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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1303498
審判番号 不服2014-328  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-08 
確定日 2015-07-23 
事件の表示 特願2009-95264号「放射冷暖房システム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月28日出願公開、特開2010-243129号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年4月9日の出願であって、平成25年10月2日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年1月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において平成27年1月27日付けで拒絶理由が通知され、同年4月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成27年4月6日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「液体状の熱媒体の冷却及び加熱の少なくとも一方を行う熱源機と、前記熱源機に接続される放射端末機と、前記熱源機と前記放射端末機とを連絡すると共に、前記熱媒体を前記熱源機と前記放射端末機との間で循環させる循環パイプと、を備え、
前記放射端末機は、前記循環パイプに連絡して前記熱媒体が通過する内部管路を備え、
前記循環パイプ及び前記内部管路は全て樹脂製であり、
前記放射端末機は複数設けられ、複数の前記放射端末機の少なくとも一部は、結露水の処理機能を有しない放射暖房のみを行う床暖房パネルユニットであり、別の一部は冷房及び暖房の両機能を有し、且つ結露水の処理機能を有する冷暖房用放射端末機であって、
前記循環パイプは、前記熱源機に接続された主循環部と、複数の前記放射端末機それぞれに接続された複数の枝循環部と、を有し、
複数の前記枝循環部は、前記床暖房パネルユニットに接続された第1分岐系統と、前記冷暖房用放射端末機に接続された第2分岐系統とに区分され、
前記主循環部には、前記第1分岐系統に接続される第1分岐循環部と、前記第2分岐系統に接続される第2分岐循環部と、が設けられ、
前記第1分岐循環部には、熱媒体の通過を規制する開閉機構が設けられると共に、
冷房運転時に前記開閉機構を制御して前記床暖房パネルユニットへの前記熱媒体の供給を停止する熱媒供給制御部を更に備え、
前記循環パイプには、開放型の熱媒体貯蔵タンクが設けられていることを特徴とする放射冷暖房システム。」

第3 刊行物に記載された事項
1 刊行物1に記載された事項
当審の拒絶の理由に引用された特開2004-132612号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(「・・・」は記載の省略を示す。以下同じ。)

(刊1-1)「【0008】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1?図3によって示す本実施の形態は、不凍液等による水熱媒を生成して搬送する熱源機1で構成される熱源側熱媒サイクルと、これによって供給される水熱媒によって冷暖房を行う室内放熱器で構成される利用側サイクルとにより構成される暖房及び冷暖房システムに関するものである。熱源機1は、図1に示すように水熱媒を貯留するバッファタンク2と、バッファタンク2の水熱媒を循環させる送水手段としての循環ポンプ3と、水熱媒を熱交換器4を介して加熱又は冷却するヒートポンプ方式の冷凍サイクルとによって構成されている。
【0009】
バッファタンク2には往き側接続口と、戻り側接続口がそれぞれ設けられていて、往き側接続口は、循環ポンプ3の吸込側に配管接続され、戻り側接続口は、採熱用の熱交換器4の二次流路に直列に接続された配管の出口側が接続されている。循環ポンプ3の吐出側には利用側サイクルの往き側配管が接続され、熱交換器4の二次流路の入口側には利用側サイクルの戻り側配管が接続されている。ヒートポンプによる冷凍サイクルは、一機又は複数機の室外熱交換器5と四方切換弁と圧縮機及び流量調節弁並びに熱交換器4の一次流路で構成された熱媒循環閉路であり、冷凍サイクルの冷媒と水熱媒とは相互に独立し、混じり合うことはないが熱交換器4により熱的には接続している。この熱源機1は、独自の電源6で動作し、少なくとも室外熱交換器5については屋外に設置される。
【0010】
利用側サイクルは、往き側配管と戻り側配管とによる主配管7に枝管8によって接続された室内放熱器による水熱媒の循環系として構成されている。室内放熱器としては、室内空気を循環させながら冷却或いは加熱することで冷暖房機能を果す冷暖房兼用の一機又は複数機のファンコイルユニット9や、輻射や自然対流による暖房機能を果す暖房専用の床暖房パネル10やパネルヒータ11が接続される。暖房専用の室内放熱器の接続された主配管7の往き側配管には、補助熱源用加熱手段12が接続されている。補助熱源用加熱手段12は、熱源機1とは別の電源13で動作し、ファンコイルユニット9のような冷暖房兼用の室内放熱器が設置されるシステムでは、ファンコイルユニット9より下流側に電磁弁14又は熱動弁を介して、その能力に応じて一機又は複数機が配備される。」

