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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G
管理番号 1303287
審判番号 不服2014-4535  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-10 
確定日 2015-07-14 
事件の表示 特願2009-163381「内部電流キャンセル機能及び底面端子を有する多層セラミック・コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月25日出願公開、特開2010- 45339〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成21年7月10日(パリ条約による優先権主張 2008年8月18日 米国)の出願であって、平成25年7月24日付け拒絶理由通知に対して同年10月23日付けで意見書の提出とともに手続補正がされたが、平成25年11月7日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して、平成26年3月10日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付で手続補正がされたが、当審における平成26年10月24日付け拒絶理由通知に対して、平成27年1月22日付けで意見書を提出するとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成27年1月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
多層電子部品であって、
各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、かつ、該第1の誘電体層の1つの縁部の少なくとも一部に延びる第1の導電性層とを含む、複数の第1の電極層と、
各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、かつ、該第2の誘電体層の1つの縁部の少なくとも一部に延びる、前記第1の導電性層の鏡像として形成された第2の導電性層とを含む、前記複数の第1の電極層と交互に積層された複数の第2の電極層と、
前記第1の電極層の前記少なくとも1つの縁部の一部を覆い、かつ、前記複数の第1の電極層の各々の前記第1の導電性層を電気的に接続する、第1の導電性終端層と、
前記第2の電極層の前記少なくとも1つの縁部の一部を覆い、かつ、前記複数の第2の電極層の各々の前記第2の導電性層を電気的に接続する、第2の導電性終端層と、
を備え、
前記複数の第1の電極層の一部は、前記複数の第2の電極層の一部と、接触しない関係で重なり合い、
前記第1の導電性終結層及び前記第2の導電性終結層は、5面からなる終端部を形成し、該5面からなる終端部は、前記複数の第1の電極層及び前記複数の第2の電極層を覆い、
前記第1の導電性終端層及び前記第2の導電性終端層は、前記第1の電極層及び前記第2の電極層の両方の前記少なくとも1つの縁部の一部に沿って、それらの間にギャップを形成するように構成され、
それにより、前記第1の導電性終端層から、前記重なり合った複数の第1の電極層及び前記複数の第2の電極層を通って、前記第2の導電性終端層まで、最小の電流ループ面積が形成され、
各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、各部分が、該第1の誘電体層の少なくとも3つの縁部分に延びる、第1及び第2の導電性部分を有する導電性層とを含む、上部層及び下部層をさらに備え、
それにより、前記第1及び第2の導電性層の前記部分が、前記1つの縁部及び前記対向する縁部の両方から前記第1及び第2の電極層の両方への導電性アクセスを提供し、
前記第1及び第2の誘電体層の各々の前記4つの縁部は、2つの対向する比較的長い方の縁部と、2つの対向する比較的短い方の縁部とを含み、前記導電性終端層は、前記比較的長い方の縁部の少なくとも1つに沿って形成され、それにより、前記多層電子部品は、前記比較的長い方の縁部の前記少なくとも1つに沿って基板上にマウントするように構成したことを特徴とする多層電子部品。」


3.引用例の記載と引用発明の認定
(1)引用例1
当審における平成26年10月24日付け拒絶の理由に引用した特開2007-129224号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

ア「【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、インダクタンスおよびESRが比較的低い部品を提供するために、狭間隔ターミネーションギャップおよび/または垂直方位電極を選択的に組み込む、デカプリングコンデンサのための改良された部品設計を目的とする。
【0030】
前述の背景技術のセクションで参照したように、多くの知られたシステムおよび方法が、低インダクタンスおよび/または低ESR値で特徴付けられる積層電子部品の形成を目的としてきた。そのような知られた技術の例として、逆配置ターミネーション、インターデジット式コンデンサ電極、または隣接電極の電流の流れが交番するボールグリッドアレイのうちの1つまたは複数を組み込んだ部品が含まれる。前述の各アプローチの中核を成すのは、コンデンサとそのマウント場所との間に形成される電流通過ループ(current carrying loop)の面積を最小化するという目標である。マウント場所が従来の回路基板に対応すると仮定すると、そのような電流通過ループは、回路基板に最も近い内部電極、コンデンサに最も近い、回路基板の電源供給面(power planes)、コンデンサのターミネーション、およびはんだパッドと基板の電源供給面との間のビアのそれぞれの形状に従って部分的に形成される。」

