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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1303511
審判番号 不服2014-8150  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-02 
確定日 2015-07-23 
事件の表示 特願2009-246295「貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法、貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子及び貯湯タンク用断熱材」拒絶査定不服審判事件〔平成23年5月12日出願公開、特開2011-93952〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成21年10月27日の特許出願であって,平成25年8月23日付けで拒絶理由が通知され,同年25年10月25日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,平成26年1月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年5月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2.平成26年5月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年5月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成26年5月2日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「難燃剤及び発泡剤を含有するポリスチレン系樹脂を粒子状としてなる貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって,
前記難燃剤は,分子内に臭素原子を有し,臭素分含有量が70質量%未満であり,分子内にベンゼン環を有し,且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200?300℃の範囲内であり,
樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤及び発泡剤を添加,混練し,難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し,押し出すと同時に押出物を切断するとともに,押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る溶融押出法により得られたものであり,
スチレン系モノマー,エチルベンゼン,イソプロピルベンゼン,ノルマルプロピルベンゼン,キシレン,トルエン,ベンゼンからなる芳香族有機化合物の含有総量が500ppm未満であることを特徴とする貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。」なる記載を,
「難燃剤及び発泡剤を含有するポリスチレン系樹脂を粒子状としてなる貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって,
前記ポリスチレン系樹脂は,ポリスチレン樹脂とスチレン-メタクリル酸共重合体とからなり,
前記難燃剤は,分子内に臭素原子を有し,臭素分含有量が70質量%未満であり,分子内にベンゼン環を有し,且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200?300℃の範囲内であり,
樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤及び発泡剤を添加,混練し,難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し,押し出すと同時に押出物を切断するとともに,押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る溶融押出法により得られたものであり,
スチレン系モノマー,エチルベンゼン,イソプロピルベンゼン,ノルマルプロピルベンゼン,キシレン,トルエン,ベンゼンからなる芳香族有機化合物の含有総量が500ppm未満であることを特徴とする貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。」とする補正を含むものであり,かかる補正は次の補正事項からなるものである。

補正事項:本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)である,「ポリスチレン系樹脂」について,「前記ポリスチレン系樹脂は,ポリスチレン樹脂とスチレン-メタクリル酸共重合体とからなり,」との事項を付加する補正。

2.補正の目的
上記補正事項は,本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定するものであって,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものであるので,請求項1についての本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件の有無
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明について
本願補正発明は,次のとおりのものである。
「難燃剤及び発泡剤を含有するポリスチレン系樹脂を粒子状としてなる貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって,
前記ポリスチレン系樹脂は,ポリスチレン樹脂とスチレン-メタクリル酸共重合体とからなり,
前記難燃剤は,分子内に臭素原子を有し,臭素分含有量が70質量%未満であり,分子内にベンゼン環を有し,且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200?300℃の範囲内であり,
樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤及び発泡剤を添加,混練し,難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し,押し出すと同時に押出物を切断するとともに,押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る溶融押出法により得られたものであり,
スチレン系モノマー,エチルベンゼン,イソプロピルベンゼン,ノルマルプロピルベンゼン,キシレン,トルエン,ベンゼンからなる芳香族有機化合物の含有総量が500ppm未満であることを特徴とする貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。」

(2)特許法第29条第2項について
ア.刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された,本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-75952号公報(以下,「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
(A)発泡性ポリスチレン系樹脂中に(B)下記式(1)で表わされる臭素化合物(b-1成分),下記式(2)で表わされる臭素化合物(b-2成分)および下記式(3)で表わされる臭素化合物(b-3成分)からなる群より選ばれる少なくとも1種の臭素化合物を含み,発泡性ポリスチレン系樹脂中のポリスチレン系樹脂100重量部に対して,b-1成分?b-3成分の合計量が0.1?10重量部であり,且つ,b-1成分およびb-3成分はSO_(4)^(2-)イオン濃度がそれぞれ200ppm以下で,b-2成分は下記式(4)および下記式(5)で表される化合物の合計の含有量が10重量%以下である難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂組成物。
【化1】

(但し,式中m,n,p,qはそれぞれ1?6の整数であり,Ar^(1),Ar^(2)は同一または異なっていてもよく,炭素数5?16の2価の芳香族炭化水素基であり,Yはメチレン,プロピレン,イソプロピリデン,イソブチリデン,シクロヘキシリデン,スルフォン,ケトンおよび単結合からなる群より選ばれる少なくとも1種であり,R^(1),R^(2)はそれぞれ炭素数2?6の炭化水素基である。)
【化2】

