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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1303402
審判番号 不服2012-20094  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-12 
確定日 2015-07-22 
事件の表示 特願2008- 71069「顔料混合物の化粧製剤における使用」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月17日出願公開、特開2008-163046〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年12月20日に出願した特願平11-360803号(パリ条約による優先権主張 1998年12月23日、欧州特許庁)の一部を平成20年3月19日に新たな特許出願としたものであって、平成23年3月18日付けで拒絶理由が通知され、同年9月21日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成24年6月8日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月12日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、手続補正書が提出され、当審において、平成25年10月9日付けで審尋がされ、平成26年4月15日に回答書が提出され、同年7月10日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願の特許請求の範囲に記載された発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された発明は、平成27年1月15日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に記載された発明は次のとおりのものである(以下、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本願発明」という。また、本願の明細書を「本願明細書」という。)

「少なくとも金属酸化物で被覆されたAl_(2)O_(3)フレーク(但し酸化鉄のみで被覆されたAl_(2)O_(3)フレークを除く)である粒径5?60μmの成分Aと、針状または球状の化粧製剤用の着色剤として吸収材料及び充填剤を含む粒径0.001?20μmの成分Bとの少なくとも2つの成分を含んでなる顔料混合物の化粧製剤における使用であって、成分Aと成分Bとを10:1?1:10の比で混合していることを特徴とする前記顔料混合物の使用。」

第3 原査定の理由及び当審において通知した拒絶理由
(1)原査定の理由
平成24年6月8日付け拒絶査定は、「この出願については、平成23年3月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由3によって、拒絶をすべきものです。」というものであるところ、平成23年3月18日付け拒絶理由通知書からみて、次の理由によるものである。

「…
3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

理由3について
請求項1?6について

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平09-077512号公報

3.特表平06-508625号公報

5.特開平08-259841号公報
6.特開平04-128211号公報」

(2)当審において通知した拒絶理由
平成26年7月10日付けで当審において通知した拒絶理由は、以下の理由を含むものである。
「…
2.本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。

付言:本拒絶理由通知は平成24年6月8日付け拒絶査定の理由が解消したことを意味するものではなく、拒絶査定の理由の適否については、本拒絶理由に対する請求人による応答の内容を踏まえたうえで判断されるものであることに留意してください。」

第4 当審の判断
当審は、本願発明は、平成24年6月8日付け拒絶査定における理由3(特許法第29条第2項)、及び、平成26年7月10日付けで当審において通知した拒絶理由における理由2(特許法第36条第6項第1号)によって、拒絶されるべきものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1.特許法第36条第6項第1号について
(1)明細書のサポート要件について
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号判決参照)。そこで、以下、この観点に立って、この出願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

(2)本願発明
本願発明は、前記「第2」に記載したとおりのものである。

(3)本願発明の解決しようとする課題 (以下、「本願発明の課題」という。)
本願発明の課題は、本願明細書の発明の詳細な説明(以下、「本願発明の詳細な説明」という。)の「本発明の目的は、比較的高い隠蔽力が顕著で、それが使用されるそれぞれの系に良好に混合することができ、同時に系中の顔料/着色剤の分離が大いに排除される顔料混合物を提供することにある。」(段落【0004】)との記載等からみて、「比較的高い隠蔽力が顕著で、それが使用されるそれぞれの系に良好に混合することができ、同時に系中の顔料/着色剤の分離が大いに排除される顔料混合物を提供する」ことと認められる。

(4)本願発明の詳細な説明の記載
本願発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。
a「【0002】
血小板状顔料(platelet-shaped pigmens)を用いると、隠蔽力と光沢とを同時に満足できる程度に実現することは困難であることが多い。例えば、1種または2種以上の薄い金属酸化物層で覆われたSiO_(2)フレークまたは雲母小板は干渉色および高い光沢を特徴とするが、同時に、透明基材のために、高度の透明性および従って比較的低い隠蔽力を特徴とする。

【0005】
驚くべきことに、前述の不利益を有さない顔料混合物が発見された。本発明の顔料混合物は、1種または2種以上の金属、金属酸化物および/または金属硫化物で被覆されたAl_(2)O_(3)フレークである成分Aと、針状または球状着色剤である成分Bとの少なくとも2つの成分からなる。
【0006】
着色剤を被覆Al_(2)O_(3)フレークと混合することにより、それらが用いられる系に多重増幅効果(mutiple flop)を与えることができ、着色効果が強化され、新しい着色効果が達成される。」

b「【0009】
被覆Al_(2)O_(3)フレークは、着色剤と任意の比で混合することができる。好ましくは、成分Aと成分Bとの比は1:10?10:1、特に1:2?2:1である。」

c「【0014】
Al_(2)O_(3)フレークには、1種または2種以上の金属酸化物層が設けられている。適当な金属酸化物または金属酸化物混合物の例は、U.S. 5,702,519に記載のような、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄(Fe_(2)O_(3)および/またはFe_(3)O_(4))および/または酸化クロム、特に、TiO_(2)および/またはFe_(2)O_(3)である。