(刊1-2)「【0014】
一方、熱源機1のコントローラにより、冷房モードが設定されると、制御手段15はヒートポンプの冷凍サイクルを冷房サイクルに切換え、電磁弁14を閉弁させ室内放熱器のコントローラからの運転情報の取込みを行う。室内放熱器のいずれかから運転要求の信号が入ると、室内放熱器に送る水熱媒の温度を冷房できる温度になるように、熱源機1を制御する。室内放熱器側からの運転要求の信号が一つもない場合には、循環ポンプ3は停止状態におかれる。」

(刊1-3)「【0023】
補助熱源用加熱手段12を熱源機1とは別体とし、その電源13についても熱源機1の電源6とは別にすることにより、熱源機1の小型化、機器個々の小容量化が可能になり、施工性も向上する。補助熱源用加熱手段12の運転信号を接点信号とすることにより、補助熱源用加熱手段12の駆動装置を簡易化でき装置の低コスト化を推進できる。冷房運転中には、補助熱源用加熱手段12及び暖房専用の室内放熱器への水熱媒の導通を止水することにより、補助熱源用加熱手段12に結露対策を講じる必要がなく、小型で低コストな構成となる。」

(刊1-4)図1より、熱源機1とファンコイルユニット9及び床暖房パネル10とを接続する配管には、熱源機1に接続される主配管7と、主配管7から分岐し床暖房パネル10に接続される枝管8(以下、「枝管8A」という。)と、主配管から分岐しファンコイルユニット9に接続される枝管8(以下、「枝管8B」という。)とを備えることが看取できる。

よって、上記記載より、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「不凍液等による水熱媒を生成して搬送する熱源機1は、水熱媒を加熱又は冷却するヒートポンプ方式の冷凍サイクルを有し、熱源機1から供給される水熱媒によって冷暖房を行う室内放熱器で構成される利用側サイクルを備える暖房及び冷暖房システムであって、
利用側サイクルは、往き側配管と戻り側配管とによる主配管7に枝管8によって接続された室内放熱器による水熱媒の循環系として構成され、
室内放熱器としては、室内空気を循環させながら冷却或いは加熱することで冷暖房機能を果す冷暖房兼用の一機又は複数機のファンコイルユニット9と、輻射や自然対流による暖房機能を果す暖房専用の床暖房パネル10が接続され、
熱源機1とファンコイルユニット9及び床暖房パネル10とを接続する配管には、熱源機1に接続される主配管7と、主配管7から分岐し床暖房パネル10に接続される枝管8Aと、主配管から分岐しファンコイルユニット9に接続される枝管8Bとを備え、
暖房専用の室内放熱器の接続された主配管7の往き側配管には、補助熱源用加熱手段12が、ファンコイルユニット9より下流側に電磁弁14を介して配備され、
冷房モードが設定されると、制御手段15はヒートポンプの冷凍サイクルを冷房サイクルに切換え、電磁弁14を閉弁させ、暖房専用の室内放熱器への水熱媒の導通を止水するものであって、
水熱媒を貯留するバッファタンク2には往き側接続口と、戻り側接続口がそれぞれ設けられていて、往き側接続口は、循環ポンプ3の吸込側に配管接続され、戻り側接続口は、採熱用の熱交換器4の二次流路に直列に接続された配管の出口側が接続され、循環ポンプ3の吐出側には利用側サイクルの往き側配管が接続され、熱交換器4の二次流路の入口側には利用側サイクルの戻り側配管が接続されている
暖房及び冷暖房システム」

