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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G10L
管理番号 1303259
審判番号 不服2013-18233  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-20 
確定日 2015-07-15 
事件の表示 特願2012-138607「マルチオブジェクトオーディオ符号化および復号化方法とその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 1日出願公開、特開2012-212160〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年10月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年10月22日、大韓民国、2008年1月9日、大韓民国)を国際出願日とした特願2010-530928号の一部を平成24年6月20日に新たな特許出願とした出願であって、原審において平成24年12月19日付けで拒絶理由が通知されたが、平成25年5月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月20日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正され、平成26年6月3日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年9月10日付けで意見書が提出され、同年9月26日付けで当審より審尋がなされたが、回答書が提出されず期間経過となったものである。

第2 平成26年6月3日付け拒絶理由通知の概要
平成26年6月3日付けで、当審より通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の内容は、以下のとおりである。

「本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

1.発明の詳細な説明には、ダウンミックス生成部の説明について、ダウンミックス生成部は、第1の入力信号(Input1)と第2の入力信号(Input2)とをダウンミックスしたダウンミックス信号である第1の出力信号(Output1)を出力し、残余(Residual)信号を生成するとの記載があるにすぎず(特に、段落【0034】、段落【0035】、段落【0052】、図3、他に、段落【0045】、【0046】、【0060】、【0069】、【0078】、【0079】、【0088】、図1、2、4?7)、出願時の技術常識を考慮しても、ダウンミックス生成部(102、103、203、205、301等)が、どのようにして、第1の入力信号と第2の入力信号とをダウンミックスして、ダウンミックス信号及び残余信号を生成するのか不明である。また、残余信号が、第1の入力信号の残余信号と第2の入力信号の残余信号とであるのかが不明である。また、第1の入力信号、第2の入力信号、残余信号及びダウンミックス信号である第1の出力信号それぞれの相互関係(例えば、関係式)が不明である。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1、2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

2.発明の詳細な説明には、ステレオ主オーディオオブジェクト復元部の説明について、ステレオ主オーディオオブジェクト復元部は、ステレオダウンミックス信号(Left DMX、Right DMX)と残余信号(Residual)を利用してステレオ主オーディオオブジェクト(Stereo Left、Right FGOs)を復元するとの記載があるにすぎず(段落【0090】?【0092】、図8)、出願時の技術常識を考慮しても、オーディオオブジェクト復元部が、どのようにして、ダウンミックス信号及び残余信号から、オーディオオブジェクトを復元するのか、例えば、残余信号を具体的にどのように利用して、ダウンミックス信号から主オーディオ信号を分離しているのか不明である(補足:残余信号(X(t)-X’(t)=Xresidual(t))は、時間軸における予測値と現実の値との差(平易に表現すれば、予測値からのずれの程度)であると思われるところ、このような残余信号を利用してもダウンミックスした信号(例えば、主オーディオオブジェクトと副オーディオオブジェクトの和)から、主オーディオオブジェクトと副オーディオオブジェクトを分離できるとは通常考えられない。)。また、ダウンミックス信号、残余信号及びオーディオオブジェクトそれぞれの相互関係(例えば、関係式)が不明である。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1、2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第3 平成26年9月10日付け意見書の概要
上記当審拒絶理由に対し、請求人は、平成26年9月10日付けで、以下の意見書(以下「意見書」という。)を提出した。

「理由1.(1)「どのようにして、第1の入力信号と第2の入力信号とをダウンミックスして、ダウンミックス信号及び残余信号を生成するのか不明である」とのご指摘について
複数の信号を利用してダウンミックス信号や残余信号を生成する構成はMPS(MpegSurround)で定義されている構成であるため、当業者であればどのようにして第1の入力信号と第2の入力信号とをダウンミックスしてダウンミックス信号及び残余信号を生成するのかは明らかであります。

