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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1303261
審判番号 不服2013-19201  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-03 
確定日 2015-07-15 
事件の表示 特願2006-551595「ニトロキシル前駆化合物および使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月18日国際公開、WO2005/074598、平成19年 8月 9日国内公表、特表2007-522135〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年1月28日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年1月30日及び2004年12月2日(US)米国〕を国際出願日とする出願であって、平成20年1月28日及び平成20年9月11日付けで手続補正がなされ、
平成22年10月13日付けの拒絶理由通知に対し、平成23年4月26日付けで意見書の提出及び手続補正がなされ、
平成23年5月19日付けの拒絶理由通知に対し、平成23年10月31日付けで意見書の提出及び手続補正がなされ、
平成24年6月27日付けの拒絶理由通知に対し、平成24年12月27日付けで意見書の提出及び手続補正がなされ、
平成25年5月27日付けの拒絶査定に対し、平成25年10月3日付けで審判請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?25に係る発明は、平成24年12月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1及び6に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】
式(I)
【化1】

式中、
R^(l)は、ハロおよびハロアルキルから独立して選択される1?4個の基により置換されるアルキルであり;
R^(2)は、ハロおよびハロアルキルから独立して選択される1?4個の基により置換されるアルキルであり;および
nおよびmは、それぞれ0である、
で表される化合物、またはその薬学的に許容しうる塩。」
「【請求項6】
請求項1に記載の式(I)の化合物および薬学的に許容しうる担体を含む、医薬組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成24年6月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
そして、平成24年6月27日付けの拒絶理由通知書(以下「先の拒絶理由通知書」という。)には、理由2として『2.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。』との理由が示されるとともに、当該「下記の点」として
『(1)「発明を実施することができる」とは、物の発明にあってはその物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである(審査基準参照)。その物を使用できるということは、単に使用できるかもしれないといった不確かなものではなく、具体的に明確な用途が有ることを言う。請求項1-5の発明について言えば、「発明を実施することができる」とは、ニトロキシルドナーとして用いることが出来るということである。その裏付けとして、ニトロキシルドナーとしての薬理試験データまでも必要とされるものではないが、ある程度の確からしさが必要である。具体的には、以下の化合物についてはニトロキシルドナーとして用いることが出来ると認定することが出来る。
(A)明細書に具体的に製造されている化合物(ニトロキシルドナーとしての有効性を確認済みであると推定することが出来る)。
(B)明細書に一般式で示されており、前記(A)の化合物と化学構造が類似している化合物(同様な化学構造を有する化合物は、同様な生理作用を示すものと推察される)。
従って、これら(A)及び(B)の化合物以外については、ニトロキシルドナーとして用いることが出来るとは認められず、「発明を実施することができる」とは認められない。
(上記(A)の化合物は、明細書に記載されていない。[0103]の化合物2は置換フェニル基を有しており、化学構造が大きく異なるので、請求項1の化合物が化合物2と同等の効果を有するものとは認められない。)』との指摘と、
『(2)一般に、用途発明は、その有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験して初めて判明するものである。してみると、請求項6-25に係る医薬用途発明は、その具体的な有用性の立証、及び具体的な有用性の程度の開示(薬理試験等によるデータの開示)が全くなされていないから、当該医薬用途発明については、用途発明としての「説明の具体化の程度」が不十分であるといわざるを得ない。(明細書に具体的に示されているのは、[0103]の化合物2についてであるが、この化合物と請求項1の化合物とは化学構造が大きく異なり、同様な医薬としての効果を有するかどうか明かでない。)』との指摘がなされている。
また、原査定の「備考」の欄には
『(1)理由2について
出願人は、請求項1の化合物は明細書に記載の化合物2と類似しており、同様な効果を有すると主張している。そこで、以下、上記主張について検討する。請求項1の化合物「R^(1)R^(2)N-N(O)=NO」のR^(1)およびR^(2)はハロアルキルであるが、明細書に具体的に記載されているのはR^(1)がメチルでR^(2)がX-フェニル(Xは水素原子、Cl、CNまたはNO_(2))である。化学構造から見ると、ハロアルキル基とメチル基は大きな違いはないが、ハロアルキル基と(置換)フェニル基とは、大きな違いがある。出願人は、理由1の意見において、R^(1)およびR^(2)がアルキル基である引用文献の化合物とR^(1)およびR^(2)がハロアルキル基である請求項1の化合物とは大きな効果の相違があり、R^(1)およびR^(2)が化合物「R^(1)R^(2)N-N(O)=NO」の効果に大きく影響していることを主張している。してみると、アルキル基とハロアルキル基とで大きな効果の相違が出るのであれば、ハロアルキル基と(置換)フェニル基とで効果に差がないとは言い難く、同等の効果を有するものとは認められない。以上の理由により、出願人の主張は採用できない。』との指摘がなされている(審決註:添字は訂正した。)。

