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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C30B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1303478
審判番号 不服2014-11483  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-02 
確定日 2015-07-21 
事件の表示 特願2011-260954「シリコンおよび製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月30日出願公開、特開2013-103874〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成23年11月11日を出願日とする出願であって、平成25年9月26日付けの拒絶理由が通知され(発送日 平成25年10月8日)、平成25年12月2日付けで意見書と特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出され、平成26年2月28日付けで拒絶査定が起案され(発送日 平成26年3月11日)、これに対し、平成26年6月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出されたものである。

2.平成26年6月2日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年6月2日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
2-1.本件補正について
本件補正は、平成25年12月2日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1を次のように補正するものである。

(補正前)
「【請求項1】
マイノリテイキャリヤー・ライフタイムが400μsec?2000μsecの太陽電池用FZ単結晶シリコン。」

(補正後)
「【請求項1】
マイノリテイキャリヤー・ライフタイムが600μsec?2000μsecの太陽電池用FZ単結晶シリコン。」

本件補正における請求項1の補正は、発明特定事項であるマイノリテイキャリヤー・ライフタイムの数値範囲を、補正前の「400μsec?2000μsec」から、「600μsec?2000μsec」と減縮するものであり、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ、また、新規事項を追加するものでもない。
そこで、補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-2.独立特許要件について
2-2-1.本件補正発明について
上記補正後の請求項1に係る発明は、平成26年6月2日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される事項によって特定される次のとおりのものである(以下、「本件補正発明」という。)。

「マイノリテイキャリヤー・ライフタイムが600μsec?2000μsecの太陽電池用FZ単結晶シリコン。」

2-2-2.刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され本願出願日前に頒布された国際公開第00/073542号の明細書(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。

(ア)「また、この時同時に基板ライフタイム測定用のサンプルウエーハも切り出して、ライフタイムの測定を行なっている。この時のライフタイムの測定方法は、次の通りである。
1.基板ライフタイムの測定方法:
1)測定用基板: 厚み2?3mm又は厚さ250?400μmのウエーハ
2)前処理条件: スライスウエーハをHF:HNO_(3)=5%:95%の混酸で処理し、両面のスライス損傷層をエッチング除去した後、洗浄を行い、その後、ウエーハ表面にAM(Air Mass)1.5の条件下で定常光を30時間照射した後で、HFにて表面の自然酸化膜を除去する。引き続き、ヨウ素、エタノール混合溶液を使ったケミカル・パッシベーション(CP)処理を施して、結晶表面のキャリア再結合を低減したものとする。
3)ライフタイム測定方法: マイクロ波-PCD法(光導伝度減衰法)を用いて基板ライフタイムの測定を行う。」(第15頁第12行乃至第24行)
(イ)「(比較例3)
FZ法で製造したボロン添加シリコン単結晶FZ法で、直径4インチの単結晶棒を2本引き上げて、その酸素濃度、抵抗率、基板ライフタイムを測定したところ、酸素濃度は、0.1×10^(17)atmos/cm^(3)以下とほとんど含有されていなかった。また、抵抗率/基板ライフタイムは、図2に示す通りとなった(三角プロット)。
この中の1本を用いて、2cm×2cm角、厚さ250μmの太陽電池を作製し、光照射前後の変換効率を測定した。測定結果は、表1に併記した。
表1から明らかであるように、FZ法で製造したボロンドープ基板を用いた太陽電池では、ほとんど酸素が含有されていないため、光劣化はほとんど生じない。ただし、極めて高コストであり、大直径のものを得ることが難しい。また、結晶強度が低く、耐久性に問題があった。」(第21頁第7行乃至第17行)
(ウ)「図2



2-2-3.刊行物1に記載された発明の認定
刊行物1の(イ)の記載から、刊行物1の比較例3には、FZ単結晶シリコンが記載されており、これは「太陽電池」用の「ボロン添加シリコン単結晶」である。
また、(イ)によれば、図2には、比較例3で製造されたシリコン単結晶の抵抗率/基板ライフタイムがプロットされており、(ウ)を参照すると、図中FZ(B)として示される三角プロットがこれにあたる。
そして、(ウ)を詳細に検討すると、FZ(B)の基板ライフタイムは、基板抵抗率が0.8Ωcm及び6Ωcmのとき、概ね800μsec及び1000μsecである。
そして、ここで測定した基板ライフタイムは、(ア)によればマイクロ波-PCD法(光導伝度減衰法)を用いて測定されたものである。
したがって、刊行物1の比較例3には、「マイクロ波-PCD法(光導伝度減衰法)を用いて測定された基板ライフタイムが800μsec?1000μsecの太陽電池用ボロン添加FZ単結晶シリコン。」が記載されている(以下、「引用発明」という。)。

