米国特許出願公開公報第20040157901号;
Pernet等、米国特許第4,117,014号;
Pernet, Andre G. et al., Prostaglandin analogs modified at the 10 and 11 positions, Tetrahedron Letters, (41), 1979, pp. 3933-3936;
Plantema, Otto G. et al., Synthesis of (.+-.)-10.10-dimethylprostaglandin E1 methyl ester and its 15-epimer, Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1: Organic and Bio-organic Chemistry (1972-1999), (3), 1978, pp. 304-308;
Plantema, O. G. et al., Synthesis of 10,10-dimethylprostaglandin E1, Tetrahedron Letters, (51), 1975, 4039;
Hamon, A., et al., Synthesis of (+-)- and 15-EPI(+-)-10,10-Dimethylprostaglandin E1, Tetrahedron Letters, Elsevier Science Publishers, Amsterdam, NL, no. 3, January 1976, pp. 211-214;および、
Patent Abstracts of Japan, Vol. 0082, no. 18 (C-503), June 10, 1988 & JP 63 002972 A (Nippon Iyakuhin Kogyo KK), 7 January 1988;・・・
【0004】米国特許出願公開公報2004/0142969 A1号・・・は、下記の式に従う化合物を開示している:

該出願は、下記のような基の存在を開示している:
mは、1?4であり;nは、0?4であり;Aは、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、アリールシクロアルキル、シクロアルキルアルキルまたはアリールオキシアルキルであり;Eは、-CHOH-または-C(O)-であり;Xは、-(CH_(2))_(2)-または-CH=CH-であり;Yは、-CH_(2)-、アリーレン、ヘテロアリーレン、-CH=CH-、-O-、-S(O)_(p)- (pは0?2である)、または-NR^(a)- (R^(a) は、水素またはアルキルである)であり;Zは、-CH_(2)OH、CHO、テトラゾル-5-イル、または-COOR^(b)(R^(b) は、水素またはアルキルであり;そして、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9) およびR^(10) は、各々、個々に、水素またはアルキルである。
米国特許第6,747,037号・・・は、下記のようなプロスタグランジンEP_(4) 作用薬を開示している:

【0005】米国特許6,610,719号・・・は、下記の構造を有する作用薬から選択したEP_(4) を開示している:

該特許は、下記のような基の存在を開示している:
Qは、COOR^(3)、CONHR^(4) またはテトラゾル-5-イルであり;
Aは、単またはシス二重結合であり;
Bは、単またはトランス二重結合であり;
Uは、下記:

であり;
R^(2) は、α-チエニル、フェニル、フェノキシ、モノ置換フェニルまたはモノ置換フェノキシであり、その置換基は、クロロ、フルオロ、フェニル、メトキシ、トリフルオロメチルおよび(C_(1)?C_(3))アルキルからなる群から選ばれ;
R^(3) は、水素、(C_(1)?C_(5))アルキル、フェニルまたはp-ビフェニルであり;
R^(4) は、COR^(5) またはSO_(2)R^(5) であり;そして、
R^(5) は、フェニルまたは(C_(1)?C_(5))アルキルである。
【0006】ヒドロキシドが炭素11よりはむしろ炭素10上に存在する天然プロスタグランジンE化合物である10-ヒドロキシプロスタグランジンヒドロキシプロスタグランジンアナログ類は、米国特許第4,171,375号、米国特許第3,931,297号、FR2408567号、DE2752523号、JP53065854号、DE2701455号、SE7700257号、DK7700272号、NL7700272号、JP52087144号、BE850348号、FR2338244号、FR2162213号、GB1405301号およびES409167号のような幾つかの特許文献において既知である;・・・
2004年4月9日に出願された米国特許出願第821,705号・・・は、下記の構造を有する化合物を開示している:

各基は、下記のように特定されている:
Jは、C=OまたはCHOHであり;
Aは、-(CH_(2))_(6)-または-CH_(2)CH=CH-(CH_(2))_(3)-であり、1個または2個の炭素はSまたはOで置換し得;
Bは、CO_(2)HまたはCO_(2)R、CONR_(2)、CONHCH_(2)CH_(2)OH、CON(CH_(2)CH_(2)OH)_(2)、CH_(2)OR、P(O)(OR)_(2)、CONRSO_(2)R、SONR_(2)、または下記:

(式中、Rは、H、C_(1-6) アルキルである)
であり;
Dは、-(CH_(2))_(n)-、-X(CH_(2))_(n) または-(CH_(2))_(n)X-であり、nは0?3であり、XはSまたはOであり;そして、
Eは、0?4個の置換基を有する芳香族または複素芳香族成分であり、各々1?6個の非水素原子を含む上記置換基は、本明細書に開示されている。
【0007】興味ある他の化合物は、米国特許第6,670,485号、米国特許第6,410,591号、米国特許第6,538,018号、WO2004/065365号、WO03/074483号、WO03/009872号、WO2004/019938号、WO/03/103664号、WO2004/037786号、WO2004/037813号、WO03/103604号、WO03/077910号、WO02/42268号、WO03/008377号、WO03/053923号、WO2004/078103号およびWO2003/035064号に開示されている;・・・
プロスタグランジンEP_(4) 選択性作用薬は、数種の医療用途を有すると信じられている。例えば、米国特許第6,552,067 B1号・・・は、プロスタグランジンEP_(4) 選択性作用薬の“哺乳類における低骨質量を示す症状、とりわけ、骨粗しょう症、虚弱性(frailty)、骨粗しょう症性骨折、骨欠損、小児特発性骨粗しょう症、歯槽骨粗しょう症、下顎骨粗しょう症、骨折、骨切術、歯周炎に関連する骨粗しょう症または人工装具内成長(prosthetic ingrowth)の治療方法”の処置における使用を教示している。
米国特許6,586,468 B1号・・・は、プロスタグランジンEP_(4) 選択性作用薬が“免疫疾患(自己免疫疾患(筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多性硬化症、シェーグレン症候群、関節炎、間接リウマチ、全身性エリテマトーデス等)、移植後移植片拒絶、ぜんそく、異常骨形成、神経細胞死、肺疾患、肝疾患、急性肝炎、腎炎、腎不全、高血圧、心筋虚血、全身性炎症症候群、熱傷によって誘発される疼痛、敗血症、血球貪食症候群、マクロファージ活性化症候群、スティル病、川崎病、火傷、全身性肉芽腫、潰瘍性大腸炎、クローン病、透析時の高サイトカイン血症、多臓器不全、ショック等の予防および/または治療において有用である。また、プロスタグランジンEP_(4) 選択性作用薬は、睡眠障害および血小板凝固とも関連しており、従って、プロスタグランジンEP_(4) 選択性作用薬は、これらの疾患に対しても有用であると考えられる”。
炎症性腸疾患(IBD)は、大腸または小腸の炎症に特徴を有する疾病群であり、下痢、疼痛および体重減のような症状として現れる。非ステロイド系抗炎症薬は、IBDを発症するリスクと関連していることが証明されており、最近、Kabashimaおよびその同僚等は、“EP_(4) が粘膜構造を保ち、先天性免疫を抑制し、且つCD4+T細胞の増殖および活性化をダウン調節するように作用すること開示している。これらの知見は、NSAID類によるIBDのメカニズムを解明しているだけでなく、EP_(4) 選択性作用薬のIBDの予防および治療における治療上の潜在力を示唆している”(Kabashima, et. al., The Journal of Clinical Investigation, April 2002, Vol. 9, 883-893)。
【0008】(発明の開示)
プロスタグランジンEP_(4) 作用薬のプロドラッグを含み、該プロドラッグが炭水化物のエステル、エーテルまたはアミドであり;或いは、該プロドラッグがアミノ酸のエステル、エーテルまたはアミドであることを特徴とする化合物を、本明細書において開示する。
また、治療上有効量のプロスタグランジンEP_(4) 作用薬を哺乳類の結腸に投与することを含む方法による結腸粘膜バリアの保全も開示する。
また、上記に関連する投与剤形、医薬品および組成物も開示する。」

