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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61F
管理番号 1303500
審判番号 不服2014-2179  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-05 
確定日 2015-07-23 
事件の表示 特願2010- 25498「貼付剤及び貼付製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月24日出願公開、特開2010-207571〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年2月8日(優先権主張平成21年2月10日)の出願であって、平成25年10月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲を対象とする手続補正書が提出されたものである。
そして、当審において平成26年12月19日付けで拒絶理由を通知し、これに対し、平成27年2月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成27年2月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1により特定される次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という)。
「支持体の片面に粘着剤層を有する低伸縮性貼付剤であって、
貼付剤の平面外形の曲線部分の合計長さW(mm)の、貼付剤の平面外形の直線部分の合計長さS(mm)に対する割合P(W/S)が1.22以下であり、
曲線部分を円弧と近似した場合の当該円弧の半径R(mm)が0.5mm以上であり、
5%モジュラスが0.5(N)/25mm以上であり、支持体の最外層表面の静摩擦係数が1.0以下であり、
平面外形のうちの曲線部分について、隣接する2つの直線部分を延長した2つの延長線が交わる点を貼付剤の外形の角部であると想定した場合、貼付剤の外形が多角形を形成し、
支持体が、1.5?6μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムと、目付量6?12g/m^(2)のポリエチレンテレフタレート製不織布との積層フィルムであり、且つ
粘着剤層がポリエチレンテレフタレート製不織布側に形成されることを特徴とする貼付剤。」

3.引用例及び引用発明
(1)当審の拒絶理由に引用された特開平5-309128号公報(以下「引用文献1」という。)には下記の事項が記載されている。
(a)「【0003】特に、これらの貼付剤は比較的長時間にわたって貼付する場合があり、皮膚面への貼付後の違和感や皮膚に対する刺激性を発現しないものが重要な要求特性となる。」
(b)「【0010】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は厚み0.5?6μmのポリエステル製フィルムと坪量5?20g/m^(2) のポリエステル製不織布とを積層してなる支持体の不織布面に、粘着剤層を積層してなる貼付剤を提供するものである。
【0011】…。
【0012】本発明の貼付剤は支持体の構成に特徴を有するものであり、厚み1?6μmのポリエステル製フィルムと坪量5?20g/m^(2) のポリエステル製不織布を積層してなる構造である。ポリエステル製フィルムは支持体エッジによる刺激を低減させるためにはできるだけ薄い方が好ましく、実用面から1?4μm、さらには2?3μm程度の極薄厚のフィルムを用いることが好ましい。厚みが0.5μmに満たない場合は、後述する不織布と積層して本発明の支持体を得ることが困難となり実用的ではなく、また、6μmを超える厚みの場合は、ポリエステル自体が有する剛性が発現して皮膚面への貼付した場合にゴワゴワ感(違和感)を生じるようになる。
【0013】また、上記ポリエステル製フィルムと積層するポリエステル製不織布も、皮膚面への貼付後のゴワゴワ感をなくし、また、積層する粘着剤層との投錨性を向上させるために、本発明においては坪量を通常使用されているものよりも少なくする必要がある。好ましい坪量としては8?15g/m^(2) 、さらには10?12g/m^(2) 程度のものを用いる。坪量が5g/m^(2) に満たない場合には、上記ポリエステル製フィルムと積層した際に不織布としての作用効果や粘着剤層との投錨性の向上が充分に得られず、また、20g/m^(2) を超えるものでは不織布にゴワゴワ感を生じる。」
(c)「【0015】上記ポリエステル製フィルムおよびポリエステル製不織布に用いるポリエステルとしては、生体に対する安全性(非毒性)や実用性、汎用性などの点からポリエチレンテレフタレートを主体にするものが好ましい。」
(d)「【0021】
【発明の効果】本発明の貼付剤は極薄のポリエステル製フィルムと特定の坪量のポリエステル製不織布を積層した構造の支持体を用いているので、貼付操作時に適度な自己支持性を有し取扱性に優れていると共に、貼付後の皮膚刺激性を顕著に改善できるという効果を発揮する。」