イ「【0096】
図27A?27Dは、図15A?15Cのコンデンサに類似するコンデンサ2700の各態様を示す。コンデンサ2700は電極層2700a、2700bを有し、電極層2700a、2700bのそれぞれは、略U字形ランドを有し、さらに、ターミネーション処理を支援するアンカータブを含む。そのようなデバイスでは、誘電体シート2756の中心に第1の電極2752a(図27A)が設けられるが、その一部は、所与のマウント面に延び、その所与のマウント面から、隣接する側面に沿って、そのマウント面に対向する面まで連続的に露出する。第2の電極2752b(図27B)は、類似の配置で形成されるが、反転される。図27A、27Bからわかるように、誘電体シート2756の、(図15A、15Bのように)あらかじめ覆いが外された領域に沿って、アンカータブ2754a、2758a(図27A)、および2754b、2758b(図27B)が設けられる。
【0097】
アンカータブ2754a、2758a、および2754b、2758bは、導電性であり、ターミネーション材料の塗布の制御を支援する、電気的に隔離された層である。これらについては、図30C、30F、30I、31C、31F、および31Iに関して詳述するが、簡単に言えば、それらのアンカータブは、ターミネーションめっき材料の核形成ポイントとして機能し、それによって、めっき処理の誘導を支援する。本発明に従って構築されるコンデンサのターミネーションは、既に言及され、組み込まれている特許文献16に記載のめっき処理、または様々な技術(たとえば、蒸着またはスパッタリング処理、(レーザエッチング、フォトリソグラフィ法、または他の同様な技術による)パターン化メタライゼーション、および既述の単層メタライゼーションまたは多層ターミネーションなど)を含む他の処理によって形成可能である。
【0098】
図27Cは、図27Aおよび27Bに対応する電極2700a、2700bの交互スタックを分解立体図で表したものである。図27Cおよび27Dに示した電極のスタックは代表的なものに過ぎないこと、および、実際には、図示したものより比較的多数の層も可能であることを理解されたい。
【0099】
図27Dは、ターミネーション前の一部組立て済みコンデンサ2700の上面図であり、交互の電極層2700a、2700bを示している。コンデンサ2700のターミネーションの例については、後で図30?31に関して詳述する。
【0100】
次に、図28A?28Eは、本発明に従って構築された別の例示的コンデンサ2800を示している。図27A?27Dに示した例示的コンデンサ2700との比較からわかるように、コンデンサ2800は、層2800bが追加されていること以外は、あらゆる点でコンデンサ2700に類似している。
【0101】
図28Bからわかるように、層2800bは、電気的に隔離された4つのアンカータブ2852a、2852b、2854a、2854bが上に設けられた誘電体シート2856に対応する。例示的コンデンサ2700とともに図示したアンカータブの場合と同様に、アンカータブ2852a、2852b、2854a、2854bは、ターミネーションめっき材料の核形成ポイントとして機能し、それによって、めっき処理の誘導を支援する。これについては、図30?31を参照して詳述する。本発明によれば、層2800bを設けることにより、図30?31に示すように、コンデンサのインターデジット式ターミネーションを可能にすることによって、ターミネーションの間隔をさらに効果的に減らすことが可能になり、それによって、等価直列インダクタンス(ESL)がさらに減る。
【0102】
図28A?28Eをさらに参照すると、電極層2800a、2800b、2800cをそれぞれ層「A」、「B」、および「C」と称することが可能である。図28Dおよび28Eにより具体的に示すように、本発明に従って構築された例示的コンデンサ2800は、図28Dの分解立体図および図28Eのターミネーション前の一部組立て済み図に示されるようなスタックができるように、A-B-C-Bに対応するシーケンスの繰り返しで層をスタックさせることによって構築可能である。
【0103】
次に、図29Eは、既に図28Eに示したコンデンサ2800と同様の、ターミネーション材料を塗布する前の一部組立て済みコンデンサ2900の斜視図である。前述の実施形態の場合と同様に、コンデンサ2900のターミネーションは、前述の様々な技術を用いて実施可能である。
【0104】
次に、図30A?30Iは、例示的コンデンサ2700、2800、2900をターミネートする第1の方法を示している。見てわかるように、図30A、30D、および30Gは、それぞれ図27D、28E、および29Eと同一であり、それぞれ、コンデンサ2700、2800、2900とその露出電極とを示している。図30B、30E、および30Hはそれぞれ、第1のターミネーションステップを示しており、このステップでは、銅(Cu)無電解めっき処理により、露出電極エッジに銅の第1の層をめっきすることが可能である。めっき処理中は、時間とともに、フィンガー3010と3012との間、3020と3022との間、および3030と3032との間の間隔が減っていく。隣接するフィンガー同士の間がショートしないようにめっき処理を制限するよう、注意が必要である。Cu無電解めっきの後に、Cu/Ni/Sn電解めっき処理を実施することが可能である。すなわち、めっきされた銅(Cu)の初期層、その上にニッケル(Ni)の層、そしてスズ(Sn)の層を用いて構造物を完成させる。前述のとおり、フィンガー3010および3012、3020および3022、ならびに3030および3032のようなインターデジット式フィンガーを有する部品を作ることにより、完成構造物の等価直列インダクタンスをさらに減らすことが可能になる。」

