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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1302915
審判番号 不服2014-3080  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-19 
確定日 2015-07-07 
事件の表示 特願2010-514968「仮想化とエミュレーションを促すトランザクションメモリーハードウェアの活用」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月31日国際公開、WO2009/002755、平成22年 9月30日国内公表、特表2010-532053〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、2008年6月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2007年6月27日、米国)を国際出願日とする出願であって、
平成21年12月10日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面、及び、特許法第184条の4第1項の規定による翻訳文が提出され、
平成23年5月16日付けで審査請求がなされ、
平成24年12月12日付けで拒絶理由通知(平成24年12月14日発送)がなされ、
これに対して平成25年3月14日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、
平成25年10月31日付けで、前記平成24年12月12日付けの拒絶理由通知書に記載した理由2(特許法第36条第6項第2号)及び理由3(同法同条第4項第1号)によって拒絶査定(平成25年11月5日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取り消す、本願は特許をすべきものであるとの審決を求める」ことを請求の趣旨として平成26年2月19日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、
これに対して同年4月25日付けで審査官により特許法第164条第2項で準用する前置拒絶理由通知(平成26年4月30日発送)がなされ、
これに対して同年7月14日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされたものの、
同年8月5日付けで特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされたものである。


2.特許請求の範囲及び本願発明

本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年7月14日付けの手続補正書により以下のように補正された。

「 【請求項1】
コンピューターデバイスのCPUがトランザクションメモリーハードウェアを使用する方法であって、
前記CPUが、分離された非公開ステートのトランザクションメモリーハードウェアにアクセスして、前記CPUが、前記分離された非公開ステートのトランザクションメモリーハードウェアに、他のコンピュータデバイス内の他のCPUによって実行されるゲストプログラムのエミュレーションを実行する、前記コンピュータデバイスに記憶される、前記CPUによって実行されるホストプログラムのスタックを記憶するステップと、
前記ホストプログラムを実行する前記CPUが、前記スタックをバッファモードに保持して、前記ホストプログラムの実行に負担のかかるランタイムのチェックの必要性を無くし、それにより状態の隔離を容易にするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記分離された非公開ステートが前記CPUからのみ可視であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分離された非公開ステートが別のCPUまたはハードウェアデバイスからアクセスすることができないことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記コンピューターデバイスのCPUに請求項1に記載のステップを実行させる、コンピューター実行可能命令が記録されているコンピューター可読メディア。」

3.拒絶の理由1

平成26年4月25日付けで通知した拒絶の理由1の概要は以下のとおりである。

「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


[理由1]
[請 求 項]1-4
(1)請求項1の記載は、「ゲスト」、「ホスト」が、それぞれ特定する発明に対して、何を指すのか、特段の定義もなく、また、それを一義に理解する技術常識もなく不明であり、発明を構成する事項間の関連が不明である。
また、「CPU」と「ゲスト」、「ホスト」の関連も不明であり、「ゲストのエミュレーションを実行するホスト」は、ホストなる事項が主体となって、ゲストのエミュレーションを実行する、と解されても、「CPU」と「ホスト」との関連が不明であり、また、「ホストのスタック」とは、ホストに関する如何なる事項を意味するのか不明であるし、何故、「CPUが、・・・ホストのスタックを記憶する」こととなるのか、事項間の関連が明確でない。

(2)請求項1の記載は、CPUが、「分離された非公開ステートにアクセスするステップ」と、「分離された非公開ステートに・・・記憶するステップ」とから構成されているが、「分離された非公開ステートにアクセスする」こと、「分離された非公開ステートに、ゲストのエミュレーションを実行するホストのスタックを記憶する」ことのそれぞれが、特定する発明に対して、如何なる働き・役割りがあるのか不明であり、また、「アクセスする」ことと、「記憶する」こととの関連も不明であり、方法の発明として、如何なる一連の処理又は操作をする発明を特定するのか把握できない。

(3)請求項1に記載の、「非公開ステートにアクセスするステップ」は、「アクセス」は、「(1)情報に対する操作の総称。特にコンピューターで、記憶装置や周辺装置にデータの読み出しや書き込みをすること。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」を意味するところ、発明を構成する一ステップとして、「アクセスする」とは、「非公開ステート」に対して、何を読み出すことであるのか、あるいは書き込みをすることであるのか具体的な内容が不明であり、単に「非公開ステートにアクセスする」では、如何なる処理を意味するのか不明であり、発明の構成が明確でない。