段落【0010】の「支持体の不織布面に、粘着剤層を積層してなる」という記載からみて、引用文献1に記載の貼付剤は支持体の片面である不織布面に粘着剤層を積層していることが明らかである。したがって、以上の記載事項から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。
「支持体の片面に粘着剤層を有する貼付剤であって、支持体が2?3μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムと、坪量10?12g/m^(2)のポリエチレンテレフタレート製不織布との積層フィルムであり、支持体の不織布面に粘着剤層を積層した貼付剤。」

(2)当審の拒絶理由に引用された特開2005-224981号公報(以下「引用文献2」という。)には下記の事項が記載されている。
(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるフィルム上に不織布が積層されてなることを特徴とする積層支持体。
【請求項2】
縦、横とも5%モジュラスが40N/150mm巾以下であり、かつ、50%モジュラスが80N/150mm巾以下であることを特徴とする請求項1記載の積層支持体。」
(b)「【0019】
本発明の積層支持体は、縦、横とも5%モジュラスが40N/150mm巾以下であり、かつ、50%モジュラスが80N/150mm巾以下であることが好ましい。
【0020】
…。
【0021】
本発明の積層支持体のモジュラスが、上記数値範囲外であると、皮膚に対する追随性が悪くなり、関節等に貼付した際に曲げに追随できなくなって剥がれ易くなる。」
(c)「【0027】
本発明によれば基材として柔軟な樹脂フィルムを用いるために、得られる皮膚貼付薬シートを皮膚に貼着したとき、違和感がなく、更に関節に貼ったときも自在に延伸するので動作が制限されない。また、エンボス加工を施した場合は、積層支持体のフィルム面の滑り性が更に良くなり、薄く引っかかりがない。また、柔軟性が向上したことで皮膚貼付時にフィルムの剛性による剥がれや浮きがなくなり、よりフィットするため衣服、肌でこすられて剥がれることもない。」

(3)当審の拒絶理由に引用された実願昭47-136207号(実開昭49-112900号)のマイクロフィルム(以下「引用文献3」という。)には図面と共に下記の事項が記載されている。
(a)「従来,一般に使用されている消炎鎮痛剤等の貼付剤については,大きさ,通気性,伸縮性等の諸点を考慮した考案が数多く見受けられるが,その形状としての四隅はいずれも直角の形をしている。そのため,これを人体の皮膚面に貼付使用した後,当人が該貼付部位を動かしたりすると,衣類等との摩擦によつて貼付剤の隅部が剥がれ易く」(明細書第1頁第11行?第2頁第1行)
(b)「本案は上述のような従来品の欠点を解決したもので,第1図はこの種の貼付剤の四隅を曲率半径0.5cmの円弧状とした平面図(実物大)であり」(明細書第3頁第2?4行)
(c)第1図から、貼付剤は周囲長に対する四隅の曲線部分の割合いは小さく、それに比べて直線部分の割合いが大きいので、全体として略長方形の形状をしている点がみてとれる。

