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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E01C
管理番号 1303527
審判番号 不服2014-22766  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-07 
確定日 2015-07-23 
事件の表示 特願2010-251799「保水性ブロックおよび保水性構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月31日出願公開、特開2012-102530〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成22年11月10日 出願
平成25年11月11日 拒絶理由通知(同年11月19日発送)
平成25年12月10日 意見書・補正書
平成26年 1月31日 拒絶理由通知(最後)(同年2月4日発送)
平成26年 2月25日 意見書・補正書
平成26年 8月11日 平成26年2月25日付け手続補正の補正却下の決定、拒絶査定(同年8月19日送達)
平成26年11月 7日 審判請求書・手続補正書

第2 補正の却下の決定
1 結論
平成26年11月7日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)補正の内容・目的
平成26年11月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成26年2月25日付けの手続補正が却下されているので、平成25年12月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含むものである。
(補正前)
「基層と、前記基層の表側に積層された表層と、を備え、
前記表層は、複数の骨材を有し、前記骨材同士の間の連続空隙には保水性を有する保水性グラウトが充填されており、
前記基層は前記表層よりも曲げ強度および圧縮強度が大きいことを特徴とする保水性ブロック。」
(補正後)
「路盤上に支持層、保水性ブロックを層状に配置し、保水性ブロックの間に目地部を設けた、埋設した給水管から保水性ブロックの表層に水を供給する吸水手段を備えた保水構造体に使用される保水性ブロックであり、
前記保水性ブロックは、基層と、前記基層の表側に積層された表層とを備え、
前記表層は、複数の骨材を有し、前記骨材同士の間の連続空隙には保水性を有する保水性グラウトが充填されており、厚さが0.5cm以上1.0cm未満であって、保水性が0.15g/cm^(3)以上、吸水性が30分後の吸い上げ高さが70%以上であり、
前記基層は、表層に対する給水経路を形成しない非湿潤性であって、前記表層よりも大きな厚さを有し、曲げ強度および圧縮強度が大きく、
基層を経由せずに表層に水を供給することを特徴とする保水性ブロック。」

上記補正事項は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「保水性ブロック」について、「路盤上に支持層、保水性ブロックを層状に配置し、保水性ブロックの間に目地部を設けた、埋設した給水管から保水性ブロックの表層に水を供給する吸水手段を備えた保水構造体に使用され」、「基層を経由せずに表層に水を供給する」ことを限定し、「保水性ブロック」の「表層」について、「厚さが0.5cm以上1.0cm未満であって、保水性が0.15g/cm^(3)以上、吸水性が30分後の吸い上げ高さが70%以上」であることを限定し、「保水性ブロック」の「基層」について、「表層に対する給水経路を形成しない非湿潤性であって、表層よりも大きな厚さを有」することを限定するものであり、かつ補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、少なくとも特許法第17条の2第5項第2号に規定する請求項の減縮を目的とする補正事項を含むものであり、また、新規事項を追加するものではないから、同条第3項の規定を満たしている。

(2)独立特許要件についての検討
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

ア 刊行物の記載
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である特開2005-23545号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある(下線は、当審にて付した。以下同じ。)。

a 「【請求項1】
基盤層上に表層が設けられている蓄熱抑制ブロックにおいて、
前記表層が、炭酸カルシウムを主成分とした固化層により形成され、
前記基盤層が、強度体として設定されている、
ことを特徴とする蓄熱抑制ブロック。
……
【請求項7】
請求項1において、
少なくとも前記表層の内部に、保水のための微細空隙と、該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙とが形成されている、
ことを特徴とする蓄熱抑制ブロック。
【請求項8】
請求項7において、
前記炭酸カルシウムの粒径が、0.1?1.0mm前後に設定されている、
ことを特徴とする蓄熱抑制ブロック。
【請求項9】
請求項8において、
前記表層の厚みが、少なくとも10mm以上に設定され、
前記基盤層が、空隙を有しない強度体とされている、
ことを特徴とする蓄熱抑制ブロック。
……
【請求項12】
請求項1?11のいずれかにおいて、
歩道ブロックとして用いられる、
ことを特徴とする蓄熱抑制ブロック。」