【0016】
Al_(2)O_(3)フレークは、例えば、クロム、ニッケル、ビスマス、銅、錫またはハステロイから選択される金属または金属合金の1または2以上の層で被覆することもできる。
【0017】
金属硫化物で被覆されるAl_(2)O_(3)フレークは、例えば、タングステン、モリブデン、セリウム、ランタンまたは希土類元素の硫化物で被覆される。」

d「【0019】
本発明の顔料混合物用の成分Bとして好適な着色剤は、全て、当業者に知られていると共に粒径が0.001?20μm、好ましくは0.01?3μmである針状および球状着色剤である。針状、線維状粒子とは、長さ-直径比が5より大きな粒子を意味する。ここで、球状着色剤とは、理想的に造形された球状のみならず直径が不均一な様々な球状を意味すると定義される。本発明の顔料混合物は、好ましくは、着色剤として吸収材料および充填剤を含む。
【0020】
球状着色剤は、特に、TiO_(2)、着色SiO_(2)、CaSO_(4)、酸化鉄、酸化クロム、カーボンブラック、有機着色顔料、例えば、アントラキノン、キナクリドン、ジケトピロロピロール、フタロシアニン、アゾおよびイソインドリン顔料を含む。針状顔料は、好ましくは、BiOCl、着色ガラス線維、α-Fe_(2)O_(3)、α-FeOOH有機着色顔料、例えば、アゾ顔料、β-フタロシアニンClブルー15.3、クロモフタル・イエロー8GN(チバガイギー製)、イルガリス・ブルーPD56(チバガイギー製)、アゾメチン銅複合Clイエロー129、イルガジン・イエロー5GT(チバガイギー製)を含む。」

e「【0021】
本発明の顔料混合物は、取り扱いが簡単で容易である。顔料混合物は、単にそれを攪拌することにより、使用される系中に組み込むことができる。顔料の労力のかかる粉砕および分散は必要無い。」

f「【0026】
本発明の顔料混合物は、装飾および装身美容術においても用いることができる。使用濃度、およびAl_(2)O_(3)フレークと成分Bとの混合割合、特に、酸化クロム、ウルトラマリーン、または球状SiO_(2)もしくはTiO_(2)顔料のような天然または合成起源の有機および無機着色顔料および染料との混合割合は、それらが使用される媒体、および達成される効果に依存する。Al_(2)O_(3)フレークは他の顔料と任意の割合で混合することができ、好ましい比は1:10?10:1である。使用濃度は、シャンプー中の0.01重量%から、コンパクトパウダー中の70重量%である。Al_(2)O_(3)フレークと、SiO_(2)のような球状充填剤との混合物の場合、製剤中での濃度は0.01?70重量%であり得る。ネイルワニス、リップスティック、コンパクトパウダー、シャンプー、ルースパウダーおよびゲルのような化粧生成物は、特に興味深い光沢効果および/または着色効果において顕著である。ネイルワニスでの光沢効果は、本発明の顔料混合物を用いると、従来のネイルワニスよりも著しく向上させることができる。さらに、本発明の顔料混合物は、浴用製品、歯磨きペーストにおいて、および食物の価値を引き上げるために、例えば、塊体着色剤としてまたは被覆として用いることができる。」

g「【実施例】
【0029】
以下の実施例は本発明を説明するものであるが、限定するものではない。
【0030】
実施例1:印刷インク
顔料を、600rpmで攪拌することにより溶媒含有バインダーに混入し、次に、印刷インクを、黒白カード上にナイフコーターにより塗布した。
インクNo.1:
Gebr. Schmidt 95 MB 011 TW 88.0g
粒径5?60μmのFe_(2)O_(3)-被覆Al_(2)O_(3)フレーク 10.0g
Gebr.Schmidt 95 MB 022-TW(緑) 2.0g
インクNo.2:比較
Gebr.Schmidt 95 MB 011 TW 88.0g
粒径10?60μmのFe_(2)O_(3)-被覆雲母 10.0g
Gebr.Schmidt 95 MB 022-TW(緑) 2.0g
【0031】
インクNo.1を用いたカラーカードは、比較インクNo.2を用いたカラーカードよりも、視覚的に著しく優れた深さおよび光沢効果を示す。

【0035】
実施例4:アイシャドウ
相A
シリカ 5.00%
粒径5?60μmのTiO_(2)-被覆Al_(2)O_(3)フレーク(Merck KGaA製) 25.00%
CIピグメント・グリーン18(CI77289) 5.00%
タルク 47.42%
Solanum Tuberosum(ジャガイモ澱粉) 7.18%
ステアリン酸マグネシウム 2.40%
相B
ステアリン酸イソプロピル 6.96%
パルミチン酸セチル 0.40%
鉱油 0.40%
防腐剤 0.08%
【0036】
相Aの構成成分を一緒にし、プレミックスに調製する。溶融相Bを、次に、攪拌下に粉末混合物に滴下する。粉末を40?50バールで加圧する。」