第4 当審の判断
1.発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0005】
分解率に影響を及ぼす主な要因は、アミンおよび2当量のNOへと導かれるアミン窒素でのプロトン化の容易性である:
【化2】

【0006】
この部位でのプロトン化を不利にすることにより、ニトロソアミンおよびニトロキシル(NO^(-)/HNO)への別の分解経路が、以下に説明するように利用可能になることが現在発見されている:
【化3】

【0007】
これには、ニトロキシルが、心血管系疾患および障害を含む疾患の処置に関与するという密接な関わりがある。したがって、特にニトロキシルの送達による、心血管障害の処置用の有効な治療のために、当分野で必要性があるように、本明細書中の化合物およびそれらの使用方法は、独特なおよび新規の治療の機会を提供する。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本明細書中に記載のものは、新規化合物、ならびにそれらの化合物を作り出す組成物および方法、ニトロキシルおよびニトロキシル錯体の提供方法、疾患および疾患の症状の処置方法、ならびに疾患および疾患の症状を処置するためのニトロキシルレベルを調節するのに有用な化合物である。

【0011】
他の態様は、本明細書中に記載の式のものであり、式中、R^(2)が、電子求引性基により置換されているフェニルである;R^(l)が、アルキルである;

【0036】
発明の詳細な説明
したがって、X=HまたはCNを有する関連Nメチルアニリン誘導体2のための完全に異なる分解生成物が観察される。親化合物2(X=H)について、通常の分解経路により、pH7.4および37℃でおよそ4分の半減期を有するアミンおよびNOを提供する。しかしながら、電子求引性置換基を伴うと、アニリン窒素でのプロトン化は、非常に不利になり、pH7.4および37℃でおよそ12分の半減期を有するニトロソアミンおよびニトロキシルへの分解が、2(X=CN)について観察される。
【0037】
【化13】

【0038】
これらの化合物のそれぞれを、犬のモデルにおける心機能へのそれらの効果について試験した。観察された生成物に一致して、2(X=H)は、NOドナーとして作用するのに対し、2(X=CN)は、ニトロキシルドナーとして作用する。したがって、化合物2(X=CN)および類似誘導体(本明細書中に記載の)は、疾患、特に心不全などの心血管疾患を含むニトロキシル介在疾患の処置において大きな可能性を有する。
【0039】
注目すべき別の論点は、得られるニトロソアミン副産物に関する。あるニトロソアミンは発癌性であるにもかかわらず、発癌性の進展度を、その後のDNAアルキル化へと導く鍵となる活性化ステップである酵素的水酸化のための部位を妨害することにより(例えば、炭素アルファにてN-ニトロソ官能基への置換により)、またはカルボン酸(または他のイオン性基(例えば、スルホン酸塩))置換により、大いに低減または排除することができる。…
【0040】
したがって、一態様は、発癌性が低減したまたは発癌性がない(…)ニトロソアミンを提供する本明細書中のいずれかの式で表される化合物を提供し;特にここでR^(l)およびR^(2)基は、発癌性が低減したまたは発癌性がないニトロソアミンを提供するものである。
【0041】
本明細書中で使われるように、用語「ニトロキシル」は、HNOまたはNO^(-)形態を示し、本明細書中に描写したニトロキシル前駆体またはニトロキシルドナー化合物(すなわち、本明細書中の式で表される化合物)から得られる形態を含む。

【0066】
置換基はまた、「電子求引性基」であり得、すなわち、(置換基なしの部分の密度に対して)基が結合している部分の電子密度を低減させる基である。かかる基は、例えば、NO_(2)、^(+)NR_(3)、SO_(3)H、S(O)_(2)R、C(O)OH、C(O)OR、C(O)R、C(O)H、CN、CF_(3)(ここでRは、本明細書中に定義したとおりである)などを含む。