(イ)以上によれば、多数のプロスタグランジンEP_(4) 作用薬が知られているところ、この出願の発明の課題は、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬のプロドラッグとして有用な化合物を提供することであると認められる(以下、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬を「親化合物」又は「親薬物」といい、そのプロドラッグを「プロドラッグ化合物」又は「プロドラッグ」という。)。

イ 親化合物の化学構造についての一般式による記載

(ア)本願明細書の段落【0010】?【0026】、【0028】?【0032】に、この出願の公表特許公報では16頁にわたり、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬(親化合物)の化学構造が、多数の一般式により記載されている。このうち、最も上位概念で記載された段落【0010】?【0011】は、以下のとおりである。
「【0010】本発明の範囲を如何なる形でも限定するものではないが、下記の構造に従う化合物、またはその製薬上許容し得る塩もしくはプロドラッグは、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬の例である:

【0011】

(式中、点線は、結合の存在または不存在を示し;
Aは、-(CH_(2))_(6)-、シス-CH_(2)CH=CH-(CH_(2))_(3)-または-CH_(2)C≡C-(CH_(2))_(3)-であり、1個または2個の炭素原子はSまたはOによって置換し得;或いは、Aは、-(CH_(2))_(m)-Ar-(CH_(2))_(o)-であり、Arはインターアリーレンまたはヘテロインターアリーレンであり、mとoの和は1?4であり、1個のCH_(2) はSまたはOで置換し得;
Xは、SまたはOであり;
Jは、C=O、CHOHまたはCH_(2)CHOHであり;そして、
Eは、C_(1-12) アルキル、R^(2) または-Y-R^(2) であり、YはCH_(2)、SまたはOであり、R^(2) はアリール又はヘテロアリールである)。」

(イ)以上のように、親化合物の化学構造は、最も上位概念では、11個の一般式で記載されている。
なお、4番目?7番目の一般式は、本願発明における親化合物の一般式として示された4つの一般式の1番目?4番目に順次対応するが、これらは、Eが「C_(1-12) アルキル」もとり得、R^(2) が「アリール」もとり得る点で、本願発明における親化合物と全く同じではない。

ウ 親化合物の具体的な例についての記載

(ア)本願明細書の段落【0027】及び【0040】?【0041】に、以下のように記載されている。
「【0027】本発明の範囲を如何なる形でも限定するものではないが、下記の構造に従う化合物も、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬の例である。


「【0040】下記に示す化合物のプロドラッグ、並びにこれらの化合物またはその塩もしくはプロドラッグの本明細書において開示するいずれかの方法、組成物または処置における使用を、本明細書においてはとりわけ意図している。
【0041】

ウェッジまたはダッシュ記号で示さない限り、キラル中心を有する炭素は、S異性体、R異性体、または50:50R/S混合物のような任意の異性体混合物を含むものと解釈できる。とりわけ、上記の構造体の各々の純粋異性体、および50:50R/S混合物のような任意の可能性ある異性体混合物を意図する。これらの化合物の製造方法は、米国特許第6,747,037号および米国特許第6,875,787号に記載されている。」

(イ)以上のように、親化合物の具体的な例は、初めに4個、次に2個が示されているが、それぞれの1番目の化合物は同じであるので、化学構造式で具体的に記載されている化合物は、合計5個である。
なお、1番目及び4番目の化合物は、本願発明における親化合物の一般式の1番目及び2番目に該当している。2番目及び3番目の化合物は、5員環の置換構造が異なり、最後の化合物は、一般式でEに相当する部分にヘテロアリールを含まないので、何れも、本願発明における親化合物に該当するものではない。

エ 親化合物のアミノ酸プロドラッグの化学構造の例についての一般式による記載

(ア)本願明細書の段落【0033】?【0039】に、以下のように記載されている。
「【0033】本明細書におけるエステル類、エーテル類またはアミドプロドラッグは、アミノ酸への直接結合を受入れてもよく、或いは、限定するものではないが下記のようなスペーサー基に合体してもよい:
エチレングリコール、グリセリン等、またはこれらのオリゴマーもしくはポリマーのようなポリオール類;
コハク酸、マレイン酸、マロン酸、アゼライン酸等のようなジカルボン酸類;
乳酸、ヒドロキシ酢酸、クエン酸等のようなヒドロキシカルボン酸類;
エチレンジアミン等のようなポリアミン類;および、
上記のいずれかの組合せを形成するエステル類、アミド類またはエーテル類。
使用するアミノ酸は、天然または非天然アミノ酸であり得る。下記に示す構造体は、天然アミノ酸におけるアミノ酸プロドラッグを例示しており、式中、Rは天然アミノ酸の側鎖特性を示し、Rおよびアミド窒素はプロリンにより結合させ得る。これらの構造を有する化合物の製薬上許容し得る塩も、アニオン性、カチオン性または両性イオン性のいずれであれ有用である。
【0034】

