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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1303347
審判番号 不服2014-5954  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-02 
確定日 2015-07-15 
事件の表示 特願2011-254905「押し出しに適したAl-Mg-Si合金」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月10日出願公開、特開2012- 87413〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2004年10月15日に出願した特願2006-536471号(以下、「原出願」という。)の一部を平成23年11月22日に新たな出願としたものであって、平成25年6月27日付けで拒絶理由通知がなされ、同年10月2日付けで意見書が提出され、同年11月26日付けで拒絶査定がなされ、平成26年4月2日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
押し出し目的に特に有用な、MgおよびSiを含有するアルミニウム合金であって、前記合金は、均一化の間に形成され、均一化後の冷却の間に多数の小さなMg_(2)Si粒子の核化サイトとして働くAlMnFeSi分散質粒子を含み、重量%で:
Mg 0.3?0.5;
Si 0.35?0.6;
Mn 0.03?0.06;
Cr 最大0.05;
Zn 最大0.15;
Cu 最大0.1;
Fe 0.08?0.28;および
加えて、0.1重量%までの結晶粒微細化元素、および、0.15重量%までの偶発的な不純物からなることを特徴とする合金。」(以下、「本願発明」という。)

第3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物(特開平10-306336号公報、以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a)「【0013】
【発明の実施の形態】本発明による押出材の製造は、まず、前記のアルミニウム合金のビレットを、500?590℃の温度に2?24h加熱して均質化処理した後、200℃/h以上の冷却速度で250℃以下の温度域まで冷却する。粒径が0.5μm以上のMg_(2)Si系析出物が生じるのは、鋳造時における合金元素の偏析に起因するところが大きく、上記の鋳塊均質化処理によって偏析をなくし合金成分をマトリックス中に固溶させる。均質化温度が500℃未満ではAl-Fe-Si系晶出物のα化(相変態)が進行せずピックアップなど表面欠陥の原因となり、590℃を越えると局部溶解が生じ易くなる。均質化処理時間が2時間未満では均質化処理の効果が十分でなく、24時間を越えると効果が飽和する。
【0014】均質化処理後、ビレットを冷却する過程において、固溶した合金成分が再度析出するが、200℃/h以上の冷却速度で250℃以下の温度域まで冷却することにより析出物の微細化が図られ、本発明の目的を達成し得る鋳塊段階での析出性状を得ることができる。冷却速度が200℃/h未満ではMg_(2)Si系析出物が粗大となって、押出工程で十分に固溶せず、本発明の目的とする光沢性が得られず強度低下も生じる。」

(b)「【0017】
【実施例】以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。
実施例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金のビレットを連続鋳造により造塊し、580℃の温度で4時間の均質化処理を行い、均質化処理後、ビレットを強制冷却により200℃/h以上の冷却速度で室温まで冷却した。ついで、押出ダイスを通して押出される押出材の押出時の温度上昇も見込んで、押出ダイス通過直後の温度が560?590℃となるような温度にビレットを再加熱し、I字形の形材に押出加工を行った。押出ダイス通過直後の押出材温度および押出材のマトリックス中に分散している粒径0.5μm以上のMg2Si系析出物の数を表2に示す。
【0018】押出材を室温まで空冷した後、175℃の温度で8時間の時効処理を行った。得られた材料を脱脂、洗浄し、10%NaOH溶液中(60℃)に3分40秒浸漬してエッチング処理を行った後、10%硫酸溶液中(20℃)において、電流密度100A/mm2、時間37分の条件で陽極酸化処理し、硫酸アルマイト皮膜を形成した。陽極酸化処理後、材料表面の光沢度を測定した。結果を表2に示す。
【0019】表2にみられるように、本発明に従う試験材は、いずれも30以上の均一な光沢度(G60°)を示し、0.5μm以上の粒径の析出物の数も15個/100μm2以下であった。」

(c)「【0020】
【表1】



(d)「【0021】
【表2】




第4.引用刊行物記載の発明
引用刊行物には、上記記載事項(b)によれば、押し出し用のアルミニウム合金が記載され、同(c)によれば、該合金として、wt%で、Mgが0.50、Siが0.45、Mnが0.06、Crが0.04、Znが0.03、Cuが0.08、Feが0.21、Tiが0.03、Bが0.006含まれるものが記載されている(【表1】中の合金B)。
また、合金には、不可避的不純物が含まれるのが通常であり、押し出し用のMgおよびSiを含有するアルミニウム合金において、不可避不純物を総量で0.15%までに抑えること、さらに、TiおよびBが結晶粒微細化元素として作用することは技術常識である(例えば、特開2002-3974号公報【0013】、【0016】、特開平6-346177号公報【0014】参照)。

