• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1303410
審判番号 不服2013-20865  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-25 
確定日 2015-07-22 
事件の表示 特願2009-517290「低屈折率層および高屈折率層の厚み比率が最適化されている耐熱性反射防止被覆を有する光学物品」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月 3日国際公開、WO2008/000841、平成21年11月26日国内公表、特表2009-541808〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2007年6月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年6月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年5月7日に手続補正がなされ、同年6月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

2 本願発明
平成25年10月25日になされた特許請求の範囲の補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項12ないし15を削除し、請求項16以降の請求項の項番号を繰り上げ、また、本件補正後の請求項18が本件補正後の請求項17を引用するように誤記を訂正したものであり、適法な補正である。
したがって、本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成25年10月25日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「反射防止特性を有する光学物品で、少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層のスタックから構成される多層構造の反射防止被覆を塗工された少なくとも1つの主表面を有する基材から構成され、反射防止被覆の少なくとも1つの低屈折率層はSiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の混合物を含み、ここに:
‐ 各々の低屈折率層の屈折率が1.55以下であり、
‐ 各々の高屈折率層の屈折率が1.55を超えかつ五酸化ニオブ(Nb_(2)O_(5))を含まず、
‐光学物品の前記塗工主面の平均視感反射率はR_(V)≦1%であり、および:
(a)前記被覆の最外側層の下の反射防止被覆の低屈折率層は各々<100nmの物理的厚みであり、次の比率
【数1】

が2.1より高く、かつ反射防止被覆がニオブ(Nb)から構成される副層を含まず、または:
(b)反射防止被覆は次のものを含む:
‐ ≧100nmの物理的厚みを有しそれが反射防止被覆の最外側層ではない少なくとも1つの低屈折率層、および
‐ ≧100nmの物理的厚みを有しかつ基材から最も遠い反射防止被覆の最外側層ではない低屈折率層の上に位置する、少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層、さらに比率
【数2】

が2.1より高い。ただし前記R_(T)の計算に考慮される反射防止被覆の層は≧100nmの物理的厚みを有しかつ基材から最も遠い反射防止被覆の最外側層ではない低屈折率層の上に位置する層のみであるという条件付であり、さらに反射防止被覆がニオブ(Nb)から構成される副層を含まないことが好ましい。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
(1)特開2003-195003号公報の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-195003号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同様。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 硫黄を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂上に形成されたプライマー層と、該プライマー層上に形成されたハードコート層を設けたプラスチックレンズにおいて、前記プライマー層が少なくとも下記の成分(A),(B)を主成分とすることを特徴とするコーティング用組成物からなり、さらに前記ハードコート層が少なくとも下記の成分(B),(C)および(D)を主成分とすることを特徴とするコーティング用組成物からなることを特徴とするプラスチックレンズ。
(A).ポリエステル系樹脂
(B).粒径1?100ミリミクロンのAl,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる1種以上の金属酸化物からなる微粒子および/またはSi,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる2種以上の金属酸化物から構成される複合微粒子
(C).一般式
【化1】

で表される有機ケイ素化合物 (式中、R^(1) は重合可能な反応基を有する有機基、R^(2) は炭素数1?6の炭化水素基である。X^(1) は加水分解性基であり、nは0または1である。)
(D).Fe(III)を中心金属原子とするアセチルアセトネ-ト
【請求項2】 請求項1に記載のプラスチックレンズにおいて、さらに低屈折率層と高屈折率層を交互に積層して7層からなる反射防止膜を積層したことを特徴とするプラスチックレンズ。前記反射防止膜は設計主波長λ_(0)を480nm以上560nm以下の範囲に持ち、低屈折率層はSiO_(2)層によって構成され、高屈折率層はTiO_(2)層によって構成され、最も基材側にある層を第1層として順に層番号をつけて最外層を第7層として、各層の設計主波長における屈折率をnk(kは各層番号)、光学的膜厚をλk(kは各層番号)とした場合、各層の屈折率は
1.43≦n1,n3,n5,n7≦1.48
2.24≦n2,n4,n6≦2.45
の関係にあり、各層の光学的膜厚はλ_(0)を設計主波長としたとき、
0.05λ_(0)≦λ_(1)≦0.10λ_(0)
0.05λ_(0)≦λ_(2)≦0.09λ_(0)
0.08λ_(0)≦λ_(3)≦0.11λ_(0)
0.14λ_(0)≦λ_(4)≦0.24λ_(0)
0.04λ_(0)≦λ_(5)≦0.09λ_(0)
0.11λ_(0)≦λ_(6)≦0.18λ_(0)
0.24λ_(0)≦λ_(7)≦0.29λ_(0)
の関係にある反射防止膜を有することを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズ。」

イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】高屈折率のプラスチックレンズ基材としては、チオウレタン樹脂(屈折率1.60以上)、チオエポキシ樹脂(屈折率1.70以上)等が挙げられるが、これらは分子内に硫黄を含有させることで、屈折率を上げている。これら硫黄を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂は一般に耐候性に劣り、時間の経過とともにレンズ基材が黄変したり、また表面処理層の密着性が低下し、表面処理層がはがれ、外観上好ましくない状態になりやすい。その為、本発明は各種品質(外観、耐擦傷性、耐熱性、耐湿性、耐衝撃性、耐候性、レンズ基材と表面処理層との密着性、耐久性等)の優れたプラスチックレンズ、特に耐候性、密着性の優れたプラスチックレンズを提供することを目的としてなされたものである。」

ウ 「【0015】
【発明の実施の形態】実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】(実施例1)
(1)プライマー用組成物の調製および塗布硬化
市販のポリエステル樹脂…「ペスレジンA-160P」(高松油脂株式会社、水分散エマルション、固形分濃度27%)100部に、酸化チタン系複合微粒子は「オプトレイク1130F-2(A-8)」(触媒化成工業株式会社製、Fe_(2) O_(3) /TiO_(2 )=0.02、SiO_(2) /TiO_(2) =0.11、粒径:10mμ、固形分濃度:30%、分散溶媒:メチルアルコール、表面処理:テトラエトキシシラン)84部、希釈溶剤としてメチルアルコール640部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWET L-77」)1部を混合し、均一な状態になるまで攪拌し、これをプライマー用組成物とした。このプライマー組成物を、チオウレタン樹脂のプラスチックレンズ基材(屈折率1.67のセイコースーパーソブリン(セイコーエプソン株式会社製))上に浸漬法(引き上げ速度20cm/min)にて塗布した。塗布したレンズ基材は100℃で15分間加熱硬化処理して基材上に0.8μmのプライマー層を形成させた。
【0017】(2)ハードコート用組成物の調製および塗布硬化
ブチルセロソルブ144部、メタノール分散二酸化チタン-二酸化ジルコニウム-二酸化ケイ素複合微粒子ゾル(触媒化成工業(株)製、固形分濃度20重量%)603部、を混合した後、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン170部を混合した。この混合液に0.05N塩酸水溶液60部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後一昼夜熟成させた後、Fe(III)アセチルアセトネート0.2部、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「L-7001」)0.3部を添加し4時間撹拌後一昼夜熟成させて塗液とした。
【0018】この組成物を(1)で得られたプライマー層を形成したプラスチックレンズ基材上に浸漬法(引き上げ速度20cm/min)にて塗布した塗布したプラスチックレンズ基材は120℃で120分間加熱硬化処理して基材上に膜厚2.1μmのハードコート層を形成させた。引き上げ速度は、18cm/minとした。塗布後80℃で20分間風乾した後130℃で120分間焼成を行なった。
【0019】(3)反射防止膜の形成
(2)で得られたプライマー層とハードコート層を形成したプラスチックレンズ基材上に反射防止膜を構築した。SiO_(2)層の成膜は、真空蒸着法(真空度2.0×10^(-4)Pa)で行った。TiO_(2)層の成膜は、イオンアシスト蒸着法(真空度4.0×10^(-3)Pa)で行った。TiO_(2)層をイオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧520V、加速電流値270mAで、真空度は酸素を導入して4.0×10^(-3)Paで保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.083λ_(0)の光学膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.45)、第2層は0.070λ_(0)の光学膜厚を持つTiO_(2)層(屈折率2.36)、第3層は0.10λ_(0)の光学膜厚を持つSiO_(2)層、第4層は0.18λ_(0)の光学膜厚を持つTiO_(2)層、第5層は0.065λ_(0)の光学膜厚を持つSiO_(2)層、第6層は0.14λ_(0)の光学膜厚を持つTiO_(2)層、第7層は0.26λ_(0)の光学膜厚を持つSiO_(2)層を順次積層してなる反射防止膜を構築した。
・・・(以下略)・・・」