【0035】ある種の実施態様においては、Rは、H、メチル、イソ-プロピル、sec-ブチル、ベンジル、インドール-3-イルメチル、ヒドロキシメチル、CHOHCH_(3)、CH_(2)CONH_(2)、p-ヒドロキシベンジル、CH_(2)SH、(CH_(2))_(4)NH_(2)、(CH_(2))_(3)NHC(NH_(2))_(2)^(+)、メチルイミジゾール-5-イル、CH_(2)CO_(2)Hまたは(CH_(2))_(2)CO_(2)Hからなる群から選ばれる。
勿論、非天然アミノ酸の同類プロドラッグも製造し得る。非天然アミノ酸もα-アミノ酸である場合、その構造は、Rが天然アミノ酸由来の側鎖を示す以外は同じであろう。天然アミノ酸においては、任意の立体異性体を使用し得る。事実、天然アミノ酸の鏡像体を、本発明においては、非天然アミノ酸としてとりわけ意図する。
有用なタイプの非天然アミノ酸の例としては、限定するものではないが、フェニルアラニン誘導体、とりわけ、L-ドーパ(L-Dopa)のような環を置換した誘導体またはフェニルをナフチルもしくは複素環のような他の芳香族基で置換した誘導体;β-アミノ酸およびホモアミノ酸;環状アミノ酸;アラニン誘導体;グリシン誘導体;チロシン誘導体、とりわけ、環をさらなる環置換基で置換した誘導体、フェニルをナフチルもしくは複素環のような他の芳香族基で置換した誘導体、またはフェノール酸素でのエーテル類;線状コアアミノ酸;ジアミノ酸がある。
【0036】とりわけ、以下の非天然アミノ酸を本発明において意図する:L-ドーパ、D-ペニシラミン、D-2-ナフチルアラニン、D-4-ヒドロキシフェニルグリシン、L-ホモフェニルアラニン、(2R,3S)-フェニルイソセリン、チエニルアラニン、アリルグリシン、3-メチルフェニルアラニン、3-ピリジルアラニン、4-チアゾリルアラニン、4,4'-ビフェニルアラニン、4-アミノメチルフェニルアラニン、4-フルオロフェニルアラニン、3,4-ジクロロフェニルアラニン、ピペコリン酸、β-ホモリシン、β-ホモフェニルアラニン、β-ホモセリン、β-ホモトリプトファン、3-アミノ-3-ベンゾ[1,3]ジオキソル-5-イルプロピオン酸、3-アミノ-3-(6-メトキシ‐ピリジン-3-イル)プロピオン酸、3-アミノ-4-(3,4-ジフルオロフェニル)酪酸、3-アミノ-4-(4-フルオロフェニル)酪酸、3-アミノ-5-ヘキサン酸、2-テトラヒドロイソキノリン酢酸、3-アミノ-5-フェニルペンタン酸およびアゼチジン-3-カルボン酸。
【0037】また、EP_(4) 作用薬のエステルプロドラッグも、下記の例で示すように、アミノ酸に基づき得る。これらの構造を有する化合物の製薬上許容し得る塩も、アニオン性、カチオン性または両性イオン性のいずれであれ有用である。

【0038】セリン、スレオニンおよびチロシンのようなアミノ酸並びに多くの非天然アミノ酸類はその側鎖中にヒドロキシル官能基を有するので、アミノ酸に基づくEP_(4) 作用薬のエーテルプロドラッグも、下記の例で示すように可能である。これらの構造を有する化合物の製薬上許容し得る塩も、アニオン性、カチオン性または両性イオン性のいずれであれ有用である。

【0039】さらに、本明細書において例示するスペーサーをアミノ酸に適用して、利用し得るアミノ酸プロドラッグの種類数をさらに増大させ得る。
また、ヒドロキシル官能基を有するこれらのアミノ酸は、C1アミノ酸エステルプロドラッグを調製するのにも使用し得る。本発明における目的においては、C1アミノ酸エステルプロドラッグは、プロスタグランジンにおいて“C1”として伝統的に考えられているエステルであるプロドラッグである。天然プロスタグランジンと同じ炭素骨格を有していないプロスタグランジンにおいては、“C1”エステルは、本明細書におけるAに結合したカルボン酸でのエステルである。」

(イ)以上のように、親化合物のアミノ酸プロドラッグの化学構造は、以下の3通りが記載されている:
アミドプロドラッグとして、親化合物のカルボキシル基にアミノ酸の側鎖アミノ基がアミド結合した化学構造の例が10個の一般式により段落【0034】に;
エステルプロドラッグとして、親化合物のヒドロキシ基にアミノ酸のカルボキシル基がエステル結合した化学構造の例が2個の一般式により段落【0037】に;
エーテルプロドラッグとして、親化合物のヒドロキシ基に側鎖ヒドロキシ基を有するアミノ酸の該ヒドロキシ基がエーテル結合した化学構造の例が2個の一般式により段落【0038】に;
それぞれ記載されている。また、スペーサー基の存在も可能としている。
なお、上記アミドプロドラッグは、本願発明における、親化合物の「末端カルボキシル基に天然アミノ酸がアミド結合した構造体」に対応し、示された10個の一般式のうち、1番目、2番目、3番目、4番目、5番目、7番目及び10番目の一般式は、親化合物の部分の構造が、本願発明における親化合物の一般式の1番目、2番目、4番目、3番目、4番目、1番目及び2番目に該当している。6番目、8番目及び9番目の一般式は、5員環の置換構造が異なるので、何れも、本願発明における親化合物のプロドラッグといえるものではない。

オ アミノ酸プロドラッグの合成方法についての一般的な記載

(ア)本願明細書の段落【0042】に、以下のように記載されている。
「【0042】アミノ酸プロドラッグは、多くの方法によって容易に得られる。例えば、限定するつもりはないが、サリチル酸をアラニン、グリシン、メチオニンまたはチロシンのメチルエステルにカップリングさせるのに使用する数種の手順の1つ(Nakamura et. al. J. Pharm. Pharmacol. 1992, 44, 295-299;およびNakamura et. al. Int. J. Pharm. 1992, 87, 59-66)を、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬と一緒に使用するのに採用し得る。この方法においては、等モル量のジシクロヘキシルカルボジイミドを0℃以下でプロスタグランジンEP_(4) 作用薬カルボン酸に加え、約30分間撹拌する。その後、等モル量の上記アミノ酸のメチルエステルを加え、室温で1夜撹拌してアミドを調製する。その後、存在し得るヒドロキシル基の脱保護を、希塩水溶液または保護基に応じた別の方法を使用して実施し得る。」

(イ)以上のように、アミノ酸プロドラッグの合成方法については、本願発明における親化合物とは化学構造が全く異なるサリチル酸(芳香族カルボン酸である。)をアラニン等のメチルエステルにカップリングさせるのに使用する手順を記載した文献を引用して、その手順を採用し得るとし、「等モル量のジシクロヘキシルカルボジイミドを0℃以下でプロスタグランジンEP_(4) 作用薬カルボン酸に加え、約30分間撹拌する。その後、等モル量の上記アミノ酸のメチルエステルを加え、室温で1夜撹拌してアミドを調製する。その後、存在し得るヒドロキシル基の脱保護を、希塩水溶液または保護基に応じた別の方法を使用して実施し得る」という、一般的な記載がされている。