(ア)図29AないしEを参照すると、図29Aと図29Cに示される4つの縁部で境界付けられた誘電体層のそれぞれの一方の面に形成された電極層は、交互に積層されるものであるから、コンデンサ2900は、「多層電子部品」といえ、図29Aと、図29Cに示されるそれぞれの電極層は、
「各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、かつ、該第1の誘電体層の1つの縁部の少なくとも一部に延びる第1の導電性層とを含む、複数の第1の電極層」と、
「各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、かつ、該第2の誘電体層の1つの縁部の少なくとも一部に延びる、前記第1の導電性層の鏡像として形成された第2の導電性層とを含む、前記複数の第1の電極層と交互に積層された複数の第2の電極層」といえる。

(イ)図29Eに示されたコンデンサ2900は、図30GないしIに示すようにめっき処理によりターミネートすることにより、図29Aと図29Cに示される電極層は、それぞれその縁部の一部が覆われるとともに、複数の電極層は電気的に接続されるから、
「前記第1の電極層の前記少なくとも1つの縁部の一部を覆い、かつ、前記複数の第1の電極層の各々の前記第1の導電性層を電気的に接続する、第1の導電性終端層」と、
「前記第2の電極層の前記少なくとも1つの縁部の一部を覆い、かつ、前記複数の第2の電極層の各々の前記第2の導電性層を電気的に接続する、第2の導電性終端層」とを備えるものである。
また、誘電体層の4つの縁部のうち、比較的長い方の縁部には、その両側において、第1、及び第2の両方の導電性終端層が形成されているから、「それにより、前記第1及び第2の導電性層の前記部分が、前記1つの縁部及び前記対向する縁部の両方から前記第1及び第2の電極層の両方への導電性アクセスを提供」するものである。
ここで、第1、第2の導電性終端層は、終端部を構成するものではあるが、電極層の上面及び下面を覆うものではないから、「5面からなる終端部」を形成するものではない。

(ウ)段落【0104】の「フィンガー3030および3032のようなインターデジット式フィンガーを有する」との記載、及び図30Iを参照すると、
「前記複数の第1の電極層の一部は、前記複数の第2の電極層の一部と、接触しない関係で重なり合」うといえる。

(エ)段落【0104】の「隣接するフィンガー同士の間がショートしないようにめっき処理を制限する」との記載、及び図30Iを参照すると、めっき処理により形成される「第1の導電性終端層」、及び「第2の導電性終端層」は、互いにショートしないように、両方の「少なくとも1つの縁部の一部に沿って,それらの間にギャップを形成するように構成」されている。