エ 上記アないしウの記載からみて、引用例1には、
「外観、耐擦傷性、耐熱性、耐湿性、耐衝撃性、耐候性、レンズ基材と表面処理層との密着性、耐久性等の各種品質、特に耐候性、密着性の優れたプラスチックレンズを提供することを目的とし、
硫黄を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂上に形成されたプライマー層と、該プライマー層上に形成されたハードコート層を設け、さらに低屈折率層と高屈折率層を交互に積層して7層からなる反射防止膜を積層したプラスチックレンズであって、
前記反射防止膜は、
設計主波長λ_(0)を480nm以上560nm以下の範囲に持ち、
低屈折率層はSiO_(2)層によって構成され、
高屈折率層はTiO_(2)層によって構成され、
最も基材側にある層を第1層として順に層番号をつけて最外層を第7層として、各層の設計主波長における屈折率をnk(kは各層番号)、光学的膜厚をλk(kは各層番号)とした場合、各層の屈折率は、
1.43≦n1,n3,n5,n7≦1.48
2.24≦n2,n4,n6≦2.45
の関係にあり、
各層の光学的膜厚はλ_(0)を設計主波長としたとき、
0.05λ_(0)≦λ_(1)≦0.10λ_(0)
0.05λ_(0)≦λ_(2)≦0.09λ_(0)
0.08λ_(0)≦λ_(3)≦0.11λ_(0)
0.14λ_(0)≦λ_(4)≦0.24λ_(0)
0.04λ_(0)≦λ_(5)≦0.09λ_(0)
0.11λ_(0)≦λ_(6)≦0.18λ_(0)
0.24λ_(0)≦λ_(7)≦0.29λ_(0)
の関係にあり、
具体例として、
プライマー組成物を屈折率1.67のチオウレタン樹脂のプラスチックレンズ基材上に浸漬法にて塗布し、塗布したプラスチックレンズ基材を100℃で15分間加熱硬化処理して基材上に0.8μmのプライマー層を形成し、
プライマー層を形成したプラスチックレンズ基材上にハードコート用組成物を浸漬法にて塗布し、塗布したプラスチックレンズ基材を120℃で120分間加熱硬化処理して基材上に膜厚2.1μmのハードコート層を形成し、
プライマー層とハードコート層を形成したプラスチックレンズ基材上にSiO_(2)層(屈折率1.45)を真空蒸着法で成膜し、TiO_(2)層(屈折率2.36)をイオンアシスト蒸着法で成膜して7層からなる反射防止膜を構築し、各層の光学的膜厚を
λ_(1)=0.083λ_(0)
λ_(2)=0.070λ_(0)
λ_(3)=0.10λ_(0)
λ_(4)=0.18λ_(0)
λ_(5)=0.065λ_(0)
λ_(6)=0.14λ_(0)
λ_(7)=0.26λ_(0)
とした、
反射防止膜を有する眼鏡用プラスチックレンズ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)国際公開第2005/059603号の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2005/059603号(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「REVENDICATIONS
1. Article d'optique comprenant un substrat transparent en verre organique ou mine´ral, ayant des faces principales avant et arrie`re, l'une au moins desdites faces principales comportant un reve^tement anti-reflets multicouches, caracte´rise´ en ce que ledit reve^tement anti-reflets comprend au moins deux couches, absorbant dans le visible et comprenant un oxyde de titane sous-stoechiome´trique, les couches absorbant dans le visible e´tant telles que le facteur relatif de transmission de la lumie`re visible Tv est re´duit d'au moins 10 %, de pre´fe´rence d'au moins 40 %, et mieux encore d'au moins 80 %, par rapport au me^me article ne comportant pas lesdites couches absorbant dans le visible.」(14頁3?12行)
(審決注:便宜的に、原文(フランス語)の「accent aigu(アクサンテギュ)」は「e´」のように表記し、「accent grave(アクサングラーブ)」は「e`」のように表記し、「accent circonflexe(アクサンシルコンフレクス)」は「e^」のように表記した。以下同じ。)
日本語訳(引用例2の日本語ファミリである特表2007-520738号公報を参考に当審が翻訳。なお、括弧書き(【】)は、特表2007-520738号公報の対応する段落を表している。以下同じ。):
「特許請求の範囲
1.有機又は無機ガラスでできた透明基質を有し、主要面と裏面を持ち、前記主要面の少なくとも一つが多層抗反射コーティングを有し、そこでは前記抗反射コーティングが不足当量酸化チタンを含む少なくとも二つの可視光吸収層を含み、その可視光吸収層において、可視光吸収層を含まない同様のものと比較して可視光の相対透過特性Tvが10%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは80%以上減少している光学体。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)

イ 「3. Article selon la revendication 1 ou 2, caracte´rise´ en ce que le substrat est en verre organique.」(14頁17?18行)
日本語訳:
「3.基質が有機ガラスよりなる請求項1、または2に記載の光学体。」(【請求項3】)

ウ 「5. Article selon l'une quelconque des revendications pre´ce´dentes, caracte´rise´ en ce que le reve^tement anti-reflets forme´ sur l'une au moins des faces du substrat comprend un empilement de couches alterne´es de haut indice (HI) de re´fraction et de bas indice de re´fraction (BI) dans lequel :
- l'une au moins des couches absorbant dans le visible est une couche haut indice (HI) comprenant un oxyde de titane sous- stoechiome´trique, et
- l'une au moins des couches de bas indice (BI) comprend un me´lange d'oxyde de silicium et d'oxyde d'aluminium.」(14頁21?29行)
日本語訳:
「5.少なくとも一つの基質表面に形成された抗反射コーティングが選択的に高屈折率(HI)及び低屈折率(LI)層の積層状態を含み、そこでは:
-少なくとも一つの可視光吸収層が不足当量酸化チタンを含む高屈折率(HI)層で、
-少なくとも一つの低屈折率(LI)層が酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物を含む、
請求項1?4のいずれかに記載の光学体。」(【請求項5】)
(審決注:「haut indice de re´fraction」及び「haut indice」を英語表記すると「high refractive index」及び「high index」となり、その略号は仏語、英語のいずれでも「HI」となることから、「高屈折率(HI)」と訳したが、「bas indice de re´fraction」及び「bas indice」は、英語表記すると「low refractive index」及び「low index」となり、我が国では、その略号として仏語に基づく「BI」よりも英語に基づく「LI」の方がより一般的であることから、「低屈折率(LI)」と訳した。以下同じ。)