(5)検討
本願発明の詳細な説明には、
・1種または2種以上の金属、金属酸化物および/または金属硫化物で被覆されたAl_(2)O_(3)フレークである成分Aと、針状または球状着色剤である成分Bとの少なくとも2つの成分からなる顔料混合物によって本願発明の課題が解決されること(摘記a)、
・成分Aとして、金属酸化物で被覆されたAl_(2)O_(3)フレークがあり(摘示c)、そのうちには酸化鉄のみで被覆されたAl_(2)O_(3)フレーク以外のもの
であって粒径が5?60μmのものがあること(摘示gの実施例4)
・成分Bとして、針状または球状の着色剤として吸収材料及び充填剤を含み、その粒径が0.001?20μmのものがあること(摘示d)、
・成分Aと成分Bとを10:1?1:10の比で混合すること(摘示b、f)、
・当該顔料混合物を化粧製剤において使用すること(摘示f、g)、
・以上の条件を満たす顔料組成物を化粧製剤において使用した実施例(摘示gの実施例4)、
が記載されているから、本願発明の詳細な説明には、以上の事項を組み合わせると、本願特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項を備えた顔料混合物の使用(すなわち、「少なくとも金属酸化物で被覆されたAl_(2)O_(3)フレーク(但し酸化鉄のみで被覆されたAl_(2)O_(3)フレークを除く)である粒径5?60μmの成分Aと、針状または球状の化粧製剤用の着色剤として吸収材料及び充填剤を含む粒径0.001?20μmの成分Bとの少なくとも2つの成分を含んでなる顔料混合物の化粧製剤における使用であって、成分Aと成分Bとを10:1?1:10の比で混合していることを特徴とする前記顔料混合物の使用。」)については記載されているものと認められる。

そこで、そのような本願発明が、それによって「比較的高い隠蔽力が顕著で、それが使用されるそれぞれの系に良好に混合することができ、同時に系中の顔料/着色剤の分離が大いに排除される顔料混合物を提供する」という本願発明の課題が解決できるものと、当業者が認識できるように、本願発明の詳細な説明に記載されているか否か検討する。
本願発明の詳細な説明には、
・本願発明に係る顔料混合物はそれらが用いられる系に多重増幅効果(mutiple flop)を与えることができ着色効果が強化され新しい着色効果が達成されるものであり(摘示a)、
・単に攪拌することにより使用される系中に組み込むことができ取り扱いが簡単容易であり(摘示e)、
・本願発明に係る顔料組成物を化粧製剤において使用することによって、興味深い光沢効果および/または着色効果が顕著にもたらされる(摘示f)、
との記述はされているものの、本願発明に係る顔料混合物を化粧製剤において用いた例(実施例4のみである。)は、顔料混合物をアイシャドウにおいて用いた処方例を開示するに止まるもの(摘記g)であって、隠蔽力、系への混合性、系中の顔料/着色剤の分離の排除がどの程度に達成されるものであるかについては、何ら開示されていないものである。
また、本願発明の詳細な説明の記載全体をみても、本願発明において特定された成分Aと成分Bとを併用することによって、隠蔽力、系への混合性、系中の顔料/着色剤の分離の排除に係る本願発明の課題の解決がされるとの文言の記述はあるものの、それが達成される作用機序等の技術的事項は開示されておらず、それを補う技術常識が存在することが明らかとも認められない。
そうすると、本願発明において特定された成分Aと成分Bを含む顔料混合物を化粧製剤に用いた場合について、具体的な実験データ等による裏付けや作用機序等の技術的事項の説明が開示されていない本願発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本願発明によって、「比較的高い隠蔽力が顕著で、それが使用されるそれぞれの系に良好に混合することができ、同時に系中の顔料/着色剤の分離が大いに排除される顔料混合物を提供する」という本願発明の課題が解決できると技術的な合理性をもって認識できるものとは認められない。
なお、仮に、当業者が本願発明の詳細な説明に記載された実施例4から本願発明の課題の解決ができると認識できるものであったとしても、当該実施例4は、成分Bとしてシリカを用いたもの(平成27年1月15日付け意見書等も参照のこと。)であるところ、顔料混合物を構成する吸収材料や充填剤の種類が相違すれば顔料混合物の物性が相違することは技術常識に照らし明らかなことと認められることを考慮すると、実施例4に開示された記載事項をもって、成分Bとして「針状または球状の化粧製剤用の着色剤として吸収材料及び充填剤」を用いる発明にまで、拡張・一般化して、本願発明の課題が解決できると、当業者が認識し得たものとは認められない。

よって、本願発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本願発明によって、「比較的高い隠蔽力が顕著で、それが使用されるそれぞれの系に良好に混合することができ、同時に系中の顔料/着色剤の分離が大いに排除される顔料混合物を提供する」という本願発明の課題の解決が図られると認識できるものとはいえない。

