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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1303408
審判番号 不服2013-17767  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-13 
確定日 2015-07-22 
事件の表示 特願2009-541713「ビタミンDおよびビスホスホン酸を含有する組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年6月26日国際公開、WO2008/074144、平成22年4月30日国内公表、特表2010-513328〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は、2007年12月19日(パリ条約による優先権主張 2006年12月20日(2件) カナダ)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年12月10日、同年12月16日及び平成22年10月25日にそれぞれ手続補正書が提出され、平成24年12月14日付けで拒絶理由が通知され、平成25年4月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月8日付けで拒絶査定され、同年9月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月2日付けで前置審査の結果が報告され、当審において、平成26年6月23日付けで審尋され、同年12月18日に回答書が提出されたものである。

2.本願に係る発明
本願の請求項1?15に係る発明は、平成25年9月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり^(*)、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「(a)ビスホスホン酸または薬学的に許容可能なその塩、
(b)ビタミンD化合物、
(c)密度が0.4g/ml以上である微結晶性セルロース、
(d)噴霧乾燥無水乳糖、および
(e)増量剤、希釈剤、バインダー、潤滑剤、崩壊剤および流動促進剤から選択される1つ以上の賦形剤、を含んでなり、
流動促進剤が、0?0.5%w/wの濃度で存在する、医薬組成物。」
^(*) なお、請求項1には「潤滑剤崩壊剤」と記載されているところ、「潤滑剤、崩壊剤」の明らかな誤記として、上記のとおり認定する。

3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、「平成24年12月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由2」であるところ、これは、概略次のとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
……
引用文献等一覧
1.特表2005-531532号公報
2.国際公開第2005/117906号
3.米国特許出願公開第2005/261250号明細書
4.特表2005-513099号公報
5.特表2006-514695号公報
6.米国特許出願公開第2005/169985号明細書」

4.当審の判断
(1)引用文献の記載
原査定において引用された文献2である国際公開第2005/117906号及び文献3である米国特許出願公開第2005/0261250号明細書は、本願出願前に日本国内又は外国において頒布されたもの又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、次の事項が記載されている(両文献は同内容である。)。なお、文献2及び3は英語で記載されているところ、以下の摘示はその翻訳文である。
ア.「医薬組成物であって、以下のものからなる:
ビスホスホネート、ビスホスホネートの薬学的に許容可能な塩、誘導体若しくは水和物、又はそれらの混合物;及びビタミンD化合物。」(文献2の68頁のCLAIM 1;文献3の32頁左欄下方のclaim 1)

イ.「例えば、錠剤、カプセル、丸薬又は粉剤の剤形での経口投与用に、活性成分は、乳糖、澱粉、ショ糖、ブドウ糖、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトール、クロスカルメロースナトリウムなどの経口用で非毒性の薬学的に許容可能な不活性担体と組み合わせられうる;……。さらに、希望し又は必要なら、適切な結合剤、充填剤、希釈剤、滑沢剤、圧縮助剤、崩壊剤、緩衝剤、被覆剤及び着色剤も組み入れられうる。好適な結合剤には、これらに限られるものではないが、デンプン、ゼラチン、ブドウ糖、無水乳糖、自由流動性乳糖、β-乳糖及びコーン甘味料のような天然糖類、アカシア、グァー、トラガント又はアルギン酸ナトリウムのような天然及び合成ガム類、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス類などを含みうる。これらの剤形で使用される滑沢剤には、これらに限られるものではないが、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが含みうる。好適な崩壊剤は、クロスカルメロースナトリウムを含む改質澱粉又は改質セルロースの1つでありうる。圧縮助剤と使用されうる希釈剤には、これらに限られるものではないが、乳糖、リン酸二カルシウム、セルロース、微結晶セルロースなどを含む。粉末混合物の流動性を改善する流動化剤も本発明で利用されうる。流動化剤の例としては、これらに限られるものではないが、コロイド状二酸化ケイ素、タルクなどを含む。本方法で使用される組成物は、標的化医薬担体として水溶性ポリマーも組み合わせうる。そのようなポリマーには、これらに限られるものではないが、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシルプロピルメタクリルアミドなどを含みうる。」(文献2の18頁26行?19頁11行;文献3段落0086)