エ 「L'invention a donc pour objet de fournir un article d'optique, notamment un verre ophtalmique, colore´ reme´diant aux inconve´nients de l'art ante´rieur ainsi qu'un proce´de´ de fabrication d'un tel article.
L'invention a encore pour objet de fournir un article tel que de´fini ci- dessus comportant sur au moins une de ses faces principales, de pre´fe´rence sa face concave arrie`re, un reve^tement anti-reflets absorbant dans le visible, pre´sentant une coloration homoge`ne, stable dans le temps et re´sistant aux UV.
L'invention a e´galement pour objet de fournir un proce´de´ de de´po^t d'un reve^tement anti-reflets tel que de´fini ci-dessus par e´vaporation sous vide, sans chauffage du substrat.
Selon l'invention, l'article d'optique comprend un substrat transparent en verre organique ou mine´ral ayant des faces principales avant et arrie`re, l'une au moins desdites faces principales comportant un reve^tement antireflets multi-couches, pre´sentant une coloration homoge`ne, stable dans le temps et re´sistant aux UV, caracte´rise´ en ce que ledit reve^tement anti-reflets comprend au moins deux couches comprenant un oxyde de titane sous- stoechiome´trique, absorbant dans le visible et diminuant le facteur de transmission (Tv) de l'article dans le visible d'au moins 10 %, de pre´fe´rence d'au moins 40 %, et mieux encore d'au moins 80 %, par rapport au me^me article d'optique non reve^tu du reve^tement anti-reflets selon l'invention.」(2頁17行?3頁2行)
日本語訳:
「本発明の目的は、先行技術の欠点を克服した光学体、特に、色付き眼レンズのような光学体、及びその製造方法を提供することである。
本発明の更なる目的は、少なくとも主要面の一方に、好ましくは凹部裏面に、可視光吸収性抗反射コーティングで、均一な発色を示し、経時的に安定で抗紫外線である本明細書で定義される光学体を提供することである。
本発明の更なる目的は、基質を過熱することなしに、例えば上記で定義したような、真空蒸発によって抗反射コーティングを蒸着するための方法を提供することである。
本発明の光学体は、主要前面及び裏面を有する有機、またはミネラル材を原料とする透明基質からなり、前記主要面の少なくとも一方に多層、抗反射コーティングを有し、均一な発色を示し、それは経時的に安定で、抗紫外線であり、そこでは前記抗反射コーティングは不足当量酸化チタンを有する少なくとも二層を含み、可視光領域に吸収を持ち、本発明の抗反射コーティングで被覆されていない同様の光学体と比較して、10%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは80%以上、可視光領域において光学体の透過特性(Tv)が減少する。」(【0009】、【0010】)

オ 「Selon un mode de re´alisation particulie`rement avantageux de la pre´sente invention, le reve^tement anti-reflets forme´ sur l'une au moins des faces du substrat comprend un empilement de couches alterne´es de haut indice (HI) et de bas indice (BI), dans lequel :
- l'une au moins des couches de haut indice de re´fraction (HI) est constitue´e d'une couche absorbant dans le visible comprenant un oxyde de titane sous-stoechiome´trique, et
- l'une au moins des couches de bas indice de re´fraction (BI) comprend un me´lange d'oxyde de silicium (SiO_(2)) et d'oxyde d'aluminium (Al_(2)O_(3)).
Dans un tel mode de re´alisation, l'une au moins des couches absorbantes a` base d'oxyde de titane sous-stoechiome´trique est une couche de haut indice de re´fraction (HI), tandis que l'autre couche a` base de SiO_(2) et d'Al_(2)O_(3) est une couche de bas indice (BI). La couche BI (SiO_(2)/Al_(2)O_(3)) comprend pre´fe´rentiellement de 1 a` 5% en poids d'Al_(2)O_(3) par rapport au poids total de SiO_(2)/Al_(2)O_(3).」(5頁6?21行)
日本語訳:「本発明の特に有利な態様では、基質の少なくとも一方の面に形成された抗反射コーティングは、交互に高屈折率(HI)及び低屈折率(LI)の層の積層状態を含み、そこでは:
-少なくとも一つの高屈折率(HI)層は、不足当量酸化チタンを含む可視光吸収層で作られ、
-少なくとも一つの低屈折率(LI)層は、酸化シリコン(SiO_(2))及び酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))を含む。
この型の態様では、少なくとも一つの不足当量酸化チタンベース吸収性層は、高屈折率(HI)であり、残りのSiO_(2)及びAl_(2)O_(3)ベース層は低屈折率(LI)である。好ましくは、LI層(SiO_(2)/Al_(2)O_(3))は、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)の総重量に対してAl_(2)O_(3)の重量で1から5%含む。」(【0028】、【0029】)