カ アミノ酸プロドラッグの作用、適用対象疾患、剤形及び投与経路、併用薬についての記載

(ア)本願明細書の段落【0043】?【0046】に、主として大腸炎の予防又は治療に関連して、以下のように記載されている。
「【0043】理論によって拘束するつもりはないが、結腸粘膜バリアが、結腸の内部層を、食物、酸化性因子、細菌代謝物および腸内細菌叢のような刺激物から保護する中心であるということは、当業者が一般的に信じていることである。理論によって如何なる形でも拘束するつもりはないが、損傷したおよび/または漏れやすい上皮層は、免疫原性の炎症性腸疾患およびその後の二次炎症のような種々の結腸炎症をもたらすものと信じている。理論によって拘束するつもりはないが、プロスタグランジンEP_(4) レセプターは、2つの細胞シグナリング経路を、第2のメッセンジャーcAMPまたはERKのリン酸化或いはホスホイノシチド 3-キナーゼおよび初期成長応答因子-1の活性化のいずれかを使用して介在するものと信じている。後者の経路は、上皮細胞においてとりわけ顕著であると信じられている。
【0044】理論によって拘束するつもりはないが、上記シグナリング経路の活性化は、細胞増殖、細胞成長、細胞代謝およびアポトーシスの抑制を促進するものと信じている。従って、理論によって如何なる形でも拘束するつもりはないが、結腸に投与したEP_(4) 作用薬は、プロスタグランジンEP_(4) レセプターを認識し、そのようにして、これらのシグナリング経路の1以上を活性化すべきである。従って、それによって上皮細胞の成長、増殖、アポトーシスの抑制および粘液分泌の増加を促進し、腸内抗原および刺激物に対する透過性を低下させるべきである。従って、理論によって拘束するつもりはないが、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬による結腸粘膜バリアのこの増強および維持は、結腸炎、アメーバ性大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎、深在性嚢胞性大腸炎、表在性嚢胞性大腸炎、肉芽腫性大腸炎、出血性大腸炎、粘液性大腸炎、クローン病および潰瘍性大腸炎に対して予防的であり治療的であるべきである。
【0045】薬物を結腸に経口投与剤形によって伝達する多くの方法が、当該技術において既知であり、ChourasiaおよびJainにより、J Pharm Pharmaceut Sci 6 (1): 33-66, 2003において再検討されている。これらの方法は、1)アゾまたは炭水化物系プロドラッグのようなプロドラッグの投与;2)薬物の結腸への伝達用に設計したポリマーによるコーティーング或いは薬物のそのようなポリマー中への封入または含浸;3)薬物の時間放出伝達;4)生体接着剤系の使用等を含む。腸内微生物叢は、アゾ結合の還元的開裂を可能にし、2個の窒素原子をアミン官能基として残存させる。また、下部GIの細菌は、グリコシド、グルクロニド、シクロデキストリン、デキストランおよび他の炭水化物を消化し得る酵素を有し、これらの炭水化物から調製したエステルプロドラッグは、親活性薬物を結腸に選択的に伝達することが証明されている。このプロドラッグ法は、5-アミノサリチル酸をヒトに伝達するのに使用されている。デキサメタゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾンおよびフルドロコルチゾンのプロドラッグによるラットまたはモルモットにおける生体内および生体外試験は、グリコシド接合体がステロイド類のヒト結腸への伝達において有用であり得ることを示唆している。他の生体内試験は、ステロイドまたは非ステロイド抗炎症薬のグルクロニド、シクロデキストリンおよびデキストランプロドラッグがこれらの薬物の下部GI管への伝達において有用であることを示唆している。同様に、アミラーゼ、アラビノガラクタン、キトサン、コンドロイチン硫酸(chondroiton sulfate)、デキストラン、グアーゴム、ペクチン、キシリン等のような炭水化物ポリマーを使用して薬物化合物をコーティーングすることができ、或いは、薬物を上記ポリマー中に含浸または封入させることもできる。サリチル酸およびグルタミン酸のアミドは、サリチル酸のウサギまたはイヌの結腸への伝達において有用であることが証明されている。経口投与した後、上記ポリマーは、上部GI管内では安定なままであるが、下部GIの微生物叢によって消化され、そのようにして薬物を治療のために放出する。また、pHに対して感受性であるポリマーも、 結腸が上部GI管よりも高いpHを有するので使用し得る。そのようなポリマーは、商業的に入手可能である。例えば、Rohm Pharmaceuticals社(ドイツ国ダルムシュタット)は、ポリマー中の遊離カルボン酸基の数に基づき種々のpH範囲に亘って多様な溶解性を有するpH依存性メタクリレート系ポリマーおよびコポリマーを、商品名Eudragit^(R) として商業的に提供している。数種のEudragit^(R) 投与剤形が、潰瘍性大腸炎およびクローン病の治療のためにサルサラジン(salsalazine)を伝達するのに現在使用されている。また、時間放出系、生体接着系および他の伝達系も研究されている。
【0046】また、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬の単一組成物または別個の投与剤形のいずれかでの併用も意図する。本発明の範囲を如何なる形でも限定するものではないが、EP_(4) 作用薬およびそのプロドラッグとの併用治療において含ませ得る薬物としては、限定するものではないが、下記がある:
1.アミノサリチル酸塩およびそのプロドラッグ、スルファサラジン等のような抗炎症薬;
2.コルチコステロイド類等のようなステロイド類;
3.アザチオプリン、6-メルカプトプリン、シクロスポリン等のような免疫調節剤;および、
4.インフリキシマブ、エタネルセプト、オネルセプト、アダリムマブ、CDP571、CDP870、ナタリズマブ、MLN-02、ISIS2302、cM-T412、BF-5、バシリズマブ、デクリズマブ、バシリキシマブ、抗-CD40L等のような、炎症性サイトカインに対するヒト化モノクローナル抗体。」

(イ)以上のように、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬の結腸での薬理作用は、結腸のプロスタグランジンEP_(4) レセプターのシグナリング経路を活性化して、細胞増殖、細胞成長、細胞代謝及びアポトーシスの抑制を促進させることにより、結腸粘膜バリアを増強及び維持することにあり、結腸の疾患(結腸炎、アメーバ性大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎、深在性嚢胞性大腸炎、表在性嚢胞性大腸炎、肉芽腫性大腸炎、出血性大腸炎、粘液性大腸炎、クローン病および潰瘍性大腸炎)に対して予防的であり治療的であるとされている。
そして、上記の予防及び治療には、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬が結腸に投与されるようにすべきことが記載されている。薬物を結腸に経口投与剤形によって伝達する既知の方法として、「1)アゾまたは炭水化物系プロドラッグのようなプロドラッグの投与;2)薬物の結腸への伝達用に設計したポリマーによるコーティーング或いは薬物のそのようなポリマー中への封入または含浸;3)薬物の時間放出伝達;4)生体接着剤系の使用」が言及されているが、3)と4)は、何ら具体的でない。
なお、上記2)は、上部消化管では安定であるが下部消化管では微生物により消化されるポリマー又はpH感受性のポリマーを用い、薬物化合物をコーティング、含浸又は封入するもので、「サリチル酸およびグルタミン酸のアミドは、サリチル酸のウサギまたはイヌの結腸への伝達において有用であることが証明されている」、「数種のEudragitR 投与剤形が、潰瘍性大腸炎およびクローン病の治療のためにサルサラジン(salsalazine)を伝達するのに現在使用されている」と記載されている。「サリチル酸およびグルタミン酸のアミド」、「サルサラジン」は本願発明のアミドプロドラッグとは化学構造が異なる化合物であるものの、上記のポリマーを利用する方法は、本願発明のアミドプロドラッグを使用し経口投与して結腸へ伝達させる剤形とする場合の、候補と考えられる。但し、一般的な記載にとどまり、具体的ではない。上記1)は、腸内微生物によるプロドラッグのアゾ結合の開裂又は炭水化物の消化を利用するもので、本願発明のアミドプロドラッグとは関係がない。