(4)当審の拒絶理由に引用された特開平11-9623号公報(以下「引用文献4」という。)には図面と共に下記の事項が記載されている。
(a)「【0003】…。滑り性が悪い不織布を基材とする医療用粘着テープは、使用時に、その表面が身体の他の部分に引っ掛かったり、衣類と擦れたりすることにより、貼付位置がずれたり、剥れやすいという問題がある。また、不織布基材の滑り性が悪いと、医療用粘着テープの表面に摩擦による静電気汚れが生じたり、医療用粘着テープを指に巻いたときなどに違和感を生じて、フィット性に劣るものとなる。
【0004】不織布に処理剤を添加して、表面の滑り性を改善する方法が知られているが、粘着剤の投錨力が低下して、皮膚などの被着体に粘着剤が残留しやすくなるという問題点がある。フィルムや不織布をエンボス加工したり、加圧ロール間に通して加熱・加圧するといった物理的な方法により、平滑化処理することも知られているが、充分に満足できるものは得られていない。例えば、感圧性接着剤で一方の表面を被覆された、型押しされた弾性フィルムを含んでなり、接着剤を含まない表面上の摩擦係数が約1.0よりも低い粘着包帯が提案されている(特開平3-178664号公報)。該公報には、共重合ポリエステルエーテルエラストマーからなる弾性フィルムを型押しすることにより、摩擦係数を未処理フィルムの0.64から0.61または0.53に低減した例が示されている。
【0005】…。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、不織布の片面に粘着剤層を形成した医療用粘着テープであって、その外表面がヒトの皮膚の感触に近い適度の滑り性を有する医療用粘着テープを提供することにある。より具体的に、本発明の目的は、外表面が適度の滑り性を有し、指などの肌に貼付したとき、フィット性が良好で、違和感を感じないドレッシングテープ、外科用粘着テープ、救急絆創膏などの医療用粘着テープを提供することにある。本発明者は、従来技術の有する問題点を克服するために鋭意研究した結果、基材となる不織布に、エンボス加工、滑り度調整処理液の塗布処理加工、これらの組み合わせなどの平滑化処理を行うことにより、その外表面(すなわち、粘着剤層が形成されていない側の表面)の静摩擦係数を0.30?0.50の選択された範囲内に調整したところ、ヒトの皮膚の感触に近い適度の滑り性を有する医療用粘着テープの得られることを見いだした。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。」

4.対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「坪量」は本願発明の「目付量」に相当し、同じく「2?3μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム」は「1.5?6μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム」に、「坪量10?12g/m^(2)のポリエチレンテレフタレート製不織布」は「目付量6?12g/m^(2)のポリエチレンテレフタレート製不織布」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、
「支持体の片面に粘着剤層を有する貼付剤であって、
支持体が、2?3μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムと、目付量10?12g/m^(2)のポリエチレンテレフタレート製不織布との積層フィルムであり、且つ粘着剤層がポリエチレンテレフタレート製不織布側に形成される貼付剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明では、「低伸縮性貼付剤であって5%モジュラスが0.5(N)/25mm以上であ」るのに対して、引用発明では、伸縮性についてこのように規定されていない点。

[相違点2]
本願発明では、「貼付剤の平面外形のうちの曲線部分について、隣接する2つの直線部分を延長した2つの延長線が交わる点を貼付剤の外形の角部であると想定した場合、貼付剤の外形が多角形を形成し、前記曲線部分の合計長さW(mm)の、貼付剤の平面外形の直線部分の合計長さS(mm)に対する割合P(W/S)が1.22以下であり、曲線部分を円弧と近似した場合の当該円弧の半径R(mm)が0.5mm以上であ」るのに対して、引用発明では、貼付剤の平面外形をこのように規定していない点。

[相違点3]
本願発明では、「支持体の最外層表面の静摩擦係数が1.0以下であ」るのに対して、引用発明では、支持体の最外表面の静摩擦係数をこのように規定していない点。