ウ.「本発明の実施形態は、例えば、約0.5重量%?約90重量%のアレンドロン酸ナトリウム、約1重量%?約70重量%のコレカルシフェロール顆粒(約0.0005重量%?約20重量%のコレカルシフェロールに相当)、約10重量%?約80重量%の無水乳糖、約5重量%?約50重量%の微結晶性セルロース、約0.1重量%?約5重量%のコロイド状二酸化ケイ素、約0.5重量%?約10重量%のクロスカルメロースナトリウム及び約0.5重量%?約5重量%のステアリン酸マグネシウムを含む80mg?1500mgの錠剤である。」(文献2の19頁13?18行;文献3段落0087)

エ.「例1
ビスホスホネート及びビタミンD錠剤
最終的な薬剤製品は、表1-1で特定される成分とともに、アレンドロン酸ナトリウム(等価の無水遊離酸として約70mg)及びビタミンD_(3)(約2800I.U.(約70μg))を含む組み合わせ錠剤である。すべての賦形剤は公定書記載のものであり、物理的及び化学的に最大限安定になるように選択された。
表1-1
錠剤組成物
アレンドロン酸ナトリウム70mg/
ビタミンD_(3) 2800I.U.錠剤
成分 mg/錠 重量%
アレンドロン酸ナトリウム 91.37 28.1%
乾燥ビタミンD_(3) 100顆粒 26.67 8.2%
微結晶セルロース NF 131.0 40.3%
無水乳糖 NF 62.35 19.2%
クロスカルメロースナトリウム NF 9.740 3.0%
コロイド状二酸化ケイ素 NF 0.8120 0.25%
ステアリン酸マグネシウム NF 3.0870 0.95%
合計 325 100%
」(文献2の35?36頁;文献3段落0140?0141)

オ.「例2
ビスホスホネート及びビタミンD組成物
ビスホスホネート及びビタミンDを含む組成物を、本明細書中に記載の混合及び調合技術を用いて調製しうる。約35mgのアレンドロン酸塩(アレンドロン酸活性物基準)及び約5,600IUのビタミンD_(3)を含有する組成物を、以下の相対重量の成分を用いて調製しうる。
成分 1錠当たり
アレンドロン酸一ナトリウム三水和物 45.68mg
乾燥ビタミンD_(3) 100顆粒 56mg^(*)
無水乳糖,NF 71.32mg
微結晶セルロース,NF 80.0mg
ステアリン酸マグネシウム,NF 1.0mg
クロスカルメロースナトリウム,NF 2.0mg
^(*)顆粒は1g当たり約100,000IU含む;それゆえ56mgの顆粒は約5600IUに相当する。」(文献2の36頁;文献3段落0143?0144)

(2)引用文献に記載された発明
文献2及び3には、摘示ア及びエからみて、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「アレンドロン酸ナトリウム、乾燥ビタミンD_(3) 100顆粒、微結晶セルロース、無水乳糖、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム及びコロイド状二酸化ケイ素(0.25重量%)からなる医薬組成物」

また、文献2及び3には、摘示ア及びオからみて、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「アレンドロン酸一ナトリウム三水和物、ビタミンD_(3) 100顆粒、無水乳糖、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム及びステアリン酸マグネシウムからなる医薬組成物」

(3)対比
ア.引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「アレンドロン酸ナトリウム」及び「乾燥ビタミンD_(3) 100顆粒」は、それぞれ本願発明の「(a)ビスホスホン酸または薬学的に許容可能なその塩」及び「(b)ビタミンD化合物」に相当する。
引用発明1の「微結晶セルロース」は、本願発明の(c)の「微結晶性セルロース」に相当する。
引用発明1の「クロスカルメロースナトリウム」は、崩壊剤として周知のものであり(摘示イも参照)、本願発明の(e)の「崩壊剤」に相当する。
引用発明1の「ステアリン酸マグネシウム」は、滑沢剤(潤滑剤と同義)として周知のものであり(摘示イや本願明細書段落0038も参照)、本願発明の(e)の「潤滑剤」に相当する。
引用発明1の「コロイド状二酸化ケイ素」は粉末の流動性を改善する流動化剤として使用されるもの(摘示イ)であって、本願明細書段落0008や0017の記載からみて、本願発明の(e)の「流動促進剤」に相当し、また、その含有量(濃度)は0.25重量%であるから、本願発明で特定する範囲(0?0.5%w/w)に包含される。
そうすると、本願発明と引用発明1とは、
「(a)ビスホスホン酸または薬学的に許容可能なその塩、
(b)ビタミンD化合物、
(c)微結晶性セルロース、
(d)無水乳糖、および
(e)増量剤、希釈剤、バインダー、潤滑剤、崩壊剤および流動促進剤から選択される1つ以上の賦形剤、を含んでなり、
流動促進剤が、0?0.5%w/wの濃度で存在する、医薬組成物。」
の点で一致し、次の点で相違する。
相違点1-1:
(c)の「微結晶性セルロース」に関し、本願発明では「密度が0.4g/ml以上」と特定されているが、引用発明1では密度について特定していない点
相違点2-1:
(d)の「無水乳糖」に関し、本願発明では「噴霧乾燥」物であることが特定されているが、引用発明1ではそのような特定はされていない点