キ アミノ酸プロドラッグの試験方法についての一般的な記載

(ア)本願明細書の段落【0047】?【0049】に、以下のように記載されている。
「【0047】化合物のプロスタグランジンEP_(4) 活性および選択性を判定する1つの有用なアッセイ法を以下で説明する。
ヒト組換えEP_(1)、EP_(2)、EP_(3)、EP_(4)、FP、TP、IPおよびDPレセプター:安定形質転換体
ヒトEP_(1)、EP_(2)、EP_(3)、EP_(4)、FP、TP、IPおよびDPレセプターをコード化するプラスミドを、それぞれのコード配列を真核発現ベクターpCEP4(Invitrogen社)中にクローニングすることよって調製した。pCEP4ベクターは、エプスタイン・バールウイルス(EBV)起原の複製を含有し、霊長類細胞系中でエピソーム複製を可能にしてEBV核抗原(EBNA-1)を発現する。また、このベクターは、真核生物選択において使用するハイグロマイシン耐性遺伝子を含有する。安定形質転換において使用する細胞は、EBNA-1タンパク質を移入し該タンパク質を発現するヒト胚腎細胞(HEK-293)である。これらのHEK-293-EBNA細胞(Invitrogen社)を、Geneticin (G418)を含有する培地中で増殖させてEBNA-1タンパク質の発現を維持する。HEK-293細胞を、10%%のウシ胎仔血清(FBS)、230μg ml^(-1) のG418(Life Technologies社)および200μg ml^(-1) のゲンタマイシンまたはペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM中で増殖させる。安定な形質転換体の選択は200μg ml^(-1) のハイグロマイシンによって行い、最適濃度は、前以ってのハイグロマイシン殺生曲線試験によって決定する。
【0048】形質転換に当っては、細胞を、10cmプレート上で50?60%の密集度に増殖させる。それぞれのヒトプロスタノイドレセプターに対するcDNA挿入物(20μg)を取込んだプラスミドpCEP4を、500μlの250mM CaCl_(2) 中に添加する。その後、HEPES緩衝生理食塩水×2(2×HBS、280mM NaCl、20mM HEPES酸、1.5mMNa_(2)HPO_(4)、pH7.05?7.12)を、室温で連続渦流処理しながら、総計500μlに滴下により添加する。30分後、9mlのDMEMを混合物に添加する。次いで、DNA/DMEM/リン酸カルシウム混合物を、10mlのPBSで前以って洗浄した細胞に添加する。その後、細胞を、湿潤95%空気/5%CO_(2) 中で、37℃で5時間インキュベートする。その後、リン酸カルシウム溶液を除去し、細胞を、DMEM中10%のグリセリンで2分間処理する。次に、グリセリン溶液を、10%のFBSを含むDMEMで置換える。細胞を1夜インキュベートし、培地を、250 μg ml^(-1) のG418およびペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM/10%FBSで置換える。翌日、ハイグロマイシンBを200μg m^(l-1) の最終濃度まで添加する。
形質転換10日後に、ハイグロマイシンB耐性クローンを個々に選択し、24ウェルプレートの個々のウェルに移す。合流点で、各クローンを6ウェルプレートの1つのウェルに移し、次いで、10cm皿内で増殖させる。細胞を、使用するまで、連続ハイグロマイシン選択下に維持する。
【0049】放射性リガンド結合性
各細胞から調製した原形質膜画分における放射性リガンド結合性試験を次のようにして実施する:各細胞を、TME緩衝液で洗浄し、フラスコ底部からすくい取り、ブリンクマン(Brinkman)PT 10/35ポリトロンを使用して30秒間均質化する。TME緩衝液を必要に応じて添加して、遠心分離チューブ内で40ml容量を得る。TMEは、50mM TRIS塩基、10mM MgCl_(2)、1M EDTAからなる;1N HClを添加して7.4のpHを得る。細胞ホモジネートを、Beckman Ti-60またはTi-70ローターを使用して19000rpmにて4℃で20?25分間遠心分離する。その後、ペレットを、TME緩衝液中に再懸濁させて、Bio-Radアッセイにより測定したときに1mg/mlの最終タンパク質濃度を得る。放射性リガンド結合性アッセイを100μlまたは200μl容量で行う。
[^(3)H-]PGE_(2)(特異性活性165Ci/ミリモル)の結合性を、正副二通りで且つ少なくとも3回の別々の試験において測定する。インキュベーションは、25℃で60分間であり、4mlの氷冷50mM TRIS-HClを添加することによって終了させ、その後、WhatmanGF/Bフィルターによる急速濾過および細胞ハーベスター(Brandel社)内での3回のさらなる4ml洗浄を行う。競合試験は、2.5または5nM [^(3)H]-PGE_(2) の最終濃度を使用して実施し、非特異結合性は、10^(-5) Mのラベル化していないPGE_(2) によって測定する。
全ての放射性リガンド結合性試験において、算入基準は、>50%の特異結合および500?1000間またはそれ以上良好な置換計数である。」

(イ)以上のように、アッセイ法に関連して、ヒトEP_(1)、EP_(2)、EP_(3)、EP_(4)、FP、TP、IP又はDPレセプターのタンパク質を産生するように形質転換した細胞を調製する方法と、そのような細胞を用いて[^(3)H-]PGE_(2) との結合性を測定する方法が記載されている。しかし、一般的な記載にとどまる。また、本願発明の化合物の、プロドラッグとしての性能が、どのように評価されるのかは、記載されていない。

ク アミノ酸プロドラッグの合成実施例の記載
本願明細書には、存在しない。

ケ アミノ酸プロドラッグの試験実施例の記載
本願明細書には、存在しない。

(2)検討

ア 上記(1)ア、カ、キによれば、本願発明は、請求項1に4つの一般式で表されるプロスタグランジンEP_(4) 作用薬(親化合物)の化学構造を改変して、プロドラッグとして有用な化合物(プロドラッグ化合物)とした点に特徴を有する、医薬化合物発明であると認められる。そして、その親化合物及びプロドラッグ化合物の薬理作用は、結腸のプロスタグランジンEP_(4) レセプターのシグナリング経路を活性化して、細胞増殖、細胞成長、細胞代謝及びアポトーシスの抑制を促進させることにより、結腸粘膜バリアを増強及び維持することにあり、結腸の疾患(結腸炎、アメーバ性大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎、深在性嚢胞性大腸炎、表在性嚢胞性大腸炎、肉芽腫性大腸炎、出血性大腸炎、粘液性大腸炎、クローン病および潰瘍性大腸炎)に対して予防的であり治療的であるというものと認められる。
また、請求項1に4つの一般式で表される親化合物は、上記(1)ア、イのとおり先行技術文献を引用して説明され、上記(1)ウでは具体的な化合物についても文献名と共に記載されていることからみて、公知の化合物を含むと認められる。
その一方、請求項1において、その親化合物の末端カルボキシル基に天然アミノ酸がアミド結合した構造体であるプロドラッグ化合物の発明について特許を受けようとしていることからみて、本願発明は、上記プロドラッグ化合物が、新規化合物であることを前提とするものであると認められる。
このような本願発明において、発明の詳細な説明の記載が、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるためには、当業者が、本願発明のプロドラッグ化合物を生産することができ、使用することができるように、記載したものである必要がある。そして、生産することができるように記載したものであるというためには、請求項1に4つの一般式で表される親化合物の末端カルボキシル基に天然アミノ酸がアミド結合した構造体であるプロドラッグ化合物を製造できるように記載されている必要がある。使用することができるように記載したものであるというためには、本願発明のプロドラッグ化合物がプロスタグランジンEP_(4) 作用薬としての薬理作用を有するものであることを当業者が理解できるように記載されているか、上記プロドラッグ化合物を製剤した医薬組成物が上記の疾患の処置に有効なものであることを当業者が理解できるように記載されている必要がある。
以下、この観点で、本願発明の化合物を、生産することができるように記載したものであるといえるか、使用することができるように記載したものであるといえるか、について、発明の詳細な説明の記載を検討する。