2 刊行物2に記載された事項
当審の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2008-267618号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(刊2-1)「【技術分野】
【0001】
この発明は、屋内の冷房や暖房を輻射熱により行う冷暖房用パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天井に施工する輻射式の冷暖房パネルがあった。このような冷暖房パネルは、金属や石膏ボードで作られた輻射パネルを有し、輻射パネルには複数の吸音孔が貫通して形成されている。輻射パネルの裏面には、樹脂製の熱交換パイプが配置され、この冷暖房パネルを天井に設置し、熱交換パイプに所望の温度の流体を流し、冷暖房を行っている。
【0003】
樹脂製の熱交換パイプは、加工性が良好であり、軽量でコストが安価という特長があるが、火災が発生したときには、炎が吸音孔から輻射パネルの裏面に進入し、熱交換パイプに引火するおそれがある。引火しなくても、熱により溶けて輻射パネルの吸音孔から漏れる危険性がある。このため、建築基準法及び消防法上の不燃性の認定を得ることができなかった。」

(刊2-2)「【0023】
また冷暖房用パネル10は、輻射パネル12の受け具18以外の部分は不燃シート23で覆われているため、不燃性が向上し、火災のときに熱交換パイプ16に引火したりすることを防ぐ。そして、熱交換パイプ16に安価な合成樹脂を使用しても、不燃性の認定を得ることができる。」

3 刊行物3に記載された事項
当審の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平7-318114号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(刊3-1)「【0028】次に、図3に示す本発明の第二の実施例について説明する。なお、図1、図2に示した実施例と同一機能、同一部材のところは同一符号を付与し詳細な説明は省略する。
【0029】35は第一循環路9の凝縮器、36は第二循環路11の加熱部であり、この第二循環路11の加熱部36は第一循環路9の凝縮器35と伝熱関係としたもので、加熱部36は凝縮器35の熱により加熱される。
【0030】上記構成において、暖房装置の動作を説明する。第一循環路9に封入された相変化流体であるフロンなどの冷媒は、圧縮機1の運転により前述のヒートポンプ冷凍サイクルを行い、大気などから蒸発器4で集めた熱に圧縮機1での圧縮熱を加えた熱を凝縮器35で加熱部36に放熱する。さらに流体動力回収部10では前述のように流体の圧力エネルギーを取り出して流体搬送部12を駆動し、加熱部36で昇温された第二循環路11の作動流体を床暖房パネルなどの放熱部14に循環させるとともに放熱部14において放熱して暖房を行う。
【0031】即ち、第二循環路11の放熱部14による暖房の熱源および作動流体の搬送動力源はいずれも第一循環路9のヒートポンプ冷凍サイクルによるものである。」

(刊3-2)「【0033】さらに、熱源部のヒートポンプ冷凍サイクルと暖房用の作動流体の循環路を分離することにより、ヒートポンプ冷凍サイクルを最小化して冷媒封入量を低減して冷媒封入量の増大による液圧縮など圧縮機の信頼性低下を防止しヒートポンプ冷凍サイクルの信頼性向上による信頼性の高い暖房装置を提供できる。そのうえ、水あるいは不凍液などの作動流体を封入する暖房用の第二循環路は長配管化あるいは樹脂配管化などができ施工自由度の拡大あるいは施工性の向上など実用性が向上できる。」

4 刊行物4に記載された事項
当審の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-153431号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(刊4-1)「【背景技術】
【0002】
従来、輻射冷房に用いられる冷却パネルは、冷却されたパネル表面からの輻射熱によって冷房を行っている。この輻射熱を発するパネル表面は前述の如く冷却されるため、該パネル表面に接している空気との温度差によりパネル表面に湿気が付着して結露が生じる。このように生じる結露対策としては、センサーで露点温度を感知して前述の結露を生じさせないように運転を制御する技術、或いは、結露が生じたとしても送風することで結露を蒸発させる技術が一般的に知られている。
【0003】
特開平10-325570号公報(以下、特許文献1)では、熱媒体が流される熱媒体パイプの周囲に長さ方向に伸びる複数のフィンを設け、このフィンに切り込みや突出部を設けて、前記パイプについた水滴(結露)を該パイプから落としやすくしている。さらにはファンからの送風によって前記パイプについた水滴の蒸発を促進させるようにしている。
【0004】
また実開平2-9714号公報(以下、特許文献2)では、冷却板の伝熱面に付着した結露水に直接手や物が触れないようにするために、冷却板の伝熱面に突起体を設けている。また前記突起体頂部の結露の発生を少なくするために、前記突起体頂部に毛体を設けている。さらに前記伝熱面や突起体に付着した結露水を容易に落下させるために、前記伝熱面や突起体に溝を設けている。
【0005】
また実開昭62-9020号公報(以下、特許文献3)では、複数の熱交換パイプが並設されてなる熱交換部の下部に、該熱交換部に結露した水滴を受けるための水滴受皿を設けた構成が開示されている。さらには前記熱交換パイプの外周にフィンを取り付ける構成も開示されている。」

