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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1303222 |
審判番号 | 不服2014-854 |
総通号数 | 189 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-01-17 |
確定日 | 2015-07-16 |
事件の表示 | 特願2008-289284「乳酸菌及びこれを用いた発酵乳製品、医薬又は飲食品」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月27日出願公開、特開2010-115126〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成20年(2008年)11月11日を出願日とする出願であって、その請求項1?4に係る発明は、平成26年1月17日付手続補正書の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 マウス脾臓細胞を、1×10^(7)個/mLで1×10^(7)CFU/mLの濃度の乳酸菌を熱殺菌した乳酸菌試料と1mLの培地中で72時間共培養し、上清中のインターロイキン17(IL‐17)、インターフェロンγ(IFN‐γ)及びインターロイキン4(IL‐4)の産生量を測定した場合、IL‐17の産生量が少ない乳酸菌Streptococcus thermophilus。」(以下、「本願発明」という。) 2.引用例 原査定の拒絶の理由で引用例1として引用された本願出願前に頒布された刊行物であるInt. J. Mol. Med, 2008 Aug, Vol.22, p.181-185(以下、「引用例」という。)には、以下のとおり記載されている(注:下線は当審で付与した。以下同じ。)。 (i)「要約 インターロイキン(IL)-17は強力な炎症性サイトカインとして働き、IL-17産生細胞(Th17細胞)が多大な注目を集めている。しかしながら、共生菌及び/または腸内有益菌のIL-17産生への関与は評価されていない。この研究で、我々は、5種の細菌株のIL-17産生抑制効果をインビトロ及びインビボで試験した。調査された5種の株のうちBifidobacterium infantisが、TGF-β及びIL-6で刺激されたマウス脾臓細胞において、最も強力にIL-17産生を抑制し、しかしIL-27産生を促進した。」(第181頁要約第1行?第10行) (ii)「細菌培養物 3種のビフィズス菌(B.bifidum、B.catenulatum、及びB.infantis)並びに2種の乳酸菌(L.acidophilus及びL.bulgaricus)は理研バイオリソースセンター(Japan Collection of Microorganisms、埼玉、日本)から入手された。ビフィズス菌はGAM培地で培養され、乳酸菌はMRS培地で培養され、そして培養液は37℃で18時間、嫌気性バッグ(アネロパック、三菱ガス化学、東京、日本)で培養された。細胞懸濁物は蒸留水で洗浄され、100℃で50分恒温放置され、その後凍結乾燥された。続いて、熱殺菌細菌は下記のような脾臓細胞培養物または大腸器官培養物に添加された。」(第182頁左欄第20行?第31行) (iii)「脾臓細胞培養物 6週齢の雌Balb/cマウスはチャールズリバー(神奈川、日本)から入手され、頸部脱臼により犠牲にされた。実験ごとに3匹のマウスの脾臓が除去され、蓄えられた脾臓細胞(10^(7)細胞)をTGF-β(2ng/ml)及びIL-6(20ng/ml)と共に、37℃で、10%FBS、10μMの2-メルカプトエタノール、10mMのHEPES、ペニシリン及びストレプトマイシンを添加した1mlのRPMI-1640培地で72時間培養した。熱殺菌した細菌(10^(7)細胞)が培養物に添加されていた。TGF-β及びIL-6、または熱殺菌した細菌を添加しない培養物が対照として含まれた。培養上清が回収され、下記のようなサイトカインのアッセイが行われた。」(第182頁左欄第32行?43行) (iv)「サイトカインアッセイ 培養上清のIL-17、IL-27及びエオタキシン濃度は、サンドイッチ酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)(R&Dシステム)を製造者の使用説明書に従って用いて測定された(図1及び2)。B.infantisが培養上清のサイトカイン特性に与える影響を評価するために、Bio-Plex Suspension Array System(BioRad Laboratories、ハーキュリーズ、カリフォルニア、米国)を用いたマイクロビーズ法により、サイトカイン[IL-2、IL-4、IL-5、IL-10及びIL-12(p70)]濃度が決定された(表I及びII)。」