2-2-4.補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「マイクロ波-PCD法(光導伝度減衰法)を用いて測定された基板ライフタイム」と、本願補正発明の「マイノリテイキャリヤー・ライフタイム」とは、「ライフタイム」という点で共通し、また、「ライフタイム」が、通常マイノリテイキャリヤーのライフタイムを指す用語であること、及び、マイクロ波-PCD法(光導伝度減衰法)を用いることにより、マイノリテイキャリヤーのライフタイムが測定されることは技術常識である(必要であれば、特開2008-251726号公報の段落【0060】等を参照。)。したがって、引用発明における「マイクロ波-PCD法(光導伝度減衰法)を用いて測定された基板ライフタイム」は、本願補正発明における「マイノリテイキャリヤー・ライフタイム」である。
次に、引用発明の「太陽電池用ボロン添加FZ単結晶シリコン」が、本願補正発明の「太陽電池用FZ単結晶シリコン」に包含されるものであるか検討する。
例えば、特開2007-314374号公報には次の記載がある。特開2007-314374号公報に記載された発明の名称は、「CZ法により製造したシリコン結晶棒を原料としたFZ単結晶シリコンの製造方法」であり、同公報の明細書に、「・・・
直径130mmのCZ単結晶シリコンを原料棒として、図1に示すFZ単結晶製造装置を用いて、FZ法によりゾーニングを行い、直径128mm、直胴長さ約80cmのシリコン単結晶を製造した。その際、ホスフィン(PH_(3))をアルゴンで0.15ppmに希釈したドーパントガスを図10(B)に示すように、成長させる単結晶の直胴部の長さに応じて1,000cc/minから、700cc/minに変化させて、浮遊帯域に吹き付け、ガスドープを実施した。・・・」(段落【0041】)、「その結果、図10(A)に示すようにコーン側の抵抗率がN型100Ω・cm、テール側の抵抗率がN型57.5Ω・cmのCZ単結晶シリコンを原料棒として使用することで、製造されたFZ単結晶シリコンの抵抗率は図10(C)に示すようにN型30.4Ω・cmでほぼ軸方向に均一であった。・・・」(段落【0042】)と記載されている。この記載から明らかなように、特開2007-314374号公報では、FZ法による単結晶育成中にドーパントガスを浮遊帯域に吹き付け、ガスドープを実施したものを「FZ単結晶シリコン」としており、「FZ単結晶シリコン」という用語は、不純物を添加していない「FZ単結晶シリコン」のみでなく、不純物を添加した「FZ単結晶シリコン」を含むものである。
よって、引用発明の「太陽電池用ボロン添加FZ単結晶シリコン」は、ボロンが添加されているものの、本願補正発明の「太陽電池用FZ単結晶シリコン」に包含されるものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「マイノリテイキャリヤー・ライフタイムが800μsec?1000μsecの太陽電池用FZ単結晶シリコン。」である範囲において一致し、本願補正発明は、この範囲で、刊行物1に記載された発明である。