(但し,式中Ar^(1),Ar^(2),Y,mおよびnの定義は前記式(1)と同じものを意味する。Q^(1)およびQ^(2)は同一もしくは異なり,不飽和基を1個または2個有する炭素数2?6の炭化水素基を示す。)
【化3】

(但し,式中Ar^(1),Ar^(2),Y,m,nおよびpの定義は前記式(1)と同じものを意味する。R3は炭素数2?6の炭化水素基を示し,Q^(3)は不飽和基を1個または2個有する炭素数2?6の炭化水素基を示す。)
【化4】

(但し,式中Ar^(1),Ar^(2),Y,m及びnの定義は前記式(1)と同じものを意味する。Q^(4)は不飽和基を1個または2個有する炭素数2?6の炭化水素基を示す。)
【化5】

(但し,式中Ar^(1),Ar^(2),Y,m及びnの定義は前記式(1)と同じものを意味する。)」(特許請求の範囲)

(イ)「【発明の属する技術分野】
本発明は,難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂組成物及び該組成物より得られた発泡成形品に関するものである。より詳細には,難燃性や耐熱性に優れた発泡性ポリスチレン系樹脂組成物および難燃性を有しかつ高密度の発泡ポリスチレン系樹脂成形品,特に保温材,包装材,建材等の用途に適する発泡ポリスチレン系樹脂成形品に関する。」(段落0001)

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
本発明は,上記の現状を鑑み,高密度の発泡ポリスチレン系樹脂成形品において,耐熱性および低環境負荷を維持しつつ,JIS A9511に基づく燃焼試験に合格する難燃性を確保することができる発泡性ポリスチレン系樹脂組成物を提供することを課題とする。さらに本発明は,そのような難燃性の高密度発泡ポリスチレン系樹脂成形品を得るための殊に耐熱性に優れる発泡性ポリスチレン系樹脂組成物を提供することを課題とする。」(段落0004)

(エ)「本発明で使用される発泡性ポリスチレン系樹脂は,一般に,スチレン系樹脂の単量体の懸濁重合により製造される。そのようなスチレン系樹脂としては,例えば,スチレンの単独重合体(ポリスチレン),メチルスチレンなどのアルキルスチレンの単独重合体,スチレンとアルキルスチレンの共重合体,スチレンとアクリル酸あるいはメタクリル酸との共重合体,スチレンとアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルとの共重合体,スチレンとアクリロニトリルとの共重合体や,上記スチレン系重合体とポリオレフィンやポリフェニレンエーテルとのブレンド物が挙げられる。」(段落0047)

(オ)「[参考例1](FR-1の合成)
コンデンサーを取り付けた500mLのフラスコに水酸化ナトリウム8.8g(0.22mol),蒸留水100mL,メタノール100mLおよびテトラブロモビスフェノールA54.4g(0.10mol)を加え攪拌し完全に溶解させ液温を30?40℃とした。液温を保ちつつ,アリルクロライド23.0g(0.30mol)を滴下し,滴下終了後から10時間攪拌を続けた。次いで,得られたドープを2000mLのフラスコに移し,塩化メチレン500mLおよび蒸留水500mLを加え攪拌した後,室温で1時間静置後,塩化メチレン層を回収し,これを蒸発乾固させ目的の下記式(6)で示されるテトラブロモビスフェノールAジアリルエーテルを主成分とする臭素化合物(FR-1)を得た。このFR-1に含まれる不純物として,高速液体クロマトグラフ法により,下記式(7)で示されるテトラブロモビスフェノールAモノアリルエーテルが0.3重量%検出された。
【化13】

【化14】

」(段落0073?0075)

(カ)「[実施例5]
発泡剤を4.0%含有する発泡性ポリスチレンビーズ100重量部と,参考例1で得られた化合物(FR-1)3.0重量部を15mmφ×二軸押出機に供給し,シリンダー温度160℃で押出し,ダイス先端から出てくるストランド状の樹脂を直ちに水槽中に誘導し,発泡しないように引き取ってペレタイザーにより,切断し,発泡性ポリスチレンペレットを得た。このペレットに含まれる不純物として,高速液体クロマトグラフ法による測定の結果,テトラブロモビスフェノールAと上記式(7)で示されるテトラブロモビスフェノールAモノアリルエーテルは共に検出限界以下であった。
このペレットに,12-ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド0.2%,ステアリン酸亜鉛0.2%を表面に均一にコーティングしたのち,予備発泡機で比重125kg/m^(3)に発泡した。次いで,発泡成形して,得られた成形品からサンプルを切り出し,JIS A9511による燃焼性試験に供した。」(段落0098,0099)