(第182頁右欄第3行?第12行) (v)「結果 熱殺菌ビフィズス菌のマウス脾臓細胞のIL-17及びIL-27産生に対する影響 炎症性腸管のIL-17産生に対するビフィズス菌及び乳酸菌の制御性の影響を分析する前に、我々はまずそれらのマウス脾臓細胞に対する影響を試験した。TGF-β及びIL-6の添加は、脾臓細胞のIL-17産生を劇的に促進した(図1A)。試験した5種の細菌株のうち、B.infantisが最も強力にIL-17産生を抑制した。」(第182頁右欄第24行?32行) (vi)「 図1 ビフィズス菌及び乳酸菌のマウス脾臓細胞のIL-17及びIL-27産生に対する影響 ・・・(途中省略)・・・ B.bifidum(Bb)、B.catenulatum(Bc)、B.infantis(Bi)、L.acidophilus(La)、L.bulgaricus(Lb)(それぞれ10^(7)細胞)が培養物に添加された。培養物単独(Cont)及び細菌を添加しない培養物(-)が対照として含まれた。」(図1、図1脚注第1行?第7行) (vii)「我々はまた、より強力なIL-17阻害活性を有する細菌を同定するために、広範な細菌ライブラリーから細菌をスクリーニングすることを計画している。」(第185頁左欄第29行?第31行) 記載事項(ii)及び(iii)によれば、1mLの培地中の10^(7)細胞のマウス脾臓細胞を、10^(7)細胞の熱殺菌したビフィズス菌または乳酸菌を添加して72時間培養したことが理解される。また、記載事項(i)、(iv)、(v)、及び(vi)によれば、培養上清中のIL-17及びIL-4の産生量を測定したこと、B.infantisを添加した場合、細菌を添加しなかった対照と比べてIL-17産生量が少なかったこと、また5種の細菌のうち、B.infantisが最も産生量が少なかったことが理解される。 そうすると、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。 「1×10^(7)細胞のマウス脾臓細胞を、1×10^(7)細胞の熱殺菌したビフィズス菌を添加した1mLの培地中で72時間培養し、培養上清中のインターロイキン17(IL‐17)及びインターロイキン4(IL‐4)の産生量を測定した場合、IL‐17の産生量が少ないビフィズス菌Bifidobacterium infantis。」(以下、「引用発明」という。) 3.対比 本願発明と引用発明とを対比する。引用発明の「1×10^(7)細胞のマウス脾臓細胞」は1mLの培地中で培養されるから、1mLあたりの細胞個数で表記すると、「1×10^(7)個/mLのマウス脾臓細胞」となり、本願発明の「マウス脾臓細胞を、1×10^(7)個/mL」に相当する。同様に、引用発明の「1×10^(7)細胞の熱殺菌したビフィズス菌」も、1mLの培地中に添加されるものであり、ここで、1個の細菌が1CFUに相当するのは技術常識であるから、本願発明の「1×10^(7)CFU/mLの濃度の菌を熱殺菌した菌試料」に相当する。そして、引用発明の「培養」は、本願実施例と同じく、マウス脾臓細胞と熱殺菌した菌を混合して培養するものであるから、本願発明の「共培養」に相当する。さらに、引用発明の「培養上清」が本願発明の「上清」に相当することは自明である。 そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。 一致点:「マウス脾臓細胞を、1×10^(7)個/mLで1×10^(7)CFU/mLの濃度の菌を熱殺菌した菌試料と1mLの培地中で72時間共培養し、上清中のインターロイキン17(IL‐17)、及びインターロイキン4(IL‐4)の産生量を測定した場合、IL‐17の産生量が少ない菌。」 相違点(イ):本願発明は、さらに、上清中の「インターフェロンγ(IFN‐γ)」の産生量を測定するのに対し、引用発明ではこのような特定はなされていない点。 相違点(ロ):本願発明の菌は「乳酸菌Streptococcus thermophilus」であるのに対し、引用発明の菌は「ビフィズス菌Bifidobacterium infantis」である点。 4.当審の判断 上記相違点(イ)について検討する。本願発明は、「・・・上清中のインターロイキン17(IL‐17)、インターフェロンγ(IFN‐γ)及びインターロイキン4(IL‐4)の産生量を測定した場合、IL‐17の産生量が少ない乳酸菌Streptococcus thermophilus」であるが、「乳酸菌Streptococcus thermophilus」は、測定したインターフェロンγ(IFN‐γ)の産生量により特定されていない。 また、本願明細書段落【0025】、図1及び図3等の記載を参酌すると、「IL-17の産生量が少ない」とは、TGF‐β及びIL‐6は加えるが乳酸菌を加えない陰性対照のIL-17の産生量と比較して少ないことと解されるから、上清中のインターフェロンγ(IFN‐γ)の産生量は、「IL-17の産生量」の比較対照として測定されるものでもない。 