(6)請求人の主張について
請求人は、平成27年1月15日付け意見書において、
「本願の実施例1では、印刷インクに関するものではありますが、本発明に係る被覆アルミナフレークと雲母フレークとでは、顔料の形状の違いにより効果の差違が確認されており、化粧製剤についても従来公知の雲母フレークと球形粒子との組み合わせよりも深みのある色が得られることは容易に想到し得ると思料致します。このように、成分Bの詳細が不明であっても、同じ成分Bを含む雲母フレークの場合よりも優れた効果を確認することは可能と思料したします。したがって、効果の機序に対しての明確な説明がないとしても、従来の顔料混合物を使用した場合よりも本願の成分Aと成分Bとの組み合わせにおいて、顕著な効果を奏するという結果は予測可能であると思料致します。」
と主張している。当該主張は、本願発明の詳細な説明に効果が発現される作用機序の明確な説明がないとしても、本願の実施例1等の記載から、本願発明において、深みのある色が得られること等の本願発明による顕著な効果が奏されることは当業者が予測可能であることを主張するものと認められる。

そこで、斯かる請求人の主張について検討する。
実施例1は、印刷インクにおいて、本願発明の成分Aを用いたものが、従来公知の雲母フレークを用いたものよりも、「視覚的に優れた深さおよび光沢」を示すことを開示するものと認められるが、「視覚的に優れた深さおよび光沢」であることが、本願発明の課題に係る隠蔽力、系への混合性、及び、系中の顔料/着色剤の分離の排除のいずれもが達成されることを意味することは明らかとはいえない。
よって、斯かる実施例1等の記載を考慮しても、化粧製剤において「比較的高い隠蔽力が顕著で、それが使用されるそれぞれの系に良好に混合することができ、同時に系中の顔料/着色剤の分離が大いに排除される顔料混合物を提供する」という本願発明の課題の解決が図られることが、当業者が予測し得たこととは認められない。
そもそも、化粧製剤と印刷インクとでは物品の違い等に起因して構成成分等が相当に相違し製品の物性等も別異のものであることは技術常識と認められること(例えば、実施例1と実施例4の処方を比べると、成分Bについてさえ両者は全く別異のものを使用するものである。)を考慮すると、仮に、実施例1等の記載から、「比較的高い隠蔽力が顕著で、それが使用されるそれぞれの系に良好に混合することができ、同時に系中の顔料/着色剤の分離が大いに排除される顔料混合物を提供する」という本願発明の課題の解決が図られることが印刷インクにおいて認識できるものであったとしても、当業者が化粧製剤についてまでも本願発明の課題の解決が図られることを認識できるものとは認められない。
よって、上記の請求人の主張は妥当なものとはいえない。

(7)特許法第36条第6項第1号についてのむすび
以上のとおりであるから、本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものとはいえない。

2.特許法第29条第2項について
(1)本願発明
本願発明は、前記「第2」に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりのものである。
「少なくとも金属酸化物で被覆されたAl_(2)O_(3)フレーク(但し酸化鉄のみで被覆されたAl_(2)O_(3)フレークを除く)である粒径5?60μmの成分Aと、針状または球状の化粧製剤用の着色剤として吸収材料及び充填剤を含む粒径0.001?20μmの成分Bとの少なくとも2つの成分を含んでなる顔料混合物の化粧製剤における使用であって、成分Aと成分Bとを10:1?1:10の比で混合していることを特徴とする前記顔料混合物の使用。」

(2)刊行物等及び刊行物等に記載された事項
ア.刊行物等
刊行物1.特開平09-077512号公報
刊行物2.特表平06-508625号公報
刊行物3.特開平08-259841号公報
刊行物4.特開平04-128211号公報
(原査定において、引用された引用文献1、3、5、6である。)
周知例1.特開平10-87471号公報
(前置報告書において、周知技術について例示された引用文献7である。)

イ.刊行物等に記載された事項
[刊行物1(特開平09-077512号公報)]
1a「【特許請求の範囲】
【請求項1】 酸化チタンを含有することを特徴とする薄片状酸化アルミニウム。
【請求項2】 粒子の大きさが平均粒子径で5?60μ、厚みが1μ以下、アスペクト比(粒子径/厚み)が20以上である請求項1記載の薄片状酸化アルミニウム。

【請求項6】 上記薄片状酸化アルミニウム粒子表面に金属酸化物が被覆されたものである真珠光沢顔料。
【請求項7】 上記薄片状酸化アルミニウム若しくは上記真珠光沢顔料を含
有する塗料、プラスチック、インク、化粧料又は釉薬組成物。」

1b「【0009】
さらに本発明は、上記薄片状酸化アルミニウム粒子表面に金属酸化物が被覆された真珠光沢顔料を提供するものであり、
さらにまた本発明は、上記薄片状酸化アルミニウム若しくは上記真珠光沢顔料を含有する塗料、プラスチック、インク、化粧料又は釉薬組成物を提供するものである。」