(キ)「【発明の効果】
本発明によれば,難燃性および耐熱性が両立された発泡性ポリスチレン系樹脂組成物が提供され,この発泡性ポリスチレン系樹脂組成物は保温材,包装材,建材等の高密度発泡成形品の材料として適している。」(段落0111)

イ.引用文献1に記載された発明
引用文献1には,摘示(ア)より,発泡性ポリスチレン系樹脂中に臭素化合物を含む難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂組成物が記載されている。具体的には,摘示(オ)及び(カ)より,特に「実施例5」として,発泡性ポリスチレンビーズと,式(6)で示されるテトラブロモビスフェノールAジアリルエーテルを主成分とする臭素化合物(FR-1)を二軸押出機に供給し,シリンダー温度160℃で押出し,ダイス先端から出てくるストランド状の樹脂を直ちに水槽中に誘導し,発泡しないように引き取ってペレタイザーにより,切断し,発泡性ポリスチレンペレットを得たことが記載されている。
したがって,引用文献1には,
「発泡性ポリスチレンビーズと,下記式(6)で示されるテトラブロモビスフェノールAジアリルエーテルを主成分とする臭素化合物(FR-1)を二軸押出機に供給し,シリンダー温度160℃で押出し,ダイス先端から出てくるストランド状の樹脂を直ちに水槽中に誘導し,発泡しないように引き取ってペレタイザーにより,切断して得られた発泡性ポリスチレンペレット

」(以下,「引用発明」という。)が記載されていると言える。

ウ.対比

(ア)本願補正発明の「難燃剤」について考察すると,本願の明細書には,テトラブロモビスフェノールA-ビス(アリルエーテル)が好ましい難燃剤として記載されるとともに(段落0032),実施例3において使用され(段落0060),そして,テトラブロモビスフェノールA-ビス(アリルエーテル)は,臭素分含有量が51質量%であり,分子内にベンゼン環を有し,且つ5質量%分解温度が226℃であることが記載されている(段落0067の表1)。
引用発明の臭素化合物(FR-1)の主成分である式(6)で示されるテトラブロモビスフェノールAジアリルエーテルは,本願の明細書に好ましい難燃剤として記載されるとともに(段落0032),本願の実施例3において使用される難燃剤と同じ物質でもあるから,引用発明の臭素化合物(FR-1)は,本願補正発明の「分子内に臭素原子を有し,臭素分含有量が70質量%未満であり,分子内にベンゼン環を有し,且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200?300℃の範囲内であ」る「難燃剤」に相当すると認められる。
(イ)引用発明の発泡性ポリスチレンペレットは,「難燃剤」である臭素化合物(FR-1)及び発泡剤を含有するものであるから,「難燃剤及び発泡剤を含有するポリスチレン系樹脂を粒子状としてなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子」であると言える。
(ウ)引用発明の「発泡性ポリスチレンビーズ」,「二軸押出機」,「ダイス」,「水槽中」は,それぞれ,本願補正発明の「ポリスチレン系樹脂」,「樹脂供給装置」,「ダイ」,「冷却用液体中」に相当することは明らかである。また,引用発明では,シリンダー温度が160℃であるから,発泡性ポリスチレンビーズは二軸押出機内において溶融していると認められるし,通常二軸押出機内で材料を混練して混練物を二軸押出機の先端の小孔から押し出すことを踏まえると,引用発明では,「樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤を添加,混練し,難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し,押出物を切断するとともに,押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得」ていると認められる。
(エ)以上のことから,本願補正発明と引用発明とは,
「難燃剤及び発泡剤を含有するポリスチレン系樹脂を粒子状としてなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって,
前記難燃剤は,分子内に臭素原子を有し,臭素分含有量が70質量%未満であり,分子内にベンゼン環を有し,且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200?300℃の範囲内であり,
樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤を添加,混練し,難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し,押出物を切断するとともに,押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る溶融押出法により得られたものである発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。」の点で一致し,以下の点で相違する。