5.判断
そこで、上記相違点1について検討すると、引用発明の貼付剤において、皮膚への貼付後の違和感(ゴワゴワ感)を防ぐことは従来からの課題であるところ(上記3.(1)(b)参照)、貼付剤の5%モジュラスを40N/150mm(=6.7N/25mm)に設定することで、皮膚に貼着したとき、違和感がなく、衣服、肌でこすられて剥がれることもないものとすることが引用文献3に記載されており、引用発明において、皮膚に貼着したとき、違和感がなく、衣服、肌でこすられて剥がれることもないように、引用発明の接着剤層や不織布層の厚さ(貼付剤の厚さ)等を適宜設定して、5%モジュラスが6.7N/25mmとなるようにすることは当業者が容易になし得たことである。
また、本願明細書の段落【0018】において「本発明の貼付剤において「低伸縮性」とは、5%モジュラスが、0.5N以上、好ましくは、1.0N以上をいう。」としており(当該見解が一般的なものであるとする根拠はないが)、これに従えば、5%モジュラスを40N/150mm(=6.7N/25mm)とした貼付剤は「低伸縮性」のものであるといえる。
次に、上記相違点2について検討すると、一般に、貼り付けて使用するラベル、シール、パッド等においては、その四隅の角部から剥がれやすいことは周知の課題であり、当該四隅を落として丸くして剥がれ防止がされる(例えば、特開2001-125917号公報、特開2007-316472号公報参照)、この際、剥がれにくさと、材料の歩留まりを考慮して四隅を落とす寸法を定めることは当業が適宜なす設計事項にすぎない。
貼付剤においても四隅がいずれも直角の形をしたものは、衣類等との摩擦によつて隅部が剥がれ易いことは斬界周知の課題である(上記3.(3)(b)参照)。
そして、引用文献2には、当該課題を解決するために、貼付剤の四隅を円弧状とすることが記載されている。
また、引用文献2の第1図(上記3.(3)(b)には「実物大」と記載されており、実際の形状を表したものと認められる。)には、貼付剤の平面外形が曲線部分を有し、前記曲線部分について、隣接する2つの直線部分を延長した2つの延長線が交わる点を貼付剤の外形の角部であると想定した場合、貼付剤の外形が多角形を形成し、前記曲線部分の合計長さW(mm)の、貼付剤の平面外形の直線部分の合計長さS(mm)に対する割合P(W/S)が1.22以下であり(直線部分合計長さSが曲線部分合計長さWよりも長いこと、すなわちW/Sが1以下であることが見て取れ、第1図のものは割合Pが1.22以下であると認められる。)、前記曲線部分を円弧と近似した場合の当該円弧の半径R(mm)が0.5mmとした、貼付剤が記載されており(上記3.(3)(b)(c)参照)、貼付剤として当該形状を採用することは当業者が容易になしえたことである。
したがって、引用発明において、衣類等との摩擦により剥がれないように「貼付剤の平面外形のうちの曲線部分について、隣接する2つの直線部分を延長した2つの延長線が交わる点を貼付剤の外形の角部であると想定した場合、貼付剤の外形が多角形を形成し、前記曲線部分の合計長さW(mm)の、貼付剤の平面外形の直線部分の合計長さS(mm)に対する割合P(W/S)が1.22以下であり、曲線部分を円弧と近似した場合の当該円弧の半径R(mm)が0.5mm以上であ」るとすることは当業者が適宜なし得た程度のことであると認める。
次に、上記相違点3について検討すると、貼付剤の外表面の静摩擦係数を1.0以下として、衣類との擦れにより剥がれることを防ぐことは引用文献4に記載されており、引用発明にこの技術を適用するのは当業者が適宜なし得たことである。

また、本願発明の作用効果も、引用発明、引用文献2?4に記載された事項から当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものと認められない。

なお、請求人は平成27年2月20日付けで提出された意見書において、『当該支持体は、本願[0070]の表1、5%モジュラスの欄にありますように、5%モジュラス値が(0.5(N)/25mmよりも)相当高く』(「4.1.理由1、理由2(請求項1?5)について」)としているが、請求項1の記載では「5%モジュラスが0.5(N)/25mm以上であり」としており、当該主張は特許請求の範囲の記載に基づく主張ではない。
また、本願発明の詳細な説明では、貼付剤の5%モジュラス値が0.5N/25mm以上の値をとる際に、如何に剥がれ易くなるのかは不明である。

したがって、本願発明は引用発明、引用文献2?4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上より、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-21 
結審通知日 2015-05-26 
審決日 2015-06-08 
出願番号 特願2010-25498(P2010-25498)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 秀明  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 熊倉 強
渡邊 真
発明の名称 貼付剤及び貼付製剤  
代理人 高島 一  

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