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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1303473
審判番号 不服2013-18902  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-30 
確定日 2015-07-21 
事件の表示 特願2012-539128「ピルフェニドン療法を施す方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 9日国際公開、WO2011/069094、平成24年12月20日国内公表、特表2012-532934〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年12月3日(パリ条約による優先権主張 2009年12月4日 米国(US)、2010年1月8日 米国(US)、2010年3月3日 欧州特許庁(EP)、2010年3月4日 米国(US)、2010年8月17日 カナダ(CA))を国際出願日とする出願であって、平成24年12月11日付け拒絶理由通知に対して平成25年3月18日付けで手続補正書及び意見書が出されたが、同年5月22日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年9月30日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされた。

第2 平成25年9月30日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年9月30日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正について
平成25年9月30日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲は、以下のように補正された。

<補正前(平成25年3月18日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲)>
「 【請求項1】
ピルフェニドン療法を必要とする患者を処置することにおいて使用するための組成物であって、前記患者はCYP1A2インヒビターでの治療を必要とする者であり、該組成物はピルフェニドンを含み、該組成物は、(a)(i)シトクロムP450 1A2(CYP1A2)と(ii)CYP2C9、CYP2C19およびCYP2D6からなる群より選択される別のCYP酵素との両方の中程度?強力なインヒビターであるシトクロムP450 1A2(CYP1A2)インヒビターの随伴使用または共投与を回避するか、それに対して禁忌を示すか、それを停止するか、またはそれを警告をもって使用するか、あるいは(b)CYP1A2の強力なインヒビターを受容している患者において警告をもってピルフェニドンを使用するか、あるいは(c)ピルフェニドンを受容している患者において強力なCYP1A2インヒビターを回避するか、それに対して禁忌を示すか、それを停止するか、または警告をもって使用するか、あるいは(d)ピルフェニドンを受容している患者において、フルボキサミン、エノキサシン、シプロフロキサシン、アミオダロンおよびプロパフェノンからなる群より選択されるCYP1A2インヒビターを回避するか、それに対して禁忌を示すか、それを停止するか、または警告をもって使用するように投与されるように使用されることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
ピルフェニドン療法を必要とする患者にピルフェニドン療法を施すための組成物であって、前記患者はCYP1A2インヒビターでの治療を必要とする者であり、該組成物は、有効量のピルフェニドンを含み、該組成物は、(a)(i)シトクロムP450 1A2(CYP1A2)と(ii)CYP2C9、CYP2C19およびCYP2D6からなる群より選択される別のCYP酵素との両方の中程度?強力なインヒビターであるシトクロムP450 1A2(CYP1A2)インヒビターを回避するか、それに対して禁忌を示すか、それを停止するか、またはそれを警告をもって使用するか、あるいは(b)CYP1A2の強力なインヒビターを受容している患者において警告をもってピルフェニドンを使用するか、あるいは(c)ピルフェニドンを受容している患者において強力なCYP1A2インヒビターを回避するか、それに対して禁忌を示すか、それを停止するか、または警告をもって使用するか、あるいは(d)ピルフェニドンを受容している患者において、フルボキサミン、エノキサシン、シプロフロキサシン、アミオダロンおよびプロパフェノンからなる群より選択されるCYP1A2インヒビターを回避するか、それに対して禁忌を示すか、それを停止するか、または警告をもって使用するように投与されるように使用されることを特徴とする、組成物。
【請求項3】
前記CYP1A2インヒビターが、CYP1A2ならびにCYP2C9、CYP2C19および/またはCYP2D6からなる群より選択される別のCYP酵素の中程度?強力なインヒビターである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記CYP1A2インヒビターが強力なCYP1A2インヒビターである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
ピルフェニドンとの有害な薬物間相互作用を回避するため、またはピルフェニドンの低減したクリアランスを回避するために、前記CYP1A2インヒビターが、ピルフェニドン療法の開始に先立って停止される、請求項1?3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記CYP1A2インヒビターが、ピルフェニドン療法の開始前1ヶ月以内に停止される、請求項1?3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記CYP1A2インヒビターが、ピルフェニドン療法の開始前2週間以内に停止される、請求項1?6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記CYP1A2インヒビターが、ピルフェニドン療法の間、回避される、請求項1?3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記CYP1A2インヒビターが警告をもって使用される、請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記患者が特発性肺線維症(IPF)を有する、請求項1?9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記患者が、特発性肺線維症、肺線維症、特発性間質性肺炎、自己免疫肺疾患、良性前立腺肥大、冠状梗塞もしくは心筋梗塞、心房細動、脳梗塞、心筋線維症、筋骨格線維症、術後癒着、肝硬変、腎臓線維症性疾患、線維症性血管疾患、強皮症、ヘルマンスキー-パドラック症候群、神経線維腫症、アルツハイマー病、糖尿病性網膜症、または皮膚の病変、HIVと関連したリンパ節線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性肺線維症、慢性関節リウマチ;リウマチ様脊椎炎;変形性関節症;痛風、他の関節炎状態;敗血症;敗血症性ショック;内毒素性ショック;グラム陰性敗血症;トキシックショック症候群;筋膜疼痛症候群(MPS);細菌性赤痢;喘息;成人呼吸促進症候群;炎症性腸疾患;クローン病;乾癬;湿疹;潰瘍性大腸炎;糸球体腎炎;強皮症;慢性甲状腺炎;グレーヴズ病;オーモンド病;自己免疫胃炎;重症筋無力症;自己免疫性溶血性貧血;自己免疫性好中球減少症;血小板減少症;膵臓線維症;肝臓線維症を含む慢性活動性肝炎;急性腎臓疾患もしくは慢性腎臓疾患;腎臓線維症;糖尿病性腎症;過敏性腸症候群;発熱;再狭窄;大脳マラリア;脳卒中もしくは虚血性傷害;神経性外傷;アルツハイマー病;ハンティングトン病;パーキンソン病;急性疼痛もしくは慢性疼痛;アレルギー性鼻炎もしくはアレルギー性結膜炎を含むアレルギー;心肥大、慢性心不全;急性冠動脈症候群;悪液質;マラリア;らい;リーシュマニア症;ライム病;ライター症候群;急性滑膜炎;筋肉の変性、滑液包炎;腱炎;腱滑膜炎;脱出した、破裂したまたは脱した椎間板症候群;大理石骨病;血栓症;珪肺症;肺サルコーシス;骨粗しょう症もしくは多発性骨髄腫関連骨障害のような骨吸収疾患;転移性の乳房の癌腫、結腸直腸の癌腫、悪性黒色腫、胃癌もしくは非小細胞肺癌を含むがこれらに限定されない癌;対宿主性移植片反応;または多発性硬化症、狼瘡もしくは線維筋痛症のような自己免疫疾患;AIDSあるいは帯状疱疹、I型単純疱疹もしくはII型単純疱疹、インフルエンザウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)またはサイトメガロウイルスのような他のウイルス性疾患;あるいは真性糖尿病、増殖障害(良性の過形成または悪性の過形成の両方を含む)、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、カポージ肉腫、転移性黒色腫、多発性骨髄腫、転移性の乳房の癌腫を含む乳癌;結腸直腸の癌腫;悪性黒色腫;胃癌;非小細胞肺癌(NSCLC);骨転移;神経筋の疼痛、頭痛、癌性疼痛、歯痛もしくは関節炎の疼痛を含む疼痛障害;固形腫瘍の新脈管形成、眼の新生血管形成もしくは乳児期の血管腫を含む脈管形成障害;プロスタグランジンエンドペルオキサイドシンターゼ-2に関連する状態(水腫、発熱、痛覚脱失または疼痛を含む)を含むシクロオキシゲナーゼシグナリング経路もしくはリポキシゲナーゼシグナリング経路に関連する状態;臓器の低酸素症;トロンビン誘発性血小板凝集;あるいは原虫感染症から選択される疾患に罹患している、請求項1?9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
特発性肺線維症の治療で使用するための、ピルフェニドンを含む組成物であって、該治療がフルボキサミンの随伴使用時に警告をもってピルフェニドンを使用することを必要とする、組成物。
【請求項13】
前記ピルフェニドンが、少なくとも1800mgの総1日投薬量で投与される、請求項1?12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記ピルフェニドンが、2400mgまたは2403mgの総1日投薬量で投与される、請求項1?12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
800mgまたは801mgのピルフェニドンが、食物とともに、1日あたり3回、前記患者に投与される、請求項1?12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記CYP1A2インヒビターがフルボキサミンである、請求項1?11および13?15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記CYP1A2インヒビターがシプロフロキサシン、アミオダロンまたはプロパフェノンである、請求項1?11および13?16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記CYP1A2インヒビターがグレープフルーツジュースである、請求項1?11および13?15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
(a)ピルフェニドンであって、必要に応じて容器内にあるピルフェニドン、ならびに
(b)必要に応じて請求項1?18の特徴のいずれかにしたがう、(1)CYP1A2の強力なインヒビター、または(2)(i)CYP1A2と(ii)CYP2C9、CYP2C19および/もしくはCYP2D6からなる群より選択される別のCYP酵素との両方の中程度?強力なインヒビターの随伴使用または共投与を回避または停止するか、またはそれに対して禁忌を示すか、あるいは、(1)CYP1A2の強力なインヒビター、または(2)(i)CYP1A2と(ii)CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19、CYP2B6および/もしくはCYP2D6からなる群より選択される別のCYP酵素との両方の中程度?強力なインヒビターを警告をもって使用することを含む、パッケージ挿入物、パッケージラベル、使用説明書または他のラベリング、
を含むパッケージまたはキット。」