b 「【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、表面の温度上昇の抑制効果を長続きさせることができる蓄熱抑制ブロックを提供することにある。」

c 「【0013】
請求項7に記載された発明によれば、少なくとも表層の内部に、保水のための微細空隙と、該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙とが形成されていることから、表層内部(空隙)に雨水が保持(貯留)され、その雨水が熱を奪って蒸散することになるが、この際、表層における炭酸カルシウムの赤外線吸収抑制機能に基づき、当該蓄熱抑制ブロックの保有熱が高まることが抑えられることから、雨水の蒸散だけを考慮して作られている蓄熱抑制ブロック(熱吸収抑制機能がないもの)に比して、雨水の蒸散が当該蓄熱抑制ブロックの保有熱の消費(温度低下)に利用されてその雨水が早期に蒸散されてしまうこと(表層の温度を下げるために該表層の保有熱が雨水の気化熱として利用されること)を抑えることができることになる。このため、表層自体によって赤外線の吸収を抑えることができることと、表層内部に貯留される雨水が早期に蒸散されてしまうことを抑制できることに基づき、蓄熱抑制ブロックの表面ないしは表面付近の温度上昇の抑制効果を、より長続きさせることができることになる。
……
【0015】
請求項9に記載された発明によれば、基盤層として、空隙を有しない強度体を用いることにより表層の補強効果を高めることができる一方、表層の厚みを少なくとも10mm以上に設定することにより、赤外線吸収抑制機能を最大限引き出しつつ、その表層の厚みに基づき保水性(保水量)を高めることができ、蓄熱抑制ブロックの表面ないしは表面付近の温度上昇の抑制効果を長続きさせることができることになる。」

d 「【0020】
図1?図6は、第1実施形態を示す。その図1?3において、符号1は、本実施形態に係る蓄熱抑制ブロックで、この蓄熱抑制ブロック1は、直方体形状とされ、その大きさは、縦L1が200mm前後、横L2が100mm前後、高さL3が60?80mm前後とされている。……
……
【0021】
前記蓄熱抑制ブロック1は、図3,図4に示すように、基盤層としてのコンクリートブロック5aと、該コンクリートブロック5aの上面を覆う表層4とからなる一体的な積層構造とされている。コンクリートブロック5aは、蓄熱抑制ブロック1の下部層を構成しており、その層厚は、本実施形態においては、その強い強度を利用して、主として、表層4を補強すると共に当該蓄熱抑制ブロック1全体の強度を歩道ブロックとして所望の強度を確保すべく、60?70mm前後とされている。
……
【0028】
一方、各蓄熱抑制ブロックは、降雨時に、雨水を表層4を経てコンクリートブロック5a上面に至る間に、表層4内部における微細空隙に雨水を保水しており、表層4に雨水が保水された後には、雨水は、蓄熱抑制ブロック1の表面(路面)の気化熱を奪って蒸散され、路面の温度上昇が抑制されることになる。……」

e 上記aないしd(特にa、d)によれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「基盤層上に表層が設けられている、高さ60?80mm前後の蓄熱抑制ブロックにおいて、
表層は、粒径が0.1?1.0mm前後に設定された炭酸カルシウムを主成分とした固化層により形成され、内部に保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙とが形成され、厚みが少なくとも10mm以上に設定され、
基盤層は、空隙を有しないコンクリートブロックからなる強度体として設定され、その層厚は、その強い強度を利用して、表層を補強すると共に蓄熱抑制ブロック全体の強度を歩道ブロックとして所望の強度を確保すべく、60?70mm前後とされている、
歩道ブロックとして用いられる蓄熱抑制ブロック。」(以下「刊行物1発明」という。)

