• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1303521
審判番号 不服2014-13367  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-10 
確定日 2015-07-23 
事件の表示 特願2013- 955「セラミック電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月 4日出願公開、特開2013- 62550〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成23年4月27日(優先権主張 平成22年5月19日)に出願した特願2011-99123号の一部を平成25年1月8日に新たな特許出願としたものであって、平成25年2月20日付けで手続補正がなされ、平成26年1月6日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年3月14日付けで手続補正がなされたが、同年4月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月10日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.平成26年7月10日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年7月10日付けの手続補正を却下する。
[理 由]
(1)補正後の本願発明
平成26年7月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
セラミックをもって構成される部品本体と、
前記部品本体の外表面上に付与されたフッ素含有モノマーからなる撥水処理剤と、
前記撥水処理剤の上に形成された外部端子電極と、
を備える、セラミック電子部品。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「撥水処理剤」について、用いられる有機化合物として「フッ素含有モノマーまたはポリテトラフルオロエチレン」の2つの選択肢があったものを、「フッ素含有モノマー」のみに限定するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2007/119281号(以下、「引用例」という。)には、「積層型電子部品」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[4] 積層された複数の絶縁体層と、前記絶縁体層間の界面に沿って形成された複数の内部電極とを含み、前記内部電極の各端部が所定の面に露出している、積層体と、前記積層体の前記所定の面に露出した複数の前記内部電極の各端部を互いに電気的に接続するように、前記積層体の前記所定の面上に形成される、外部電極とを備える、積層型電子部品であって、
前記外部電極の少なくとも前記内部電極と直接接続される部分がめっき膜からなり、かつ、前記絶縁体層と前記内部電極との界面の少なくとも一部に撥水処理剤が充填されている、積層型電子部品。」

イ.「[0023] 図1に示すように、積層型電子部品1は、積層された複数の絶縁体層2と、絶縁体層2間の界面に沿って形成された複数の層状の内部電極3および4とを含む積層体5を備えている。積層型電子部品1が積層セラミックコンデンサを構成するとき、絶縁体層2は、誘電体セラミックから構成される。積層体5の一方および他方端面6および7には、それぞれ、複数の内部電極3および複数の内部電極4の各端部が露出していて、これら内部電極3の各端部および内部電極4の各端部を、それぞれ、互いに電気的に接続するように、外部電極8および9が形成されている。
[0024] なお、本発明に係る製造方法では、外部電極8および9を形成する前に、撥水処理剤を付与する工程が実施されるが、図1では撥水処理剤は図示されていない。」

ウ.「[0029] 本発明に係る製造方法によれば、前述したように、外部電極8および9を形成する前、より特定的には、第1のめっき層10を形成する前に、撥水処理剤を付与する工程が実施される。撥水処理剤の付与に当たっては、撥水処理剤を含む液体中に積層体5を浸漬させてもよいし、撥水処理剤を含む液体を積層体5の、少なくとも内部電極3および4の各端部が露出した端面6および7に塗布または噴霧してもよく、その方法は特に限定されない。」

エ.「[0032] なお、積層体5に付与された撥水処理剤15は、上記隙間14を充填するだけでなく、内部電極3および4の各々が露出する端面6および7全体、あるいは、積層体5の外表面全体を被覆するよう膜を形成する。このように面全体を被覆する撥水処理剤15は、図3では図示されない。面全体を被覆する撥水処理剤15の膜は、厚みが数十?数百nmと非常に薄いため、存在していても大きな問題にはならないが、第1のめっき層10の積層体5に対する密着状態をより確実なものにしたい場合は、少なくとも端面6および7上の撥水処理剤15の膜については除去した方が好ましい。」

オ.「[0034] 次に、撥水処理剤について説明する。本発明において用いられる撥水処理剤は、めっき液や水分などの積層体5への浸入を防ぐものであれば、その種類は特に限定されない。たとえば、シランカップリング剤などが挙げられる。」