<補正後(平成25年9月30日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲)>
「 【請求項1】
特発性肺線維症の治療で使用するための、ピルフェニドンを含む組成物であって、該治療がフルボキサミンの随伴使用時に警告をもってピルフェニドンを使用することを必要とする、組成物。
【請求項2】
前記ピルフェニドンが、約1800mgの総1日投薬量で投与される、請求項1に記載の組成物。」

本件補正は、補正前の請求項1?11、14?19を削除するとともに、補正前の請求項12を新たに請求項1とし、補正前の請求項13の「少なくとも1800mgの総1日投薬量で投与される、請求項1?12のいずれか1項に記載の組成物」との記載を、「少なくとも」を削除して「約」を付加することにより「約1800mgの総1日投薬量で投与される、請求項1に記載の組成物」として新たな請求項2とするものである。

補正前の請求項13の「少なくとも1800mgの総1日投薬量」と補正後の請求項2の「約1800mgの総1日投薬量」との記載を比較すると、補正前の請求項13では1800mg未満の総1日投薬量は排除されているのに対して、補正後の請求項2では「約1800mgの総1日投薬量」は1800mg以下の総1日投薬量も若干量包含することから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものにも該当しないものである。また、本件補正は単なる請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明ともいえないことから、本件補正が特許法第17条の2第5項第1号、第3号、第4号各号規定のいずれかを目的とするものでもない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

2.独立特許要件違反について

もし仮に、上記補正事項が特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとして、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(独立特許要件に違反しないか)、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に適合するか否かについて、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「特発性肺線維症の治療で使用するための、ピルフェニドンを含む組成物であって、該治療がフルボキサミンの随伴使用時に警告をもってピルフェニドンを使用することを必要とする、組成物。」

(2)引用例の記載事項
(ア)原査定の拒絶理由通知書で引用された、本願の優先権主張日の前に頒布された刊行物である引用例1(谷山 正好 ら,臨床薬理,2000年3月,Vol.31,No.2,第411?412ページ、上記拒絶理由通知書における引用文献5)には次の記載がある。

(1-a)「肺線維症および透析患者に投与された抗線維化剤Pirfenidoneの連続投与時の薬物動態」(タイトル)

(1-b)「我々は、第19回日本臨床薬理学会において、肺線維症患者における、抗線維化剤Pirfenidone(P)単回投与時のPharmocokinetics(PK)を報告した^(1))。また、我々は、維持透析中の硬化性腹膜症患者でPが血液透析により除去されることを見出した^(2))。今回、繊維性病変で他の治療方法がない肺線維症、硬化性腹膜症患者および透析アミロイドーシスの患者においてPの投与の安全使用を目的とした連続投与試験を行いPKパラメータを評価すると共に疾病間の比較を行ったので報告する。」(第411ページ左欄「目的」の項)

(1-c)「肺線維症患者では、初日(Day1)Pを400mg投与し翌日より、20mg/kg/日(分4)3日間、40mg/kg/日(分4)3日間投与し、8日目(Day8)に400mgを投与した。初日及び8日目において投与後24時間までの血漿中濃度を経時的に測定した。血液透析患者では、Pを800?1600mg/日(分4)連続投与中の透析日および非透析日に投与後0から6[h]の血漿中濃度の測定を行った。PKパラメーターとして、Tmax、Cmax、台形法によるAUC、1-コンパートメントモデルあてはめによる消失半減期を用いた。」(第411ページ左欄「方法」の項)