よって、本願の請求項1-4に係る発明は明確でない。」

4.当審の判断

上記3.にて説示した(1)ないし(3)の事項は、
ア.審判請求時の請求項1内に記載された用語(「ゲスト」及び「ホスト」)の意味するところが明確でない点((1)前段参照)、
イ.「CPUが、・・・ホストのスタックを記憶する」なる記載が特定しようとする内容が不明確である点((1)後段参照)、
ウ.請求項1に記載された2つのステップ(「分離された非公開ステートにアクセスするステップ」及び「分離された非公開ステートに、ゲストのエミュレーションを実行するホストのスタックを記憶する」(ステップ))同士の関連、これら2つのステップにより形成される一連の処理又は操作はどのように理解するのか把握が困難とする点((2)参照)、
エ.「非公開ステートにアクセスする」なる記載が示す内容把握が困難である点((3)参照)
を指摘したものである。

これに対し、請求人が補正した上記2.の【請求項1】では、アないしエを各々以下の内容で対応している。

(アについて)
「ゲスト」に対して、「他のコンピュータデバイス内の他のCPUによって実行されるゲストプログラム」へと変更し、「ホスト」に対して、「前記コンピュータデバイスに記憶される、前記CPUによって実行されるホストプログラム」へと変更を行った。
同時に、請求人が平成26年7月14日付けで提出した意見書の(1-1)では、その根拠として段落【0007】を示している。
(イについて)
「CPU」と「ホスト」との関連は、「前記CPUによって実行されるホストプログラム」を請求項1へ加入することにより、「ホスト」(プログラム)は「CPU」が実行しようとする対象であることを明確にした。
一方、前記意見書の(1-2)では、段落【0002】及び図1の参照を示しつつ、コンピュータデバイス内のCPUは「ゲストプログラム」を実行する役割が与えられ、“他のコンピュータデバイス内の他のCPU”が「ホストプログラム」を実行すると説明している。
他方、「ホスト(プログラム)のスタック」については、なんら補正を施していない。
前記意見書では、(1-3)として段落【0005】に、当該「スタック」に関連しているとして開示されていることのみを示すに留まっている。
(ウについて)
「分離された非公開ステートにアクセスするステップ」と、「分離された非公開ステートに、ゲストのエミュレーションを実行するホストのスタックを記憶するステップ」とは、補正により「アクセスして、・・・スタックを記憶するステップ」へと変更し、前記意見書の(2-1)及び(2-2)を参酌すると、両者はアクセスをした上で記憶するようにされた関係であるとしている。また、前記意見書(2-2)では、記憶するためにはアクセスが必要であることを説明している。
また、2つのステップがなす一連の処理に関しては、請求項1に
「前記ホストプログラムを実行する前記CPUが、前記スタックをバッファモードに保持して、前記ホストプログラムの実行に負担のかかるランタイムのチェックの必要性を無くし、それにより状態の隔離を容易にする」
を加入することで対応している。
(エについて)
「アクセス」に対して補正は施さなかった。
前記意見書では、(3)として『「アクセス」の意義は上述のとおりです。』とされるに留まっている。

そこで、各点について検討する。なお、ウ及びエについては、拒絶理由通知書での指摘事項にも、請求人が提出した意見書の主張にも、不備とされた記載の一部であるアクセスに関する箇所が重複しているため、まとめて検討を行う。