1c「【0019】
次に、本発明に係る真珠光沢顔料は、上記薄片状酸化アルミニウムを基質とし、屈折率の高い金属酸化物、例えば酸化チタン、酸化ジルコニウム等をこの基質表面に被覆することにより得ることができる。これらの被覆によってシルバー調の色彩、更には被覆量を増すことによって干渉色の色彩を帯びる真珠光沢顔料が得られ、または、この薄片状酸化アルミニウム基質に有色系の金属酸化物例えば酸化鉄を被覆することによって赤味又は黒色系の真珠光沢顔料を得ることも出来る。この金属酸化物の被覆方法としては、公知の方法、例えば金属塩の熱加水分解による方法、あるいはアルカリを用いた中和加水分解による方法等により水和金属酸化物を付着させ、その後焼成する方法が採られる。またこの焼成工程を還元雰囲気で行うことにより低次酸化チタンや低次酸化鉄となり、黒色を帯びた真珠顔料を得ることが出来る。特に、この金属酸化物被覆工程においては酸化アルミニウム単一成分からなる従来公知の薄片状酸化アルミニウムを基質としては、金属酸化物が表面に付着し難いのに対し、本発明に係る薄片状酸化アルミニウムの基質には容易に付着させることが出来る。また、この被覆された金属酸化物の付着状態は、微細で、均一なものであり、真珠光沢に優れているものである。」

1d「【0021】
【実施例】
「薄片状酸化アルミニウムの製造例」
〔実施例1〕
硫酸アルミニウム18水和物223.8g、硫酸ナトリウム(無水)114.5gおよび硫酸カリウム93.7gを、450mlの脱塩水に加え、約75℃に加温しながら溶解させる。完全に溶解させた後、この溶液に硫酸チタニル溶液(濃度34.4%)2.0gを加え、混合水溶液(a)を調製した。別に、リン酸三ナトリウム12水和物0.9gおよび炭酸ナトリウム107.9gを250mlの脱塩水に溶解させ、混合水溶液(b)を調製した。この混合水溶液(a)と(b)を200mlの脱塩水に攪拌しながら同時にほぼ当量となる一定の速度で約15分間かけて添加し、更に15分間攪拌した。この溶液を蒸散乾燥し、その後1200℃で5時間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の硫酸塩を溶解させたのち、不溶性の固体をろ過分離し、水洗し、乾燥させて薄片状酸化アルミニウムを得た。
【0022】
得られた薄片状酸化アルミニウムをX線回折により調べたところ、検出されたピークは酸化アルミニウム(コランダム)のみであった。また、この薄片状酸化アルミニウム中の酸化チタン含有量を定量したところ0.9%(対酸化アルミニウム)であった。光学顕微鏡、電子顕微鏡にて観察したところ、粒子径3?16μ、厚み約0.2μの薄片であり、双晶は認められなかった。この薄片状酸化アルミニウムを水に懸濁させ攪拌したところ、分散性は良好であり、きれいな流線が観察された。
【0023】
〔実施例2〕…
【0024】
得られた薄片状酸化アルミニウムをX線回折により調べたところ、検出されたピークは酸化アルミニウム(コランダム)のみであった。また、薄片状酸化アルミニウム中の酸化チタン含有量を定量したところ0.9%(対酸化アルミニウム)であった。光学顕微鏡、電子顕微鏡により観察したところ、粒子径4?21μ、厚み約0.2μの薄片であり、双晶は認められなかった。この薄片状酸化アルミニウムを水に懸濁させ攪拌したところ、分散性は良好であり、きれいな流線が観察された。
【0025】
〔実施例3〕…
【0026】
得られた薄片状酸化アルミニウムをX線回折により調べたところ、検出されたピークは酸化アルミニウム(コランダム)のみであった。また、この薄片状酸化アルミニウム中の酸化チタン含有量を定量したところ、2.6%(対酸化アルミニウム)であった。光学顕微鏡、電子顕微鏡にて観察したところ、粒子径5?22μ、厚み約0.2μの薄片であり、双晶は認められなかった。この薄片状酸化アルミニウムを水に懸濁させ攪拌したところ、分散性は良好であり、きれいな流線が観察された。

【0029】
〔実施例5〕…
【0030】
得られた薄片状酸化アルミニウムをX線回折により調べたところ、検出されたピークは酸化アルミニウム(コランダム)のみであった。また、この薄片状酸化アルミニウム中の酸化チタン含有量を定量したところ、0.4%(対酸化アルミニウム)であった。光学顕微鏡、電子顕微鏡にて観察したところ、粒子径4?18μ、厚み約0.2μの薄片であり、双晶は認められなかった。この薄片状酸化アルミニウムを水に懸濁させ攪拌したところ、分散性は良好であり、きれいな流線が観察された。

【0046】
〔真珠光沢顔料の製造例〕
〔実施例7〕
実施例1で得られた薄片状酸化アルミニウム20gを400mlの脱塩水に懸濁させた。これを約65℃に加温し、濃度125g/リットルのTiCl_(4)溶液を0.6ml/minの速度で添加し、その間同時に、水酸化ナトリウムの10%溶液を添加して、pH値を2.5に維持した。シルバー色の発色が得られた時点でTiCl_(4)溶液の添加を止めた。このようにして得られた顔料をろ過分離、水洗、乾燥し、850℃で焼成することによって白色度が高く、高光沢の真珠顔料を得た。
【0047】
〔実施例8〕
実施例2で得られた薄片状酸化アルミニウム…このようにして得られた顔料をろ過分離、水洗、乾燥し、850℃で焼成することによって白色度が高く、高光沢の真珠顔料を得た。この顔料をX線回折により調べたところ、TiO_(2)は全てルチル型であった。
【0048】
〔実施例9〕
実施例5で得られた薄片状酸化アルミニウム…このようにして得られた顔料をろ過分離、水洗、乾燥し、850℃で焼成してゴールド色の干渉色を有する赤褐色の真珠光沢顔料を得た。…」