(1-d)「肺線維症患者12名のDay1とDay8における、Pの血漿中濃度の推移およびPKパラメーターをFig1に示す。Tmax、Cmax、AUC_((0-24))、消失半減期を比較した結果、有意な差は得られなかった。血液透析患者5名の透析日と非透析日のAUCを比較した結果、Pは血液透析により平均26.39%除去された。また、透析患者4名について、ダイアセイザー前後のPの血漿中濃度を測定した結果より、Pのダイアライザーのクリアランスは、平均58.97%(SD:8.39%)であった。
肺線維症患者(12名[m:10,f:2]; body weight; 61.8kg±9.4, age; 59.4 y.o.±7.9[mean±SD])と透析患者(6名[m:4,f:2]; body weight;48.8kg±9.3, age; 49.0±6.0 y.o. [mean±SD])の非透析日における投与後1時間、2時間、4時間のP血漿中濃度は、それぞれ、肺線維症患者では、6.26μg/mL(2.84),4.49μg/mL(2.74),2.87μg/mL(2.26)、透析患者では、7.35μmL(1.51),5.04μg/mL(1.39),3.09μg/mL(0.97)[mean(SD)]で、ほぼ同程度であった。(第411ページ左欄?同ページ右欄「結果」の項)

(1-e)「肺線維症患者のうち1症例でDay1とDay8のAUCの比が、5.6倍増加した症例があった。この症例について、血漿中濃度の推移(投与後10ヶ月)、併用薬剤、肝機能値等を調査した結果、P投与前からの肝機能の高値であり、投与開始時薬物代謝酵素阻害作用を示すclarithromyxin(CAM)を併用していた。このことから、Pは、肝臓における薬物代謝により、その血漿中濃度に影響を及ぼすことが推察される。また、他の症例においてもP投与前から肝機能上昇例においても血漿中濃度の高値が観察されている。
Pの代謝物に対する検討は、不充分ではあるがHPLCの測定条件を変化させ代謝物の検索を行った結果、Pの保持時間10.5分に対し、UVスペクトルがほぼ一致する保持時間3.5分にピークを認めた。このピークは、Pの5位のメチル基が酸化がされたものと推定される。(第411ページ右欄?第412ページ左欄「考察」の項)

(1-f)「
1.肺線維症患者に対するPの連続投与によるPKの影響は、比較的少ない 。
2.肺線維症患者と透析患者の血漿中の薬物動態は、ほぼ等しいと考えられ る。
3.連続投与中AUCの増大は、肝機能、薬物代謝酵素などの影響が推察さ れる。
4.Pの代謝物は、5位のメチル基の酸化の可能性が高い。」(第412ページ「結語」の項)

(イ)上記記載から、引用例1には、次の技術的事項が記載されている。
(i)線維性病変で他の治療方法がない肺線維症の患者に抗線維化剤Pirfenidone(P)の安全使用を目的とした連続投与試験を行い、薬理動態(PK)パラメータを評価すること(摘記(1-a)、(1-b))
(ii)PKパラメータとしてTmax、Cmax、台形法によるAUC、1-コンパートメントモデルあてはめによる消失半減期を用いること(摘記(1-c)、(1-d))
(iii)P投与開始時に薬物代謝酵素阻害作用を示すclarithromyxin(CAM)を併用していた肺線維症患者のDay1とDay8のAUCの比が、5.6倍増加したこと(摘記(1-e))
(iv)P連続投与中AUCの増大は、肝機能、薬物代謝酵素などの影響が推察されること(摘記(1-f))

これらのことから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「線維性病変で他の治療方法がない肺線維症の患者に使用するための抗線維化剤Pirfenidone」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明にいう抗線維化剤ピルフェニドン(Pirfenidone)は薬剤であることは明らかであることから、当該抗線維化剤はピルフェニドンを含む組成物であるといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「肺線維症の治療で使用するための、ピルフェニドンを含む組成物」
である点で一致し、以下の点で「相違点1」については一応相違し、「相違点2」については相違する。
・相違点1
本件補正発明の組成物は「特発性肺線維症」の治療で使用するためのものであるのに対して、引用発明は「線維性病変で他の治療方法がない肺線維症」の治療で使用するためのものである点。
・相違点2
本件補正発明では「治療がフルボキサミンの随伴使用時に警告をもってピルフェニドンを使用することを必要とする」と特定されているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

(4)判断
(ア)相違点1について
まず、本願補正発明でいう「特発性肺線維症」とはいかなる疾患を意味するかを検討すると、本願明細書【0028】には「本明細書で使用される場合、「ピルフェニドン療法を必要とする」患者は、ピルフェニドンの投与から利益を受ける患者である。この患者は、ピルフェニドン療法が症状を改善するのに有用であり得る、任意の疾患または状態に罹患し得る。このような疾患または状態としては、肺線維症、特発性肺線維症、特発性間質性肺炎、自己免疫肺疾患(autoimmune lung disease)(中略)を処置するために使用され得る。」と記載されており、特発性肺線維症が肺線維症の一種であることは読み取れるものの、特発性肺線維症の定義は何らなされていない。
次に、「メルクマニュアル オンライン日本語版18版」の「肺の疾患」「特発性間質性肺炎」の項(インターネット[検索日:平成27年2月6日]URL: http://merckmanual.jp/mmpej/print/sec05/ch055/ch055b.html、最終改訂月2005年11月)を参照するに、以下の記載がある。

