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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 F01N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N |
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管理番号 | 1303242 |
審判番号 | 不服2014-15287 |
総通号数 | 189 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-08-04 |
確定日 | 2015-07-16 |
事件の表示 | 特願2011- 13986「排気処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月16日出願公開、特開2012-154247〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年1月26日の出願であって、平成26年1月27日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月31日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成26年5月19日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成26年8月4日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。 第2 平成26年8月4日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成26年8月4日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成26年8月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関しては,本件補正により補正される前の(すなわち,平成26年3月31日に提出された手続補正書により補正された)下記の(1)に示す請求項1ないし6を下記の(2)に示す請求項1ないし4に補正するものである。 (1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし6 「【請求項1】 内燃機関および電動モータを備えるハイブリッドシステムの排気処理装置であって、 前記内燃機関の排気通路を形成する排気管部材と、 前記排気管部材が形成する前記排気通路に設けられ、前記内燃機関の排気に含まれる特定物質を保持する特定物質保持部材と、 前記内燃機関が運転を停止しているとき、前記電動モータの電源から供給される電力を用いてプラズマを生成し、電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく生成した前記プラズマを供給または照射することによって前記特定物質保持部材に保持された前記特定物質を酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理する特定物質処理手段と、 を備える排気処理装置。 【請求項2】 内燃機関および電動モータを備えるハイブリッドシステムの排気処理装置であって、 前記内燃機関の排気通路を形成する排気管部材と、 前記排気管部材が形成する前記排気通路に設けられ、前記内燃機関の排気に含まれる特定物質を保持する特定物質保持部材と、 前記内燃機関が運転を停止しているとき、前記電動モータの電源から供給される電力を用いてマイクロ波を発生し、電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく発生した前記マイクロ波を供給または照射することによって前記特定物質保持部材に保持された前記特定物質を酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理する特定物質処理手段と、 を備える排気処理装置。 【請求項3】 前記特定物質保持部材は、前記特定物質を捕集する捕集層と、表面に前記捕集層が形成されている担体部とを有し、 前記マイクロ波発生手段は、前記特定物質が捕集された前記捕集層を加熱する請求項2記載の排気処理装置。 【請求項4】 前記排気通路の排気に含まれる酸素の濃度を制御する酸素濃度制御手段をさらに備える請求項1から3のいずれか一項記載の排気処理装置。 【請求項5】 前記酸素濃度制御手段は、前記内燃機関の運転停止前に、前記内燃機関における燃料の燃焼によって排気中の酸素の濃度を制御する請求項4記載の排気処理装置。 【請求項6】 前記酸素濃度制御手段は、前記特定物質保持部材に酸化剤を添加する酸化剤添加部、または前記特定物質保持部材に還元剤を添加する還元剤添加部の少なくともいずれか一方を有する請求項4記載の排気処理装置。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4 「【請求項1】 内燃機関および電動モータを備えるハイブリッドシステムの排気処理装置であって、 前記内燃機関の排気通路を形成する排気管部材と、 前記排気管部材が形成する前記排気通路に設けられ、前記内燃機関の排気に含まれるPM(Particulate Matter)を保持する特定物質保持部材と、 前記内燃機関が運転を停止しているとき、前記電動モータの電源から供給される電力を用いてマイクロ波を発生し、電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく発生した前記マイクロ波を供給または照射することによって前記特定物質保持部材に保持された前記PMを酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理する特定物質処理手段と、 を備え、 前記特定物質保持部材は、前記PMを捕集する捕集層と、表面に前記捕集層が形成されているコージェライト、アルミナ、またはシリカのいずれかからなる担体部とを有し、 前記マイクロ波発生手段は、前記PMが捕集された前記捕集層を加熱する排気処理装置。 