[刊行物2(特表平06-508625号公報)]
2a「請求の範囲
1.口紅を製造する方法において(a)色ペレットを組み合わせたものを測定済の量の油混合物と一緒に溶融、混合して均一な口紅組成物基剤を得る工程、及び(b)前記組成物基剤を予め定められた色の口紅へと成形する工程を包含する口紅製造法。

12.色ペレットであって、
a)ワックス成分1?50重量%
b)油成分30?65重量%、及び
c)顔料及び/又は真珠光沢付与剤10?35重量%を包含する色ペレット。

17.上記顔料が、酸化鉄、二酸化チタン、レーキ、ウルトラマリン及び有機染料から選択される請求項12?16のいずれか一つに記載の色ペレット。」

[刊行物3(特開平08-259841号公報)]
3a「【0013】
【実施例】次に、実施例、比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
実施例1
粒径10?60μmの合成フッ素金雲母粉体(平均屈折率1.56、鉄含有量0.04%)20gと水400ミリリットルとを、1リットルのガラス製容器中に入れて撹拌した。次いで、この中に硫酸チタニル溶液(TiO_(2)80g/リットル)200ミリリットルを添加して、急速に100℃まで加温し、この温度で3時間反応させた。反応終了後、濾過、水洗し、110℃の温度で乾燥した。得られた粉体を800℃で1時間焼成して、本発明のパ-ル光沢顔料を得た。このパ-ル光沢顔料は、クリヤ-ラッカ-中に分散させると、黄金色を呈し、満足すべき十分な光沢のある光彩を示した。

【0016】実施例3
実施例1で使用したのと同じ合成フッ素金雲母粉体30gと水400ミリリットルとを、1リットルのガラス製容器中に入れて撹拌した。次いで、この中に硫酸ジルコニウム溶液(ZrO_(2)=100g/リットル)200ミリリットルを添加し、更に尿素を徐々に加えて、pHを2.0にした。この溶液を急速に100℃まで加熱し、反応を3時間継続した。反応終了後、濾過、水洗し、110℃で乾燥した後、800℃で1時間焼成して、本発明のパ-ル光沢顔料を得た。このパ-ル光沢顔料は、クリヤ-ラッカ-中に分散させると、黄味を帯びた銀白色の外観と満足すべき十分な光沢のある光彩を示した。

【0032】
実施例24:化粧料(フアンデ-ションクリ-ム)
実施例3で得た顔料 20部
流動パラフイン 25部
ワセリン 5部
イソプロピルミリステ-ト 5部
ステアリン酸 2部
POE(25)モノステアレ-ト 2部
黄酸化鉄 2部
ベンガラ 1部
タルク 5部
プロピレングリコ-ル 5部
グリセリン 5部
香料 0.5部
精製水 22.5部
上記処方物を、75?80℃で均一に溶解・混合した後、30℃まで冷却し、製品とした。この製品は、鮮明度が高く、展延性に富むため大変化粧し易く、しかも化粧くずれのしないものであった。」

[刊行物4(特開平04-128211号公報)]
4a「2.特許請求の範囲
(1)真珠光沢顔料を配合したことを特徴とする下地化粧料。
(2)真珠光沢顔料が金属酸化物被覆板状粉末である請求項1記載の下地化粧料。」(第1頁「特許請求の範囲」)

4b「真珠光沢顔料の他に、顔料の粉末を配合することができる。この場合に用いられる顔料粉末は通常化粧料で用いられるものであれば特に限定されず、無機顔料、有機顔料、金属顔料等任意の顔料を配合することができ、無機顔料としては、例えば…、無水ケイ酸、…等が挙げられる。」(第2頁右下欄第9行?第3頁左上欄第5行)

[周知例1(特開平10-87471号公報)]
周a「【特許請求の範囲】
【請求項1】 次の剤(A)及び(B):
(A)屈折率が2.0以下であり、かつ体積累計平均粒径が0.1μmを超え2μm以下である微粉末を全組成中に10重量%以上含有する粉体化粧料
(B)体積累積平均粒径が10μmを超え100μm以下である雲母、合成マイカ、雲母チタン又はオキシ塩化ビスマスを含有する粉体化粧料
の2剤からなる立体感付与粉体化粧料。
【請求項2】 (A)剤中に、体積累積平均粒径が3?50μmの球状粉体を含有するものである請求項1記載の立体感付与粉体化粧料。」