1.(2)「残余信号が、第1の入力信号の残余信号と第2の入力信号の残余信号とであるのかが不明である」とのご指摘について
当業者であれば、本願明細書の段落0034、0035に記載された内容から段落0052に記載された構成は明らかであります。具体的には、本願明細書の段落0034に記載された数1によると、X(t)は第1のオーディオオブジェクトおよび第2のオーディオオブジェクト、X’(t)は第1の予測オーディオオブジェクトおよび第2のオーディオのオブジェクト、Xresidual(t)は第1のオーディオオブジェクトおよび第2のオーディオオブジェクトに対する残余信号を意味します。

1.(3)「第1の入力信号、第2の入力信号、残余信号及びダウンミックス信号である第1の出力信号それぞれの相互関係(例えば、関係式)が不明である」とのご指摘について
本願明細書の段落0048に記載されているように、OTT(One-to-Two)、OTT-1(inverse OTT)、OTN(One-to-N)およびOTN-1(inverse OTN)はMPSで提案された概念であり、入力信号を利用してダウンミックス信号および残余信号を抽出することは当業者であればMPS概念から十分に導出することができます。以下のURLにおけるページはMPEG Surroundに対する概念を提示しております。
(URL:http://mpeg.chiariglione.org/standards/mpeg-d/mpeg-surround)
そして、ダウンミックス信号や残余信号を生成する時、第1のオーディオオブジェクトと第2のオーディオオブジェクトは主オーディオオブジェクトと副オーディオオブジェクトになることができます。主オーディオオブジェクトと副オーディオオブジェクトの意味は例えば段落0041乃至0043に記載されております。

理由2.「オーディオオブジェクト復元部が、どのようにして、ダウンミックス信号及び残余信号から、オーディオオブジェクトを復元するのか、例えば、残余信号を具体的にどのように利用して、ダウンミックス信号から主オーディオ信号を分離しているのか不明である(このような残余信号を利用してもダウンミックスした信号(例えば、主オーディオオブジェクトと副オーディオオブジェクトの和)から、主オーディオオブジェクトと副オーディオオブジェクトを分離できるとは通常考えられない。)」とのご指摘及び「ダウンミックス信号、残余信号及びオーディオオブジェクトそれぞれの相互関係(例えば、関係式)が不明である」とのご指摘について
マルチオブジェクトの復号化方法は、マルチオブジェクトの符号化方法の動作と反対の動作であり、符号化方法については上述した内容により当業者であれば明らかであるため、復号化方法も当業者であれば明らかであります。
つまり、DMX signalとresidual signalを利用してマルチオーディオオブジェクト信号を生成する過程でエンコーダが動作し、デコーダではエンコーダの動作と反対の動作がなされます(例えば段落0048参照)。」

第4 平成26年9月26日付け審尋の概要及び請求人の審尋に対する応答
上記意見書に対し、平成26年9月26日付けで、当審より審尋した内容は、以下のとおりである。

「平成26年9月10日付け意見書の【意見の内容】2.拒絶理由についての理由1.(1)の項において、「複数の信号を利用してダウンミックス信号や残余信号を生成する構成はMPS(Mpeg Surround)で定義されている構成であるため、当業者であればどのようにして第1の入力信号と第2の入力信号とをダウンミックスしてダウンミックス信号及び残余信号を生成するのかは明らかであります。」旨意見を述べている。
しかしながら、前記「MPS(Mpeg Surround)で定義されている構成」について、文献を挙げてMPS(Mpeg Surround)の定義を示し、さらに具体的な説明がなされていないから、本願明細書段落【0034】における「X(t)-X’(t)=Xresidual(t) 数1 ここで、X(t)は、予測前の原信号であり、X’(t)は、予測後の予測信号であり、Xresidual(t)は、原信号と予測信号の差を意味する。」で定義される残余信号、及びダウンミックス信号がどのように定義されているか不明である。
したがって、ダウンミックス生成部(102、103、203、205、301等)が、どのようにして、第1の入力信号と第2の入力信号とをダウンミックスして、ダウンミックス信号及び残余信号を生成するのか依然として不明である。