カ 「La couche de bas indice de re´fraction (BI) a` base d'un me´lange d'oxyde de silicium et d'oxyde d'aluminium pre´sente essentiellement deux effets. D'une part, elle permet d'ame´liorer l'homoge´ne´ite´ de la coloration sur l'ensemble de la surface optique de l'article optique, et, d'autre part, elle permet d'ame´liorer la dure´e de vie du reve^tement anti-reflets, et sa re´sistance aux de´gradations exte´rieures, en particulier aux U V.」(5頁26?31行)
日本語訳:「酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物をベースとした低屈折率(LI)層が二つの主要な効果を提供する。一つめの効果は、光学体の光学表面全体の発色の均一性を向上させること、及びもう一つの効果は抗反射コーティングの寿命と外部劣化、特に紫外放射に対する耐久性を向上させることである。」(【0031】)

キ 上記アないしカの記載からみて、引用例2には、
「有機ガラスでできた透明基質を有し、主要面と裏面を持ち、前記主要面の少なくとも一つが多層抗反射コーティングを有し、
少なくとも一つの基質表面に形成された抗反射コーティングが選択的に高屈折率(HI)及び低屈折率(LI)層の積層状態を含み、そこでは:
-少なくとも一つの可視光吸収層が不足当量酸化チタンを含む高屈折率(HI)層で、
-少なくとも一つの低屈折率(LI)層が酸化シリコン(SiO_(2))と酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))の混合物を含み、該低屈折率(LI)層(SiO_(2)/Al_(2)O_(3))は、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)の総重量に対してAl_(2)O_(3)を重量で1ないし5%含み、
前記可視光吸収層において、可視光吸収層を含まない同様のものと比較して可視光の相対透過特性Tvが10%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは80%以上減少している光学体は、経時的に安定で、抗紫外線であり、
前記酸化シリコン(SiO_(2))と酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))の混合物をベースとした低屈折率(LI)層は、光学体の光学表面全体の発色の均一性を向上させる効果、及び、抗反射コーティングの寿命と外部劣化、特に紫外放射に対する耐久性を向上させる効果の二つの主要な効果を提供する」こと(以下「引用例2記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「『反射防止膜を有す』る、『プラスチックレンズ』又は『眼鏡用プラスチックレンズ』」、「高屈折率層」、「低屈折率層」、「『低屈折率層と高屈折率層を交互に積層し』た『7層からなる反射防止膜』」及び「『透明樹脂』、『プラスチックレンズ基材』、『レンズ基材』、『基材』」は、それぞれ、本願発明の「『反射防止特性を有す』る『光学物品』」、「高屈折率層」、「低屈折率層」、「『少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層のスタックから構成され』た『多層構造の反射防止被覆』」及び「基材」に相当する。

(2)引用発明の「光学物品(プラスチックレンズ又は眼鏡用プラスチックレンズ)」は、「基材(透明樹脂)」上に形成されたプライマー層と、該プライマー層上に形成されたハードコート層を設け、さらに低屈折率層と高屈折率層を交互に積層して7層からなる反射防止膜を積層したプラスチックレンズであって、具体例としては、プライマー組成物を「基材(プラスチックレンズ基材)」上に浸漬法にて塗布し、塗布した「基材(レンズ基材)」を100℃で15分間加熱硬化処理して「基材(基材)」上に0.8μmのプライマー層を形成し、プライマー層を形成した「基材(プラスチックレンズ基材)」上にハードコート用組成物を浸漬法にて塗布し、塗布した「基材(プラスチックレンズ基材)」を120℃で120分間加熱硬化処理して「基材(基材)」上に膜厚2.1μmのハードコート層を形成し、プライマー層とハードコート層を形成したプラスチックレンズ基材上にSiO_(2)層を真空蒸着法で成膜し、TiO_(2)層をイオンアシスト蒸着法で成膜して「少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層のスタックから構成される多層構造の反射防止被覆(7層からなる反射防止膜)」を構築したものであるから、本願発明の「光学物品」と、「反射防止特性を有する」点、及び、「少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層のスタックから構成される多層構造の反射防止被覆を塗工された少なくとも1つの主表面を有する基材から構成され」る点で一致する。

(3)引用発明の「多層構造の反射防止被覆(7層からなる反射防止膜)」は、最も基材側にある層を第1層として順に層番号をつけて最外層を第7層として、各層の設計主波長における屈折率をnk(kは各層番号)とした場合、各層の屈折率は、1.43≦n1,n3,n5,n7≦1.48、2.24≦n2,n4,n6≦2.45の関係にあるのであるから、引用発明は、低屈折率層であることが明らかである第1層、第3層、第5層、第7層の屈折率を1.43?1.48の範囲内とし、高屈折率層であることが明らかである第2層、第4層、第6層の屈折率を2.24?2.45の範囲内とするものである。また、引用発明の具体例では、7層のうち4層ある低屈折率層の材料はすべて屈折率1.45のSiO_(2)であり、同じく3層ある高屈折率層の材料はすべて屈折率2.36のTiO_(2)層である。したがって、引用発明の「反射防止被覆(反射防止膜)」と、本願発明の「反射防止膜」とは、「各々の低屈折率層の屈折率が1.55以下であり、各々の高屈折率層の屈折率が1.55を超えかつ五酸化ニオブ(Nb_(2)O_(5))を含ま」ない点で一致する。