(アに対する検討)
請求人が根拠として示した【0007】は、「一実施形態として」との断り書きで始まっており、また「ディスパッチテーブルの更新を容易にするため」の「トランザクションメモリーハードウェア」の使用形態を説明した箇所である。
他方、請求項1に係る発明は、元々「非公開ステート」を特定事項として含むものであり、参照として示された【0007】とは明らかに異なる別段落の【0005】にて説明された発明とみられる。
この「非公開ステート」を特定事項として含む他の説明箇所として、【0021】及び図6が存在する。ただし、【0021】や図6の箇所には、【0007】に記載されたホストプログラム及びゲストプログラムが、【0021】に記載された「ホスト」及び「ゲスト」に該当することを直接的に示す記載は見られない。
ただし、本件発明が背景技術及び課題に据えている「エミュレーション」、「仮想化」における技術常識を参酌すれば、そもそも仮想化手法の一つであるエミュレーションでは、一般的に「ゲスト」と呼称されるものは、他のOS環境向けに作られたプログラムであるゲストOSを指し、「ホスト」と呼称されるものは、エミュレーション環境下でプログラムを動かすホストOSを指す。その際、他のOS環境向けのプログラムは、エミュレータにより変換されるのであるが、同時にプログラムの制御で必要とされるプログラムカウンタも、同時に変換されることとされている。
これらの技術常識を勘案して、補正に関連すると思われる【0021】及び【0007】の記載事項を読み解くと、【0021】の「エミュレートを行うホストは」の記載や、【0007】の「ゲストプログラムカウンターをホストプログラムカウンターに変換する」の記載が示す内容は、各々、【0021】に記載された「ホスト」は、エミュレートされた環境を作り出している図1中の「仮想化/エミュレーション アプリケーション200」と共にプログラムの実行を行うもの、すなわち、「コンピュータデバイス」、或いは、「コンピュータデバイスのCPU」のいずれかを指すというべきである。そして【0007】における「ホスト」及び「ゲスト」の扱われ方は、他のOS環境向けプログラムないし他のOSというべき存在がエミュレーション処置を講じられる様を説明しようとして用いられた用語であって、「ゲスト」は変換前のプログラムに関連するもの、「ホスト」は、エミュレーションによるプログラム変換がなされた結果、実行主体側のホストOS側のシステム仕様部分を指すために用いられた、と解すべきである。
要するに、先の拒絶理由通知の理由1で指摘した、「ゲスト」、「ホスト」が示す内容が不明確であるとする点に関しては、「ゲスト」が指す内容として、『エミュレーション処置を講じないと、システム環境上実行できない類のプログラム』に類した記載、簡潔に言えば、『エミュレートされるプログラム』等の記載が望まれるところであったものの、上記(アについて)が示すとおり、補正により全く異なる特定事項が加えられることとなった。
つまり、補正前にあった「ゲスト」なるものを実行する主体は、発明の詳細な説明による開示や、技術常識との照合を行う限り、ホストOSでなければならないことが明らかであるのに対して、「コンピューターデバイスのCPU」ではない別のCPUが実行するプログラムであるとする特定事項が、補正により加えられている状況となっている。
そのため、形式的には特定を図るべき補正前の「ゲスト」は明確な特定が図られてはいるものの、記載通りに「ゲスト」の特定を図ろうとすると、請求項1内の他の事項との整合がとれないことになるのはもちろんのこと、発明の詳細な説明の開示内容ともかけ離れた特定が発生したこととなり、全体としてまとまりのある技術思想の表現に至り得ないことが明らかである。

なお、補正前の「ホスト」に対して補正により行われた特定事項追加((アについて)参照)の検討は、関連する後述の(イに対する検討)で併せて検討することとする。

以上、前置拒絶理由通知で指摘した「ホスト」及び「ゲスト」が指す内容は、形式上はどちらもプログラムを指すものと補正されたものの、「ゲスト」については字義通り扱えない特定事項を発生する記載になっており、補正後の記載をそのまま解せない技術思想上のまとまりを欠く記載に至っていると認められ、当該理由1とされた拒絶理由の解消に至ったとは到底扱えないとするのが相当である。

(イに対する検討)
ここでは、2つの不備事項、すなわち、「CPU」と「ホスト」との関連、「ホストのスタック」の指す内容の、各々が明確でないとの説示をしている。
そこで、前記(アに対する検討)でまとめて検討するとした「ホスト」の指す内容を加えた、計3点について検討を行う。

[検討1] 「ホスト」の指す内容、及び、「CPU」と「ホスト」との関連について

「ホスト」の指す内容、及び、「CPU」と「ホスト」との関連については、上記「3.拒絶の理由1」中に記載した通知の概要中の(1)にて各々、

『(1)請求項1の記載は、「ゲスト」、「ホスト」が、それぞれ特定する発明に対して、何を指すのか、特段の定義もなく、また、それを一義に理解する技術常識もなく不明であり、発明を構成する事項間の関連が不明である。』

『「ゲストのエミュレーションを実行するホスト」は、ホストなる事項が主体となって、ゲストのエミュレーションを実行する、と解されても、「CPU」と「ホスト」との関連が不明であり、』