イ 本願発明のプロドラッグ化合物を生産することができるように記載したものであるかについて

(ア)請求項1に4つの一般式で表される親化合物の末端カルボキシル基に天然アミノ酸がアミド結合した構造体であるプロドラッグ化合物を製造できるように記載されているか検討する。

a 本願明細書には、上記(1)クに示したように、アミノ酸プロドラッグの合成実施例は存在せず、上記(1)オに示したように、段落【0042】に、親化合物にアミノ酸のメチルエステルを反応させるアミノ酸プロドラッグの合成方法についての一般的な記載がある。また、上記アで述べたように、請求項1に4つの一般式で表される親化合物は、公知の化合物を含むと認められる。
そこで、ここでは、まず、本願明細書の段落【0041】に記載された1番目の化合物(上記(1)ウ参照。段落【0027】に記載された1番目と同じ。)(以下「本願親化合物A」という。)

が、文献番号と共に記載されていることから、公知の化合物であり当業者が入手できるものであるとして、上記段落【0042】の記載に従い、本願発明のプロドラッグ化合物を製造することができるように記載されているかを検討する。
次に、請求項1に4つの一般式で表される親化合物が、当業者が入手できるものであるか、そして、上記段落【0042】の記載に従い、本願発明のプロドラッグ化合物を製造することができるように記載されているかを検討する。

b 上記段落【0042】の記載は、次のとおりである。
「【0042】アミノ酸プロドラッグは、多くの方法によって容易に得られる。例えば、限定するつもりはないが、サリチル酸をアラニン、グリシン、メチオニンまたはチロシンのメチルエステルにカップリングさせるのに使用する数種の手順の1つ(Nakamura et. al. J. Pharm. Pharmacol. 1992, 44, 295-299;およびNakamura et. al. Int. J. Pharm. 1992, 87, 59-66)を、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬と一緒に使用するのに採用し得る。この方法においては、等モル量のジシクロヘキシルカルボジイミドを0℃以下でプロスタグランジンEP_(4) 作用薬カルボン酸に加え、約30分間撹拌する。その後、等モル量の上記アミノ酸のメチルエステルを加え、室温で1夜撹拌してアミドを調製する。その後、存在し得るヒドロキシル基の脱保護を、希塩水溶液または保護基に応じた別の方法を使用して実施し得る。」

c 上記段落【0042】に提示されたPharm. Pharmacol. 1992, 44, 295-299は、J. Nakamuraらによる「ウサギの腸内細菌による加水分解を利用するサリチル酸のプロドラッグであるサリチル酸-L-アラニン複合体の開発」と題する論文であり(以下「Nakamura論文」という。)、サリチル酸-L-アラニン複合体(サリチル-L-アラニン)(要約1行目参照)の合成に関して、以下の記載がある。
「サリチル-L-アラニンの合成
サリチル-L-アラニンは、L-アラニンメチルエステル及びアセチルサリチル酸を以下のカルボジイミド法によりカップリングさせて合成した。25gのL-アラニンの200mLのメタノール中の溶液に、30mLのチオニルクロライドを0℃でゆっくり加え、室温(21℃)で一晩攪拌した。反応混合物を減圧で濃縮した。メタノール及びエーテルで再結晶すると、約90%のL-アラニンメチルエステル塩酸塩が白色結晶(融点154-155℃)として得られた。L-アラニンメチルエステル塩酸塩の50mLのメタノール中の溶液に、50gのトリエチルアミンをゆっくり加え、2時間0℃で攪拌した。反応混合物を濾過した。濾液を減圧で濃縮すると、L-アラニンメチルエステルが油として得られた。150mmolのアセチルサリチル酸の塩化メチレン及び少量のテトラヒドロフラン中の溶液に、150mmolのN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを0℃で加えた。30分後、150mmolのL-アラニンメチルエステルを加えた。反応混合物を一晩室温に置き、濾過した。濾液を5%NaHCO_(3) で洗い、減圧で濃縮してアセチルサリチル酸-L-アラニンメチルエステルを油として得た。アセチルサリチル酸-L-アラニンメチルエステルの少量のメタノール中の溶液に、300mLの1MNaOHを加え、1時間攪拌した。メタノールを減圧で留去した。反応混合物を濃塩酸で酸性化し、エーテルで洗い、水及び飽和食塩水で洗った酢酸エチルで抽出した。Na_(2)SO_(4) で乾燥後、生成物を減圧で濃縮し、酢酸エチルで再結晶して約50%のサリチル-L-アラニンを白色結晶:融点162-164℃;[α]_(D)^(20) =+24.2°(c=0.91,EtOH)として得た。分析:C_(10)H_(10)NO_(4) の計算値;C,57.42;H,5.26;N,6.70.実測値;C,57.92;H,5.30;N,6.66;EI-MS m/z;;209.化学構造をNMR、マススペクトル及び元素分析で確認した。・・・」(295頁右欄7行?296頁左欄18行)

d 上記cによれば、Nakamura論文において、カルボジイミド法により、天然アミノ酸であるL-アラニンによりアミド化されるカルボン酸化合物は、サリチル酸であり、ベンゼン環の1位と2位にカルボキシル基とヒドロキシ基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸である。その手順は、以下のとおりである。まず、一方の原料のL-アラニンは、L-アラニンメチルエステル塩酸塩を経て、L-アラニンメチルエステルとし、他方の原料のサリチル酸は、アセチルサリチル酸として用意する。次に、アセチルサリチル酸の塩化メチレン及び少量のテトラヒドロフラン中の溶液に、当量のN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを0℃で加え、30分後、当量のL-アラニンメチルエステルを加え、反応混合物を一晩室温に置き、濾過し、濾液を5%NaHCO_(3) で洗い、減圧で濃縮してアセチルサリチル酸-L-アラニンメチルエステルを得る。次に、アセチルサリチル酸-L-アラニンメチルエステルの少量のメタノール中の溶液に、300mLの1M NaOHを加え、1時間攪拌し、メタノールを減圧で留去し、反応混合物を濃塩酸で酸性化し、エーテルで洗い、水及び飽和食塩水で洗った酢酸エチルで抽出し、Na_(2)SO_(4) で乾燥後、生成物を減圧で濃縮し、酢酸エチルで再結晶してサリチル酸-L-アラニン複合体(サリチル-L-アラニン)を得る。このように、反応原料の官能基を適切に保護し、適当な溶媒中の溶液とし、試薬を適切な順序で加え、適切な時間反応させ、適切な精製、濃縮、脱保護、再結晶等の後処理を行っている。