そうすると、本願発明における上清中のインターフェロンγ(IFN‐γ)の産生量を測定する工程は、「IL-17の産生量が少ない」との性質で特定される本願発明の乳酸菌をさらに限定するものでなく、インターフェロンγ(IFN‐γ)の産生量を測定する工程の有無により、本願発明の乳酸菌が物として相違するとはいえない。 したがって、相違点(イ)は実質的な相違ではない。 上記相違点(ロ)について検討する。引用例の記載事項(i)、(ii)には、共生菌及び/または腸内有益菌のIL-17産生への関与を評価するために、3種のビフィズス菌及び2種の乳酸菌のIL-17産生抑制効果を試験したこと、及び、記載事項(vii)には、より強力なIL-17阻害活性を有する細菌を同定するために、広範な細菌ライブラリーから細菌をスクリーニングすることを計画していることが記載されている。 そうすると、記載事項(vii)の示唆に基づき、引用発明のビフィズス菌に代えて、共生菌/腸内有益菌のうち、ヨーグルト製造に慣用される代表的な乳酸菌であるStreptococcus thermophilus(参考文献1 食品工業技術センターニュース,No.26, Jan.2008, p.2参照)について、そのIL-17産生抑制効果を試験し、IL-17の産生量が少ない株を取得することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明に包含される乳酸菌Streptococcus thermophilusには、IL-17の産生量が顕著に少ないとはいえないものも包含されており、本願発明において奏される効果が、引用例の記載から当業者が予測できない格別なものとは認められない。 5.審判請求人の主張 審判請求人は、平成26年1月17日付審判請求書において、「共培養の出発点となる乳酸菌が何であっても、スクリーニングによりIL‐17の産生量が少ない乳酸菌が得られるのであれば、IL‐17の産生量が少ない乳酸菌を取得することは容易かもしれないが、そうではなく、出発点となる乳酸菌を「Streptococcus thermophilus」としたからこそ、IL‐17の産生量が少ない乳酸菌を取得することができたのである。「Streptococcus thermophilus」にIL-17の産生抑制効果があることが知られてるのならいざ知らず、知られていない(段落[0006]参照)のであるから、出発点となる乳酸菌を「Streptococcus thermophilus」とすることは、当業者であっても容易には想到できない。」と主張している。 しかしながら、上記4.に記載したように、引用例には、他の細菌もスクリーニングすることが示唆されており、その際、代表的な乳酸菌であるStreptococcus thermophilusを試験することには強い動機付けがあるといえる。 さらに、IL-17は炎症を引き起こすサイトカインであり、炎症性腸疾患患者の組織で濃度が高いことが広く知られており(参考文献2 World J Gastroenterol. 2008 Jul, Vol.14, No.27, p.4280-8(第4281頁表1及び第4283頁右欄第33行?最終行)参照)、一方、Streptococcus thermophilusが炎症性腸疾患の治療に有効であることも周知であったから(参考文献3 特開2002-53472号公報(請求項4、実施例5、段落【0076】)、参考文献4 日本細菌学雑誌, 2003, Vol.58,No.1, p.185, WS-15-6(【目的】、【結果および考察】)、参考文献5 Biosci Biotechnol Biochem. 2008 Oct, Vol.2, No.10, p.2543-7(Abstract)参照)、この点においても、Streptococcus thermophilusを試験してみることは当業者が容易に想到し得たことである。 したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。 6.むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-05-18 |
結審通知日 | 2015-05-19 |
審決日 | 2015-06-01 |
出願番号 | 特願2008-289284(P2008-289284) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三原 健治 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
小堀 麻子 中島 庸子 |
発明の名称 | 乳酸菌及びこれを用いた発酵乳製品、医薬又は飲食品 |
代理人 | 瀧野 秀雄 |
代理人 | 鳥野 正司 |
代理人 | 田村 公總 |
代理人 | 朴 志恩 |
代理人 | 津田 俊明 |
代理人 | 川崎 隆夫 |
代理人 | 瀧野 文雄 |