(刊4-2)「【0010】
そこで、本発明は、上記従来の技術を更に発展させたものであり、前述の結露を促進し、且つ結露が進行することで生ずる水滴を滴下しやすくして、輻射による冷房効果を高い状態で維持しつつ除湿効果を高めることを目的とするものである。」

5 刊行物5に記載された事項
当審の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2007-285643号公報(以下、「刊行物5」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(刊5-1)「【0014】
また上記構成に加えて、前記吸熱板の外表面に、鉛直方向に連なる断面突起状のフィンを多数設け、前記フィンの突起先端頂部の構造を、結露水が水滴状に発生し、発生水滴が太ることなく頂部を落下しやすくしたことを特徴とする。」

6 刊行物6に記載された事項
当審の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平7-55208号公報(以下、「刊行物6」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(刊6-1)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述のようなシステムにおいては、図1に示すように、温度変化に伴う媒体の膨張・収縮を吸収するために、大気開放型の膨張タンク2を循環用ポンプ6の上流側に設けて、媒体の圧力を一定に保つような構造になっている。・・・」

(刊6-2)「【0008】
【実施例】図1はこの種の熱源装置の系統図、図2は本発明に使用する膨張タンク2の一実施例を示したものである。図1において、冷温水式熱源機5としては例えば吸収式冷凍機を使用することができ、負荷7としては例えばビルの冷暖房室内機などが考えられる。大気開放型膨張タンク2は通常熱源機5の戻り配管の循環用ポンプ6の上流側から分岐して設けられており、本実施例では図2に示すように、この膨張タンク2の液面のほぼ全表面積を覆うような形状・寸法の平板状の浮子3が浮かべられている。・・・」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「熱源機1」は、「不凍液等による水熱媒を生成して搬送する」ものであって、「水熱媒を加熱又は冷却する」ものであるから、本願発明の「液体状の熱媒体の冷却及び加熱の少なくとも一方を行う熱源機」に相当する。
引用発明の「室内放熱器」は、「熱源機1から供給される水熱媒によって冷暖房を行う」ものであるから、本願発明の「放射端末機」と、「前記熱源機に接続される端末機」との限度で一致する。
引用発明の「主配管7」及び「枝管8」は、熱源機1から供給される水熱媒に関して、「往き側配管と戻り側配管とによる主配管7に枝管8によって接続された室内放熱器による水熱媒の循環系として」「利用側サイクル」を構成しているから、本願発明の「循環パイプ」とは、「前記熱源機と前記端末機とを連絡すると共に、前記熱媒体を前記熱源機と前記端末機との間で循環させる循環パイプ」との限度で一致する。
また、引用発明の「室内放熱器」は、「主配管7」及び「枝管8」に接続され、水熱媒が通過する管路をその内部に備えることはその機能上、明らかであるから、本願発明の「前記放射端末機」と、「前記循環パイプに連絡して前記熱媒体が通過する内部管路を備え」る点で一致する。
さらに、引用発明の「室内放熱器」として、ファンコイルユニット9と床暖房パネル10が接続されており、室内放熱器が複数設けられていることは、本願発明の「前記放射端末機は複数設けられ」ることと、「前記端末機は複数設けられ」ることとの限度で一致する。