e これに対し、上記bの本願明細書の段落【0042】の記載は、大まかな手順を記載するばかりであり、原料化合物である親化合物の保護の方法、アラニンに限られず官能基を有することのある天然アミノ酸の保護の方法、溶媒の種類や量、反応条件(反応温度、反応時間、攪拌の有無と強度)、反応の後処理、目的物の単離精製等について、何ら指針を与えるものではない。反応の温度、時間及び攪拌については「等モル量のジシクロヘキシルカルボジイミドを0℃以下でプロスタグランジンEP_(4) 作用薬カルボン酸に加え、約30分間撹拌する。その後、等モル量の上記アミノ酸のメチルエステルを加え、室温で1夜撹拌してアミドを調製する」と記載されているが、親化合物及び天然アミノ酸の種類にかかわらず、同じ反応温度及び時間でよいとする根拠も不明である。

f そもそも、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬(親化合物)の化学構造はサリチル酸やアセチルサリチル酸とは異なり、何れもカルボン酸化合物であるとしても、カルボキシル基が結合する環境が異なる。本願発明の親化合物は、例えば上記aに示した本願親化合物Aでは、カルボキシル基は、5員の脂肪族環に置換した炭素数6の脂肪族炭化水素基(シス-CH_(2)CH=CH-(CH_(2))_(3)-)の端に存在する。本願発明の他の親化合物も、カルボキシル基は、実際上、特定の脂肪族環又はヘテロ脂肪族環に置換した炭素数6の特定の脂肪族炭化水素基の端に存在する(請求項1の一般式は、概念上、上記脂肪族炭化水素基の炭素がS又はOに置換されるものや、上記脂肪族炭化水素基でなく-(CH_(2))_(m)-Ar-(CH_(2))_(o)-であり、Arはインターアリーレンまたはヘテロインターアリーレンであり、mとoの和は1?4であり、1個のCH_(2) はSまたはOで置換し得、といったものを包含しているが、何ら具体的に記載されたものではない。)。一方、Nakamura論文のサリチル酸及びアセチルサリチル酸は、カルボキシル基は、ベンゼン環に直接結合している。このようにカルボン酸化合物が異なるにもかかわらず、同じ反応温度及び時間でよいとする根拠も不明である。

g 上記b?fによれば、上記aの本願親化合物Aのような親化合物が入手できるものであったとしても、親化合物を適切に保護し、多様な天然アミノ酸を適切に保護し、溶媒の種類と量を適切に選択し、反応条件(反応温度、反応時間、攪拌の有無と強度)、反応の後処理、目的物の単離精製等の手順を、試行錯誤により決定して化合物を製造する必要があり、当業者に過度の負担を強いるものである。
したがって、発明の詳細な説明は、本願発明のプロドラッグ化合物を、当業者が製造し得るように記載されているとはいえない。

h 次に、本願親化合物A以外の、請求項1に4つの一般式で表される親化合物が、当業者が入手できるものであるか、そして、上記段落【0042】の記載に従い、本願発明のプロドラッグ化合物を製造することができるように記載されているか検討する。
請求項1に4つの一般式で表される親化合物は、その一般式のA、J、Eの選択肢に基づき、多様な化学構造の化合物を含むところ、その多くの親化合物については、多数の文献の提示と共に、概念的に、とり得る化学構造が一般式により記載されるだけである。このような多くの親化合物について、実際に入手しようとすれば、当業者は、多くの文献を調査して製造の手順を確かめ、知られていないものについては製造手順を試行錯誤して決定しなければならないから、その入手は、当業者に過度の負担を強いる。
そして、仮に親化合物を入手できたとしても、その後、本願発明のプロドラッグ化合物とするためには、上記b?gに述べたとおり、多くの試行錯誤を要する。
したがって、発明の詳細な説明は、本願発明のプロドラッグ化合物を、当業者が製造し得るように記載されているとはいえない。

(イ)以上によれば、発明の詳細な説明には、本願発明のプロドラッグ化合物を当業者が製造できるように記載されているとはいえないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の化合物を生産することができるように記載したものであるとはいうことはできない。

ウ 本願発明のプロドラッグ化合物を使用することができるように記載したものであるかについて

(ア)上記イに示したように、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明のプロドラッグ化合物を生産することができるように記載したものであるとはいえないが、以下、仮に、生産することができたとした場合について、使用することができるように記載したものであるかについて検討する。

(イ)本願発明のプロドラッグ化合物がプロスタグランジンEP_(4) 作用薬としての薬理作用を有するものであることを当業者が理解できるように記載されているか検討する。
発明の詳細な説明には、上記(1)ケのとおり、アミノ酸プロドラッグ化合物の薬理作用を試験した実施例の記載はない。
また、上記(1)キのとおり、アッセイ法に関連して、ヒトEP_(1)、EP_(2)、EP_(3)、EP_(4)、FP、TP、IP又はDPレセプターのタンパク質を生産するように形質転換した細胞を調製する方法と、そのような細胞を用いて[^(3)H-]PGE_(2) との結合性を測定する方法が、一般的に記載されているが、本願発明の化合物の、プロドラッグとしての性能が、どのように評価されるのかは、記載されていない。
このように、薬理作用を評価し得る試験データはおろか、試験の手順すら記載されていないのであるから、本願発明のプロドラッグ化合物がプロスタグランジンEP_(4) 作用薬としての薬理作用を有するものであることを実際に確認するには、当業者は、試験のための手順を一から決定するところから始めなければならず、当業者に過度の負担を強いるものである。
そして、本願発明の化合物は、請求項1に4つの一般式で表される親化合物の末端カルボキシル基に天然アミノ酸がアミド結合した構造体である化合物であるから、親化合物がプロスタグランジンEP_(4) 作用薬としての薬理作用を有するものであったとしても、本願発明の化合物がプロスタグランジンEP_(4) 作用薬としての薬理作用を有するとは直ちにはいえず、実際に試験してみなければ薬理作用を有するかを確認できない。
そうすると、発明の詳細な説明には、本願発明のプロドラッグ化合物がプロスタグランジンEP_(4) 作用薬としての薬理作用を有するものであることを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。