周b「【0010】また、(A)剤に配合される微粉末は、体積累積平均粒径が0.1μmを超え2μm以下であることが必要であるが、0.15?1.5μm、特に0.3?1.2μmであることが好ましい。体積累積平均粒径が0.1μm以下では使用感が悪く、2μmを超えると、光沢を抑制する効果が低減するので好ましくない。…
【0011】(A)剤に用いられる微粉末としては、上記屈折率及び体積累計平均粒径の条件を満たすものであれば特に限定されず、無機微粉末及び有機微粉末のいずれでもよい。…これらのうち、無機微粉末としては、シリカ、硫酸バリウム等の低屈折率のものが、…、より自然な仕上がり、良好な感触及び効果を得る上で特に好ましい。また、これらの微粉末に、通常の方法により着色顔料、色素、染料、金属イオン等を被覆又は内包処理し、着色したものを使用することもできる。これら微粉末は、いずれかを単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。また微粉末の形状も、球状、平板状、粒状、針状、棒状、無定形等いずれでもよいが、特に球状及び粒状のものが使用感等の点から好ましい。」

周c「【0012】上記微粉末の(A)剤中の配合量は、10重量%以上であることが必要であるが、特に10?30重量%が好ましい。

【0015】また、この光沢粉体は、雲母、合成マイカ、雲母チタン及びオキシ塩化ビスマスから選ばれるものであるが、これらのいずれかを単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。上記光沢粉体の(B)剤中の配合量は、その粉体の反射特性や粒径によって大きく異なり、特に限定されるものではないが、全組成中に1?70重量%、特に3?50重量%が好ましい。」

(3)判断
ア.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、酸化チタンを含有する薄片状酸化アルミニウム(摘示1aの【請求項1】)が記載され、当該薄片状酸化アルミニウムをその粒子の大きさが平均粒子径で5?60μのものとすること(摘示1aの【請求項2】)、及び、薄片状酸化アルミニウムを表面に金属酸化物が被覆された真珠光沢顔料とすること(摘示1aの【請求項6】、1b、1c)が記載されている。
また、刊行物1には、当該真珠光沢顔料を含有する化粧料(摘示1aの【請求項7】、1b)が記載されており、真珠光沢顔料が化粧料において使用されることは明らかである。
そして、刊行物1には、斯かる真珠光沢顔料を製造した実施例(摘示1d)が記載されている。

以上の事項を総合すると、刊行物1には、次の発明が開示されているといえる(以下、「引用発明」という。)。

「粒子の大きさが平均粒子径で5?60μである、酸化チタンを含有する薄片状酸化アルミニウムの表面に金属酸化物が被覆された真珠光沢顔料を含有する化粧料における、前記真珠光沢顔料の使用。」

イ.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「粒子の大きさが平均粒子径で5?60μである」は、本願発明の「粒径5?60μm」に相当する。

また、本願明細書の発明の詳細な説明に、「好ましいAl_(2)O_(3)フレークは、U.S. 5,702,519から知られている酸化アルミニウム(主成分として)と二酸化チタン(微量成分として)とからなるフレークである。」(段落【0013】。なお、U.S. 5,702,519は、刊行物1(特開平09-077512号公報)のパテントファミリーにあたる刊行物であり、「酸化アルミニウムベースで約0.1?4質量%の合計量の酸化チタンを含有する酸化アルミニウムフレーク。( Flaky aluminum oxide containing therein titanium oxide in an amount of about 0.1-4 wt. %, based on the aluminum oxide.)」(特許請求の範囲の請求項1)が開示されている。)と、本願発明に係るAl_(2)O_(3)フレークとして二酸化チタンを含有するAl_(2)O_(3)フレークが好ましいことが記載されていること等からみて、引用発明の「酸化チタンを含有する薄片状酸化アルミニウム」は、本願発明の「Al_(2)O_(3)フレーク…である…成分A」に相当するといえる。

また、引用発明の「表面に金属酸化物が被覆された」は、摘示1cの「…上記薄片状酸化アルミニウムを基質とし、屈折率の高い金属酸化物、例えば酸化チタン、酸化ジルコニウム等をこの基質表面に被覆する…」との記載、及び、摘示1dの実施例の記載等からみて、金属酸化物が酸化鉄のみでないものを含むから、本願発明の「少なくとも金属酸化物で被覆された…(但し酸化鉄のみで被覆されたAl_(2)O_(3)フレークを除く)」に相当する。

そして、引用発明の「真珠光沢顔料を含有する化粧料における、前記真珠光沢顔料の使用。」は、本願発明の「顔料…の化粧製剤における使用であって、…前記顔料…の使用。」に相当する。

以上を総合すると両者は、
「少なくとも金属酸化物で被覆されたAl_(2)O_(3)フレーク(但し酸化鉄のみで被覆されたAl_(2)O_(3)フレークを除く)である粒径5?60μmの成分A…の成分を含んでなる顔料…の化粧製剤における使用であって、…前記顔料…の使用。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本願発明は、「針状または球状の化粧製剤用の着色剤として吸収材料及び充填剤を含む粒径0.001?20μmの成分B」を「成分Aと成分Bとを10:1?1:10の比で混合」する顔料混合物を含むものであるのに対して、引用発明は斯かる成分Bを含む顔料混合物を発明特定事項とするものでない点。