イ.引用発明2との対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「アレンドロン酸ナトリウム一ナトリウム三水和物」及び「乾燥ビタミンD_(3) 100顆粒」は、それぞれ本願発明の「(a)ビスホスホン酸または薬学的に許容可能なその塩」及び「(b)ビタミンD化合物」に相当する。
引用発明2の「微結晶セルロース」は、本願発明の(c)の「微結晶性セルロース」に相当する。
引用発明2の「クロスカルメロースナトリウム」及び「ステアリン酸マグネシウム」は、上記したとおり、それぞれ本願発明の(e)の「崩壊剤」及び「潤滑剤」に相当する。
そして、引用発明2は流動促進剤を含んでいない、すなわち含有量(濃度)は0%w/wである。
そうすると、本願発明と引用発明2とは、
「(a)ビスホスホン酸または薬学的に許容可能なその塩、
(b)ビタミンD化合物、
(c)微結晶性セルロース、
(d)無水乳糖、および
(e)増量剤、希釈剤、バインダー、潤滑剤、崩壊剤および流動促進剤から選択される1つ以上の賦形剤、を含んでなり、
流動促進剤が、0?0.5%w/wの濃度で存在する、医薬組成物。」
の点で一致し、次の点で相違する。
相違点1-2:
(c)の「微結晶性セルロース」に関し、本願発明では「密度が0.4g/ml以上」と特定されているが、引用発明2では密度について特定していない点
相違点2-2:
(d)の「無水乳糖」に関し、本願発明では「噴霧乾燥」物であることが特定されているが、引用発明2ではそのように特定はされていない点

(4)判断
上記相違点1-1は上記相違点1-2と同じものであり、また、上記相違点2-1は上記相違点2-2と同じものであるから、併せて判断する。
ア.相違点1-1及び相違点1-2について
本願明細書には、
「本発明の組成物で使用される微結晶性セルロースは、好ましくは高密度形態である。例えば、使用される微結晶性セルロースの密度は、0.45g/mlなど、0.4g/ml以上である。」(段落0034)
と記載され、さらに、
「特に好ましい本発明の実施態様は、……、微結晶性セルロース(アビセル(Avicel)302等級)、……を含んでなる上述のような組成物を提供する。」(段落0017)
「微結晶性セルロース(例えば、アビセル(Avicel)302)」(段落0018)
「高密度等級の微結晶性セルロース(MCC)」(段落0026)
「高密度微結晶性セルロース(アビセル(Avicel)302)」(段落0050及び0055)
「微結晶性のセルロースPH302」(段落0052及び0057)
「微結晶性セルロース(NF PH302)」(段落0056の表2)
と記載されていることからみて、「アビセル(Avicel)302」あるいは「PH302」であれば、「密度が0.4g/ml以上である微結晶性セルロース」であると解される。
ところで、「微結晶性セルロース」は医薬品製剤の賦形剤として周知のものであり、種々のグレードのものが知られている。例えば、原査定で引用された文献4である特表2005-513099号公報にも、「配合流動を改善しうる遊離流動希釈剤」として、「(Avicel PH302, FMC Biopolymer, Philadelphia, PA,……の如き)高密度微晶質セルロース」(段落0070)と記載されているとおり、高密度微結晶性セルロース(Avicel PH302であるから、上記したとおり密度が0.4g/ml以上である。)もよく知られているものである。この周知性については、本願明細書の実施例2の表2(段落0056)に、「微結晶性セルロース(NF PH302)」というように「NF」と示され、米国の公定書に記載されているものであることからも明らかである。
ここで、引用発明1及び2はいずれも「微結晶セルロース」と特定されているのみであり、文献2及び3には他に「微結晶セルロース」を限定すべき記載はなく、したがって、「高密度の微結晶性セルロース」を使用できないとする阻害要因はないものといえる。
そうすると、引用発明1及び2において、微結晶セルロースとして周知の高密度(0.4g/ml以上の)微結晶性セルロース(例えばAvicel PH302)を採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