「 特発性肺線維症
(特発性線維化肺胞炎)
特発性肺線維症は最もよくみられるIIPの型で,主として男性の喫煙者において進行性の肺線維症を引き起こす。症状および徴候は数カ月から数年にわたって発現し,労作性呼吸困難,咳および吸気性断続性ラ音(ベルクロラ音)を含む。診断は,病歴,身体診察,胸部X線,および肺機能検査に基づき,また,必要であればHRCTまたは肺生検もしくはその両方によって確認される。効果的であると証明された特定の治療はないが,コルチコステロイド,シクロホスファミド,またはアザチオプリンの単剤もしくは併用投与がしばしば行われる。ほとんどの患者は治療を行っても悪化する;生存期間中央値は診断から3年未満である。
(中略)
治療
効果が証明されている特異的な治療法はない。支持療法は,低酸素血症に対するO_(2)および肺炎に対する抗生物質の投与からなる。末期の疾患は,選択された患者で肺移植の対象となることもある。コルチコステロイドおよび細胞毒性薬(シクロホスファミド,アザチオプリン)は,従来より炎症の進行を停止する試みにおいて経験的にIPF患者に投与されているが,その有効性を支持するデータは限られている。 それにもかかわらず,一般的な方法では,プレドニゾン(0.5?1.0mg/kg,経口で1日1回を3カ月,その後の3?6カ月かけて0.25mg/kg,1日1回にまで漸減)にシクロホスファミドまたはアザチオプリン(1?2mg/kg,経口で1日1回)を併用して治療を試みる。1年間は3カ月毎に臨床的,放射線学的,生理学的反応を評価し,それに応じて薬物投与量を増加ないしは減少させる。客観的反応がなければ,治療を中止する。

抗線維化薬のパーフェニドンは,肺機能を安定させ,増悪を減少させうる。抗線維化薬には,コラーゲン合成(リラキシン),線維化前成長因子(スラミン)およびエンドセリン-1(アンジオテンシン受容体遮断薬)を阻害するものがあるが,その有効性はin vitroでのみ証明されている。」

ここには、特発性肺線維症の別名が特発性線維化肺胞炎であることからも当該疾患が線維性病変であることは自明であり、特発性肺線維症には効果が証明されている特異的な治療法はないこと、抗線維化薬のピルフェニドン(パーフェニドン)が肺機能を安定させ、増悪を減少させうることが記載されている。このことから、特発性肺線維症には治療方法のない肺線維症であり、特発性肺線維症には唯一ピルフェニドンが有効な薬剤であることが技術常識であるといえる。
そうすると、引用発明でいう「線維性病変で他の治療方法がない肺線維症」とは特発性肺線維症のことといえるから、一応の相違点とした上記「相違点1」は本件補正発明と引用発明との実質的な相違点とはいえない。

(イ)相違点2について
ア まず、上記(2)(イ)(iii)から、引用例1には、ピルフェニドン投与と薬物代謝酵素阻害作用を示すclarithromyxin(CAM)との併用により肺線維症患者中のピルフェニドンAUCが増加することが記載されている。そして、上記(2)(イ)(iv)によれば、引用例1ではピルフェニドンAUCの増大は肝臓における肝機能、薬物代謝酵素などの影響によるものと推察されている。
もっとも、引用例1にはピルフェニドンとフルボキサミンを併用することについては何ら記載されていない。

イ 拒絶理由通知書で引用された、本願の優先権主張日の前に頒布された刊行物である引用例2(Alex Hemeryck and Frans M. Belpaire, Current Drug Metabolism, 2002, Vol.3, No.1, pp.13-37、上記拒絶理由通知書における引用文献9)には次の記載がある。なお、引用例2は英語で記載されているので、当審による訳文で示す。

(2-a)「選択的セロトニン再取り込みインヒビター及びシトクロムP-450媒介の薬物-薬物相互作用:最新情報」(タイトル)

(2-b)「選択的セロトニン再取り込みインヒビター(SSRI)は多くの国々で最も処方されてきた抗うつ剤である。SSRIは共通の作用機序を有するにもかかわらず、化学構造、代謝及び薬物動態によって大幅に相違する。おそらくSSRI間の最も重要な違いがシトクロム-P450(CYP)アイソフォームの阻害を通して薬物-薬物相互作用を引き起こす潜在力であるだろう。
この論文は、このクラスの抗うつ剤とのCYP媒介薬剤-薬剤相互作用に関するインビトロとビンビボの証拠について最新情報を提供する。
利用可能な証拠は明らかに個々のSSRIがシトクロムP450阻害の異なるプロフィールを示すことを示唆している。フルボキサミンは強力なCYP1A2及びCYP2C19インヒビターであり、中程度のCYP2C9、CYP2D6及びCYP3A4インヒビターである。フルオキセチンとパロキセチンは強力なCYP2D6インヒビターであるが、フルオキセチンの主な代謝物であるノルフルオキセチンはCYP3A4に対して中程度の阻害効果を示す。セルトラリンは中程度のCYP2D6インヒビターであり、シタロプラムは主要なCYPアイソフォームに対してほとんど作用を示さない。フルオキセチンとその代謝物であるノルフルオキセチンの長い半減期のためにCYP活性への阻害作用がフルオキセチンの中止後に数週間持続することから、フルオキセチンは特別な注意に値する。
薬物のSSRIとの組合せは個別に評価すべきである。共投与された薬物の代謝に関与するCYPアイソフォームに関する知識は臨床医が潜在的に危険な薬物-薬物相互作用を予想し回避するのに役立つ。予想される相互作用は通常目的となる薬物の適切な投与量調節と滴定によって管理できる。ある場合には、治療的な薬物モニタリングは有益であろう。同様に、ほかの薬物投与を受ける患者のうつ病を治療するためには、限定的な相互作用を有する可能性のあるSSRIを選択するのがよいだろう。」(アブストラクト)

(2-c)「選択的セロトニン再取り込みインヒビター(SSRI)はうつ病の薬物治療において重要な要素となった。これらの効能、良好な耐性、及び相対的な安全性のため、SSRIは最も頻繁に処方される抗うつ薬となっている[1,2]。
このクラスの薬物が抗うつ活性と副作用プロフィールにおいて驚くほど類似している一方で[1]、これらは化学構造、代謝、薬物動態、及びシトクロムP450系(CYP)への阻害作用 において大きく相違する。
多くの患者が抗うつ薬で長期の維持療法を必要とすることから、SSRIはしばしばほかの薬物投与とともに処方される。しかしながら、このような多剤併用によって、共投与された薬との臨床的に重要な相互作用が生じるかもしれない。これらの相互作用は薬理学的あるいは薬物動態的であり得る。CYP活性の代謝的阻害によって起こされた薬物動態的な相互作用によって、SSRIのグループとの大多数の報告された相互作用の説明がつく。それらの相互作用潜在性の違いは、人間の薬の物質代謝に関係しているいくつかの重要なCYPアイソフォーム(CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、及びCYP3A4)に対する阻害効力の差と関係している。
過去に、いくつかの優れたレビューがこのテーマに取り組んできた[3-12]。
しかしながら、インビトロ及びインビボのデータの速い蓄積により、抗うつ薬のこのクラスとのCYP媒介の薬物-薬物相互作用の証拠を更新する必要がある。
この論文では、SSRIとのCYP媒介薬物-薬物相互作用に関する証拠の総説を、これらの相互作用を支持する証拠とその臨床的重要性とともに行う。」(イントロダクション)