【請求項2】 前記排気通路の排気に含まれる酸素の濃度を制御する酸素濃度制御手段をさらに備える請求項1記載の排気処理装置。 【請求項3】 前記酸素濃度制御手段は、前記内燃機関の運転停止前に、前記内燃機関における燃料の燃焼によって排気中の酸素の濃度を制御する請求項2記載の排気処理装置。 【請求項4】 前記酸素濃度制御手段は、前記特定物質保持部材に酸化剤を添加する酸化剤添加部、または前記特定物質保持部材に還元剤を添加する還元剤添加部の少なくともいずれか一方を有する請求項2記載の排気処理装置。」(下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。) 2 本件補正の目的 本件補正は、請求項1についてみると、本件補正前の請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「特定物質」を「PM(Particulate Matter)」ないし「PM」に限定する補正、以下同様に、「特定物質保持部材」について「前記特定物質保持部材は、前記PMを捕集する捕集層と、表面に前記捕集層が形成されているコージェライト、アルミナ、またはシリカのいずれかからなる担体部とを有し、」という事項を追加して限定する補正、及び「マイクロ波発生手段」について「前記マイクロ波発生手段は、前記PMが捕集された前記捕集層を加熱する」を追加して限定する補正を含んでいる。 したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明の発明特定事項を限定したものを含むものであって、本件補正前の請求項2に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 3 独立特許要件について [検討1] 本件補正後の請求項1には、「前記内燃機関の排気に含まれるPM(Particulate Matter)を保持する特定物質保持部材」、「前記特定物質保持部材は、前記PMを捕集する捕集層と、表面に前記捕集層が形成されているコージェライト、アルミナ、またはシリカのいずれかからなる担体部とを有し、」及び「前記PMが捕集された前記捕集層」という事項が記載されている。 一方、これらの事項に関して、本願の明細書には、「【0018】・・・。PF22およびガス吸蔵部23は、特許請求の範囲の特定物質保持部材を構成している。・・・。PF22は、例えば多孔質のセラミックスなどで形成され、排気に含まれるPM(Particulate Matter)などの微粒子を特定物質として捕集する。・・・。ガス吸蔵部23は、排気に含まれるNOx、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)などを特定物質として吸着する。ガス吸蔵部23は、例えばアルミナ、シリカ、炭化ケイ素、活性炭あるいはゼオライトなどのように表面積の大きな多孔質吸着材で形成されている。ガス吸蔵部23は、この多孔質吸着材をそのまま用いてもよく、多孔質吸着材を担体部として、その表面に貴金属や各種金属など特定物質を化学的または物理的に吸着する捕集層を担持する構成としてもよい。ガス吸蔵部23は、吸着したNOxなどの特定物質を再生処理が行われるまで保持する。なお、ガス吸蔵部23が吸着するNOx、HC、COは特定物質の一例である。」、「【0020】・・・。また、物質処理部24を構成するマイクロ波発生部は、バッテリ16から供給された電力により、PF22およびガス吸蔵部23の捕集層へマイクロ波を照射したり、PF22に捕集されたPMおよびガス吸蔵部23に吸着されたNOx、HC、COにマイクロ波を照射する。・・・。例えば、物質処理部24から900kHzから30GHzのマイクロ波を照射する場合、PF22およびガス吸蔵部23の捕集層が誘導加熱により選択的に加熱される。・・・。そのため、これらのマイクロ波に対する加熱のされやすさの違いを利用することにより、PF22およびガス吸蔵部23に吸着された特定物質、およびガス吸蔵部23の捕集層を選択的に加熱することができる。」、「【0021】物質処理部24を構成するこれらプラズマ生成部やマイクロ波発生部は、バッテリ16からの電力によってPF22やガス吸蔵部23の全体を直接的に加熱しない。すなわち、プラズマ生成部やマイクロ波発生部は、PF22やガス吸蔵部23にプラズマやマイクロ波を供給することによって、PF22に捕集されたPM、ならびにガス吸蔵部23に吸着されたNOx、HC、COを酸化または還元する。・・・。【0022】また、担体部の表面に捕集層を担持したガス吸蔵部23を用いる場合、物質処理部24のマイクロ波発生部から発生したマイクロ波による誘導加熱よって、捕集層に吸着されたNOx、HC、CO、またはNOx、HC、COを吸着した捕集層が加熱され、各物質の酸化または還元が行われる。この場合、ガス吸蔵部23は捕集層の周辺のみが加熱されるため、担体部を含めたガス吸蔵部23の全体を加熱する場合と比較して、消費電力は低減される。」、「【0045】以上の手順により、ガス吸蔵部23に吸着されたHCおよびCOは酸化される。