(イ)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前にに頒布された刊行物である特開2008-274603号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

a 「【請求項1】
舗装表面に開口するスリットを有する舗装体層と、前記スリット内に設置された給水手段と、を備えることを特徴とする舗装構造。
【請求項2】
前記給水手段は、給水テープ、給水パイプ、上部が開口した溝状部材、のうちのいずれ
か又はこれらの組み合わせを含んでなることを特徴とする請求項1に記載の舗装構造。
【請求項3】
前記舗装体層は、複数の舗装ブロックで構成されており、前記スリットは舗装ブロック同士の目地部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の舗装構造。
【請求項4】
前記舗装体層は、保水性を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の舗装構造。」

b 「【0014】
図1は、本実施形態に係る舗装構造の平面図である。図2は、本実施形態に係る舗装構造の断面図である。
図1、図2に示すように、本実施形態に係る舗装構造1は、いわゆる道路を構成するものであり、表層となる舗装体層2と、給水装置3とを主に備えている。また、舗装構造1は層構造を呈しており、舗装表面から順に、舗装体層2、支持層4、遮水層5、路盤6、を備えている(図2参照)。なお、舗装構造1の適用対象は、歩道や車道のみならず、例えば、遊歩道、広場、駐車場、建物周辺、屋上などであってもよい。
【0015】
舗装体層2は、最も地表面側に位置する層であり、例えば、保水性を有する舗装ブロック20を複数敷き詰めて形成されている。舗装体層2は、舗装表面2aに開口するスリットを有している。本実施形態では、舗装ブロック20同士の目地25がスリットとして機能している。
【0016】
図1に示すように、舗装ブロック20は、自動車や歩行者などの踏み圧を受ける部材であり、例えば長方体形状を呈する平板ブロックで構成されている。舗装ブロック20は、例えば、道路の延長方向に沿って平行に並べられているとともに、道路の幅方向には互い違い(千鳥状)に並べられている。隣り合う舗装ブロック20同士の間には目地25が形成されている。目地25には、舗装ブロック20が動かないように砂27が充填されている(図2参照)。そして、道路の延長方向と平行な目地25の一部には、給水装置3の給水テープ31が埋設されている。」

c 「【0024】
なお、本実施形態の給水手段は、給水テープ31に限られるものではなく、例えば、図3(b)に示すように、円形断面を呈する給水パイプ131を用いてもよい。
給水パイプ131は、水が流れる中空部131aと、この中空部131aと外周部とを連通する複数の貫通穴131bと、を有している。貫通孔131bは、例えば円形状に穿設されており、所定の間隔を隔てて2つずつ設けられている。給水パイプ131は、柔軟性に富む材料(例えばゴム)で形成されており、舗装体層2の目地25よりも径が大きい場合でも、細長い楕円状に変形することで目地25内に設置できるようになっている。」

d 「【0031】
つづいて、本実施形態に係る舗装構造1の作用について説明する。
本実施形態に係る舗装構造1によれば、給水テープ31から供給された水は、舗装ブロック20の保水性グラウト23に吸い上げられ、舗装表面2aまで上昇する。そして、舗装表面2aまで上昇した水が水蒸気になる過程で舗装体層2の熱が気化熱として奪われ、舗装体層2の温度上昇が抑制されることとなる。」

e 上記aないしdによれば、刊行物2には、以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
「複数の保水性を有する舗装ブロックで構成されており、舗装ブロック同士の目地部を有する舗装体層と、目地部内に設置された、水が流れる中空部と複数の貫通穴とを有する給水パイプと、を備え、
層構造を呈しており、舗装表面から順に、舗装体層、支持層、遮水層、路盤を備えている歩道の舗装構造。」