(2-d)「シトクロムP450(CYP)は多数の内生物質及び薬剤の酸化及び還元の原因となる主要な酵素に相当する、ヘムを含むタンパク質のクラスを意味する[13]。
P450酵素はそれらのアミノ酸同族性に基づいて分類されてきた。すなわち、40%より大きい配列同一性を有する酵素は同じファミリー(アラビア数字、例えばCYP2によって指定される)に含まれており、このファミリー内では55%より大きい配列同一性を有する酵素は同じサブファミリー(大文字、例えばCYP2Dによって指定される)に含まれる。個別のアイソザイムが2番目のアラビア数字(例えば CYP2D6)によって指定される。今までに17のCYPファミリーがヒトで特定されている。CYP1、CYP2、及びCYP3が生体異物の代謝に関連している一方で、ほかのファミリーは、例えばステロイド、胆汁と脂肪酸の合成と代謝に関係している。肝臓はCYP アイソザイムにとって重要な場所であるが、同じく相当程度の代謝活性が消化管、腎臓と脳でも発見されている。肝臓と消化管のアイソザイムが主として ミクロソーム性であるのに対して、脳のアイソザイムは主としてミトコンドリア性である。P450で媒介された代謝は限定された程度の非特異性と関連している。すなわち1つのP450アイソザイムが複数の物質を代謝することができ、たいていの物質が異なるP450アイソザイムによって代謝される。しかしながら、多くの物質がある特定のP450アイソザイムと高い親和性を持ち、そのアイソザイムが除去を調節する重要な要因となる。
CYP1A、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C、CYP2D6、CYP2E1、及びCYP3A酵素は、ヒトの肝臓CYPのおよそ70%を占める。これらの中で、CYP3A(CYP3A4とCYP3A5)及びCYP2C(CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、及びCYP2C19)は最も豊富なサブファミリーであり、それぞれCYP全体の30%、20%に及んでいる。ほかのアイソフォームの貢献は全体CYPにとって小さく、CYP1A2で13%、CYP2E1で7%、CYP2A6で4%、CYP2D6で2%、CYP2B6で0.2%である[13,14]。CYP3Aはすべての薬剤のおよそ50%の代謝に関与しており、CYP2D6がおよそ25%、CYP2C9が15%、CYP1A2がおよそ5%貢献している。したがって、これら4つのアイソフォームがすべての薬剤の95%の代謝に関与している[15]。」(第13ページ右欄最下行から7行目?第14ページ右欄第12行)

(2-e)「2.CYP媒介薬物-薬物相互作用
多剤併用療法は、特にいくつかの病気を患っている患者に一般的な治療手法である。2つかそれ以上の薬剤が類似か、あるいは重なり合っている期間にわたって与えられるときはいつでも、薬物相互作用の可能性は、薬理動態的レベルにおいて及び/または薬理力学的レベルにおいて存在する。
多数の物質を代謝する一つのCYPアイソザイムの能力は、これらの物質が酵素触媒部位で競合する可能性があることから、CYP阻害と関連する多数の確認された薬物相互作用の原因となる。
遺伝的多型を示している薬剤との相互作用はEM(注:extensive metabolizer 迅速代謝型のこと)に限定されている。つまり、薬物代謝の阻害は大規模であるため、個々の代謝能力が低減し、それが表現型的には低代謝群にまでなる(表現型模写)[13]。薬剤代謝の阻害は血漿薬物濃度に望ましくない上昇をもたらすことがあり、薬剤の薬力学的特性への依存により誇張された効果が生じる。薬剤が特定のアイソフォームによって媒介された代謝を通して生体内活性化を受ける場合、このアイソフォームの阻害が治療の失敗を生じることがある[13]。薬物療法に続くCYPの誘導の結果としても薬剤-薬剤相互作用が起こることもある。ほとんどの場合、代謝物は親化合物ほど薬理学的に活性ではなく、増加した薬物の代謝が薬理学的応答の減少を生じると予想される。ある場合には、結果として誘導により有毒性を有する反応性代謝物の増大した産生を生じることもある[13]。
CYP活性の代謝的阻害によって起こされる薬理動態的相互作用によって大多数のSSRIグループとの報告された相互作用が説明できるため、このレビューはシトクロムP450活性の阻害から生じる薬理動態的相互作用に焦点を当てることとする。」(第15ページ左欄?同ページ右欄に続く「2. CYP-MEDIATED DRUG-DRUG INTERACTIONS」の項)

(2-f)「要点:インビトロのデータはフルボキサミンがCYP1A2及びCYP2C19の強力なインヒビターであり、CYP2C9、CYP2D6、及びCYP3A4の中程度のインヒビターであることを示している。」(第20ページ右欄第9?11行)