以上説明した第1実施形態では、ガス吸蔵部23に保持されたNOx、HC、CO、ならびにPF22に保持されたPMは、エンジン11が運転を停止しているとき、バッテリ16から供給される電力を用いて酸化または還元される。このとき、PF22およびガス吸蔵部23は、NOxの還元反応またはPMやHCの酸化反応によって間接的に加熱、またはマイクロ波の誘導加熱によって部分的に加熱されるものの、例えばヒータなどによって全体が直接的に加熱されることはない。すなわち、捕集層を有するガス吸蔵部23の場合、この捕集層に吸着された物質または物質を吸着した捕集層が加熱されることはあっても、担体部を含むガス吸蔵部23の全体が加熱されることはない。・・・」と記載されている。 すなわち、本願の明細書には、特定物質保持部材である、NOx、HC、COなどを吸着するガス吸蔵部23については、「多孔質吸着材を担体部として、その表面に貴金属や各種金属など特定物質を化学的または物理的に吸着する捕集層を担持する構成」というように、特定物質の捕集層を設けることが記載されているが、特定物質保持部材である、PMなどの微粒子を捕集するPF22については、担体部にPMの捕集層が形成されることはもちろんのこと、該捕集層を形成することの技術的意義、該捕集層及び担体部の材質、構造(気孔率等)等について、何も記載されていない。また、そのようなPFが、技術常識ないし周知技術であるとする説明ないし根拠は何も提示されていないし、かつそのような根拠はない。 さらにいうと、本願の明細書及び図面(特に図2及び図6等)に記載されているとおり、実施例では、いずれも、PF22がガス吸蔵部23の上流側にあるから、ガス吸蔵部23の捕集層において実質的ないし有意な量のPMが捕集されるとは考えられないとともに、このようにガス吸蔵部23の捕集層においてPMが捕集されることについては何も記載がない。 以上からすると、本願の請求項1における、内燃機関の排気に含まれるPM(Particulate Matter)を保持する特定物質保持部材は、PMを捕集する捕集層と、表面に捕集層が形成されているコージェライト、アルミナ、またはシリカのいずれかからなる担体部とを有するという事項は、明細書及び図面において該発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 したがって、本願の特許請求の範囲における請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、本願補正発明は特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 [検討2] (1) 本願の請求項1には、「・・・、前記電動モータの電源から供給される電力を用いてマイクロ波を発生し、電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく発生した前記マイクロ波を供給または照射することによって前記特定物質保持部材に保持された前記PMを酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理する・・・」と記載されており、マイクロ波発生手段について、本件補正により、請求項1に「前記マイクロ波発生手段は、前記PMが捕集された前記捕集層を加熱する」という限定が付加されたことは上述のとおりである。 請求項1の上記記載の意味、特に「電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく」の意味は必ずしも一義的に明白とはいえないが、電力を用いて発生したマイクロ波を供給または照射することによって特定物質保持部材に保持されたPMを酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理する際に、電力で特定物質保持部材を加熱することはないという意味に理解するのが自然であり整合的である。 これ以外の解釈を強いて忖度すると、まず、本願明細書の段落【0007】、【0045】等の記載からして、ヒータなどにより特定物質保持部材が直接的に加熱されることがない(敷衍すると、電力を用いて発生するマイクロ波による加熱は許容する)という意味であるとも考えられるが、しかし、請求項1には、「ヒータなど」、「直接的に加熱」等の限定は何も記載されていない。したがって、そのような解釈は、本願明細書に記載されている実施形態の構成等を推察し特定して、それを本願補正発明に組み込んではじめて成立する解釈であって、本願補正発明の特定事項の解釈として採用することはできない。次に、マイクロ波を発生する際に電力で特定物質保持部材を加熱しないという解釈が考えられるが、本願の図2等に記載されているように、マイクロ波の発生手段と特定物質保持部材とは空間的に離隔しているから、マイクロ波の発生に際して特定物質保持部材が加熱されることは通常ありえず、そうすると、「電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく」は無意味な記載ということになり、不合理な解釈である。 そうすると、本願の請求項1における「電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく」という記載と、「マイクロ波発生手段は、前記PMが捕集された前記捕集層を加熱する」という記載は、明らかに背反し、その結果、請求項1に係る発明が明確でない。 (2) 本願の請求項1には、「・・・、前記電動モータの電源から供給される電力を用いてマイクロ波を発生し、電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく発生した前記マイクロ波を供給または照射することによって前記特定物質保持部材に保持された前記PMを酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理する・・・」と記載されており、特定物質保持部材の構成要素である担体部について、本件補正により、請求項1に「コージェライト、アルミナ、またはシリカのいずれかからなる」という限定が付加されたことは上述のとおりである。 また、請求項1の上記記載の意味が、電力を用いて発生したマイクロ波を供給または照射することによって特定物質保持部材に保持されたPMを酸化または還元大気中へ排出可能な成分に処理する際に、電力で特定物質保持部材を加熱することはないという意味に理解するのが自然であり整合的であることは、上述したとおりである。 一方、請求項1の上記記載に関して、本願の明細書には「【0020】・・・。また、例えば、コージェライト、アルミナあるいはシリカなどで形成した担体部は、照射されたマイクロ波により加熱されにくい。」と記載されており、コージェライト、アルミナあるいはシリカなどで形成した担体部は、照射されたマイクロ波により加熱されにくいとするにとどまり、加熱されないとはいっていない。また、コージェライトに代表されるセラミック材料より形成されるパティキュレートフィルタ(PF)の再生にあたってマイクロ波加熱を行う場合、マイクロ波エネルギがパティキュレートのみならず、フィルタにも吸収されることは、例えば、特開平4-279715号公報(特に段落【0003】、【0005】)に記載されているように広く知られており、技術常識といえる。 以上からすると、本願の請求項1における「電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく」という事項と「コージェライト、アルミナ、またはシリカのいずれかからなる担体部」という事項とは整合せず、その結果、請求項1に係る発明が明確でない。 (3) 検討2のまとめ 上記(1)ないし(2)のとおり、本願の特許請求の範囲における請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本願補正発明は特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 本願補正発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができないことは検討1及び検討2のとおりであるが、さらに検討を進める。 検討2において触れたように、請求項1の「電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく」の意味は、本願明細書に記載されている実施形態の構成等を本願補正発明に組み込んで強いて忖度すると、ヒータなどにより特定物質保持部材が直接的に加熱されることがないという意味であると理解することも不可能ではない。しかし、そのように理解したとしても、次の検討3で述べるとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項に規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 [検討3] (1) 刊行物 ア 刊行物1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-255582号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 (ア) 「【0001】 本発明は内燃機関の排気浄化装置に係り、特に、内燃機関から排出される排気ガス中の粒子状物質を捕集して、酸化することにより浄化する内燃機関の排気浄化装置に関する。 【背景技術】 【0002】 一般に内燃機関、特にディーゼルエンジンの排気ガスには、炭素を主成分とする粒子状物質(以下、PMという。)が含まれ、大気汚染の原因となることが知られている。そこで、排気通路にパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという。)を設けることで排気ガス中のPMを捕集して除去する技術が周知である。 このフィルタに捕集されたPMの量が多くなると、フィルタの目詰まりが起こり、フィルタを通過する排気の抵抗が大きくなるため、燃費悪化する。そのため、フィルタに捕集されたPMを除去する所謂フィルタの再生処理を行う必要があり、従来からフィルタに捕集されたPMを酸化除去するための手法が種々知られている。 【0003】 ところで、内燃機関が停止されたときに、フィルタにPMが多く堆積している場合、このPMは時間が経過するに従い酸化し難い状態に変化する。そこで内燃機関の停止前にフィルタの再生処理を行っておくことが考えられるが、内燃機関の運転時にフィルタの再生処理を行う場合、運転状態の変化によっては、フィルタの温度維持が難しく、フィルタの再生処理が継続できずに中断されてしまうこともあり、対応が難しい。そのため、内燃機関の停止中にPMを除去しておくことが望ましい。そこで、例えば特許文献1に記載の技術では、内燃機関の停止中に、フィルタに堆積したPMの量を算出し、PMの量が所定量以上であった場合に、フィルタに燃料を添加してフィルタの温度を昇温することで、堆積したPMを酸化除去している。また、特許文献2において、内燃機関の燃料供給停止中に、フィルタに酸化力が強いオゾンO_(3)を供給して、PMを酸化除去する技術が開示されている。その他、内燃機関の停止中にフィルタの再生処理を行うものとして例えば特許文献3がある。