・上記引用例に記載の「積層型電子部品」は、上記「ア.」、「イ.」の段落[0023]の記載事項、及び図1によれば、積層された複数の絶縁体層2と、絶縁体層2間の界面に沿って形成された複数の内部電極3,4とを含み、内部電極3,4の各端部が一方および他方端面6,7に露出している積層体5と、積層体5の一方および他方端面6,7に露出した複数の内部電極3,4の各端部を互いに電気的に接続するように、積層体5の一方および他方端面6,7上に形成される外部電極8,9とを備える積層型電子部品1に関するものであり、
上記「イ.」の記載事項によれば、積層型電子部品1が積層セラミックコンデンサを構成するとき、絶縁体層2は、誘電体セラミックから構成されるものである。
・上記「イ.」の段落[0024]、「ウ.」の記載事項によれば、外部電極8,9を形成する前に、撥水処理剤を含む液体中に積層体5を浸漬させる、あるいは撥水処理剤を含む液体を積層体5の少なくとも一方および他方端面6,7に塗布または噴霧するなどして撥水処理剤を付与する工程が実施されるものである。
・上記「ア.」、「エ.」の記載事項によれば、撥水処理剤は、絶縁体層2と内部電極3,4との界面の少なくとも一部に充填されるとともに、積層体5の一方および他方端面6,7全体、あるいは積層体5の外表面全体を被覆するように膜が形成されるものである。
なお、上記「エ.」の記載事項によれば、積層体5の面全体を被覆する撥水処理剤の膜は、厚みが非常に薄いため、存在していても大きな問題にはならないものであり、特に、積層体5の一方および他方端面6,7上の撥水処理剤の膜についても、外部電極8,9を構成するめっき層の積層体5に対する密着状態をより確実なものにしたい場合は除去した方が好ましいが、必ずしも除去する必要はない(除去することが必須ではない)ものであることが理解できる。
・上記「オ.」の記載事項によれば、撥水処理剤は、シランカップリング剤などである。

したがって、積層型電子部品1が積層セラミックコンデンサを構成するとともに、積層体5の一方および他方端面6,7上の撥水処理剤の膜の除去を省いた場合のものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「積層された複数の誘電体セラミックから構成される絶縁体層と、当該絶縁体層間の界面に沿って形成された複数の内部電極とを含み、当該内部電極の各端部が一方および他方端面に露出している積層体と、
前記積層体の前記一方および他方端面に露出した前記複数の内部電極の各端部を互いに電気的に接続するように、前記一方および他方端面上に形成される外部電極とを備える、積層セラミックコンデンサを構成する積層型電子部品であって、
前記外部電極を形成する前に、シランカップリング剤などの撥水処理剤を含む液体中に前記積層体を浸漬させる、あるいは撥水処理剤を含む液体を前記積層体の少なくとも前記一方および他方端面に塗布または噴霧するなどして撥水処理剤を付与する工程を実施することにより、当該撥水処理剤を、前記絶縁体層と前記内部電極との界面の少なくとも一部に充填するとともに、前記積層体の前記一方および他方端面全体、あるいは前記積層体の外表面全体を被覆するように当該撥水処理剤の膜を形成し、前記積層体の前記一方および他方端面上の撥水処理剤の膜についても除去されない、積層セラミックコンデンサを構成する積層型電子部品。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における「積層体」は、本願補正発明における「部品本体」に相当し、
引用発明における「積層された複数の誘電体セラミックから構成される絶縁体層と、当該絶縁体層間の界面に沿って形成された複数の内部電極とを含み、当該内部電極の各端部が一方および他方端面に露出している積層体と」によれば、
引用発明の「積層体」は、積層された複数の誘電体セラミックから構成される絶縁体層を含むものであることから、本願補正発明でいう「セラミックをもって構成される」ものであるといえ、
本願補正発明と引用発明とは、「セラミックをもって構成される部品本体と」を備える点で一致する。

イ.引用発明における「撥水処理剤」は、本願補正発明における「撥水処理剤」に相当し、
引用発明における「・・シランカップリング剤などの撥水処理剤を含む液体中に前記積層体を浸漬させる、あるいは撥水処理剤を含む液体を前記積層体の少なくとも前記一方および他方端面に塗布または噴霧するなどして撥水処理剤を付与する工程を実施することにより、当該撥水処理剤を、前記絶縁体層と前記内部電極との界面の少なくとも一部に充填するとともに、前記積層体の前記一方および他方端面全体、あるいは前記積層体の外表面全体を被覆するように当該撥水処理剤の膜を形成し・・」によれば、
引用発明においても、積層体の外表面上にシランカップリング剤(有機ケイ素化合物)からなる撥水処理剤を付与してなるものであるといえるから、
本願補正発明と引用発明とは、後述の相違点はあるものの「前記部品本体の外表面上に付与された[所定の有機化合物]からなる撥水処理剤と」を備える点で共通するということができる。