(2-g)「フルボキサミンとクロザピンとの相互作用はクロザピン血漿レベルの顕著な上昇(130%から188%)を示す3つの研究の対象となっている[172,177,181]。チャンらによる研究以外、ノルクロザピン血漿濃度も同じく上昇したが、その程度は小さかった。この明確な差は研究設計の違いによって説明される。すなわち、チャンらによる研究は単投与のクロザピンを使用したが、代謝物レベルには大きな変化は検出されなかった[177]。クロザピンの薬理動態に対するフルボキサミンの効果はおそらくCYP1A2とCYP2C19の強力な阻害とCYP3A4の中程度の阻害による。フルキセチンと同様に、ノルクロザピンの分解はこのSSRIを用いた治療によっても阻害されるのであろう。ロピビカイン血漿中レベルがたった2日間の低用量(50ミリグラム / 日)フルボキサミン共投与の後に3倍超にまで増大した[173]。短い治療期間のため、定常状態に達せず、そのため、相互作用の大きさは おそらく過小評価されたといえる。著者らは相互作用の原因はロピビカインのCYP1A2媒介代謝の阻害であるとしている[173]。チオリダジンと低用量フルボキサミンとの共投与によりチオリダジン濃度で3倍以上の上昇が起きた[174]。CYP1A2の阻害も関連している可能性があるが、フルボキサミンがチオリダジンのCYP2C19媒介代謝に干渉することが提案されている。ファン・ハーテンらは、ブロマゼパムだけ投与した場合と比較してフルボキサミン(100ミリグラム / 日)との共投与の後に、ブロマゼパム血漿レベルが中程度(137%)増加することを示した[176]。関与している特定のアイソフォームはまだ同定されていない。フルボキサミンはまた四級TCA(例えばイミプラミン)の代謝も干渉する[132]。この効果はフルボキサミンによるN脱メチル化工程の著しい阻害の結果である[290]。同様のフルボキサミン効果がアミトリプチリンとクロミプラミンに対して実証されている[190、191]。フルボキサミンのN脱メチル化工程への阻害効果はおそらくこの代謝工程に関与している主要なアイソフォームであるCYP2C19の強力な阻害によって説明がつく。ただ、CYP1A2及びCYP3A4への効果も排除できない[186]。フルボキサミンはまたブスピロンのAUCを大きく増大させた(2.4倍)[175]。キニジン血漿濃度はフルボキサミン摂取後に中程度しか上昇しなかった(41%)[180]。両者の相互作用の機序はフルボキサミンによるブスピロンとキニジンのCYP3A4媒介代謝の阻害によって最も説明がつきやすい。ここでもまた、ほかのCYPアイソフォームへの効果も除外できないであろう[175、180]。フルオキセチンとは対照的に、フルボキサミンはメタドンの両方のエナンチオマーの血漿濃度を中程度上昇させたが、活性エナンチオマーである(R)メタドンに対する効果の方が顕著であった[167]。ここでもまた、正確な機序は分かっていない。随伴したフルボキサミンがメキシレチンのAUCを55%だけ上昇させることも発見されており、その効果はCYP1A2の阻害によって説明しやすかった。メキシレチンの代謝に関与する主要なアイソフォームであるCYP2D6はおそらく阻害されなかった[190]。フルボキサミンは健康なボランティアで65%だけプログアニルのAUCを増大させたと報告されており、(S)メフェニトイン酸化多型の迅速代謝群の表現型とされた[179]。CYP1A2、CYP2C19及びCYP3A4がプログアニルの酸化的代謝に関与しているアイソフォームであると特定されたが、インビボでの相対的寄与度はまだ決定されていない[192]。よって、フルボキサミンによるプログアニルのクリアランスの障害はおそらくこれら3つのアイソフォームに対する複合的効果によって生じるのだろう。フルボキサミンとの共投与に続いて、プロプラノロールの血漿濃度が約5倍上昇した[108]。プロプラノロールの代謝に関与するいくつかのアイソフォーム(CYP1A2、CYP2D6及びCYP2C19)が阻害されたようである。」(第30ページ左欄第27行?同ページ右欄第32行)

(2-h)

(第28?29ページの表9)

(2-i)「要点:これらの相互作用の度合いは、明らかにどのアイソフォームが物質の代謝に関与かと薬物のクリアランス全般への貢献度に依存している。それにもかかわらず、データは、フルボキサミンがクリアランスが単一のCYPの活性だけに依存しない薬物との相互作用の最も高い薬効を示す。なぜならば、このSSRIはいくつかのCYPアイソフォームを阻害するからである。
インビボで通常有効な治療量で、さまざまなCYPアイソフォームを阻害する際の選択的セロトニン再取り込みインヒビターの効果は表(10)にまとめられる。この表はフルオキセチンとパロキセチンがインビボで強力なCYP2D6インヒビターである一方で、フルボキサミンが強力にCYP1A2及びCYP2C19を阻害することを示している。セルトラリンは最も良い状態で中程度のCYP2D6インヒビターであり、シタロプラムはインビボで主要なアイソフォームに対してほとんど効果を有しない。これらの結論はインビトロのデータに関する結論と一致している。」(第31ページ左欄第1?19行)

(2-j)

(第31ページの表10)

ウ 同じく拒絶理由通知書で引用された、本願の優先権主張日の前に頒布された刊行物である、引用例3(澤田 康文 ら,日本臨牀,2001年8月,第59巻,第8巻,第1539?1545ページ、上記拒絶理由通知書における引用文献7)には次の記載がある。

(3-a)「抗うつ薬の薬物動態と相互作用」(タイトル)

(3-b)「II.SSRIの体内動態と相互作用
現在、我が国において使用されている選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)としては、フルボキサミンとパロキセチンがある。ここでは、両薬物の体内動態と相互作用について解説する。
1.フルボキサミン
フルボキサミンの消化管における吸収は良好であり、蛋白結合率は77%と他の抗うつ薬と比較して低い。体内からの消失は肝代謝が中心であり、その代謝は主としてCYP2D6により担われている^(8,9))。半減期は14-19時間であるが、肝障害患者においては延長傾向を認める^(8))。また、喫煙者(喫煙はCYP1A2を誘導する)において血中濃度が低下していることから、消失には一部CYP1A2が寄与していると考えられている^(10))。常用量の範囲では代謝に飽和は認められず、投与量に対してAUCは線形性を示す。
クリアランスは腎機能や年齢によっては影響を受けないと考えられているが、性差については、うつ病患者において女性の方が血中濃度が高かったという報告がある。代謝物の種類は多様であり、すべての代謝物について詳細な検討は行われていないが、少なくとも主代謝物(カルボン酸代謝物)のセロトニン取り込み阻害活性は、親化合物と比較してかなり弱いものである。
フルボキサミンの体内動態に関して特筆すべき点は、他剤との相互作用である。フルボキサミンは、CYP1A2^(11))、CYP2C19^(12))、CYP3A4、CYP2D6に対して阻害作用を有し、その強度はCYP1A2に対するものが最も強く、以下CYP2C19、CYP3A4、CYP2D6の順と考えられている^(9))。また、CYP2C9に対しても阻害作用を示すと考えられている。このため、これらによって代謝を受ける薬物との併用により、それら薬物の血中濃度が大きく増大する可能性がある。例えば、すでに述べたように三環系抗うつ薬は、CYP2C19やCYP1A2(一部CYP3A4)により脱メチル化を受けるが、フルボキサミンはこれらすべてのアイソフォームを阻害する。また、三環系抗うつ薬のもう一つの主要代謝経路である水酸化は主としてCYP2D6により行われるが、フルボキサミンはCYP2D6に対しても弱いながら阻害作用を有する。このため、イミプラミン、デシプラミン、アミトリプチリン、クロミプラミンいずれにおいてもフルボキサミン併用による血中濃度の上昇が報告されている^(7,9))。
その相互作用の程度については報告により異なるが、例えばSpinaらは、フルボキサミンの併用により、イミプラミンのクリアランスは73%低下すると報告している^(13))。症例としても、イミプラミンの血中濃度が5倍以上にまで上昇した例が報告されている。三環系抗うつ薬とフルボキサミンはいずれも抗うつ薬であり、これらが併用される機会は少なくないと思われるため、両剤の相互作用には十分注意する必要がある。
また、他に併用の可能性が高い薬物としてはベンゾジアゼピン系の抗不安薬、睡眠薬があげられる。これらの多くはCYP3A4(ジアゼパムなどについてはCYP2C19が関与)を介して代謝されるため、フルボキサミンとの併用により血中濃度が上昇する。Fleishakerらは、健常人においてアルプラゾラムの体内動態に及ぼすフルボキサミン(100mg/日)の影響を検討しており、併用によりアルプラゾラムの血中濃度が約2倍に上昇したと報告している(図3)^(15))。一方、主として抱合代謝を受けるロラゼパムの血中濃度は、フルボキサミンによりほとんど影響を受けなかったと報告されている^(16))。したがって、フルボキサミンを使用している患者に対してはロラゼパムなどの抱合代謝を受けるベンゾジアゼピンを選択することが望ましい。
またフルボキサミンは、抗うつ薬やベンゾジアゼピン系薬物以外にも、フェニトイン、カルパマゼピン、プロプラノロール、テオフィリン、シクロスポリン、ワルファリンなどの血中濃度を、1.5-5倍程度上昇させることが報告されており、いずれも併用注意とされている(表1)。
更にフルボキサミンは、MAO(モノアミンオキシダーゼ)阻害薬やリチウムとの間で、おそらく薬物動力学的機構に基づくと考えられる相互作用(作用の増強)が報告されており、それぞれ併用禁忌、併用注意となっている。」(第1541ページ右欄第20行?第1543ページ右欄第3行)