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2007-187006号公報 【特許文献2】特開2008-14219号公報 【特許文献3】特開2001-50031号公報」(段落【0001】ないし【0004】) (イ) 「【0014】 排気通路15には、排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集するパティキュレートフィルタ(フィルタ)30が配置されている。そして、フィルタ30にその上流側からオゾン(O_(3))を供給するためのオゾン供給手段が設けられている。オゾン供給手段は、フィルタ30の上流側の排気通路15内に配置されたオゾン供給ノズル40と、オゾン供給ノズル40にオゾン供給通路42を介して接続されたオゾン発生手段としてのオゾン発生器41とを備える。図示しないバッテリ43からの電力を使用してオゾン発生器41で発生したオゾンは、オゾン供給通路42を介してオゾン供給ノズルに供給されると共に、このオゾン供給ノズル40から下流側のフィルタ30に向かって排気通路15内に噴射供給される。 【0015】 オゾン発生器41としては、例えば、高電圧を印加可能な放電管内に原料となる空気または酸素を流しつつオゾンを発生させる形態や、その他、任意の形式のものを用いることができる。ここで、原料となる空気または酸素は、排気通路15内の排気ガスに含まれる気体を図示しないエアポンプを用いてオゾン発生器41に取り込んで用いるが、排気通路15内の排気に直接高電圧を印加する方式でもよい。その他、排気通路15外から取り込まれる気体、例えば外気に含まれる気体でもよい。」(段落【0014】及び【0015】) (ウ) 「【0018】 以上に述べたように構成された内燃機関10には、内燃機関10を制御するための電子制御ユニットであるECU50が併設されている。このECU50は、内燃機関10の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関10の運転状態を制御するユニットである。ECU10には、排気温度センサ31やその他各種センサ類が電気配線を介して接続され、排気温度センサ31を含む各種センサ類からの出力信号が入力されるようになっており、これに基づいてオゾン発生器41、低圧EGR弁24、高圧EGR弁25等の各弁、及び燃料噴射弁、高圧ポンプ等が制御される。 次に、図2は本発明の実施例に係る内燃機関停止中のフィルタ再生制御のフローを示したフローチャートであり、図2に基づき本発明でのフィルタ再生制御の手順を説明する。本ルーチンは内燃機関停止中に実行される。例えば、運転者が内燃機関10を停止させるためにイグニッションキーをOFFとした場合や、燃費向上のために車両停止時に内燃機関10を自動的に停止されるときに実行される。また、ハイブリッド車両である場合、内燃機関を停止して、モータによって運転されるEV走行時に実行してもよい。 ステップS101ではフィルタ30に堆積したPM量がフィルタの再生処理を行う必要がある所定量に達しているかが判断される。ここでフィルタに堆積したPMが所定量に達したかどうかは、例えば、以前にフィルタの再生処理が実行された時点以降に走行した距離、もしくは走行時間に基づいて判断され、走行距離、走行時間に応じたPMの堆積量については予め実験等により求めておく。その他、フィルタ30の上流側、及び下流側の排気の圧力を検出する差圧センサ等を備えるものであれば、フィルタ前後の差圧を算出することで、フィルタに堆積したPMの量を推定し判断基準としてもよい。」(段落【0018】) イ 上記アの記載及び図面から分かること (ア) 通常、ハイブリッド車両は内燃機関(エンジン)のほかに電動モータを備えているとの技術常識に照らしてみると、ハイブリッド車両は内燃機関10のほかに電動モータを備えていることが明らかである。 (イ) 通常、排気通路は管状部材から形成されているとの技術常識に照らしてみると、排気通路15は管状部材から形成されていることが明らかである。 (ウ) 上述したとおり、請求項1の「電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく」とは、ヒータなどにより特定物質保持部材が直接的に加熱されることがないという意味であると理解することを前提として、刊行物1の記載をみると、ヒータなどによりパティキュレータフィルタ30を(直接的に)加熱する等の記載も示唆も見当たらず、したがって、刊行物1の「実施の形態」において、ヒータなどで加熱することは想定していない。そうすると、ここでは、刊行物1の「実施の形態」においては、パティキュレートフィルタ30の再生の際、「電力でパティキュレートフィルタ30を加熱することなく」再生を行っているということが分かる。 ウ 刊行物1発明 上記ア及びイ並びに図面(特に、図4ないし図6)の記載を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 <刊行物1発明> 「内燃機関10及び電動モータを備えるハイブリッド車両の排気浄化装置であって、 前記内燃機関の排気通路15を形成する管状部材と、 前記管状部材が形成する前記排気通路15に設けられ、前記内燃機関10の排気に含まれるPM(Particulate Matter)を保持するパティキュレートフィルタ30と、 前記内燃機関10が運転を停止しているとき、バッテリ43から供給される電力を用いてオゾンを発生し、電力で前記パティキュレートフィルタ30を加熱することなく発生した前記オゾンを供給することによって前記パティキュレートフィルタ30に保持された前記PMを酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理するオゾン供給手段と、 を備える排気浄化装置。」 (2) 対比・判断 本願補正発明と刊行物1発明とを対比すると、 刊行物1発明における「ハイブリッド車両」は本願補正発明における「ハイブリッドシステム」に相当し、以下同様に、「排気浄化装置」は「排気処理装置」に、「管状部材」は「排気管部材」に、「パティキュレートフィルタ30」は「特定物質保持部材」に、「バッテリ43」は「電源」に、それぞれ相当する。 刊行物1発明における「オゾン」と本願補正発明における「マイクロ波」は「PM処理因子」である点において一致し、刊行物1発明における「オゾン供給手段」と本願補正発明における「特定物質処理手段」は「特定物質浄化手段」である点において一致する。 したがって、本願補正発明の記載に倣って整理すると、本願補正発明と刊行物1発明とは、 「内燃機関および電動モータを備えるハイブリッドシステムの排気処理装置であって、 前記内燃機関の排気通路を形成する排気管部材と、 前記排気管部材が形成する前記排気通路に設けられ、前記内燃機関の排気に含まれるPM(Particulate Matter)を保持する特定物質保持部材と、 前記内燃機関が運転を停止しているとき、電源から供給される電力を用いてPM処理因子を発生し、電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく発生した前記PM処理因子を供給または照射することによって前記特定物質保持部材に保持された前記PMを酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理する特定物質浄化手段と、 を備える排気処理装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 本願補正発明においては、「特定物質浄化手段」として、「前記内燃機関が運転を停止しているとき、前記電動モータの電源から供給される電力を用いてマイクロ波を発生し、電力で前記特定物質保持部材を加熱することなく発生した前記マイクロ波を供給または照射することによって前記特定物質保持部材に保持された前記PMを酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理する特定物質処理手段」を備えるのに対し、 刊行物1発明においては、「特定物質浄化手段」として、「前記内燃機関10が運転を停止しているとき、バッテリ43から供給される電力を用いてオゾンを発生し、電力で前記パティキュレートフィルタ30を加熱することなく発生した前記オゾンを供給することによって前記パティキュレートフィルタ30に保持された前記PMを酸化または還元して大気中へ排出可能な成分に処理するオゾン供給手段」を備える点。 <相違点2> 本願補正発明においては、「前記特定物質保持部材は、前記PMを捕集する捕集層と、表面に前記捕集層が形成されているコージェライト、アルミナ、またはシリカのいずれかからなる担体部とを有」するのに対し、 刊行物1発明においては、そのような事項を備えるかどうか、不明確である点。 <相違点3> 本願補正発明においては、「前記マイクロ波発生手段は、前記PMが捕集された前記捕集層を加熱する」のに対し、 刊行物1発明においては、そのような事項を備えていない点。 上記相違点について検討する。 <相違点1>について 刊行物1発明においては、パティキュレートフィルタ30の再生手段としてオゾン供給手段を使用しているが、このような再生手段としては種々のものが広く知られており、いずれを採用するかは、再生性能、装置構造・重量、配置スペース、取付けの作業性、コスト等を考慮して適宜選択する事項である。このような再生手段として、電源から供給される電力を用いてマイクロ波を発生し、パティキュレートフィルタに供給ないし照射する手段(以下、「周知技術1」という。)は、例えば、特開2002-295232号公報(特に段落【0012】、【0019】)、特開2003-65031号公報(特に段落【0009】、【0013】)、特開2001-295628号公報(特に段落【0022】、【0024】)に開示されているように周知である。刊行物1発明における再生手段として周知技術1を採用することは、適宜なし得ることである。 また、刊行物1発明のバッテリ43がハイブリッド車両の電動モータの電源であるかどうかは明確ではないが、電動モータの電源を用いること、ないし電源を共通化する程度のことは、適宜の設計的事項にすぎない。 <相違点2>について 例えばコージェライト製のパティキュレートフィルタにおいて、PMが、隔壁によって仕切られた排気入口通路の内壁面に付着すること(以下、「周知技術2」という。)は、例えば、特開4-279715号公報(特に段落【0015】、【0016】)に開示されているように周知である。刊行物1発明におけるパティキュレートフィルタ30に周知技術2を適用することは適宜の選択にすぎない。 該パティキュレータフィルタにおいては、隔壁は、PMが付着する上記内壁面付近の層とそれより下流側の層の2つの層から成ると捉えることができる。そして、本願補正発明における捕集層の材質、構造等は何ら限定されておらず、不特定ないし任意的であることを考慮すると、上記の2つの層は、それぞれ本願補正発明における捕集層、担体部に相当するといえる。 また、周知技術2の知見に留意すると、パティキュレータフィルタの2つの層の構造、性状等を別異のものとすることも適宜なし得ることである。例えば、パティキュレータフィルタの2つの層の機能ないし特性に応じて、各層の平均気孔径等を異なるものとするとか、PMが付着する内壁面付近の層の熱伝導性を特に高めて、パティキュレータフィルタの再生時におけるPMの燃焼効率等の向上を図ることが好適であることは当業者に明らかである。