(オ)図30Iに示されるコンデンサは、「3030および3032のようなインターデジット式フィンガーを有する部品を作ることにより、完成構造物の等価直列インダクタンスをさらに減らすことが可能になる」(段落【0104】)ものであり、等価直列インダクタンスの低減は、「コンデンサとそのマウント場所との間に形成される電流通過ループ(current carrying loop)の面積を最小化するという目標」(段落【0030】)に対応するものであるから、
「それにより、前記第1の導電性終端層から、前記重なり合った複数の第1の電極層及び前記複数の第2の電極層を通って、前記第2の導電性終端層まで、最小の電流ループ面積が形成され」るといえる。

(カ)上記(イ)のとおり、コンデンサ2900の誘電体層の4つの縁部のうち、比較的長い方の縁部には、その両側において、第1、及び第2の両方の導電性終端層が形成されている。
また、段落【0096】の「誘電体シート2756の中心に第1の電極2752a(図27A)が設けられるが、その一部は、所与のマウント面に延び、その所与のマウント面から、隣接する側面に沿って、そのマウント面に対向する面まで連続的に露出する。第2の電極2752b(図27B)は、類似の配置で形成されるが、反転される。」との記載、及び段落【0100】の「コンデンサ2800は・・・コンデンサ2700に類似している」,段落【0103】の「コンデンサ2800と同様の・・・コンデンサ2900」との記載からみて、コンデンサ2900の比較的長い方の縁部の少なくとも1つに沿って形成される「導電性終端層」は、マウント面に形成される導電性終端層と理解することができ、それにより、コンデンサ2900は、前記比較的長い方の縁部の前記少なくとも1つに沿って基板上にマウントするように構成したものといえる。

以上(ア)?(カ)の検討によれば、引用例1には、図29AないしEと、図30GないしIにかかる実施例のコンデンサ2900として、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「多層電子部品であって、
各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、かつ、該第1の誘電体層の1つの縁部の少なくとも一部に延びる第1の導電性層とを含む、複数の第1の電極層と、
各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、かつ、該第2の誘電体層の1つの縁部の少なくとも一部に延びる、前記第1の導電性層の鏡像として形成された第2の導電性層とを含む、前記複数の第1の電極層と交互に積層された複数の第2の電極層と、
前記第1の電極層の前記少なくとも1つの縁部の一部を覆い、かつ、前記複数の第1の電極層の各々の前記第1の導電性層を電気的に接続する、第1の導電性終端層と、
前記第2の電極層の前記少なくとも1つの縁部の一部を覆い、かつ、前記複数の第2の電極層の各々の前記第2の導電性層を電気的に接続する、第2の導電性終端層と、
を備え、
前記複数の第1の電極層の一部は、前記複数の第2の電極層の一部と、接触しない関係で重なり合い、
前記第1の導電性終結層及び前記第2の導電性終結層は、終端部を形成し、該終端部は、前記複数の第1の電極層及び前記複数の第2の電極層を覆い、
前記第1の導電性終端層及び前記第2の導電性終端層は、前記第1の電極層及び前記第2の電極層の両方の前記少なくとも1つの縁部の一部に沿って、それらの間にギャップを形成するように構成され、
それにより、前記第1の導電性終端層から、前記重なり合った複数の第1の電極層及び前記複数の第2の電極層を通って、前記第2の導電性終端層まで、最小の電流ループ面積が形成され、
それにより、前記第1及び第2の導電性層の前記部分が、前記1つの縁部及び前記対向する縁部の両方から前記第1及び第2の電極層の両方への導電性アクセスを提供し、
前記第1及び第2の誘電体層の各々の前記4つの縁部は、2つの対向する比較的長い方の縁部と、2つの対向する比較的短い方の縁部とを含み、前記導電性終端層は、前記比較的長い方の縁部の少なくとも1つに沿って形成され、それにより、前記多層電子部品は、前記比較的長い方の縁部の前記少なくとも1つに沿って基板上にマウントするように構成した
多層電子部品。」