ウ.引用発明における「外部電極」は、本願補正発明における「外部端子電極」に相当し、
引用発明における「前記積層体の前記一方および他方端面に露出した前記複数の内部電極の各端部を互いに電気的に接続するように、前記一方および他方端面上に形成される外部電極とを備える、積層セラミックコンデンサを構成する積層型電子部品であって、前記外部電極を形成する前に、・・・・撥水処理剤を付与する工程を実施することにより、・・・・あるいは前記積層体の外表面全体を被覆するように当該撥水処理剤の膜を形成し、前記積層体の前記一方および他方端面上の撥水処理剤の膜についても除去されない、・・」によれば、
引用発明の「外部電極」は、撥水処理剤を付与する工程が実施された後に形成されるものであり、また、当該「外部電極」が形成される積層体の一方および他方端面上の撥水処理剤の膜は除去されないのであるから、当該「外部電極」は、撥水処理剤の上に形成されてなるものであるといえ、
本願補正発明と引用発明とは、「前記撥水処理剤の上に形成された外部端子電極と」を備える点で一致する。

エ.そして、引用発明における「積層セラミックコンデンサを構成する積層型電子部品」は、本願補正発明でいう「セラミック電子部品」に相当するものである。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「セラミックをもって構成される部品本体と、
前記部品本体の外表面上に付与された[所定の有機化合物]からなる撥水処理剤と、
前記撥水処理剤の上に形成された外部端子電極と、
を備える、セラミック電子部品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
撥水処理剤に用いられる所定の有機化合物について、本願補正発明では、「フッ素含有モノマー」である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有してない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用例では、撥水処理剤に用いられる有機化合物としてシランカップリング剤などが挙げられており、「フッ素含有モノマー」を用いることの記載はないが、段落[0034]には、「・・撥水処理剤は、めっき液や水分などの積層体5への侵入を防ぐものであれば、その種類は特に限定されない。」とも記載(上記「(2)オ.」を参照)されているところ、撥水処理剤としてフッ素系化合物、中でもフッ素含有モノマーを用いることは、例えば特表平4-506982号公報(特に1頁左下欄2?13行、2頁右上欄3?7行、3頁左下欄11行?同頁右下欄19行を参照)、特開平10-330402号公報(段落【0003】を参照)、特開2008-143999号公報(段落【0041】を参照)に記載されているように周知の技術事項であり、引用発明において、撥水処理剤としてシランカップリング剤などに代えてフッ素含有モノマーを用いるようにすることも当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成26年7月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年3月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
セラミックをもって構成される部品本体と、
前記部品本体の外表面上に付与されたフッ素含有モノマーまたはポリテトラフルオロエチレンからなる撥水処理剤と、
前記撥水処理剤の上に形成された外部端子電極と、
を備える、セラミック電子部品。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「撥水処理剤」について、用いられる有機化合物に関する選択肢に「ポリテトラフルオロエチレン」を加えたものに相当することを踏まえると、本願発明と引用発明とは、
「セラミックをもって構成される部品本体と、
前記部品本体の外表面上に付与された[所定の有機化合物]からなる撥水処理剤と、
前記撥水処理剤の上に形成された外部端子電極と、
を備える、セラミック電子部品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
撥水処理剤に用いられる所定の有機化合物について、本願発明では、「フッ素含有モノマーまたはポリテトラフルオロエチレン」である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

(3)判断
上記相違点について検討すると、
上記「2.(4)」にも記載したとおり、引用例では、撥水処理剤に用いられる有機化合物としてシランカップリング剤などが挙げられており、「フッ素含有モノマー」を用いることの記載はないが、段落[0034]には、「・・撥水処理剤は、めっき液や水分などの積層体5への侵入を防ぐものであれば、その種類は特に限定されない。」とも記載(上記「2.(2)オ.」を参照)されているところ、撥水処理剤としてフッ素系化合物、中でもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることは、例えば原査定において提示した国際公開第01/78171号(特に1頁4?6行、3頁下から3行?4頁下から3行を参照)、同じく原査定において提示した特開2008-235698号公報(段落【0026】?【0027】を参照)、さらには特開2000-220074号公報(特に【請求項1】?【請求項3】、段落【0008】を参照)に記載されているように周知の技術事項であり、引用発明において、撥水処理剤としてシランカップリング剤などに代えてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いるようにすることも当業者であれば容易になし得ることである。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-20 
結審通知日 2015-05-26 
審決日 2015-06-08 
出願番号 特願2013-955(P2013-955)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01G)
P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小山 和俊  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 関谷 隆一
井上 信一
発明の名称 セラミック電子部品  
代理人 小柴 雅昭  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