2-2-5.請求人の主張について
請求人は審判請求書にて、(1)「FZ単結晶シリコン」は、ボロンや燐を添加する前の「ヴァージン」の「FZ単結晶シリコン」である(審判請求書第3頁下から第6乃至第5行)。(2)本願補正発明の「太陽電池用FZ単結晶シリコン」は、不純物がドープされていない「太陽電池用FZ単結晶シリコン」であり、半導体技術では、引用発明の「太陽電池用ボロンドープFZ単結晶シリコン」とは全く異質の物であると主張しているので(同第2頁下から第3行乃至第3頁第3行)、この点についてさらに検討する。
まず、上記(1)の主張に関し、本願明細書の記載について検討する。
本願明細書の段落【0007】には、「(1)双晶、リネージ等を許容し、ドーピングは原則としてNtypeでは燐、Ptypeではホウ素を使用する。尚、砒素、ガリューム等5属、3属等の金属もドーピング材として使用することも許容する。」、「(2)芯ドープには中心部が空洞(≒5mmφ)の多結晶Rodが用いられその空洞部にマッチ棒状に加工されたドーピングマザーメタルを使用する。」、「又、ガスドープには炉内FZ単結晶生成ゾーンに一般にはアルゴン又は水素にて希釈されたホスヒン、ディボラン等のドーピングを行うことも可能である。(図-1)」と記載されている。
燐、ホウ素、砒素、ガリュームをドーピング材として使用したFZ単結晶シリコンや、芯ドープにドーピングマザーメタルが使用されたFZ単結晶シリコン、炉内FZ単結晶生成ゾーンにホスヒン、ディボラン等のドーピングがなされたFZ単結晶シリコンは、ボロンや燐が添加されたFZ単結晶シリコンである。
また、本願明細書の段落【0005】には「太陽電池としての変換効率及び寿命に影響するライフタイムをドーピング以前値として、(バージン単結晶として)500μsec以上にキープする事を特徴とする」と記載されており、「ドーピング以前」という記載から、「バージン単結晶」は、「FZ単結晶シリコン」が製造された後、ドーピング工程を行う前の状態を指すものであることを示唆するものである。このため、FZ法による製造工程中に不純物がドープされていても、該工程後にドーピング工程が行われていない単結晶は、「バージン単結晶」に含まれると解される。したがって、請求人が審判請求書にて主張するように、「バージン単結晶」は、ボロンや燐が添加されていない「FZ単結晶シリコン」に限定されるものでない。
さらに、本願明細書には、「(7)ノン・ドーピングFZ単結晶成形で、ライフ・タイムは780μsecで目的の製品を得ることが出来た。この場合の単結晶の比抵抗は、Ptype1,200Ωcmであった。」(段落【0011】の【実施例1】(7))、「実施例1と同じFZ単結晶製造機器を使用し、略同1条件で単結晶を作成したノン・ドーピングFZ単結晶成形でライフ・タイム980μsecで目的の製品を得ることが出来た。この場合の単結晶の比抵抗はN-type1,500Ωcmであった。」(段落【0011】の【実施例2】)と記載されている。ここでは、「ノン・ドーピングFZ単結晶成形」という用語は使用されているが、単結晶シリコンにおいて、PtypeやN-typeの単結晶を得るには、それぞれPtype、N-typeの不純物を添加する必要があることは技術常識であるから、実施例1,2に記載された「ノン・ドーピングFZ単結晶成形」は、「ヴァージン」の「FZ単結晶シリコン」であったとしても、「Ptype1,200Ωcm」又は「N-type1,500Ωcm」となるように不純物が添加されたFZ単結晶シリコンである。
よって、本願補正発明で用いられている「FZ単結晶シリコン」を、ボロンや燐等の不純物が添加されていない「FZ単結晶シリコン」に限定して解釈すべき理由はない。
次に、上記(2)の主張に関しては、前記2-2-4.ア において述べたように、「FZ単結晶シリコン」という用語は、不純物を添加していない「FZ単結晶シリコン」のみでなく、不純物を添加した「FZ単結晶シリコン」を含むものであるから、本願補正発明の「FZ単結晶シリコン」という用語が、ボロンや燐を添加していない「FZ単結晶シリコン」に限定して用いられるべきであるとはいえない。
以上の通りであるので、請求人の主張を採用することができない。

2-2-7.小括
したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明といえるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3.まとめ
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成26年6月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-6に係る発明は、平成25年12月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されたとおりのものである(以下、請求項の項番にしたがって、「本願発明1」などといい、全体をまとめて「本願発明」という。)。

本願発明1は、前記2.で検討した本願補正発明から、前記2-1.に記載した「FZ単結晶シリコン」の、「マイノリテイキャリヤー・ライフタイム」の値「600μsec?2000μsec」を、「400μsec?2000μsec」とするのみで、他の特定事項は共通するものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項の一部を減縮したものに相当する本願補正発明が、前記2-2.に記載した通り、刊行物1に記載された発明であるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明である。

したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明といえるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

5.むすび
したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-30 
結審通知日 2015-05-12 
審決日 2015-05-26 
出願番号 特願2011-260954(P2011-260954)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C30B)
P 1 8・ 575- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 光貴  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 中澤 登
萩原 周治
発明の名称 シリコンおよび製造方法  

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