同理由1.(3)の項において、「本願明細書の段落0048に記載されているように、OTT(One-to-Two)、OTT-1(inverse OTT)、OTN(One-to-N)およびOTN-1(inverse OTN)はMPSで提案された概念であり、入力信号を利用してダウンミックス信号および残余信号を抽出することは当業者であればMPS概念から十分に導出することができます。以下のURLにおけるページはMPEG Surroundに対する概念を提示しております。
(URL:http://mpeg.chiariglione.org/standards/mpeg-d/mpeg-surround)」旨意見を述べている。
しかしながら、前記URLにおけるページは、例え、公知であるとしても、前記URLにおけるページのMPEG Surroundの項には、多チャンネルオーディオ信号を符号化する際にダウンミックス信号を生成するとともに、空間パラメータを生成し、復号化において、ダウンミックス信号と空間パラメータから、多チャンネルオーディオ信号を得ることが記載されているにすぎず、前記URLにおけるページのMPEG Surroundに対する概念から、前記本願明細書段落【0034】における数1で定義される残余信号及びダウンミックス信号が具体的にどのようにして導き出せるのか不明である。
したがって、第1の入力信号、第2の入力信号、残余信号及びダウンミックス信号である第1の出力信号それぞれの相互関係(例えば、関係式)は、依然として不明である。

同理由2.の項において、「マルチオブジェクトの復号化方法は、マルチオブジェクトの符号化方法の動作と反対の動作であり、符号化方法については上述した内容により当業者であれば明らかであるため、復号化方法も当業者であれば明らかであります。つまり、DMX signalとresidual signalを利用してマルチオーディオオブジェクト信号を生成する過程でエンコーダが動作し、デコーダではエンコーダの動作と反対の動作がなされます(例えば段落0048参照)。」旨意見を述べている。
しかしながら、前記理由1.(1)及び(3)の項で不明な点を指摘したように、ダウンミックス生成部(102、103、203、205、301等)が、どのようにして、第1の入力信号と第2の入力信号とをダウンミックスして、ダウンミックス信号及び残余信号を生成するのか不明であり、第1の入力信号、第2の入力信号、残余信号及びダウンミックス信号である第1の出力信号それぞれの相互関係(例えば、関係式)が不明であるから、符号化の逆の導出過程である復号化も同様に不明である。
したがって、オーディオオブジェクト復元部が、どのようにして、ダウンミックス信号及び残余信号から、オーディオオブジェクトを復元するのか、例えば、残余信号を具体的にどのように利用して、ダウンミックス信号から主オーディオ信号を分離しているのか不明である。また、ダウンミックス信号、残余信号及びオーディオオブジェクトそれぞれの相互関係(例えば、関係式)は依然として不明である。」

そして、平成26年9月26日付け審尋に対して、請求人は、指定期間内に回答書を提出しなかった。

第5 当審の判断
本願の発明の詳細な説明に、当業者が請求項1及び2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているかどうかについて、以下に検討する。

本願明細書には、以下のとおり、イ.?ホ.の記載がある。

イ.「【0034】本発明では、マルチオブジェクトオーディオの符号化と復号化のために残余信号を利用することができる。ここで、残余信号とは、任意の信号に対して予測前と予測後の信号差を意味する。これは下記の数1のように定義されうる。
X(t)-X’(t)=Xresidual(t) 数1
ここで、X(t)は、予測前の原信号であり、X’(t)は、予測後の予測信号であり、Xresidual(t)は、原信号と予測信号の差を意味する。」

ロ.「【0035】残余信号を利用したマルチオブジェクトオーディオの符号化は、以下に説明されることになる。例えば、第1のオーディオオブジェクト及び第2のオーディオオブジェクトを含むマルチオブジェクトオーディオの場合、第1のオーディオオブジェクトと第2のオーディオオブジェクトとをダウンミックスしてダウンミックス信号を生成する。第1のオーディオオブジェクト及び第2のオーディオオブジェクトは、第1の予測オーディオオブジェクトと第2の予測オーディオオブジェクトで予測可能である。ここで、第1のオーディオオブジェクト及び第2のオーディオオブジェクトは原信号であり、第1の予測オーディオオブジェクト及び第2の予測オーディオオブジェクトは予測信号である。原信号及び予測信号を利用して残余信号を生成することができる。したがって、本発明の例示的な実施形態に係る第1のオーディオオブジェクトと第2のオーディオオブジェクトとをダウンミックスして、ダウンミックス信号及び残余信号を生成することができる。本発明の例示的な実施形態に係るマルチオブジェクトオーディオ復号化では、符号化と反対の過程が行われる。すなわち、ダウンミックス信号と残余信号を利用して第1のオーディオオブジェクトと第2のオーディオオブジェクトを復元することになる。」