そうすると、引用刊行物には、
「押し出し用のMgおよびSiを含有するアルミニウム合金であって、wt%で、:
Mg 0.50
Si 0.45
Mn 0.06
Cr 0.04
Zn 0.03
Cu 0.08
Fe 0.21 および
結晶粒微細化元素として、
Ti 0.03
B 0.006(すなわち、Ti+B=0.036)、および、0.15%までの不可避不純物からなるアルミニウム合金。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第5.対比・判断
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明における「wt%」、「不可避不純物」は、それぞれ、本願発明の「重量%」、「偶発的な不純物」に相当し、引用発明における各成分の含有量は、それぞれ、本願発明と重複する。
よって、両者は、
「押し出し目的に特に有用な、MgおよびSiを含有するアルミニウム合金であって、重量%で:
Mg 0.3?0.5;
Si 0.35?0.6;
Mn 0.03?0.06;
Cr 最大0.05;
Zn 最大0.15;
Cu 最大0.1;
Fe 0.08?0.28;および
加えて、0.1重量%までの結晶粒微細化元素、および、0.15重量%までの偶発的な不純物からなることを特徴とする合金。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明では、「前記合金は、均一化の間に形成され、均一化後の冷却の間に多数の小さなMg_(2)Si粒子の核化サイトとして働くAlMnFeSi分散質粒子を含」むのに対し、引用発明ではその記載がない点。

上記相違点について検討する
本願明細書における「本発明を用いることで、Mnが、AlMgSi合金の押し出し性に更なる好影響(プラスの効果)を持つことが見出される。AlFeSi金属相間の形質転換を促進するのに加えて、AlMnFeSi分散質粒子が、均一化の間に形成される。これら粒子は、均一化後の冷却の間に、Mg_(2)Si粒子の核化サイト(結晶の核となる部位)として働く。」(【0004】)との記載によれば、本願発明は、上記特定の組成を有するアルミニウム合金において、押し出し前の均一化により、「均一化後の冷却の間に多数の小さなMg_(2)Si粒子の核化サイトとして働くAlMnFeSi分散質粒子を含」むものと解される。
一方、引用発明に係るアルミニウム合金は、上記記載事項(b)によれば、580℃の温度で4時間の均質化処理を行い、均質化処理後、ビレットを強制冷却により200℃/h以上の冷却速度で室温まで冷却した後に押出し
が行われるものであり、本願発明との処理上の差異は認められない。

そうすると、引用発明に係るアルミニウム合金も、「均一化の間に形成され、均一化後の冷却の間に多数の小さなMg_(2)Si粒子の核化サイトとして働くAlMnFeSi分散質粒子を含」むものと認められるから、該相違点は実質的なものではない。
したがって、本願発明と引用発明は実質的に相違せず、本願発明は引用刊行物に記載された発明である。

なお、審判請求人は、「均一化後の冷却速度が高過ぎても低過ぎても、本願発明における「多数の小さなMg_(2)Si粒子」は形成されません。適切な冷却速度は,本願明細書の実施例に示されるような400℃/時間と240℃/時間との間であります。一方、・・・引用文献3には、本願発明で規定される合金組成と一部重複するMg、Si、Mn、Cr、Zn、CuおよびFeの含量が本願発明で規定される数値範囲内である合金は具体的に記載されておらず、また、そのような合金組成を有する合金を、均質化後の多数の小さなMg_(2)Si粒子が記載されるような冷却速度で冷却することは記載も示唆もされておりません。」(審判請求書「(3-ロ)本願発明と引用文献との対比」)と主張する。

しかしながら、上記のとおり、本願発明と引用文献3(引用刊行物)記載の発明は合金組成において相違するとはいえない。
また、本願明細書の記載を見ても、冷却速度が240℃/時間未満では「多数の小さなMg_(2)Si粒子」が形成されないとは認められず、引用発明では、「均質化処理後、ビレットを冷却する過程において、固溶した合金成分が再度析出するが、200℃/h以上の冷却速度で250℃以下の温度域まで冷却することにより析出物の微細化が図られ、本発明の目的を達成し得る鋳塊段階での析出性状を得ることができる。冷却速度が200℃/h未満ではMg_(2)Si系析出物が粗大となって、押出工程で十分に固溶せず、本発明の目的とする光沢性が得られず強度低下も生じる。」(上記記載事項(a))との記載によれば、200℃/時間以上の冷却速度で微細なMg_(2)Si系析出物が得られるのであり、240℃/時間の冷却速度が除外されるとは解されないから、冷却温度においても相違するとはいえない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

第6.むすび
以上によれば、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-13 
結審通知日 2015-02-17 
審決日 2015-03-04 
出願番号 特願2011-254905(P2011-254905)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22C)
P 1 8・ 113- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河口 展明  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 鈴木 正紀
河本 充雄
発明の名称 押し出しに適したAl-Mg-Si合金  
代理人 梶並 順  
代理人 飯野 智史  
代理人 大宅 一宏  
代理人 曾我 道治  

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