イ.相違点2-1及び相違点2-2について
「無水乳糖」も医薬品製剤の賦形剤として周知のものであり、例えば、上記文献4にも、「ラクトース(一水和物、スプレイ乾燥一水和物、無水物等)」(段落0070:なお、「ラクトース」は「乳糖」のことである。)と記載されているとおりである。
そして、無水乳糖は乳糖水溶液を乾燥して製造されるものであるところ、その乾燥方法として噴霧乾燥は周知のことである。(例えば、上記文献4の段落0070には、ラクトース(乳糖)一水和物であるが、スプレイ乾燥(噴霧乾燥)されたものが記載されている。)
そうすると、無水乳糖として、噴霧乾燥したものも当業者が容易に採用し得るものといえる。
なお、本願に係る国際公開第2008/074144号の例1(本願の国内書面とともに提出された翻訳文参照)には、「Spray Dried Lactose Anydrous(噴霧乾燥無水乳糖)」(12頁7行:段落0050)及び「Lactose Anydrous Spray Dried(噴霧乾燥無水乳糖)」(12頁の表:段落0051)(なおいずれも「Anydrous」は「Anhydrous」の誤記である。)というように「噴霧乾燥無水乳糖」と記載しているが、その製造方法においては、「Lactose Anhydrous NF(無水乳糖NF)」(12頁下から8行:段落0052)と記載されているように、「噴霧乾燥無水乳糖」は「NF」、すなわち米国の公定書に「無水乳糖」として記載されているものと解され、この点からも周知のものといえる。〔仮に「噴霧乾燥無水乳糖」が周知のものでなく、「噴霧乾燥無水乳糖」を当業者が容易に製造又は入手することができないものであるとすると、本願明細書で使用する「噴霧乾燥無水乳糖」を当業者がどのようにして入手すればよいのか不明となることにも注意されたい。〕

ウ.効果について
本願明細書においては、本願発明の効果として、
「このような組成物の利点は、微結晶性セルロース(例えば、アビセル(Avicel)302)および無水乳糖(例えば噴霧乾燥)を使用すると、流動性の改善と同時に、ビスホスホン酸に通常付随する粘性の問題が意外にも克服されるように見えることである。このような組成物は、調製品の硬度または溶解時間(DT)を十分低くまたは短くして、脆砕性の問題を解消し、組成物の加工中における破砕や排出不良を防止することができる。」(段落0018)
「本発明は、活性医薬品成分(API)、またはその塩、エステル、および溶媒和化合物をはじめとする薬学的に許容可能なその誘導体を含有する医薬組成物の調製に関し、該組成物は流動促進剤を含まないか、或いは低濃度(すなわち0.5重量%以下)の流動促進剤のみを含むが、経口剤形等へのさらなる加工を可能にするのに十分なレベルの脆砕性、流動性、硬度およびDTを維持する。かかる組成物は加工中に砕け散らず、適切に排出される。
意外にも本発明者らは、本発明の医薬組成物の調製で使用される混合物の流動特性を向上または増大させるのに、高濃度の賦形剤が必要でないことを発見した。改良組成物を使用することで、流動促進剤などの「流動性改善」特殊賦形剤に対する要求はもはや必要でなく、または低濃度で含めることができる。高密度等級の微結晶性セルロース(MCC)および噴霧乾燥無水乳糖などの代案の賦形剤の組み合わせは、意外にも混合物の流動性を改善して、加工中に圧縮の問題をもたらさなかった。」(段落0025?0026)
と記載されているが、以下の理由により、このような効果は客観的に確認できないものである。
(ア)実施例1において、「下述の組成物は、噴霧乾燥無水乳糖と高密度微結晶性セルロース(アビセル(Avicel)302)との組み合わせが、意外にも流動促進剤がもはや必要でない程度に十分な流動性をもたらしたことを特徴とする。」(段落0050)及び実施例2において、「下述の組成物は、高密度噴霧乾燥無水乳糖と高密度微結晶性セルロース(アビセル(Avicel)302)との組み合わせが予想外の流動性増大をもたらしたことを特徴とする。」(段落0055)と記載されているが、具体的なデータが示されていない。
なお、本願明細書には「医薬品の調製は、特許文献8のように、限定されるものではないが、コロイド二酸化ケイ素、滑石などの、加工中に粉末混合物の流動特性を改善する「流動促進剤」を必要とすることが知られている。通常流動促進剤の含有量は、組成物の0.5?5.0%である。」(段落0008)と記載されているが、この特許文献8は上記文献2であるところ、上記文献2には、流動性の改善のために添加する流動化剤(流動促進剤)としての「コロイド状二酸化ケイ素」(摘示イ)を、錠剤中に、例えば、「約0.1重量%?約5重量%」(摘示ウ)含むことや、例1(摘示エ)ではコロイド状二酸化ケイ素を0.25重量%含み、例2(摘示オ)はコロイド状二酸化ケイ素を含まないものであるから、この程度の流動化剤(流動促進剤)の量で流動性に格別問題はないものと解される。したがって、「通常流動促進剤の含有量は、組成物の0.5?5.0%である」との点に基づく効果の主張は適切ではない。