引用発明の「床暖房パネル10」は、「輻射や自然対流による暖房機能を果す暖房専用」であって、その機能上、放射による暖房を行うものといえるから、本願発明の「放射暖房のみを行う床暖房パネルユニット」に相当する。
引用発明の「ファンコイルユニット9」は、「室内空気を循環させながら冷却或いは加熱することで冷暖房機能を果す冷暖房兼用」であるから、本願発明の「冷暖房用放射端末機」とは、「冷房及び暖房の両機能」「を有する冷暖房用端末機」との限度で一致する。
引用発明の「主配管7」は、「熱源機1に接続され」るから、本願発明の「前記熱源機に接続された主循環部」に相当し、引用発明の「枝管8」は、「主配管7から分岐し床暖房パネル10に接続される枝管8Aと、主配管から分岐しファンコイルユニット9に接続される枝管8B」を有するから、本願発明の「枝循環部」と、「複数の前記端末機それぞれに接続された複数の枝循環部」との限度で一致する。
引用発明の「枝管8」の「枝管8A」は、「床暖房パネル10に接続され」るから、本願発明の「前記床暖房パネルユニットに接続された第1分岐系統」に相当し、また、引用発明の「枝管8」の「枝管8B」は、「ファンコイルユニット9に接続される」から、本願発明の「第2分岐系統」と、「前記冷暖房用端末機に接続された第2分岐系統」との限度で一致する。
引用発明の「主配管7」は、「熱源機1に接続される」ものであって、引用発明の「主配管7」のうち「枝管8B」と接続される部分は、本願発明の「前記第2分岐系統に接続される第2分岐循環部」に相当する。また、引用発明の「主配管7」において、「暖房専用の室内放熱器の接続された主配管7の往き側配管には、補助熱源用加熱手段12が、ファンコイルユニット9より下流側に電磁弁14を介して配備され」ており、引用発明の「主配管7」のうち「枝管8B」と接続される部分よりも水熱媒流れの下流側の往き側配管及び水熱媒流れの上流側の戻り側配管は、「枝管8A」に接続される部分であるから、本願発明の「前記第1分岐系統に接続される第1分岐循環部」に相当する。さらに、引用発明の「暖房専用の室内放熱器の接続された主配管7の往き側配管には」「ファンコイルユニット9より下流側に電磁弁14」があることから、引用発明の「電磁弁14」を備えることは、本願発明の「前記第1分岐循環部には、熱媒体の通過を規制する開閉機構が設けられる」ことに相当する。
引用発明の「制御手段15」は、「冷房モードが設定されると、制御手段15はヒートポンプの冷凍サイクルを冷房サイクルに切換え、電磁弁14を閉弁させ、暖房専用の室内放熱器への水熱媒の導通を止水する」ものであって、「暖房専用の室内放熱器」とは、「床暖房パネル10」であるから、本願発明の「冷房運転時に前記開閉機構を制御して前記床暖房パネルユニットへの前記熱媒体の供給を停止する熱媒供給制御部」に相当する。
引用発明の「バッファタンク2」は、「水熱媒を貯留する」ものであって、その「往き側接続口と、戻り側接続口がそれぞれ設けられていて、往き側接続口は、循環ポンプ3の吸込側に配管接続され、戻り側接続口は、採熱用の熱交換器4の二次流路に直列に接続された配管の出口側が接続され、循環ポンプ3の吐出側には利用側サイクルの往き側配管が接続され、熱交換器4の二次流路の入口側には利用側サイクルの戻り側配管が接続されて」おり、「往き側配管」と「戻り側配管」により「主配管7」をなし、「枝管8」も含めた管路に、「バッファタンク2」が設けられているから、本願発明の「前記循環パイプ」に設けられた「熱媒体貯蔵タンク」に相当する。
引用発明の「暖房及び冷暖房システム」は、「熱源機1から供給される水熱媒によって冷暖房を行う室内放熱器」を利用するものであるから、本願発明の「放射冷暖房システム」と、「冷暖房システム」との限度で一致する。