との説示を行いつつ、補正前の関係する対象の明確化を求めたものであって、これに対して請求人は、補正後の請求項1を下記のとおり改めた。

「ゲストプログラムのエミュレーションを実行する、前記コンピュータデバイスに記憶される、前記CPUによって実行されるホストプログラム」

これによると、補正前の「ホスト」は、エミュレーションを実行するプログラムを指すことになる。すなわち、本件明細書ないし図面で説明されている「仮想化/エミュレーションアプリケーション200」を指す。当該アプリケーションがプログラムであること、及び、コンピュータデバイスに記憶されることは、どちらも明細書の【0017】に対応する記述がある。

よって、当該記載不備は、補正により解消した。

[検討2] 「ホストのスタック」の指す内容について

上記(イについて)で言及したとおり、拒絶理由通知書にて指摘した「ホストのスタック」について、請求人は補正による明確化を行っていない。
また、提出した意見書の(1-3)にて『開示があります。』とされた【0005】には、当該「ホストのスタック」についての定義も、具体的な説明も存在しない。
「ホスト」が、「ホストプログラム」であることに関連して、何らかの技術常識を援用することで、「ホストのスタック」が自明である可能性も考えられはするが、本件の場合、一定の一般的な技術的事項を記載した文献と照合を図った場合、字義通りの解釈ができない状況が判明した。

一例を挙げると、拒絶理由通知書には、別途理由2(特許法第29条第2項違反)が示され、引用文献3として示された公知文献である特開平7-6045号公報が挙げられている。当該文献には、ここで問題とされたスタックと、トランザクションメモリとの関係を論じた記載が、【従来の技術】とされる【0002】?【0008】にかけて存在している。
ところが、当該文献でのスタックの役割、定義は、スタックとトランザクションメモリとは同義で扱われ(【0007】参照)、プログラム実行時にタスクが生成され、生成されたタスクに対してスタックが割り付けられる関係とされ(【0004】参照)、アドレスの一定方向に有効データが追加される形でスタックは用いられる(【0004】参照)とされていて、不備の対象とされた「スタック」の用法、定義は、当該文献と本件とで、以下の諸点で大きく相違する。

・プログラムとの関連で見ると、公知文献では多重処理で扱う各タスクの実行プログラムごとにスタックが割り付けられる関係であるのに対して、本件の手続補正で明らかにされた内容に拠れば、「ホスト」は「ホストプログラム」であり、しかも仮想化/エミュレーションアプリケーションのプログラムについてスタックが存在しており、タスクと関係付けがないプログラムにされている点。

・トランザクションメモリとスタックとの関係に関し、当該文献では両者は同義と扱われているのに対して、本件の手続補正で明らかにされた内容に拠れば、両者は同義ではなく、トランザクションメモリハードウェアに、スタックが記憶される関係とされている点。つまり、本件では「スタック」はメモリに記憶される対象、すなわち、何らかのデータと認識されている。

以上を総合すると、[検討1]に対して部分的に記載不備は解消したものの、[検討2]に対して、記載不備を解消するにたる合理的な不明事項の特定がなされていないと認められる。
よって、先の拒絶理由とされた理由1は、依然として解消されていない。

(ウ、エに対する検討)

[検討1] 「前記CPUが、トランザクションメモリーハードウェア上にある分離された非公開ステートにアクセスするステップ」に対する検討

まず、ウ、エ双方に共通する、補正前にあった「前記CPUが、トランザクションメモリーハードウェア上にある分離された非公開ステートにアクセスするステップ」が、補正により明確とされたか否かについて、当該アクセスが本来どのような内容を指すものであって、補正後の記載が本来内容を正しく表現したものとなっているかを検討する。

CPUによってなされる非公開ステートと関係したアクセスについては、発明の詳細な説明を参酌すると、多くの態様でアクセスとおぼしき記載は見られるものの、請求項1の全体記載と密接に関係する記載箇所は、【0021】以外には適当な対象箇所が見当たらず、しかも【0021】にあっても、「アクセス」という直接的な記載は存在しない。
【0021】と、【0021】で言及された図6の図示の双方を見る限り、スタックの保存の直前になされる段階は、「トランザクションメモリハードウェア上に孤立した非公開ステートを作成する(段階312)」であり、本件でなされた手続の経緯と照合して見ても、出願当初の特許請求の範囲の請求項1中にも、記載不備とされた同様の表記に対して、下記の記載がなされている。(下線は、参考のため当審で付したもの。)