(2)引用例2
当審における拒絶の理由に引用した特開平11-135360号公報(以下、引用例2という)には、図面(図6?8)と共に、以下の記載がある。

(ア)「【0004】
【従来の技術】従来、チツプ型コンデンサとして図6及び図7のように構成されたものがある。
【0005】かかる構成のチツプ型コンデンサ1においては、図8に示すように、一面側にそれぞれ電極2A?2Dが形成された誘電体材料からなるセラミツクシート3A?3Dを複数枚重ね合わせて焼き固め、これを所定の大きさにカツトした後、得られたチツプの長手方向の両端部にそれぞれ第1又は第2の外部電極4A、4Bを形成することにより構成されている。
【0006】この場合各電極2A?2Dは、それぞれ端部が順次交互にセラミツクシート3A?3Dの長手方向の一端又は他端にまで至るように当該セラミツクシート3A?3Dの一面上に形成されている。
【0007】また各第1及び第2の外部電極4A、4Bは、それぞれセラミツクシート3A?3Dの同じ一端側又は他端側にまで至る各電極2A?2Dと導通するようにデツプ処理により銀-パラジウム(Ag-Pd )からなる第1の電極層5A、5Bをチツプの5面に亘つて形成すると共に、当該第1の電極層5A、5B上にニツケルめつき処理により第2の電極層6A、6Bを形成することにより構成されている。」

(3)引用例3
当審における拒絶の理由に引用した特開平10-144562号公報(以下、引用例3という)には、図面(図3)と共に、以下の記載がある。

(ア)「【0011】図1は本発明の一実施形態のグリーンチップの斜視図、図2は積層体の斜視図、図3は積層セラミックコンデンサの斜視図である。図1、図2において1はセラミック誘電体層、2は内部電極層、3は無効層、4はシート層である。図3において5は外部電極である。」
「【0014】焼成後、それぞれの焼結体をバレル研磨機を用いて、上下面のシート層4を除去するとともに、焼結体の内部電極層2がその両端面に露出するように研磨し、その端面に外部電極5を塗布、焼付けを行い、更に外部電極5面上にメッキ処理を行って図3の積層セラミックコンデンサを完成させた。このようにして得られた完成品と、従来方法で得られた完成品の外観検査結果を(表1)に、電気特性選別結果を(表2)に、また静電容量値の変動係数を(表3)に示した。」

(4)引用例4
当審における拒絶の理由に引用した特開平08-330174号公報(以下、引用例4という)には、図面(図1)と共に、以下の記載がある。

(ア)「【0010】図1は本実施例におけるチップコンデンサの斜視図で、図2はその断面図であり、図3は本実施例におけるチップコンデンサの製造工程図である。
【0011】まず、誘電体層41と内部電極42とを交互に積層した素体43を作製し(21)、この素体43の内部電極42の露出した両端面とこの両端面に続く側面と上、下両面の一部の計5面にAgを塗布(22)、焼付け(23)てAg電極44を形成した。次に、このAg電極44上にNiメッキ(24)、Snメッキ(25)の順に行い、中間層45と最外層46とを形成した。このときSnメッキ(25)は、外部電極の表面に部分的にNiとSnの合金部分を形成するために、均一にメッキを行うための薬品(光沢剤)を用いずに、均一性の悪いメタンスルホン酸をベースとするメッキ液を用いて行った。次いで特性および外観選別(26),(27)した後に、乾燥機の耐熱性容器に入れて熱処理(28)を行った。」

(5)引用例5
当審における拒絶の理由に引用した特開平08-162357号公報(以下、引用例5という)には、図面(図11)と共に、以下の記載がある。

(ア)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】従来の積層コンデンサ1は、セラミック焼結体2を金属ペースト中に浸漬したりして外部電極4a,4bの第1の電極層5a,5bが形成されている。このため、外部電極4a,4bの各電極層5a?7aは、セラミック焼結体2の両端部において、セラミック焼結体2の端面、上面、底面及び両側面の5面にまたがって形成されている。そして、プリント回路基板上に載置して半田付けにより実装すると、接続のための半田付け層8a,8bは、第3の電極層7aと融合して積層コンデンサ1をプリント回路基板上に固定し、電気的接続を確保する。特に、接続用の半田付け層8a,8bは、セラミック焼結体2の底面に延びて形成された第3の電極層7aの領域に回り込むことにより、プリント回路基板と積層コンデンサ1とをより強固に固定している。」