ハ.「【0041】
一方、副オーディオオブジェクトは、ステレオオーディオオブジェクトがモノオーディオオブジェクトにダウンミックスされたオーディオオブジェクトでありえ、またはモノオーディオオブジェクトがステレオオーディオオブジェクトにダウンミックスされたオーディオオブジェクトでありうる。したがって、副オーディオオブジェクトは、複数のモノオーディオオブジェクトが、ステレオオーディオオブジェクトまたは複数のステレオオーディオオブジェクトが1つのモノオーディオオブジェクトにダウンミックスされたものでありうる。もちろん、副オーディオオブジェクトは、複数個でありうる。また、副オーディオオブジェクトは、複数のモノオーディオオブジェクトまたはステレオオーディオオブジェクトが1つのステレオオーディオオブジェクトにダウンミックスされたものでありうる。もちろん、ここでも副オーディオオブジェクトは、複数個でありうる。主オーディオオブジェクトも副オーディオオブジェクトと同様にステレオオーディオオブジェクトがモノオーディオオブジェクトにダウンミックスされたオーディオオブジェクトでありえ、またはモノオーディオオブジェクトがステレオオーディオオブジェクトにダウンミックスされたオーディオオブジェクトでありうる。
【0042】
本発明は、残余信号を利用してマルチオブジェクトオーディオを符号化または復号化することによって、オーディオオブジェクトを能動的に制御することができる。また、モノまたはステレオオーディオオブジェクトで構成されるマルチオブジェクトオーディオを効率的に符号化または復号化することができる。
【0043】
以下、主オーディオオブジェクトと副オーディオオブジェクトで構成されたマルチオブジェクトオーディオに対して説明する。主オーディオオブジェクトは、制御しようとするオーディオオブジェクトを意味するものであるが、主オーディオオブジェクトと副オーディオオブジェクトは、互いに変更可能である。また主オーディオオブジェクトと副オーディオオブジェクトは、複数のオーディオオブジェクトを含むことができる。」

ニ.「【0048】残余信号を除外すれば、第1のダウンミックス生成部103および第2のダウンミックス生成部105は、2つの信号を受信し、1つのダウンミックス信号を出力する。例えば、第1のダウンミックス生成部103は、副オーディオオブジェクトBGOと第1の主オーディオオブジェクトFGO1を受信し、第1のダウンミックス信号を出力する。したがって、第1のダウンミックス生成部103は、入力が2つで、出力が1つのインバースOTT-1(:One To Two)構造を有するようになる。ここで、OTT-1は、符号化の観点から定義したものである。復号化の観点では、OTT-1は、OTTと等しい。これらを第1のダウンミックス生成部103および第2のダウンミックス生成部105を含むダウンミックス生成部101に拡張させ、3つ以上の主オーディオオブジェクトFGOが入力される場合、入力がNで、出力が1つのインバースOTN-1(Inverse One To N)構造を有するようになる。ここで、OTN-1は、符号化の観点で定義したものである。復号化の観点では、OTN-1は、OTNと等しい。復号化過程は、前述した符号化過程の逆順で行われる。」

ホ.「【0052】第1のダウンミックス生成部301は、第1の入力信号Input1と第2の入力信号Input2とをダウンミックスしたダウンミックス信号である第1の出力信号Output1を出力し、残余(Residual)信号を生成する。第1のダウンミックス生成部301は、第3の入力信号をバイパスしてそのまま第2の出力信号Output2として出力する。したがって、第1の出力信号Output1は、第1の入力信号Input1と第2の入力信号Input2とがダウンミックスされた信号であり、第2の出力信号Output2は第3の入力信号Input3と同一の信号となる。」