(3-c)

(第1543ページの表1)

エ 引用例2はセロトニン再取り込みインヒビター(SSRI)の薬物相互作用に関するレビューであるが(摘記(2-a)、(2-b))、当該文献にはSSRIに関わらず一般論として薬剤の代謝には代謝酵素であるCYPアイソフォーム(分子種)が関与しており、多くのCYP分子種のうちCYP1A、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C、CYP2D6、CYP2E1、及びCYP3Aが主要な酵素であること(摘記(2-c)、(2-d))も開示されている。また、引用例3にはやはりSSRIに関わらず一般論として、患者に複数の薬剤を同時期に投与する場合には薬物相互作用の可能性が存在すること、薬物相互作用により薬物の代謝に関与するCYPの活性が阻害され、それによって望ましくない薬物血漿濃度の上昇が生じるおそれがあることも記載されている(摘記(2-e))。
そうすると、薬物治療において複数の薬物を同時期に使用することによって薬物相互作用が生じ、薬物の血漿濃度が上昇してしまう危険性を回避することが解決すべき課題であり、そのような課題を当業者が本願の優先権主張日前既に認識し得たといえる。

オ 引用例1の記載と引用例2の記載を併せて見ると、引用例1にはピルフェニドンとCAMとの併用により肺線維症患者のピルフェニドンAUCの比が増大したと記載されていること(摘記(1-e))、CAMは薬物代謝酵素阻害作用を有すること(摘記(1-e))、AUCの増大が肝機能、薬物代謝酵素などの影響によるものと推察されていること(摘記(1-f))、及び薬物相互作用により薬物の代謝に関与するCYPの活性が阻害され、それによって望ましくない薬物血漿濃度の上昇が生じるおそれがあること(摘記(2-e))を勘案すれば、引用例1にはピルフェニドンとCAMとの相互作用が生じた結果、ピルフェニドンの血漿濃度が上昇した可能性があることが記載されているといえる。

カ 次に、引用例2にはSSRIの一種であるフルボキサミンが複数のCYP分子種を阻害することが記載されており(摘記(2-f))、既に複数のCYP分子種が代謝に関与している薬剤の多くとフルボキサミンとに相互作用が生じることが開示されている(摘記(2-g)、(2-h))。これらの事実に基づいて、引用例2では、SSRIの中でフルボキサミンは複数のCYPが代謝に関与している薬剤と最も強力に相互作用を示すと結論付けられている(摘記(2-i)、(2-j))。
また、引用例3は抗うつ薬の薬物動態と相互作用についてのレビューであり(摘記(3-a))、この文献にもフルボキサミンが複数のCYP分子種に対して阻害作用を有すること(摘記(3-b))、多数の薬物とフルボキサミンとに相互作用が生じていることが記載されている(摘記(3-b)、(3-c))。さらに、引用例3には実際にフルボキサミンとの併用について併用禁忌または併用注意となった薬剤が複数存在することも開示されている(摘記(3-b))。
そうすると、複数のCYP分子種を阻害し、SSRIの中でも最も強力な相互作用を生じる薬剤であり、かつ多数の薬剤と相互作用を示し、実際に複数の薬剤で併用禁忌または併用注意となっているフルボキサミンを使用する際に、相互作用を未然に防止したり、相互作用に留意しながら慎重にフルボキサミンを使用すべきことは、本願の優先権主張日前既に当業者に広く知られていたといえる。

キ さらに、ピルフェニドンは複数のCYP分子種(CYP1A2、2C9、2C19、2D6、2E1)によって代謝されることは、本願の優先日前既に広く知られており(要すれば、上記拒絶理由通知書で引用文献2として引用された嶋村 京子, ちば県薬誌, 2009年5月,Vol.55,No.6,第23?27ページの第26ページ左欄第2?4行参照)、かつ上述のとおりフルボキサミンがCYP1A2、CYP2C19、CYP2D6を含む複数のCYP分子種が関与する薬剤の代謝を強力に阻害することは引用例2及び引用例3に記載されている。そうすると、ピルフェニドンとフルボキサミンとの相互作用を予測してこれらの併用を回避することは当業者であれば容易に想到し得ることである。