このようなパティキュレータフィルタの構造的に異なる2つの層が、それぞれ本願補正発明における捕集層、担体部に相当することはいっそう明らかである。 <相違点3>について 一般に、マイクロ波はPM、カーボン等に吸収され、セラミックス等には吸収され難いこと(以下、「周知技術3」という。)は、上記の特開2001-295628号公報(特に段落【0008】)に開示されているように周知である。そうすると、周知技術1に基づいて、マイクロ波をパティキュレートフィルタに供給ないし照射するとき、周知技術2のコージェライト製パティキュレートフィルタには吸収されにくく、該パティキュレートフィルタの内壁面付近の層に付着するPMに主として吸収されることは当業者に明らかである。これは、本願補正発明と同じく、マイクロ波発生手段はPMが捕集された捕集層を加熱することにほかならない。 なお、補足すると、上記の特開平4-279715号公報には、検討2において触れたように、マイクロ波エネルギがパティキュレートのみならず、フィルタにも吸収される旨が記載されているが、これは、パティキュレートフィルタの上記内壁面に炭化ケイ素材のコーティングを施し、マイクロ波をコージェライト材より炭化ケイ素材の方に選択的に吸収されるようにすることからも了解されるように(該文献の段落【0019】等)、マイクロ波は一般にPM、カーボン等に吸収され、コージェライト等のセラミックス等には吸収され難いことを当然の前提とした上で、フィルタに吸収される比較的少量のマイクロ波の更なる低減を図る技術であって、上記の判断と何ら齟齬するものではない。 以上からすると、刊行物1発明に周知技術1、周知技術2及び周知技術3を適用して、相違点1ないし3に係る本願補正発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本願補正発明は、全体としてみても、刊行物1発明、周知技術1、周知技術2及び周知技術3から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 したがって、本願補正発明は、刊行物1発明、周知技術1、周知技術2及び周知技術3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 4 独立特許要件についてのまとめ 検討1、検討2及び検討3に述べたとおり、本願補正発明は特許出願の際に独立して特許を受けることができず、したがって、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成26年8月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、平成26年3月31日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲、並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本願の請求項2に記載した発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]の1(1)の請求項2に記載したとおりである。 2 刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物1には、図面とともに、上記第2[理由]3[検討3]に摘記したとおりの事項及び発明が記載されている。 3 対比・判断 本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本願補正発明において、発明特定事項である「PM(Particulate Matter)」ないし「PM」を「特定物質」へと上位概念化し、また、本願補正発明から「(特定物質保持部材は、)前記PMを捕集する捕集層と、表面に前記捕集層が形成されているコージェライト、アルミナ、またはシリカのいずれかからなる担体部とを有し、」という発明特定事項事項を省き、「(マイクロ波発生手段は、) 前記PMが捕集された前記捕集層を加熱する」という発明特定事項事項を省いたものに実質的に相当する。 そうすると、実質的に、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2[理由]3[検討3]に述べたとおり、刊行物1発明、周知技術1、周知技術2及び周知技術3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、ここで、周知技術2及び周知技術3は本件補正に基づいて限定された事項に関して用いたものであるから、本願発明は、上記第2[理由]3[検討3]に述べた理由と実質的に同様の理由により、刊行物1発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物1発明及び周知技術1から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-04-17 |
結審通知日 | 2015-04-21 |
審決日 | 2015-06-01 |
出願番号 | 特願2011-13986(P2011-13986) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F01N)
P 1 8・ 121- Z (F01N) P 1 8・ 537- Z (F01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 健晴 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
槙原 進 伊藤 元人 |
発明の名称 | 排気処理装置 |
代理人 | 特許業務法人 サトー国際特許事務所 |