イ 対比・判断
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。

(ア)刊行物1発明の「蓄熱抑制ブロック」は、「基盤層上に表層が設けられ」、「表層」は、「内部に保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙とが形成され」るから、刊行物1発明の「蓄熱抑制ブロック」は、本願補正発明の「保水性ブロック」に相当し、以下同様に、「基盤層」は、「基層」に相当し、「『基盤層上に』『設けられ』た『表層』」は、「基層の表側に積層された表層」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「表層」は、「粒径が0.1?1.0mm前後に設定された炭酸カルシウムを主成分とした固化層により形成され、内部に保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙とが形成され」るから、刊行物1発明の「炭酸カルシウム」及び「内部に保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙」は、本願補正発明の「複数の骨材」及び「骨材同士の間の連続空隙」に、それぞれ相当し、刊行物1発明の「表層」と本願補正発明の「表層」は、「『複数の骨材を有し、前記骨材同士の間』に『連続空隙』」を有する点で共通する。

(ウ)刊行物1発明の「基盤層」は、「空隙を有しないコンクリートブロック」であるから、「表層に対する給水経路を形成しない非湿潤性」であるといえる。

(エ)刊行物1発明の「蓄熱抑制ブロック」は、「高さ60?80mm前後」であり、「基盤層」の「層厚」は、「60?70mm前後」であるから、刊行物1発明の「基盤層」は、「表層」よりも大きな厚さを有しているといえる。

(オ)以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「保水性ブロックであり、
前記保水性ブロックは、基層と、前記基層の表側に積層された表層とを備え、
前記表層は、複数の骨材を有し、前記骨材同士の間に連続空隙を有し、
前記基層は、表層に対する給水経路を形成しない非湿潤性であって、前記表層よりも大きな厚さを有する、保水性ブロック。」

(カ)他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
保水性ブロックの使用形態に関し、本願補正発明では、路盤上に支持層、保水性ブロックを層状に配置し、保水性ブロックの間に目地部を設けた、埋設した給水管から保水性ブロックの表層に水を供給する吸水手段を備えた保水構造体に使用され、基層を経由せずに表層に水を供給するのに対し、刊行物1発明では、歩道ブロックとして用いられるが、具体的な使用形態が特定されていない点。

<相違点2>
表層の構造に関し、本願補正発明では、骨材同士の間の連続空隙には保水性を有する保水性グラウトが充填されているのに対し、刊行物1発明では、保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙に、保水性グラウトは充填されていない点。

<相違点3>
表層の厚さに関し、本願補正発明では、厚さが0.5cm以上1.0cm未満であるのに対し、刊行物1発明では、厚みが少なくとも10mm以上に設定される点。

<相違点4>
表層の保水性及び吸水性に関し、本願補正発明では、保水性が0.15g/cm^(3)以上、吸水性が30分後の吸い上げ高さが70%以上であるのに対し、刊行物1発明では、保水性及び吸水性が具体的に特定されていない点。

<相違点5>
基層の強度に関し、本願補正発明では、表層よりも曲げ強度および圧縮強度が大きいのに対し、刊行物1発明では、基層(基盤層)の強い強度を利用して、表層を補強すると共に保水性ブロック(蓄熱抑制ブロック)全体の強度を歩道ブロックとして所望の強度を確保するものであるが、表層よりも曲げ強度および圧縮強度が大きいか否かは特定されていない点。

ウ 検討
(ア)相違点1について
a 上記ア(イ)で認定したとおり、刊行物2には、
「複数の保水性を有する舗装ブロックで構成されており、舗装ブロック同士の目地部を有する舗装体層と、目地部内に設置された、水が流れる中空部と複数の貫通穴とを有する給水パイプと、を備え、
層構造を呈しており、舗装表面から順に、舗装体層、支持層、遮水層、路盤を備えている歩道の舗装構造。」(以下「刊行物2記載事項」という。)が記載されており、
刊行物2記載事項の「路盤」、「支持層」、「舗装ブロック」及び「目地部」は、本願発明の「路盤」、「支持層」、「保水性ブロック」及び「目地部」に、それぞれ相当し、
刊行物2記載事項の「目地部内に設置された、水が流れる中空部と複数の貫通穴とを有する給水パイプ」は、本願発明の「埋設した給水管から保水性ブロックの表層に水を供給する吸水手段」に相当する。