ク ここで、本件補正発明において「随伴使用」とはいかなることを意味するかを検討すると、本願明細書段落【0013】には「本明細書で使用される場合、「随伴使用」は、同時投与または共投与と交換可能であることが理解される。したがって、上記2つの薬剤が、これらの両方の薬剤が同時に身体に影響することを可能にする様式で与えられる限り、この用語は、同じ経路または異なる経路による、同時での投与または異なる時間での投与を包含することが理解される。例えば、随伴使用は、同じ適応症のためであろうと異なる適応症のためであろうと、同じ医師によって処方されようと異なる医師によって処方されようと、随伴して施される薬物適用(medication)をいい得る。」と記載されていることから、ピルフェニドンとフルボキサミンとの「随伴使用」とは少なくともこれらの併用をも含む概念であると解される。
また、本件補正発明において「警告」とはいかなることを意味するかは必ずしも明らかではない。そこで、本願明細書の記載を参酌しても「警告」の定義は何らなされておらず、段落【0090】には「(a)フルボキサミンおよびピルフェニドンの使用が禁忌である、(b)フルボキサミンで処置されている患者におけるピルフェニドンの使用が禁忌である、ならびに/あるいは(c)ピルフェニドンおよびフルボキサミンの共投与がピルフェニドンへの曝露において平均6倍の増大をもたらした、(d)ピルフェニドンおよびフルボキサミンの共投与がピルフェニドンのピーク血清濃度において平均2倍の増大をもたらした。」が例示されているのみである。そうすると、フルボキサミンおよびピルフェニドンの併用により相互作用が生じることについて注意喚起する程度のことをもって警告といえる。
そうすると、本件補正発明において「治療がフルボキサミンの随伴使用時に警告をもってピルフェニドンを使用することを必要とする」とは、ピルフェニドンを用いて特発性肺線維症の患者を治療する際に、フルボキサミンとの薬物併用を回避するか、または相互作用に留意しながら慎重にフルボキサミンを使用するよう注意喚起することを要する程度の意味ととらえることができる。

ケ よって、引用例1?3に接した当業者であれば、ピルフェニドンを用いて特発性肺線維症の患者に抗うつ剤も併用する必要が生じた場合、抗うつ剤であるフルボキサミンとの薬物併用を回避するか、または相互作用に留意しながら慎重にフルボキサミンを使用するよう注意喚起することは、当業者が容易になし得ることである。

コ そして、フルボキサミンとの有害な薬物間相互作用を回避し、ピルフェニドン療法を改善するという本件補正発明の効果(本願明細書段落【0001】)も引用例1?3に記載された発明と比較して格別顕著であるとは認められない。

サ 審判請求人は、審判請求書についての、平成25年11月8日付け手続補正書の「(ii) 本発明が進歩性を有すること」において、ピルフェニドンの代謝において重要な役割を果たすCYP酵素としてCYP1A2を選択させる動機づけは存在しない旨主張する。
しかしながら、上述のとおり、薬物治療において複数の薬物を同時期に使用することによって薬物相互作用が生じ、薬物の血漿濃度が上昇してしまう危険性を回避することが解決すべき課題であり、そのような課題を当業者が本願の優先権主張日前既に認識し得たこと(上記エ)、引用例1にはピルフェニドンとCAMとの相互作用が生じた結果、ピルフェニドンの血漿濃度が上昇した可能性があることが記載されているといえること(上記オ)、ピルフェニドンが複数のCYP分子種(CYP1A2、2C9、2C19、2D6、2E1)によって代謝されることが本願の優先権主張日前既に当業者に広く知られていたこと(上記キ)、かつフルボキサミンがCYP1A2、CYP2C19、CYP2D6を含む複数のCYP分子種が関与する薬剤の代謝を強力に阻害することは引用例2及び引用例3に記載されていること(上記カ)を勘案すれば、ピルフェニドンとフルボキサミンとの併用を回避するとの動機付けは存在するといえる。
また、審判請求人は、フルボキサミンは、5つのCYP種のうちの2種(CYP1A2及び2C19)のみを強力に阻害し、CYP2C9及び2D6に対しては中程度の阻害効果しか有さず、2E1に対しては阻害効果を有しないことから、公知の補償機構によってほかのCYP酵素の活性が高められて、CYP1A2及び2C19を除く3つのCYP種が依然としてピルフェニドン代謝に寄与していると予測したはずである旨主張する。
しかしながら、引用例2にはフルボキサミンがCYP1A2及び/またはCYP2C19が代謝に関与する薬剤と非常に相互作用しやすいことが記載されているだけなく、複数のCYP種が関与する薬剤とは最も強力にフルボキサミンは相互作用すると記載されている以上、たとえ補償機構が生じる可能性を勘案しても、ピルフェニドンとフルボキサミンとの併用を回避するとの動機付けが存在しないとはいえない。
また、上記(4)(イ)の摘記(2-d)によれば、CYP2E分子種の寄与はヒトの肝臓CYP全体のわずか7%であることは解明されていた事項であるから、たとえ引用例2、引用例3にはフルボキサミンが2E1に対してどの程度の阻害効果を示すかが開示されていなかったとしても、これをもって当業者がピルフェニドンとフルボキサミンとの相互作用が予測できなかったとまではいえない。

シ さらに、審判請求人は、本明細書の実施例1に示されているように、フルボキサミンとの同時投与によりピルフェニドンのAUCが4?7倍も増大するという結果は、引用例2に記載された結果と比較すると、明らかに当業者の予測を超えたものである旨主張する。
しかしながら、前述のとおり、本件補正発明の効果はフルボキサミンとの有害な薬物間相互作用を回避し、ピルフェニドン療法を改善するということであり(本願明細書段落【0001】参照)、ピルフェニドンとフルボキサミンとの併用による相互作用が当業者にとって予測できるのであるから、ピルフェニドンのAUCが4?7倍増大したという結果は相互作用が生じたことを単に確認したものにすぎず、本件補正発明の効果が顕著なものとはいえない。
よって、審判請求人の主張はいずれも採用できない。

(ウ)小括
したがって、本件補正発明は、引用例1?3に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.補正却下についてのむすび
したがって、上記「1.」のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、もし仮に本件補正が特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとしても、上記「2.」のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年9月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?19に係る発明は、平成25年3月18日付け手続補正書に記載の特許請求の範囲の請求項1?19に記載されたとおりのものである。このうち、請求項12に係る発明を以下「本願発明」という。

2.引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1?3及びその記載事項は、前記「第2」2.(2)及び(4)で記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「1.」で検討したとおり本件補正発明に相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記「第2」2.(4)に記載したとおり、引用例1?3に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1?3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、ほかの請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-19 
結審通知日 2015-02-23 
審決日 2015-03-11 
出願番号 特願2012-539128(P2012-539128)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一清野 千秋  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 横山 敏志
前田 佳与子
発明の名称 ピルフェニドン療法を施す方法  
代理人 辻居 幸一  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  

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