相違点1:本願補正発明のポリスチレン系樹脂粒子は,「貯湯タンク用断熱材製造用」であると特定されているのに対し,引用発明ではそのような特定がなされていない点。
相違点2:本願補正発明のポリスチレン系樹脂は,「ポリスチレン樹脂とスチレン-メタクリル酸共重合体とからな」ると特定されているのに対し,引用発明ではそのような特定がなされていない点。
相違点3:本願補正発明では,樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に発泡剤を添加,混練することが特定されているのに対し,引用発明では発泡剤を含有する発泡性ポリスチレンを二軸押出機(樹脂供給装置)に供給する点。
相違点4:本願補正発明では,溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から「押し出すと同時に」押出物を切断すると特定されているのに対し,引用発明ではそのような特定がなされていない点。
相違点5:本願補正発明では,発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に対する「スチレン系モノマー,エチルベンゼン,イソプロピルベンゼン,ノルマルプロピルベンゼン,キシレン,トルエン,ベンゼンからなる芳香族有機化合物の含有総量が500ppm未満である」と特定されているのに対し,引用発明ではそのような特定がなされていない点。

エ.相違点についての判断
(ア)相違点1について
難燃性を有する発泡性ポリスチレン系樹脂の分野において,難燃性を有する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子から得られた発泡成形品を給湯タンク用断熱材として使用することは周知である(例えば,特開平11-255946号公報:特許請求の範囲,段落0002,段落0080参照)。
また,引用文献1には,発泡性ポリスチレン系樹脂組成物が保温材などの高密度発泡成形品の材料として適していることが記載されている(摘示(キ))。
そうであれば,引用発明の発泡性ポリスチレンペレットから得られた発泡成形品を貯湯タンク用断熱材として使用することは,この発明の技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)であれば適宜試みる事項にすぎない。
そして,本願補正発明において発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を貯湯タンク用断熱材製造用として用いることにより,当業者が予測できない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。
(イ)相違点2について
難燃性を有する発泡性ポリスチレン系樹脂の分野において,ポリスチレン樹脂とスチレン-メタクリル酸共重合体とからなるポリスチレン系樹脂を用いることは周知である(例えば,特開2006-28292号公報:特許請求の範囲,段落0150?0152参照)。
また,引用文献1には,使用される発泡性ポリスチレン系樹脂としては,スチレンの単独重合体(ポリスチレン)やスチレンとアクリル酸あるいはメタクリル酸との共重合体等が記載されており(摘示(エ)),発泡性ポリスチレン系樹脂として,スチレンとアクリル酸あるいはメタクリル酸との共重合体を使用することを阻害する事由はない。
そうであれば,引用発明において,ポリスチレン樹脂とスチレン-メタクリル酸共重合体とからなるポリスチレン系樹脂を用いることは,当業者が適宜なし得た事項にすぎない。
そして,本願補正発明において,ポリスチレン樹脂とスチレン-メタクリル酸共重合体とからなるポリスチレン系樹脂を用いることにより,当業者が予測できない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。
(ウ)相違点3について
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の分野において,樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に発泡剤を添加,混練して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることは周知である(例えば,特開2007-169408号公報:特許請求の範囲,段落0027,0028,図1参照)。
また,引用文献1には,発泡剤を含有する発泡性ポリスチレンを二軸押出機に供給することに関する特段の技術上の意義は記載されておらず,二軸押出機内において,ポリスチレン系樹脂に発泡剤を添加,混練することを阻害する事由は見当たらない。
そうであれば,引用発明において,樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に発泡剤を添加,混練することは,当業者が適宜なし得た事項にすぎない。
そして,本願補正発明において,樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に発泡剤を添加,混練することにより,当業者が予測できない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。
(エ)相違点4について
引用文献1には,発泡剤を4.0%含有する発泡性ポリスチレンビーズ100重量部と,参考例1で得られた化合物(FR-1)3.0重量部を15mmφ×二軸押出機に供給し,シリンダー温度160℃で押出し,ダイス先端から出てくるストランド状の樹脂を直ちに水槽中に誘導し,発泡しないように引き取ってペレタイザーにより,切断し,発泡性ポリスチレンペレットを得たことが記載されているところ(摘示(カ)),二軸押出機は混練物を連続的に押し出す装置であることを踏まえると,引用発明は,二軸押出機から混練物を連続的に押し出しながらダイス先端から出てくるストランド状の樹脂を切断して発泡性ポリスチレンペレットを得るものと認められる。そうすると,引用発明は,混練物をダイス先端から押し出すと同時に押出物を切断するものであると言えるから,相違点4は実質的な相違点とは言えない。
また,発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の分野において,樹脂供給装置から溶融樹脂を押し出すと同時に切断して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることは周知であるので(例えば,特開2007-169408号公報:特許請求の範囲,段落0027,0028,図1参照),引用発明において,樹脂供給装置から溶融樹脂を押し出すと同時に切断して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることは,当業者が適宜なし得た事項であるとも言える。
そして,本願補正発明において,溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から「押し出すと同時に」押出物を切断するることにより,当業者が予測できない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。
(オ)相違点5について
建築分野においては,スチレンやトルエン等の芳香族系溶媒類の放散量を少なくすることやスチレン系発泡性樹脂粒子を住宅の断熱材に用いた場合に,厚生労働省が定めた放散する芳香族系溶媒類の環境指針濃度を超えないようにすることは周知の課題である(例えば,特開2002-356575号公報:段落番号0002,0003参照)。
そうであれば,引用発明の発泡性ポリスチレンペレットから得られた発泡成形品を住宅の断熱材である貯湯タンク用断熱材として使用する際に,発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に対する芳香族系溶媒類を可能な限り少なくすること,言い換えると,発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に対する芳香族溶媒類の含有総量を可能な限り小さな数値とすることは当業者が容易に想到しえたことであり,そして,本願補正発明では芳香族有機化合物の含有総量を500ppm未満とすることが特定されているが,本願の明細書を参酌しても,500ppm未満という特定には,単に芳香族有機化合物の含有総量が少なければ少ないほど良いという程度の意義しか認められないから,当業者であれば適宜設定し得る数値範囲と認められる。
また,500ppm未満という数値範囲に,格別の臨界的な意義があるものとも認められない。