(4)引用発明の具体例では、低屈折率層をSiO_(2)層(屈折率(「n_(L)」とする。)=1.45)とし高屈折率層をTiO_(2)層(屈折率(「n_(H)」とする。)=2.36)として「多層構造の反射防止被覆(7層からなる反射防止膜)」を構築し、λ_(0)を設計主波長、kを各層番号、λ_(k)を各層の光学的膜厚としたとき、λ_(1)=0.083λ_(0)、λ_(2)=0.070λ_(0)、λ_(3)=0.10λ_(0)、λ_(4)=0.18λ_(0)、λ_(5)=0.065λ_(0)、λ_(6)=0.14λ_(0)、λ_(7)=0.26λ_(0)としている。ここで、設計主波長λ_(0)は480nm以上560nm以下の範囲であるから、物理的厚みが最も厚くなるλ_(0)=560nmを採用して各層の物理的厚み(「d_(k)」とする。)を求めると、次のようになる。
d_(1)=0.083λ_(0)/n_(L)=0.083×560/1.45=32.06
d_(2)=0.070λ_(0)/n_(H)=0.070×560/2.36=16.61
d_(3)=0.10λ_(0)/n_(L)=0.10×560/1.45=38.62
d_(4)=0.18λ_(0)/n_(H)=0.18×560/2.36=42.71
d_(5)=0.065λ_(0)/n_(L)=0.065×560/1.45=25.10
d_(6)=0.14λ_(0)/n_(H)=0.14×560/2.36=33.22
d_(7)=0.26λ_(0)/n_(L)=0.26×560/1.45=100.4
すなわち、引用発明の具体例においては、低屈折率層の中で物理的厚みが最も厚い層は最外側層である第7層(100.4nm)であり、かつ、それ以外に厚さ100nm以上の低屈折率層はないから、上記具体例は、「被覆の最外側層の下の反射防止被覆の低屈折率層」が「各々<100nmの物理的厚み」であるとの条件を満たす。したがって、上記具体例の反射防止被覆のR_(T)を求めると、次のようになる。
R_(T)=(反射防止被覆の低屈折率層の物理的厚みの合計)/(反射防止被覆の低屈折率層の物理的厚みの合計)=(d_(1)+d_(3)+d_(5)+d_(7))/(d_(2)+d_(4)+d_(6))=(32.06+38.62+25.10+100.4)/(16.61+42.71+33.22)=2.12
よって、引用発明は、R_(T)=(反射防止被覆の低屈折率層の物理的厚みの合計)/(反射防止被覆の低屈折率層の物理的厚みの合計)が2.1より高い具体例を含む発明である。また、引用発明の反射防止被覆がニオブから構成される副層を含まないことは明らかであるから、引用発明の「反射防止被覆(反射防止膜)」は、本願発明の「反射防止被覆」と、「被覆の最外側層の下の反射防止被覆の低屈折率層は各々<100nmの物理的厚みであり、次の比率
【数1】

が2.1より高く、かつ反射防止被覆がニオブから構成される副層を含ま」ない点で一致する。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、本願発明と引用発明とは、
「反射防止特性を有する光学物品で、少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層のスタックから構成される多層構造の反射防止被覆を塗工された少なくとも1つの主表面を有する基材から構成され、ここに:
‐ 各々の低屈折率層の屈折率が1.55以下であり、
‐ 各々の高屈折率層の屈折率が1.55を超えかつ五酸化ニオブ(Nb_(2)O_(5))を含まず、
‐および:
(a)前記被覆の最外側層の下の反射防止被覆の低屈折率層は各々<100nmの物理的厚みであり、次の比率
【数1】

が2.1より高く、かつ反射防止被覆がニオブ(Nb)から構成される副層を含まない。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記「反射防止被覆の少なくとも1つの低屈折率層」が、
本願発明では、「SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の混合物を含」むのに対して、
引用発明では、SiO_(2)のみを含む点。