【0100】

例1:
合成手順:
化合物2を、メタノール(5mL)中適当なN-メチルアニリン誘導体(1g)の溶液を一当量のナトリウムメトキシド(メタノール中25%w/w)と共に、標準の水素添加(Parr hydrogenation)ボトル内で処置することにより調製した。反応槽を窒素で清浄し、そして過剰NOで飽和した。反応を室温で48時間攪拌して行い、この間、NO気体の圧力をおよそ40psiで維持した。生成物をろ過して単離し、エチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥した。得られた生成物の分光/物理化学特性は、所望の生成物と一致した。本明細書中に描写した他の化合物を、それぞれ適切な出発材料を使って同様に作ることができる。
【0101】
分解生成物の決定:
半減期を、37℃で、pH7.4リン酸緩衝液中でUV-Vis分光法により決定した。化合物2の分解生成物を、37℃およびpH7.4で試験した。有機生成物(対応するアミンおよびニトロソアミン)をUV-VisおよびNMR分析により特徴づけ、HPLC分析により定量化した。NOを、amiNO-700プローブを有するinNO Measuring System(Innovative Instruments)を使って電気化学的に検出した。HNOを、文献に記載のように、メトヘモグロビンで捕捉することにより測定した(Addison, A. W.; Stephanos, J. J. Biochemistry 1986, 25, 4104-4113; Bazylinkski, D. A.; Hollocher, T. C. J. Am. Chem. Soc. 1985, 107, 7982-7986参照)。HNOおよびNO両方のメトヘモグロビンとの反応、および添加したグルタチオンの効果を、図1に詳説する。表Aに示すように、結果は、分解生成物がパラ置換基Xに強力に依存することを示す。
【0102】
図2に示すように、メトヘモグロビン(50μM)の脱気した溶液を、100μMの標準的なニトロキシルドナーであるAngeli's salt(AS)で処置するとき、鉄ニトロシル(Fe(II)NO)錯体による特有の吸収バンドが530?600nmで観察される。実験を1mMのグルタチオンの存在下で繰り返すとき、鉄ニトロシルによる吸収バンドが、完全に消え、これはASから生成されたすべてのHNOが除去されることを示している。HNOドナー2(X=CN)による類似の実験から似た結果が得られるが(図3参照)、NOドナー2(X=H)によるものは得られない(図4参照)。図1に示すように、NOは、メトヘモグロビンとゆっくり反応し、少量の鉄ニトロシルが得られる。しかしながら、NOは、HNOのようにグルタチオンにより急速に消えない。したがって、実験を1mMのグルタチオンの存在下で繰り返すとき、弱いシグナルがなおも観察された(図4)。加えて、N_(2)Oの存在(HNO二量化およびその後の脱水の生成物)を、ガスクロマトグラフィーによりアッセイした。図5に、得られた結果の概要およびジアゼニウムジオラート2が作られるアミンのプロトン化した形態のpKaの効果を提供する。
【0103】
【化14】

【0104】
【表1】

a=未定;b=比較用、これらの条件下でAngeli's saltの半減期は2分;c=観察されたが定量化されていない
【0105】
例2:
対照(正常な)犬においてHNOドナー2(X=CN)およびそのNOドナー類似体2(X=H)により得られたin vivo心血管効果:

【0106】
化合物を、健康な対照犬に2.5μg/kg/分の用量で投与した。表Bは、得られた心血管データの概要である。2(X=H)および2(X=CN)の両方が、負荷独立の収縮指数を増加させ(収縮末期エラスタンス;Ees、それぞれ+25.2%および+109.6%)、前負荷(拡張末期の寸法、EDD;それぞれ-11.1%および-12.9%)および後負荷(全抵抗値、RT;それぞれ-24.0%および-15.1%)を低減させた。しかしながら、容量負荷後(圧反射開放効果を除外するため)、2(X=H)は、心筋収縮に効果がなく(Ees;-14.4%)、一方2(X=CN)はなおも収縮を高めた(Ees;+45.4%)。したがって、対照の(正常な)in vivoでの犬の心筋において、HNO放出化合物2(X=CN)は、直接的に心筋収縮を準備するのに対し、NO放出化合物2(X=H)は準備しない。

【0108】
2(X=CN)がうっ血性不全を有する心臓において心血行動態を改善する実証:

【0113】
ニトロソアミン副生成物が心血管機能に影響を及ぼさない証拠:
HNOドナー2(X=CN)のニトロソアミン副生成物を単独で濃度2.5μg/kg/分で注入したとき、心筋収縮または血管負荷条件いずれかへの相当の効果が観察されず、これは、この副生成物が心血管系において完全に不活性であることを示している。これらの化合物(2(X=H)、2(X=CN))または対応するニトロソアミンの注入には、急性毒性のいかなる明白な徴候も伴わなかった。」