ヘ.そこで、まず、ダウンミックス生成部について見ると、上記ホ.の段落【0052】の記載及び図3のとおり、発明の詳細な説明には、ダウンミックス生成部の説明について、ダウンミックス生成部は、第1の入力信号(Input1)と第2の入力信号(Input2)とをダウンミックスしたダウンミックス信号である第1の出力信号(Output1)を出力し、残余(Residual)信号を生成するとの記載があるにすぎず、具体的にどのようにして符号化するのか何ら記載されていない。
ここで、上記イ.の段落【0034】の記載のとおり、残余(Residual)信号は、「X(t)-X’(t)=Xresidual(t) 数1 ここで、X(t)は、予測前の原信号であり、X’(t)は、予測後の予測信号であり、Xresidual(t)は、原信号と予測信号の差を意味する。」と定義されている。
一方、意見書では、「複数の信号を利用してダウンミックス信号や残余信号を生成する構成はMPS(Mpeg Surround)で定義されている構成であるため、当業者であればどのようにして第1の入力信号と第2の入力信号とをダウンミックスしてダウンミックス信号及び残余信号を生成するのかは明らかであります。」旨意見を述べてMPSを参照している。
しかしながら、MPSは、多チャンネルオーディオ信号を符号化する際にダウンミックス信号を生成するとともに、空間パラメータを生成し、復号化において、ダウンミックス信号と空間パラメータから、多チャンネルオーディオ信号を得る概念の技術思想である。
そうすると、発明の詳細な説明の記載の説明における、上記イ.の段落【0034】の記載のとおり、残余(Residual)信号は、原信号と予測信号の差であり、時間の概念なのであるから、この技術思想と、意見書で説明する空間パラメータを用いるMPSの技術思想とは明らかに異なるものである。
したがって、仮に、MPSが原出願の優先日前の技術常識であったとしても、上記イ.の段落【0034】に記載された、残余(Residual)信号に着目した符号化技術が、原出願の優先日前に既に技術常識であることは認めることはできない。

ト.次に、復号化について見ると、意見書の理由2.の項において、「マルチオブジェクトの復号化方法は、マルチオブジェクトの符号化方法の動作と反対の動作であり、符号化方法については上述した内容により当業者であれば明らかであるため、復号化方法も当業者であれば明らかであります。つまり、DMX signalとresidual signalを利用してマルチオーディオオブジェクト信号を生成する過程でエンコーダが動作し、デコーダではエンコーダの動作と反対の動作がなされます。」旨意見を述べている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、ステレオ主オーディオオブジェクト復元部の説明について、ステレオ主オーディオオブジェクト復元部は、ステレオダウンミックス信号と残余信号を利用してステレオ主オーディオオブジェクトを復元するとの記載があるにすぎず、具体的にどのようにして復号化するのか何ら記載されていない。そして、上記ヘ.のとおり、ダウンミックス生成部が、どのようにして、第1の入力信号と第2の入力信号とをダウンミックスして、ダウンミックス信号及び残余信号を生成するのか不明であり、第1の入力信号、第2の入力信号、残余信号及びダウンミックス信号である第1の出力信号それぞれの相互関係が不明であるから、符号化の逆の導出過程である復号化も同様に不明である。
したがって、オーディオオブジェクト復元部が、どのようにして、ダウンミックス信号及び残余信号から、オーディオオブジェクトを復元するのか、例えば、残余信号を具体的にどのように利用して、ダウンミックス信号から主オーディオ信号を分離しているのか不明である。また、ダウンミックス信号、残余信号及びオーディオオブジェクトそれぞれの相互関係は依然として不明である。

チ.結局、本願の発明の詳細な説明には、請求項1及び2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいうことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-12 
結審通知日 2015-02-17 
審決日 2015-03-03 
出願番号 特願2012-138607(P2012-138607)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 陽一間宮 嘉誉  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 関谷 隆一
萩原 義則
発明の名称 マルチオブジェクトオーディオ符号化および復号化方法とその装置  
復代理人 濱中 淳宏  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 西村 和晃  

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