相違点2:
前記「光学物品」の「塗工主面」の「平均視感反射率」が、
本願発明では、「R_(V)≦1%」であるのに対して、
引用発明では、不明である点。

5 判断
(1)相違点1について
ア 引用発明は、外観、耐擦傷性、耐熱性、耐湿性、耐衝撃性、耐候性、レンズ基材と表面処理層との密着性、耐久性等の各種品質、特に耐候性、密着性の優れたプラスチックレンズを提供することを目的としているから、引用発明の外観、耐擦傷性、耐熱性、耐湿性、耐衝撃性、耐候性、レンズ基材と表面処理層との密着性、耐久性等をさらに優れたものとする技術が存在した場合、当業者が引用発明に対して当該技術を導入しようとする動機づけがあるというべきである。
イ 引用例2記載の技術的事項(上記3(2)キ参照。)は、有機ガラスでできた透明基質を有し、主要面と裏面を持ち、前記主要面の少なくとも一つが多層抗反射コーティングを有し、少なくとも一つの基質表面に形成された抗反射コーティングが選択的に高屈折率(HI)及び低屈折率(LI)層の積層状態を含み、少なくとも一つの可視光吸収層が不足当量酸化チタンを含む高屈折率(HI)層で、少なくとも一つの低屈折率(LI)層が酸化シリコン(SiO_(2))と酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))の混合物を含む光学体であって、前記可視光吸収層において、可視光吸収層を含まない同様のものと比較して可視光の相対透過特性Tvが10%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは80%以上減少している光学体は、経時的に安定で(すなわち耐久性に優れ)、抗紫外線であり(すなわち耐候性に優れ)、前記酸化シリコン(SiO_(2))と酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))の混合物をベースとした低屈折率(LI)層は、光学体の光学表面全体の発色の均一性を向上させる効果を奏する(すなわち外観が優れる)とともに、抗反射コーティングの寿命(すなわち耐久性)と外部劣化、特に紫外放射に対する耐久性(すなわち対候性)を向上させる効果を奏するから、当業者が、引用発明に対して引用例2記載の技術的事項を導入しようとする動機づけがある。
ウ 上記ア、イからみて、当業者が、引用発明において、低屈折率層をSiO_(2)層に替えてSiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層(ただし、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)の総重量に対してAl_(2)O_(3)を重量で1ないし5%の範囲で含み、当該SiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層の屈折率は1.48を超えない)となすこと、すなわち、相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例2記載の技術的事項に基づいて容易になし得た程度のことである。
エ なお、請求人が平成25年12月12日に提出した、審判請求書の【請求の理由】の項目を補正する手続補正書(方式)6頁の「(小括)」において、請求人は、「審査官殿は、本願発明の耐熱性を改善した、特に、温度差に耐えうる複層反射防止被覆を備える基材からなる光学物品を提供する課題を適切に検討しておらず、進歩性の評価を日本の審査基準に則って行っていないと思料します。すなわち、本願発明の場合、請求項に係る発明と引用文献1または引用文献2との違いが、本願発明の課題、つまり、光学物品の耐熱性の向上、のベースであり、引用文献1の[0004]段落に記載されているような、光学物品の耐久性を向上させることではありません。発明が進歩性を有するか否かを評価する際に考慮する発明の課題は、本願の内容と一致していなければなりませんが、審査官殿が挙げた課題は一致していません。審査官殿が挙げた課題には、本願発明が従来技術に対して与える技術的貢献が考慮されていません」などと主張するが、我が国の審査基準には、「(本願の請求項に係る発明の課題とは)別の課題を有する引用発明に基づいた場合であっても、別の思考過程により、当業者が請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論理づけられたときは、課題の相違にかかわらず、請求項に係る発明の進歩性を否定することができる。」と記載されている(特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 2.5(2)丸付き数字の2「課題の共通性」参照。)から、原査定をした審査官が我が国の審査基準に則っていないなどということはなく、請求人の上記主張はこれを採用することができない。