『【請求項1】
状態の分離を促進するためのトランザクションメモリーハードウェアを使用する方法であって、
トランザクションメモリーハードウェア上で分離された非公開ステートにアクセスするステップ(312)と、
前記分離された非公開ステートにおいてエミュレーションを実行するホストのスタックを記憶するステップ(314)と
を含むことを特徴とする方法。』

これらを総合すると、不備とされた「アクセス」が指す内容は、本来「トランザクションメモリハードウェア上に孤立した非公開ステートを作成する」を意図する内容であったと見るのが相当である。

この本来的な内容が、今回の補正により正確に特定された状況に至っているか否かを検討してみたが、技術的には明らかに異なる「アクセス」の箇所は、訂正された記載にはなっておらず、補正と同日に提出した意見書で請求人が示す、当該「アクセス」が、スタックの保存を実行する上で、当然メモリーにはアクセスすることを指しているとの趣旨に沿って記載の変更がなされている。
とすれば、補正後の請求項1の記載は、指摘した不備の解消に至っていないというべきであって、先の拒絶理由とされた理由1は、依然として解消されていない。

[検討2] 「2つのステップがなす一連の処理」に対する検討

次に、上記ウの後段である2つのステップがなす一連の処理が明確でないとの指摘に対する検討を行う。
前記[検討1]の過程で示したとおり、請求人は補正前にあった「・・・アクセスするステップ」と、「・・・スタックを記憶するステップ」との、2つのステップを、実は1つのステップであり、2番目に位置する「スタック」の「記憶」を行う上でメモリーへアクセスすることを内容とするよう補正を行うとしており、結果として不備とされた2つのステップの一連の処理は、字義的には明らかになっている。
しかしながら、同時に請求項1へ追加された以下の記載

「前記ホストプログラムを実行する前記CPUが、前記スタックをバッファモードに保持して、前記ホストプログラムの実行に負担のかかるランタイムのチェックの必要性を無くし、それにより状態の隔離を容易にするステップと、
を含む」
をどのように扱えば、請求項1に係る発明が備えるとしたステップの個々の理解及び発明全体の理解に至るのか、補正が行われてもなお明らかとはならない。
なぜなら、これまでの検討で明確ではないとされた記載不備が解消されていない状況下で、当該新たに追加されたステップの存在を、記載のとおりに受け入れたとしても、請求項1に係る発明を構成するとされた「ステップ」の流れは、「スタック」の「トランザクションメモリーハードウェア」への「記憶」の後に、「スタック」を「バッファモードに保持」する都合2つの段階を経るとされているのみであって、ごく普通に考えると、ハードウェアとされたメモリへ記憶された「スタック」に対して、未定義の「バッファモード」への保持処理を行うとされても、結局のところ請求項1の冒頭に記載した、
「コンピューターデバイスのCPUがトランザクションメモリーハードウェアを使用する方法」
で言うところの「使用」の内容を定められない状況に変わりはないからである。

ちなみに、発明の詳細な説明では、当該コンピュータデバイスのCPUは、マルチスレッド処理を実行する模様であり、従来のマルチスレッド処理で欠かせないとされていたランタイムのチェックに替わる新規な方法を発明のテーマとしていることは把握できるものの、プログラム実行時にCPUが行うべき処理制御がどのようなフローで行うものなのかは、補正されてもなお請求項1には特定されていない以上、ランタイムのチェックの必要性が無くされるに至り得るのか、状態の隔離が示す内容が何を指し、結果としてその字句(=「状態の隔離」)がどの程度適当だとみなせるのかも、不明と言わざるを得ない。

よって、[検討2]とされた点に関しても、拒絶理由通知書で指摘した不備の解消に至っていないというべきである。


以上より総合すると、請求項1の記載は、発明の詳細な説明を参照してもその構成が不明というほかなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

そして、請求項2ないし3は、請求項1をそのまま引用して別途の事項を付加するものであり、請求項4は、請求項1の方法発明を実行させる実行可能命令を記録したメディアとされているから、同様の理由により特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


5.むすび

したがって、請求項1-4の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-03 
結審通知日 2015-02-04 
審決日 2015-02-25 
出願番号 特願2010-514968(P2010-514968)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 宏一  
特許庁審判長 石井 茂和
特許庁審判官 西村 泰英
田中 秀人
発明の名称 仮想化とエミュレーションを促すトランザクションメモリーハードウェアの活用  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 中村 彰吾  

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