2.検討
(1)本願請求項1について
本願請求項1に記載された発明は、上記『第2』の項に示したとおりの『式(I)【化1】

式中、R^(l)は、ハロおよびハロアルキルから独立して選択される1?4個の基により置換されるアルキルであり;R^(2)は、ハロおよびハロアルキルから独立して選択される1?4個の基により置換されるアルキルであり;およびnおよびmは、それぞれ0である、で表される化合物、またはその薬学的に許容しうる塩。』という化学物質関連の発明である。

これに対して、上記『第4 1.』の項に示したように、本願明細書の発明の詳細な説明には、その段落0103?0104に示されるとおりR^(l)がメチル基であって、R^(2)がX基で置換されているフェニル基である4種類の「化合物2」の具体例が記載されている。
そして、化合物2の「X=H」及び「X=Cl」のものが、アミンと2当量のNO(X=Hの場合にアミン100%とNO180%、X=Clの場合にアミン≧95%とNOが「c=観察されたが定量化されていない」)へと導かれ、
化合物2の「X=CN」及び「X=NO_(2)」のものが、ニトロソアミンとニトロキシル(=CNの場合にニトロソアミン100%とHNO100%、X=NO_(2)の場合にニトロソアミン100%とHNOが「c=観察されたが定量化されていない」)へと分解することが示されている。
しかしながら、R^(1)及びR^(2)の各々が「ハロおよびハロアルキルから独立して選択される1?4個の基により置換されるアルキル」である場合の具体例は記載されていない。
すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1に係る発明の「化合物、またはその薬学的に許容しうる塩」という化学物質を実際に合成し、その化学的な性質を試験し、その有用性を確認した実施例の記載が存在しない。

そして、本願請求項1の化合物を上記発明の詳細な説明の記載から当業者が合成できるか否かはさておき、化合物関連の発明が実施できるとは「化合物を使用できること」を含み、本願明細書の段落0008の「本明細書中に記載のものは、新規化合物、…ならびに疾患および疾患の症状を処置するためのニトロキシルレベルを調節するのに有用な化合物である。」との記載、及び同段落0106の「HNO放出化合物2(X=CN)は、直接的に心筋収縮を準備するのに対し、NO放出化合物2(X=H)は準備しない。」との記載からみて、本願発明においては「ニトロキシルドナーとして使用できること」を意味するものと解される。

しかしながら、上記「化合物2」の具体例は、いずれもR^(1)が電子供与性基として知られるメチル基(-CH_(3))の場合のものであるから、このような具体例の記載に基づいて、R^(1)が電子吸引性基として知られるトリフルオロメチル基(-CF_(3))などの「ハロおよびハロアルキルから独立して選択される1?4個の基により置換されるアルキル」である場合の薬理活性などの有用性を類推することはできない。
また、上記「化合物2」の具体例は、R^(2)が電子吸引性基(X=Cl、CN、又はNO_(2))により置換されているフェニル基である場合を含むものであるが、本願請求項1のハロアルキル基と、具体例のp-クロロフェニル基など置換フェニル基の化学構造は、同列視できるほどの類似性を有しているとはいえないから、このような具体例の記載に基づいて、R^(2)が「ハロおよびハロアルキルから独立して選択される1?4個の基により置換されるアルキル」である場合の薬理活性などの有用性を類推することはできない。