オ.小括
よって,本願補正発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書において,本願補正発明は芳香族有機化合物の含有量を周知技術より低下させても,得られる成形体の機械強度・寸法安定性を良好に保つという,周知技術では達成し得ない顕著な効果を奏する旨主張している。
しかしながら,引用文献1には,成形品の強度低下をなくすことが記載されているし(段落0054),発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の分野において,成形体の機械強度を良好に保つことや寸法安定性を良好に保つことは周知の課題である(例えば,特開2007-169408号公報:段落0018,0026,0046,0055及び特開平11-255946号公報:段落0006,0073,0079参照)。
そうであれば,引用発明において,上記のように芳香族系溶媒類を可能な限り少なくする際には当業者であれば当然ながら成形体の機械強度や寸法安定性を良好に保てる範囲内において行うものであると言える。
したがって,審判請求人の主張は採用できない。

5.まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成26年5月2日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1乃至10に係る発明は,平成25年10月25日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,次のとおりのものである。
「難燃剤及び発泡剤を含有するポリスチレン系樹脂を粒子状としてなる貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって,
前記難燃剤は,分子内に臭素原子を有し,臭素分含有量が70質量%未満であり,分子内にベンゼン環を有し,且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200?300℃の範囲内であり,
樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤及び発泡剤を添加,混練し,難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し,押し出すと同時に押出物を切断するとともに,押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る溶融押出法により得られたものであり,
スチレン系モノマー,エチルベンゼン,イソプロピルベンゼン,ノルマルプロピルベンゼン,キシレン,トルエン,ベンゼンからなる芳香族有機化合物の含有総量が500ppm未満であることを特徴とする貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,次の理由を含むものである。
理由:本願発明1は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1.特開2004-075952号公報

3.引用文献1の記載事項及び引用発明
引用文献1の記載事項及び引用発明は,前記「第2.3.(2)ア.及びイ.」に記載したとおりである。

4.本願発明1
本願補正発明は,前記第2.1.及び2.に記載したように,本願発明1の「ポリスチレン系樹脂」を限定したものであるから,本願発明1は,本願補正発明を包含するものである。
そして,本願補正発明が,前記第2.3.(2)に記載したとおり,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も同様の理由により,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものである。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-22 
結審通知日 2015-05-26 
審決日 2015-06-10 
出願番号 特願2009-246295(P2009-246295)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08J)
P 1 8・ 575- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横田 晃一川端 康之  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 前田 寛之
須藤 康洋
発明の名称 貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法、貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子及び貯湯タンク用断熱材  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 柳井 則子  

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