b そして、刊行物1発明において、蓄熱抑制ブロック(保水性ブロック)の歩道ブロックとしての具体的な使用形態を如何にするかは、当業者が適宜定め得る設計事項というべきところ、刊行物1発明と刊行物2記載事項は共に、歩道の舗装の技術分野に属するものであるから、刊行物1発明の蓄熱抑制ブロックを刊行物2記載事項の舗装構造に用いること、すなわち上記相違点1に係る本願補正発明の使用形態とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(イ)相違点2について
a 保水性を有する舗装において、骨材同士の間の連続空隙に保水性グラウトを充填することは、本願出願日前に周知の技術である(例えば、刊行物2の段落【0017】には、舗装ブロック20の骨材21同士の隙間に保水性グラウト23を充填することが記載されている。同じく、特開2004-353399号公報の請求項1には、保水性舗装構造を構成する開粒度混合物層の連続空隙の上部に保水性グラウトを充填することが記載されている。)。

b そして、刊行物1発明の解決しようとする課題は、表面の温度上昇の抑制効果を長続きさせることができる蓄熱抑制ブロックを提供すること(段落【0005】)であることを踏まえると、刊行物1発明の蓄熱抑制ブロックの表層に上記周知技術を適用して保水性を高めること、すなわち上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点3について
a 表層の厚さに関し、本願の出願当初の明細書には、「本実施形態の保水性ブロック20では、基層21の厚さ(高さ)が表層22の厚さよりも大きくなっている。例えば、表層22が0.5?1.0cm程度の厚さである場合には、基層21は5.0cm程度に設定するとよい。」(段落【0019】)と記載されるにとどまり、本願補正発明において、表層の厚さを特定したことに、必要な保水性を具備させるための設計上の適宜の範囲を定めた以上の意義は認められない。

b そして、刊行物1には、表層の厚さを10mm前後とすることも記載されている(段落【0026】)こと、及び、刊行物1発明において、表層の厚さを如何にするかは必要な保水性に応じて当業者が適宜定め得る設計事項というべきところ、上記(イ)において検討した保水性グラウトの適用により保水性を高め得ることを踏まえると、刊行物1発明において、表層の厚さを0.5cm以上1.0cm未満とすること、すなわち上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(エ)相違点4について
a 保水性ブロックにおいて、保水性が0.15g/cm^(3)以上、吸水性が30分後の吸い上げ高さが70%以上とすることは、本願出願日前に周知の技術である(例えば、特開2009-126718号公報の請求項1には、保水性が0.2g/cm^(3)?0.24g/cm^(3)で、吸水性試験結果が93%以上であるインターロッキングブロックが記載されている。同じく、特開2008-75270号公報の段落【0076】及び【0086】には、インターロッキング舗装技術協会の保水ブロックの規格では、吸い上げ高さは70%以上であり、保水量は0.15g/cm^(3)であることが記載されている。)。

b そして、刊行物1発明において、表層の保水性及び吸水性を如何にするかは、必要に応じて当業者が適宜定め得る設計事項というべきところ、上記周知技術を適用して上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(オ)相違点5について
a 刊行物1発明において、基盤層(基層)は、その強い強度を利用して、表層を補強すると共に歩道ブロックとして所望の強度を確保するためのものであること、表層は、内部に保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙とが形成された炭酸カルシウムを主成分とした固化層であるのに対し、基盤層は、空隙を有しないコンクリートブロックであること、及び基盤層の層厚は60?70mm前後であって、表層の厚さよりもかなり厚いことを踏まえると、刊行物1発明において、基盤層の曲げ強度及び圧縮強度が表層よりも大きいことは、当業者にとって自明である。