(イ)実施例1において、「得られた錠剤の溶解時間を測定して、市販のアレンドロネート/ビタミンD剤の錠剤(フォサマックス(Fosamax)D)の溶解時間と比較した。……。図1に示す結果は、本発明の錠剤と市販の錠剤の溶解プロフィール間に本質的に違いがないことを実証する。さらに、……米国医薬品評価センター(CDER)によって……規定されるようにして溶解プロフィールを比較した。本研究では、類似係数f_(2)は54.9と計算された。50<f_(2)<100であれば溶解プロフィーは、同様であると見なされる。」(段落0053?0054)及び実施例2において、「得られた錠剤の溶解時間を測定して、市販のアレンドロネート/ビタミンD剤の錠剤(フォサマックス(Fosamax)D)の溶解時間と比較した。……。図2に示す結果は、本発明の錠剤と市販の錠剤の溶解プロフィール間に本質的に違いがないことを実証する。本研究では、類似係数f_(2)は62.3と計算された。50<f_(2)<100であれば溶解プロフィールは、同様であると見なされる。」(段落0058?0059)と記載されているが、「市販のアレンドロネート/ビタミンD剤の錠剤(フォサマックス(Fosamax)D)」が具体的にどのような組成のものであるか明らかではないので、何に対する効果を確認しているのか不明である。
なお、図1の下部には、「フォサマックス(Fosamax)Dに対比するものとして「潤滑剤を含まない組成物」が、図2の下部には同じく「低濃度の潤滑剤を含む組成物」と記載されていることから(ここで「潤滑剤」は「流動促進剤」の誤訳と解される。)、仮に、「市販のアレンドロネート/ビタミンD剤の錠剤(フォサマックス(Fosamax)D)」は、「通常流動促進剤の含有量は、組成物の0.5?5.0%である。」(段落0008)に対応するものであるとすると、「流動促進剤」の含有量については引用発明1又は2との相違点ではないので、その効果は引用発明1や2と対比した際の有利な効果を示すものではない。
そして、実施例1及び2の効果は、結局のところ、市販品と同等の溶解性を示すものにすぎず、「賦形剤により潤滑性または流動性を改善しようとした場合、遅い溶解プロフィール……の問題が起こる」(段落0008)という問題点を解決して、「溶解時間(DT)を十分……短く」(段落0018)することを示すものではない。

(ウ)本願発明は、崩壊剤として含有させる微結晶性セルロースとして特に高密度形態(密度が0.4g/ml以上)の微結晶性セルロースを選択し、増量剤として組み込まれる乳糖として特に噴霧乾燥無水乳糖を選択したものであると解されるところ(段落0034及び0035)、本願明細書の「微結晶性セルロース(例えば、アビセル(Avicel)302)および無水乳糖(例えば噴霧乾燥)」(段落0018)及び「組成物に乳糖が含まれる場合、それは好ましくは噴霧乾燥乳糖、無水乳糖または噴霧乾燥無水乳糖である。」(段落0035)との記載からみて、「(c)密度が0.4g/ml以上の微結晶性セルロース」や「(d)噴霧乾燥無水乳糖」は、「微結晶性セルロース」や「(無水)乳糖」の例示又は一態様にすぎず、これらを選択して組み合わせた場合に格別な効果を奏することについては、本願明細書には何ら記載されていない。

(5)まとめ
本願発明は、当業者が、文献2又は3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
上記したとおりであるから、本願は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は原査定の拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-17 
結審通知日 2015-02-24 
審決日 2015-03-09 
出願番号 特願2009-541713(P2009-541713)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
関 美祝
発明の名称 ビタミンDおよびビスホスホン酸を含有する組成物  
代理人 鷲田 公一  

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