してみると、本願明細書の発明の詳細な説明は、少なくとも本願請求項1に係る化学物質発明の有用性を具体的に裏付ける実施例の記載がなく、本願所定の化合物が「ニトロキシルドナーとして使用できること」を裏付ける具体的な実施例の記載がなくとも、その有用性を当業者が類推ないし認識できると認めるに足るその他の記載も見当たらない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)審判請求人の主張
審判請求人は、平成24年12月27日付けの意見書で『すなわち、明細書段落〔0103〕に記載の化合物2と本願請求項に係る化合物とは、R^(1)またはR^(2)がフェニル基およびアルキル基である点において相違するものの、NO放出性という所期の効果に寄与する電子求引性基という意味においては、同等のものであります。かかる点は、本願明細書段落〔0036〕の「電子求引性置換基を伴うと・・・ニトロソアミンおよびニトロキシルへの分解が・・・観察される」なる記載からも明らかであり、さらに、電子求引性基R^(1)およびR^(2)基が、電子放出性基と異なり、2つの競合する分解経路の活性化障壁の間の差を縮めることによりHNO形成を支持する旨記載する参考資料3によっても立証されています(参考資料3:12?13頁および28?29頁)。付言すると、本願化合物の一つであるF_(6)-DEA/NO(R^(1)およびR^(2)の各々がトリフルオロエチルである)がHNOを放出することも、実際にHNO検出アッセイにより証明されています(参考資料3:21?24頁)。したがって、電子求引性基を有する本願明細書に記載の化合物2が、HNO放出性化合物として健康な心臓および不全の心臓の両方における心筋収縮を向上させる旨実証されている(本願明細書の例2)以上、同じく電子求引性基を有する本願請求項に記載の化合物が、同様にHNO放出性を有し、化合物2と同様の効果を奏することは、当業者にとって明らかであるものというべきであります。』と主張している。
また、審判請求人は、平成25年10月3日付けの審判請求書で『明白な構造上の相違とは関係なく、本願請求項1で規定される化合物と「本願において開示されているがクレームされていない」化合物とは、引用文献に記載の化合物にはない次のような特徴を共有しています。すなわち、電子求引性基であるいうことです。本願がクレームし且つ開示した化合物におけるR^(2)基-例えば、ハロ、CN、NO_(2)、COOHおよびCF_(3)-が電子求引性基であるということは、当技術分野において知られています。対照的に、引用文献に記載の化合物におけるアルキルR^(1)およびR^(2)基は、当技術分野において電子供与性基として知られています。電子求引性基を有する化合物は、2つの競合する分解経路の活性化障壁の相違を減じることにより、HNO形成に有利に働くことがわかりました。平成24年12月27日付けで提出した参考資料3…をご参照ください。…実験結果および量子力学的計算が、本願請求項1で規定される化合物のHNO供与能力を裏付けています。本願明細書の例2は、あるHNO供与化合物が健常な心臓および弱った心臓において収縮性を改善することを示していますので、当業者であれば本願請求項1で規定されるHNO供与化合物が、同様の有用性を有することを容易に理解することができます。』と主張している。
しかしながら、本願明細書の段落0104の「表1」に示されるように、化合物2の「X=Cl」の具体例では、HNO(ニトロキシル)が放出されずに、NO_(2)が放出されている。このため、電子吸引性基を有している化合物が例外なく『ニトロキシルドナーとして用いることができる』と直ちに認識することはできない。したがって、審判請求人の主張は採用できない。

(3)本願請求項6について
本願請求項6に記載された発明は、上記『第2』の項に示したとおりの『請求項1に記載の式(I)の化合物および薬学的に許容しうる担体を含む、医薬組成物。』という特定の化学物質の医薬用途関連の発明である。
これに対して、上述のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、その段落0103?0104に示されるとおりの4種類の「化合物2」の具体例が記載されるものの、R^(1)及びR^(2)の各々が「ハロおよびハロアルキルから独立して選択される1?4個の基により置換されるアルキル」である場合の具体例は記載されていない。
すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項6に係る発明の「医薬組成物」について、その『用途を裏付ける実施例』についての記載が存在しない。

そして、一般に化学物質の構造や名称だけから特定の医薬用途に使用し得るかどうかを予測することは困難であり、試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところであるから、本願請求項6に係る発明の「請求項1に記載の式(I)の化合物」が、ニトロキシルドナーとして用いることができ、動物に対して心血行動態を改善するなどの薬理作用を示し、そのニトロソアミン副生成物が心血管機能に悪影響を及ぼさず、当該化学物質が実際にその医薬用途に使用し得るといえるためには、薬理試験等によるデータを開示する『用途を裏付ける実施例』についての記載が、通常、必要である。

してみると、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願請求項6に係る医薬用途発明の有用性を具体的に裏付ける実施例の記載がなく、また、実施例がなくても「請求項1に記載の式(I)の化合物」を医薬用途に使用し得ると当業者が理解できる記載も本願出願時の技術常識も認められない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項6に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-12 
結審通知日 2015-02-17 
審決日 2015-03-03 
出願番号 特願2006-551595(P2006-551595)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 憲彦  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 齊藤 真由美
木村 敏康
発明の名称 ニトロキシル前駆化合物および使用方法  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 杉山 共永  
代理人 大森 規雄  
代理人 日野 真美  
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