b してみると、刊行物1発明は、上記相違点5に係る本願補正発明の構成を実質的に備えている。

c また、仮に刊行物1発明において、基盤層の曲げ強度及び圧縮強度が表層よりも大きいことが当業者にとって自明でないとしても、刊行物1発明において、基盤層の曲げ強度及び圧縮強度を如何にするかは、歩道ブロックとしての必要な強度に応じて当業者が適宜定め得る設計事項にすぎないことを踏まえれば、上記相違点5に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(カ)本願補正発明の効果について
本願補正発明によってもたらされる効果を全体としてみても、刊行物1発明、刊行物2記載事項及び周知技術から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(キ)審判請求書の主張について
請求人は、審判請求書(10頁1?7行)において、刊行物1には、炭酸カルシウム製の表層と基層を備えた蓄熱抑制ブロックが開示されており、目地から水を供給する技術思想はなく、表層の保水性を確保するために10mm以上の厚みが必要である旨記載されており、刊行物1記載の蓄熱抑制ブロックを刊行物2記載の舗装ブロックに置換する動機はなく、また、仮に、置換したとしても、表層の厚みを10mm以下に限定しても十分な放熱及び気化に伴う必要量の水量の補給ができる表層を実現することはできない旨主張するが、上記(ア)ないし(ウ)のとおりであって、採用できない。

エ 小括
以上のとおり、本願補正発明は、当業者が刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)補正却下の決定のむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成25年12月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2、2(1)において、本件補正前の請求項1として示したとおりのものである。

2 刊行物発明
刊行物1には、上記第2、2(2)ア(ア)において認定した刊行物1発明が記載されているものと認められる。

3 対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

(ア)刊行物1発明の「蓄熱抑制ブロック」は、「基盤層上に表層が設けられ」、「表層」は、「内部に保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙とが形成され」るから、刊行物1発明の「蓄熱抑制ブロック」は、本願発明の「保水性ブロック」に相当し、以下同様に、「基盤層」は、「基層」に相当し、「『基盤層上に』『設けられ』た『表層』」は、「基層の表側に積層された表層」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「表層」は、「粒径が0.1?1.0mm前後に設定された炭酸カルシウムを主成分とした固化層により形成され、内部に保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙とが形成され」るから、刊行物1発明の「炭酸カルシウム」及び「内部に保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙」は、本願発明の「複数の骨材」及び「骨材同士の間の連続空隙」に、それぞれ相当し、刊行物1発明の「表層」と本願発明の「表層」は、「『複数の骨材を有し、前記骨材同士の間』に『連続空隙』」を有する点で共通する。

(ウ)以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「基層と、前記基層の表側に積層された表層と、を備え、
前記表層は、複数の骨材を有し、前記骨材同士の間に連続空隙を有する、保水性ブロック。」

(エ)他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点6>
表層の構造に関し、本願発明では、骨材同士の間の連続空隙には保水性を有する保水性グラウトが充填されているのに対し、刊行物1発明では、保水のための微細空隙と該微細空隙に連なって表面に延びる連続空隙に、保水性グラウトは充填されていない点。

<相違点7>
基層の強度に関し、本願発明では、表層よりも曲げ強度および圧縮強度が大きいのに対し、刊行物1発明では、基層(基盤層)の強い強度を利用して、表層を補強すると共に保水性ブロック(蓄熱抑制ブロック)全体の強度を歩道ブロックとして所望の強度を確保するものであるが、表層よりも曲げ強度および圧縮強度が大きいか否かは特定されていない点。

4 検討
上記相違点6及び7は、上記相違点2及び5と同じであり、これらの相違点については、上記第2、2(2)ウの(イ)及び(オ)において検討したとおりである。
そして、本願発明によってもたらされる効果を全体としてみても、刊行物1発明及び周知技術から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。
よって、本願発明は、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知の技術に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-18 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2010-251799(P2010-251799)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E01C)
P 1 8・ 575- Z (E01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介西田 秀彦  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 中田 誠
門 良成
発明の名称 保水性ブロックおよび保水性構造体  
復代理人 町田 能章  
代理人 磯野 道造  
復代理人 多田 悦夫  

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