ウ.検討
(ア)相違点1について
本願発明の吸収材料ないし充填剤に相当するシリカ等の材料(顔料等)を、真珠光沢顔料等の薄片(フレーク)状の材料とともに混合物に用いることは、周知の技術と認められること(例えば、摘示2aの請求項17、3aの実施例24、4a?4b(特に、4b)参照。)、及び、斯かるシリカ等の材料(顔料等)として、粒径0.001?20μm程度のもの、針状または球状の形状のもの、着色剤としてのはたらきをするものは周知と認められること(例えば、周知例1参照。周知例1には、薄片状と解される雲母等とともに、体積累積平均粒径が0.1?2μmのシリカ等の微粉末を用いること、微粉末として着色したものを使用できること、微粉末の形状として球状、針状等が例示されること(摘示周a、周b)が開示されている。)を考慮すると、引用発明において、「針状または球状の化粧製剤用の着色剤として吸収材料及び充填剤を含む粒径0.001?20μmの成分B」を用いて成分Aとの混合物とすることは、当業者が刊行物2?4、周知例1に例示される周知技術に基づいて、容易になし得たことと認められる。
また、斯かる成分Bの配合割合は、当業者が通常の創作能力の範囲内で適宜設定し得たものと認められ、本願発明の詳細な説明の実施例の記載等をみても、成分Bの成分A(Al_(2)O_(3)フレーク)との混合比を10:1?1:10とすることによって、顕著な効果が奏されるとは認められないから、成分Aと成分Bとの比を10:1?1:10とすることは、当業者が通常の創作能力の範囲内で容易になし得たことといわざるを得ない(周知例1には、薄片状と解される雲母等を好ましくは3?50重量%、体積累積平均粒径が0.1?2μmのシリカ等の微粉末を好ましくは10?30重量%用いること(摘示周c)が記載され、両者の比は5:1?1:10(=50:10?3:30)であり本願発明の10:1?1:10の範囲と重複するものと解される。)。

そうすると、引用発明において、「針状または球状の化粧製剤用の着色剤として吸収材料及び充填剤を含む粒径0.001?20μmの成分B」を「成分Aと成分Bとを10:1?1:10の比で混合」するようにして含むものとすることは、当業者が刊行物2?4、周知例1に例示される周知技術に基づいて、容易になし得たことと認められる。

(イ)本願発明の効果について
本願明細書の発明の詳細な説明の、
「【0002】
…透明基材のために、高度の透明性および従って比較的低い隠蔽力を特徴とする。…
【0005】
驚くべきことに、前述の不利益を有さない顔料混合物が発見された。…
【0006】
着色剤を被覆Al_(2)O_(3)フレークと混合することにより、それらが用いられる系に多重増幅効果(mutiple flop)を与えることができ、着色効果が強化され、新しい着色効果が達成される。」との記載等からみて、本願発明は、透明基材における「低い隠蔽力の不利益を有さない」こと、及び、「多重増幅効果(mutiple flop)を与えることができ、着色効果が強化され、新しい着色効果が達成される」こと、等の効果を奏するものと認められる。
しかしながら、本願発明の詳細な説明の実施例(実施例4)の記載をみても、顔料混合物をアイシャドウにおいて用いた処方例を開示するに止まるものであって、隠蔽力についての効果の程度や、多重増幅効果(mutiple flop)による着色効果の程度は不明であり、本願発明の詳細な説明の記載全体をみても、本願発明において「低い隠蔽力の不利益を有さない」こと、及び、「多重増幅効果(mutiple flop)を与えることができ、着色効果が強化され、新しい着色効果が達成される」ことについて、顕著な効果が奏されることを当業者が技術的な合理性をもって認識できるように、技術的な裏付けをもって開示されているものとは認められない(なお、前記「1.(6)」の請求人の実施例1に係る主張についての記載も参照のこと。)。

なお、仮に、本願発明において、「低い隠蔽力の不利益を有さない」こと、及び、「多重増幅効果(mutiple flop)を与えることができ、着色効果が強化され、新しい着色効果が達成される」こと、等の効果が奏されるものがあったとしても、引用発明に係る顔料のような干渉色(摘示1c、1d)を有する真珠光沢顔料が、視角によって異なる色合いが見られる効果(すなわち、多重増幅効果(mutiple flop))を奏することは当業者が技術常識から予測し得たことであり、透明基材に着色した微粉末等の微粉末を用いれば隠蔽力が高まることも技術常識から当業者が予測し得たことといえ、斯かる本願発明の効果は、引用発明、刊行物2?4、周知例1に例示される周知技術及び技術常識から当業者が予測し得たものと認められる。

そうすると、本願発明によって、刊行物1に記載された技術的事項、刊行物2?4、周知例1に例示される周知技術及び技術常識から、当業者が予測し得ない顕著な効果が奏されるものとは認められない。

(4)特許法第29条第2項のまとめ
よって、上記相違点1に係る本願発明の構成の点は、当業者が刊行物2?4、周知例1に例示される周知技術に基づいて、容易になし得たものであり、本願発明によって当業者が予測し得ない顕著な効果が奏されるものとは認められないから、本願発明は、引用発明、刊行物1に記載された技術的事項及び刊行物2?4、周知例1に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-20 
結審通知日 2015-02-24 
審決日 2015-03-09 
出願番号 特願2008-71069(P2008-71069)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 美穂  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 松浦 新司
小川 慶子
発明の名称 顔料混合物の化粧製剤における使用  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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