4.本願発明と引用発明の対比・判断

(1)対比

本願発明と引用発明を対比すると、両者は、

「多層電子部品であって、
各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、かつ、該第1の誘電体層の1つの縁部の少なくとも一部に延びる第1の導電性層とを含む、複数の第1の電極層と、
各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、かつ、該第2の誘電体層の1つの縁部の少なくとも一部に延びる、前記第1の導電性層の鏡像として形成された第2の導電性層とを含む、前記複数の第1の電極層と交互に積層された複数の第2の電極層と、
前記第1の電極層の前記少なくとも1つの縁部の一部を覆い、かつ、前記複数の第1の電極層の各々の前記第1の導電性層を電気的に接続する、第1の導電性終端層と、
前記第2の電極層の前記少なくとも1つの縁部の一部を覆い、かつ、前記複数の第2の電極層の各々の前記第2の導電性層を電気的に接続する、第2の導電性終端層と、
を備え、
前記複数の第1の電極層の一部は、前記複数の第2の電極層の一部と、接触しない関係で重なり合い、
前記第1の導電性終結層及び前記第2の導電性終結層は、終端部を形成し、該終端部は、前記複数の第1の電極層及び前記複数の第2の電極層を覆い、
前記第1の導電性終端層及び前記第2の導電性終端層は、前記第1の電極層及び前記第2の電極層の両方の前記少なくとも1つの縁部の一部に沿って、それらの間にギャップを形成するように構成され、
それにより、前記第1の導電性終端層から、前記重なり合った複数の第1の電極層及び前記複数の第2の電極層を通って、前記第2の導電性終端層まで、最小の電流ループ面積が形成され、
それにより、前記第1及び第2の導電性層の前記部分が、前記1つの縁部及び前記対向する縁部の両方から前記第1及び第2の電極層の両方への導電性アクセスを提供し、
前記第1及び第2の誘電体層の各々の前記4つの縁部は、2つの対向する比較的長い方の縁部と、2つの対向する比較的短い方の縁部とを含み、前記導電性終端層は、前記比較的長い方の縁部の少なくとも1つに沿って形成され、それにより、前記多層電子部品は、前記比較的長い方の縁部の前記少なくとも1つに沿って基板上にマウントするように構成した
多層電子部品。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は、「前記第1の導電性終結層及び前記第2の導電性終結層は、5面からなる終端部を形成し、該5面からなる終端部は、前記複数の第1の電極層及び前記複数の第2の電極層を覆」うのに対し、引用例1発明では、「前記第1の導電性終結層及び前記第2の導電性終結層は、終端部を形成し、該終端部は、前記複数の第1の電極層及び前記複数の第2の電極層を覆」うが、「終端部」は、電極層の上面及び下面を覆うものではないから、「5面からなる終端部」ではない点。

[相違点2]
本願発明は、「各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、各部分が、該第1の誘電体層の少なくとも3つの縁部分に延びる、第1及び第2の導電性部分を有する導電性層とを含む、上部層及び下部層をさらに備え」るのに対し、引用発明は、「・・・上部層及び下部層をさらに備え」るものではない点。

(2)相違点1,2の判断
[相違点1]について
上記3.(2)?(5)のとおり、積層コンデンサなどの多層電子部品において、多層電子部品の外部電極を5面に形成することは、周知慣用技術にすぎないものと認められるから、引用発明において、「終端部」を電極層の上面及び下面をも覆うものとして、終端部を「5面からなる終端部」とすることは、当業者が多層電子部品の設計に際して、必要に応じてなし得る設計的事項にすぎないものである。