そうすると、両者は、
「液体状の熱媒体の冷却及び加熱の少なくとも一方を行う熱源機と、前記熱源機に接続される端末機と、前記熱源機と前記端末機とを連絡すると共に、前記熱媒体を前記熱源機と前記端末機との間で循環させる循環パイプと、を備え、
前記端末機は、前記循環パイプに連絡して前記熱媒体が通過する内部管路を備え、
前記端末機は複数設けられ、複数の前記端末機の少なくとも一部は、放射暖房のみを行う床暖房パネルユニットであり、別の一部は冷房及び暖房の両機能を有する冷暖房用端末機であって、
前記循環パイプは、前記熱源機に接続された主循環部と、複数の前記端末機それぞれに接続された複数の枝循環部と、を有し、
複数の前記枝循環部は、前記床暖房パネルユニットに接続された第1分岐系統と、前記冷暖房用端末機に接続された第2分岐系統とに区分され、
前記主循環部には、前記第1分岐系統に接続される第1分岐循環部と、前記第2分岐系統に接続される第2分岐循環部と、が設けられ、
前記第1分岐循環部には、熱媒体の通過を規制する開閉機構が設けられると共に、
冷房運転時に前記開閉機構を制御して前記床暖房パネルユニットへの前記熱媒体の供給を停止する熱媒供給制御部を更に備え、
前記循環パイプには、熱媒体貯蔵タンクが設けられている冷暖房システム。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
循環パイプ及び内部管路の材質について、本願発明は、「前記循環パイプ及び前記内部管路は全て樹脂製」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点

[相違点2]
本願発明は、床暖房パネルユニットが「結露水の処理機能を有しない」ものであり、冷暖房用放射端末機が「結露水の処理機能を有する」ものであって、全体として「放射冷暖房システム」を構成するのに対し、引用発明は、床暖房パネル10が、「結露水の処理機能を有しない」ことについて特定がなされておらず、また、ファンコイルユニット9が、冷暖房用端末機であるが、「結露水の処理機能を有する」放射端末機であることについて特定がなされておらず、全体として「放射」型の冷暖房システムとはいえない点。

[相違点3]
熱媒体貯蔵タンクについて、本願発明は、開放型であるのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点

第5 判断
1 [相違点1]について
刊行物2には、摘示(刊2-1)及び(刊2-2)より、冷暖房用パネル10の熱交換パイプ16に安価な合成樹脂を使用することと、樹脂製の熱交換パイプは、加工性が良好であり、軽量でコストが安価との特長があるという技術事項が記載されている。
刊行物2に記載された「冷暖房用パネル10の熱交換パイプ16」は、本願発明の樹脂製の「内部管路」に相当する。
また、刊行物3には、摘示(刊3-1)及び(刊3-2)より、水などの作動流体を封入する第二循環路11を樹脂配管化できる技術事項が記載されている。
刊行物3に記載された「第二循環路11」は、本願発明の樹脂製の「循環パイプ」に相当する。
そうしてみると、引用発明において、樹脂製のパイプは、加工性が良好であり、軽量でコストが安価という特徴があることから、循環パイプ及び内部管路の材質について、刊行物2及び3に示された上記技術事項を適用し、循環パイプ及び内部管路を全て樹脂製とし、上記相違点1の本願発明のようになすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 [相違点2]について
引用発明においては、床暖房パネル10が放射暖房のみを行うものであるところ、暖房しか行わなければ結露が生じないことは技術常識(刊行物1の摘示(刊1-3)の「冷房運転中には、補助熱源用加熱手段12及び暖房専用の室内放熱器への水熱媒の導通を止水することにより、補助熱源用加熱手段12に結露対策を講じる必要がなく」の記載からも明らか。)であることから、引用発明において、床暖房パネル10を「結露水の処理機能を有しない」ように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
他方、引用発明においては、ファンコイルユニット9が冷房及び暖房の両機能を有するものであるが、冷暖房用端末機として放射型の端末機を用いることは、刊行物2の摘示(刊2-1)及び(刊2-2)並びに特開平6-58576号公報(第【0007】段落の輻射冷暖房パネル10、10参照。)にも例示されるように、本願出願前周知の事項であって、冷房時に結露水が生じることは技術常識(刊行物1の摘示(刊1-3)の「冷房運転中には、補助熱源用加熱手段12及び暖房専用の室内放熱器への水熱媒の導通を止水することにより、補助熱源用加熱手段12に結露対策を講じる必要がなく」の記載からも明らか。)であるところ、冷房用放射端末機に結露水の処理機能を設けることは、刊行物4の摘示(刊4-1)及び摘示(刊4-2)並びに刊行物5の摘示(刊5-1)にも例示されるように、本願出願前周知の事項であることから、引用発明において、冷暖房用端末機として上記周知の放射型の端末機を適用して、全体として放射型の冷暖房システムとすること、また、冷房時の結露水の対策として、上記周知の事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、相違点2に係る本願補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものである。