(2)相違点2について
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-268107号公報には、反射防止膜付合成樹脂レンズについて記載されており、さらに、基材として「屈折率が1.66である含硫ウレタン樹脂レンズ」を用い、「基材側から 第1層 SiO_(2)層(屈折率1.46)を光学膜厚0.100λc TiO_(2)層(屈折率2.30)を光学膜厚0.090λc SiO_(2)層(屈折率1.46)を光学膜厚0.100λc 第2層 TiO_(2)層(屈折率2.20?2.30)を光学膜厚0.510λc 第3層 SiO_(2)層(屈折率1.46)を光学膜厚0.250λc となるように積層し」た反射防止膜の「片面の視感反射率が0.2%以下」であること(【0024】(実施例1)参照。)、基材として「屈折率が1.60である含硫ウレタン樹脂レンズ」を用い、「基材側から 第1層 SiO_(2)層(屈折率1.46)を光学膜厚0.105λc 第2層 TiO_(2)層(屈折率2.30)を光学膜厚0.080λc 第3層 SiO_(2)層(屈折率1.46)を光学膜厚0.105λc 第4層 TiO_(2)層(屈折率2.30)を光学膜厚0.520λc SiO_(2)層(屈折率1.46)を光学膜厚0.250λc となるように積層し」た反射防止膜の「片面の視感反射率が0.3%程度」であること(【0030】(比較例2)参照。)、及び、実施例1の反射防止膜の分光反射率が、【図1】からみて、その平均反射率が1%以下(0.6%程度)であること、が記載されている。これらの記載からみて、本願の優先日前に、基材として屈折率が1.60?1.66程度の含硫ウレタン樹脂レンズを用い、基材側からみて第1層、第3層及び第5層を屈折率1.46のSiO_(2)層、第2層及び第4層を屈折率2.30のTiO_(2)層とした5層構造の反射防止膜であって、その平均視感反射率が1%以下のもの(以下「先行例」という。)が存在していたと認められる
イ 低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した多層反射防止膜においては、一般に、積層数が多いほど広い帯域に渡って反射率が低減する傾向にあることが本願の優先日前に技術常識であった(例えば、特開2001-116904号公報(【0002】参照。)、特開平9-197102号公報(【0033】参照。))。
ウ 引用発明は反射防止膜を積層したプラスチックレンズに関する発明であり、平均視感反射率が低い方が好ましいものであることが自明であるところ、上記アの先行例の存在及び上記イの技術常識からみて、先行例と同様に基材として屈折率1.66前後の含硫ウレタン樹脂レンズを用い、低屈折率層がSiO_(2)層で高屈折率層がTiO_(2)層であり、かつ、積層数が先行例より多い7層構造の反射防止膜を有する引用発明において、当該反射防止膜の平均視感反射率を1.0%以下とすることが当業者にとって困難であったとは考えられないから、引用発明において、反射防止膜側の平均視感反射率を1.0%以下とすることは当業者が容易になし得た程度のことであるというべきである。
エ 引用発明において、低屈折率層をSiO_(2)層に替えてSiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層(ただし、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)の総重量に対してAl_(2)O_(3)を重量で1ないし5%の範囲で含み、当該SiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層の屈折率は1.48を超えない)となした場合の平均視感反射率R_(V)の変化について検討する。
(ア)本願の参考例1(平成25年5月7日になされた手続補正により補正される前の実施例1)と実施例1(同実施例2)とを比較すると、低屈折率層の材料が前者はSiO_(2)で後者はSiO_(2)/Al_(2)O_(3)(Al_(2)O_(3)を重量で4%有する)であることを除き、両者の層構成、高屈折率層の材料及び各層の物理的厚みは同一である(【0217】【表2】、【0219】参照。)ところ、平均視感反射率R_(V)は前者、後者とも0.9%である(【0220】【表4】参照。)。また、本願の参考例4(同実施例6)と実施例3(同実施例7)とを比較すると、低屈折率層の材料が前者はSiO_(2)で後者はSiO_(2)/Al_(2)O_(3)(Al_(2)O_(3)を重量で4%有する)であることを除き、両者の層構成、高屈折率層の材料及び各層の物理的厚みは同一である(【0218】【表3】、【0219】参照。)ところ、平均視感反射率R_(V)は前者が0.68%、後者が0.74%である(【0220】【表4】参照。)。さらに、本願の参考例4(同実施例6)と実施例4(同実施例8)とを比較すると、低屈折率層の材料が前者はSiO_(2)で後者はSiO_(2)/Al_(2)O_(3)(Al_(2)O_(3)を重量で8%有する)であることを除き、両者の層構成、高屈折率層の材料及び各層の物理的厚みは同一である(【0218】【表3】、【0219】参照。)ところ、平均視感反射率R_(V)は前者が0.68%、後者が0.75%である(【0220】【表4】参照。)。
(イ)上記(ア)からみて、引用発明において、低屈折率層をSiO_(2)層に替えてSiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層(ただし、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)の総重量に対してAl_(2)O_(3)を重量で1ないし5%含み、当該SiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層の屈折率は1.48を超えない)となした場合の平均視感反射率R_(V)の上昇幅はせいぜい0.07ポイント程度と見積もられるから、5層構造の先行例の視感反射率が1%以下(0.6%程度)であること(上記ア参照。)も考慮すると、7層構造の引用発明において、低屈折率層をSiO_(2)層に替えてSiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層(ただし、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)の総重量に対してAl_(2)O_(3)を重量で1ないし5%含み、当該SiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層の屈折率は1.48を超えない)となした場合に、平均視感反射率を1.0%以下とすることが困難になるとはいえない。
オ 上記アないしエからみて、引用発明において、低屈折率層をSiO_(2)層に替えてSiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層(ただし、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)の総重量に対してAl_(2)O_(3)を重量で1ないし5%の範囲で含み、当該SiO_(2)とAl_(2)O_(3)の混合物を含む層の屈折率は1.48を超えない)となしたものにおいて、反射防止膜側の平均視感反射率を1.0%以下とすることは当業者が容易になし得た程度のことである。

(3)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び引用例2記載の技術的事項の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用発明及び引用例2記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-20 
結審通知日 2015-02-24 
審決日 2015-03-09 
出願番号 特願2009-517290(P2009-517290)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 博之  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 清水 康司
西村 仁志
発明の名称 低屈折率層および高屈折率層の厚み比率が最適化されている耐熱性反射防止被覆を有する光学物品  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三和 晴子  
代理人 渡辺 望稔  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