[相違点2]について
終端部を「5面からなる終端部」とする場合、電極層の上面及び下面にも終端部を形成することになるが、電極層の下面と上面に導電性部分を形成すると、上面及び下面に終端部を形成する際に、電極層の密着性が向上することは明らかであるから、引用発明の多層電子部品を「各々が、4つの縁部で境界付けられた第1及び第2の面を有する第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の前記第1の面の一部を覆い、各部分が、該第1の誘電体層の少なくとも3つの縁部分に延びる、第1及び第2の導電性部分を有する導電性層とを含む、上部層及び下部層をさらに備え」るものとすることは、当業者が容易になし得ることにすぎない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明、及び引用例2ないし5に記載された周知慣用技術から当業者が予測できる範囲のものである。

(3)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、平成27年1月22日付けの意見書において、主に下記の(ア)?(ウ)により、本願発明は,引用文献1から6に基づいて,進歩性を否定されるものではない旨の主張を行っている。

(ア)「引用文献1から6のいずれの文献にも、本願発明の1つの特徴である「前記第1及び第2の誘電体層の各々の前記4つの縁部は、2つの対向する比較的長い方の縁部と、2つの対向する比較的短い方の縁部とを含み、前記導電性終端層は、前記比較的長い方の縁部の少なくとも1つに沿って形成され、それにより、前記多層電子部品は、前記比較的長い方の縁部の前記少なくとも1つに沿って基板上にマウントするように構成した」ことは記載も示唆もされていません。」

(イ)「本願発明は「導電性終端層を比較的長い方の縁部に沿って形成することで、対向する電極間のギャップの代わりに、重なり領域が形成され、この重なり領域が回路経路長を短くして、それゆえに、インダクタンスをより小さい値に低減するという、引用文献1から6には記載も示唆もされていない有利な効果を奏するものであります。」

(ウ)「インダクタンスの低減について、引用文献1には、「本発明は、デカプリングコンデンサの先述の様々な態様およびそのようなデバイスのインダクタンスを減らすことの要求を認識し、これに対処する。したがって、大まかに言えば、開示する本技術の主たる目的は、コンデンサの構成を改良して全体のインダクタンスを比較的より小さくすることである」(段落[0013])との課題に対して、「本発明の特定の実施形態の、低インダクタンスという利点は、部分的には、内部電極および周辺ターミネーションランドの構成によって実現される」(段落[0021])ことは記載されているが、本願発明の上記特徴は開示されておらず、上述したような本願発明の有利な効果を参酌すれば、引用文献1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて本願発明の進歩性を否定できるものではないと思料します。」

イ 審判請求人の主張に対する判断
(ア)引用発明は、「コンデンサ2900の比較的長い方の縁部の少なくとも1つに沿って形成される「導電性終端層」は、マウント面に形成される導電性終端層と理解することができ、それにより、コンデンサ2900は、前記比較的長い方の縁部の前記少なくとも1つに沿って基板上にマウントするように構成したものといえる」ことは、上記2.(1)(カ)のとおりである。

(イ)引用発明は、「3030および3032のようなインターデジット式フィンガーを有する部品を作ることにより、完成構造物の等価直列インダクタンスをさらに減らすことが可能になる」(段落【0104】)ものであるが、この「3030および3032のようなインターデジット式フィンガー」により、審判請求人のいう「重なり領域」が形成されて、「完成構造物の等価直列インダクタンスをさらに減らす」のであるから、本願発明が,「引用文献1から6には記載も示唆もされていない有利な効果を奏するもの」とはいえない。

(ウ)引用発明において,低インダクタンスは、「内部電極および周辺ターミネーションランドの構成によって実現される」だけではなく、上記「3030および3032のようなインターデジット式フィンガーを有する部品を作ることにより、完成構造物の等価直列インダクタンスをさらに減らすことが可能になる」(段落【0104】)ものである。

したがって、審判請求人の上記主張は、採用することができない。


5.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された引用発明、及び引用例2ないし5に記載された周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-09 
結審通知日 2015-02-16 
審決日 2015-02-27 
出願番号 特願2009-163381(P2009-163381)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小山 和俊  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 関谷 隆一
丹治 彰
発明の名称 内部電流キャンセル機能及び底面端子を有する多層セラミック・コンデンサ  
代理人 大塚 文昭  
代理人 上杉 浩  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  
代理人 須田 洋之  

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