3 [相違点3]について
循環パイプに開放型の熱媒体貯蔵タンクを設けることは、刊行物6の摘示(刊6-1)及び摘示(刊6-2)にも例示されるように、本願出願前周知の事項であって、熱媒体貯蔵タンクに開放型と閉鎖型があり、そのどちらを採用するかは、設計、施工、メンテナンス等の観点から当業者であれば適宜採用することができる程度の事項にすぎないから、引用発明において、水熱媒を貯留するバッファタンク2に、上記周知の事項を適用して、開放型のものとし、上記相違点3の本願発明のようになすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の効果について検討しても、放射端末機の内部管路と循環パイプとが全て樹脂製であるため、腐蝕の虞が軽減し、さらに、施工も容易であるために開放型の循環ラインを構築し易くなり、防錆用の不凍液の補給などのメンテナンスも不要であることから、一般に普及しやすい共通の熱源機を利用した放射冷暖房システムを容易に構築できる等の効果(本願の明細書の第【0015】段落等参照)は、刊行物2及び3に示された上記技術事項から、樹脂製のパイプであれば腐蝕のおそれが軽減することは、その材質上、明らかであって、また、循環パイプに開放型の熱媒体貯蔵タンクを設ける上記周知の事項から、開放型の場合に施工も容易であることも、その機能上、明らかであることから、本願発明の効果は、引用発明、刊行物2及び3に示される技術事項並びに上記周知の事項から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

なお、請求人は、平成27年4月6日付け意見書3.(2)において、「引用文献2及び3は、それぞれ、冷暖房システムにおける一部の管路を樹脂化してもよい点を開示しているに過ぎず、本願発明のように、循環パイプ及び内部管路を全て樹脂製とする点について開示するものではない。」(引用文献2及び3は本審決の刊行物2及び3である。)と主張しているが、樹脂製のパイプは、加工性が良好であり、軽量でコストが安価という特徴があるところ、引用発明において、循環パイプ及び内部管路の材質について、刊行物2及び3に示された上記技術事項を適用し、循環パイプ及び内部管路を一部ではなく全て樹脂製とすることは、当業者が容易に想到し得たことであって、請求人の主張はあたらない。
また、請求人は、同意見書3.(2)において、「引用文献8?10は、確かに熱媒体に関するタンクが開示されているものの、本願発明との課題の共通性がなく、「循環パイプ及び内部管路が全て樹脂製であり、循環パイプに開放型の熱媒体貯蔵タンクが設けられている」との構成を採用する動機付けがないと思料する。また、他の引用文献にも、本願発明との課題の共通性はなく、上記構成を採用する動機付けがないものと思料します。」(引用文献8は本審決の刊行物6である。)と主張するが、開放型の熱媒体貯蔵タンクは、パイプが腐食のおそれがない場合に限って利用されてきたわけではなく、上記のとおり循環パイプに開放型の熱媒体貯蔵タンクを設けることは周知の事項であって、熱媒体貯蔵タンクに開放型と閉鎖型のどちらを採用するかは、設計、施工、メンテナンス等の観点から当業者であれば適宜採用することができる程度の事項であるから、引用発明において、開放型の熱媒体貯蔵タンクを設ける動機付けがないとの請求人の主張は当たらない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2及び3に示される技術事項並びに上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-22 
結審通知日 2015-05-26 
審決日 2015-06-09 
出願番号 特願2009-95264(P2009-95264)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 真二  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 小野 孝朗
紀本 孝
発明の名称 放射冷暖房システム  
代理人 西本 博之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 池田 正人  
代理人 城戸 博兒  

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