(ウ)本願発明のプロドラッグ化合物を製剤した医薬組成物が上記の疾患の処置に有効なものであることを当業者が理解できるように記載されているか検討する。
発明の詳細な説明には、上記(1)ケのとおり、本願発明のプロドラッグ化合物を製剤化して試験した実施例の記載はない。
一方、上記(1)カのとおり、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬の結腸での薬理作用、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬が結腸に投与されるようにすべきこと、薬物を結腸に経口投与剤形によって伝達する既知の方法として、「2)薬物の結腸への伝達用に設計したポリマーによるコーティーング或いは薬物のそのようなポリマー中への封入または含浸」があることが記載され、「サリチル酸およびグルタミン酸のアミドは、サリチル酸のウサギまたはイヌの結腸への伝達において有用であることが証明されている」、「数種のEudragitR 投与剤形が、潰瘍性大腸炎およびクローン病の治療のためにサルサラジン(salsalazine)を伝達するのに現在使用されている」とも記載されている。
この記載によれば、本願発明のプロドラッグ化合物が、その薬理作用を発揮するためには、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬が結腸に伝達されるようにすべきこと、本願発明のアミドプロドラッグを使用し経口投与して結腸へ伝達させる方法の候補として、適切なポリマーを用い、薬物化合物をコーティング、含浸又は封入して経口投与剤形にする方法があることは、理解できる。
しかし、本願発明のプロドラッグ化合物を患者の結腸に伝達できた場合でも、伝達された本願発明のプロドラッグ化合物が、結腸において、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬の薬理作用を発揮するためには、一般には、そのアミド結合が開裂して親化合物が再生される必要がある(さもなければ、そのプロドラッグ化合物自体がプロスタグランジンEP_(4) 作用薬の薬理作用を有する必要がある。)。
この点、上記の「サリチル酸およびグルタミン酸のアミドは、サリチル酸のウサギまたはイヌの結腸への伝達において有用であることが証明されている」の記載は、サリチル酸とグルタミン酸のアミドであるプロドラッグは結腸でアミド結合が開裂してサリチル酸が再生されることを示唆する。また、上記イ(ア)で参照したNakamura論文にも、サリチル酸のグリシン複合体(サリチル尿酸)やサリチル酸-L-アラニン複合体(サリチル-L-アラニン)が腸内細菌によりサリチル酸に代謝される旨が記載されている(要約及び冒頭の段落)。
しかし、本願発明のプロドラッグ化合物と、上記サリチル酸のグリシン複合体(サリチル尿酸)及びサリチル酸-L-アラニン複合体(サリチル-L-アラニン)は、上記イ(ア)fで述べたとおり、親化合物のカルボキシル基が結合する環境が異なり(前者は実際上、脂肪族炭化水素基、後者はベンゼン環である。)、それに伴い、プロドラッグ化合物の酸アミド基が結合する環境が異なる(同様に、前者は実際上、脂肪族炭化水素基、後者はベンゼン環である。)。そうすると、たとえサリチル酸のアミドプロドラッグが結腸で腸内細菌による代謝等でアミド結合が開裂して親化合物のサリチル酸を再生することができるものであるとしても、本願発明のプロドラッグ化合物は、酸アミド基の結合する環境が異なるものであり、腸内細菌の作用その他により同様にアミド結合が開裂して親化合物が再生されるとは直ちにはいえず、実際に適当な試験をしてみなければ親化合物が再生するものかどうかを予測又は確認できない。
このように、本願発明のプロドラッグ化合物を試験した実施例の記載はなく、サリチル酸のアミドプロドラッグについての言及があるだけでは、本願発明のプロドラッグ化合物を製剤した医薬組成物が上記の疾患の処置に有効なものであることを確認することはできない。
ほかに、本願発明のプロドラッグ化合物を製剤した医薬組成物が上記の疾患の処置に有効なものであることを示唆する記載もない。
そうすると、発明の詳細な説明には、本願発明のプロドラッグ化合物を製剤した医薬組成物が上記の疾患の処置に有効なものであることを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。

(エ)以上によれば、発明の詳細な説明には、本願発明のプロドラッグ化合物がプロスタグランジンEP_(4) 作用薬としての薬理作用を有するものであることを当業者が理解できるように記載されているとはいえず、また、上記プロドラッグ化合物を製剤した医薬組成物が上記の疾患の処置に有効なものであることを当業者が理解できるように記載されているともいえないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の化合物を使用することができるように記載したものであるとはいうことはできない。

2 特許法第36条第6項第1号について

(1)はじめに
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)である。
以下、この観点に立って、検討する。

(2)本願発明の課題
上記1(1)アによれば、本願発明の課題は、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬のプロドラッグとして有用な化合物を提供することであると認められる。

(3)発明の詳細な説明の記載
上記1(1)に示したとおりである。

(4)本願発明と発明の詳細な説明との対比及び出願時の技術常識について

ア 上記1で検討したとおり、本願発明は、請求項1に4つの一般式で表されるプロスタグランジンEP_(4) 作用薬(親化合物)の化学構造を改変して、プロドラッグとして有用な化合物(プロドラッグ化合物)とした点に特徴を有する、医薬化合物発明であると認められる。
そして、発明の詳細な説明には、化合物の合成実施例は記載されておらず、化合物の試験実施例も記載されていない。
また、請求項1に4つの一般式で表される親化合物は、その一般式のA、J、Eの選択肢に基づき、多様な化学構造の化合物を含むところ、その多くの親化合物については、多数の文献の提示と共に、概念的に、とり得る化学構造が一般式により記載されるだけであり、入手方法は、具体的に記載されていない。そして、親化合物を入手できた場合でも、その末端カルボキシル基に天然アミノ酸がアミド結合した構造体であるプロドラッグ化合物を製造する方法は、具体的には記載されていない。
さらに、本願発明の化合物がプロスタグランジンEP_(4) 作用薬としての薬理作用を有するものであることを当業者が理解できるように記載されているとはいえず、また、上記プロドラッグ化合物を製剤した医薬組成物が上記の疾患の処置に有効なものであることを当業者が理解できるように記載されているともいえない。
そうすると、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(2)の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

イ また、上記1でも検討したとおり、請求項1に4つの一般式で表されるプロスタグランジンEP_(4) 作用薬(親化合物)の末端カルボキシル基に天然アミノ酸がアミド結合した構造体である化合物が、プロスタグランジンEP_(4) 作用薬のプロドラッグとしての薬理作用を有するという技術常識は存在しなかったことからすると、当業者の技術常識からみて、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも上記(2)の課題が解決できると当業者が認識できるものであるともいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、請求項1に4つの一般式で表されるプロスタグランジンEP_(4) 作用薬(親化合物)の化学構造を改変して、プロドラッグとして有用な化合物(プロドラッグ化合物)とした点に特徴を有する本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえず、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
してみると、請求項1の特許を受けようとする発明(本願発明)が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいうことができないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第5 むすび
したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-09 
結審通知日 2015-02-12 
審決日 2015-02-24 
出願番号 特願2009-504375(P2009-504375)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
P 1 8・ 537- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 紀子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 中田 とし子
齊藤 真由美
発明の名称 プロスタグランジンEP4作用薬  
代理人 辻居 幸一  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  

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